JP3971721B2 - 薄膜磁気ヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜磁気ヘッドに関し、特に、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極に用いられる軟磁性薄膜の組成および物性に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平8−30920号公報
【特許文献2】
特開平10−270246号公報
【特許文献3】
特開2002−56507号公報
【特許文献4】
特開2002−183911号公報
【特許文献5】
特開2002−309353号公報
【特許文献6】
特開2003−34891号公報
【0003】
コンピューターの外部記憶装置等に用いられている記録媒体への高記録密度化を実現する方法の一つとして、垂直磁気記録方式が提案されている。
【0004】
垂直磁気記録方式を利用した記録の態様としては、例えば、(1)一端側においてギャップを挟んで互いに対向し、かつ他端側において互いに磁気的に連結されたヘッド(リング型ヘッド)と、主要部が単層膜構成の記録媒体を用いる態様や、(2)記録媒体に対して垂直に配置されたヘッド(単磁極型ヘッド)と、主要部が2層膜構成の記録媒体を用いる態様が提案されている。
【0005】
これらの態様のうち、後者の単磁極型ヘッドと主要部が2層膜構成の記録媒体との組み合わせ使用の態様は、熱揺らぎに対する耐性が極めて優れており、ヘッド性能の飛躍的向上が期待できるものとして注目されている。
【0006】
垂直磁気記録方式を利用した単磁極型のヘッドとしては、例えば、薄膜コイルを覆うように配設されたヨークの上に、このヨークと接続されるように主磁極が配設された構成を有するものが知られている。薄膜コイルは記録用の磁束を発生させるためのものであり、薄膜コイルにおいて磁束が発生すると、その磁束がヨークを経由して主磁極に流入したのち、その主磁極の先端から記録媒体の記録面に向かって外部に放出される。この放出磁束によって記録用の磁界(垂直磁界)が発生し、この垂直磁界によって記録媒体の表面が選択的に磁化され記録される。
【0007】
このような垂直磁気記録における信号の記録ー再生のメカニズムを考えると、記録媒体への記録密度は、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極の形状及び性能に依存するところが大きい。すなわち、例えば、記録媒体の好適例である磁気ディスクの半径方向の記録密度(いわゆるトラック密度)を上げるには主磁極の幅を狭くする必要があり、また磁気ディスクの円周方向の記録密度(いわゆる線記録密度)を上げるには主磁極の厚みを薄くする必要がある。
【0008】
このように高記録密度化を図るほど主磁極を細くかつ薄くする必要があり、主磁極の磁路断面積は技術の進歩につれて次第に小さくなる傾向にある。
【0009】
このような背景のもとに、主磁極の材料となる軟磁性薄膜の磁気特性に対する要求も厳しくなっており、高透磁率、高飽和磁束密度の磁気特性を有する軟磁性薄膜を主磁極として用いる必要性が高まっている。1.8T以上の高飽和磁束密度を有する材料として、例えば、FeCo、CoNiFe、FeC、FeN、FeCoMO(M=C,Al,Si,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Rh,Pd,Pt)などの材料が提案されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このような高飽和磁束密度の材料を垂直磁気記録用のヘッドの主磁極に用いることにより、書き込み能力は格段と向上する。しかしながら、書き込み能力の向上と相反して、垂直磁気記録用ヘッドにおいては、書き込み時以外の時に主磁極によって記録媒体の記録の消去が行なわれてしまうという問題が生じることがある。いわゆるポールイレ−ズと呼ばれている現象の発生である。ポールイレ−ズ現象は、記録情報の信頼性を低下させる大きな問題であるから、その現象を正確に解明し、ポールイレ−ズの発生しなりヘッド設計をすることは極めて重要な課題である。
【0011】
一般に、垂直磁気記録用ヘッドに用いられる主磁極は、媒体と平行方向が磁化容易軸となり、媒体と垂直方向が磁化困難軸となるように成膜が行なわれる。このような成膜において、本発明者らが主磁極について鋭意研究を重ねた結果、例えば、主磁極を構成する結晶粒径の大きさ、形成される膜応力のかかり具合などの複雑な要因によって、磁性粒子のもつエネルギーが大きくなり1つの磁性粒子に多くの磁区が生じることがあることが分かってきた。そして、このような磁性膜を垂直磁気記録用のヘッドの主磁極膜として用いた場合、記録の書き込み終了時に磁壁のトラップが起き、記録媒体方向に主磁極の磁化方向が反転せずに媒体に対して垂直な方向に向いたままとなり、ポールイレ−ズ現象が起こることが次第に分かってきた。
【0012】
本発明はこのような実状のものに創案されたものであって、その目的は、記録の信頼性の低下の原因となるポールイレ−ズの発生を防止することができる垂直磁気記録用主磁極を備える薄膜磁気ヘッドを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、記録媒体の記録面に向かって記録用の放出磁束が放出されるように作用する垂直磁気記録用の主磁極を備える薄膜磁気ヘッドであって、
前記主磁極は、トラック幅を定める主磁極の幅が150nm以下の狭トラック仕様の軟磁性薄膜から構成されており、
前記軟磁性薄膜は、組成式(Fex−Coy−Niz)aMbGcで示され、この組成式において、x+y+z=1、およびa+b+c=1の関係があり、
Mは、B,C,Al,Si,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Rh,Pd,Ptのグループから選ばれた少なくとも1種であり、
Gは、O(酸素)およびN(窒素)のグループから選ばれた少なくとも1種であり、
上記x,y,z,a,b,およびcの各原子比の値が、それぞれ、
0.1≦x≦0.8、
0.2≦y≦0.7、
0≦z≦0.2、
0.90≦a≦1.0、
0≦b≦0.25、
0≦c≦0.3、
を満たしており、
前記軟磁性薄膜は、薄膜を構成する結晶粒径(D)が、24.5〜29.5nmの範囲内であり、かつ成膜された前記軟磁性薄膜の膜応力(σ)が0.045〜0.38GPaの範囲の引張り応力であり、
飽和磁束密度(Bs;単位はテスラ)と結晶粒径(D;単位はnm)と膜応力(σ;単位はGPa)との積の値であるBs・D・σ値が、2.6〜21.0であるように構成される。
【0014】
また、本発明の好ましい態様として、前記軟磁性薄膜は、その飽和磁束密度(Bs)が1.8T(テスラ)以上となるように構成される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、薄膜磁気ヘッドに関し、特に、磁気ディスク等の記録媒体の記録面に向かって記録用の放出磁束が放出されるように作用する垂直磁気記録用の主磁極の構成に特徴を有するものである。なお、薄膜磁気ヘッドの具体的な全体構成は、後述することにして、最初に本願発明の要部の説明を行なう。
【0018】
本発明における垂直磁気記録用の主磁極は、その主磁極の幅(トラック幅)、すなわち、記録媒体の記録面に対向する面における主磁極の幅(トラック幅)が、150nm以下、特に、50〜150nmの狭トラック仕様とされている(トラック幅に関する図面を添えての説明は後述する)。
【0019】
ここで、主磁極の幅を150nm以下としたのは、主磁極幅が150nmを超えると、記録媒体への高記録密度化を実現することが困難となるとともに、本願の解決すべき課題であるポールイレ−ズ現象が起こりにくくなる傾向が生じるからである。
【0020】
そして、本発明における主磁極は、下記の組成および物性を備える軟磁性薄膜から構成される。
【0021】
すなわち、本発明における軟磁性薄膜は、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極用として組成設計されており、組成式(Fex−Coy−Niz)aMbGcで示される。
上記組成式において、Mは、B,C,Al,Si,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Rh,Pd,Ptのグループから選ばれた少なくとも1種を表す。これらのM元素群の中で、特に好ましいのは、Zr,Ta,B,C,Al,Si,Zr,Hf,Taである。
【0022】
上記組成式においてGは、O(酸素)およびN(窒素)のグループから選ばれた少なくとも1種を表す。
【0023】
上記組成式における、x,y,z,a,b,およびcは、各原子比の値(at比)を示すものであり、本発明において、これらの値はそれぞれ、以下のような範囲に設定される。
【0024】
ただし、x+y+z=1であり、a+b+c=1である。
【0025】
上記x値が0.8を超えたり、あるいは0.1未満となると、飽和磁束密度Bsが低下してしまうという不都合が生じる傾向がある。さらに、上記x値の特に好ましい範囲は、0.5≦x≦0.8である。
【0026】
また、上記y値が0.7を超えたり、あるいは0.2未満となると、飽和磁束密度Bsが低下してしまうという不都合が生じる傾向がある。さらに、上記y値の特に好ましい範囲は、0.3≦y≦0.5である。
【0027】
また、上記z値が0.2を超えると、飽和磁束密度Bsが1.8T以下となり、記録ヘッドのオーバーライト特性の確保が困難となってしまうという不都合が生じる傾向がある。なお、z値は零を含むものであるから、本願発明の組成ではNiを含まない組成も存在する。その場合には、例えば、Fe−Coを最適の比率とするような配慮がなされる。
【0028】
また、上記a値が0.90未満となると、飽和磁束密度Bsが低下し、記録ヘッドのオーバーライト特性の確保が困難となってしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0029】
また、上記b値が0.25を超えると、飽和磁束密度Bsが低下し、記録ヘッドのオーバーライト特性の確保が困難となってしまうという不都合が生じる傾向がある。なお、b値は零を含むものであるから、本願発明の組成では上記列挙した一群の元素を含まない組成も存在する。その場合には、例えば、Fe−Coを最適の比率とするか、あるいは、その一群の元素に代えてNiを配合して一群の元素の不存在部分をカバーするような配合の配慮がなされる。
【0030】
また、上記c値が0.3を超えると、飽和磁束密度Bsの低下、および異方性磁界の増加により、記録ヘッドのオーバーライト特性の確保が困難となってしまうという不都合が生じる傾向がある。なお、c値は零を含むものであるから、本願発明の組成ではOおよびCを含まない組成も存在する。その場合には、例えば、Fe−Coを最適の比率とするか、あるいは、Niを配合してOおよびC元素の不存在部分をカバーするような配合の配慮がなされる。
【0031】
また、本発明における軟磁性薄膜は、その薄膜を構成する結晶粒径(D)が、5〜30nm、好ましくは、10〜30nmの範囲内で形成される。この値が、30nmを超えると、粒子内に磁壁が生じてポールイレ−ズを誘発する可能性が生じる傾向がある。また、5nm未満となり磁性粒子が臨界体積以下になると、超常磁性を示し、磁性を失ってしまう。
【0032】
また、本発明における軟磁性薄膜は、成膜された軟磁性薄膜の膜応力(σ)が0.01〜0.40GPa、好ましくは、0.01〜0.30GPaの範囲の引張り応力となるように形成される。引張り応力であるから、膜自体は内側に引っ張られる力が作用する。膜応力(σ)が、0.01GPa未満となると、ポールイレ−ズを誘発する可能性が生じるという不都合が生じる。一方、0.40GPaを超えると、膜と基板の密着性が低下して膜剥がれが生じるおそれがある。
【0033】
所定範囲の引張り応力が得られるように薄膜を成膜するには、例えば、FeCo、FeCoNi、(FeCoNi)MGに対して、Gの酸素および窒素の含有量を調整する等の組成上の配慮や、成膜時の基板回転数、ガス圧、バイアス電力等の成膜条件の配慮をしつつ成膜すればよい。
【0034】
一般に、通常の真空成膜方法で薄膜を成膜すると、圧縮応力を生じやすい。引張り応力を得るためには従来行なわれていなかったような上記の種々の成膜上の工夫を要する。
【0035】
さらに、本発明における軟磁性薄膜は、その飽和磁束密度(Bs)が1.8T(テスラ)以上、特に、1.8〜2.4Tとされる。この値が、1.8T未満となると、記録媒体への高記録密度化を実現することができなくなってしまう。また、本願の解決すべき課題であるポールイレ−ズ現象が起こりにくくなる傾向が生じる。
【0036】
また、本発明における軟磁性薄膜において、飽和磁束密度(Bs;単位はテスラ)と結晶粒径(D;単位はnm)と膜応力(σ;単位はGPa)との積の値であるBs・D・σ値は、0.216〜20の範囲が好ましい。この値が、0.216未満となると、圧縮応力が発生しポールイレ−ズを誘発され、且つ、飽和磁束密度が低下するという不都合が生じ傾向がある。また、20を超えると、ポールイレ−ズが発生してしまうという不都合が生じ傾向がある。
【0037】
また、本発明における軟磁性薄膜は、300℃以下、特に、200〜250℃の熱処理温度で良好な軟磁性特性を発現させることができる。例えば、成膜後に250℃で15800A/m(200Oe)の磁場を磁化容易軸方向に掛けながら、3時間の保持がなされる。実際の薄膜ヘッドでは、例えば、磁気記録の読み取り用のGMR再生ヘッド部との複合化がなされることが多く、熱処理温度が300℃を超える操作をすると、GMR素子の出力劣化を引き起こす原因となってしまう。
【0038】
上述してきた垂直磁気記録用の主磁極を備える薄膜磁気ヘッドの好適な一構成例について、図1〜図4を参照しつつ、詳細に説明する。
【0039】
図1は、本発明の薄膜磁気ヘッドのエアベアリング面に平行な断面を示し、図2は、本発明の薄膜磁気ヘッドのエアリング面に垂直な断面を示している。なお、図1および図2に示される上向きの矢印Bは、薄膜磁気ヘッドに対して記録媒体(図示せず)が相対的に進行する方向、すなわち、記録媒体の進行方向(媒体進行方向)を表している。
【0040】
以下の説明では、図1および図2中におけるX軸方向の寸法を「幅」、Y軸方向の寸法を「長さ」、Z軸方向の寸法を「厚さ」とそれぞれ表記する。また、Y軸方向のエアベアリング面に近い側を「前方」、その反対側を「後方」とそれぞれ表記する。これらの表記内容は、後述する図3以降の図面(図3および図4)においても同様とする。
【0041】
薄膜磁気ヘッドは、記録・再生の双方の機能を実行可能な複合型ヘッドの形態とされることが一般的であり、ハードディスクドライブなどの磁気記録再生装置に搭載されるものである。薄膜磁気ヘッドは、図1および図2に示されるように、例えば、アルティック(Al2O3・TiC)よりなる基板1上に、例えばアルミナ(Al2O3)よりなる絶縁膜2と、例えば、磁気抵抗効果(MR:Magneto-resistive)を利用して再生操作を行なう再生ヘッド部100Aと、例えばアルミナよりなる非磁性層7と、垂直記録方式を利用して記録操作を行なう単磁極型の記録ヘッド部100Bと、例えばアルミナよりなるオーバーコート層13とがこの順に積層された構成をなしている。
【0042】
再生ヘッド部100Aは、例えば、下部シールド層3と、シールドギャップ膜4と、上部シールド層5とがこの順に積層された構成をなしている。シールドギャップ膜4には、例えば、ハードディスクなどの記録媒体に対向する記録媒体対向面(エアベアリング面)20に一端面が露出するように、再生素子としてのMR素子6が埋設されている。
【0043】
下部シールド層3および上部シールド層5は、例えば、NiFe(パーマロイ)から構成され、シールドギャップ膜4は、例えば、アルミナから構成される。MR素子6は、例えば、巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magneto-resistance)やトンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magneto-resistance)などを利用して再生操作を行なう素子である。
【0044】
記録ヘッド部100Bは、例えば、リターンヨーク層8と、ギャップ層9により埋設された磁束発生用の薄膜コイル10と、リターンヨーク層8に接続されたヨーク層11と、このヨーク層11に接続された主磁極層12がこの順に積層された構成をなしている。主磁極層12は、「特許請求の範囲」で記載されている「主磁極」と実質的に同義である。
【0045】
上記の「接続」とは、物理的に接触し、かつ磁気的に連結していることを意味する。
【0046】
ギャップ層9は、リターンヨーク層8上に配設され、開口9Kが設けられたギャップ層部分9Aと、このギャップ層部分9A上に、薄膜コイル10の各巻線間およびその周辺領域を覆うように配設されたギャップ層部分9Bと、ギャップ層部分9A、9Bと共に薄膜コイル10を覆うように配設されたギャップ層部分9Cとを含んで構成されている。
【0047】
主磁極層12は、ギャップ層部分9Cとヨーク層11とにより構成された平坦面F上に配設されている。主磁極層12(主磁極)は、本願発明の要部であり、上述したような組成や物性を備えるように構成される。また、リターンヨーク層8、ヨーク層11は、例えばパーマロイから構成される。ギャップ層9のうち、ギャップ層部分9Cは、例えば、アルミナにより構成され、ギャップ層部分9Bは、例えば、フォトレジスト(感光性樹脂)やスピンオングラス(SOG)により構成され、ギャップ層部分9Cは、例えば、アルミナやシリコン酸化物(SiO2)により構成される。
【0048】
次に、図1〜図4を参照して、さらに薄膜ヘッドの詳細な構成について説明する。図3は図1や図2に示した薄膜ヘッド(特に、ヨーク層11および磁極層12)の概略平面構成を拡大して表しており、図4は図3に示した薄膜磁気ヘッドの概略斜視構成を示している。
【0049】
ヨーク層11は、主に、薄膜コイル10において発生した磁束を収容し、その磁束を主磁極層12に供給するためのものであり、薄膜コイル10を覆うと共にエアベアリング面20から後退するように配設されている。好適な本実施の形態において、ヨーク層11は、図3に示されるように、エアベアリング面20よりも後退した位置P1(第1の位置)から、この位置P1よりも後方の位置P2(第2の位置)まで延在しており、一定幅W2を有している。すなわち、ヨーク層11の平面形状は、例えば、矩形状をなしている。なお、上記したよう、ヨーク層11のうちのエアベアリング面20からの遠い側の一端部分(バルクギャップ)11Eはリターンヨーク層8と磁気的に連結されており、薄膜コイル10は、そのヨーク層11の一端部分11Eを中心として巻回された巻線構造を有している。
【0050】
主磁極層12は、主に、ヨーク層11に収容された磁束を記録媒体に向けて放出し、記録媒体をその表面と直交させる方向に磁化させるためのものであり(いわゆる垂直磁気記録のためのものであり)、エアベアリング面20の位置P0から、位置P1と位置P2との間の位置P3(第3の位置)まで延在している。
【0051】
この主磁極層12は、例えば、位置P0から位置P3に向かって順に、記録媒体の記録トラック幅を規定する一定幅W3(トラック幅)を有する先端部12Aと、この先端部12Aの幅W3よりも大きな幅W4(W4>W3)を有する後端部12Bとを含んで構成される。この後端部12Bは、例えば、後方において、ヨーク層11の幅W2よりも大きな幅W4(W4>W2)を有し、かつ、前方において先端部12Aに近づくにしたがって次第に幅が狭まるように構成されている。先端部12Aと後端部12Bとの連結位置は、主磁極層12の幅がW4からW3に狭まる位置、つまりフレアポイントFPである。
【0052】
ここで、主磁極層12のうちの先端部12Aがトラック幅を規制するいわゆる一定幅部分であり、後端部12Bが磁極拡幅部分である。
【0053】
上記のごとく、主磁極層12は、ヨーク層11の上部、すなわち、ヨーク層11の、記録媒体の進行方向B(例えば、図3参照)における媒体流出側に配設されており、その磁極層12のうちの後端部12Bの一部が、ヨーク層11のうちの先端部11Aの一部とオーバーラップして接続されている。すなわち、図4に示されるように、ヨーク層11と主磁極層12とを接続する接続面AMの面積SAは、ヨーク層11の平面形状面積よりも小さくなっている。
【0054】
上記した「媒体流出側(またはトレーリング側ともいう)」とは、記録媒体の進行方向Bに向かう記録媒体の移動状態を1つの流れと見た場合に、その流れの流出する側をいい、具体的には、ここでは厚さ方向(Z軸方向)における上側をさしている。反対に、「媒体流出側」に対して流れの流入する側、すなわち、厚さ方向における下側は、「媒体流入側(またはリーディング側ともいう)」と呼ばれる。
【0055】
図4に示されるように、ヨーク層11のうちの一端部分11Eの端面(リターンヨーク層8と磁気的に連結されている端面)EMの面積をSEとし、主磁極層12のうちの先端部12Aの断面(エアベアリング面20に平行な断面)TMの面積をSTとすると、面積STは面積SEよりも小さくなっている。
【0056】
なお、図4においては、接続面AM、端面EMおよび断面TMを見やすくするために、これらの面にドットを付して分かりやすい表示としている。
【0057】
次に、図1〜図4を参照しつつ、上述してきた好適な薄膜磁気ヘッドの動作について説明する。
【0058】
本発明における薄膜磁気ヘッドでは、情報の記録動作時において、図示しない外部回路から記録ヘッド部100Bの薄膜コイル10に電流が流れると、この薄膜コイル10のうち、主に、ヨーク層11のうちの一部分11E近傍において集中的に磁束が発生する。この磁束は、ヨーク層11に収容されたのち、そのヨーク層11から接続面AMを通じて主磁極層12に流入する。
【0059】
主磁極層12に流入した磁束は、後端部12Bから先端部12Aに流れる際にフレアポイントFPにおいて、幅方向に絞り込まれたのち、その先端部12Aの先端から外部に放出される。この放出磁束に基づいて記録用の信号磁界(垂直磁界)が発生し、この垂直磁界によって記録媒体がその表面と直交する方向に磁化される。つまり、記録媒体に情報が磁気的に記録される。
【0060】
一方、再生時においては、再生ヘッド部100AのMR素子6にセンス電流が流れると、そのMR素子6の抵抗値が、記録媒体からの再生用の信号磁界に応じて変化する。この抵抗変化がセンス電流の変化として検出されることにより、記録媒体に記録されている情報が磁気的に読み出される。
【0061】
次に、図1〜図4を参照して、上述してきた好適な薄膜磁気ヘッドの製造方法について説明する。
【0062】
薄膜磁気ヘッドの製造方法の説明に際し、ヘッドの各構成要素の形成材料、形成位置および構造的特徴等についてはすでに上述したので、その説明は適宜省略する。
【0063】
薄膜磁気ヘッドは、主に、めっき処理や、スパッタリングなどの成膜技術、フォトリソグラフィ処理などのパターニング技術、ならびにドライエッチングなどのエッチング技術等を含む薄膜プロセスを利用して、各構成要素を順次形成して積層させることにより製造される。すなわち、まず、基板1上に絶縁層2を形成したのち、この絶縁層2の上に下部シールド層3と、MR素子6を埋設したシールドギャップ膜4と、上部シールド層5とをこの順に積層させることにより、再生ヘッド部100Aを形成する。
【0064】
次いで、再生ヘッド部100A上に非磁性層7を形成したのち、この非磁性層7の上に、リターンヨーク層8と、薄膜コイル10を埋設したギャップ層9(9A,9B,9C)と、ギャップ層部分9Aに設けられた開口9Kにおいて、リターンヨーク層8と接続されたヨーク層11と、このヨーク層11に接続された主磁極層12とをこの順に積層させることにより、記録ヘッド部100Bを形成する。主磁極層12の形成手法は、上述したとおりである。
【0065】
最後に、記録ヘッド部100Bを覆うようにオーバーコート層13を形成したのち、機械加工や研摩加工を利用してエアベアリング面20を形成することにより、薄膜磁気ヘッドが完成する。
【0066】
なお、本実施の形態では、再生ヘッド部と記録ヘッド部を備える複合型の薄膜磁気ヘッドについて説明したが、記録ヘッド部だけを備える垂直磁気記録専用のヘッド(いわゆる垂直磁気記録用ヘッド)としてもよい。
【0067】
【実施例】
以下、具体的実施例を示し、本発明の薄膜磁気ヘッドの構成をさらに詳細に説明する。
【0068】
〔実験例1〕
アルティック(Al2O3・TiC)よりなる基板1上に、アルミナ(Al2O3)よりなる絶縁膜2を形成したのち、この絶縁層2の上にNiFe(パーマロイ)からなる下部シールド層3と、MR素子6を埋設するように形成したアルミナ(Al2O3)よりなるシールドギャップ膜4と、NiFe(パーマロイ)からなる上部シールド層5とをこの順に積層させ、再生ヘッド部100Aを形成した。
【0069】
MR素子6としては、スピンバルブ膜からなる、巨大磁気抵抗効果素子を用いた。
【0070】
次いで、再生ヘッド部100A上にアルミナ(Al2O3)よりなる非磁性層7を形成したのち、この非磁性層7の上に、NiFe(パーマロイ)からなるリターンヨーク層8と、薄膜コイル10を埋設したギャップ層9(9A,9B,9C)と、ギャップ層部分9Aに設けられた開口9Kにおいて、リターンヨーク層8と接続されたヨーク層11と、このヨーク層11に接続された主磁極層12(主磁極)とをこの順に積層させて、記録ヘッド100Bを形成した。トラック幅を定める主磁極幅は145nmとした。
【0071】
次いで、記録ヘッド部100Bを覆うようにオーバーコート層13を形成したのち、機械加工によりエアベアリング面20を形成することにより、薄膜磁気ヘッドを完成させた。
【0072】
このような一連の手順に従って、下記の表1に示すような種々の薄膜磁気ヘッドサンプルを作製した。各サンプルにおける主磁極層12の製造方法およびその組成は、下記の表1に示す通りとした。
【0073】
表1において、主磁極層12のスパッタによる製造は、DCマグネトロンスパッタとし、主磁極層12のめっきによる製造は、電解めっきとした。なお、主磁極層12は、成膜後に250℃で15800A/m(200Oe)の磁場を磁化容易軸方向に掛けながら、3時間保持する操作の熱処理を行なった。
【0074】
各薄膜磁気ヘッドサンプルの主磁極の物性測定は、下記の要領でそれぞれ行なった。
【0075】
(1)飽和磁束密度:Bs
VSM(Vibrating sample magnetometer)を用いて測定した。ただし、薄膜磁気ヘッドの状態では測定できないため、表1の同一組成および同一の製法に準じた測定用のサンプルを作製し、この測定用のサンプルから求めた。
【0076】
(2)結晶粒径:D
XRD(X-ray diffraction)ダイアグラムからのPeakの半値幅から、Sherrerの式を用いて平均粒径を求めた。
【0077】
(3)膜応力:σ
下記式に各パラメータを代入して、応力を算出した。
F=E・hs 2/6(1−VS)rhf
E:ヤング率、 hs:基板厚み、 VS:ポアソン比、
r:曲率半径、 hf:膜厚
なお、主磁極をスパッタ膜から形成する場合においては、ガラス基板上に主磁極の成膜を行い、ガラス基板への成膜前および成膜後の反りを測定し、応力を算出した。使用基板の大きさは、10mm×20mm×0.2mm(厚さ)とした。ヤング率Eの値は、617GPa、ポアソン比VSの値は0.21を用いた。主磁極をイオンビーム膜(イオンビームスパッタ法によるスパッタ膜)から形成する場合も同様とした。
【0078】
また、主磁極をめっき膜から形成する場合においては、AlTiC基板上に主磁極の成膜を行い、AlTiC基板への成膜前および成膜後の反りを光干渉から測定し、応力を算出した。使用基板の大きさは、6−インチAlTiC基板(厚さ2.0mm)とした。ヤング率Eの値は、407GPa、ポアソン比VSの値は0.24を用いた。
【0079】
(4)ポールイレ−ズ発生の有無の確認
下記の方法で、ポールイレ−ズ発生の有無の確認を行なった。
保磁力260700A/m(3300Oe)の垂直磁気記録用媒体の高周波の信号を記録したトラックの一部分に、低周波の信号をオーバーライトし、高周波信号を再生し、振幅を測定した。
【0080】
オーバーライトする前後の高周波信号の出力信号の振幅が10%以上低下したものをポールイレ−ズの発生「有り」と定義した。
【0081】
結果を下記表1に示した。なお、表1中の応力σ値が、正の値のものは引張り応力を示し、負の値のものは圧縮応力を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【発明の効果】
上記の結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明の薄膜磁気ヘッドは、記録媒体の記録面に向かって記録用の放出磁束が放出されるように作用する垂直磁気記録用の主磁極を備え、前記主磁極は、トラック幅を定める主磁極の幅が150nm以下の狭トラック仕様の軟磁性薄膜から構成されており、前記軟磁性薄膜は、組成式(Fex−Coy−Niz)aMbGcで示され、
Mは、B,C,Al,Si,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Rh,Pd,Ptのグループから選ばれた少なくとも1種であり、
Gは、O(酸素)およびN(窒素)のグループから選ばれた少なくとも1種であり、
上記x,y,z,a,b,およびcの各原子比の値が、それぞれ、
を満たしており、前記軟磁性薄膜は、薄膜を構成する結晶粒径(D)が、5〜30nmの範囲内であり、かつ成膜された前記軟磁性薄膜の膜応力(σ)が0.01〜0.40GPaの範囲の引張り応力となるように構成されているので、高記録密度化を図ることのできる主磁極仕様としても、記録の信頼性の低下の原因となるポールイレ−ズの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一態様である薄膜磁気ヘッドのエアベアリング面に平行な断面図である。
【図2】図2は、本発明の一態様である薄膜磁気ヘッドのエアリング面に垂直な断面図である。
【図3】図3は図1や図2に示した薄膜ヘッド(特に、ヨーク層11および磁極層12)の概略平面構成を拡大して示した平面図である。
【図4】図4は図3に示した薄膜磁気ヘッドの概略斜視構成を示した斜視図である。
【符号の説明】
1…基板
2…絶縁層
3…下部シールド層
4…下部シールドギャップ膜
5…上部シールソ層
6…MR素子
7…非磁性層
8…リターンヨーク層
9(9A,9B,9C)…ギャップ層
10…薄膜コイル
11…ヨーク層
13…オーバーコート層
20…エアベアリング面
Claims (2)
- 記録媒体の記録面に向かって記録用の放出磁束が放出されるように作用する垂直磁気記録用の主磁極を備える薄膜磁気ヘッドであって、
前記主磁極は、トラック幅を定める主磁極の幅が150nm以下の狭トラック仕様の軟磁性薄膜から構成されており、
前記軟磁性薄膜は、組成式(Fex−Coy−Niz)aMbGcで示され、この組成式において、x+y+z=1、およびa+b+c=1の関係があり、
Mは、B,C,Al,Si,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Rh,Pd,Ptのグループから選ばれた少なくとも1種であり、
Gは、O(酸素)およびN(窒素)のグループから選ばれた少なくとも1種であり、
上記x,y,z,a,b,およびcの各原子比の値が、それぞれ、
0.1≦x≦0.8、
0.2≦y≦0.7、
0≦z≦0.2、
0.90≦a≦1.0、
0≦b≦0.25、
0≦c≦0.3、
を満たしており、
前記軟磁性薄膜は、薄膜を構成する結晶粒径(D)が、24.5〜29.5nmの範囲内であり、かつ成膜された前記軟磁性薄膜の膜応力(σ)が0.045〜0.38GPaの範囲の引張り応力であり、
飽和磁束密度(Bs;単位はテスラ)と結晶粒径(D;単位はnm)と膜応力(σ;単位はGPa)との積の値であるBs・D・σ値が、2.6〜21.0であることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。 - 前記軟磁性薄膜は、その飽和磁束密度(Bs)が1.8T(テスラ)以上である請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
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