JP3966481B2 - 半透膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は原液中に造孔剤として加えられ、膜中に親水性付与成分として残存する親水性高分子の溶出を抑えた半透膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
慢性腎不全患者の血液処理法については理想として人腎に近づけるべく様々な透析方法・膜の性能向上技術が開発されてきた。中でも血液処理用の半透膜としては、天然素材であるセルロース、セルロース誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子膜素材であるポリスルホン、PMMA、ポリアクリロニトリルなどが幅広く使用されてきた。これらの膜素材の中で透析技術の進歩に最も合致したものとして透水性能が高いポリスルホンが注目されている。
【0003】
ポリスルホンは元来、熱可塑性の耐熱性エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気、医療用具の分野で幅広く用いられているものであるが、ポリスルホン単体で半透膜を作った場合、分子間凝集力が強く、また、疎水性のために血液との親和性に乏しく、エアーロック現象を起こしてしまうため、このまま血液処理用などに用いることはできない。従って、孔形成材として親水性高分子、無機塩などを混入し、脱離することによって孔を形作り、残った親水性成分で同時にポリマー表面を親水化し、これを半透膜、逆浸透膜として用いる方法が考案され用いられている。
【0004】
具体的な血液処理用の半透膜の製造方法としては、親水性高分子を入れて製膜する方法があり、特開昭61−232860、特開昭58−114702においてはポリエチレングリコール等の多価アルコールを入れて製膜を行う方法が記載されている。また、特公平5−54373、特公平6−75667ではポリビニルピロリドンを用いる製膜方法も開示されている。
【0005】
しかしながら、いずれにおいても膜中から親水性高分子の溶出の点で不十分なものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
透析が始まって約30年経たことから、最近長期透析による副作用、合併症が数多く報告されている。人体から見れば異物である親水性高分子の溶出を抑えることは長期透析時の体内蓄積を防ぎ、副作用を防止する観点から重要な技術である。
【0007】
本発明は、上記課題を達成することを目的とし、親水性高分子の溶出による問題のない半透膜を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために下記の事項からなる。
【0009】
「(1) 重量平均分子量で5倍以上分子量の異なる2種類以上の親水性高分子を含有し、分子量10万以上の親水性高分子の混和比率が1.8〜20重量%である原液を用いて製膜された、不溶化した疎水性高分子および親水性高分子を含んでなる半透膜であって、不溶化物の含有率が半透膜中1重量%以上、15重量%以下であり、不溶化物中の組成が、疎水性高分子に由来するものが15〜40重量%、親水性高分子に由来するものが85〜60重量%であり、かつ、親水性高分子の半透膜からの溶出が10ppm以下であることを特徴とする人工腎臓用半透膜。
・ 人工透析に用いられることを特徴とする(1)記載の人工腎臓用半透膜。」
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明において半透膜を形成するために用いられる原液には、疎水性高分子、親水性高分子、溶媒、および添加剤が含まれる。
【0011】
この中で疎水性高分子としてはポリスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニルエーテル、ポリフェニレンスルフィドなどほとんどのエンジニアリングプラスチックを用いることができるが、下記基本骨格を有するポリスルホンが、耐熱性、安全性の点で好ましく用いられる。下記基本骨格を有するポリスルホンにおいて、ベンゼン環部分を修飾したものも用いることができる。
【0012】
【化1】
親水性高分子としても、特に限定されることなく用いられるが、疎水性高分子と溶液中で目には見えないがミクロ相分離構造を形作るものが好ましく用いられ、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが具体的には用いられる。これらは、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。工業的に比較的入手しやすい点から、ポリビニルピロリドンが好ましく用いられる。
【0013】
ここで本発明においては、分子量が異なる2種類以上の親水性高分子を用いる。分子量分布については特にその比率において重量平均分子量で5倍以上異なるものを用いることが好ましい。
【0014】
溶媒については疎水性高分子、親水性高分子、添加剤のそれぞれを良く溶かす両性溶媒が用いられる。例えばジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトアルデヒド、2−メチルピロリドンなどであるが、危険性、安定性、毒性の面からジメチルアセトアミドが好ましい。添加剤としては、ポリスルホンの貧溶媒で親水性高分子と相溶性を持つものが用いられ、具体的にはアルコール、グリセリン、水、エステル類であるが、プロセス適性の面から特に水が好ましい。
【0015】
また、原液粘度は、市販されている疎水性高分子の分子量が低く、本発明においてもそれらを用いる場合には、親水性高分子の分子量に依存する。原液粘度が低い場合、製膜時、特に中空糸などにおける糸切れ、糸揺れなどを起こし安定性に欠ける。従って、親水性高分子の平均分子量は、高いことが好ましく、10万以上であることが好ましい。
【0016】
次に製膜原液のポリマー濃度について述べる。前述の点からポリマー濃度は上げるに従って製膜性は良くなるが逆に空孔率が減少し、透水性能が低下するため最適範囲が存在する。ゆえに一例を示すと、疎水性高分子の濃度は10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%、親水性高分子の濃度は2〜20重量%、好ましくは3〜15重量%である。さらに、前述の通り親水性高分子として、分子量が異なる2種以上の親水性高分子を用いることが好ましいが、原液中においては、分子量10万以上の親水性高分子の混和比率が1.8〜20重量%であることが好ましい。20重量%を越えると原液粘度が上昇し、製膜困難となるだけでなく、透水性、拡散性能が低下する傾向がある。逆に1.8重量%未満の場合、中高分子尿毒蛋白を透過させるためのネットワークが構築されない場合がある。
【0017】
本発明においては、疎水性高分子と親水性高分子を不溶化させるために、架橋することが必要である。架橋方法としては、限定されるものではなく、γ線、電子線、熱、化学的架橋などが用いられる。中でも、イニシエーターなどの残留物が残らず、材料浸透性が高い点でγ線架橋が好ましい。
【0018】
本発明においては、上記のとおり架橋することにより、疎水性高分子、親水性高分子を不溶化し、本発明の半透膜においては、親水性高分子の半透膜からの溶出が10ppm以下である。不溶化物としては、半透膜中、1〜15重量%含まれていることが好ましい。また、その不溶化物中の組成としては、疎水性高分子に由来するものが15〜40重量%、親水性高分子に由来するものが85〜60重量%であることが好ましい。本発明において「不溶化」とは、架橋後の膜におけるジメチルホルムアミドに対する溶解性をいう。さらに、本発明における半透膜中の不溶化物の含有率は、次の割合をいう。架橋後の膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解する。さらに遠心分離機で1500rpmで、10分間不溶物を分離し、上澄み液を捨てる。この操作を3回繰り返し、さらに純水100mlで洗浄、同様に遠心分離操作を3回繰り返し、残った固形物を蒸発乾固し、最後に真空ポンプで乾燥する。その不溶化物の重量の選択分離膜全重量に対する割合を含有率とした。
【0019】
本発明の半透膜の膜形態としては、特に限定されるものではなく、平膜、中空糸膜などの形態で用いられる。
【0020】
中空糸膜とする場合の製膜の一例を以下に示す。
【0021】
上記のような製膜原液を芯液と同時に2重スリット管構造の口金から同時に吐出させ、中空糸膜を成形する。その後、所定の水洗、保湿工程を経た後、巻き取られ、モジュール化される。その後、架橋を行う。架橋としても、脱気膜を通過した水でモジュールを洗浄し、γ線照射を行うと有効である。特に水充填でのγ線照射が好ましく、照射量は10〜50KGy、さらには20〜40KGy程度が好ましい。架橋処理により、親水性高分子の溶出が減少し、人工臓器基準に合格するだけでなく、強制溶出試験における親水性高分子の溶出確認でもピークが確認されない半透膜を得ることができる。尚、ここでいう溶出とはポリスルホンとポリビニルピロリドンの良溶媒である塩化メチレンに一定量の中空糸を分散・溶解させ次に一定量の水相(0.08M−トリス緩衝液(pH7.9))へ親水性成分であるポリビニルピロリドンを抽出し、その抽出液のポリビニルピロリドン濃度を言う。
【0022】
本発明の方法により作成された半透膜は、疎水性高分子膜の骨格を形作る疎水性高分子微粒子表面に存在する親水性ポリマーのネットワークによって、その尿毒物質の拡散、有用蛋白であるアルブミンの阻止などの血液処理膜としての性能を発揮することができ、親水性高分子の溶出が少ないという特徴を有する。
【0023】
本発明により、血液処理用途、バイオリアクター、医薬品濃縮などに好適に用いられる半透膜を提供することができ、具体的には、人工透析などの人工腎臓、エンドトキシン除去フィルターなどとして好適に用いられる。
【0024】
【実施例】
次に実施例に基づきに本発明を説明する。用いた測定法は以下の通りである。
【0025】
(1)透水性能の測定
中空糸両端部を封止したモジュール(面積 1.6m2)の中空糸内側に水圧100mmHgをかけ、外側へ流出してくる単位時間当たりの濾過量を測定した。透水性能は下記の式で算出した。
【0026】
ここでQW:濾過量(ml)、T:流出時間(hr)、P:圧力(mmHg)、A:膜面積(m2)(中空糸内表面面積換算)である。
【0027】
(2)アルブミン透過率の測定
血液槽に温度37℃で保温したヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの牛血(ヘパリン処理血)を用いて、中空糸内側にポンプで200ml/minで送った。その際、モジュール出口側の圧力を調整して、濾過量がモジュール面積1m2当たり20ml/min(すなわち1.6m2では32ml/min)かかるようにし、濾液、出口血液は血液槽に戻した。環流開始後1時間後に中空糸側入り口、出口の血液、濾液をサンプリングし、血液側をBCG法、濾液側をCBB法キット(和光純薬)によって分析し、その濃度からアルブミン透過率(%)を算出した。
【0028】
アルブミン透過率(%)=[(2×CF)/(CBi+CBo)]×100
ここでCF:濾液中、CBi:モジュール入り口、CBi:モジュール出口のアルブミン濃度である。
【0029】
(3)強制溶出試験における水層に移動した親水性高分子ポリビニルピロリドン濃度の測定。
【0030】
γ線照射後のモジュール(他社品は製品モジュール)を血液側から透析液側へ純水1リットルで洗浄し、モジュールから取り出した中空糸100mgを塩化メチレン5mlに溶解し(仕込量2重量/vol%)、0.08M−トリス緩衝液(pH7.9)5mlで抽出を行い、そのまま、得られた塩化メチレン−水溶液を超遠心機(20000rpm×10min)で分離し、水層を細孔径0.5ミクロンのフィルターで濾過を行いサンプル液とした。この溶液を温度23℃で東ソーTSK−gel−GMPWXL 2本直列につないだ理論段数(8900段×2カラムを用い、移動相として0.08M−トリス緩衝液(pH7.9)、流量 1.0ml/min、サンプル打ち込み量 0.3mlで分析を行った。9種の単分散ポリエチレングリコールを基準物質にして分子量較正を行い、標品のPVP(図1)のピーク面積−濃度検量線を作成し(図2)、サンプルのPVPピーク面積(図3)から水層(5ml)に移動したPVP濃度を求めた。
【0031】
(4)紡糸原液中のポリビニルピロリドンの重量平均分子量
紡糸原液中のポリビニルピロリドンの重量平均分子量はK値と光散乱法によって求めた重量平均分子量の相関曲線から換算した。BASF社の技術情報文献Kollidon :Polyvinylpyrrolidone for Pharmaceutical industry のFig.15から重量平均分子量とK値との関係において下記の式を用いて計算した。
【0032】
重量平均分子量(Mw)= exp1.055495×K2.871682
(5)元素分析法によるポリビニルピロリドンの含有率の測定
γ線照射後のサンプルを常温、真空ポンプで乾固させ、その10mgをCHNコーダーで分析し、窒素含有量からポリビニルピロリドンの含有率を計算した。
【0033】
(6)項で得られた不溶化物も同様に測定し、ポリビニルピロリドン組成含有率を計算した。
【0034】
(6)不溶物量の測定
γ線照射後の中空糸膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解した。遠心分離機で1500rpm10分で不溶物を分離し、上澄み液を捨てる。この操作を3回繰り返し、さらに純水100mlで洗浄、同様に遠心分離操作を3回繰り返し、残った固形物を蒸発乾固し、最後に真空ポンプで乾燥した。その重量から不溶物の含有率を求めた。
【0035】
実施例1
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)18部、ポリビニルピロリドン(BASF K90)3部、ポリビニルピロリドン(BASF K30)6部をジメチルアセトアミド72部、水1部に加え、加熱溶解し、製膜原液とした。原液粘度は30℃で70ポイズであった。この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、外径0.3mm、内径0.2mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド65部、水35部からなる溶液を吐出させ中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃の調湿250mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、80℃20秒の水洗工程、グリセリンによる保湿工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り束とした。この中空糸膜を1.6m2になるように、ケースに充填し、ポッティングしてモジュールとした。モジュール化後、脱気工程を経た、温水(37℃)でまず血液側を毎分200ml/minで1時間洗浄し、血液側を止め、次に透析液側を同様に洗浄し、最後に血液側から透析液側へ膜を透過させて同様に洗浄した。水充填のままγ線照射後(25KGy)、透水性能、アルブミン透過率を測定したところ透水性能1000ml/hr/m2/mmHg、アルブミン透過率1.5%であった。
【0036】
さらに、中空糸膜中のポリビニルピロリドン量を元素分析法により測定したところ6%であった。また、γ線照射後の中空糸の不溶物量を測定したところ9%であった。元素分析により不溶化物の組成を調べたところポリビニルピロリドン67%であった。強制溶出試験における中空糸膜から水層に移動したPVPの濃度を調べた結果、図3にあるようにピークが現れず検出されなかった。
【0037】
実施例2
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)18部、ポリビニルピロリドン(BASF K90)4部、ポリビニルピロリドン(BASF K30)5部をジメチルアセトアミド72部、水1部に加え、加熱溶解し製膜原液とした。原液粘度は30℃で120ポイズであった。実施例1と同様な工程を経てモジュール化した。γ線照射後、透水性能、アルブミン透過率を測定したところ透水性能 800ml/hr/m2/mmHg、アルブミン透過率2.0%であった。さらに、中空糸膜中のポリビニルピロリドン量を元素分析法により測定したところ9%であった。また、γ線照射後の中空糸の不溶物量を測定したところ11%となった。不溶化物の組成を調べたところポリビニルピロリドン82%であった。強制溶出試験における中空糸膜から水層に移動したPVPの濃度を調べた結果、実施例1と同様に検出されなかった。
【0039】
【発明の効果】
本発明により、親水性高分子の溶出による問題のない半透膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】標品である親水性高分子ポリビニルピロリドン(1000ppm)の溶出パターンを示す。
【図2】標品のPVPのピーク面積−濃度検量線を示す。
【図3】実施例1により得られた膜の親水性高分子ポリビニルピロリドン(1000ppm)の溶出パターンを示す。
Claims (5)
- 重量平均分子量で5倍以上分子量の異なる2種類以上の親水性高分子を含有し、分子量10万以上の親水性高分子の原液中における混和比率が1.8〜20重量%である原液を用いて製膜された、不溶化した疎水性高分子および親水性高分子を含んでなる半透膜であって、不溶化物の含有率が半透膜中1重量%以上、15重量%以下であり、不溶化物中の組成が、疎水性高分子に由来するものが15〜40重量%、親水性高分子に由来するものが85〜60重量%であり、かつ、親水性高分子の半透膜からの溶出が10ppm以下であることを特徴とする人工腎臓用半透膜。
- 疎水性高分子がポリスルホン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の人工腎臓用半透膜。
- 親水性高分子がポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1または2に記載の人工腎臓用半透膜。
- 人工透析に用いられることを特徴とする請求項1記載の人工腎臓用半透膜。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の半透膜を内蔵した人工腎臓。
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