JP3961841B2 - パイル布帛及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、再生セルロース系繊維を含む糸条を用いて構成されたパイル布帛及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロース系繊維は、ソフトな風合いを持ち、発色性に優れており、鮮明な色彩を呈するため、幅広い用途に供されている。一方、タオル、ベルベット、ベロア、カットパイル、ループパイル、フリースなどのパイル布帛としては、主に綿糸がパイル部に使用されている。綿糸をパイル部に使用した場合、膨潤と乾燥の繰り返しによるヘタリは見られないものの、色落ちや風合の粗硬化などにより、品位の低いものが多い。
【0003】
再生セルロース系繊維を含む糸条をパイル部に使用してパイル布帛を作製することもできるが、再生セルロース系繊維は、水による膨潤状態ではヘタリやすく、染色中あるいは製品を洗濯する際などの膨潤と乾燥の繰り返しにより、パイル部がヘタリ、膨らみ感がなく、扁平な製品となる。したがって、パイル布帛を作成するにあたり、パイル部に再生セルロース繊維を使用する事は、これまで非常に困難であった。
【0004】
また、セルロース系繊維の形態安定化もしくは形状記憶等について、高圧水蒸気処理に関する方法及び装置が提案されている。例えば、特開平5−33259号公報には、セルロースからなる繊維を高圧水蒸気で処理する方法であって、デニット加工糸やギア加工糸の形状を記憶処理する方法が記載されている。しかし、該方法により得られたものは、ヤーン単位でのクリンプ形状は保持されるが、高圧水蒸気による黄変などが見られ、白および淡色を主とする分野には適切とはいえない。
【0005】
従って、本発明が目的とするような、洗濯によるパイル部のヘタリが少なく、軽量感のあるパイル布帛は未だ得られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、洗濯等によるパイル部のヘタリが少なく、軽量感のあるパイル布帛及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、再生セルロース系繊維を用いたパイル布帛において、高圧処理を施して糸の形態を固定することにより、水による湿潤と乾燥を繰り返してもパイル部の形態を保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記の通りである。
【0009】
1.再生セルロース系繊維を含む糸条を用いて構成されたパイル布帛であって、洗濯前後の圧縮剛さ(LC)の変化率が80〜110%、圧縮回復率(RC)の保持率が85%以上であることを特徴とするパイル布帛。
【0010】
2.少なくともパイル部が、再生セルロース系繊維を含む糸条で構成されていることを特徴とする上記1記載のパイル布帛。
【0011】
3.高圧処理することを特徴とする上記1または2に記載のパイル布帛の製造方法。
【0012】
4.高圧処理した再生セルロース系繊維糸条を用いることを特徴とする上記1または2に記載のパイル布帛。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明において、再生セルロース系繊維としては、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックなどの再生セルロース繊維、及び該繊維を60wt%以上含むものが好ましい。再生セルロース系繊維が60wt%以上であると、再生セルロース系繊維特有の風合いが保持される。
【0015】
本発明に用いる再生セルロース系繊維の糸条としては、原糸、仮撚加工糸、インターレース混繊した後に仮撚加工した糸など、いずれのものであってもよい。
【0016】
また、本発明におけるパイル布帛とは、パイルタオル、ベルベット、ベロア、カットパイル、ループパイル、フリースなどの織編物であり、再生セルロース系繊維を含む糸条を、少なくともパイル部に用いることが好ましく、より好ましくは地組織及びパイル部に使用することである。
【0017】
本発明でいう圧縮剛さ(LC)および圧縮回復率(RC)とは、試験機として、カトーテック社製:KES−FB3 COMPRESSION TESTERを用い、圧縮面積2cm2、圧縮速度0.02mm/秒で圧力50g/cm2になるまで圧縮して測定した時の圧縮剛さ(LC)および圧縮回復率(RC)を示す。圧縮剛さは染色および洗濯後の変化率、圧縮回復率は染色および洗濯後の保持率で示される。
【0018】
本発明において、圧縮剛さはその変化率が、洗濯前に対し、80〜110%である。この範囲であるとパイルが起きている状態であり、また、パイル布帛の風合いが柔軟である。圧縮剛さの変化率は、次式により求めることができる。
【0019】
圧縮剛さの変化率(%)={(染色または洗濯後の圧縮剛さ)/(染色または洗濯前の圧縮剛さ)}×100
本発明において、圧縮回復率の保持率は、85%以上である。圧縮回復率の保持率が85%以上であると、洗濯後もパイルの形態が保持された状態となる。圧縮回復率の保持率は、次式により求めることができる。
【0020】
圧縮回復率の保持率(%)={(染色または洗濯後の圧縮回復率)/(染色または洗濯前の圧縮回復率)}×100
次に、本発明の製造方法について説明する。
【0021】
本発明の製造方法は、再生セルロース系繊維の糸条が高圧処理されることに特徴がある。高圧処理は、糸条の形態で行ってもよく、また、パイル布帛の形態で行ってもよい。
【0022】
本発明における高圧処理としては、次の3つの処理が挙げられ、この処理により再生セルロース繊維の結晶構造がCell−II構造からCell−IV構造へと変化することによって、膨潤度が低下し、さらに形態安定性が得られるようになる。
【0023】
(1)高圧水蒸気処理後、高圧熱水処理をする。
【0024】
(2)高圧熱水処理をする。
【0025】
(3)高圧熱水処理後、高圧水蒸気処理をする。
【0026】
上記の処理において、高圧とは、絶対圧力0.41〜1.23MPaが好ましい。この範囲であると、形態安定効果が十分で、強度低下や色相変化が生じない。温度は、圧力により一義的に決定されるが、通常、温度は160〜210℃が好ましい。また、処理時間は300〜1800秒が好ましい。処理温度、処理時間が上記の範囲であると、形態安定効果が十分で、強度低下や色相変化が生じない。
【0027】
なお、高圧水蒸気処理のみでは、処理糸または処理布帛に歪みが残り、安定な形態保持性が得られにくく、かつ黄変が発生する傾向がある。高圧熱水処理を行うことにより、高圧水蒸気処理で得られた形態保持性を更に高め、また高圧水蒸気処理で起こる黄変を取り除くことが出来る。
【0028】
高圧水蒸気処理の場合、従来公知の高圧釜装置を備えている装置で、糸条をチーズ状あるいはビーム状で処理できる装置であれば良く、例えば、特開平9−31830号公報に記載されている高圧釜等が挙げられる。高圧水蒸気処理においては、空気酸化を防ぐため、予め、釜内を真空にした後、過熱水蒸気を、チーズあるいはビームの内側から外側に向かって循環させて、所定の処理を行うことが好ましい。水蒸気の循環方向を内側から外側にすることにより、処理糸および処理布帛の処理時の安定化をはかることが出来る。
【0029】
高圧熱水処理の場合、従来公知の高圧釜装置を備えていて、チーズ染色あるいはビーム染色などができる装置であれば良い。高圧熱水処理においては、縦型処理機が好ましく、予め、加工糸を装填し、その中に水を投入した後、染色チーズあるいは染色ビームの内側から外側に向かって液循環させながら、所定の処理を行うのが好ましい。熱水の循環方向を内側から外側にすることにより、処理糸および処理布帛の処理時の安定化をはかることが出来る。
【0030】
本発明の製造方法において用いる染色ボビンは、チーズ染色およびビーム染色に用いる金属製のパラレル型染色ボビンで良く、スペーサーは金属製あるいはセラミック製のもので良い。
【0031】
高圧水蒸気処理、高圧熱水処理する時の糸条の形態は、巻密度を0.30〜0.45g/cm3にしたチーズ形態で処理することが好ましい。また、高圧水蒸気処理、高圧熱水処理する時の布帛の形態は、巻密度を0.26〜0.32g/cm3にしたビーム形態で処理することが好ましい
本発明でいうパイル布帛とは、起毛針を植え込んだベルトを多数本のロールに巻きつけて行う複式針金起毛機や、サンドペーパを巻いたロールで起毛するエメリー起毛機などで作製したカット起毛布帛、身体へのフィット性に優れ、スポーツ、カジュアル用途での動き易さの観点から伸縮性のある編地であるニットフリース、ニットスエード、また、前記の高圧処理により得られる糸条を地組織及びパイル部に用いて製織されるパイルタオル等が挙げられる。
【0032】
編み機としては、トリコット編み機、ラッセル編み機、丸編み機等、織機としては、エアージェット織機、ドビー織機、レピア織機等が使用できる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
【0034】
なお、洗濯はJIS L 1042記載の家庭用洗濯機法(G法)に基づいて実施した。また、物性の測定、評価は下記の方法で行った。
【0035】
(1)圧縮剛さ
作製したパイル布帛につき、染色または洗濯前後の圧縮剛さを測定し、その変化率で表した。
【0036】
なお、圧縮剛さ(LC)は、試験機としてカトーテック社製:KES−FB3COMPRESSION TESTERを用い、圧縮面積2cm2、圧縮速度0.02mm/秒で圧力50g/cm2になるまで圧縮して測定した。圧縮剛さは、染色および洗濯後の変化率で示した。
【0037】
圧縮剛さの変化率(%)={(染色または洗濯後の圧縮剛さ)/(染色または洗濯前の圧縮剛さ)}×100
(2)圧縮回復率の保持率
作製したパイル布帛につき、染色または洗濯前後の圧縮回復率を測定し、その保持率で表した。
【0038】
なお、圧縮回復率(RC)は、試験機としてカトーテック社製:KES−FB3 COMPRESSION TESTERを用い、圧縮面積2cm2、圧縮速度0.02mm/秒で圧力50g/cm2になるまで圧縮して測定した。圧縮回復率は、染色および洗濯後の保持率で示した。
【0039】
圧縮回復率の保持率(%)={(染色または洗濯後の圧縮回復率)/(染色または洗濯前の圧縮回復率)}×100
〔実施例1〕
キュプラアンモニウムレーヨン糸84dtex/45f(旭化成社製:ベンベルグ)をパイル部に用い、グランド部分にポリエステル・ウーリー糸84dtex/36fを使用し、28ゲージ、30インチ(76.2cm)の7mmシンカーパイル丸編物を作製した。
【0040】
この丸編物を、巻き密度0.28g/cm3で5m巻き上げ、スペーサーで固定し、縦型高圧釜にセットした。続いて、0.097〜0.1MPaの真空にした後、圧力0.97MPa、160℃で5分間、高圧水蒸気処理した。次に、水を投入し、加圧により脱泡した後、内側から外側に向けて、液循環させながら、圧力0.97MPa、温度160℃で10分間、高圧熱水処理し、加圧脱水後、80℃で60分間乾燥した。
【0041】
次いで、得られた布帛を、Kayalon Polyester Dark Brown A−S200(日本化薬株式会社製:分散染料)1%omf、ディスパーTL(明成化学株式会社製:分散剤)1g/リットルを使用して、温度130℃で30分の染色を実施し、乾燥させた後、起毛機にはカット針布を巻いた多数本ロールの起毛機を用い、パイル糸を片面、1回起毛した後、フリースと呼ばれる起毛布帛を作成した。
【0042】
〔比較例1〕
高圧水蒸気処理および熱水処理を行わなかったこと以外、実施例1と同様にして、分散染料で染色されたフリースと呼ばれる起毛布帛を作製した。
【0043】
〔実施例2〕
キュプラアンモニウムレーヨン糸84dtex/45f(旭化成社製:ベンベルグ)をパイル部に用い、グランド部分にポリエステル・ウーリー糸84dtex/36fを使用した28ゲージ、30インチ(76.2cm)の7mmシンカーパイル丸編物を作製した。
【0044】
この丸編物を、巻き密度0.28g/cm3で5m巻き上げ、スペーサーで固定し、縦型高圧釜にセットした。続いて、圧力0.97MPa、温度160℃の高圧熱水を投入し、内側から外側に向けて液循環させながら、10分間の高圧熱水処理を行い、加圧脱水後、80℃で60分間乾燥した。
【0045】
次いで、得られた布帛をKayalon Polyester Dark Brown A−S200(日本化薬株式会社製:分散染料)1%omf、ディスパーTL(明成化学株式会社製:分散剤)1g/リットルを使用して、温度130℃で30分の染色を実施し、乾燥させた後、起毛機にはカット針布を巻いた多数本ロールの起毛機を用い、パイル糸を片面、1回起毛した後、フリースと呼ばれる起毛布帛を作製した。
【0046】
〔実施例3〕
キュプラアンモニウムレーヨン糸84dtex/45f(旭化成社製:ベンベルグ)をパイル部に用い、グランド部分にポリエステル・ウーリー糸84dtex/36fを使用した28ゲージ、30インチ(76.2cm)の7mmシンカーパイル丸編物を作成した。
【0047】
この丸編物を、巻き密度0.28g/cm3で5m巻き上げ、スペーサーで固定し、縦型高圧釜にセットした。続いて、圧力0.97MPa、温度160℃の高圧熱水を投入し、内側から外側に向けて液循環させながら、10分間の高圧熱水処理を行った。次いで、0.097〜0.1MPaの真空にした後、圧力0.97MPa、160℃で5分間、高圧水蒸気処理し、加圧脱水後、80℃で60分間乾燥した。
【0048】
次いで、得られた布帛をKayalon Polyester Dark Brown A−S200(日本化薬株式会社製:分散染料)1%omf、ディスパーTL(明成化学株式会社製:分散剤) 1g/リットルを使用して、温度130℃で30分の染色を実施し、乾燥させた後、起毛機にはカット針布を巻いた多数本ロールの起毛機を用い、パイル糸を片面、1回起毛した後、フリースと呼ばれる起毛布帛を作製した。
【0049】
〔実施例4〕
キュプラアンモニウムレーヨン糸84dtex/45f(旭化成社製:ベンベルグ)を密度0.32g/cm3 で500g巻き上げ、スペーサーで固定し、縦型高圧釜にセットした。続いて、0.097〜0.1MPaの真空にした後、圧力0.97MPa、160℃で5分間、高圧蒸気処理した。次に水を投入し、加圧により脱泡した後、内側から外側に向けて、液循環させながら、圧力0.97MPa、温度160℃で10分間高圧熱水処理し、加圧脱水後、80℃で60分間乾燥した。
【0050】
この糸をパイル部に用い、グランド部分にポリエステル・ウーリー糸84dtex/36fを使用した28ゲージ、30インチ(76.2cm)の7mmシンカーパイル丸編物を作製した。
【0051】
次いで、得られた布帛をKayalon Polyester Dark Brown A−S200(日本化薬株式会社製:分散染料)1%omf、ディスパーTL(明成化学株式会社製:分散剤)1g/リットルを使用して、温度130℃で30分の染色を実施し、乾燥させた後、起毛機にはカット針布を巻いた多数本ロールの起毛機を用い、パイル糸を片面、1回起毛した後、フリースと呼ばれる起毛布帛を作製した。
【0052】
以上の実施例、比較例における測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、本発明のパイル布帛は、染色や洗濯を行っても硬くなりにくく、また圧縮回復性が低下しないために、パイル部のヘタリが少なく、軽量感を有するものであることが明らかである。
【0055】
【発明の効果】
本発明により、パイル部のヘタリが少なく、軽量感のあるパイル布帛が提供される。本発明のパイル布帛は、再生セルロース系繊維を含む糸条を用いて構成されているため、ソフトな風合いを持ち、発色性に優れており、鮮明な色彩を呈するため、婦人のアウター衣料等として有用である。
Claims (2)
- 絶対圧力0.41〜1.23MPaの条件で高圧熱水処理された再生セルロース系繊維を含む糸条を用いて構成されたパイル布帛であって、洗濯前後の圧縮剛さ(LC)の変化率が80〜110%、圧縮回復率(RC)の保持率が85%以上であることを特徴とするパイル布帛。
- 少なくともパイル部が、再生セルロース系繊維を含む糸条で構成されていることを特徴とする請求項1記載のパイル布帛。
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