A.第1実施形態
A−1.第1実施形態の構成
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係わる生体情報計測装置の構成を説明する。
A−1−1:全体構成
図1は、本実施形態に係わる生体情報計測装置の外観構成を示す図である。図に示すように、脈波計測装置1(生体情報計測装置)は、腕時計構造を有する装置本体10と、この装置本体から引き出されたケーブル20と、このケーブル20の先端側に設けられたセンサユニット30と、このセンサユニット30を指に装着するためのセンサ固定用バンド40とから大略構成されている。
装置本体10は、計時機能が内蔵された時計ケース11、およびこの時計ケース11を腕に装着するためのリストバンド12から構成されている。時計ケース11の表面側には、現在時刻や日付に加えて、センサユニット30での検出結果に基づく脈波情報(生体情報)なども表示する液晶表示装置13が構成されている。また、時計ケース11の内部には、センサユニット30による検出結果たる脈波信号Vmが供給されるデータ処理回路50と加速度センサ60とが内蔵されている。加速度センサ60によって、腕の振りなどで生じる体動が体動信号Vtとして検知される。データ処理回路50は、脈波信号Vmおよび体動信号Vtに基づいて、信号処理を行い脈拍数などの生体情報を生成する。なお、時計ケース11の外側面には、時刻合わせや表示モードの切換などを行うためのボタンスイッチ111,112が設けられている。
脈波計測装置1の電源は、時計ケース11に内蔵されている電池であり、ケーブル20は、電池からセンサユニット30に電力を供給するとともに、センサユニット30の検出結果を時計ケース11内のデータ処理回路50に入力可能である。本例のセンサ固定用バンド40には、マジックテープが張られており、図1に示すように、センサ固定用バンド40は、センサユニット30を指の根本に密着した状態で取り付け可能である。
センサ固定用バンド40の内面には、円盤状のセンサユニット30が固定されており、それには図2に模式的に示すように、発光ダイオード(以下、LEDと略す)31およびフォトダイオード32,33が指に向けられている。LED31が、光を指に向けて照射すると、照射光は指の組織の毛細血管を流れる血液中のヘモグロビンによって吸収され、吸収を免れた照射光が組織によって反射され、その反射光がフォトダイオード32,33によって受光され、受光量に応じた電気信号に変換されるようになっている。また、センサ固定用バンド40の素材は、光を透過させないものが選ばれる。したがって、脈波計測装置1を屋外で使用した場合であっても、自然光がフォトダイオード32,33に直接入射することはない。
A−1−2:センサユニット30の構成
次に、センサユニット30(反射型光検出装置)の構成を説明する。 図3はセンサユニットの平面図、図4はセンサユニットの断面図である。図3,4において、LED31とフォトダイオード32,33は、回路基板36の表面に形成されている。また、回路基板36の裏面には、OPアンプ34および回路素子35が形成されている。OPアンプ34と回路素子35は、フォトダイオード32,33の出力信号の差分を増幅する。なお、この点については後述する。また、回路基板36の表面の端部には、透明ガラス37を配した上ケース38が形成されている。この透明ガラス37は、LED31やフォトダイオード32,33を保護するとともに、光を透過するようになっている。また、回路基板36の裏面側には、ケーブル20の引出穴を備えた下ケース39が形成されている。
この例では、OPアンプ34をセンサユニット30に内蔵している。仮に、入力インピーダンスが高いOPアンプ34を装置本体10に内蔵すると、ケーブル20の長さだけ配線距離が長くなり、ケーブル20がノイズに対してアンテナとして作用してしまう。そこで、OPアンプ34をセンサユニット30に内蔵して、フォトダイオード32,33からOPアンプ34までの配線距離を短くし、ノイズが混入しないようにしている。
この例におけるLED31とフォトダイオード32,33は、図示するように、直線上に配置されている。ここで、LED31の発光中心位置からフォトダイオード32の受光中心位置までの距離をL1、LED31の発光中心位置からフォトダイオード33の受光中心位置までの距離をL2とすると、L1<L2になるように配置される。すなわち、フォトダイオード33は、その受光中心位置からLED31の発光中心位置までの距離L2が、LED31の発光中心位置からフォトダイオード32の受光中心位置までの距離L1と異なるように配置される。これにより、LED31からフォトダイオード33までの光路長は、LED31からフォトダイオード32までの光路長と比較して長くなる。
ところで、LED31からの照射光は、その波長にもよるが、血液中のヘモグロビンばかりでなく、生体の組織によっても吸収・散乱される。したがって、光路長がある程度長くなると、媒質である生体の組織によって照射光が吸収・散乱され、フォトダイオード32,33に反射光がほとんど入射しなくなる。この例において距離L1は、組織の吸収・散乱が少なくフォトダイオード32によって血液の流れを検出できるように選ばれており、一方、距離L2はフォトダイオード33によって反射光がほとんど入射しないように選ばれている。したがって、フォトダイオード32の出力信号には、脈波波形が重畳するが、フォトダイオード33の出力信号には脈波波形が現れない。
図5はセンサユニットの電気的な構成を示す回路図である。図に示すようにLED31のアノードは正電源+Vに接続され、そのカソードは抵抗351を介して接地されている。抵抗351は電流制限抵抗として作用するので、所望の電流がLED31に流れる。
また、フォトダイオード32のカソードは正電源+Vに接続され、そのアノードはフォトダイオード33のカソードと接続される。フォトダイオード33のアノードが負電源−Vに接続されている。また、フォトダイオード32,33の接続点XはOPアンプ34の負入力端子に接続され、OPアンプ34の正入力端子は接地されている。OPアンプ34の出力信号は、抵抗352を介して負入力端子にフィードバックされている。このOPアンプ34の入力インピーダンスは極めて高く、かつゲインも大きい。OPアンプ34の負入力端子は正入力端子にイマジナリーショートされている。これにより、フォトダイオード32,33は逆バイアスされ、光が入射すると光量に応じた電流が発生する。OPアンプ34は、電流を電圧に変換して脈波信号Vmを出力する。
ここで、図6に示す実線はこの例におけるフォトダイオード32,33の分光感度特性を示したものである。この図から、フォトダイオード32,33には700nm付近に感度のピークがあることが判る。また、LED31の発光特性は図7に示すように、560nm付近にピークがあり、その半値幅は25nm程度である。
ところで、フォトダイオードによる光電変換の原理は、逆バイアスによってアノード・カソード間に形成される空乏層に光が入射すると、原子が励起状態になって自由電子が発生し、これがホールと再結合して電流がカソードからアノードに流れるというものである。したがって、電流i1,i2の向きを図5に示すように取ると、i1は正、i2は負の値となる。図8は図5における点Yで結線を切断したときの接続点Xにおける電圧と電流の関係を示したものである。図に示すようにフォトダイオード32に入射する照度が増大すると電流i1は増加し、フォトダイオード33に入射する照度が増大すると電流i2は減少する。
ここで、フォトダイオード32,33に入射する光には、LED31の照射光が組織によって反射された反射光の他、外光がある。例えば、屋外において脈波計測装置1を使用した場合には、自然光がセンサ固定用バンド40で覆われていない指の皮膚から入射し、組織を介してフォトダイオード32,33に外光として入射する。自然光は指全体に均一に照射されるので、フォトダイオード32,33の間の距離を短く設定すれば、それらに入射する外光の照度(強度)は等しくなる。この例にあっては、外光の照度(強度)が等しくなるようにフォトダイオード32,33の位置関係が設定されている。
いま、LED31の照射光のうち反射光としてフォトダイオード32,33に入射する光の照度を各々Pa,Pb、外光の照度をPcとする。また、照度Pa,Pb,Pcに対応する電流を各々ia,ib,icとする。この場合、図5に示すi1,i2は、以下の式で与えられる。
i1=ia+ic
i2=−ib−ic
接続点Xにあっては、電流i1と電流i2とが加算されるから、OPアンプ34に流れ込む電流i1+i2は、ia−ibとなる。すなわち、外光の照度Pcに応じた電流ic,−icは相殺され、LED31の反射光に応じた電流がOPアンプ34に流れ込むことになる。この結果、脈波信号Vmは照度Pa,Pbのみに依存する。図9は脈波信号Vmと照度Pa−Pbの関係を示したものである。
ところで、LED31とフォトダイオード32,33の位置関係は、上述したように、フォトダイオード32には反射光が入射し、フォトダイオード33には反射光がほとんど入射しないように設定されている。したがって、照度Pbは照度Paと比較して極めて小さいので、電流i1+i2は以下のように近似できる。
i1+i2=ia−ib〜ia
したがって、脈波信号Vmはフォトダイオード32に入射する反射光の照度Paに応じたものとなる。
このように構成したセンサユニット30を、図1に示す示すように、センサ固定用バンド40を指の根本に装着すると、LED31およびフォトダイオード32,33は、発光面および受光面が指表面に向いた状態となる。この状態で、LED31が指に向けて光を照射すると、生体から反射された光がフォトダイオード32,33によって受光される。ここで、外光がセンサ固定用バンド40で覆われていない手指の皮膚から入ってフォトダイオード32,33に入射したとしても、外光の成分は相殺される。したがって、脈動に対応する脈波信号Vmのみをケーブル20を介して装置本体10に入力することができる。
A−1−3:データ処理回路50の構成
次に、データ処理回路50について図10を参照して説明する。図10はデータ処理回路の機能ブロック図である。図において、51は脈波信号変換部であって、センサユニット30からの脈波信号Vmをアナログ信号からデジタル信号に変換して脈波データMDして出力する。52は体動信号変換部であって体動信号Vtをアナログ信号からデジタル信号に変換して体動データTDして出力する。53はRAM等で構成される記憶部であって、脈波データMDと体動データTDとを記憶する。
54は脈波周波数解析部であって、記憶部53から読み出された脈波データMDに周波数解析を施して、脈波解析データMKDを生成する。一方、55は体動周波数解析部であって、記憶部53から読み出された体動データTDに周波数解析を施して、体動解析データTKDを生成する。周波数解析の手法としては、各種のものがあるが、この例にあっては短い演算時間で解析できるようにFFT(高速フーリエ変換)が用いられている。
次に、56は脈波成分抽出部であって、脈波解析データMKDと体動解析データTKDに基づいて、脈波解析データMKDから体動成分を除去した体動除去脈波解析データMKD’を生成する。具体的には、脈波解析データMKDの各スペクトラム周波数成分の内、体動解析データTKDの各スペクトラム周波数に対応するスペクトラム周波数成分を除去し、体動除去脈波解析データMKD’を生成する。また、57は脈拍数演算部であって、体動除去脈波解析データMKD’に基づいて、脈波成分の基本波周波数Fm1を特定し、60/Fm1を演算して脈拍数HRを生成する。脈拍数HRは液晶表示装置13に供給され、そこに表示される。これによって、ユーザーはジョギング等の運動中であっても自己の脈拍数を知ることができる。
なお、データ処理回路50は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、CPUの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)、および、上述した機能ブロックを実現するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)等によって構成される。
A−2.第1実施形態の動作
次に、本実施形態の動作を図面を参照しつつ説明する。
A−2−1:センサユニット30の動作
まず、センサユニット30の動作を比較例の動作と比較しながら説明する。図11は、比較例として作成した比較センサユニット30’の回路図である。比較センサユニット30’は、図5に示すセンサユニット30からフォトダイオード33を除いたものであり、従来のセンサユニットに相当する。
本発明者らは、この比較センサユニット30’とセンサユニット30を用いて比較実験を行った。図12は比較実験のシステムを示すブロック図である。この比較実験においては、比較センサユニット30’とセンサユニット30を指の根本に装着し、ノイズ光源Nから2.2Hzの周波数で照度差5000ルクスの光を外光ノイズとして照射した。具体的には5000ルクスの光を2.2Hzでオン・オフさせるようにノイズ光源Nを制御した。そして、比較センサユニット30’とセンサユニット30の出力信号をスイッチSWで切り換えて、これをゲインが約6000のアンプAで増幅し、増幅された信号を周波数解析装置Sで解析した。
図13は、比較センサユニット30’からの出力信号を解析した結果を示したものであり、図14はセンサユニット30からの出力信号を解析した結果を示したものである。図13に示すように、比較センサユニット30’の出力信号には、外光の影響を受けて、ノイズスペクトルSnが2.2Hz付近に存在する。この例の脈波スペクトルSmは略1.7Hzに存在する。脈波スペクトルSmのスペクトル強度は、ノイズスペクトルSnと比較して1/2程度しかない。このため、仮に、比較センサユニット30’を脈波計測装置1に適用すると、ノイズスペクトルSnを脈波スペクトルSmと誤検出して、誤った脈拍数HRを算出してしまう。これに対して、図14に示すように、センサユニット30の出力信号には、ノイズスペクトルSnが存在しない。したがって、センサユニット30を用いた脈波計測装置1にあっては、正確な脈波スペクトルSmに基づいて、脈拍数HRを求めることができる。
次に、本発明者らは、比較センサユニット30’およびセンサユニット30について、ノイズ光源Nの照度差を変化させ、ノイズスペクトル強度と脈波スペクトル強度の関係を測定した。図15はこの測定結果を示したグラフである。このグラフにおいて縦軸は相対強度Q(ノイズスペクトル強度/脈波スペクトル強度+ノイズスペクトル強度)、横軸はノイズ光源Nの照度差である。相対強度Qの値が低い程、ノイズ成分が小さいくなるので、正確に脈波スペクトルSmを検出できることになる。
比較センサユニット30’の出力信号では、ノイズ強度が大きくなるにつれ、相対強度Qの値が高くなり、ノイズ強度が略8000ルクスで、ノイズスペクトル強度と脈波スペクトル強度が等しくなる。そして、ノイズ強度が4万ルクスに達すると、相対強度の値がほぼ100%になってしまう。脈波スペクトルSmとノイズスペクトルSnの判別をスペクトル強度の大小で行うならば、比較センサユニット30’は略8000ルクス以上で使用不能となってしまう。これに対して、センサユニット30の出力信号は、ノイズ強度の値にかかわらず、全く影響を受けていない。このことは、真夏の屋外であっても外光の影響を受けることなく、脈波スペクトルSmを正確に検出できることを意味する。
A−2−2:データ処理回路50の動作
次に、図16はデータ処理回路50の動作を示すフローチャートである。まず、脈波信号変換部51が脈波信号Vmをアナログ信号からデジタル信号に変換して脈波データMDを生成し(ステップS1)、体動信号変換部52が体動信号Vtをアナログ信号からデジタル信号に変換して体動データTDを生成する(ステップS2)。記憶部53は、脈波データMDと体動データTDを記憶する(ステップS3)。
次に、脈波周波数解析部54は、記憶部53から読み出された脈波データMDにFFT処理を施して、脈波解析データMKDを生成する(ステップS4)。この場合、脈波信号Vmは、腕の振りや体の上下動などの体動の影響を受けているため、脈波解析データMKDには、真の脈波成分の他、体動成分が重畳している。図17(a)は脈波解析データMKDの一例である。なお、図17(a)中の1.5Hz近傍および3Hz近傍の周波数成分は体動成分である。
次に、体動周波数解析部55は、記憶部53から読み出された体動データMDにFFT処理を施して、体動解析データTKDを生成する(ステップS5)。図17(b)は体動解析データTKDの一例である。ここで、体動解析データTKDの各スペクトル周波数は、脈波解析データMKDの体動成分に係わる各スペクトル周波数と一致する。なお、この例では、それらのスペクトル強度が一致しているが、相違する場合もある。これは、体動信号THが腕の振りなどによって生じる加速度として直接検出されるのに対して、血液流は血管や組織などの影響を受けるからである。
次に、脈波成分抽出部56は、脈波解析データMKDの各スペクトル周波数成分の内、体動解析データTKDの各スペクトル周波数に対応するスペクトル周波数成分を除去して、体動除去脈波解析データMKD’を脈波成分として生成する。このような処理によって、体動成分のスペクトル強度が脈波解析データMKDと体動解析データTKDの間で相違しても、脈波解析データMKDから体動成分を除去して、脈波成分を抽出することができる。例えば、脈波解析データMKDと体動解析データTKDが図17(a),(b)に示すものであるならば、体動除去脈波解析データMKD’は図17(c)に示すものとなる。
次に、脈拍数演算部57は、体動除去脈波解析データMKD’に基づいて、脈波成分の基本波周波数Fm1を特定し、60/Fm1を演算して脈拍数HRを生成する。脈波成分の基本波周波数Fm1は体動除去脈波解析データMKD’中の各スペクトルのうち最大のスペクトル強度を示す周波数を特定することによって行われる。具体的には、各スペクトル強度を順次比較して、最大のものを検索する。例えば、体動除去脈波解析データMKD’が図17(c)に示すものであるとすれば、F1が脈波成分の基本波周波数Fm1として特定される。
このように本実施形態によれば、フォトダイオード32,33をLED31からの距離が相違し、かつ、外光が等しく入射する位置に配置したので、外光による影響を簡易な構成で確実に相殺することができる。これにより、真夏の屋外などでも脈波計測装置1を使用することが可能となる。また、脈波信号Vmに周波数解析を施して、体動成分を除去するようにしたので、ランニングなどの運動中であっても脈拍数HRを検出することができる。これにより、被験者は自己の健康状態を走りながら管理することができるので、効果的なトレーニングを行うことができる。
A−3.第1実施形態の変形例
本発明は、上述した第1実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。
(1)上述した第1実施形態にあっては、脈波信号を検出するセンサユニット30を反射型光検出装置の一例として説明したが、本発明は、これに限定されるものでなく、発光部と光電変換部とを備え、発光部からの照射光を検出物で反射し、その反射光の光量を検出する反射型光検出装置であれば、いかなるものにも適用できる。例えば、工業製品の生産ラインにおいて製品の個数を計測する装置、複写機において紙の有無を検出する装置等に応用することができる。
(2)上述した第1実施形態にあって、センサユニット30を構成するLED31とフォトダイオード32,33の位置関係は、図3に示すように、直線状に配置したが、本発明はこれに限定されるものではなく、LED31からフォトダイオード32までの距離L1、LED31からフォトダイオード33までの距離L2が、相違すればどのような位置関係にあってもよい。例えば、図18に示すようにLED31とフォトダイオード32を結ぶ直線が、フォトダイオード32,33を結ぶ直線と直交するような配置であってもよい。
(3)上述した第1実施形態にあって、センサユニット30を、図19に示すように構成してもよい。図19に示すセンサユニット30の回路図が、図5に示すものと異なるのは、フォトダイオード32のカソードとフォトダイオード33のアノードを接地させた点である。この場合にも、上述した実施形態と同様に、電流i1と電流i2が接続点Xで加算されるので、外光の照度Pcに応じた電流icを相殺することができる。
(4)上述した実施形態にあって、フォトダイオード32,33の分光感度特性は、その一例として図6に実線で示したものとして説明したが、同図中に点線で示すように約950nmがピーク波長であってもよい。一般に、300nm〜600nmの波長の光を検出光として用いると、皮膚から3mm程度内部の血液流を計測できることが知られている。これは、波長の短い光は生体の組織で吸収あるいは散乱され易いからである。したがって、検出光の波長範囲を300nm〜600nmにすると、外光のうち波長範囲が300nm〜600nmのものが生体の組織で吸収・散乱されるので、外光の影響を受けにくいものにすることができる。しかし、分光感度をこの範囲に制限した特殊な素子は高価である。これに対して、上述した第1実施形態で説明した分光感度特性や図6中に点線で示す特性を示すフォトダイオードは、安価で安定した特性を示す。上述した第1実施形態においては、外光を相殺することができるから、検出光の波長範囲を300nm〜600nmに限定しなくとも、図6に実線あるいは点線で示す分光感度特性を有するフォトダイオードを用いて正確に脈波信号Vmを検出できる。この場合には、組織の内部にまで照射光が到達するため、橈骨動脈などの各種動脈の脈動を検出することができる。
(5)上述した第1実施形態にあって、データ処理回路50では、体動除去解析データMKD’に基づいて、脈拍数HRを算出したが、本発明はこれに限定されるものではなく、体動除去解析データMKD’の低域成分を解析して呼吸数を示す呼吸数情報を算出するようにしても良い。また、体動除去解析データMKD’に逆FFT処理を施し、その処理結果に基づいて、平脈、弦脈、滑脈といった脈象を特定するようにしてもよい。要は、データ処理回路50は、体動除去解析データMKD’に基づいて、生体の状態を示す生体情報を生成する回路であれば如何なるものであってもよい。
(6)上述した実施形態にあっては、指の根本を脈波信号Vmの検出部位の一例として説明したが、センサユニット30の形態を適宜変更することによって、生体の皮膚であればどのような箇所であっても脈波信号Vmを検出できる。例えば、首の周り、耳朶、手首といった箇所を検出部位としてもよい。
B.第2実施形態
第2実施形態は、体動計測装置に関するものである。体動計測装置では、上述した第1実施形態のセンサユニット30(反射型光検出装置)を一部変更して体動を計測するために用いる。
B−1.原理
まず、本実施形態における体動信号の検出原理を説明する。本実施形態に係る体動計測装置においては、受光部と発光部を備えた反射型光学センサ(後述するセンサユニット300)を用いて体動を検出している。
図20は、反射型光学センサの原理を説明するための図である。図においてA1は発光部、B1は受光部である。また、T1は表皮であり、C1は毛細血管および細動脈である。表皮T1から血管C1までの間には、生体組織が形成されている。そして、血管C1の内部には血液が流れている。発光部A1から照射された光の一部は、生体の組織や血液中のヘモグロビンによって吸収され、また、他の一部は、生体の組織によって反射され、その反射光が受光部B1によって受光される。受光部B1は受光量に応じて電気信号を出力する。したがって、受光部B1の出力信号には、生体の組織による吸収と血液中のヘモログロビンによる吸収が反映されている。
図21は、生体に体動がなく安静な状態において、人の血管部分に外部から光を照射したときの吸光度の分布を示す図であり、I2は組織による吸光成分、I3は静脈血による吸光成分、I4は動脈血による吸光成分である。この場合、組織による吸光成分I2には組織濃度が変化しないため、一定である。また、静脈血による吸光成分I3も一定である。これは、静脈には脈動がなく、濃度変化がないためである。図22は、このことを示す図であり、心臓から送り出された血液の脈動が次第になくなり、静脈においては完全に消えていることが判る。
一方、生体に体動がある状態を考えると、その体動の影響が血液流に及び、動脈血による吸光成分I4と静脈血による吸光成分I3が変動する。また、手足の振りによって組織が振動するため、この部分の吸光度も変動する。
したがって、体動の有無に関わらず、動脈血の吸光成分I4が変動するため、血管Cに単に光を照射してその反射光を受光部B1で検出したとしても、受光部B1の出力信号を体動信号として取り扱うことはできない。
ところで、組織の吸光成分I2や血液の吸光成分I3,I4は、ある周波数特性をもっており、照射光の波長によって吸光度が相違している。図23は、還元ヘモグロビンHbと酸化ヘモグロビンHbO2との分子吸光係数を示した図である。ここで、酸化ヘモグロビンHbO2は動脈血中に主として存在し、還元ヘモグロビンHbは静脈血中に存在している。上述したように静脈には脈動がないから、脈動に係わる吸光成分は、酸化ヘモグロビンHbO2による吸光度を考慮すれば足りる。ここで、酸化ヘモグロビンHbO2の吸光係数は、図23に示されるように600nmを越えると急激に減少していることが判る。一方、組織の吸光度は、600nmを越えても減衰しない。
したがって、600nm以上の波長領域において発光部A1から生体に光を照射すると、酸化ヘモグロビンHbO2では照射光がほとんど吸収されず、組織によって照射光の大半が吸収されることとなる。この場合に体動があったとすると、上述したように組織が振動するので、体動に応じて照射光が組織に吸収される度合が変動する。したがって、その反射光を受光部B1で受光すれば、受光部B1の出力信号を体動信号として取り扱うことができる。第2実施形態は、以上の体動検出原理に着目して生体の体動を計測するものである。
B−2.第2実施形態の構成
B−2−1:全体構成
第2実施形態に係る体動計測装置の外観構成は、図1に示す第1実施形態に係る脈波計測装置1と同一である。但し、第2実施形態では、第1実施形態のセンサユニット30の替わりにセンサユニット300を用いる。ここで、センサユニット300は、600nm以上の波長領域において反射光を電気信号に変換するように構成されており、体動の度合いを示す体動信号Vtがセンサユニット30から出力されるようになっている。このため、装置本体10の内部には加速度センサ60が設けられていない。また、装置本体10の内部に設けられるデータ処理回路50は、体動信号VtにFFT処理を施し、その処理結果を解析することにより、ピッチPを算出している。
B−2−2:センサユニット300の構成
第2実施形態のセンサユニット300の機械的構成は、LED31(発光部)の替わりにLED310を使用する点を除いて、第1実施形態のセンサユニット30と同じである。したがって、LED310とフォトダイオード32,33との位置関係は、図3および図4に示すLED31をLED310に置き換えたものとなっている。
ここで、フォトダイオード32,33の分光感度特性は、図6に実線で示したものと同一である。一方、図24は、LED310の発光特性を示したものである。したがって、センサユニット300では、両特性が重なる範囲である660nmを中心に630nm〜690nmの波長領域において計測が行われる。630nm〜690nmの波長領域では、図23に示すように酸化ヘモグロビンHbO2の吸光度が減少している。このため、フォトダイオード32,33の出力信号は、脈波成分が抑圧され、体動成分が大半を占めることとなる。この例におけるLED310とフォトダイオード32,33は、第1実施系形態と同様に配置されているから(図3,4参照)、LED310からフォトダイオード33までの光路長は、LED310からフォトダイオード32までの光路長と比較して長くなる。
LED310からの照射光は、生体の組織によって吸収・散乱されるが、光路長がある程度長くなると、媒質である生体の組織によって照射光がほとんど吸収される。したがって、光路長が長い場合には、フォトダイオード32,33に反射光が入射しなくなる。第1実施形態で説明したように図3に示す距離L1は、組織の吸収・散乱が比較的少なくフォトダイオード32によって組織の動きが検出できるように選ばれており、一方、同図に示す距離L2はフォトダイオード33に反射光がほとんど入射しないように選ばれている。したがって、フォトダイオード32の出力信号は、体動による組織変動を反映したものになるが、フォトダイオード33の出力信号には体動波形が現れない。
次に、センサユニット300の回路図を、図25に示す。センサユニット300は、図5に示すセンサユニット30と比較して、LED31をLED310に置き換えた点とオペアンプ34が体動信号Vtを出力する点とが相違する。
ここで、フォトダイオード32,33の位置関係は、第1実施形態で説明したように外光の照度(強度)が等しくなるように設定されている。したがって、外光の照度Pcに対応する電流icは、接続点Xにおいて電流i1と電流i2とが加算されることにより相殺される。
一方、LED310からフォトダイオード33まで距離L2は、LED310からの光がほとんど入射しないように選ばれているから、照度Pbは照度Paと比較して極めて小さい。この結果、電流i1+i2は以下のように近似できる。
i1+i2=ia−ib〜ia
したがって、体動信号Vtはフォトダイオード32に入射する反射光の照度Paに応じたものとなる。
このように構成したセンサユニット300において、図5に示す示すように、センサ固定用バンド40を指の根本に装着すると、LED310およびフォトダイオード32,33は、発光面および受光面が指表面に向いた状態となる。この状態で、LED310が指に向けて光を照射すると、生体から反射された光がフォトダイオード32,33によって受光される。ここで、外光がセンサ固定用バンド40で覆われていない手指の皮膚から入って受光されたとしても、外光の成分は相殺されるので、体動に対応する体動信号Vtのみをケーブル20を介して装置本体10に入力することができる。
B−2−3:データ処理回路500の構成
次に、第2実施形態に係るデータ処理回路500について図26を参照して説明する。なお、データ処理回路500は、第1実施形態と同様に装置本体10に内蔵されている。また、データ処理回路500は、具体的には、CPU、CPUの作業領域として機能するRAM、および、上述した機能ブロックを実現するためのプログラムを格納したROM等によって構成される。
図26はデータ処理回路500の機能ブロック図である。図において、体動信号変換部52は、センサユニット300からの体動信号Vtをアナログ信号からデジタル信号に変換して体動データTDして出力する。記憶部53はRAM等で構成され、所定期間の体動データTDを記憶する。体動周波数解析部55は、記憶部53から読み出された体動データTDに周波数解析を施して、体動解析データTKDを生成する。周波数解析の手法としては、各種のものがあるが、この例にあっては短い演算時間で解析できるようにFFT(高速フーリエ変換)が用いられる。
次に、ピッチ演算部540は、体動解析データTKDの各スペクトラム強度に基づいて、ピッチPを演算し、その演算結果を液晶表示部に出力する。このピッチ演算部540は、信号特定部541、第1波確認部542、第2波確認部543、および信号判別部544から構成される。
信号特定部541は、所定の周波数以上の領域でパワーが所定のレベル以上にある信号をピッチを求めるための基準波として特定する。第1波確認部542は、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数を有する高レベルの信号があるか否かを判断する。第2波確認部543は、基準波の周波数の2/3倍に相当する周波数を有する高レベルの信号があるか否かを判断する。
信号判別部544は、第1波確認部542が基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数を有する高レベルの信号が無いと判断したときには、基準波を体動の基本波に対する第2高調波であると判断する。また、信号判別部544は、第2波確認部543が基準波の周波数の2/3倍に相当する周波数の位置に高レベルの信号がないと判断したときにも、基準波を体動の基本波に対する第2高調波であると判断する。また、信号判別部544は、第1波確認部542および第2波確認部543の確認結果に基づいて基準波を基本波に対する第3高調波であると判断したときでも、基準波が所定の周波数レベル以上にあると判断したときに、はじめて基準波は基本波に対する第3高調波であると断定する。一方、信号判別部544は、基準波が処理の周波数レベル以下にあると判断したときには、基準波は基本波に対する第2高調波であると断定する。
このように構成したピッチ演算部540は、歩行時のスペクトルと走行時のスペクトルとの違いから自動的に歩行状態にあるか走行状態にあるかを判断し、それぞれの場合に適した演算を行うことによってピッチを求めるようになっている。
その原理は、以下の通りである。まず、図27(a)は、走行時の典型的なスペクトラムである。走行時には、同図に示すように体動の基本波に対応する線スペクトルSA1、および体動の基本波に対する第2高調波成分に相当する線スペクトルSA2が出現する。これらのうち、第2高調波成分に相当する線スペクトルSA2は、基本波に対応する線スペクトルSA1に比してレベルが著しく高い。走行時には、右足をステップした時と左足をステップした時に均等に上下動が出るので、体動成分の第2高調波が出現するからである。また、腕の振りの基本波(SA1に相当)は、腕の振り出しおよび引き戻しを一周期とする振り子運動に相当する。しかし、走行時には腕の振りを滑らかな振り子運動にするのが難しいので、腕の振りの基本波パワーが弱めになる。一方、腕の振り出しおよび引き戻しのそれぞれの瞬間に加速度がかかるため、第2高調波成分は、腕の振りの基本波成分より強くでるのである。
これに対して、図27(b)は歩行時の典型的なスペクトラムである。歩行時には、体動の基本波に対応する線スペクトルSB1、第2高調波に対応する線スペクトルSB2、および第3高調波に対応する線スペクトルSB3が出現する。歩行時には、走行時ほど体動に上下動がなく、また、手振りに起因する信号成分が強く出現する。その特徴は、基本波に対応する線スペクトルSB1に現れる。その結果、各線スペクトルSB1、SB2、SB3の比率は一定しない。しかし、走行時に比較して、線スペクトルSB1および線スペクトルSB3のレベルは、線スペクトルSB2のレベルよりも高い。
ここで、走行時の第2高調波に対応する線スペクトルSA2、歩行時の第2高調波に対応する線スペクトルSB2、および歩行時の第3高調波に対応する線スペクトルSB3は、通常、100回/分以上の周波数領域に出現する。従って、100回/分以上の周波数領域を監視し、そこに出現した信号のうち、高レベルの信号が基本波に対する第2高調波であるか第3高調波であるのかを判断すれば、走行時であるか歩行時であるかを判断できる。
走行時においては、100回/分以上の周波数領域に基本波に対する第3高調波が高レベルの信号として出現するので、この信号の周波数に2/3倍を掛けた値から歩行時のピッチPを求めることができる。逆に走行時には、100回/分以上の周波数領域に基本波に対する第2高調波が高レベルの信号として出現するので、この信号の周波数から走行時のピッチPを求めることができる。ピッチ演算部540は、走行時におけるスペクトルパターンと歩行時におけるスペクトルパターンの違いを利用して、ピッチPを求めるように構成されている。
B−3.第2実施形態の動作
次に、本実施形態の動作を図面を参照しつつ説明する。
B−3−1:センサユニット300の動作
まず、センサユニット300の動作を比較例の動作と比較しながら説明する。比較例では、図24に示す発光特性を有するLED31の替わりに、図28に示す発光特性を有するLED310’を用いて比較センサユニット300’を構成した。この場合、LED310’の発光特性は、ピーク波長が525nmであって、その半値幅は40nmである。すなわち、比較センサユニット300’にあっては、酸化ヘモグロビンHbO2の吸光特性が大きい波長領域において、計測が行われることになる(図23参照)。
図28は、比較センサユニット300’の出力信号波形WF1の一例とその周波数解析結果を示す図である。同図においてSt1は体動成分の基本波に対応するスペクトルであり、その周波数は1.1Hzである。また、St2は体動成分の第2高調波に対応するスペクトルであり、その周波数は2.2Hzである。一方、Smは、脈波成分の基本波に対応するスペクトルである。このように、計測に用いる波長領域を600nm未満に設定すると、酸化ヘモグロビンHbO2によって照射光が吸光されるので、動脈血の脈動がスペクトルSmとして計測されてしまう。この場合には、体動成分に係わるスペクトルSt1,St2よりもスペクトルSmの強度の方が大きくなってしまうので、体動の基本波を誤って検出してしまい、その結果、正確なピッチPを検出することができない。
これに対して、図30はセンサユニット300の出力信号波形WF2の一例とその周波数解析結果を示す図である。この例のLED310は、図24に示すように660nmにピーク波長があり、その半値幅が40nmとなる発光特性を示している。このように計測に用いる波長領域を600nm以上に設定すると、酸化ヘモグロビンHbO2による照射光の吸光はほとんどないので、脈波成分に係わるスペクトルSmのスペクトル強度が大幅に減少する。この結果、図30に示すように、スペクトルSmよりも体動成分に係わるスペクトルSt1,St2のスペクトル強度が大きくなり、スペクトルSmを体動成分として誤検出することがなく、正確に体動成分を計測することが可能となる。また、センサユニット300は、外光の影響をキャンセルするように構成されているので、屋外におけるランニングなどの運動中であっても体動信号Vtを高いSN比の下に検出することが可能となる。
B−3−2:データ処理回路500の動作
次に、データ処理回路500においては、センサユニット300によって体動信号Vtが検出されると、体動信号変換部52が体動信号Vtをアナログ信号からデジタル信号に変換して体動データTDを生成する。この体動データTDは記憶部53に記憶され、所定のタイミングで記憶部53から読み出される。次に、体動周波数解析部55が、記憶部53から読み出された体動データTDにFFT処理を施して、体動解析データTKDを生成すると、ピッチ演算部540は体動解析データTKDの各スペクトルに基づいて、ピッチPを演算する。
ここで、ピッチ演算部540におけるピッチ演算処理の動作を図31に示すフローチャートを参照して説明する。ます、ステップST1では、周波数解析後の体動解析データTKDの中からレベルの最も高い信号(線スペクトル)を見つける。この信号は、ピッチを求めるための基準波となるべき信号の候補である。ステップST2では、この基準波の周波数が100回/分以上であるか否かを判断する。
ここで、基準波の周波数が100回/分未満であれば、ステップST3において別の候補を見つけることになる。この後、ステップST4において、先の信号を除く他の信号の中から最もレベルの高い信号を基準波として見つける。この処理においてピッチをそのまま今回のピッチとし(ステップST5)、ステップST6において、この値をピッチとして確定する。
これに対して、ステップST3、ST4での処理を行ううちに、100回/分以上の高レベルの信号が見つかれば、この信号を基準波とする。ステップST7では、この基準波の周波数の1/3倍の周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅を有する信号があるか否かを判断する。
ステップST7で、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号がない場合には、ステップST8に進む。ステップST8では、基準波の周波数の2/3倍に相当する周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅を有する信号があるか否かを判断する。ステップST8で、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号がなければ、基準波は、第2高調波成分に相当する信号と判断できる。このため、ステップST6において、この値をそのままピッチとして確定する。
これに対して、ステップST7において、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号がある場合には、ステップST9に進む。ステップST9では、この基準波の周波数が150回/分以上であるか否かを判断する。この150回/分という値は、100回/分の1.5倍の数値である。通常の場合、歩行中のピッチは100回/分〜150回/分であり、走行中のピッチは150回/分〜200回/分である。したがって、150回/分という数値を境界として歩行状態か走行状態かの再確認に用いることができる。ステップST9において、基準波の周波数が150回/分以上であると判断した場合には、この基準波は、第3高調波成分に相当する信号と断定できる。このため、ステップST10において、この信号の周蓮を2/3倍し、2/3倍した値を、ステップST6において、ピッチとして確定する。
また、ステップST7において、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号がないと判断した場合には、ステップST8に進む。ステップST8において、基準波の周波数の2/3倍に相当する周波数を有し、かつ、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号があると判断した場合には、ステップST9に進む。ステップST9において、この基準波の周波数が150回/分以上であると判断した場合には、この基準波は歩行時の基本波に対する第3高調波であると確認できる。それ故、基準波は、第3高調波成分に相当する信号と断定できるから、ステップST10において、この信号の周波数を2/3倍し、この2/3した値をステップST6において、ピッチとして確定する。
ただし、ステップST9において、この基準波の周波数が150回/分未満の値であれば、基準波は、第3高調波成分に相当する信号でないと判断できる。したがって、この基準波の1/3倍、または2/3倍の周波数を有する信号はあくまでもノイズであり、基準波は、第2高調波成分であると判断できる。したがって、ステップST6において、この値をそのままピッチとして確定する。
このように、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数の位置に、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号がなく、かつ、基準波の周波数の2/3倍に相当する周波数の位置に、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号がない場合には、基準波を第2高調波であると判断する。
また、基準波の周波数の1/3倍に相当する周波数の位置に、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号が有り、あるいは、基準波の周波数の2/3倍に相当する周波数の位置に、基準波の振幅に対して1/2倍以上の振幅の信号が有る場合には、基準波の周波数が150回/分以上であると判断したときにはじめて、基準波は第3高調波であると判断する。
以上説明したように、第2実施形態にあっては、体動があると組織が振動し、これに応じて吸光特性が変動するという点に着目して、光学式センサによって体動信号Vtを計測するようにした。このため、機械的な加速度センサを用いる場合と比較して、装置の信頼性を高めるとともに構成を簡易なものにすることができる。また、どの方向に体動があっても組織は振動するので、本実施形態によるセンサユニット300は体動を総合的に検出している。したがって、加速度センサのように各軸に対応したものを各々設けなくとも、一つのセンサユニット300で体動を確実に検出することが可能である。
また、センサユニット300における体動信号Vtの計測に用いる波長領域を600nm以上に設定したので、検出信号中の脈動成分を充分抑圧することができ、良好なSN比の下で体動信号Vtを検出することができる。さらに、2個のフォトダイオード32,33によって外光の影響をキャンセルするようにしたので、屋外における運動中にも、正確な体動信号Vtを検出することができる。
B−4:第2実施形態の変形例
(1)上述した第2実施形態にあっては、指元で体動を検出したが、後述する第3実施形態と同様に、センサユニット300を時計ケース11の下側に内蔵し、手首の甲から体動信号Vtを検出するようにしてもよい。また、図25に示すセンサユニット300からフォトダイオード33を削除してもよい。この場合には、外光成分をキャンセルすることはできないが、計測に用いる波長領域を600nmに設定しているので、脈波成分の重畳がない体動信号Vtを得ることができる。
(2)また、第2実施形態においては、発光部であるLED310の発光特性を600nm以上の波長でピークを有するように設定し、受光部であるフォトダイオード32の分光感度特性を400nm〜800nmの範囲内に設定することにより、600nm以上の波長領域で計測できるようにした。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、発光部の照射光を400nm〜800nmの波長範囲内でエネルギーを有するように設定し、受光部の600nm以上の波長領域に分光感度特性を持つように設定してもよい。要は、計測に用いられる波長領域を600nm以上に設定すればよい。
また、図23からわかるように酸化ヘモグロビンHbO2の吸収光係数は600nmから900nmの間で特に減少している。したがって、計測に用いられる波長領域を600nmから900nmまでの範囲内に設定することが特に望ましい。なお、この場合に、フィルタを用いることによって、計測に用いられる波長領域を限定するようにしてもよい。
C.第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態に係わる生体情報計測装置について、図面を参照しつつ、説明する。この生体情報計測装置は、体動を除去した脈波信号に基づいて脈拍等の生体情報を計測するものである。
C−1.第3実施形態の構成
C−1−1:全体構成
図32は、第3実施形態に係わる生体情報計測装置の断面図である。図に示すように、生体情報計測装置は腕時計構造を有している。この例では、第1実施形態で説明したセンサユニット30に対応するセンサユニット301が、時計ケース11の裏面側に本体と一体になって形成されている。時計ケース11には、これを腕に装着するためのリストバンド12が構成されており、リストバンド12を手首に巻きつけて装着すると、時計ケース11の裏面側が手首の甲に密着する。時計ケース11の裏面側には、裏蓋154で固定される透明ガラス137が設けられている。透明ガラス137は、センサユニット301を保護する。また、透明ガラス137は、LED310,311の照射光、および、生体を介して得られる反射光を透過する。
時計ケース11の表面側には、現在時刻や日付に加えて、センサユニット301の検出結果に基づく脈拍数HRなどの生体情報も表示する液晶表示装置13が構成されている。また、時計ケース11の内部には、メイン基板151の上側にCPU等の各種IC回路が設けられており、これによってデータ処理回路501が構成される。また、メイン基板151の裏面側には電池152が設けられており、電池152から液晶表示装置13、メイン基板151およびセンサユニット301に電源が供給されるようになっている。メイン基板151とセンサユニット301とは、ヒートシール153によって接続されている。ヒートシール153に形成される配線によって、メイン基板151からセンサユニット301に電源が供給され、また、センサユニット301からメイン基板151に脈波信号Vmが供給される。データ処理回路501は、脈波信号VmにFFT処理を施し、その処理結果を解析することにより、脈拍数HRを算出している。なお、時計ケース11の外側面には、時刻合わせや表示モードの切換などを行うためのボタンスイッチ111,112(図示せず)が図1に示す脈波計測装置と同様に設けられている。
この生体情報計測装置のリストバンド12を手首に巻きつけて装着すると、時計ケース11の裏面側が手首の甲に向けられる。このため、LED310,311からの光が透明ガラス137を介して手首の甲に照射され、その反射光がフォトダイオード32,33に受光される。
C−1−2:センサユニット301の構成
次に、センサユニット301(反射型光検出装置)の構成例として2態様を説明する。
C−1−2−1:第1の態様
図33はセンサユニット301を裏面側から見た平面図である。図33において、LED310,311とフォトダイオード32,33が、回路基板36の裏面側に形成されており、その表面側には、OPアンプ34および回路素子35が形成されている(図32参照)。OPアンプ34と回路素子35は、フォトダイオード32,33の出力信号の差分を増幅する差分演算手段として機能する。なお、この点については後述する。
ここで、この例におけるフォトダイオード32,33の分光感度特性は、第1および第2実施形態と同様に図6に示すものとなる。また、LED310の発光特性も第2実施形態と同様に図24に示すものとなる。一方、LED311としては、図28に示す発光特性を有するものが用いられる。すなわち、LED31は、660nmをピーク波長として半値幅40nmの発光特性を有しており、一方、LED311は、525nmをピーク波長として半値幅40nmの発光特性を有している。ところで、600nm以上の波長領域では酸化ヘモグロビンHbO2による照射光の吸光がほとんど行われず、600nm未満の波長領域において酸化ヘモグロビンHbO2の吸光係数が増大する。また、酸化ヘモグロビンHbO2は血液流の脈動に従って移動するので、酸化ヘモグロビンHbO2による吸光特性の変動は脈波に対応する。一方、体動があると組織が振動するが、組織の吸光特性は、酸化ヘモグロビンHbO2のように600nm以上の波長領域で急激に低下することはない。したがって、600nm以上の波長の光を照射するLED310は体動検出用の発光部として、600nm未満の波長の光を照射するLED311は血液流検出用の発光部として用いられる。
また、この例におけるLED310,311とフォトダイオード32,33は、図33に示すように、直線上に配置されている。ここで、LED310の発光中心位置からフォトダイオード32の受光中心位置までの距離をL1、LED310の発光中心位置からフォトダイオード33の受光中心位置までの距離をL2、LED311の発光中心位置からフォトダイオード33の受光中心位置までの距離をL1’、LED311の発光中心位置からフォトダイオード32の受光中心位置までの距離をL2’とする。この場合、LED310,311とフォトダイオード32,33は、L1<L2かつL1’<L2’になるように配置される。すなわち、フォトダイオード33は、その受光中心位置からLED310の発光中心位置までの距離L2が、LED310の発光中心位置からフォトダイオード32の受光中心位置までの距離L1と異なるように配置され、かつ、距離L1’と距離L2’が異なるように配置される。これにより、LED310からフォトダイオード33までの光路長は、LED310からフォトダイオード32までの光路長と比較して長くなる。また、LED311からフォトダイオード32までの光路長は、LED311からフォトダイオード33までの光路長と比較して長くなる。
ところで、LED311からの照射光は、LED310からの照射光と同様に生体の組織によって吸収・散乱されるが、光路長がある程度長くなると、媒質である生体の組織によって照射光がほとんど吸収され、フォトダイオード32,33に反射光が入射しなくなる。この例において距離L1’は、組織の吸収・散乱が比較的少なくフォトダイオード33によって脈波が検出できるように選ばれており、一方、距離L2’はフォトダイオード32に反射光がほとんど入射しないように選ばれている。したがって、フォトダイオード32には、外光と体動による組織変動を反映した反射光が入射される。一方、フォトダイオード33には、外光と血液流に応じた反射光が入射される。この場合、体動があると、血液流は、組織や血管に圧迫され、そのありようが変動する。すなわち、フォトダイオード33に入射する反射光量の変動は、脈波成分に体動成分が重畳したものとなる。
ここで、フォトダイオード33に入射する外光の光量をPc、反射光の内、脈波に対応する光量をPm、体動に対応する光量をPt’とし、フォトダイオード32に入射する外光の照度をPc、反射光の照度(すなわち、体動に対応する照度)をPtとして、以下の説明を進める。なお、フォトダイオード32,33に各々入射する外光の光量をいずれもPcとしたのは、両フォトダイオード32,33が近接して配置されているので、組織を介して入力される外光の照度が等しくなるからである。
図33は脈波センサユニット301の電気的な構成を示すブロック図である。図に示すようにフォトダイオード33には電流i1が流れ、フォトダイオード32には電流i2が流れる。差分演算手段340は電流i1から電流i2を減算し、この差分に応じた電圧を脈波信号Vmとして出力する。なお、差分演算手段340は、例えば、図35に示すようなOPアンプと抵抗(回路素子)を用いた差動増幅器で実現することができる。
ここで、照度Pm,Pt,Pt’,Pcに対応する電流をim,it,it’,icとする。この場合、図34に示すi1,i2は、以下の式で与えられる。
i1=im+it’+ic
i2=it+ic
したがって、差分演算手段340から出力される脈波信号Vmは、以下の式で与えられる。ただし、kは電流電圧変換ゲインである。
Vm=k(i1−i2)
=k(im+it’−it)
すなわち、外光の照度Pcに応じた電流ic,−icは相殺される。また、体動成分に対応する電流はit’−itとなり、血液流中の体動成分と組織の体動成分が相殺され、imに比較してit’−itは極めて小さいものとなる。したがって、脈波信号Vmは以下の式のように近似できる。
Vm=k(im+it’−it)〜k・im
この結果、差分演算手段340の出力信号を体動が除去された脈波信号Vmとして取り扱うことができる。
なお、この例においては、差分演算手段340を図35に示すような差動増幅器で実現したが、フォトダイオード32,33の後段に各々増幅器を設けてフォトダイオード32,33の出力信号を増幅した後、AD変換器を介してデジタル信号に変換し、これらのデジタル信号をCPU等のデジタル信号処理回路で差分演算するようにしてもよい。この場合にも、上記した電流i1,i2の値に対応するデジタル信号間で差分演算が行われるので、脈波信号Vmに対応する脈波データを得ることができる。また、各デジタル信号のゲインをデジタル処理で調整することにより、体動成分を効果的に抑圧することができ、脈波データのSN比を高めることが可能となる。
C−1−2−2:第2の態様
第2の態様に係わるセンサユニット301の機械的な構成は、上述した図33に示すものと同様であり、この例においても、外光がキャンセルされるように距離L1,L2と距離L1’,L2’とが設定される。
図36は、第2の態様に係わるセンサユニット301の回路図である。同図が図25に示すセンサユニット300と相違するのは、LED311と抵抗351’が設けられた点と、フォトダイオード32とフォトダイオード33とを逆に配置した点である。
ここで、フォトダイオード33に流れる電流i1とフォトダイオード32に流れる電流i2の向きを図35に示すように取ると、i1は正、i2は負の値となる。ここで、点Yで結線を切断したときの接続点Xにおける電圧と電流の関係は、上述した図8に示したものとなる。すなわち、フォトダイオード33に入射する照度が増大すると電流i1は増加し、フォトダイオード32に入射する照度が増大すると電流i2は減少する。
ここで、照度Pm,Pt,Pt’,Pcに対応する電流をim,it,it’,icとする。この場合、図36に示すi1,i2は、以下の式で与えられる。
i1=im+it’+ic
i2=−it−ic
接続点Xにあっては、電流i1と電流i2が加算されるから、OPアンプ34に流れ込む電流i1+i2は、im+it’−itとなる。すなわち、外光の照度Pcに応じた電流ic,−icは相殺される。また、体動成分に対応する電流はit’−itとなり、血液流中の体動成分と組織の体動成分が相殺され、imに比較してit’−itは極めて小さいものとなる。したがって、脈波信号Vmは以下の式のように近似できる。
Vm=k(im+it’−it)〜k・im
この結果、OPアンプ34の出力信号を体動が除去された脈波信号Vmとして取り扱うことができる。
このように、センサユニット301では、酸化ヘモグロビンHbO2の吸光特性が600nmを境に急変する点に着目して、LED310とLED311の発光特性を各々体動成分検出用と血液流検出用に設定した。加えて、センサユニット301では、フォトダイオード33の検出信号からフォトダイオード32で検出される体動成分を差し引くようにしたので、体動成分の除去された脈波信号Vtを得ることができる。しかも、この差分を取る処理において、外光成分も同時にキャンセルされるので、SN比の良い脈波信号Vtを得ることができる。
C−1−3:データ処理回路501の構成
次に、データ処理回路501について図37を参照して説明する。なお、データ処理回路501は、第1実施形態のデータ処理回路50と同様に装置本体10に内蔵されている。また、データ処理回路501は、具体的には、CPU、CPUの作業領域として機能するRAM、および、上述した機能ブロックを実現するためのプログラムを格納したROM等によって構成される。
同図において、脈波信号変換部51は、センサユニット301からの脈波信号Vmをアナログ信号からデジタル信号に変換して脈波データMDとして出力する。記憶部53は、所定期間の脈波データMDを記憶する。脈波周波数解析部54は、記憶部53から読み出された脈波データMDに周波数解析を施して、脈波解析データMKDを生成する。周波数解析の手法としては、各種のものがあるが、この例にあっては短い演算時間で解析できるようにFFT(高速フーリエ変換)が用いられている。
次に、脈拍数演算部57は、脈波解析データMKDの各スペクトラム強度に基づいて、脈拍数HRを演算し、その演算結果を液晶表示装置13に出力する。脈拍数演算部57は、各スペクトル強度を比較して、スペクトル強度が最大になる周波数Fhを特定する。この周波数Fhは脈波信号Vmの基本波周波数であるから、脈拍数演算部57は、60Fhを演算することによって1分間当たりの脈拍回数である脈拍数HRを算出する。こうして算出された脈拍数HRは、液晶表示装置13に表示されるようになっている。なお、脈波信号VmのSN比が十分高い場合には、周波数解析によらず、単純に脈波信号Vmを波形整形し矩形波に変換して、当該矩形波の周期を求め、脈拍数HRを表示するようにしてもよい。
C−2.第3実施形態の動作
次に、第3実施形態に係わる生体情報計測装置の動作を説明する。始めに、被験者は、図32に示す腕時計形状をした生体情報計測装置をリストバンド12を用いて手首に巻きつけて装着する。そして、ランニング等の運動を屋外で行うと、手首の血管を流れる血液流に、例えば、腕の振り等に応じた体動成分が重畳する。
まず、センサユニット301においては、LED311から525nmをピーク波長とする光を手首の甲に向けて照射し、生体を介して得た反射光をフォトダイオード33で検出する。また、LED310から660nmをピーク波長とする光を手首の甲に向けて照射し、生体を介して得た反射光をフォトダイオード32で検出する。
ここで、660nmにピーク波長を有する光は、組織に吸収され易いが、血液流中の酸化ヘモグロビンHbO2にはほとんど吸収されない。したがって、フォトダイオード32で検出される電流は、体動に応じて動く組織の変動に対応するものとなる。一方、525nmをピーク波長とする光は、血液中の酸化ヘモグロビンHbO2によって吸収されやすい。このため、フォトダイオード33で検出される電流は、血液流の動きに対応したものになる。この場合、血液流にはその脈動に応じた脈波成分に、体動に応じた体動成分が重畳している。したがって、フォトダイオード32で検出される電流には、脈波成分に体動成分が重畳したものとなる。さらに、フォトダイオード32,33には外光が手首の組織を介して入来するので、フォトダイオード32,33の出力電流には、外光成分が重畳したものとなる。
この後、センサユニット301は、フォトダイオード33の出力電流とフォトダイオード32の出力電流の差分を演算し、その演算結果に基づいて脈波信号Vmを生成する。この差分演算によって体動成分と外光成分とがキャンセルされる。例えば、フォトダイオード33で検出される信号波形WF1とその周波数解析結果が図29に示すものであり、フォトダイオード32で検出される信号波形WF2とその周波数解析結果が図30に示すものであるとすると、センサユニット301から出力される脈波信号Vmの信号波形WF3とその周波数解析結果は図38に示すものとなる。これらの図を比較すると、脈波信号Vmに重畳している体動成分St1,St2は、図29に示すフォトダイオード33で検出される信号の体動成分St1,St2と比較してレベルが大幅に減衰していることが判る。このように、センサユニット301は、SN比が良好な脈波信号Vmを生成する。
次に、脈波信号Vmがデータ処理回路501に供給されると、脈波信号Vmは、脈波信号変換部51によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、脈波データMDが生成される。脈波データMDは、記憶部53に順次記憶され、所定のタイミングで読み出されて周波数解析部54に供給される。次に、脈波周波数解析部54が脈波データMDにFFT処理を施して、周波数解析を行い脈波解析データMKDを生成する。この後、脈拍数演算部57は、脈波解析データMKDの各スペクトルの中から最大のスペクトル強度を有するスペクトルを特定する。そして、脈拍数演算部57が当該スペクトル周波数Fhに基づいて、60Fhを演算することにより、脈拍数HRを算出すると、この脈拍数HRが液晶表示装置13に表示される。これによって、被験者は運動中であっても、体動が除去された脈波信号Vmに基づいて正確な脈拍数HRを知ることができる。この結果、ランニングのペースを自己管理することができるので、効果的なトレーニングを行うことができる。
このように、第3実施形態に係わる生体情報計測装置によれば、差分演算手段340によって、フォトダイオード32,33からの出力信号の差分を演算して体動成分を抑圧した脈波信号Vmを生成したので、従来の装置のように2系統のFFT処理を行わなくとも一系統のFFT処理で脈拍数HR等の生体情報を得ることができる。この結果、装置全体の構成を簡易にすることができ、また、CPU等の演算処理の負荷を軽減することができる。さらに、差分演算手段340による差分処理では、体動成分のみならず外光の影響も同時にキャンセルされるので、屋外における運動中にも脈拍数HR等を正確に計測することができる。
C−3.第3実施形態の変形例
(1)上述した第3実施形態にあって、センサユニット301を構成するLED310,311とフォトダイオード32,33の位置関係は、図33に示すように、直線状に配置したが、本発明はこれに限定されるものではなく、LED310からフォトダイオード32までの距離L1、LED310からフォトダイオード33までの距離L2が相違し、かつ距離L1’と距離L2’が相違すればどのような位置関係にあってもよい。例えば、図39に示すようにLED310とフォトダイオード32を結ぶ直線が、フォトダイオード32,33を結ぶ直線と直交し、LED311とフォトダイオード33を結ぶ直線が、フォトダイオード32,33を結ぶ直線と直交しするような配置であってもよい。
(2)上述した第3実施形態において、センサユニット301では、フォトダイオード32の検出電流とフォトダイオード33の検出電流の差分に基づいて脈波信号Vmを生成したが、この場合に、脈波成分に重畳する体動成分が正確にキャンセルされるように、フォトダイオード32で検出される検出電流のゲインを調整するようにしてもよい。例えば、図34に示す脈波センサユニット301中の差分演算手段340において、抵抗rの値を調整するようにすればよい。また、図36に示す脈波センサユニット301にあっては、抵抗351の値を調整して、体動に係わる照度Ptを可変するようにしてもよい。
D.第4実施形態
第3実施形態では、差分演算手段340を用いることにより、体動成分を抑圧した脈波信号Vmを生成した。そして、脈波信号VmにFFT処理を施して脈拍数HRを算出した。しかしながら、エアロビクスように腕の振りが不規則な運動で運動強度が大きくなると、体動成分を十分抑圧することができないことがある。そこで、第4実施形態の生体情報計測装置では、脈波信号Vmに自己相関演算を施すことによって、脈波信号Vmに含まれる不規則な体動成分を抑圧する。そして、脈波信号Vmの自己相関演算結果に基づいて、周波数解析を施すことによって、正確な脈拍数HRを算出している。
D−1:第4実施形態の構成
第4実施形態に係る生体情報計測装置は、第3実施形態のデータ処理回路501に自己相関演算部58を追加した点を除いて、第3実施形態の生体情報計測装置と同じである。図40は第4実施形態に係るデータ処理回路502のブロック図である。このデータ処理回路502は、記憶部53と脈波周波数解析部54との間に自己相関演算部58を有している。自己相関演算部58は、脈波データMDを入力サンプルデータとして後述する自己相関関数を演算し、自己相関脈波データMD’を生成する。
ここで、自己相関関数について説明する。脈波波形は、心臓の収縮によって大動脈に送り出される血液流が動脈を伝達される際の脈動を示すものである。このため、脈波波形は心臓の拍動に同期した一定の周期を有する。これに対して、不規則な体動は、周期性を有していない。自己相関関数は、周期性のある成分を強めることができる。したがって、不規則な体動成分と規則的な脈波成分とが含まれる脈波データMDに自己相関演算を施すと、体動成分を抑圧して脈波成分を強調することができる。
ここで、不規則変動をx(t)で表すものとし、x(t)に周期Tの周期変動があるならば、x(t)は以下に示す式で与えられる。
x(t)=x(t±nT) ただし、n=0,1,2,…
つまり、周期の整数倍だけずらすと元の波形と重なってしまう。不規則変動x(t)が周期性の強いものであるならば、周期の整数倍だけ時間軸をずらすと元の波形と似たものとなる。したがって、ある時間τだけずらした波形が元の波形とどれだけ似ているかを調べ、変動中の周期成分を判別するにはx(t)とx(t+τ)の相関を求めればよい。
自己相関関数は、時間に関する不規則変量をx(t)とするとき、τ時間隔たった二つの変動の積の平均値で定義され、次式で与えられる。
C(τ)=E[x(t)x(t+τ)]
ここで、Eはアンサンブル平均であるが、定常確立過程では時間平均で置き換えることができる。このため、自己相関関数C(τ)は、以下に示す式で表すことができる。
上記した式は、連続信号の自己相関関数C(τ)であるが、離散的データの自己相関関数は、以下の式で与えられる。
なお、X(j);j=1、2、…Nは、N個の有限サンプル値である。
上述した自己相関演算部58は、N個の脈波データMD(j)に対して、上記した式で定義される積和算演算を実行して、自己相関脈波データMD’を生成している。自己相関脈波データMD’は、脈波データMDと比較して、不規則な体動成分が抑圧され、脈波成分が強調されたものとなる。したがって、脈波周波数解析部54で生成される脈波解析データMKDのSN比を高くすることができる。この結果、脈拍数演算部57は、脈スペクトルの周波数を的確に判別し、正確な脈拍数HRを算出することができる。
D−2:第4実施形態の動作
第4実施形態に係る生体情報計測装置の動作は、自己相関演算動作を除いて上述した第3実施形態の動作と同じである。このため、自己相関演算部58の動作を比較例を参照して説明する。なお、以下の例では、不規則な体動の下、各センサユニットで計測を行った。
<比較例1>
まず、比較例1では、図5に示すセンサユニット30において、LED31として図28に示す発光波長特性を有するもの(発光中心波長が525nm)を使用した。図41は、比較例1におけるセンサユニット30の出力信号波形WF4とその周波数解析結果を示す図である。この場合、出力信号波形WF4には若干の周期性があるようにも見える。しかし、周波数解析結果を見ると、脈スペクトルSmのパワー値は、他のスペクトルのパワー値と同程度である。したがって、この構成では、不規則な体動があると、脈スペクトルSmの周波数を特定することができない。
<比較例2>
次に、比較例2では、図5に示すセンサユニット30において、LED31として図24に示す発光波長特性を有するもの(発光中心波長が660nm)を使用した。図42は、比較例2におけるセンサユニット30の出力信号波形WF5とその周波数解析結果を示す図である。この場合の波長領域は、660nmを中心とするものとなるので、出力信号波形WF5は体動成分を示すものとなる。
<比較例3>
次に、比較例3では、第3実施形態に係るセンサユニット300を用いた。図43は、比較例3におけるセンサユニット300の出力信号波形WF6とその周波数解析結果を示す図である。この場合は、センサユニット300において体動成分が抑圧される。このため、図43に示す出力信号波形WF6と図41に示す出力信号波形WF4とを比較すると、出力信号波形WF6の方が脈波成分が強調されているように見える。しかし、図43に示すように出力信号波形WF6の周波数解析結果を見ると、脈スペクトルSmと同程度のパワーを持つ他のスペクトルが存在する。したがって、この構成では、不規則な体動があると、脈スペクトルSmの周波数を特定することができない。
<実施例>
上述した比較例3に対して、実施例では、出力信号波形WF6を脈波データMDとして自己相関演算部58に取り込み、これに自己相関演算を施して自己相関脈波データMD’を生成した。図44は、実施例の自己相関脈波データMD’を示す波形WF7とその周波数解析結果を示す図である。この図に示す波形WF7から、自己相関演算を施すと体動成分が十分抑圧され、周期性のある脈波成分が強調されることが判る。この場合、波形WF7の周波数解析結果を見ると、脈スペクトルSmのパワー値は、他のスペクトルのパワー値と比較して最も大きい。したがって、この構成によれば、不規則な体動があっても、脈スペクトルSmの周波数を特定することが可能である。
このように、第4実施形態にあっては、自己相関演算を脈波データMDに施すことによって、不規則な体動成分を抑圧して、周期性のある脈波成分を強調することができる。この結果、より正確な脈拍数HRを脈拍数演算部57で算出することができる。
D−3.第4実施形態の変形例
上述した第4実施形態においては、自己相関演算部58によって、周期性のある脈波成分を強調する処理を行った。このため、自己相関脈波データMD’から脈拍数HRを直接算出するようにして、脈波周波数解析部54と脈拍数演算部57を省略するようにしてもよい。この場合には、自己相関脈波データMD’を基準レベルデータ(直流レベルに相当)と比較することによって、脈波周期を算出し、その算出結果に基づいて脈拍数HRを算出するようにすればよい。この生体情報計測装置は、周波数解析を行う必要がないので、処理速度が遅いCPUによって構成することができる。また、周波数解析に伴う処理負荷を削減できるので消費電力を削減できる。したがって、安価な携帯機器に好適である。
E.第5実施形態
第4実施形態においては、自己相関演算部58によって自己相関演算を実行するようにした。しかし、自己相関演算は積和算によって行われるため、演算負荷が重い。ところで、自己相関演算は、不規則な体動成分を抑圧して規則的な脈波成分を強調するために行われる。したがって、体動成分の周期性が強ければ、自己相関演算による体動成分の抑圧効果は少ない。そこで、第5実施形態においては、体動信号VtのSN比を算出し、この算出結果に基づいて自己相関演算を行うか否かを決定している。
E−1.データ処理回路503
図45は第5実施形態に係るデータ処理回路503のブロック図である。このデータ処理回路503に入力される脈波信号Vmは、例えば、第4実施形態で説明した比較例3のセンサユニット300により生成されたものである。一方、体動信号Vtは、例えば、第4実施形態で説明した比較例2のセンサユニット30により生成されたものである(LEDの発光中心波長が660nm)。
脈波信号Vmは、脈波信号変換部51によってデジタル信号に変換され、脈波データMDとなる。体動信号Vtは体動信号変換部52によってデジタル信号に変換され、体動データMDとなる。脈波データMDと体動データMDは記憶部53に記憶され、この後、所定のタイミングで読み出される。
SN比判定部59は、体動解析データTKDに基づいて、体動データのSN比を判定する。具体的には、まず、体動解析データTKDの各スペクトルのうち、最もレベルの高いスペクトルを特定する。次に、このスペクトルのSN比を算出する。次に、算出したSN比を予め定められた基準値と比較し、比較結果に基づいて制御信号CTLを生成する。ここで、各スペクトルのレベルをL1,L2,…Lnとし、この中で最も高いものをLmaxで表すものとする。この場合、SN比は、次式で与えられる。
ところで、上記した式では、2乗の演算をn回行う必要があるので、処理負荷が重い。そこで、以下に示す式にしたがって簡易的にSN比を算出するようにしてもよい。
仮に、被験者が、規則的な運動を行うものとすれば、規則的な体動が発生するから、SN比は高くなる。このような場合には、自己相関演算を行っても、体動成分の抑圧効果は小さい。一方、被験者が、不規則的な運動を行うものとすれば、不規則的な体動が発生するから、SN比は低くなる。このような場合には、自己相関演算による体動成分の抑圧効果が大きい。したがって、SN比に基づいて、自己相関演算を行うべきか否かの判断をすることができる。上述した基準値は、自己相関演算によって所望の効果が得られるように、定められている。この意味において、SN比判定部59は、体動の不規則性の度合いを検出し、この検出結果に基づいて自己相関演算を行うか否かを判定する判定手段として機能する。
SN比判定部59から出力される制御信号CTLは、自己相関演算部58とスイッチSWに供給される。自己相関演算部58は、制御信号CTLによって動作が制御される。これにより、自己相関演算部58は、SN比が高い場合には動作を停止し、一方、SN比が低い場合には自己相関演算を実行する。また、スイッチSWは、制御信号CTLに基づいて、脈波データMDと自己相関脈波データMD’のうちいずれか一方を選択する。スイッチSWは、SN比が高い場合に脈波データMDを出力し、SN比が低い場合に自己相関脈波データMD’を出力する。したがって、自己相関演算の効果が大きい場合にのみ、当該演算を実行することになる。
このように、第5実施形態によれば、体動信号VtのSN比(体動の不規則性の度合い)に基づいて、自己相関演算を行うようにしたので、CPUの演算負荷を削減できるとともに、消費電力を削減することができる。
E−2.第5実施形態の変形例
(1)第5実施形態においても、第4実施形態の変形例と同様に、自己相関脈波データMD’または脈波データMDから脈拍数HRを直接算出するようにして、脈波周波数解析部54と脈拍数演算部57を省略するようにしてもよい。
(2)また、解析対象データの不規則性(非定常性)が強い場合には、以下のようにして脈拍数HRを算出するしてもよい。まず、体動データTDと脈波データMDに各々自己相関演算を施して、自己相関体動データと自己相関脈波データMD’を各々生成する。次に、自己相関脈波データMD’と自己相関体動データの差分を算出する。次に、差分演算結果を周期解析あるいは周波数解析することにより、脈拍数HRを算出する。
(3)また、第5実施形態において、体動信号Vtは第1実施形態で説明した加速度センサ60によって検出されたものであってもよい。
F.第6実施形態
上述した、第3実施形態においては、脈波検出用と体動検出用のLED310,311を用いることによって、体動成分を除去した。第6実施形態にあっては、体動検出用のLED311を省略して、手首の甲から、脈波信号Vmを計測するものである。
図46は、本実施形態に係わる生体情報計測装置の断面図である。第6実施形態に係わる生体情報計測装置が、図32に示す第3実施形態の生体情報計測装置と相違するのは、センサユニット302において、LED311とフォトダイオード32が省略されている点、LED310の替わりにLED312が設けられている点、およびフィルタ138が設けられている点である。
ここで、フィルタ138は、LED312およびフォトダイオード32と透明ガラス37との間に設けられている。したがって、LED311のからの照射光はフィルタ138を介して手首の甲に照射され、また、生体の組織で反射された反射光がフィルタ138を介してフォトダイオード33に入射する。
ここで、フォトダイオード33の分光感度特性は、図6に示すように250nm〜850nmの波長領域で感度がある。また、LED312は、500nm〜600nmの波長の光を発光できるように設定されている。この場合、LED312は、例えば、図7に示す発光特性を有するものであってもよい。また、550nm〜650nmといったように、発光波長の一部が500nm〜600nmの範囲内にあるものであってもよい。
ここで、フィルタ138の透過特性は、LED311から、フォトダイオード33までの計測系において、計測に用いられる光の総合的な波長領域が、500nm〜600nmの範囲内となるように設定されている。例えば、LED312が550nm〜650nmの波長の光を発光するものであるとすれば、フィルタ138は、550nm〜600nmの波長範囲に通過帯域があり、600nm〜650nmの波長の光を十分減衰させる。
次に、センサユニット302の電気的な構成を示す回路図を図47に示す。この図において、LED312に電源+Vが供給されると、抵抗351’の値によって定まる電流がLED312に流れ、光が照射される。この照射光は、フィルタ138を介して手首の光に照射され、血液流中の酸化ヘモグロビンHbO2で吸収される。吸収を免れた光が生体の組織で反射される。反射光は、再びフィルタ138を介してフォトダイオード33に入射される。
フォトダイオード33のカソードは電源+Vに接続され、アノードはOPアンプ34の負入力端子に接続されている。また、OPアンプ34の正入力端子は接地されている。フォトダイオード33のアノードはグランドにイマジナリーショートされる。したがって、フォトダイオード33は、逆バイアスされ、光がそこに入射すると、光量に応じた電流が流れる。OPアンプ34と抵抗352は、フォトダイオード33からの電流を電圧に変換するとともに増幅する。したがって、OPアンプ34の出力信号は、入射光の光量に応じて変動する。
ところで、上述したように血液流中の酸化ヘモグロビンHbO2と生体の組織とでは、計測に用いられる光の波長によって光の吸収特性が異なる。したがって、脈波成分を検出するのに適した波長領域があると考えられる。そこで、本発明者らは、日本人を被験者として、計測に用いられる光の主波長(ピーク波長)を変更し、脈波成分を検出するのに適した波長領域を実験によって計測した。
この実験では、指元および手首の甲に本実施形態のセンサユニットを装着し、ランニングを想定しピッチ130の腕振り動作を行った。そして、検出された脈波信号Vmに周波数解析を施した。この場合、体動成分はピッチ130に対応するものとなるので、このことを利用して、周波数解析結果から脈成分と推定されるスペクトルおよび体動成分と推定されるスペクトルを特定し、その比を求めグラフに示したものが図48,48である。両図において、横軸は計測に用いた光の主波長であり、縦軸は脈成分の周波数スペクトルの高さと体動成分の周波数スペクトルの高さとの比(脈スペクトル高さ/体動スペクトル高さ:以下、MT比と称する)である。脈スペクトル高さが体動スペクトル高さと比較して高いほど、体動スペクトルを脈スペクトルであると誤検出することがなくなる。したがって、MT比が高ければ高いほど脈波の検出性に優れているといえる。
図48は指元の計測結果、図49は手首の甲の計測結果であり、いずれもおおむね波長600nmを境に脈波の検出に適した波長領域と体動の検出に適した波長領域とが分かれている。このことは、図23に示す酸化へモグロビンHbO2の分子吸収特性が600nmの波長を境に急変することと一致する。すなわち、600nm以上の波長領域では血液流中に存在する酸化ヘモグロビンHbO2よって照射光の吸収がほとんどないので、脈波信号VmのMT比が劣化する。一方、600nm以下の波長領域では酸化ヘモグロビンHbO2の吸光度が増大するから、脈波信号VmのMT比が大きくなる。
ここで、図48と図49を比較すると、手首の甲で計測した場合は、指元で計測した場合と比較して、500nm未満の波長領域でMT比が劣化していることが判る。これは、手首の甲の方が指元と比較して、皮膚のメラニン色素の量が多いことに起因する。すなわち、メラニン色素は、短い波長の光を反射散乱する性質があるため、波長が短くなると照射光が生体の内部に届きにくくなる傾向がある。したがって、照射光が生体の内部に流れる血液で吸収されにくくなるため、脈スペクトルのMT比が劣化する。なお、図48,49はピッチ130の条件における計測結果であるが、ピッチ強度を変えても図の相対的傾向は変わらない。
腕時計構造をした本実施形態の生体情報計測装置にあっては、手首の甲を脈波信号Vmの検出部位とするため、計測に用いる光の波長領域を500nm〜600nmの範囲内に設定している。上述した計測結果は日本人によるものであるが、白人種においても同様の結果が得られる。また、黒人種にあっては、メラニン色素の量が多いので、500nm〜600nmで計測することがより望ましい。こうして検出された脈波信号Vmがデータ処理回路501に供給されると、データ処理回路501は、第3実施形態と同様に、脈波信号Vmに基づいて脈拍数HRを演算して、これを液晶表示装置13に表示させる。
以上説明したように、本実施形態によれば、手首の甲において、脈波成分を検出するのに好適な500nm〜600nmの波長範囲内にある光を用いて、脈波信号Vmを計測したので、SN比が良好な脈波信号Vmを得ることができる。また、この脈波信号Vmを用いて、脈拍数HRを求めたので運動中にあっても正確な脈拍数HRが算出される。
上述した第6実施形態において、フィルタ138を用いること無く、発光部であるLED312として525nmの波長にピークを有するものを用い、受光部であるフォトダイオード33として400nm〜800nmに分光感度を持つものを使用することにより、計測に用いる主波長の領域を500nm〜600nmに設定するようにしてもよい。また、発光部の照射光を400nm〜800nmの波長範囲内でエネルギーを有するように設定し、受光部の分光感度を500nm〜600nmの波長範囲内に持たせるようにしてもよい。要は、計測に用いられる波長領域を500nm〜600nmに設定できるのであれば、どのような構成を適用してもよい。
また、上述した第6実施形態では手首の甲を検出部位とした。しかし、メラニン色素の量は手首の甲と手首の内側や腕の周りで大差はないので、生体情報計測装置の外観態様を適宜変更して手首の周りや腕の周りで脈波信号Vmを計測するようにしてもよい。
G.応用例
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。
(1)上述した第1実施形態、および第2〜第6実施形態にあって、各データ処理回路では、脈波解析データMKDに基づいて、脈拍数HRを算出したが、本発明はこれに限定されるものではなく、脈波解析データMKDの低域成分を解析して呼吸数を算出するようにしても良い。また、脈波解析データMKDに逆FFT処理を施し、その処理結果に基づいて、平脈、弦脈、滑脈といった脈象を特定するようにしてもよい。要は、データ処理回路は、脈波解析データMKDに基づいて、生体の状態を示す生体情報を生成する回路であれば如何なるものであってもよい。
(2)上述した第1実施形態では指元を脈波信号Vmの検出部位とし、第2〜第6実施形態にあっては、手首の甲を検出部位の一例として説明した。しかし、センサユニットの形態を適宜変更することによって、生体の皮膚であればどのような箇所であっても脈波信号Vmを検出できる。例えば、首の周り、耳朶、手首といった箇所を検出部位としてもよい。
(3)上述した各実施形態にあって、フォトダイオード32,33の分光感度特性は、その一例として図6に実線で示したものとして説明した。しかし、それらの分光感度特性は、同図中に点線で示すように約950nmがピーク波長であってもよい。一般に、300nm〜600nmの波長の光を検出光として用いると、皮膚から3mm程度内部の血液流を計測できることが知られている。これは、波長の短い光は生体の組織で吸収あるいは散乱され易いからである。したがって、検出光の波長範囲を300nm〜600nmにすると、外光のうち波長範囲が300nm〜600nmのものが生体の組織で吸収・散乱されるので、外光の影響を受けにくいものにすることができる。しかし、分光感度をこの範囲に制限した特殊な素子は高価である。これに対して、上述した実施形態で説明した分光感度特性や図6中に点線で示す特性を示すフォトダイオードは、安価で安定した特性を示す。上述した各実施形態においては、外光を相殺することができるから、検出光の波長範囲を300nm〜600nmに限定しなくとも、図6に実線あるいは点線で示す分光感度特性を有するフォトダイオードを用いて正確に脈波信号Vmを検出できる。
1・・・脈波計測装置、10・・・装置本体、11・・・時計ケース、12・・・リストバンド、13・・・液晶表示装置、20・・・ケーブル、30、300、301、302・・・センサユニット、30'、300'・・・比較センサユニット、31、32、310、310'、311、312・・・LED、34・・・OPアンプ、35・・・回路素子、36・・・回路基板、40・・・センサ固定用バンド、32、33・・・フォトダイオード、37・・・透明ガラス、38・・・上ケース、50、500、501、502、503・・・データ処理回路、51・・・脈波信号変換部、52・・・体動信号変換部、53・・・記憶部、54・・・脈波周波数解析部、55・・・体動周波数解析部、56・・・脈波成分抽出部、57・・・脈拍数演算部、58・・・自己相関演算部、59・・・SN比判定部、60・・・加速度センサ、111・・・ボタンスイッチ、137・・・透明ガラス、138・・・フィルタ、151・・・メイン基板、152・・・電池、153・・・ヒートシール、154・・・裏蓋、340・・・差分演算手段、351、352・・・抵抗、540・・・ピッチ演算部、541・・・信号特定部、542・・・第1波確認部、543・・・第2波確認部、544・・・信号判別部。