JP3959768B2 - 塗装前処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車車体等の外観、防錆機能に高い性能を求められる被塗物の塗装前処理方法に関し、詳しくは、化成処理工程後に被塗物に付着する化成スラッジや鉄分等の良好な除去をなし得る塗装前処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体の塗装工程は、通常、電着塗装による下塗り塗装工程と、それぞれ腫として静電塗装による中塗り及び上塗り塗装工程とを有しており、これらの塗装がなされる自動車車体は、塗装工程に搬入される前に、予め前処理工程において所定の処理がなされる。この前処理工程は、車体に付着している油類を除去すると共に鋼板面に化学的に安定な無機質膜を形成させることにより、鋼板面を不活性化し防錆力を与えると共に鋼板と塗膜との付着性を助けるための工程であって、車体に付着した油分を除去するための脱脂工程と、被塗物に化成処理膜を形成する化成処理工程と、これらの工程が終了した後に車体を洗浄する洗浄工程とを有している。このことは、例えば自動車工学全書第19巻「自動車の製造方法」、昭和55年4月20日、株式会社山海堂発行、第202〜208頁 “塗装整備”の項目の中で紹介されている。
【0003】
図4は、従来の自動車車体塗装における前処理工程の一般的な順序を示すフロー図である。
【0004】
図4に示すように従来の前処理工程においては、被塗物である自動車車体に対し、予備洗浄(1)→予備脱脂(2)→本脱脂(3)→洗浄(4)→表面調整 (5)→化成処理(6)→洗浄(7)→オーブン乾燥(8)という順で処理を行ない、次いで下塗り塗装工程である電着塗装工程(9)へと前処理した車体を搬送している。
【0005】
前記化成処理工程(6)は、通常ディップ式の化成処理槽を有しており、この処理槽内に車体をどぶ付けした後に、洗浄工程(7)へと送られ、シャワー方式を主体とする複数の洗浄装置によって洗浄され、最終的に純水にて洗浄され、化成処理槽内において車体に付着した化成スラッジや鉄分等が除去されている。
【0006】
また、特開平6−99115号公報には、化成処理工程後の洗浄工程における洗浄液を高圧にて吹付けることによって、化成スラッジおよび鉄分の効率的な除去を行なうことが提唱されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、化成処理工程(6)の後に設けられた洗浄工程のみでは、車体への化成スラッジの付着を完全には防止できず、電着塗装後の表面粗度が、例えばRa 0.3μm以上と悪く、上塗り塗装後の外観仕上りの阻害要因となっている。
【0008】
特開平6−99115号公報に示されるように高圧洗浄を行なうことにより確かに化成スラッジの除去効率はかなり向上するものの、今だ完全なものではなく改善が望まれていた。
【0009】
従って、本発明は改良された塗装前処理方法を提供することを目的とするものである。本発明はさらに、高度な仕上り外観、防錆機能を付与することができる塗装前処理方法を提供することを目的とする。本発明はさらに、化成処理工程において被塗物表面に付着した化成スラッジの効率的な除去が可能である塗装前処理方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の塗装前処理方法は、化成処理工程を少なくとも有する被塗物の塗装前処理方法であって、前記化成処理後被塗物に塗装を行なうまでの間に、被塗物の少なくとも一部表面に物理的に接触することにより化成スラッジを除去するスラッジ除去工程を有し、
前記スラッジ除去工程が、少なくとも化成処理工程後に被塗物の洗浄工程および乾燥工程を経た後に行なわれるものであり、
前記乾燥工程を経た後に行なわれるスラッジ除去工程における物理的な接触が、ワイプ方法により行なわれるものであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の塗装前処理方法の一実施態様において、前記被塗物が自動車車体である場合、前記スラッジ除去工程における物理的な接触が自動車車体の略水平面に対して行なわれるものであることが望ましい。
【0012】
さらに本発明の塗装前処理方法において、前記スラッジ除去工程は、化成処理工程後に被塗物の洗浄工程および乾燥工程を経た後に行なわれるものであることが望ましい。
【0013】
また本発明の塗装前処理方法において、前記スラッジ除去工程における物理的な接触は、例えば、ワイプ、ブラッシング等によって行うことができる。
【0014】
さらに本発明の塗装前処理方法において、前記スラッジ除去工程における物理的な接触は、ワニスガーゼ、ブラシ、サンディングペーパー等を用いて行なうことができる。
【0015】
さらに本発明の塗装前処理方法において、前記スラッジ除去工程における物理的な接触は手動式または自動式のいずれによっても行なうことができるものである。
【0016】
【作用】
このように本発明の塗装前処理方法においては、化成処理後被塗物に塗装を行なうまでの間に、被塗物の少なくとも一部表面に対し、物理的な接触によって化成スラッジを除去するスラッジ除去工程を設けたものであるために、被塗物に化成処理工程において付着した化成スラッジのうち、洗浄工程においても除去できなかったものであっても、確実にかつほぼ完全に除去され得、後の塗装工程における塗装品質が大幅に向上するものである。
【0017】
例えば、被塗物が自動車車体である場合において、化成処理工程において化成スラッジが付着しやすい略水平部位に対し物理的接触による化成スラッジの除去を行なうと、これら略水平部位における電着塗装後の表面粗度が向上(例えばRa 0.2μm程度)し、上塗り塗装後の外観仕上りも向上するものである。
【0018】
また、前記スラッジ除去工程が、化成処理工程後に被塗物の洗浄工程および乾燥工程を経た後に行なわれるものであると、乾式で除去作業が行なえるために作業性も良好となる。
【0019】
またスラッジ除去工程における物理的な接触が、ワイプおよびブラッシングの少なくともいずれかの方法により行なわれるものであり、ワニスガーゼ、ブラシおよびサンディングペーパーの少なくともいずれかを用いて行なわれるものであるとより良好なスラッジ除去が可能となる。
【0020】
前記スラッジ除去工程における物理的な接触が手動式において行なわれるものであると、特別な追加設備を必要とせず既存の設備において、塗膜品質の向上を図ることができ、一方、前記スラッジ除去工程における物理的な接触が自動式において行なわれるものであっても既存の設備にわずかに改良を加えるのみで作業効率よく塗膜品質の向上を図ることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施態様に基づきより詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の塗装前処理方法の一実施態様における工程順を示す図面である。
【0023】
本発明の塗装前処理方法は、化成処理工程後被塗物に塗装を行なうまでの間に物理的な接触による化成スラッジ除去塗装工程を設けた以外は、従来行なわれている塗装前処理方法と実質的に同様の処理を行なうものである。
【0024】
すなわち、自動車車体の塗装における前処理工程への本発明の適用を例にとると、図1に示すように、自動車車体に対し、例えば、予備洗浄(1)→予備脱脂(2)→本脱脂(3)→洗浄(4)→表面調整(5)→化成処理(6)→洗浄 (7)→オーブン乾燥(8)→スラッジの物理的接触除去(8a)という順で処理を行ない、次いで下塗り塗装工程である電着塗装工程(9)へと前処理した車体を搬送すれば良く、この場合、前記(8a)の工程を有する以外は、図4に示した従来法における前処理方法と同様である。
【0025】
もちろん、本発明の塗装前処理方法は、図1に示したような実施態様に何ら限定されるものではなく、化成処理後被塗物に塗装を行なうまでの間に、被塗物の少なくとも一部表面に対し、物理的な接触によって化成スラッジを除去するスラッジ除去工程を設けたものである限り、その他の工程の有無等については任意である。
【0026】
例えば、化成処理(6)、洗浄(7)の後にオーブン乾燥(8)工程がない場合にあっては、洗浄(7)工程における最終工程である純水洗浄の後に、スラッジの物理的接触除去(8a)を設けることが可能である。
【0027】
本発明において、このような物理的接触による被塗物からのスラッジの除去は、被塗物表面の少なくとも一部に対して行なわれれば良いが、化成処理(6)において被塗物が化成処理槽に浸漬された際に、化成処理槽内に存在する化成スラッジが付着しやすい、被塗物の略水平面、例えば被塗物が自動車車体である場合には、フード部、ルーフ部およびトランクリッド部といった部位を対象として、あるいは該略水平面を少なくとも含んで行なうことが望ましい。なお、図3は被塗物が自動車車体である場合における物理的接触がなされる部位の一例を示すものである。被塗物が自動車車体である場合においては、高い塗装品質が求められるのは車体外板部であるので、図示するようにフード部、ルーフ部およびトランクリッド部といった略水平面部に加えて、ドアパネル部、フェンダー部といった側面部において物理的接触によるスラッジ除去を行うことが望ましい。なお、図3において影を付した部位が、物理的接触を行う部分を表すものである。
【0028】
しかして本発明に係るスラッジの物理的接触除去(8a)工程における物理的な接触方法としては、被塗物表面に付着した化成スラッジを有効に除去できるものである限り得に限定されるわけではないが、具体的には、例えば、ワイプ、ブラッシング等の方法が挙げられ、これらを併用することも可能である。また物理的接触手段としても特に限定されるものではないが、例えば、ワニスガーゼ、ブラシ、サンディングペーパー等を単独であるいは複数組合せて使用することができる。なお、このような物理的接触除去における操作条件としては、使用する接触手段、接触方法、あるいは被接触面の態様(例えば水平面であるか垂直面であるか、湿潤状態にあるか乾燥状態にあるか等)によって左右されるため一概には規定できず、これらの点を考慮して適宜設定すれば良い。
【0029】
さらに、例えば、前記スラッジ除去工程における物理的な接触は、手動式によって行なうことも当然可能であるが、自動車車体の搬送路上に自動式のワイプ装置、ブラッシング装置等を設置し自動式によって行なうことも可能である。
【0030】
自動式のワイプ装置としては、例えば、図2に示すように、ワニスガーゼ等の拭取布10を例えば弾性的ないしは変動自在に支持体11に支持して自動車車体12に接触させ、支持体11を駆動手段によって揺動させることによりスラッジを除去する構成の揺動式のものが好ましく例示できる。
【0031】
しかしながら、このような揺動式のものに限られず、各種のものを用いることができ、これ以外にも例えば回転ブラシ方式のもの等を用いることが可能である。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0033】
実施例
自動車車体の塗装前処理として、図1に示すような手順に従い、予備洗浄(1)→予備脱脂(2)→本脱脂(3)→洗浄(4)→表面調整(5)→化成処理(6)→洗浄(7)→オーブン乾燥(8)→スラッジの物理的接触除去(8a)という順で処理を行ない、その後電着塗装(9)を行なった。なお、スラッジの物理的接触除去(8a)は、図2に示すような自動ワイプ装置において、400番目のサンディングペーパーを接触材として用い、略水平面部に対しては面圧8.5gf/cm2 、側面部に対しては面圧7.5gf/cm2 の押圧力で当接するように調整し、接触回数を2〜3回として行なった。
【0034】
そして前処理後の車体の表面粗度Ra、電着塗装後の表面粗度Raおよび光沢度(60°グロス値)を測定した。得られた結果を表1に示す。なお、表1に示すそれぞれの値は、3つの異なる車体形状の車体をそれぞれ3台づつ実験に供した結果得られた各測定値の平均値である。
【0035】
比較例
比較のために、スラッジの物理的接触除去(8a)工程を行なわない以外は実施例と同様に塗装前処理(1)〜(8)を行ない、その後電着塗装を行なった。そして用いて、実施例の場合と同様に前処理後の車体の表面粗度Ra、電着塗装後の表面粗度Raおよび光沢度(60°グロス値)を測定した。得られた結果を表1に示す。なお、表1に示すそれぞれの値は、実施例と同様の3つの異なる車体形状の車体をそれぞれ3台づつ実験に供した結果得られた各測定値の平均値である。
【0036】
【表1】
Figure 0003959768
【0037】
表1に示す結果から明らかなように、スラッジの物理的接触除去を行なった本発明の実施例の場合、化成処理工程において付着した化成スラッジが十分に除去されたことにより、物理的接触除去を行なわなかった場合と比較して、電着塗装後の表面粗度、光沢度がいずれも向上している。さらに、本発明者らの実験したところによれば、上塗り塗装後の外観仕上りも向上するという結果が得られた。
【0038】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の塗装前処理法によれば、化成処理の際に被塗物表面に付着した化成スラッジを有効に除去することができ、その後に塗装を行なった場合における塗膜の平滑性を向上させることができる。このため、塗装仕上り外観が向上し塗装品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わる前処理工程の一実施例における順序を示すフロー図である。
【図2】 本発明に係る塗装前処理方法において用いられる研磨装置の一例を示す模式図である。
【図3】 本発明に係る塗装前処理方法において物理的接触除去を行う部位の一例を示す図面であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図4】 従来の自動車車体塗装における前処理工程の一般的な順序を示すフロー図である。
【符号の説明】
10…拭取布、
11…支持体、
12…自動車車体。

Claims (5)

  1. 化成処理工程を少なくとも有する被塗物の塗装前処理方法であって、前記化成処理後被塗物に塗装を行なうまでの間に、被塗物の少なくとも一部表面に物理的に接触することにより化成スラッジを除去するスラッジ除去工程を有し、
    前記スラッジ除去工程が、少なくとも化成処理工程後に被塗物の洗浄工程および乾燥工程を経た後に行なわれるものであり、
    前記乾燥工程を経た後に行なわれるスラッジ除去工程における物理的な接触が、ワイプ方法により行なわれるものであることを特徴とする塗装前処理方法。
  2. 前記被塗物が自動車車体であって、前記スラッジ除去工程における物理的な接触が自動車車体の略水平面に対して行なわれるものである請求項1に記載の塗装前処理方法。
  3. 前記乾燥工程を経た後に行なわれるスラッジ除去工程における物理的な接触が、ワニスガーゼおよびサンディングペーパーの少なくともいずれかを用いて行なわれるものである請求項1または2に記載の塗装前処理方法。
  4. 前記スラッジ除去工程における物理的な接触が手動式において行なわれるものである請求項1〜のいずれか1つに記載の塗装前処理方法。
  5. 前記スラッジ除去工程における物理的な接触が自動式において行なわれるものである請求項1〜のいずれか1つに記載の塗装前処理方法。
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