本発明の実施の形態について、図1〜図24を参照して説明する。図1は変速機の構成図、図2は変速機のシフト/セレクト機構の詳細図、図3は変速機の作動説明図、図4は図1に示した制御装置の構成図、図5は図4に示したシフトコントローラのブロック図、図6はシフト動作時におけるシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図7は図4に示したセレクトコントローラのブロック図、図8はモデルパラメータの同定処理方法に関する仮想プラントのブロック図、図9はセレクト動作時におけるシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図10は変速機の動特性が異なる場合のセレクト動作時におけるシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図11はマニュアル変速機におけるシフト動作の説明図、図12はマニュアル変速機におけるシフト動作時のシフトアームの変位を示したグラフ、図13は自動マニュアル変速機におけるシフト動作の説明図、図14は応答指定パラメータの変更による外乱抑制能力の変化を示したグラフ、図15は自動マニュアル変速機において応答指定パラメータを変更したときのシフト動作の説明図、図16はシフト動作時におけるシフトアームの変位と応答指定パラメータの設定を示したグラフ、図17は自動マニュアル変速機におけるセレクト動作の説明図である。
また、図18は制御装置のメインフローチャート、図19は変速機制御のフローチャート、図20,図21は変速操作のフローチャート、図22はシフト/セレクト操作のフローチャート、図23,図24は回転同期動作時目標値算出のフローチャート、図25はクラッチ制御のフローチャート、図26はクラッチ滑り率コントローラのブロック図、図27は滑り率制御のフローチャートである。
図1を参照して、変速機80は車両に搭載されて、エンジン81の出力をクラッチ82と連結ギヤ90を介して伝達するものである。そして、連結ギヤ90はディファレンシャル93のギヤ91と噛合い、これによりエンジン81の出力が駆動軸92を介して駆動輪94に伝達される。
変速機80は、マイクロコンピュータやメモリ等により構成された電子ユニットである制御装置1(本発明の変速機の制御装置に相当する)によりその作動が制御され、制御装置1は、アクセルペダル95、燃料供給制御ユニット96、チェンジレバー97、クラッチペダル98、及びブレーキペダル99の状態に応じて、セレクト用モータ12(本発明のセレクト用アクチュエータに相当する)、シフト用モータ13、及びクラッチ用アクチュエータ16を駆動することによって、変速機80の変速動作を制御する。
変速機80は、入力軸5、出力軸4、前進1〜6速ギヤ対7a〜7f及び9a〜9f、後進ギヤ軸84及び後進ギヤ列83,85,86を備えている。ここで、入力軸5、出力軸4、及び後進ギヤ軸84は、互いに平行に配置されている。
前進1〜6速ギヤ対7a〜7f及び9a〜9fは、互いに異なるギヤ比に設定されている。そして、入力側前進1速ギヤ7aと入力側前進2速ギヤ7bは入力軸5と一体に設けられており、対応する出力側前進1速ギヤ9aと出力側前進2速ギヤ9bは出力軸4に対して回転自在なアイドルギヤで構成されている。そして、1・2速用同期機構2aにより、出力側前進1速ギヤ9aと出力側前進2速ギヤ9bを選択的に出力軸4に接続した状態(変速確立状態)と、双方のギヤ9a,9bを共に出力軸4から遮断した状態(ニュートラル状態)とに切換えられる。
また、入力側前進3速ギヤ7cと入力側前進4速ギヤ7dは、入力軸5に対して回転自在のアイドルギヤで構成され、対応する出力側前進3速ギヤ9cと出力側前進4速ギヤ9dは、出力軸4と一体に設けられている。そして、3・4速用同期機構2bにより、入力側前進3速ギヤ7cと入力側前進4速ギヤ7dを選択的に入力軸5に接続した状態(変速確立状態)と、双方のギヤ7c,7dを共に入力軸5から遮断した状態(ニュートラル状態)とに切換えられる。
同様に、入力側前進5速ギヤ7eと入力側前進6速ギヤ7fは、入力軸5に対して回転自在のアイドルギヤで構成され、対応する出力側前進5速ギヤ9eと出力側前進6速ギヤ7fは、出力軸4と一体に設けられている。そして、5・6速用同期機構2cにより、入力側前進5速ギヤ7eと入力側前進6速ギヤ7fを選択的に入力軸5に接続した状態(変速確立状態)と、双方のギヤ7e,7fを共に入力軸5から遮断した状態(ニュートラル状態)とに切換えられる。
また、後進ギヤ列83,85,86は、後進ギヤ軸84に取り付けられた第1後進ギヤ85と、入力軸5と一体に設けられた第2後進ギヤ83と、出力軸4の1・2速用同期機構2aと一体の第3後進ギヤ86とにより構成されている。そして、第1後進ギヤ85は、スプライン嵌め合いにより後進ギヤ軸84に取り付けられている。これにより、第1後進ギヤ85は後進ギヤ軸84と一体に回転すると共に、第2後進ギヤ83と第3後進ギヤ86の双方と噛合う位置と、これらとの噛合いが解除される位置(ニュートラル位置)との間で、後進ギヤ軸84の軸線方向に摺動自在となっている。
そして、各同期機構2a,2b,2c及び第1後進ギヤ85には、シフトフォーク10a,10b,10c,10dがそれぞれ接続され、各シフトフォークの先端に設けられたシフトピース(図2参照)が、シフトアーム11と選択的に係合される。シフトアーム11はセレクト用モータ12により回転し、各シフトフォークはシフトアーム11が回転する円弧方向(セレクト方向)にほぼ直線的に並列して設けられている。そして、シフトアーム11は、各シフトピースと係合する位置に、選択的に位置決めされる。
また、シフトアーム11はいずれかのシフトピースと係合した状態で、シフト用モータ13により入力軸5と平行な軸方向(シフト方向)に移動する。そして、シフトアーム11は、ニュートラル位置と各変速段の確立位置(シフト位置)とに位置決めされる。
次に、図2(a)は図1に示した同期機構2bの構成を示したものである。なお、同期機構2cの構成は同期機構2bと同様である。また、同期機構2aは出力軸4に設けられている点で同期機構2b,2cと相違するが、基本的な構成と作動内容は共通する。
同期機構2bには、入力軸5と一体に回転するカップリングスリーブ22(本発明の第1の係合部材に相当する)、カップリングスリーブ22と入力側前進3速ギヤ7c(本発明の第2の係合部材に相当する)の間の入力軸5に回転自在且つ入力軸5の軸方向(シフト方向に相当する)に移動自在に設けられたシンクロナイザリング23a(本発明の同期部材に相当する)、カップリングスリーブ22と入力側前進4速ギヤ7d(本発明の第2の係合部材に相当する)の間の入力軸5に回転自在且つ入力軸5の軸方向に移動自在に設けられたシンクロナイザリング23b(本発明の同期部材に相当する)、及びカップリングスリーブ22と接続されたシフトフォーク10bが備えられている。
そして、シフトフォーク10bの先端に固定されたシフトピース21が、シフト/セレクト軸20に固定されたシフトアーム11と係合する。シフト/セレクト軸20は、セレクト用モータ12の作動に応じて回転する(セレクト動作)と共に、シフト用モータ13の作動に応じて軸方向に移動する(シフト動作)。セレクト動作によりシフトアーム11をシフトピース21と係合させた状態で、シフト動作することにより、カップリングスリーブ22が、ニュートラル位置から入力側前進3速ギヤ7cの方向(3速選択時)又は入力側前進4速ギヤ7dの方向(4速選択時)に変位する。
カップリングスリーブ22の両端は中空構造となっており、中空部の内周面にスプライン30a,30bが形成されている。そして、シンクロナイザリング23aの外周面にカップリングスリーブ22のスプライン30aと係合可能なスプライン31aが形成され、入力側前進3速ギヤ7cのシンクロナイザリング23aと対向する部分の外周面にもカップリングスリーブ22のスプライン30aと係合可能なスプライン32aが形成されている。
同様に、シンクロナイザリング23bの外周面にカップリングスリーブ22のスプライン30bと係合可能なスプライン31bが形成され、入力側前進4速ギヤ7dのシンクロナイザリング23bと対向する部分の外周面にもカップリングスリーブ22のスプライン30bと係合可能なスプライン32bが形成されている。
そして、入力軸5と共に回転したカップリングスリーブ22をシフトフォーク10bにより入力側3速前進ギヤ7cの方向に移動すると、カップリングスリーブ22とシンクロナイザリング23aが接触し、さらにシンクロナイザリング23aと入力側前進3速ギヤ7cも接触する状態となる。このとき、接触により生じる摩擦力により、シンクロナイザリング23aを介してカップリングスリーブ22と入力側前進3速ギヤ7cの回転数が同期する。
このように、カップリングスリーブ22と入力側前進3速ギヤ7cの回転数が同期した状態で、カップリングスリーブ22をさらに入力側3速ギヤ7cの方向に移動させると、カップリングスリーブ22に形成されたスプライン30aが、シンクロナイザリング23aに形成されたスプライン31aを通過して入力側前進3速ギヤ7cに形成されたスプライン32aと係合する。そして、これにより、入力軸5と出力軸4間で動力が伝達される状態(変速確立状態)となる。
同様にして、入力軸5と共に回転したカップリングスリーブ22をシフトフォーク10bにより入力側前進4速ギヤ7dの方向に移動すると、シンクロナイザリング23bを介してカップリングスリーブ22と入力側前進4速ギヤ7dの回転数が同期する。そして、カップリングスリーブ22に形成されたスプライン30bが、シンクロナイザリング23bに形成されたスプライン31bを通過して入力側前進4速ギヤ7dに形成されたスプライン32bと係合する。
図2(b)は、シフトアーム11側から、直線的に配置されたシフトピース21a,21b,21c,21dを見た図であり、セレクト動作時においては、シフトアーム11は図中Psl方向(セレクト方向)に移動して、1・2速選択位置Psl_12、3・4速選択位置Psl_34、5・6速選択位置Psl_56、リバース(後退)選択位置Psl_rのいずれかに位置決めされて、シフトピース21a,21b,21c,21dのいずれかと係合する。また、シフト動作時においては、シフトアーム11は図中Psc方向(シフト方向)に移動して、変速段(1〜6速、リバース)が確立される。
図3は、2速の変速段が確立された状態から3速の変速段を確立するときのシフトアーム11の動作を説明したもので、(a)→(b)→(c)→(d)の順でシフトアーム11の位置決め処理が実行される。(a)は2速の変速段が確立された状態であり、シフトアーム11はシフトピース21aと係合している。そして、シフトアーム11のセレクト方向位置Pslは1・2速選択位置Psl_12に位置決めされ、シフトアーム11のシフト位置方向位置P_scは1速シフト位置Psc_1に位置決めされている。
(b)では、シフトアーム11のシフト方向位置Pscをニュートラル位置0としてセレクト動作が可能な状態とし、(c)でセレクト動作によりシフトアーム11を3・4速選択位置Psc_34に位置決めする。これにより、シフトアーム11とシフトピース21bとが係合する。そして、(d)でシフト動作によりシフトアーム11をニュートラルから3速シフト位置Psc_3に位置決めして、3速の変速段を確立する。
次に、図4を参照して、制御装置1には、シフトアーム11のシフト方向の目標位置Psc_cmdとセレクト方向の目標位置Psl_cmdとを設定する目標位置算出部52と、シフトアーム11のシフト方向の実位置Pscと目標位置Psc_cmdとが一致するように、シフト用モータ13への印加電圧Vscを制御するシフトコントローラ50(本発明の位置決め制御手段に相当する)と、シフトアーム11のセレクト方向の実位置Pslと目標位置Psl_cmdとが一致するように、セレクト用モータ12への印加電圧Vslを制御するセレクトコントローラ51(本発明の位置決め制御手段に相当する)とが備えられている。
シフトコントローラ50には、スライディングモード制御を用いて、シフト用モータ13への出力電圧Vscを決定するスライディングモードコントローラ53と、スライディングモードコントローラ53における応答指定パラメータVPOLE_scを設定するVPOLE_sc算出部54とが備えられている。
図5を参照して、シフトコントローラ50に備えられたスライディングモードコントローラ53には、シフトアーム11のシフト方向の目標位置Psc_cmdに対して、以下の式(1)によるフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値Psc_cmd_fを算出する目標値フィルタ41が備えられている。
但し、VPOLE_f_sc:目標値フィルタ係数、Psc_cmd_f(k):k番目の制御サイクルにおけるフィルタリング目標値。
スライディングモードコントローラ53には、変速機80におけるシフトアーム11をシフト方向に位置決めするシフト機構40の構成を以下式(2)によりモデル化し、フィルタリング目標値Psc_cmd_f(k)とシフトアーム11のシフト方向位置Psc(k)との偏差E_scを算出する減算器42、切換関数σ_scの値を算出する切換関数値算出部43、到達則入力Urch_scを算出する到達則入力算出部44、適応則入力Uadp_scを算出する適応則入力算出部45、等価制御入力Ueq_srを算出する等価制御入力算出部46、及び等価制御入力Ueq_srと到達則入力Urch_srと適応則入力Uadp_scとを加算してシフト用モータ13への印加電圧の制御値Vslを算出する加算器47が備えられている。
但し、a1_sc,a2_sc,b1_sc,b2_sc:モデルパラメータ。
切換関数値算出部43は、減算器42により以下の式(3)で算出される偏差E_sc(k)から、以下の式(4)により、切換関数値σ_sc(k)を算出する。
但し、E_sc(k):k番目の制御サイクルにおけるシフトアームのシフト方向のフィルタリング目標値Psc_cmd_f(k-1)と実位置Psc(k)との偏差。
但し、σ_sc(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数値、VPOLE_sc:切換関数設定パラメータ(−1<VPOLE_sc<0)。
適応則入力算出部45は、以下の式(5)により切換関数積分値SUM_σsc(k)を算出し、以下の式(6)により適応則入力Uadp_sc(k)を算出する。適応則入力Uadp_sc(k)は、モデル化誤差や外乱を吸収して、偏差状態量(E_sc(k),E_sc(k-1))を切換直線(σ_sc(k)=0)に載せるための入力である。
但し、SUM_σsc(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数積分値。
但し、Uadp_sc(k):k番目の制御サイクルにおける適応則入力、Kadp_sc:フィードバックゲイン。
到達則入力算出部44は、以下の式(7)により到達則入力Urch_sc(k)を算出する。到達則入力Urch_sc(k)は、偏差状態量(E_sc(k),E_sc(k-1))を、切換直線(σ_sc(k)=0)に載せるための入力である。
但し、Urch_sc(k):k番目の制御サイクルにおける到達則入力、Krch_sc:フィードバックゲイン。
等価制御入力算出部46は、以下の式(8)により等価制御入力Ueq_sc(k)を算出する。式(8)は、σ_sc(k+1)=σ_sc(k)とおいて、上記式(4),式(3),式(2)を代入したときのシフト用モータ13に対する制御入力Vsc(k)を等価制御入力Ueq_sc(k)として算出するものである。等価制御入力Ueq_sc(k)は、偏差状態量(E_sc(k),E_sc(k-1))を切換直線(σ_sc(k)=0)上に拘束するための入力である。
但し、Ueq_sc(k):k番目の制御サイクルにおける等価制御入力。
そして、加算器47は、以下の式(9)により、シフト用モータ13に対する制御入力Vsc(k)を算出する。
以上説明した構成により、スライディングモードコントローラ53は、シフト方向の目標位置Psc_cmdに対するシフトアーム11の追従特性と、外乱により生じる目標位置Psc_cmdと実位置Pscとの偏差の収束挙動を、個別に設定可能な2自由度の特性を備えている。具体的には、目標値フィルタVPOLE_f_scを変更することにより、シフト方向の目標位置Psc_cmdに対するシフトアーム11の追従特性を設定することができる。また、切換関数設定パラメータVPOLE_scを変更することにより、外乱により生じた目標位置Psc_cmdと実位置Pscとの偏差の収束挙動を設定することができる。
そして、シフトコントローラ50は、図2(a)を参照して、以下のMode1〜Mode4の工程を経てシフトアーム11のシフト動作を行う。なお、以下では同期機構2b(図1参照)により、3速の変速段を確立する場合を例に説明したが、他の変速段を確立する場合も同様である。
(1) Mode1(目標値追従&コンプライアンスモード)
ニュートラル位置からシフト動作を開始して、シフトアーム11の実位置Pscがシンクロナイザリング23aの待機位置Psc_defに達するまで(Psc<Psc_def)。
(2) Mode2(回転同期制御モード)
Psc_def≦Psc≦Psc_scf(カップリングスリーブ22とシンクロナイザリング23aとの接触想定位置)、且つ、ΔPsc<ΔPsc_sc(ΔPsc_sc:カップリングスリーブ22とシンクロナイザリング23aの接触判定値)の条件成立後、シンクロナイザリング23aに適切な押付け力を与える。そして、これにより、カップリングスリーブ22と入力側前進3速ギヤ7cの回転数の同期を図る。
(3) Mode3(静止モード)
Psc_scf<Pscの条件が成立した時点で、目標値Psc_cmdをシフト完了時目標値Psc_endとし、PscのPsc_cmdに対するオーバーシュート(オーバーシュートが生じると、図示しないストッパ部材との衝突音が発生する)を防止するため、上記式(5)による切換関数積分値SUM_σscをリセットとする。これにより、カップリングスリーブ22がシンクロナイザリング23aを通過して移動し、入力側前進3速ギヤ7cと係合する。
(4) Mode4(ホールドモード)
シフト動作完了後、及びセレクト動作時は、シフト用モータ13への印加電力低減による省電力化のため、シフトコントローラ50における外乱抑制能力を低下させる。
ここで、図6(a),図6(b)は、図5に示した2自由度のスライディングモードコントローラ53により、シフト動作を行った場合のシフトアーム11の変位を示したグラフである。そして、縦軸の上段がシフトアーム11のシフト方向の目標位置Psc_cmd及び実位置Pscに設定され、縦軸の下段がシフト用モータ13に対する制御入力Vscにされている。また、横軸は時間tに設定されている。
そして、図6(a)はスライディングモードコントローラ53の設計時に予め想定した範囲内の動特性を有するシフト機構40において、シフト動作を行った場合のグラフであり、図中、x1が目標位置Psc_cmdを示し、y1が実位置Pscを示し、z1が制御入力Vscを示している。また、図6(b)は該範囲から外れた低フリクションの動特性を有するシフト機構40において、シフト動作を行った場合のグラフであり、図中、x2が目標位置Psc_cmdを示し、y2が実位置Pscを示し、z 2 が制御入力Vscを示している。
2自由度のスライディングモードコントローラ53においては、上記式(1)における目標値フィルタ係数VPOLE_f_scを変更することによって、目標値Psc_cmdに対するシフトアーム11の実位置の追従性を独立して設定することができる。そのため、図6(a)に示したように、t12でMode1からMode2に移行して目標位置Psc_cmd(x1)がPsc_scfからPsc_scに変更されたとき、及びt13でMode2からMode3に移行して目標位置Psc_cmdがPsc_scからPsc_endに変更されたときに、制御入力Vsc(z1)が滑らかに立ち上がり、Psc(y1)のオーバーシュートや振動が生じない過減衰応答に設定することが可能である。
さらに、2自由度のスライディングモードコントローラ53においては、上記式(4)における切換関数設定パラメータVPOLE_scを変更することによって、外乱抑制能力(上記式(3)の偏差E_sc(k)の収束挙動)を独立して設定することができる。そのため、図6(b)に示したように、シフト機構40のフリクションが低い場合であっても、Mode2における回転同期時のシフトアーム11の位置Psc(y2)の急激な変位が抑制される。これにより、カップリングスリーブ22がシンクロナイザリング23に急激に押し込まれることを防止して、安定したシフト動作を行うことができる。
また、VPOLE_sc算出部54は、上記Mode1〜Mode4において、以下の式(10)に示したように切換関数パラメータVPOLE_scを変更する。そして、これにより、シフト動作中の各Modeにおけるスライディングモードコントローラ53の外乱抑制能力が切り替えられる。
但し、Psc_def:シンクロナイザリングの待機位置、Psc_scf:カップリングスリーブとシンクロナイザリングとの接触位置。
また、目標値フィルタ41は、上記Mode1〜Mode4において、以下の式(11)に示したように目標値フィルタ係数VPOLE_f_scを変更する。そして、これにより、シフト動作中の各Modeにおけるスライディングモードコントローラ53の目標値Psc_cmdに対する追従性が切り替えられる。
上記式(11)によれば、カップリングスリーブ22がシンクロナイザリング23の待機位置Psc_defまで移動するMode1においては、シフトアーム11の目標値Psc_cmdに対する実位置Pscの追従性が高く設定される(VPOLE_f_sc=−0.8)。そして、目標値Psc_cmdが急増するMode2及びMode3においては、目標値Psc_cmdに対する実位置Pscの追従性が低く設定され(VPOLE_f_sc=−0.98,−0.9)、これにより、シフト用モータ13への印加電圧が急敏に上昇することを抑制している。
次に、セレクトコントローラ51(図4参照)には、スライディングモード制御(本発明の応答指定型制御に相当する)を用いて、セレクト用モータ12への印加電圧Vslを決定するスライディングモードコントローラ55と、スライディングモードコントローラ55における応答指定パラメータVPOLE_slを設定するVPOLE_sl算出部56と、スライディングモード制御におけるモデルパラメータb1_sl,b2_sl,c1_slを同定する部分パラメータ同定器57とが備えられている。
図7を参照して、セレクトコントローラ51のスライディングモードコントローラ55は、シフトアーム11をセレクト方向に移動させる変速機80のセレクト機構70を、シフトアーム11のセレクト方向の位置Pslをセレクト用モータ12への印加電圧Vslにより表した以下の式(12)によりモデル化する。
但し、Psl(k+1),Psl(k),Psl(k-1):k+1番目,k番目,k−1番目の制御サイクルにおけるシフトアームの位置、Vsl(k),Vsl(k-1):k番目,k−1番目の制御サイクルにおけるセレクト用モータに対する印加電圧、a1_sl,a2_sl:モデルパラメータ、b1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k):k番目の制御サイクルにおけるモデルパラメータの同定値。
部分パラメータ同定器57は、上記式(12)におけるモデルパラメータa1_sl,a2_sl,b1_sl,b2_sl,c1_slのうち、セレクト機構70の動特性の変化との関連性が高い、セレクト用モータ12に対する印加電圧Vslに係る制御入力成分項の係数であるb1_sl及びb2_slと、外乱成分項であるc1_slのみについて同定処理を行う。なお、同定の対象となるb1_sl,b2_sl,c1_slが本発明の同定モデルパラメータに相当する。
ここで、上記式(12)を1制御サイクル遅延させて、同定モデルパラメータb1_sl,b2_sl,c1_slに係る成分項を右辺にまとめ、その他の成分項を左辺にまとめると、以下の式(13)の形に整理することができる。
そして、上記式(13)の左辺を以下の式(14)に示したようにW(k)と定義し、右辺を以下の式(14)に示したようにW_hat(k)と定義すると、W(k)は図8に示した仮想プラント110の仮想出力となる。そのため、W(k)は仮想プラント110のモデル出力、W_hat(k)は仮想プラント110のモデル式と考えることができる。
但し、W(k):k番目の制御サイクルにおける仮想プラントのモデル出力。
但し、W_hat(k):k番目の制御サイクルにおける仮想プラントのモデル式。
図8に示した仮想プラント110は、シフトアーム11の位置Psl(k)の成分から、Psl(k)をZ-1変換部111により1制御サイクル遅延させて乗算部113によりa1_slを乗じた成分と、Psl(k)をZ-1変換部111及び114により2制御サイクル遅延させて乗算部115によりa2_slを乗じた成分とを、減算器116により減じて、W(k)として出力するものである。
そして、上記式(15)の仮想プラント110のモデル式は、同定モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)に係る成分項のみから構成されている。そのため、仮想プラント110の出力W(k)とモデル出力W_hat(k)とが一致するように、仮想プラント110のモデルパラメータを逐次型同定アルゴリズムを用いて算出すれば、同定モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の逐次同定を実現することができる。
そこで、部分パラメータ同定器57は、以下の式(16)〜式(22)により、同定モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の同定処理を実行する。先ず、以下の式(16)によりζ_sl(k)を定義し、以下の式(17)によりθ_sl(k)を定義して、上記式(15)のモデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の代わりに、既に算出されている1制御サイクル前のモデルパラメータb1_sl(k-1),b2_sl(k-1),c1_sl(k-1)を用いた出力を、以下の式(18)に示したようにW_hat’(k)とする。
そして、仮想プラント110の出力W(k)に対するモデル出力W_hat’(k)の偏差E_id_sl(k)を、上記式(18)のモデル化誤差を表すものとして、以下の式(19)により算出する(以下、偏差E_id_sl(k)を同定誤差E_id_sl(k)という)。
但し、E_id_sl(k):k番目の制御サイクルにおける仮想プラントの出力W(k)とモデル出力W_hat’(k)との偏差。
また、部分パラメータ同定器57は、以下の式(20)の漸化式により3次の正方行列である「P_sl」を算出し、以下の式(21)により同定誤差E_id_sl(k)に応じた変化度合を規定するゲイン係数ベクトルである3次ベクトル「KP_sl」を算出する。
但し、I:3×3の単位行列、λ
1_sl,λ
2_sl:同定重みパラメータ。
なお、上記式(20)における同定重みパラメータλ
1_sl,λ
2_slの設定は、以下の表(1)に示した意味を持つ。
そして、部分パラメータ同定器57は、以下の式(22)により、新たなモデルパラメータの同定値θ_sl
T(k)=[b1_sl(k) b2_sl(k) c1_sl(k)]を算出する。
また、図7を参照して、スライディングモードコントローラ55には、シフトアーム11のセレクト方向の目標位置Psl_cmdに対して、以下の式(23)によるフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値Psl_cmd_fを算出する目標値フィルタ71が備えられている。
但し、VPOLE_f_sl:目標値フィルタ係数、Psl_cmd_f(k):k番目の制御サイクルにおけるフィルタリング目標値。
さらに、スライディングモードコントローラ55には、シフトアーム11のセレクト方向の実位置Pslと目標位置Psl_cmdとの偏差E_slを算出する減算器72、切換関数σ_slの値を算出する切換関数値算出部73、到達則入力Urch_slを算出する到達則入力算出部74、等価制御入力Ueq_slを算出する等価制御入力算出部75、及び等価制御入力Ueq_slと到達則制御入力Urch_slとを加算してセレクト機構70のセレクト用モータ12への印加電圧の制御値Vslを算出する加算器76が備えられている。
切換関数値算出部73は、減算器72により以下の式(24)で算出される偏差E_sl(k)から、以下の式(25)により、切換関数値σ_sl(k)を算出する。
但し、E_sl(k):k番目の制御サイクルにおけるシフトアームのセレクト方向の実位置と目標位置との偏差。
但し、σ_sl(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数値、VPOLE_sl:切換関数設定パラメータ(−1<VPOLE_sl<0)。
到達則入力算出部74は、以下の式(26)により到達則入力Urch_sl(k)を算出する。到達則入力Urch_sl(k)は、偏差状態量(E_sl(k),E_sl(k-1))を、切換関数σ_slを0(σ_sl(k)=0)とした切換直線に載せるための入力である。
但し、Urch_sl(k):k番目の制御サイクルにおける到達則入力、Krch_sl:フィードバックゲイン。
等価制御入力算出部75は、以下の式(27)により等価制御入力Ueq_sl(k)を算出する。式(27)は、σ_sl(k+1)=σ_sl(k)とおいて、上記式(24),式(23),式(13)を代入したときのセレクト用モータ12への印加電圧の制御値Vsl(k)を、等価制御入力Ueq_sl(k)として算出するものである。
但し、Ueq_sl(k):k番目の制御サイクルにおける等価制御入力。
そして、加算器76は、以下の式(28)により、セレクト機構70のセレクト用モータ12への印加電圧の制御値Vslを算出する。
上述したように、部分パラメータ同定器57は、上記式(12)におけるモデルパラメータa1_sl,a2_sl,b1_sl,b2_sl,c1_slのうち、セレクト機構70の動特性の変化との連動性が高いb1_sl,b2_sl,c1_slについてのみ同定処理を行う。そして、セレクトコントローラ51のスライディングモードコントローラ55は、部分パラメータ同定器57により同定されたb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)を用いて、セレクト用モータ12に対する印加電圧の制御入力Vslを算出する。
この場合、同定の対象とするモデルパラメータの個数を減少させることにより、モデルパラメータの最適値への収束時間を短くすることができる。また、全てのモデルパラメータについて同定処理を行う場合よりも演算量が減少して演算時間が短くなるため、セレクトコントローラ51の制御サイクルを短く設定して、セレクトコントローラ51の制御性を高めることができる。
図9は、セレクト動作時におけるシフトアーム11の変位を示したグラフであり、縦軸がシフトアーム11のセレクト方向の実位置Pslと目標位置Psl_cmdに設定され、横軸が時間tに設定されている。そして、t31で目標位置がPsl_cmd10からPsl_cmd11に変更されてセレクト動作が開始されたときに、部分パラメータ同定器57によるモデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の同定処理により、モデル化誤差が速やかに吸収されている。
そのため、目標位置Psl_cmd11に対するオーバーシュートや振動を生じることなく、シフトアーム11の位置Pslが目標位置Psl_cmd11に収束している。そして、セレクト動作完了の判定条件である、(1)ΔPsl(=Psl−Psl_cmd)<D_Pslf(変化率の判定値)、且つ、(2)|Psl−Psl_cmd61|<E_Pslf(偏差の判定値)、が成立したt32でセレクト動作が短時間で完了している。
次に、図10は、図7に示した2自由度のスライディングモードコントローラ55を用いて、セレクト動作を行った場合のシフトアーム11の挙動を示したグラフである。図10のグラフの縦軸はシフトアーム11の目標位置Psl_cmd及び実位置Pslに設定され、横軸は時間tに設定されている。また、図10中、x3は目標位置Psl_cmdを示し、y3はスライディングモードコントローラ55の設計時に予め想定した標準範囲内のフリクション特性を有するセレクト機構における実位置Pslの変位を示し、z3は該標準範囲よりも低フリクションのセレクト機構における実位置Pslの変位を示し、u3は該標準範囲よりも高フリクションのセレクト機構における実位置Pslの変位を示している。
ここで、2自由度のスライディングモードコントローラ55においては、上記式(23)における目標値フィルタ係数VPOLE_f_slを変更することによって、目標値Psl_cmdに対するシフトアーム11の追従性を独立して設定することができる。そのため、図10に示したように、t41で目標位置Psl_cmd(x3)がPsl_cmd20からPsl_cmd21に変更されたときに、低フリクションのz3においても制御入力Vslが滑らかに立ち上がるように設定することができる。そして、これにより、目標位置Psl_cmdに対する実位置Pslの追従特性を、オーバーシュートの発生や、該オーバーシュートに起因するシフトアーム11の振動の発生を抑制した過減衰応答として、目標位置Psl_cmd21への収束時間が長くなることを防止することができる。
さらに、2自由度のスライディングモードコントローラ55においては、上記式(25)における切換関数設定パラメータVPOLE_slを変更することによって、外乱抑制能力(上記式(24)の偏差E_sl(k)の収束挙動)を独立して設定することができる。そのため、外乱抑制能力を高く設定することにより、図10に示したように、高フリクションのu3においてもシフトアーム11の位置Pslを目標位置Psl_cmd21に速やかに収束させることができる。また、低フリクションのz3においても振動の発生を抑制して、シフトアーム11の位置Pslを目標位置Psl_cmd21に速やかに収束させることができる。
次に、変速機80においては、機械的なガタや部品の個体バラツキ等により、予め設定された各変速段の選択位置の目標値Psl_cmdと、真の選択位置に対応した目標値Psl_cmd*との間にズレが生じる場合がある。図11は3・4速選択位置において、このようなズレが生じた場合を示している。
図11(a)においては、3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34が、真の目標値Psl_cmd34*に対して、シフトピース21a側にずれている。そのため、シフトアーム11をPsl_cmd34に位置決めした状態で、ニュートラル位置から3速シフト位置にシフト動作させると、シフトアーム11とシフトピース21aとが干渉してシフト動作が妨げられる。
ここで、シフトアーム11と各シフトピース21a〜21dには、面取り処理が施されている。そのため、シフト動作とセレクト動作をモータ等のアクチュエータではなく運転者の操作力により行うマニュアルトランスミッション(MT)においては、シフトアーム11に対する干渉を感じた運転者が、セレクト方向の保持力を若干緩めることにより、図11(b)に示したように、面取り処理部分に沿ってシフトアーム11を真の目標値Psl_cmd34 * にずらして、シフト動作を行うことができる。
図12は、以上説明したMTにおけるシフト操作時のシフトアーム11のシフト方向の実位置Pscとセレクト方向の実位置Pslの推移を示したグラフであり、図12(a)は縦軸がシフト方向Pscに設定され横軸が時間tに設定されたグラフである。また、図12(b)は縦軸がセレクト方向の実位置Pslに設定され、横軸が図12(a)と共通の時間軸tに設定されたグラフである。
図12(a),図12(b)のt50でシフト動作が開始され、図12(a)に示したようにシフトアーム11が3速シフト位置の目標値Psc_cmd3に向かって移動を開始する。そして、t51がシフトアーム11とシフトピース21aとの干渉が生じた時点であり、図12(b)に示したように、t51からt52にかけてシフトアーム11が3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34から真の目標値Psl_cmd34*にずれる。これにより、シフトアーム11とシフトピース21aとの干渉を回避しながら、図12(a)に示したようにシフトアーム11を3速シフト位置の目標値Psc_cmd3に移動させることができる。
それに対して、シフト動作とセレクト動作をシフト用モータ13とセレクト用モータ12により行う本実施の形態の自動マニュアルトランスミッション(AMT)において、シフトアーム11を3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34に保持する位置決めを行うと、シフトアーム11とシフトピース21aとが干渉したときに、シフトアーム11はセレクト方向にずれることができない。そのため、シフト動作が不能になる。
図13(a)は、AMTにおいて、3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34に位置決めされた状態で、3速シフト位置の目標値Psc_cmd3への移動を行ったときに、シフトピース21aとの干渉により、シフトアーム11がセレクト方向に若干ずれた場合を示している。この場合、セレクトコントローラ51は、ずれE_slを解消してシフトアーム11のセレクト方向位置をPsl_cmd34に戻すようにセレクト用モータ12への出力電圧Vslを決定する。そのため、セレクト方向の力Fslが発生する。
ここで、Fslのシフトアーム11とシフトピース21aの面取り部の接線α方向の成分をFsl1、接線αの法線β方向の成分をFsl2とし、シフト動作により生じるシフト方向の力Fscの接線α方向の成分をFsc1、法線β方向の成分をFsc2とする。このとき、Fsc1とFsl1とが釣り合うと、シフト動作が停止する。
図13(b)は、以上説明したシフト動作中のシフトアーム11の変位を示したものであり、上段のグラフの縦軸がシフトアーム11のシフト方向の実位置Pscに設定され、下段のグラフの縦軸がシフトアーム11のセレクト方向の実位置Pslに設定され、横軸が共通の時間軸tに設定されている。t60でシフト動作が開始され、3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34が真の目標値Psl_cmd34*に対してずれているために、t61でシフトアーム11とシフトピース21aとが干渉し始める。
そして、面取り部の作用により、シフトアーム11はセレクト方向に若干ずれるが、t62でFsc1とFsl1とが釣り合ってセレクト方向への移動が停止すると共に、シフト方向の移動も停止する。その結果、シフト動作が中断されて、シフトアーム11を3速シフト位置の目標値Psc_cmd3まで移動することができない。
このとき、シフトコンローラ50は、シフトアーム11を3速シフト位置の目標値Psc_cmd3に移動させるためにシフト用モータ13への印加電圧の制御値Vscを増加させる。また、セレクトコントローラ51は、シフトアーム11を3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34に移動させるためにセレクト用モータ12への印加電圧の制御値Vslを増加させる。そのため、シフト用モータ13への印加電圧とセレクト用モータ12への印加電圧が過大となって、シフト用モータ13とセレクト用モータ12の温度が異常上昇し、モータトルクの減少により次回の変速時における変速操作性が低下するおそれがある。
そこで、セレクトコントローラ51は、セレクト動作時とシフト動作時とで、上記式(25)における切換関数設定パラメータVPOLE_slを変更して、外乱に対する抑制能力を変化させる制御を行なう。図14は、セレクトコントローラ51のスライディングモードコントローラ55の応答指定特性を示したものであり、VPOLE_slを−0.5,−0.8,−0.99,−1.0に設定して、上記式(25)の切換関数σ_sl=0かつ上記式(24)の偏差E_sl=0である状態でステップ外乱dを与えた場合の制御系の応答を示したグラフであり、縦軸を上から偏差E_sl、切換関数σ_sl、外乱dとし、横軸を時間kとしたものである。
図14から明らかなように、VPOLE_slの絶対値を小さくするほど、外乱dが偏差E_slに与える影響が小さくなり、逆に、VPOLE_slの絶対値を大きくして1に近づけるほど、スライディングモードコントローラ55が許容する偏差E_slが大きくなるという特性がある。そしてこのとき、VPOLE_slの値に拘わらず切換関数σ_slの挙動が同一となっていることから、外乱dに対する抑制能力をVPOLE_slによって指定できることがわかる。
そこで、セレクトコントローラ51のVPOLE_sl算出部56は、以下の式(29)に示したように、シフト動作時とシフト動作時以外(セレクト動作時)とで、VOLE_slの値を変更する。
但し、|VPOLE_sl_l|>|VPOLE_sl_h|となるように、例えばVPOLE_sl_l=-0.95、VPOLE_sl_h=-0.7に設定される。
なお、セレクトコントローラ51は、以下の式(30),式(31)の関係が共に成立するときに、シフト動作時であると判断する。
但し、Psc_cmd:シフト方向の目標値、Psc_cmd_vp:予め設定されたニュートラル位置(Psc_cmd=0)からの変位量の基準値(例えば0.3mm)。
但し、ΔPsl:前回の制御サイクルからのセレクト方向の変位量、dpsl_vp:予め設定された制御サイクルにおける変位量の基準値(例えば0.1mm/step)。
上記式(29)により、シフト動作時におけるVPOLE_slをVPOLE_sl_lとして、セレクト動作時よりも外乱に対する抑制能力を低く設定し、図13(a)と同様に3速シフト位置の目標値Psc_cmd3にシフト動作したときのシフトアーム11の変位を図15(a)に示す。
図15(a)においては、セレクトコントローラ51のスライディングモードコントローラ55における外乱抑制能力が低くなっているため、シフトアーム11とシフトピース21aとの干渉により、シフトアーム11が3・4速選択位置の目標位置Psl_cmd34からセレクト方向にずれて、Psl_cmd34との偏差E_slが生じたときに、該偏差E_slを解消するためにセレクト用モータ12に印加される電圧Vslが低くなる。
そのため、セレクト用モータ12の駆動により生じるセレクト方向の力Fslが小さくなり、Fslの接線α方向の成分Fsl1よりも、シフト用モータ13の駆動により生じるシフト方向の力Fscの接線α方向の成分Fsc1の方が大きくなって、接線α方向の力Ftが生じる。そして、該Ftにより、シフトアーム11が接線α方向に移動して、シフトアーム11のセレクト方向の位置がPsl_cmdからPsl_cmd*に変位する。これにより、シフトアーム11とシフトピース21aとの干渉が回避され、シフトアーム11のシフト方向への移動が可能となる。
図15(b)は、以上説明した図15(a)におけるシフトアーム11の変位を示したグラフであり、縦軸を上からシフトアーム11のシフト方向の実位置Psc、セレクト方向の実位置Psl、切換関数設定パラメータVPOLE_slとし、横軸を共通の時間tとしたものである。
t71でシフト動作が開始されると、セレクトコントローラ51のVPOLE_sl算出部56により、スライディングモードコントローラ55におけるVPOLE_slの設定が、VPOLE_sl_hからVPOLE_sl_lに切換えられて、スライディングモードコントローラ55による外乱抑制能力が低下する。
そして、t72でシフトアーム11とシフトピース21aが干渉すると、シフトアーム11が3・4速選択目標位置Psl_cms34からセレクト方向にずれ、t73でシフトアーム11のセレクト方向の位置が真の3・4速選択目標位置Psl_cmd34*に達する。このように、シフトアーム11がセレクト方向にずれることによって、シフトピース21aによりシフト動作が妨げられることが回避され、シフトアーム11のシフト方向の位置がニュートラル位置から3速シフト目標位置Psc_cmd3に移動する。
次に、図16を参照して、シフトコントローラ50は、シフト動作時に、上述した4つのモード(Mode1〜Mode4)を実行して、各変速段を確立する。そして、シフトコントローラ50は、各モードにおいて、切換関数設定パラメータVPOLE_scを上記式(10)に示したように切換える。このように、切換関数設定パラメータVPOLE_scを切換えることにより、上述したセレクトコントローラ51の場合と同様に、シフトコントローラ50の外乱抑制能力を変更することができる。
図16(a)は縦軸をシフト方向のシフトアーム11の実位置Psc及び目標位置Psc_cmdに設定し、横軸を時間tに設定したグラフであり、図16(b)は縦軸を切換関数設定パラメータVPOLE_scに設定し、横軸を図16(a)と共通の時間tに設定したグラフである。
(1) Mode1(t80〜t82:目標値追従&コンプライアンスモード)
ニュートラル位置からシフト動作を開始して、シフトアーム11(図2(a)参照)の実位置Pscがシンクロナイザリング23の待機位置Psc_defに達するまで(Psc<Psc_def)、シフトコントローラ50のVPOLE_sc算出部54(図4参照)は、VPOLE_scをVPOLE_sc11(=-0.8)に設定する。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制力を高くして目標位置Psc_cmdに対するシフトアーム11の追従性を高めている。
そして、シフトアーム11の実位置Pscがシンクロナイザリング23の待機位置Psc_defに達したt81で、VPOLE_sc算出部54は、VPOLE_scをVPOLE_sc12(=-0.98)に設定する。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力が低下し、カップリングスリーブ22とシンクロナイザリング23の接触時に、緩衝効果を生じさせて、衝撃音の発生やシンクロナイザリング23に対する無理な押し込が生じることを抑制することができる。
このとき、シフトコントローラ50の外乱抑制能力を高く維持していると、セレクト用モータ12の駆動により生じるセレクト方向の力Fslの面取り部の接線方向の成分Fsl'と、シフト用モータ13の駆動により生じるシフト方向の力Fscの面取り部の接線方向の成分Fsc'とが干渉して、シフトアーム11のシフト動作が停止する。また、シフトコントローラ50及びセレクトコントローラ51による目標位置への位置決め制御により、セレクト用モータ12及びシフト用モータ13への印加電圧が高くなって、セレクト用モータ12及びシフト用モータ13の温度が異常上昇し、モータトルクの減少により次回の変速時における変速操作性が低下し得る。
そこで、セレクト動作時にVPOLE_scをVPOLE_sc4(=-0.9)として、シフトコントローラ50における外乱抑制能力を低下させることによって、図17(b)に示したように、シフト方向の力Fscを減少させることができる。そして、これにより、図中yの径路で示したように、シフトアーム11がシフト方向にずれ易くなり、シフトピース21bとの干渉を回避して、シフトアーム11を1・2速選択位置まで速やかに移動させることができる。
次に、制御装置1による変速機80の制御の実行手順を図18〜図25及び図27に示したフローチャートに従って説明する。
図18は、制御装置1のメインフローチャートであり、制御装置1は、STEP1で車両の運転者によりアクセルペダル95(図1参照)又はブレーキペダル99が操作されたときに、その操作内容に応じて、以下の式(32)により、駆動輪94に与える駆動力を決定するための駆動力インデックスUdrvを決定する。
但し、Udrv:駆動力インデックス、AP:アクセルペダル開度、BK:ブレーキ踏力、Kbk:ブレーキ踏力(0〜最大)をアクセルペダル開度(0〜−90度)に変換する係数。
そして、制御装置1は、駆動力インデックスUdrvに基づいて、STEP2で変速機80の変速操作を行うか否かを判断し、変速操作を行うときは、変速先の変速段を決定して変速操作を行う『変速機制御』を実行する。また、続くSTEP3で、制御装置1は、クラッチ82(図1参照)の滑り率を制御する『クラッチ制御』を実行する。
次に、図19〜図21に示したフローチャートに従って、制御装置1による『変速機制御』の実行手順について説明する。制御装置1は、先ず、図19のSTEP10で、車両の運転者により後退要求がなされているか否かを判断する。そして、後退要求がなされていたときは、STEP20に分岐してギヤ選択目標値NGEAR_cmdを−1(リバース)とし、STEP12に進む。
一方、STEP10で後退要求がなされていなかったときには、STEP11に進み、制御装置1は、図示した「Udrv,VP/NGEAR_cmdマップ」に駆動力インデックスUdrvと車両の車速VPとを適用して、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdを求める。なお、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdと選択ギヤとの関係は以下の表(2)の通りである。
続くSTEP12で、制御装置1は、変速機80の現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているか否かを判断する。そして、ギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているときはSTEP15に分岐し、変速機80の変速操作を実行することなく『変速機制御』を終了する。
一方、STEP12で変速機80のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致していなかったときには、STEP13に進んで、制御装置1は次のSTEP14で実行する『変速操作』における各処理のタイミングを決定するための変速動作基準タイマをスタートする。そして、STEP14で『変速操作』を実行してSTEP13に進み、『変速機制御』を終了する。
ここで、STEP14の『変速操作』は、クラッチ82(図1参照)を「クラッチOFF状態」として変速機80のシフト/セレクト動作を可能とする「クラッチOFF工程」と、「クラッチOFF」状態で変速機80をシフト/セレクト動作させてギヤ選択位置NGEARをギヤ選択目標値NGEAR_cmdに変更する「ギヤ位置変更工程」と、該「ギヤ位置変更工程」の終了後にクラッチ82を「クラッチON」状態に戻す「クラッチON工程」という3つの工程により実行される。
そして、STEP13で変速動作基準タイマがスタートした時点から各工程が終了するまでのタイミングを把握するために、クラッチOFF完了時間TM_CLOFF、ギヤ位置変更完了時間TM_SCHG、及びクラッチON完了時間TM_CLONが予め設定されている(TM_CLOFF<TM_SCHG<TM_CLON)。
制御装置1は、STEP13で変速動作基準タイマをスタートさせると同時に「クラッチOFF」処理を開始してクラッチ82をOFFし、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えたときに、「ギヤ位置変更工程」を開始する。そして、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを経過したときに、制御装置1は、「クラッチON工程」を開始してクラッチ82をONする。
図20〜図21に示したフローチャートは、「クラッチOFF工程」を開始した後の、制御装置1による変速機80の『変速操作』の実行手順を示したものである。制御装置1は、先ず、図20のSTEP30で変速機80の現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているか否かを判断する。
そして、ギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致し、『変速操作』が完了した状態にあると判断できるときは、STEP45に分岐して、制御装置1は、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftをクリアし、次のSTEP46で変速機80のギヤ抜き処理の完了時にセットされるギヤ抜き完了フラグF_SCNをリセットし(F_SCN=0)、変速機80のセレクト動作の完了時にセットされるセレクト完了フラグF_SLFをリセットする(F_SLF=0)。
そして、STEP61に進み、制御装置1は、シフトコントローラ50によるシフトアーム11のシフト方向の目標位置Psc_cmdと、セレクトコントローラ51によるシフトアーム11のセレクト方向の目標位置Psl_cmdとを、現状値に維持して現在のギヤ選択位置を保持し、図21のSTEP33に進む。
また、このとき、シフトコントローラ50のVPOLE_sc算出部54により、シフトコントローラ50のスライディングモードコントローラ53における応答指定パラメータVPOLE_scがVPOLE_sc4(=-0.9)に設定される。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力が低下して、シフト用モータ13の省電力化が図られる。
さらに、セレクトコントローラ51のVPOLE_sl算出部56により、セレクトコントローラ51のスライディングモードコントローラ55における応答指定パラメータVPOLE_slがVPOLE_sl_l(=-0.95)に設定される。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力が低下して、セレクト用モータ12の省電力化が図られる。
一方、STEP30で変速機80の現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しておらず、変速機80の『変速操作』が実行中であると判断できるときには、STEP31に進む。
STEP31で、制御装置1は、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF時間TM_CLOFFを超えているか否かを判断する。そして、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えておらず、「クラッチOFF工程」が終了していないと判断できるときには、STEP32に進み、制御装置1は、STEP61と同様の処理を行って現在のギヤ選択位置を保持する。
一方、STEP31で変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超え、「クラッチOFF工程」が終了していると判断できるときにはSTEP50に分岐し、制御装置1は、変速動作基準タイマの計時時間tm_shihtがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えているか否かを判断する。
そして、STEP50で変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHG)を超えておらず、「ギヤ位置変更工程」の実行中であると判断できるときには、STEP51に進んで、制御装置1は『シフト/セレクト操作』を実行し、図21のSTEP33に進む。
一方、STEP50で変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えており、「ギヤ位置変更工程」が終了していると判断できるときには、STEP60に分岐して、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えているか否かを判断する。
そして、STEP60で変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えておらず、「クラッチON工程」が実行中であると判断できるときは、上述したSTEP61の処理を行って、図21のSTEP33に進む。
一方、STEP60で変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えており(TM_CLON<tm_shift)、「クラッチON工程」が終了していると判断できるときには、STEP70に分岐して、制御装置1は、現在のギヤ選択位置NGEARをギヤ選択目標値NGEAR_cmdにセットしてSTEP61に進み、上述したSTEP61の処理を行って図21のSTEP33に進む。
図21のSTEP33〜STEP37及びSTEP80は、シフトコントローラ50のスライディングモードコントローラ53による処理である。スライディングモードコントローラ53は、STEP33で、上記式(3)によりE_sc(k)を算出し、上記式(4)によりσ_sc(k)を算出する。
そして、続くSTEP34で、上記Mode2からMode3への移行時にセットされるモード3移行フラグF_Mode2to3がセットされていたとき(F_Mode2to3=1)は、STEP35に進んで上記式(5)で算出された切換関数積分値SUM_σsc(k)をリセットする(SUM_σsc=0)。一方、STEP34で、モード3移行フラグF_Mode2to3がリセットされていたとき(F_Mode2to3=0)は、STEP80に分岐して上記式(5)により切換関数積分値SUM_σsc(k)を更新し、STEP36に進む。
そして、スライディングモードコントローラ53は、STEP36で上記式(6)〜式(8)により等価制御入力Ueq_sc(k)と到達則入力Urch_sc(k)と適応則制御入力Uadp_sc(k)を算出し、STEP37で上記式(9)によりシフト用モータ13に対する印加電圧の制御入力Vsc(k)を算出して、シフト用モータ13を制御する。
また、続くSTEP38〜STEP40は、セレクトコントローラ51のスライディングモードコントローラ55及び部分パラメータ同定器57による処理である。STEP38で、スライディングモードコントローラ55は、上記式(24)によりE_sl(k)を算出し、上記式(25)によりσ_sl(k)を算出する。
また、次のSTEP39で、部分パラメータ同定器57は、上記式(18)〜式(22)による同定処理を行って、モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)を算出し、スライディングモードコントローラ55は、上記式(26)により到達則入力Urch_sl(k)を算出し、上記式(27)により等価制御入力Ueq_sl(k)を算出する。そして、スライディングモードコントローラ55は、続くSTEP40で上記式(28)によりセレクト用モータ12に対する印加電圧の制御入力Vsl(k)を算出し、次のSTEP41に進んで、制御装置1は『変速操作』を終了する。
次に、図22は図20のSTEP51における『シフト/セレクト操作』のフローチャートである。STEP90で、変速機80のギヤ抜き処理の完了時にセットされるギヤ抜き完了フラグF_SCNがリセットされており(F_SCN=0)、ギヤ抜き動作中であると判断できるときはSTEP91に進む。
STEP91〜STEP92は目標位置算出部52(図4参照)による処理であり、目標位置算出部52は、STEP91でシフトアーム11のセレクト方向の目標位置Psl_cmdを現在位置に保持し、STEP92でシフトアーム11のシフト方向の目標位置Psc_cmdを0(ニュートラル位置)に設定する。また、STEP93はVPOLE_sc算出部54(図4参照)とVPOLE_sl算出部56による処理であり、VPOLE_sl算出部56はVPOLE_slをVPOLE_sl_l(-0.95)に設定し、VPOLE_sc算出部54はVPOLE_scをVPOLE_sc11(=-0.8)に設定する。
これにより、セレクトコントローラ51の外乱抑制能力が低下し、シフトアーム11のセレクト方向へのずれの許容幅が拡大するため、シフトアーム11とシフトピース21との干渉の影響を小さくしてシフトアーム11をスムーズにシフト方向に移動させることができる。
そして、続くSTEP94で、シフトアーム11のシフト方向の位置(絶対値)が、予め設定されたニュートラル判定値Psc_N(例えば0.15mm)未満となったときに、ギヤ抜き処理が終了したと判断してSTEP95に進み、制御装置1はギヤ抜き完了フラグF_SCNをセット(F_SCN=1)し、STEP96に進んで『シフト/セレクト操作』を終了する。
一方、STEP90でギヤ抜き完了フラグF_SCNがセット(F_SCN=1)されており、ギヤ抜き処理が終了していると判断できるときにはSTEP100に分岐する。STEP100〜STEP103及びSTEP110は目標位置算出部52による処理であり、目標位置算出部52は、STEP100でセレクト完了フラグF_SLFがセットされているか否かを判断する。
そして、セレクト完了フラグF_SLFがリセットされており(F_SLF=0)、セレクト動作中であると判断できるときはSTEP101に進み、目標位置算出部52は、図示したNGEAR_cmd/Psl_cmd_tableマップをマップ検索して、NGER_cmdに応じた各変速段のセレクト方向の設定値Psl_cmd_tableを取得する。
続くSTEP103で、目標位置算出部52は、シフトアーム11のシフト方向の目標値Psc_cmdを現状値に保持し、シフト方向の目標値の増加幅を指定するPsc_cmd_tmpをゼロとする。次のSTEP104は、VPOLE_sc算出部54とVPOLE_sl算出部56による処理であり、VPOLE_sl算出部56はVPOLE_slをVPOLE_sl_h(=-0.7)に設定し、VPOLE_sc算出部54はVPOLE_scをVPOLE_sc4(=-0.9)に設定する。
これにより、シフトコントローラ50による外乱抑制能力が低下し、セレクト動作時にシフトアーム11がシフト方向にずれ易くなる。そのため、図17(b)を参照して上述したように、シフトアーム11とシフトピース21とが干渉する場合であっても、スムーズにセレクト動作を実行することができる。
そして、STEP105で、シフトアーム11のセレクト方向の現在位置と目標位置との差の絶対値|Psl−Psl_cmd|がセレクト完了判定値E_Pslf(例えば0.15mm)未満となり、且つ、STEP106で、シフトアーム11のセレクト方向の移動速度ΔPslがセレクト速度収束判定値D_Pslf(例えば0.1mm/step)未満となったときに、セレクト動作が完了したと判断してSTEP107に進む。そして、制御装置1は、セレクト完了フラグF_SLFをセット(F_SLF=1)してSTEP96に進み、『シフト/セレクト操作』を終了する。
一方、STEP100でセレクト完了フラグF_SLFがセットされており、セレクト動作が完了していると判断できるときには、STEP110に分岐する。STEP110〜STEP111は目標位置算出部52による処理である。目標位置算出部52は、STEP110でシフトアーム11のシフト方向の目標位置Psl_cmdを現状値に保持し、STEP111で後述する『回転同期動作時目標値算出』を実行する。
次のSTEP112はVPOLE_sl算出部56による処理であり、VPOLE_sl算出部56は、VPOLE_slをVPOLE_sl_l(=-0.95)に設定する。これにより、セレクトコントローラ51の外乱抑制能力が低下し、シフトアーム11とシフトピース21とが干渉する場合であっても、図15を参照して上述したようにシフトアーム11のシフト動作をスムーズに行うことができる。そして、STEP112からSTEP96に進み、制御装置1は、『シフト/セレクト操作』を終了する。
次に、図23は、図22のSTEP111における『回転同期動作時目標値算出』のフローチャートである。『回転同期動作時目標値算出』は、主として目標位置算出部52により実行される。
目標位置算出部52は、STEP120で、図示したNGEAR_cmd/Psc_def,_scf,_end,_tableマップを検索して、ギヤ選択目標値NEGAR_cmdに対応した各変速機構2a〜2c及び後進ギヤ列83,85,86におけるシンクロナイザリングの待機位置Psc_def、シンクロナイザリングを介してカップリングスリーブと被同期ギヤ(出力側前進1速ギヤ9a,出力側前進2速ギヤ9b,入力側前進3速ギヤ7c,入力側前進4速ギヤ7d,入力側前進5速ギヤ7e,入力側前進6速ギヤ7f,第2後進ギヤ83及び第3後進ギヤ86)との回転同期が開始される位置Psc__scf、該回転同期が終了する位置Psc_sc、及びシフト動作の終了位置Psc_endを取得する。
また、続くSTEP121で、目標位置算出部52は、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdに応じたシフト動作の変位速度D_Psc_cmd_tableを取得する。なお、このように、変速段に応じて変位速度D_Psc_cmd_tableを変更することによって、ローギヤにおけるシフトショックとシンクロナイザリングとカップリングスリーブとの接触音の発生を抑制している。
そして、次のSTEP122で、目標位置算出部52は、上述したマップ検索により取得したPsc_def_table,Psc_scf_table,Psc_sc_table,Psc_end_table,D_Psc_cmd_tableを、対応する目標値Psc_def,Psc_scf,Psc_sc,Psc_end,D_Psc_cmd
にそれぞれ設定する。また、続くSTEP123で、シフト動作におけるシフトアーム11の途中目標位置Psc_cmd_tmpを設定する。
図24のSTEP124以降は、上述したMode1〜Mode4による処理であり、STEP124でシフトアーム11のシフト方向位置PscがPsc_scfを超えておらず、カップリングスリーブとシンクロナイザリングの回転同期が完了しないと判断できるときはSTEP125に進む。
STEP125で、制御装置1は、Mode1又はMode2の処理を実行中であることを示すモード1・2フラグF_mode12をセット(F_mode12=1)する。そして、次のSTEP126でシフトアーム11のシフト方向位置PscがPsc_defを超えていないとき、すなわち、シフトアーム11がシンクロナイザの待機位置を越えていないときには、STEP127に進む。
STEP127はMode1による処理であり、シフトコントローラ50のVPOLE_sc算出部54により、VPOLE_scがVPOLE_sc_11(=-0.8)に設定される。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力が高くなり、目標位置Psc_cmdに対する追従性が向上する。
一方、STEP126でシフトアーム11のシフト方向位置PscがPsc_defを超え、シフトアーム11がシンクロナイザリングの待機位置に達していると判断できるときには、STEP160に分岐し、シフトアーム11のシフト方向位置の変化量ΔPscが、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとの接触判定値ΔPsc_scを超えているか否かを判断する。
そして、ΔPscがΔPsc_sc未満であり、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとが未だ接触していないときはSTEP161に進み、また、ΔPscがΔPsc_scを超えており、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとが接触しているときはSTEP170に分岐する。
STEP161はMode1による処理であり、VPOLE_sc算出部54は、VPOL_scをVPOLE_sc12(=-0.98)に設定する。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力が低下し、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとの接触時の衝撃を減少させることができる。
また、STEP170はMode2による処理であり、VPOLE_sc算出部54は、VPOLE_scをVPOLE_sc2(-0.85)に設定する。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力が高くなり、シンクロナイザリングに適切な押付け力を与えて、カップリングスリーブと被同期ギヤの回転数を同期させることができる。
そして、STEP171で、目標位置算出部52は、Psc_scをシフトアーム11のシフト方向目標位置Psc_cmdに設定してSTEP130に進み、『回転同期動作時目標値算出』処理を終了する。
一方、STEP124でシフトアーム11のシフト方向位置PscがPsc_scfを越えているとき、すなわち、カップリングスリーブと被同期ギヤとの回転数の同期が完了しているときには、STEP140に分岐する。そして、STEP140でモード1・2フラグF_mode12がセットされているか否かを判断する。
STEP140でモード1・2フラグF_mode12がセット(F_mode12=1)されていたとき、すなわち前記Mode1又はMode2の実行中であるときは、STEP150に分岐して、制御装置1は、モード3移行フラグF_mode2to3をセット(F_mode2to3=1)すると共にモード1・2フラグF_mode1・2をリセット(F_mode1・2=0)して、STEP142に進む。一方、STEP140でモード1・2フラグがリセット(F_mode12=0)されていたとき、すなわち、既にMode2が終了していたときには、STEP141に進み、制御装置1はモード3移行フラグF_mode2to3をリセット(F_mode2to3=0)してSTEP142に進む。
そして、STEP142で、シフトコントローラ50のVPOLE_sc算出部54は、VPOLE_scをVPOLE_sc3(=-0.7)に設定し、次のSTEP143で目標位置算出部52は、シフトアーム11のシフト方向の目標値Psc_cmdをPsc_endに設定する。これにより、シフトコントローラ50の外乱抑制能力を高め、シフトアーム11がシフト完了位置Psc_endからオーバーランすることを防止している。そして、STEP143からSTEP130に進んで、制御装置1は『回転同期動作時目標値算出』処理を終了する。
次に、図25は、図18のSTEP3における『クラッチ制御』のフローチャートである。制御装置1は、先ず、STEP190で現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているか否かを判断する。
そして、現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致していないとき、すなわち変速機80が変速中(シフト/セレクト動作中)であったときには、STEP191に進み、制御装置1は、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えているか否かを判断する。
変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFF未満であり、クラッチ82がOFF動作中であるときは、STEP191からSTEP192に進み、制御装置1はクラッチ滑り率目標値SR_cmdを100%に設定する。そして、STEP193に進んで『滑り率制御』を行ない、STEP194に進んで『クラッチ制御』を終了する。
一方、STEP191で変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF時間TM_CLOFFを超え、クラッチOFF動作が完了していたときには、STEP210に分岐し、制御装置1は、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftが変速時間TM_SCHGを超えているか否かを判断する。そして、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftが変速時間TM_SCHGを超え、変速機80のシフト/セレクト動作が終了していると判断できるときはSTEP220に分岐して、制御装置1はクラッチ滑り率SR_cmdを0%に設定する。そして、STEP193に進んで『滑り率制御』を行ない、STEP194に進んで『クラッチ制御』を終了する。
一方、STEP190で現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しており、変速機80の変速操作が完了してときには、STEP190からSTEP200に分岐する。そして、制御装置1は、図示した「Udrv,VP/SR_cmd_drマップ」に駆動力インデックスUdrvと車両の車速VPとを適用して、走行時目標滑り率SR_cmd_drを取得する。
続くSTEP201で、制御装置1は目標滑り率SR_cmdに走行時目標滑り率SR_cmd_drを設定し、STEP193に進んで『滑り率制御』を行ない、STEP194に進んで『クラッチ制御』を終了する。
次に、制御装置1は、『滑り率制御』を行なうために、図26に示した構成を備えている。図26を参照して、滑り率コントローラ60は、クラッチ用アクチュエータ16(図1参照)とクラッチ82とからなるクラッチ機構61を制御対象とし、クラッチ機構61のクラッチ回転数NCがクラッチ回転数目標値NC_cmdと一致するように、クラッチ用アクチュエータ16により変更されるクラッチ82のクラッチストロークPclを決定する。
ここで、クラッチストロークPclに応じてクラッチ82のおけるクラッチ板(図示しない)間の滑り率SRが変化し、エンジン81(図1参照)からクラッチ82を介して入力軸5に伝達される駆動力が増減する。そのため、クラッチストロークPclを変更することによって、クラッチ回転数NCを制御することができる。
滑り率コントローラ60は、クラッチ回転数目標値NC_cmdにフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値NC_cmd_fを算出する目標値フィルタ62と、応答指定型制御を用いてクラッチ機構61に対する制御入力値であるクラッチストロークPclを決定する応答指定制御部63とを備えている。
応答指定制御部63は、クラッチ機構61を以下の式(33)によりモデル化して扱い、等価制御入力Ueq_srを算出する等価制御入力算出部67、フィルタリング目標値NC_cmd_fとクラッチ回転数NCとの偏差Encを算出する減算器64、切換関数σ_srの値を算出する切換関数値算出部65、到達則入力Urch_srを算出する到達則入力算出部66、及び等価制御入力Ueq_srと到達則入力Urch_srとを加算して、クラッチストロークPclを算出する加算器68を備えている。
但し、a1_sr(k),b1_sr(k),c1_sr(k):k番目の制御サイクルにおけるモデルパラメータ。
目標値フィルタ62は、クラッチ回転数目標値NC_cmdに対して、以下の式(34)によるフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値NC_cmd_fを算出する。
但し、k:制御サイクルの番数、NC_cmd_f(k):k番目の制御サイクルにおけるフィルタリング目標値、POLE_F_sr:目標値フィルタ係数。
上記式(34)は1次遅れフィルタであり、フィルタリング目標値NC_cmd_fは、クラッチ回転数目標値NC_cmdが変化したときに、応答遅れを伴って変化後のクラッチ回転数目標値NC_cmdに収束する値となる。そして、クラッチ回転数目標値NC_cmdに対するフィルタリング目標値NC_cmd_fの応答遅れの程度は、目標値フィルタ係数POLE_F_srの設定値に応じて変化する。なお、クラッチ回転数目標値NC_cmdが一定であるときは、フィルタリング目標値NC_cmd_fはクラッチ回転数目標値NC_cmdと等しくなる。
切換関数値算出部65は、減算器64により以下の式(35)で算出される偏差Enc_srから、以下の式(36)により、切換関数値σ_srを算出する。
但し、σ_sr(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数値、POLE_sr:切換関数設定パラメータ(−1<POLE_sr<0)。
等価制御入力算出部64は、以下の式(37)により等価制御入力Ueq_srを算出する。式(37)は、σ_sr(k+1)=σ_sr(k)とおいて、上記式(33),式(34),式(35)を代入したときのクラッチストロークPclを、等価制御入力Ueq_sr(k)として算出するものである。
但し、POLE_sr:切換関数設定パラメータ(−1<POLE_sr<0)、a1_sr(k),b1_sr(k),c1_sr(k):k番目の制御サイクルにおけるモデルパラメータ。
到達則入力算出部66は、以下の式(38)により到達則入力Urch_sr(k)を算出する。到達則入力Urch_sr(k)は、偏差状態量(Enc_sr(k),Enc_sr(k-1))を、切換関数σ_srを0(σ_sr(k)=0)とした切換直線に載せるための入力である。
但し、Urch_sr(k):k番目の制御サイクルにおける到達則入力、Krch_sr:フィードバックゲイン。
そして、加算器68は、以下の式(39)により、クラッチ機構61に対する制御入力であるクラッチストロークPclを算出する。
ここで、以下の式(40)に示したように、切換関数設定パラメータPOLE_sr(フィルタリング目標値NC_cmd_fと実際のクラッチ回転数NCとの偏差の収束速度を決定する演算係数)の絶対値は、目標フィルタ係数POLE_F_sr(フィルタリング演算において、フィルタリング目標値NC_cmd_fのクラッチ回転数目標値NC_cmdへの収束速度を決定する演算係数)の絶対値よりも小さい値に設定される。
これにより、クラッチ回転数目標値NC_cmdが変化したときのクラッチ回転数NCの追従速度を、切換関数設定パラメータPOLE_srの影響を相対的に減少させて指定することができる。そのため、目標フィルタ係数POLE_F_srの設定により、クラッチ回転数目標値NC_cmdの変化に対するクラッチ回転数NCの追従速度の指定をより正確に行うことができる。
また、クラッチ回転数目標値NC_cmdが一定であるときは、フィルタリング目標値NC_cmd_fとクラッチ回転数目標値NC_cmdは等しくなる。そして、この状態で外乱が生じてクラッチ回転数NCが変化した場合のクラッチ回転数目標値NC_cmdとの偏差(NC−NC_cmd)の収束挙動は、上記式(36)における切換関数設定パラメータPOLE_srにより設定することができる。
したがって、滑り率コントローラ60によれば、上記式(34)における目標フィルタ係数POLE_F_srの設定により、クラッチ回転数目標値NC_cmdが変化したときのクラッチ回転数目標値NC_cmdに対する実際のクラッチ回転数NCの追従速度を独立して指定することができる。また、上記式(36)における切換関数設定パラメータPOLE_srの設定により、クラッチ回転数目標値NC_cmdと実際のクラッチ回転数NCとの偏差の収束速度を独立して設定することができる。
また、同定器69は、上記式(33)によるモデル化誤差の影響を抑制するために、滑り率コントローラ60の制御サイクル毎にクラッチ機構61のモデルパラメータ(a1_sr,b1_sr,c1_sr)を修正する処理を実行する。
同定器69は、以下の式(41)〜式(49)により、上記式(33)のモデルパラメータ(a1_sr,b1_sr,c1_sr)を算出する。以下の式(41)で定義したベクトルζ_srと、以下の式(42)で定義したベクトルθ_srにより、上記式(33)は、以下の式(43)の形で表すことができる。
但し、NC_hat(k):k番目の制御サイクルにおけるクラッチ回転数推定値。
同定器69は、先ず、上記式(43)によるクラッチ回転数推定値NC_hatと、実際のクラッチ回転数NCとの偏差e_id_srを、上記式(33)のモデル化誤差を表すものとして、以下の式(44)により算出する(以下、偏差e_id_srを同定誤差e_id_srという)。
但し、e_id(k):k番目の制御サイクルにおけるクラッチ回転数推定値NC_hat(k)と実際のクラッチ回転数NC(k)との偏差。
また、同定器69は、以下の式(45)の漸化式により3次の正方行列である「P_sr」を算出し、以下の式(46)により同定誤差e_id_srに応じた変化度合を規定するゲイン係数ベクトルである3次ベクトル「KP_sr」を算出する。
但し、I:単位行列、λ_sr
1,λ_sr
2:同定重みパラメータ。
そして、同定器69は、以下の式(47)で定義した所定の基準パラメータθbase_sr
と、上記式(46)により算出したKP_srと、上記式(44)により算出したe_id_sr
とにより、以下の式(48)からパラメータ補正値dθ_srを算出する。
そして、同定器69は、以下の式(49)により、新たなモデルパラメータθ_sr
T(k)=[a1_sr(k) b1_sr(k) c1_sr(k)]を算出する。
次に、図27は、図25のSTEP193における『滑り率制御』のフローチャートである。制御装置1は、先ず、STEP230で以下の式(50)によりクラッチ回転数目標値NC_cmdを算出する。
但し、NC_cmd(k):k番目の制御サイクルにおけるクラッチ回転数目標値、NE(k):k番目に制御サイクルにおけるエンジン回転数、SR_cmd:目標滑り率。
続くSTEP231〜STEP234及びSTEP240は、同定器69によるクラッチ機構61のモデルパラメータa1_sr,b1_sr,c1_srの同定処理である。同定器69は、STEP231で、図示したNC/a1base_srマップにクラッチ回転数NCを適用して基準パラメータa1base_sr(k)を取得し、また、図示したPcl/b1base_srマップにクラッチ位置Pclを適用して基準パラメータb1base_sr(k)を取得する。
そして、次のSTEP232でクラッチストロークPclがクラッチOFF位置Pcloffを超えておらず、クラッチ82がOFF状態にないと判断できるときは、STEP233に進み、同定器69は上記式(48)によりモデルパラメータの補正値dθ_sr(k)を算出してSTEP234に進む。
一方、STEP232でクラッチストロークPclがクラッチOFF位置Pcloffを越えており、クラッチ82がOFF状態にあると判断できるときには、STEP240に分岐し、同定器69はモデルパラメータの補正値dθ_srを更新しない。そして、これにより、変速操作の実行時にクラッチOFF状態でのクラッチ回転数NCが0(目標滑り率100%に応じた目標クラッチ回転数NC_cmd)とならないときに、モデルパラメータの補正値dθ_srが増大することを防止している。
続くSTEP234で、同定器69は、上記式(49)により、モデルパラメータの同定値(a1_sr(k),b1_sr(k),c1_sr(k))を算出する。また、STEP235で、滑り率コントローラ60は、減算器64、切換関数値算出部65、到達則入力算出部66、等価制御入力算出部67、及び加算器68により、上記式(34)〜式(39)の演算を実行して、クラッチ機構61に対するクラッチストロークの制御入力値Pcl(k)を決定してSTEP236に進み、『滑り率制御』の処理を終了する。
なお、本実施の形態においては、上記式(1)におけるモデルパラメータa1_sl,a2_sl,b1_sl,b2_sl,c1_slのうち、b1_sl,b2_sl,c1_slを同定モデルパラメータとし、a1_sl,a2_slを非同定モデルパラメータとしたが、同定モデルパラメータの選択はこれに限らず、変速機の仕様に応じてセレクト機構の動特性の変化との連動性が高いものを選択すればよい。
また、本実施の形態においては、シフトコントローラ50とセレクトコントローラ51は、本発明の応答指定型制御としてスライディングモード制御を用いたが、バックステッピング制御等の他の種類の応答指定型制御を用いてもよい。また、応答指定型制御以外の制御方法を用いてもよい。
また、本実施の形態においては、シフトコントローラ50に備えられたスライディングモードコントローラ53と、セレクトコントローラ51に備えられたスライディングモードコントローラ55を、共に2自由度の制御器としたが、いずれか一方のスライディングモードコントローラのみを2自由度の制御器とする場合にも、本発明の効果を得ることができる。
1…制御装置、2…同期機構、4…出力軸、5…入力軸、10…シフトフォーク、11…シフトアーム、12…セレクト用モータ、13…シフト用モータ、20…シフト/セレクト軸、21…シフトピース、22…カップリングスリーブ、23…シンクロナイザリング、40…シフト機構、50…シフトコントローラ、51…セレクトコントローラ、52…目標位置算出部、53…シフトコントローラのスライディングモードコントローラ、55…セレクトコントローラのスライディングモードコントローラ、57…部分パラメータ同定器、60…滑り率コントローラ、61…クラッチ機構、70…セレクト機構