JP3960386B2 - 高分子組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、振動エネルギー、音のエネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーを減衰する減衰性能を有する高分子組成物に関するものである。さらに詳しくは、例えば制振材料、吸音材料、衝撃吸収材料として、自動車、内装材、建材、家電機器等に適用される高分子組成物に関するものである。
従来より、この種の高分子組成物としては、母材にその双極子モーメント量を増大させる活性成分を配合したものが知られている(特許文献1参照)。こうした高分子組成物では、活性成分の配合によって、高分子組成物の損失正接(tanδ)の値が向上されている。この種の高分子組成物では、その損失正接の値が高いほど、振動エネルギー吸収性能、音のエネルギー吸収性能、衝撃エネルギー吸収性能等の減衰性能が高まることが知られている。
特許第3318593号公報
最近では、高分子組成物が適用される適用物(家電製品、自動車等)においては、軽量化を図るため、高分子組成物に対しても軽量化が望まれている。そのため、一層高い減衰性能が発揮される高分子組成物が望まれている。
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、減衰性能を容易に向上することができる高分子組成物を提供することにある。
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の高分子組成物は、熱可塑性高分子、膨潤性粘土鉱物、及びエネルギーを減衰する活性成分を含有する高分子組成物であって、該高分子組成物は、該組成物中の全成分の配合比率を100重量%とした場合に、前記熱可塑性高分子を20〜88重量%、前記膨潤性粘土鉱物を5〜75重量%、及び前記活性成分を1〜50重量%含有し、前記活性成分は、ベンゾチアジル基を有する化合物であり、前記膨潤性粘土鉱物は層状をなし、その層間に前記活性成分を挿入してなる層間複合体を含有することを要旨とする。
請求項2に記載の発明の高分子組成物では、請求項1に記載の発明において、前記活性成分を前記膨潤性粘土鉱物に吸着してなることを要旨とする
請求項に記載の発明の高分子組成物では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記膨潤性粘土鉱物が2〜300nmの微粒子状で分散してなることを要旨とする。
請求項に記載の発明の高分子組成物では、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発明において、前記熱可塑性高分子は、極性基を有することを要旨とする。
請求項に記載の発明の高分子組成物では、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発明において、前記膨潤性粘土鉱物はフィロ珪酸であることを要旨とする。
本発明の高分子組成物によれば、減衰性能を容易に向上することができる。
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における高分子組成物は、高分子母材、膨潤性粘土鉱物及び活性成分を含有する。高分子母材は熱可塑性高分子を主成分とする。活性成分は、振動エネルギー、音のエネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーを減衰する作用を高分子組成物に付与する。
熱可塑性高分子としては、ビニルポリマー、ビニルエステル誘導体、ポリオレフィン等が挙げられ、これらの熱可塑性高分子は単独で配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。ビニルポリマーとしては、ビニル化合物及びその誘導体を重合して得られるポリマーであって、ビニル化合物及びその誘導体が有する置換基としてはエポキシ、エチレンイミン、アミド基、ニトリル、ケトン、水酸基等が挙げられる。
ビニルエステル誘導体は、ビニルエステル化合物が重合して得られるポリマーであって、ビニルエステル化合物としてはアクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソプロピル等が挙げられる。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
熱可塑性高分子には、ビニル化合物、その誘導体、ビニルエステル化合物及びポリオレフィンから選ばれる複数を共重合して得られるポリマーも含む。その具体例としては、エチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/無水マレイン酸三元共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸三元共重合体、グリシジルメタアクリル酸変性ポリエチレン、グリシジルメタアクリル酸変性ポリプロピレン、アクリロニトリル変性ポリエチレン、エチレンイミン変性ポリエチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、ポリビニルメチルケトン、ポリメタクリル酸アミド等が挙げられる。これらの熱可塑性高分子の中でも、膨潤性粘土鉱物の分散性を向上するという観点から、ビニルエステル誘導体を含むポリマーが好ましい。
これらの熱可塑性高分子の中でも、膨潤性粘土鉱物の分散性を向上するという観点から、好ましくは極性基を有する熱可塑性高分子、より好ましくはエチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/無水マレイン酸三元共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸三元共重合体、グリシジルメタアクリル酸変性ポリエチレン及びグリシジルメタアクリル酸変性ポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
熱可塑性高分子を主成分とする高分子母材の主成分とは、高分子母材中における熱可塑性高分子の含有量が50重量%以上であることをいう。高分子組成物中の高分子母材の含有量は、好ましくは20〜95重量%、より好ましくは30〜85重量%、さらに好ましくは40〜70重量%である。この含有量が20重量%未満であると、高分子組成物の成形性が悪化するおそれがある。一方、95重量%を超えて配合すると他の成分を有効量配合させることができずに、十分な減衰性能が得られないおそれがある。
膨潤性粘土鉱物は、減衰性能を向上させるために配合される。膨潤性粘土鉱物としては、スメクタイト(モンモリロナイト)、バーミキュライト(蛭石)、テトラシリシックマイカ(膨潤性マイカ)等のフィロ珪酸が挙げられる。これらの膨潤性粘土鉱物の中でも、他の膨潤性粘土鉱物と比較して陽イオン交換容量(Cation−Exchange Capacity、CEC)が大きく、熱可塑性高分子中に分散し易いという観点から、テトラシリシックマイカ(TS)が好ましい。
ここで、高分子組成物に配合される膨潤性粘土鉱物は層状をなしている。層状の膨潤性粘土鉱物は、その層間にナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等のカチオンが存在するため、そのカチオンに水等の溶媒が配位すると、その溶媒の分子サイズ分だけ膨潤する。その膨潤性粘土鉱物は層間に存在するカチオンの電気的なバランスで層状構造を維持している。層間の電荷密度が高いものほど、多くのゲストを層間に配位することができる。例えば、テトラシリシックマイカの電荷密度は1.0、バーミキュライトの電荷密度は0.6〜0.7、スメクタイトの電荷密度は0.3である。この膨潤性粘土鉱物は、溶融状態の熱可塑性高分子中において、その高分子の吸着やその高分子に加わる剪断力によって、層間剥離が発生することにより、高分子中に分散する。そのため、高分子に対する膨潤性粘土鉱物の分散性は、膨潤性粘土鉱物の荷電量に依存する。その荷電量は、「粘土ハンドブック(第2版)、日本粘土学会編、技報堂出版(株)、1987年4月」に記載のCECが一般に知られている。このCECは、粘土鉱物100g当たりの陽イオン交換量を示している。このCECが大きいほど、層間距離が広がり易いことを示している。
高分子組成物中における膨潤性粘土鉱物の含有量は、好ましくは5〜75重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは15〜65重量%である。この含有量が5重量%未満であると、減衰性能が十分に得られないおそれがある。一方、75重量%を超えて配合すると、高分子組成物の成形性が悪化するおそれがある。
活性成分は、高分子母材中の双極子モーメント量を増大させるために配合される。活性成分の分子は高分子母材中において双極子として存在する。ここで、高分子組成物に外部から振動エネルギー、音のエネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーが伝播すると、双極子が回転したり、その位相がずれたりし、双極子に変位が生じる。変位が生じた双極子は、不安定な状態となるため、元の安定な状態に戻ろうとする。この双極子の復元作用によってエネルギーの消費が生じるため、高分子組成物には、活性成分によってエネルギーの減衰性能が付与されることになる。
活性成分としては、ベンゾチアジル基を有する化合物、ベンゾトリアゾール基を有する化合物、ジフェニルアクリレート基を有する化合物、ベンゾフェノン基を有する化合物等が挙げられる。ベンゾチアジル基を有する化合物としては、N,N−ジシクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(DCHBSA)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルスルフィド(MBTS)、N−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(CBS)、N−t−ブチルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(BBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(OBS)、N,N−ジイソプロピルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(DPBS)等が挙げられる。ベンゾトリアゾール基を有する化合物としては、ベンゼン環にアゾール基が結合したベンゾトリアゾールを母核とし、これにフェニル基が結合したものであって、2−[2′−ハイドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラハイドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール(2HPMMB)、2−(2′−ハイドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(2HMPB)、2−(2′−ハイドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(2HBMPCB)、2−(2′−ハイドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(2HDBPCB)、2−(2′−ハイドロキシ−5′−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(2HOPB)等が挙げられる。ジフェニルアクリレート基を有する化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(ECDPA)、オクチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(OCDPA)等が挙げられる。ベンゾフェノン基を有する化合物としては、2−ハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(HMBP)、2−ハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルフォニックアシド(HMBPS)等が挙げられる。
これらの活性成分の中でも、膨潤性粘土鉱物との相互作用が得られ易く、減衰性能を向上させ易いという観点から、好ましくはアミド系化合物である。アミド系化合物としてはDCHBSA、MBTS、CBS、BBS、OBS及びDPBSから選ばれる少なくとも一種である。
高分子組成物中における活性成分の含有量は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜40重量%である。この含有量が1重量%未満であると、高分子母材中の双極子モーメント量を増大させる作用が十分に得られないおそれがある。一方、この含有量が50重量%を超えると、活性成分が高分子母材に十分に相溶しない等の不具合が生じるおそれがある。
高分子組成物中の膨潤性粘土鉱物及び活性成分は、層間複合体を構成することが好ましい。層間複合体とは、膨潤性粘土鉱物の層間に活性成分が介在して構成される。層間複合体を構成することにより、膨潤性粘土鉱物と活性成分との相互作用が得られ、減衰性能が容易に向上される。
膨潤性粘土鉱物と活性成分との相互作用が得られ、減衰性能が容易に向上されることから、高分子組成物中の膨潤性粘土鉱物には活性成分が吸着していることが好ましい。膨潤性粘土鉱物に対する活性成分の吸着は、膨潤性粘土鉱物の電荷と、活性成分の電荷とによるイオン的な配位によって起こる。さらに、膨潤性粘土鉱物には、減衰性能が高まるという観点から、活性成分が一定方向に沿って配向して吸着(配向吸着)していることが好ましい。配向吸着は、活性成分が吸着した膨潤性粘土鉱物の誘電率測定によって確認される。すなわち、活性成分のみの誘電率を測定すると、活性成分には自由度があるため、理論誘電率の略1/3となる。一方、膨潤性粘土鉱物に吸着した活性成分の誘電率は、活性成分のみの誘電率の約2倍から3倍の値を示すようになる。よって、活性成分は、その双極子が一定方向に沿って配向して膨潤性粘土鉱物に吸着していることがわかる。
高分子組成物中の膨潤性粘土鉱物は、活性成分との相互作用及び熱可塑性高分子の分子鎖との相互作用が得られ易いことから、微粒子状で分散(微粒子状分散)していることが好ましく、分子状で分散(分子状分散)していることがさらに好ましい。
微粒子状分散とは、粒径2〜300nmの膨潤性粘土鉱物が分散していることをいう。この粒径が300nmを超える膨潤性粘土鉱物の分散では、熱可塑性高分子の分子鎖との相互作用が十分に得られないおそれがある。微粒子状分散を確認するには、まず高分子組成物を、例えば二軸押出機等によって一定方向に流動させて成形してサンプル成形体を得る。次に、このサンプル成形体を流動方向と直角にミクロトームで切片を切り出し、膨潤性粘土鉱物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する。膨潤性粘土鉱物は層状をなす積層体として観察され、その一層は約1nmであることがわかる。従って、積層体の断面における厚みが2〜300nmである場合、膨潤性粘土鉱物が微粒子状分散していることが確認される。
分子状分散とは、膨潤性粘土鉱物が一単位ユニット(一層)まで剥離分散した状態になることをいう。分子状分散は、膨潤性粘土鉱物のX線回折によって確認される。すなわち、膨潤性粘土鉱物が層状をなす積層体で存在しないため、X線回折測定を行うと、積層方向の回折が生じない。従って、d(001)の小角散乱ピークが消失することで確認することができる。また、分子状分散は、上記透過型電子顕微鏡(TEM)の観察によって、2nm以上の積層体が存在しないことからも確認することができる。
この高分子組成物には、その他の成分として、充填剤(但し、膨潤性粘土鉱物を除く)、難燃剤、腐食防止剤、着色剤、酸化防止剤、制電剤、安定剤、湿潤剤等を必要に応じて適宜配合することもできる。
この高分子組成物は、プレス機、押出機、T−ダイ、射出成形機等の成形機によって、シート状、ペレット状、ビーズ状、ブロック状等の各種形状に成形することができる。
この高分子組成物は、振動エネルギーを吸収する制振材料として、例えば自動車、内装材、建材、家電機器等に適用され、モータ等の被制振箇所に適用することができる。制振材料として利用する場合、高分子組成物をシート状に成形することにより、非拘束型制振シートとして利用することができる。この非拘束型制振シートは、適用箇所に貼り合わせることによって、制振シートの一側面が拘束されていない状態で使用される。
また、制振材料として利用する場合、高分子組成物をシート状に成形することにより得られる制振シートを制振層とし、同制振層の表面に制振層を拘束するための拘束層を貼り合わせることによって拘束型制振シートを得ることができる。拘束層としては、アルミニウム、鉛等の金属箔、ポリエチレン、ポリエステル等の合成樹脂から形成されるフィルム、不織布等が挙げられる。この拘束型制振シートは、制振層側を適用箇所に貼り合わせることによって制振層の両面が拘束されている状態で使用される。
この高分子組成物は、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収材料として、例えば靴、グローブ、各種防具、グリップ、ヘッドギア等のスポーツ用品、ギプス、マット、サポーター等の医療用品、壁材、床材、フェンス等の建材、各種緩衝材、各種内装材等に適用することができる。この減衰材料を衝撃吸収材料として利用する場合、減衰材料をシート状に成形することにより、衝撃吸収シートとして利用することができる。この衝撃吸収シートは、適用箇所に貼り合わせる等して使用される。
次に、高分子組成物の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態における高分子組成物の製造方法は、カチオン化工程、層間挿入工程、分散工程及び希釈工程を備えている。
カチオン化工程は活性成分をカチオン化処理する工程であって、カチオン化された活性成分は、その電荷によって膨潤性粘土鉱物の層間に容易に挿入されるようになる。カチオン化処理は、活性成分を無機酸によって接触させる。無機酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられ、好ましくは塩酸による処理である。このカチオン化処理により、活性成分は塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩となる。このカチオン化処理では、活性成分としてCBSを塩酸で処理することが好ましい。この場合、N−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド塩酸塩([CBS−H]+)が得られる。この[CBS−H]+は水溶性であるため、[CBS−H]+と層状の膨潤性粘土鉱物の層間に存在する陽イオンとのイオン交換によって、CBSを膨潤性粘土鉱物の層間に挿入することができる。
層間挿入工程は、層状の膨潤性粘土鉱物の層間に活性成分を挿入することにより層間複合体を得る工程である。層間挿入工程は、層間拡張処理と置換処理とを備える。
層間拡張処理は、層状の膨潤性粘土鉱物の層間にインターカーラントを挿入し、層間を拡張する処理である。膨潤性粘土鉱物の中でも、CECが大きく、層間が拡張し易いという観点から、テトラシリシックマイカが好ましい。
インターカーラントとしては、有機カチオン、プロトン性溶媒等が挙げられる。有機カチオンとしては、トリオクチルメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、トリラウリルメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルトルエチルアンモニウムイオン、フェニルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。プロトン性溶媒としては、アルコール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、水等が挙げられる。
これらのインターカーラントの中でも、層間を拡張する作用に優れるという観点から、プロトン性溶媒であることが好ましい。特に、カチオン化工程によって活性成分を水溶性にした場合は、プロトン性溶媒として水を用いることが好ましい。
置換処理は、インターカーラントと活性成分とを置換することにより、膨潤性粘土鉱物の層間に活性成分を挿入する処理である。具体的には、インターカーラントが挿入された膨潤性粘土鉱物に活性成分を滴下して活性成分の挿入反応を行う。この反応は発熱反応であるため、反応が開始に伴って発熱が観測される。
分散工程は、層間複合体を熱可塑性高分子に接触させるとともに熱可塑性高分子と混合することにより、層間複合体を熱可塑性高分子中に分散させる工程である。この分散工程では、層間複合体を構成する膨潤性粘度鉱物が微粒子状又は分子状になるまで分散することが好ましい。
希釈工程は、分散工程を実施した後に、熱可塑性高分子を配合して膨潤性粘土鉱物及び活性成分の濃度を調整する工程である。分散工程及び希釈工程では、ディゾルバー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、グレンミル、ニーダー等の公知の混合機を使用することが可能である。
さて、この高分子組成物を製造するには、まずカチオン化工程により、活性成分をカチオン化処理した後に層間挿入工程を実施する。層間挿入工程は層間拡張処理及び置換処理を備え、層間拡張処理によって膨潤性粘土鉱物の層間が拡張され、置換処理によって膨潤性粘土鉱物の層間に活性成分が挿入される。このとき、膨潤性粘土鉱物の層間が拡張されているため、活性成分はその層間に効率よく挿入される。またこのとき、活性成分はカチオン化処理が施されているため、膨潤性粘土鉱物の層間に存在するカチオンと速やかに置換される。従って、膨潤性粘土鉱物の層間に活性成分を容易に挿入することができるため、層間複合体を収率よく得ることができる。
続いて、分散工程によって、層間複合体を高分子母材中に分散する。このとき、膨潤性粘土鉱物は活性成分が吸着した状態で分散される。従って、活性成分と膨潤性粘土鉱物との相互作用を十分に得ることができ、減衰性能を十分に得ることができる。続いて、希釈工程によって、膨潤性粘土鉱物が分散した高分子母材をさらに熱可塑性高分子によって希釈して、高分子組成物を調製する。この希釈工程を実施することにより、膨潤性粘土鉱物及び活性成分を所定の濃度に調整することができるため、減衰性能を十分に得ることができる。また、分散工程で使用した熱可塑性高分子とは異なる熱可塑性高分子をブレンドすることが可能となり、減衰性能を発揮する温度範囲を広げることができる。
高分子組成物は、各種形状に成形され、適用個所に貼り合わせる等して使用される。このとき、高分子組成物は膨潤性粘土鉱物及び活性成分を含有している。この膨潤性粘土鉱物は、活性成分が双極子として作用する際に、その双極子及び高分子鎖の変位を拘束する作用を奏すると推測される。すなわち、膨潤性粘土鉱物は、介在している熱可塑性高分子にせん断変形を生じさせる作用があり、そのせん断変形によって振動エネルギー、音のエネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーを熱エネルギーに変換する作用が向上すると推測される。さらに、膨潤性粘土鉱物と活性成分との相互作用が得られるため、双極子として存在する活性成分が変位して不安定となった状態から元の安定な状態に戻ろうとする復元作用が向上すると考えられる。
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ この実施形態の高分子組成物では、高分子母材、膨潤性粘土鉱物及び活性成分を含有している。膨潤性粘土鉱物は、それに介在している熱可塑性高分子にせん断変形を生じさせる作用があり、そのせん断変形によって振動エネルギー、音のエネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーを熱エネルギーに変換する作用が向上すると推測される。さらに、膨潤性粘土鉱物と活性成分との相互作用が得られるため、双極子として存在する活性成分が変位して不安定となった状態から元の安定な状態に戻ろうとする復元作用が向上すると考えられる。従って、減衰性能を容易に向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、層間複合体を含有することが好ましい。このように構成した場合、膨潤性粘土鉱物と活性成分との相互作用が強められるため、減衰性能をさらに向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、膨潤性粘土鉱物に活性成分が吸着していることが好ましい。このように構成した場合、膨潤性粘土鉱物と活性成分との相互作用が強められるため、減衰性能をさらに向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、膨潤性粘土鉱物が分子状に分散していることが好ましい。このように構成した場合、熱可塑性高分子のせん断変形を生じさせる作用が強められるため、減衰性能をさらに向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、膨潤性粘土鉱物は2〜300nmの微粒子状で分散していることが好ましい。このように構成した場合、熱可塑性高分子のせん断変形を生じさせる作用が強められるため、減衰性能をさらに向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、熱可塑性高分子は、極性基を有することが好ましい。このように構成した場合、膨潤性粘土鉱物の分散性が高まり、熱可塑性高分子の分子鎖と膨潤性粘土鉱物との相互作用が強められるため、減衰性能をさらに向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、ビニルエステル誘導体を含むことが好ましい。このように構成した場合、膨潤性粘土鉱物の分散性が高まり、熱可塑性高分子の分子鎖と膨潤性粘土鉱物との相互作用が強められるため、減衰性能をさらに向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、活性成分は、ベンゾチアジル基を有する化合物、ベンゾトリアゾール基を有する化合物、ジフェニルアクリレート基を有する化合物及びベンゾフェノン基を有する化合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。このように構成した場合、減衰性能を向上することができる。
・ この実施形態の高分子組成物では、膨潤性粘土鉱物はフィロ珪酸であることが好ましい。このように構成した場合、活性成分との相互作用が十分に得られ、減衰性能を向上することができる。
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 前記層間拡張処理及び置換処理を実施せず、膨潤性粘土鉱物に直接活性成分を挿入してもよい。
・ 前記カチオン化処理を実施せず、未処理の活性成分を層間挿入工程に使用してもよい。
・ 前記希釈工程を備えずに、分散工程において膨潤性粘土鉱物及び活性成分の濃度を所定の濃度に調整してもよい。
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記熱可塑性高分子としてエチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体又はグラフト共重合体を含むとともに、前記活性成分としてアミド系化合物を含有する高分子組成物。この場合、熱可塑性高分子の分子鎖、膨潤性粘土鉱物及び活性成分の相互作用が得られ易く、減衰性能を一層容易に向上することができる。また、活性成分の配合量を低減しても、減衰性能を十分に発揮することができるため、活性成分の多量配合による成形時の不具合や経時的な不具合を低減することができるとともに、コスト削減に寄与することができる。
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
<熱可塑性樹脂の調製>
低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、ノバテック(登録商標)LF441、JIS K 6922−2に準拠するメルトフローレイト2.0g/10min、JIS K 6922−1に準拠する密度0.924g/cm2、ISO11357−3に準拠する融点113℃)とメタクリル酸グリシジルを原料とした。まず、低密度ポリエチレンを電子線照射装置(岩崎電機(株)製、EC250/15/180L)を用いて、照射線量50Mrad、1分間の条件で電子線照射を行うことによって、電子線照射低密度ポリエチレンを得た。この電子線照射低密度ポリエチレンには、固体ラジカルが発生しており、この固体ラジカルは常温で3ヶ月放置しても保存されるものである。電子線照射低密度ポリエチレン10kgに対し、メタクリル酸グリシジル53.3kg(375ミリモル)を添加し、密封ガラス容器中に入れた。この密封ガラス容器を熱風乾燥機によって、40℃、3時間の条件で加熱処理を施した。電子線照射低密度ポリエチレンとメタクリル酸グリシジルとの混合物(JIS K 6922−2に準拠するメルトフローレイト0.5g/10min)を単軸押出機(スクリュー径32mmφ、L/D=35、なおL/Dはスクリューの有効長さ(L)を直径(D)で割った値である)を用いて、ペレット化した。得られたペレットの赤外吸収スペクトルを測定すると、1620cm-1付近にカルボニルに基づく伸縮スペクトルが確認された。これにより、ポリエチレンとメタクリル酸グリシジルとがラジカル反応でグラフト化していることが同定され、エチレン/グリシジルメタアクリレートグラフト共重合体(g−GMA−PE)が得られたことが確認された。
次に、カチオン化工程、層間挿入工程及び分散工程について説明する。
<カチオン化工程>
活性成分としてN−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(CBS)687gに当モルの希塩酸を作用させることによって、N−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド塩酸塩([CBS−H]+)を調製した。この[CBS−H]+は水溶性を有している。得られたCBS−TSを10リットルの水に溶解し、[CBS−H]+の水溶液を調製した。
<層間挿入工程>
(層間拡張処理)
攪拌機を具備した容器(容量100リットル)に60リットルの純水及び膨潤性粘土鉱物としてのテトラシリシックマイカ(コープケミカル(株)製、ME100、CEC150meq/100g)3010gを投入した。純水及びテトラシリシックマイカの混合物を攪拌機によって、40℃、2時間の条件で攪拌することにより、テトラシリシックマイカに層間拡張処理を施した。
(置換処理)
層間拡張処理に続いて、テトラシリシックマイカと水との混合物に[CBS−H]を滴下して、テトラシリシックマイカの層間に存在するカチオンと[CBS−H]との置換を行った。沈殿したテトラシリシックマイカをろ過した後、乾燥することにより層間複合体(org−CBS−TS)を得た。層間複合体の収量は3230gであり、熱天秤法による重量減少から算出した[CBS−H]の含有量は、86g/100gであった。また、X線回折測定の小角散乱、d(100)により、層間複合体の層間距離を観測したところ、1.25nmであった。層間拡張処理前のテトラシリシックマイカの層間距離は同じ測定方法によって、0.96nmであることが確認されている。従って、テトラシリシックマイカの層間にCBSの分子が一層となって挿入されていることがわかる。従って、この層間複合体はテトラシリシックマイカの層間にCBSが双極子として規則的に配列していることが示唆される。
<分散工程>
g−GMA−PE(10.67kg)と、org−CBS−TS(3.2kg)とをタンブラーで混合した後、二軸押出機(池貝(株)製、PCM32、スクリュー径32mmφ、L/D=38)を用いて、230℃でペレット化することにより、g−GMA−PEにorg−CBS−TSを分散した。得られた高分子組成物の収量は12.5kgであり、高分子組成物中における膨潤性粘土鉱物の含有量は、30重量%であった。この高分子組成物をマスターバッチ(MB−1)とした。
<希釈工程>
MB−1(4kg)とg−GMA−PE(4kg)とをタンブラーで混合した後、上記分散工程と同じ二軸押出機を用いて、190℃でペレット化することにより、高分子組成物を得た。
(実施例2)
熱可塑性高分子を表1に示す配合とした以外は実施例1と同様に高分子組成物を調製した。
(実施例3)
熱可塑性高分子としてMB−1をそのまま使用し、希釈工程を省略した以外は実施例1と同様に高分子組成物を調製した。
(実施例4)
実施例1におけるg−GMA−PEの代わりにエチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体(PE/GMA、住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)E、JIS K 6922−2に準拠するメルトフローレイト3g/min、グリシジルメタアクリレートの共重合度12重量%)を熱可塑性高分子として使用し、希釈工程を省略した以外は、実施例1と同様に高分子組成物を調製した。
(実施例5)
実施例1におけるg−GMA−PEの代わりにエチレン/グリシジルメタアクリレート/酢酸ビニル三元共重合体(/GMA/VA、住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)2B、JIS K 6922−2に準拠するメルトフローレイト3g/min、グリシジルメタアクリレートの共重合度12重量%、酢酸ビニル5重量%)を熱可塑性高分子として使用し、希釈工程を省略した以外は、実施例1と同様に高分子組成物を調製した。
(実施例6)
MB−1をEVAで希釈する希釈工程を実施した以外は、実施例1と同様に高分子組成物を調製した。
(比較例1)
テトラシリシックマイカに制振活性物質でないジメチル・ジオクタデシルアンモニウムクロリドを層間に挿入した層間複合体を用いた以外は、実施例1と同様に高分子組成物を調製した。
(比較例2)
膨潤性粘土鉱物を配合せずに、g−GMA−PEにCBSを配合して高分子組成物を調製した。
各実施例における熱可塑性樹脂の組成を表1に示す。また、高分子組成物中における各成分の含有量を表2に示す。
(比較例3〜7)
熱可塑性高分子単体をブランクとした。EVA、g−GMA−PE、PE/GMA、/GMA/VA、PE、及びg−GMA−PE/EVAブレンドを順に比較例3〜7とした。
Figure 0003960386
各例の高分子組成物中における各成分の含有量を表2に示す。表2中のTSはテトラシリシックマイカ、[CBS−H]+はN−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド塩酸塩を示している。
Figure 0003960386
<分散性の評価方法>
各例で得られた高分子組成物を用いて、プレス機により厚さ1mmのシートを成形した。実施例1〜6及び比較例1、2のシートを用いて、クライオ付ミクロトームによって、切片を切り出した。シートを切り出す際には、成形時における高分子組成物の流動方向と直角に切り出した。この切片の透過型電子顕微鏡による観察から、膨潤性粘土鉱物の厚みを確認した。
<減衰性能の評価方法>
各例で得られた高分子組成物を用いて、プレス機により厚さ1mmのシートを成形した。シートの損失正接のピーク値及びピーク温度を動的粘弾性測定装置(RSA−II:レオメトリック社製)を用いて測定した。測定条件は、加振の周波数10Hz、昇温速度5℃/minとした。損失正接のピーク値及びピーク温度を表3に示す。なお、各実施例における損失正接の倍率は、熱可塑性高分子単体の損失正接を1とした場合の倍率を示す。
Figure 0003960386
実施例1〜6では、熱可塑性高分子単体における損失正接の1.5倍以上の値となり、減衰性能が向上していることがわかる。また、実施例1〜6では、透過型電子顕微鏡の観察から膨潤性粘土鉱物の厚みが2〜300nmの微粒子状であることが確認され、熱可塑性高分子の分子鎖、膨潤性粘土鉱物及び活性成分の相互作用が十分に得られていることが示唆される。
これに対し、比較例1では、膨潤性粘土鉱物は微粒子状に分散しているが、活性成分を含有していないため、損失正接のピーク値は熱可塑性高分子単体における損失正接のピーク値と同等であった。また、比較例2では膨潤性粘土鉱物を含有していないため、損失正接のピーク値は熱可塑性高分子単体における損失正接のピーク値と同等であった。

Claims (5)

  1. 熱可塑性高分子、膨潤性粘土鉱物、及びエネルギーを減衰する活性成分を含有する高分子組成物であって、
    該高分子組成物は、
    該組成物中の全成分の配合比率を100重量%とした場合に、前記熱可塑性高分子を20〜88重量%、前記膨潤性粘土鉱物を5〜75重量%、及び前記活性成分を1〜50重量%含有し、
    前記活性成分は、ベンゾチアジル基を有する化合物であり、
    前記膨潤性粘土鉱物は層状をなし、その層間に前記活性成分を挿入してなる層間複合体を含有することを特徴とする高分子組成物。
  2. 前記活性成分を前記膨潤性粘土鉱物に吸着してなる請求項1に記載の高分子組成物。
  3. 前記膨潤性粘土鉱物が2〜300nmの微粒子状で分散してなる請求項1又は請求項2に記載の高分子組成物。
  4. 前記熱可塑性高分子は、極性基を有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子組成物。
  5. 前記膨潤性粘土鉱物はフィロ珪酸である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高分子組成物。
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