JP2005042788A - 自動変速機の変速制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】油圧応答性を損なうことなく駆動系の振動を抑制することができる自動変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】自動変速機の変速制御装置は、一の変速段から他の変速段への変速にあたり解放側摩擦係合要素による伝達トルクを減少させることによりスリップを発生させるとともに、係合側摩擦係合要素による伝達トルクを増大させる。この装置は、自動変速機の入力軸回転速度に基づき、解放側摩擦係合要素及び係合側摩擦係合要素に付与する油圧(指示圧)をフィードバック制御する。駆動系の共振点を相殺するように入力軸回転速度を処理するノッチフィルタを設定している。
【選択図】 図3
【解決手段】自動変速機の変速制御装置は、一の変速段から他の変速段への変速にあたり解放側摩擦係合要素による伝達トルクを減少させることによりスリップを発生させるとともに、係合側摩擦係合要素による伝達トルクを増大させる。この装置は、自動変速機の入力軸回転速度に基づき、解放側摩擦係合要素及び係合側摩擦係合要素に付与する油圧(指示圧)をフィードバック制御する。駆動系の共振点を相殺するように入力軸回転速度を処理するノッチフィルタを設定している。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動変速機の変速制御において、ワンウェイ・クラッチが受け持っていた解放側クラッチ(摩擦係合要素)の機能、すなわち係合側クラッチ(摩擦係合要素)の受け持ちトルクの上昇に合わせて解放側クラッチの受け持ちトルクを減少させる機能を、ソフトウェアによるクラッチ供給油圧の制御によって実現するいわゆるクラッチ・ツゥ・クラッチ変速が知られている。このクラッチ・ツゥ・クラッチ変速では、解放側クラッチと係合側クラッチとを連携して制御することでギヤ段を切り替えて変速する。
【0003】
【特許文献1】
特願2002−220138号
【特許文献2】
特開平8−320066号公報
【特許文献3】
特開2001−182818号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、こうしたクラッチ・ツゥ・クラッチ変速では、解放側クラッチから係合側クラッチへの切り替え制御が精度良く行われないと、変速フィーリングが悪化してしまう。例えば、解放側クラッチの受け持ちトルクの減少に対して、係合側クラッチの受け持ちトルクの上昇が過剰になるとき、インターロック状態となってトルク相での急速なアウトプットトルク(出力軸のトルク)の落ち込み(引き込みショック)が生じる。逆に、係合側クラッチの受け持ちトルクの上昇が過小になるときは、タービン側の入力トルクを支えきれずにタービン回転が吹き上がるとともにトルク抜けが発生し、著しく変速フィーリングを悪化させる。
【0005】
この課題に対して本出願人は、例えば特許文献1の変速制御態様により良好なアップシフト変速を実現している。すなわち、この変速制御では、出力軸回転速度が変速点を超えて変速指令が出されると、解放側クラッチ油圧を徐々に低減してタービン回転に微小スリップを発生させる。そして、係合側クラッチが十分なトルクを受け持つことができる状態になるまで適正なスリップ量が維持されるよう、解放側クラッチ油圧を制御する。
【0006】
一方、タービン回転にスリップが発生すると同時に、係合側クラッチに対するプリチャージを終了して伝達トルクが発生しない上限の圧(待機圧)に維持していた係合側クラッチ油圧を、イナーシャ相への移行に必要な圧(棚圧)に増大して係合側クラッチに伝達トルクを発生させる。これにより、タービン回転のスリップ量が減少し、スリップフィードバック制御によって解放側クラッチ油圧が低減される。
【0007】
以上の処理が進行してスリップ量が消失すると、この段階で両クラッチ間のトルクの受け渡しが完了したと見なして解放側クラッチ油圧を全解放し、トルク伝達を行うトルク相から回転を吸収するイナーシャ相に移行する。そして、イナーシャ相において実タービン回転速度が次変速段のタービン回転速度に到達するまで同タービン回転速度が一定の変化率で減速されるようにイナーシャフィードバック制御を行うことで、アップシフト変速での良好な変速フィーリングを実現している。
【0008】
しかしながら、車両によっては車両の駆動系には、比較的低周波(5〜10Hz程度)の領域において共振点が存在する。従って、上記のように係合側クラッチ油圧を待機圧から棚圧へと増大させるような共振点を含む比較的高い周波数成分を含む動作を行うと、係合側クラッチ油圧を増大させる動作自体が加震源となる。このため、一般的なフィードバック制御(例えばPID制御)のみでは、共振点を含む油圧の増減が行われることになり、ひいては駆動系の振動を助長して変速フィーリングを悪化させる原因となりうる。
【0009】
こうした課題を鑑みて、例えば特許文献2では、入力軸回転速度(あるいはその勾配)を目標とするフィードバック制御に際して、その制御出力(指示圧)に対し振動補正を実施し、更に所定以上の高周波成分を除去するローパスフィルタ処理により振動の助長を防いでいる。ところが、ここでのローパスフィルタ処理では、振動抑制にある程度の効果があるものの油圧応答性が犠牲になることは避けられない。
【0010】
また、特許文献3では、入力軸回転速度を目標値に一致させるようにフィードバック制御を行って算出したクラッチ油圧(指示圧)を、実油圧特性が理想的な応答(規範モデル)となるよう設計した逆フィルタ(フィードフォワードコントローラ)により処理し動特性補償を行う。これにより、共振点が存在する油圧の応答を改善している。しかし、油圧応答の改善(油圧回路の振動抑制)は可能であるものの、車両自体によって発生する駆動系振動(駆動系の共振点)に対処することはできない。
【0011】
本発明の目的は、油圧応答性を損なうことなく駆動系の振動を抑制することができる自動変速機の変速制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の摩擦係合要素の各々に付与する油圧を制御して該摩擦係合要素を係合状態又は解放状態に維持することにより所定の変速段を達成し、一の変速段から他の変速段への変速にあたり解放側摩擦係合要素に付与する油圧を減少させて該解放側摩擦係合要素による伝達トルクを減少させるとともに、係合側摩擦係合要素に付与する油圧を増大させて該係合側摩擦係合要素による伝達トルクを増大させる自動変速機の変速制御装置であって、前記自動変速機の入力軸回転速度に基づき、前記解放側摩擦係合要素及び前記係合側摩擦係合要素の少なくとも一方に付与する油圧をフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、駆動系の共振点を相殺するように前記入力軸回転速度を処理するノッチフィルタを設定したことを要旨とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置において、前記ノッチフィルタにより処理された入力軸回転速度を、ノイズを除去するように処理するローパスフィルタを設定したことを要旨とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置において、前記フィードバック制御手段は、前記自動変速機の入力軸回転速度及び出力軸回転速度に基づき、前記解放側摩擦係合要素による伝達トルクの減少によって発生するスリップ量を算出するスリップ量算出手段と、変速ショックを抑制するように目標スリップ量を算出する目標スリップ量算出手段と、を有し、前記算出されたスリップ量と目標スリップ量とが等しくなるように前記解放側摩擦係合要素に付与する油圧をフィードバック制御することを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置において、前記フィードバック制御手段は、前記自動変速機の入力軸回転速度に基づき入力軸回転変化率を算出し、該入力軸回転変化率と所定の目標入力軸回転変化率とが等しくなるように前記係合側摩擦係合要素に付与する油圧をフィードバック制御することを要旨とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置において、トルクコンバータの入力軸及び前記自動変速機の入力軸を直結可能なロックアップクラッチを備え、前記ノッチフィルタは、前記ロックアップクラッチの係合・非係合に応じて異なるフィルタ係数を有することを要旨とする。
【0017】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、前記解放側摩擦係合要素及び前記係合側摩擦係合要素の少なくとも一方に付与する油圧のフィードバック制御に係る自動変速機の入力軸回転速度が、ノッチフィルタにより駆動系の共振点を相殺するように処理される。従って、上記フィードバック制御に伴う油圧の増減によって助長されうる駆動系の振動が抑制される。また、例えば付与する油圧(指示圧)にローパスフィルタを設定して所定以上の高周波成分を除去し駆動系の振動抑制を図る場合のように油圧応答性を損なうこともない。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、ノッチフィルタにより処理された入力軸回転速度が、ローパスフィルタによりノイズ(センサノイズ)を除去するように処理される。従って、ノイズの影響が抑制された油圧のフィードバック制御が可能となる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、解放側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御によるスリップ量の制御において、駆動系の振動が抑制される。
請求項4に記載の発明によれば、係合側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御による入力軸回転変化率の制御において、駆動系の振動が抑制される。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、ロックアップクラッチの係合・非係合に応じてノッチフィルタが異なるフィルタ係数を有することで、各状態ごとに好適な制御が可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による車両用自動変速機の変速制御装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動変速機の変速制御装置を車両に搭載した例を概略的に示している。この車両は、エンジン10と、ロックアップクラッチ付流体式のトルクコンバータ20と、自動変速機30と、トルクコンバータ20及び自動変速機30に供給される作動油(ATF:オートマチックトランスミッションフルード)の圧力(油圧)を制御するための油圧制御回路40と、油圧制御回路40に制御指示信号を与える電気制御装置50とを含んでいて、図示しないアクセルペダルの操作により増減されるエンジン10の動力(発生トルク)を、トルクコンバータ20、自動変速機30、及び図示しない差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)などを介して駆動輪(タイヤ)へ伝達するようになっている。
【0022】
トルクコンバータ20は、図1及び図2に示したように、エンジン10が発生する動力を流体(作動油)を介して自動変速機30に伝達する流体式伝達機構21と、この流体式伝達機構21に対して並列に連結されたロックアップクラッチ機構22とからなっている。
【0023】
流体式伝達機構21は、エンジン10のクランク軸と一体的に回転するトルクコンバータ入力軸12に連結されたポンプ羽根車21aと、同ポンプ羽根車21aが発生する作動油の流れにより回転されるとともに自動変速機30の入力軸31に連結されたタービン羽根車21bと、ステータ羽根車21c(図1においては省略)とを含んでいる。
【0024】
ロックアップクラッチ機構22は、図2に示したように、ロックアップクラッチ22aを含んで構成されていて、接続された油圧制御回路40による作動油の給排により、トルクコンバータ入力軸12と自動変速機30の入力軸31とを同ロックアップクラッチ22aにより機械的に結合してこれらを一体的に回転させる係合状態と、前記ロックアップクラッチ22aによる機械的な結合を解除する非係合状態とを達成し得るようになっている。
【0025】
自動変速機30は、前進6段後進1段の変速段を達成するものであって、リングギヤR1を有する第1列のシングルピニオンプラネタリギヤG1と、第2列のシングルピニオンプラネタリギヤG2及び第3列のシングルピニオンプラネタリギヤG3とを備えている。また、自動変速機30は、摩擦クラッチC1,C2,C3と、摩擦ブレーキB1,B2とを摩擦係合要素として備えている。この自動変速機30における各摩擦係合要素の係合・解放(非係合)状態と達成される変速段との関係は下記表1に示す通りである、なお、表1において○は係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ示している。
【0026】
【表1】
油圧制御回路40は、図1に示したように、電気制御装置50からの制御指示信号により制御される3個のオン・オフソレノイドバルブ41〜43及び3個のリニアソレノイドバルブ44〜46を含んでいて、前記オン・オフソレノイドバルブ41〜43の作動の組み合わせに基づいてロックアップクラッチ機構22及び自動変速機30の摩擦係合要素に対する油の給排を制御するとともに、前記リニアソレノイドバルブ44〜46を駆動してこれらに供給される油圧をライン圧PL以下の範囲内で調整し得るようになっている。
【0027】
電気制御装置50は、何れも図示を省略したCPU、メモリ(ROM,RAM)、及びインタフェースなどから成るマイクロコンピュータである。電気制御装置50は、スロットル開度センサ61、エンジン回転速度センサ62、タービン回転速度センサ63、及び出力軸回転速度センサ64と接続されていて、これらのセンサ61〜64が発生する信号を入力するようになっている。
【0028】
スロットル開度センサ61は、エンジン10の吸気通路に設けられ図示しないアクセルペダルの操作に応じて開閉されるスロットルバルブ11の開度(以下、「スロットル開度」という。)を検出し、同スロットル開度Thを表す信号を発生するようになっている。エンジン回転速度センサ62は、エンジン10の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを表す信号を発生するようになっている。タービン回転速度センサ63は、自動変速機の入力軸31の回転速度を検出し、タービン回転速度(自動変速機30の入力軸回転速度)Ntを表す信号を発生するようになっている。出力軸回転速度センサ64は、図示しないエンジンマウントにより支持されたエンジン10と一体的な自動変速機ケース(図示省略)に固定されていて、自動変速機30の出力軸32の回転速度(アウトプット回転速度)を検出し、同自動変速機30の出力軸回転速度(即ち、車速に比例する値)Noを表す信号を発生するようになっている。
【0029】
上記電気制御装置50は、出力軸回転速度Noとスロットル開度Thとで構成される変速マップ及びロックアップクラッチ作動マップをメモリ内に記憶していて、検出された出力軸回転速度Noと検出されたスロットル開度Thにより定まる点が変速マップに示された変速線を横切るとき、及び、前記点が前記ロックアップクラッチ作動マップのロックアップ領域内にあるか否かに応じ、油圧制御回路40のオン・オフソレノイドバルブ41〜43及びリニアソレノイドバルブ44〜46を制御して、上記表1に示したように摩擦係合要素の係合・解放状態を変更するとともに、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態を変更するようになっている。
【0030】
次に、上記のように構成された自動変速機の変速制御装置が、自動変速機30の変速段を2速から3速へ変速する際に実行する「クラッチ・ツゥ・クラッチ制御」について説明する。
(概要)
先ず、図3を参照しながら、2速から3速への変速時における油圧制御の概要について説明する。同図において、時刻t0に、出力軸回転速度Noとスロットル開度Thとで定まる点が2速から3速へのアップシフトの変速線を横切ったとする。このとき、アップシフト変速の変速開始指示が出され、電気制御装置50は解放側摩擦係合要素(摩擦ブレーキB1)の油圧制御と係合側摩擦係合要素(摩擦クラッチC3)の油圧制御を開始する(表1参照)。
【0031】
すなわち、電気制御装置50は、解放側摩擦係合要素(摩擦ブレーキB1)に対する制御指令値(指示圧)により、時刻t0から当該係合要素に対する油圧(以下、「解放側油圧」という。)をライン圧PLから急減させその後に徐々に減少させる解放初期ランプ制御を行う。これにより、解放側摩擦係合要素による伝達トルクが減少してスリップが発生する。このスリップ量(タービン回転吹き量)は、タービン回転速度Ntと当該変速段(この場合は2速)のギヤ比を乗じた出力軸回転速度Noとのずれ量に相当し、解放側摩擦係合要素の制御の指標となるものである。電気制御装置50はこのスリップ量を常時監視しつつ、解放側油圧を減少させる。この減圧に伴い時刻t2でスリップ量が設定したしきい値r1を超えると、電気制御装置50は解放側摩擦係合要素のスリップが開始したと判断し、スリップ量を指標に解放側摩擦係合要素のスリップフィードバック制御(スリップFB制御)を開始する。このスリップFB制御にあたっては、変速ショックを抑制する理想的な軌跡を描きながら上記しきい値r1から所定の目標値r2へと推移して同目標値r2を維持するように制御される。この結果、時間の経過とともにスリップ量は目標値r2へと滑らかに上昇する。
【0032】
一方、電気制御装置50は、解放状態にある係合側摩擦係合要素(摩擦クラッチC3)に対する制御指令値(指示圧)により、時刻t0から当該係合要素に対する油圧(以下、「係合側油圧」という。)を急激に上昇させるプリチャージ制御を行う。そして、プリチャージ制御を時刻t1で終了すると、電気制御装置50は係合側油圧をトルク容量(トルクの伝達能力)が発生する寸前の圧(待機圧)まで上昇させ、スリップ(スリップFB制御)が開始する時刻t2までこれを維持する待機圧制御を行う。そして、時刻t2においてスリップが開始すると、電気制御装置50は、係合側摩擦係合要素に対する制御指令値により、イナーシャ相への移行に必要な圧(棚圧)まで時間経過とともに係合側油圧を徐々に上昇させて当該係合要素による伝達トルクを増大させる棚圧制御を開始する。これにより、係合側油圧が上昇し、係合側摩擦係合要素がトルクを持ち始め、スリップ量が減少し始める。このとき、電気制御装置50は上記スリップFB制御によりスリップ量を目標値r2に維持しようとするので、同スリップ量を増大させようとして解放側油圧(解放側摩擦係合要素の伝達トルク)を減少させる。この動作により、係合側摩擦係合要素がつかんだ容量分のトルクを解放側摩擦係合要素が解放していく。この状態が進行し、解放側摩擦係合要素が受け持っていたトルクが係合側摩擦係合要素へ伝達され、係合側摩擦係合要素が十分なトルク容量を持つ時刻t3になると、スリップ量が「0」となる。
【0033】
時刻t3においてスリップ量が消失する(「0」になる)と、電気制御装置50はトルクの受け渡しを行うトルク相を完了したと見なし、スリップFB制御を終了するとともに、解放側油圧を完全ドレンさせるランプ解放制御を行う。そして、時刻t4にてタービン回転速度Ntと当該変速段(この場合は変速前の2速)のギヤ比を乗じた出力軸回転速度Noとの偏差がしきい値r3を下回ると、電気制御装置50はイナーシャ相でのイナーシャFB制御の開始判定をする。そして、電気制御装置50は係合側油圧をタービン回転速度Ntの変化率(実回転変化率ΔNt)が目標回転変化率ΔNTとなるようにするフィードバック制御(イナーシャFB制御)を開始する。そして、時刻t5にてタービン回転速度Ntと当該変速段(この場合は変速後の3速)のギヤ比を乗じた出力軸回転速度Noとが一致すると、係合側油圧をライン圧PLまで増大させる変速終了処理を行う。以上によって変速制御が終了する。
【0034】
ここで、スリップFB制御は、目標スリップ量と実スリップ量との偏差に基づくフィードバック制御となるが、後述するようにこのスリップ量はタービン回転速度(入力軸回転速度)Ntによって求められる。一方、イナーシャFB制御は、目標回転変化率(目標入力軸回転速度勾配)と実回転変化率(実入力軸回転速度勾配)との偏差に基づくフィードバック制御となるが、後述するようにこの回転変化率もタービン回転速度Ntによって求められる。
【0035】
そこで、本実施形態では、自動変速機30における指示圧からタービン回転速度Ntまでのステップ応答やM系列応答などを予め計測することで、変速機本体としての制御対象P(s)の伝達関数を求めている。なお、sは微分演算子であり、制御対象P(s)はこの微分演算子sの多項式で表される。図4の実線は、制御対象P(s)の伝達関数を示すボード線図である。同図から明らかなように、この制御対象P(s)は、範囲Cで示した周波数領域に共振点が存在することが確認される。この共振点は、駆動系の共振点に相当する。
【0036】
そして、本実施形態では、この共振点を打ち消すように設計したノッチフィルタNF(s)によりタービン回転速度Ntをフィルタ処理する。このノッチフィルタNF(s)も、微分演算子sの多項式で表される。図5は、このノッチフィルタNF(s)の伝達関数を示すボード線図である。同図に示されるように、このノッチフィルタNF(s)は、制御対象P(s)の共振点に対応して急減する周波数特性を有している。従って、図4に破線にて併せ示されるように、フィルタ処理後の制御対象P(s)は、共振点での周波数特性が相殺されている。
(スリップFB制御の原理)
次に、上述した時刻t2〜t3におけるスリップFB制御の原理について図6の制御ブロック図に基づき説明する。良いフィーリングを得るためには、スリップ中のアウトプットトルクの変化をできるだけ抑えつつスリップ量を目標値r2に到達させ、係合側摩擦係合要素のトルクが立ち上がるまで、そのスリップ量を維持する必要がある。そこで、図3に併せ示したように、しきい値r1から目標値r2へとステップ状に変化する入力を与えたとき、目標値r2に対してオーバーシュートすることなく同目標値r2へと移行する最良のフィーリングが得られる理想的なスリップ量の時間変化に対して規範モデルM(s)の伝達関数を決定する。ここで、規範モデルM(s)は、微分演算子sの多項式で表される。
【0037】
次に、変速機本体としての制御対象P(s)をI−P制御する閉ループ系を考える。図6において、Ki,Kpは、積分器及び比例器の各ゲインである。この閉ループ系へ入力として上記目標値r2を与えた場合の出力が上記規範モデルM(s)の出力と一致するように、モデルマッチング法を用いてI−P制御コントローラを設計する。このI−P制御コントローラも、微分演算子sの多項式で表される。
【0038】
このようにして得られたI−P制御コントローラを用いて解放側油圧を制御すれば、実スリップ量SLIPは規範モデルの出力のように滑らかに上昇し、従って、自動変速機30のアウトプットトルクの変動が抑制される。
【0039】
ここで、一般的にコントローラの設計(ゲイン設計を含めて)にあたっては、量産化時の個体差ばらつき、温度変化による作動油(ATF)の特性変動や経年変化(摩擦係合要素の磨耗、作動油の劣化)などの外乱の影響も考慮される。しかしながら、上述のクラッチ・ツゥ・クラッチ変速ではこれらの影響が大きいため、これらの影響を受けにくい(あるいは吸収しやすい)制御構造にする必要がある。
【0040】
そこで、目標値r2に対する理想的なスリップ応答である規範モデルM(s)の出力と、上述のI−P制御コントローラの出力である実スリップ量SLIPとの偏差(モデル誤差量)をとる。そして、それに誤差フィードバックゲインTを乗じてフィードバックするいわゆる誤差フィードバック(誤差FB)のループを構成している。これにより、規範モデルM(s)とのずれを小さくするように制御を働かせることができ、ばらつきや外乱の影響を吸収することが可能となる。
【0041】
すなわち、摩擦係合要素のストロークや油圧制御バルブ特性等のばらつき、油温度変化や作動油の劣化による油特性の変動、及び摩擦係合要素の摩耗等に起因する外乱(制御対象P(s)のずれ)の影響を受け難い変速制御を実現することが可能となる。
(実際のスリップ量の求め方)
次に、上記スリップFB制御において使用される実スリップ量SLIPの求め方について説明する。
【0042】
基本的に、スリップFB制御に先だってスリップ開始判定(しきい値r1との比較)に供されるスリップ量は、タービン回転速度(Nt)と出力軸回転速度に変速前のギヤ比G1を乗じた値(No×G1)との差(Nt−No×G1)から算出する。
【0043】
このスリップ開始判定に基づくスリップFB制御への移行に伴い解放側摩擦係合要素が減圧されてスリップを開始すると、タービン回転速度(Nt)が上昇する。上述の駆動系の共振点を含むタービン回転速度を用いてスリップ量を演算し、指示圧によるスリップFB制御を行うと、当該制御によってタービン回転速度の振動が励起される。従って、タービン回転速度については、駆動系の共振点を相殺することを目的とした上述のノッチフィルタNF(s)を設定している。また、フィルタ処理後のタービン回転速度について、更にノイズ(センサノイズ)の除去を目的としたローパスフィルタL2(s)を設定している。
【0044】
また、スリップを開始すると、入力トルクが減少するため、プロペラシャフトや駆動輪(タイヤ)のねじれ、エンジンマウントなどの影響を受け、出力軸回転速度(No)に駆動系振動が重畳する。この振動が重畳した出力軸回転速度Noを用いてスリップ量を演算し、指示圧によるスリップFB制御を行うと、当該制御によってタービン回転速度の振動が励起される。従って、出力軸回転速度については、スリップ中の駆動系振動除去を目的としたローパスフィルタL3(s)を設定している。
【0045】
以上により、スリップFB制御の開始後は、ノッチフィルタNF(s)及びローパスフィルタL2(s)によるフィルタ処理後のタービン回転速度(Nt_flt)と、ローパスフィルタL3(s)によるフィルタ処理後の出力軸回転速度と(No_flt)に基づきスリップ量を演算する。なお、上記各フィルタ処理に係る伝達関数(L2(s),L3(s))は、設計されたスリップFB制御系(図6参照)の特性に対して影響を及ぼさない範囲で調整されている。
【0046】
しかしながら、当然低い振動周波数除去を目的としたフィルタ処理(ここでは出力軸回転速度に対するフィルタ処理L3(s)・No)では遅れが発生する。このため、当該フィルタ処理を行った回転速度を用いて演算するスリップ量は、実際のスリップ量よりも大きく算出されることになる。
【0047】
このフィルタ処理による実スリップ量との誤差は、出力軸回転速度センサ64の出力値を示す生値の出力軸回転速度Noとフィルタ処理後の出力軸回転速度との差であるオフセット量Saを取得して、これによりフィルタ処理後の出力軸回転速度を補正してスリップ量を演算することで、回避することが可能となる。すなわち、図6に併せ示すように、フィルタ処理された回転速度Nt,Noに基づくスリップ量(=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1)に対し、上記オフセット量Sa分の補正を加えて下式に基づき最終的なスリップ量SLIPを演算している。
【0048】
SLIP=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1+Sa
しかしながら、時刻t2においてオフセット量Saを単純に生値の出力軸回転速度Noとフィルタ処理後の出力軸回転速度との差(=No−L3(s)・No)から算出すると、出力軸回転速度Noにはセンサノイズをはじめとするノイズが重畳しているため、取得タイミングの違いによってオフセット量がばらつき、正しく取得できなくなる。
【0049】
そこでスリップ検知の時刻t2のスリップ量がしきい値r1であることを用いて、SLIP(=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1+Sa)がしきい値r1となるオフセット量Saを取得する。このとき、オフセット量Saは、
Sa=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1−r1
となる。
【0050】
当該スリップFB制御では、このときのオフセット量Saをもとに下式に従ってスリップ検知以後のスリップ量を補正・算出する。
SLIP=NF(s)・L2(s)・Nt−(L3(s)・No・G1+Sa)
以上の態様でスリップFB制御を行うことで、ノイズを除去しつつ、駆動系の共振点を相殺して、解放側摩擦係合要素を制御することが可能となる。このため、当該FB制御による駆動系振動の助長が抑制され、アウトプットトルクの変動も抑制される。また、スリップ中の駆動系振動を除去しつつ、係合側摩擦係合要素が容量を持ち始めた際のスリップ量低下にも遅れることなく、解放側摩擦係合要素を制御することが可能となる。そして、円滑なクラッチ・ツゥ・クラッチ変速を達成することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、スリップFB制御においてノッチフィルタNF(s)による駆動系の共振点の相殺等は、前記ロックアップクラッチ22aの非係合状態においてのみ行うようにしている。これは、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態に応じて共振点が変化し、ロックアップクラッチ22aの係合状態では共振点が実質的に消失することによる。
(イナーシャFB制御の原理)
次に、上述した時刻t4〜t5におけるイナーシャFB制御の原理について図7の制御ブロック図に基づき説明する。イナーシャFB制御では、タービン回転速度Ntの実回転変化率ΔNtが所定の目標回転変化率ΔNTとなるように制御される。そこで、制御対象P(s)をPID制御する閉ループ系を考える。図7において、Ki,Kp,Kdは、積分器、比例器及び微分器の各ゲインである。タービン回転速度Ntの変化率ΔNtが目標回転変化率ΔNTとなるようにPID制御コントローラを設計する。このPID制御コントローラも、微分演算子sの多項式で表される。
【0052】
このようにして得られたPID制御コントローラを用いて係合側油圧を制御すれば、タービン回転速度Ntは一定の目標回転変化率ΔNTを保つように減少し、自動変速機30のアウトプットトルクの変動が抑制される。
(実際の回転変化率の求め方)
次に、上記イナーシャFB制御において使用される実回転変化率ΔNtの求め方について説明する。
【0053】
基本的に、イナーシャFB制御の開始判定では、タービン回転速度(Nt)と出力軸回転速度に変速前のギヤ比G1を乗じた値(No×G1)との差(Nt−No×G1)と、しきい値r3とを比較する。
【0054】
この開始判定に基づくイナーシャFB制御への移行に伴い係合側摩擦係合要素が増圧されてトルク伝達を開始すると、タービン回転速度(Nt)が減少する。上述の駆動系の共振点を含むタービン回転速度を用いて回転変化率を演算し、指示圧によるイナーシャFB制御を行うと、当該制御によってタービン回転速度の振動が励起される。従って、タービン回転速度については、駆動系の共振点を相殺することを目的とした上述のノッチフィルタNF(s)を設定している。また、フィルタ処理後のタービン回転速度について、更に上述のノイズ除去を目的としたローパスフィルタL2(s)を設定している。
【0055】
以上により、イナーシャFB制御の開始後は、ノッチフィルタNF(s)及びローパスフィルタL2(s)によるフィルタ処理後のタービン回転速度(Nt_flt)に基づき回転変化率を演算する。なお、上記各フィルタ処理に係る伝達関数(L2(s))は、設計されたイナーシャFB制御系(図7参照)の特性に対して影響を及ぼさない範囲で調整されている。
【0056】
以上の態様でイナーシャFB制御を行うことで、ノイズを除去しつつ、駆動系の共振点を相殺して、係合側摩擦係合要素を制御することが可能となる。このため、当該FB制御による駆動系振動の助長が抑制され、アウトプットトルクの変動も抑制される。そして、円滑なクラッチ・ツゥ・クラッチ変速を達成することができる。
(具体的作動)
次に、上記自動変速機の変速制御装置の2速から3速への変速時における具体的な作動について説明する。
【0057】
まず、電気制御装置50のCPUにより実行されるメインルーチンについて図8のフローチャートに基づき説明する。このルーチンは、変速開始後(アップシフトの変速開始指示後)において、所定時間(例えば5msec)の経過毎に繰り返し実行される。
【0058】
処理がこのルーチンに移行するとCPUは、まずステップ101において現在のタービン回転速度Ntを演算し、更にステップ102において出力軸回転速度Noを演算する。そして、ステップ103に移行して、CPUは下式に基づきフィルタ処理後の出力軸回転速度No_fltを演算する出力軸回転ローパスフィルタ演算を実行する。
【0059】
なお、変数n,n−1,n−2は、今回、前回及び前前回のルーチンにおける各演算値であることを示している(以下も同様)。また、c1〜c5は、当該フィルタ処理(伝達関数:L3(s))を離散化することで得られるローパスフィルタのフィルタ係数c1〜c5である。
【0060】
次に、CPUは、ステップ104においてこのルーチンが変速開始直後である初回実行か否かを判断する。そして、初回実行であればステップ105に移行して以下のタービン回転ノッチフィルタ演算及びタービン回転フィルタ演算におけるフィルタ処理(伝達関数:NF(s),L2(s))をそれぞれ離散化することで得られる各フィルタ係数a,b(a1〜a5,b1〜b5)を読み込む。そして、CPUは更にステップ106に移行して前回の変速時に演算されたノッチフィルタ処理後のタービン回転速度(暫定タービン回転速度Nt_ftmp)を、今回の変速時の暫定タービン回転速度Nt_ftmpの前回値として設定する。同時に、CPUは前回の変速時に演算されたフィルタ処理後のタービン回転速度(フィルタ処理後タービン回転速度Nt_flt)を、今回の変速時のフィルタ処理後タービン回転速度Nt_fltの前回値として設定し、ステップ107に移行する。また、ステップ104において初回実行でないと判断されると、上述の初期処理が不要であることからCPUはそのままステップ107に移行する。
【0061】
ステップ107においてCPUは、下式に基づき暫定タービン回転速度Nt_ftmpを演算するタービン回転ノッチフィルタ演算を実行する。
なお、a1〜a5は、ステップ105で読み込まれたフィルタ係数であり、ここでは2次のノッチフィルタとして処理している。
【0062】
そして、ステップ108においてCPUは、下式に基づきフィルタ処理後のタービン回転速度Nt_fltを演算するタービン回転フィルタ演算を実行する。なお、b1〜b5は、ステップ105で読み込まれたフィルタ係数である。
【0063】
そして、CPUはその後の処理を一旦終了する。
【0064】
次に、電気制御装置50のCPUにより実行される解放側油圧制御ルーチンについて図9のフローチャートに基づき説明する。このルーチンは、アップシフト変速(ここでは、2速から3速)の変速開始指示が出されることで起動される。従って、このタイミングにおいて、CPUはステップ200からの処理を開始する。処理がこのルーチンに移行すると、CPUはステップ201において、解放初期ランプ制御を開始する。すなわち、CPUは解放側油圧をライン圧PLから急減させその後に徐々に減少させる(図3参照)。
【0065】
次いで、CPUはステップ202に進んでスリップ開始判定を行う。具体的には、タービン回転速度Nt及び出力軸回転速度Noに基づく現在の実スリップ量SLIP(=Nt−No・G1)がしきい値r1より大きいか否かを判断する。
【0066】
この段階でスリップが発生していると、CPUはステップ300のサブルーチンに進み、図10及び図11のスリップFB制御を実行する。そして、ステップ301において、スリップFB制御への移行後初めての処理かどうかの初回実行判断を行い、初回実行と判断されるとステップ302に移行する。そして、CPUは各種初期値を記憶する。例えば、CPUは、制御開始時である現在の指示圧(制御指令値)Piniをフィードバック初期値PFBとして記憶する。
【0067】
次に、CPUはステップ303に進み、当該変速段に対応する解放側の比例ゲインKp、積分ゲインKi、誤差フィードバックゲインT、規範モデル係数(an,bn)を読みこみ、ステップ304に進む。なお、規範モデル係数(an,bn)は、規範モデルM(s)を離散化することで得られたものである。
【0068】
また、ステップ301の判断において初回実行ではないと、上述の初期処理が不要であることからそのままステップ304に移行する。
ステップ304においてCPUは、当該変速段に対応する目標スリップ量R_SLIPを読みこみ、更にステップ305に進む。
【0069】
ステップ305において、CPUはロックアップクラッチ22aが係合状態か否かを判断する。そして、ロックアップクラッチ22aが係合状態のときには、CPUはステップ306に進み、タービン回転速度Nt_st及びフィルタ処理後出力軸回転速度No_flt_stを用いて出力軸回転速度のオフセット量Saを下式により取得する。
【0070】
Sa=Nt_st−No_flt_st・G1−r1
なお、ここでのタービン回転速度Nt_st及びフィルタ処理後出力軸回転速度No_flt_stは、ステップ302において、初回実行時においてメモリに保存されたものを使用する。
【0071】
次に、CPUはステップ307に進んで、現在のタービン回転速度Nt及び出力軸回転速度No_fltを用いて実スリップ量SLIPを下式により取得する。
SLIP=Nt−(No_flt・G1+Sa)
一方、ステップ305の判断においてロックアップクラッチ22aが非係合状態のときには、CPUはステップ308に進み、フィルタ処理後タービン回転速度Nt_flt_st及びフィルタ処理後出力軸回転速度No_flt_stを用いて出力軸回転速度のオフセット量Saを下式により取得する。
【0072】
Sa=Nt_flt_st−No_flt_st・G1−r1
なお、ここでのタービン回転速度Nt_st及び出力軸回転速度No_flt_stは、ステップ302において、初回実行時においてメモリに保存されたものを使用する。
【0073】
次に、CPUはステップ309に進んで、現在のフィルタ処理後タービン回転速度Nt_flt及び出力軸回転速度No_fltを用いて実スリップ量SLIPを下式により取得する。
【0074】
SLIP=Nt_flt−(No_flt・G1+Sa)
すなわち、スリップFB制御における駆動系の共振点の相殺等を、ロックアップクラッチ22aの非係合状態においてのみ行っている。
【0075】
ステップ307若しくは309で実スリップ量を演算したCPUは、ステップ310に進み、下式に従い規範モデルの出力値MDLoutを演算する。
なお、ここでのa1,a2,b1〜c3は、スリップ量が理想的な軌跡を描くように設定された規範モデル(伝達関数:M(s))を離散化することで得られるステップ303で読み込まれた規範モデル係数である。
【0076】
次に、CPUはステップ311にて、上記規範モデルの出力値MDLout(n)からスリップ量SLIPを減じ、これに誤差フィードバックゲインTを乗じて誤差FB出力値EFBoutを求める。
【0077】
EFBout=(MDLout(n)−SLIP)・T
次いで、CPUはステップ312に進み、下式に従い積分器の入力値Iinを演算する。
【0078】
Iin=R_SLIP−SLIP−EBout
そして、CPUはステップ313に進み、下式に従い比例器の出力値Poutを演算する。
【0079】
Pout=SLIP×Kp
さらにCPUはステップ314に進み、下式に従い積分器の出力値Ioutを演算する。なお、SMPTは、サンプリング時間である。
【0080】
そして、CPUはステップ315に進み、下式に従い解放側の指示圧(制御指令値)となるIP制御出力値IPoutを演算する。
【0081】
IPout=PFB+Iout−Pout
次に、CPUはステップ316にて解放側指示圧(IPout)を所定の上下限の範囲に制限し、ステップ317に進んで演算されたスリップ量SLIP(ステップ307若しくは309)が「0」以下になったか否かの判断によりスリップの消失判定をする。この段階ではスリップが開始した直後であり、係合側摩擦係合要素に対する供給油圧は小さいので、同係合側摩擦係合要素はトルク伝達を開始していない。従って、スリップ量SLIPは「0」より大きい(スリップが消失していない)ため、CPUは所定時間(ここでは5msec)だけ経過するのを待って図10のステップ304に戻る。以降、CPUはスリップ量SLIPが「0」以下となるまでステップ304〜316の処理を繰り返し実行する。
【0082】
ここで、電気制御装置50のCPUにより実行される係合側油圧制御ルーチンについて図12のフローチャートに基づき併せて説明する。このルーチンも、アップシフト変速(ここでは、2速から3速)の変速開始指示が出されることで起動される。従って、このタイミングにおいて、CPUはステップ400からの処理を開始する。処理がこのルーチンに移行すると、CPUはステップ401において、係合側油圧を急激に上昇させるプリチャージ制御を開始する(図3参照)。そして、プリチャージ制御を終了すると、CPUはステップ402に進んで係合側油圧をトルク容量が発生する寸前の圧(待機圧)まで上昇させ、スリップ(スリップFB制御)が開始するまでこれを維持する待機圧制御を行う。
【0083】
さらに、スリップ(スリップFB制御)が開始すると、CPUはステップ403に進み、係合側摩擦係合要素に対する制御指令値により、イナーシャ相への移行に必要な圧(棚圧)まで時間経過とともに係合側油圧を徐々に上昇させて当該係合要素による伝達トルクを増大させる棚圧制御を開始する。
【0084】
次に、CPUはステップ404に進み、イナーシャ相でのイナーシャFB制御開始判定を行い、開始でなければステップ403に戻って棚圧制御を繰り返す。この結果、時間の経過に伴い係合側摩擦係合要素がトルク伝達を開始し、スリップ量が減少し始める。
【0085】
解放側油圧制御に戻って説明すると、この間、スリップFB制御によってスリップ量を目標値に維持するように解放側油圧が制御される。このため、係合側摩擦係合要素のトルク伝達の開始によりスリップ量が減少し始めると、CPUは同スリップ量を増大させようとして解放側油圧を減少させる。
【0086】
このような経過によりステップ317においてスリップ量が「0」以下になると、CPUはステップ318の終了処理によりスリップFB制御を終了して、図9のステップ203に進む。そして、CPUは解放側油圧を完全ドレンさせるランプ解放制御を行い、更にステップ204に進んで解放側での変速終了処理を行い、解放側油圧制御を終了する。
【0087】
一方、解放側油圧制御の終了により、係合側油圧制御のステップ404においてイナーシャFB制御が開始と判定されると、CPUはステップ500のサブルーチンに進み、図13及び図14のイナーシャFB制御を実行する。そして、ステップ501において、イナーシャFB制御への移行後初めての処理かどうかの初回実行判断を行い、初回実行と判断されるとステップ502に移行する。そして、CPUは制御開始時である現在の指示圧(制御指令値)PAをフィードバック初期値Pfbとして記憶する。
【0088】
次に、CPUはステップ503に進み、当該変速段に対応する係合側の比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKdを読みこみ、ステップ504に進む。
【0089】
また、ステップ501の判断において初回実行ではないと、上述の初期処理が不要であることからそのままステップ504に移行する。
ステップ504においてCPUは、フィルタ処理後タービン回転速度Nt_fltを用いてタービン回転速度Ntの勾配を実回転変化率ΔNtとして下式により取得する。
【0090】
ΔNt=Nt_flt(n)−Nt_flt(n−I)
なお、Iは自然数であって、(n−I)は所定回数(I回)前の演算値であることを示す。このように、所定回数前の演算値を用いて実回転変化率ΔNtを求めるのは、タービン回転速度Ntの周期的な変動を吸収するように実回転変化率ΔNtを求めるためである。
【0091】
次に、CPUはステップ505に進み、当該変速段に対応する目標回転変化率ΔNTを読みこみ、更にステップ506に進む。そして、目標回転変化率ΔNTと、実回転変化率ΔNtとの差を下式により演算して偏差Hensa(n)を算出する。
【0092】
Hensa(n)=ΔNT−ΔNt
さらにCPUはステップ507に進み、下式に従い積分器の出力値Ioutを演算する。
【0093】
Iout(n)=((Hensa(n)*Ki)+Iout(n−1))*SMPT
続いて、CPUはステップ508に進み、下式に従いPID演算の出力値PIDoutを演算する。
【0094】
次に、CPUはステップ509に進み、下式に従いPID演算の出力値PIDoutを積分した値PIDout_Intを取得する。
【0095】
そして、CPUはステップ510に進み、下式に従いPID演算の出力値を積分した値(PIDout_Int)を単位換算して、PID制御出力値Pina_fbを演算する。
【0096】
Pina_fb=PIDout_Int(n)/(I*SMPT)
この単位換算は、各演算に係るサンプリング時間SMPTと実回転変化率ΔNtを求めるときの時間(I*SMPT)との整合をとるためのものである。
【0097】
さらに、CPUはステップ511に進み、下式に従い係合側の指示圧(制御指令値)PAを更新する。
PA=Pfb+PIDout_Int(n)
次に、CPUはステップ512にて係合側指示圧(PA)を所定の上下限の範囲に制限し、ステップ513に進んで現在のギヤ比が所定のしきい値1及びしきい値2の範囲に含まれるかを判断する。このギヤ比の範囲判断は、タービン回転速度Ntが変速後である3速のギヤ比G2と出力軸回転速度Noとの積に一致するか否かの判断に相当する。すなわち、このギヤ比の範囲判断は、イナーシャ相の終了判定をするためのものである。この段階ではイナーシャFB制御が開始した直後であるため、CPUは所定時間(ここでは5msec)だけ経過するのを待って図13のステップ504に戻る。以降、CPUはギヤ比が所定のしきい値1及びしきい値2の範囲に含まれるまでステップ504〜512の処理を繰り返し実行する。
【0098】
このようにイナーシャFB制御が行われると、タービン回転速度Ntが減少していき、図3に示したように、タービン回転速度Ntは変速後である3速のギヤ比G2と出力軸回転速度Noとの積に一致する(ギヤ比が所定のしきい値1及びしきい値2の範囲に含まれる)。これにより、CPUはステップ514の終了処理によりイナーシャFB制御を終了して、図12のステップ405に進む。そして、CPUは係合側での変速終了処理を行い、係合側油圧制御を終了する。
【0099】
以上によって2速から3速へのクラッチ・ツゥ・クラッチ変速が終了する。
図15は、ロックアップクラッチ22aの非係合状態において、2速から3速へのクラッチ・ツゥ・クラッチ変速に伴うエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Nt、出力軸回転速度No及びアウトプットトルクの推移を示すグラフである。同図において、図15(a)はノッチフィルタがないときの推移を示し、図15(b)はノッチフィルタがあるときの推移を示す。
【0100】
図15(a)から明らかなように、ノッチフィルタがないときには、上記変速においてタービン回転速度Ntは、著しく変動しながら次の変速段のタービン回転速度Ntへと切り替わる。そして、このタービン回転速度Ntの変動に対応して、アウトプットトルクも著しく変動している。
【0101】
一方、図15(b)から明らかなように、ノッチフィルタがあるときには、上記変速においてタービン回転速度Ntは、滑らかに次の変速段のタービン回転速度Ntへと切り替わる。そして、このタービン回転速度Ntの変動に対応して、アウトプットトルクの変動も抑制されている。
【0102】
なお、本実施形態では、2速から3速へのアップシフトでの制御態様について説明したが、表1にて示したその他の変速段へのアップシフトにおいても、同様の変速制御が行われる。
【0103】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、解放側摩擦係合要素(摩擦ブレーキB2)及び係合側摩擦係合要素(摩擦クラッチC3)に付与する油圧のフィードバック制御(スリップFB制御及びイナーシャFB制御)に係るタービン回転速度Ntが、ノッチフィルタNF(s)により駆動系(制御対象P(s))の共振点を相殺するように処理される。従って、上記フィードバック制御に伴う解放側及び係合側油圧(指示圧)の増減によって助長されうる駆動系の振動を抑制することができる。そして、振動の抑制によりアウトプットトルクの変動も抑制され、変速フィーリングも向上させることができる。
【0104】
また、例えば付与する油圧(指示圧)にローパスフィルタを設定して所定以上の高周波成分を除去し駆動系の振動抑制を図る場合のように油圧応答性を損なうこともない。
【0105】
(2)本実施形態では、ノッチフィルタNF(s)により処理されたタービン回転速度Nt(Nt_ftmp)が、ローパスフィルタL2(s)によりノイズ(センサノイズ)を除去するように処理される。従って、ノイズの影響が抑制された油圧のフィードバック制御が可能となる。
【0106】
(3)本実施形態では、解放側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御によるスリップ量の制御において、駆動系の振動を抑制することができる。
(4)本実施形態では、係合側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御による回転変化率の制御において、駆動系の振動を抑制することができる。
【0107】
(5)本実施形態では、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合に応じてノッチフィルタNF(s)の設定の有無を切り替えたことで、各状態ごとに好適な制御が可能となる。
【0108】
(6)本実施形態では、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合に応じてローパスフィルタL2(s)の設定の有無を切り替えたことで、各状態ごとに好適な制御が可能となる。
【0109】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に限定されるものではなく、次のように変更してもよい。
・前記実施形態においては、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態(制御対象P(s)の状態)に応じてノッチフィルタNF(s)の設定の有無を切り替えた。これに対して、例えばロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態に応じて、ノッチフィルタNF(s)が有するフィルタ係数を互いに異なるように切り替えてもよい。
【0110】
・前記実施形態においては、アップシフトでの変速制御に本発明を適用したが、ダウンシフトでの変速制御等に適用してもよい。また、2速及び3速間の変速に限定されるものではなく、その他の変速段間の変速であってもよい。
【0111】
・前記各実施形態において採用されたシステム構成は一例であってその他の構成を採用してもよい。
【0112】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1乃至5に記載の発明によれば、油圧応答性を損なうことなく駆動系の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による自動変速機の油圧制御装置を車両に搭載した場合の概略図。
【図2】図1に示した自動変速機のスケルトン図。
【図3】2速から3速への変速が行われる際の解放側及び係合側指示圧、解放側及び係合側油圧、回転速度、実スリップ量を示すタイムチャート。
【図4】自動変速機(制御対象)の周波数特性を示すグラフ。
【図5】ノッチフィルタの周波数特性を示すグラフ。
【図6】スリップFB制御に係る全システムのブロック線図。
【図7】イナーシャFB制御に係る全システムのブロック線図。
【図8】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図9】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図10】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図11】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図12】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図13】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図14】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図15】(a)(b)は、ノッチフィルタの効果を説明するタイムチャート。
【符号の説明】
10…エンジン、12…トルクコンバータ入力軸、20…トルクコンバータ、22a…ロックアップクラッチ、30…自動変速機、31…入力軸、32…出力軸、40…油圧制御回路、50…スリップ量算出手段、目標スリップ量算出手段、及びフィードバック制御手段を構成する電気制御装置、63…タービン回転速度センサ、NF(s)…ノッチフィルタ、L2(s)…ローパスフィルタ。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動変速機の変速制御において、ワンウェイ・クラッチが受け持っていた解放側クラッチ(摩擦係合要素)の機能、すなわち係合側クラッチ(摩擦係合要素)の受け持ちトルクの上昇に合わせて解放側クラッチの受け持ちトルクを減少させる機能を、ソフトウェアによるクラッチ供給油圧の制御によって実現するいわゆるクラッチ・ツゥ・クラッチ変速が知られている。このクラッチ・ツゥ・クラッチ変速では、解放側クラッチと係合側クラッチとを連携して制御することでギヤ段を切り替えて変速する。
【0003】
【特許文献1】
特願2002−220138号
【特許文献2】
特開平8−320066号公報
【特許文献3】
特開2001−182818号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、こうしたクラッチ・ツゥ・クラッチ変速では、解放側クラッチから係合側クラッチへの切り替え制御が精度良く行われないと、変速フィーリングが悪化してしまう。例えば、解放側クラッチの受け持ちトルクの減少に対して、係合側クラッチの受け持ちトルクの上昇が過剰になるとき、インターロック状態となってトルク相での急速なアウトプットトルク(出力軸のトルク)の落ち込み(引き込みショック)が生じる。逆に、係合側クラッチの受け持ちトルクの上昇が過小になるときは、タービン側の入力トルクを支えきれずにタービン回転が吹き上がるとともにトルク抜けが発生し、著しく変速フィーリングを悪化させる。
【0005】
この課題に対して本出願人は、例えば特許文献1の変速制御態様により良好なアップシフト変速を実現している。すなわち、この変速制御では、出力軸回転速度が変速点を超えて変速指令が出されると、解放側クラッチ油圧を徐々に低減してタービン回転に微小スリップを発生させる。そして、係合側クラッチが十分なトルクを受け持つことができる状態になるまで適正なスリップ量が維持されるよう、解放側クラッチ油圧を制御する。
【0006】
一方、タービン回転にスリップが発生すると同時に、係合側クラッチに対するプリチャージを終了して伝達トルクが発生しない上限の圧(待機圧)に維持していた係合側クラッチ油圧を、イナーシャ相への移行に必要な圧(棚圧)に増大して係合側クラッチに伝達トルクを発生させる。これにより、タービン回転のスリップ量が減少し、スリップフィードバック制御によって解放側クラッチ油圧が低減される。
【0007】
以上の処理が進行してスリップ量が消失すると、この段階で両クラッチ間のトルクの受け渡しが完了したと見なして解放側クラッチ油圧を全解放し、トルク伝達を行うトルク相から回転を吸収するイナーシャ相に移行する。そして、イナーシャ相において実タービン回転速度が次変速段のタービン回転速度に到達するまで同タービン回転速度が一定の変化率で減速されるようにイナーシャフィードバック制御を行うことで、アップシフト変速での良好な変速フィーリングを実現している。
【0008】
しかしながら、車両によっては車両の駆動系には、比較的低周波(5〜10Hz程度)の領域において共振点が存在する。従って、上記のように係合側クラッチ油圧を待機圧から棚圧へと増大させるような共振点を含む比較的高い周波数成分を含む動作を行うと、係合側クラッチ油圧を増大させる動作自体が加震源となる。このため、一般的なフィードバック制御(例えばPID制御)のみでは、共振点を含む油圧の増減が行われることになり、ひいては駆動系の振動を助長して変速フィーリングを悪化させる原因となりうる。
【0009】
こうした課題を鑑みて、例えば特許文献2では、入力軸回転速度(あるいはその勾配)を目標とするフィードバック制御に際して、その制御出力(指示圧)に対し振動補正を実施し、更に所定以上の高周波成分を除去するローパスフィルタ処理により振動の助長を防いでいる。ところが、ここでのローパスフィルタ処理では、振動抑制にある程度の効果があるものの油圧応答性が犠牲になることは避けられない。
【0010】
また、特許文献3では、入力軸回転速度を目標値に一致させるようにフィードバック制御を行って算出したクラッチ油圧(指示圧)を、実油圧特性が理想的な応答(規範モデル)となるよう設計した逆フィルタ(フィードフォワードコントローラ)により処理し動特性補償を行う。これにより、共振点が存在する油圧の応答を改善している。しかし、油圧応答の改善(油圧回路の振動抑制)は可能であるものの、車両自体によって発生する駆動系振動(駆動系の共振点)に対処することはできない。
【0011】
本発明の目的は、油圧応答性を損なうことなく駆動系の振動を抑制することができる自動変速機の変速制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の摩擦係合要素の各々に付与する油圧を制御して該摩擦係合要素を係合状態又は解放状態に維持することにより所定の変速段を達成し、一の変速段から他の変速段への変速にあたり解放側摩擦係合要素に付与する油圧を減少させて該解放側摩擦係合要素による伝達トルクを減少させるとともに、係合側摩擦係合要素に付与する油圧を増大させて該係合側摩擦係合要素による伝達トルクを増大させる自動変速機の変速制御装置であって、前記自動変速機の入力軸回転速度に基づき、前記解放側摩擦係合要素及び前記係合側摩擦係合要素の少なくとも一方に付与する油圧をフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、駆動系の共振点を相殺するように前記入力軸回転速度を処理するノッチフィルタを設定したことを要旨とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置において、前記ノッチフィルタにより処理された入力軸回転速度を、ノイズを除去するように処理するローパスフィルタを設定したことを要旨とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置において、前記フィードバック制御手段は、前記自動変速機の入力軸回転速度及び出力軸回転速度に基づき、前記解放側摩擦係合要素による伝達トルクの減少によって発生するスリップ量を算出するスリップ量算出手段と、変速ショックを抑制するように目標スリップ量を算出する目標スリップ量算出手段と、を有し、前記算出されたスリップ量と目標スリップ量とが等しくなるように前記解放側摩擦係合要素に付与する油圧をフィードバック制御することを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置において、前記フィードバック制御手段は、前記自動変速機の入力軸回転速度に基づき入力軸回転変化率を算出し、該入力軸回転変化率と所定の目標入力軸回転変化率とが等しくなるように前記係合側摩擦係合要素に付与する油圧をフィードバック制御することを要旨とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置において、トルクコンバータの入力軸及び前記自動変速機の入力軸を直結可能なロックアップクラッチを備え、前記ノッチフィルタは、前記ロックアップクラッチの係合・非係合に応じて異なるフィルタ係数を有することを要旨とする。
【0017】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、前記解放側摩擦係合要素及び前記係合側摩擦係合要素の少なくとも一方に付与する油圧のフィードバック制御に係る自動変速機の入力軸回転速度が、ノッチフィルタにより駆動系の共振点を相殺するように処理される。従って、上記フィードバック制御に伴う油圧の増減によって助長されうる駆動系の振動が抑制される。また、例えば付与する油圧(指示圧)にローパスフィルタを設定して所定以上の高周波成分を除去し駆動系の振動抑制を図る場合のように油圧応答性を損なうこともない。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、ノッチフィルタにより処理された入力軸回転速度が、ローパスフィルタによりノイズ(センサノイズ)を除去するように処理される。従って、ノイズの影響が抑制された油圧のフィードバック制御が可能となる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、解放側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御によるスリップ量の制御において、駆動系の振動が抑制される。
請求項4に記載の発明によれば、係合側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御による入力軸回転変化率の制御において、駆動系の振動が抑制される。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、ロックアップクラッチの係合・非係合に応じてノッチフィルタが異なるフィルタ係数を有することで、各状態ごとに好適な制御が可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による車両用自動変速機の変速制御装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動変速機の変速制御装置を車両に搭載した例を概略的に示している。この車両は、エンジン10と、ロックアップクラッチ付流体式のトルクコンバータ20と、自動変速機30と、トルクコンバータ20及び自動変速機30に供給される作動油(ATF:オートマチックトランスミッションフルード)の圧力(油圧)を制御するための油圧制御回路40と、油圧制御回路40に制御指示信号を与える電気制御装置50とを含んでいて、図示しないアクセルペダルの操作により増減されるエンジン10の動力(発生トルク)を、トルクコンバータ20、自動変速機30、及び図示しない差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)などを介して駆動輪(タイヤ)へ伝達するようになっている。
【0022】
トルクコンバータ20は、図1及び図2に示したように、エンジン10が発生する動力を流体(作動油)を介して自動変速機30に伝達する流体式伝達機構21と、この流体式伝達機構21に対して並列に連結されたロックアップクラッチ機構22とからなっている。
【0023】
流体式伝達機構21は、エンジン10のクランク軸と一体的に回転するトルクコンバータ入力軸12に連結されたポンプ羽根車21aと、同ポンプ羽根車21aが発生する作動油の流れにより回転されるとともに自動変速機30の入力軸31に連結されたタービン羽根車21bと、ステータ羽根車21c(図1においては省略)とを含んでいる。
【0024】
ロックアップクラッチ機構22は、図2に示したように、ロックアップクラッチ22aを含んで構成されていて、接続された油圧制御回路40による作動油の給排により、トルクコンバータ入力軸12と自動変速機30の入力軸31とを同ロックアップクラッチ22aにより機械的に結合してこれらを一体的に回転させる係合状態と、前記ロックアップクラッチ22aによる機械的な結合を解除する非係合状態とを達成し得るようになっている。
【0025】
自動変速機30は、前進6段後進1段の変速段を達成するものであって、リングギヤR1を有する第1列のシングルピニオンプラネタリギヤG1と、第2列のシングルピニオンプラネタリギヤG2及び第3列のシングルピニオンプラネタリギヤG3とを備えている。また、自動変速機30は、摩擦クラッチC1,C2,C3と、摩擦ブレーキB1,B2とを摩擦係合要素として備えている。この自動変速機30における各摩擦係合要素の係合・解放(非係合)状態と達成される変速段との関係は下記表1に示す通りである、なお、表1において○は係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ示している。
【0026】
【表1】
油圧制御回路40は、図1に示したように、電気制御装置50からの制御指示信号により制御される3個のオン・オフソレノイドバルブ41〜43及び3個のリニアソレノイドバルブ44〜46を含んでいて、前記オン・オフソレノイドバルブ41〜43の作動の組み合わせに基づいてロックアップクラッチ機構22及び自動変速機30の摩擦係合要素に対する油の給排を制御するとともに、前記リニアソレノイドバルブ44〜46を駆動してこれらに供給される油圧をライン圧PL以下の範囲内で調整し得るようになっている。
【0027】
電気制御装置50は、何れも図示を省略したCPU、メモリ(ROM,RAM)、及びインタフェースなどから成るマイクロコンピュータである。電気制御装置50は、スロットル開度センサ61、エンジン回転速度センサ62、タービン回転速度センサ63、及び出力軸回転速度センサ64と接続されていて、これらのセンサ61〜64が発生する信号を入力するようになっている。
【0028】
スロットル開度センサ61は、エンジン10の吸気通路に設けられ図示しないアクセルペダルの操作に応じて開閉されるスロットルバルブ11の開度(以下、「スロットル開度」という。)を検出し、同スロットル開度Thを表す信号を発生するようになっている。エンジン回転速度センサ62は、エンジン10の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを表す信号を発生するようになっている。タービン回転速度センサ63は、自動変速機の入力軸31の回転速度を検出し、タービン回転速度(自動変速機30の入力軸回転速度)Ntを表す信号を発生するようになっている。出力軸回転速度センサ64は、図示しないエンジンマウントにより支持されたエンジン10と一体的な自動変速機ケース(図示省略)に固定されていて、自動変速機30の出力軸32の回転速度(アウトプット回転速度)を検出し、同自動変速機30の出力軸回転速度(即ち、車速に比例する値)Noを表す信号を発生するようになっている。
【0029】
上記電気制御装置50は、出力軸回転速度Noとスロットル開度Thとで構成される変速マップ及びロックアップクラッチ作動マップをメモリ内に記憶していて、検出された出力軸回転速度Noと検出されたスロットル開度Thにより定まる点が変速マップに示された変速線を横切るとき、及び、前記点が前記ロックアップクラッチ作動マップのロックアップ領域内にあるか否かに応じ、油圧制御回路40のオン・オフソレノイドバルブ41〜43及びリニアソレノイドバルブ44〜46を制御して、上記表1に示したように摩擦係合要素の係合・解放状態を変更するとともに、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態を変更するようになっている。
【0030】
次に、上記のように構成された自動変速機の変速制御装置が、自動変速機30の変速段を2速から3速へ変速する際に実行する「クラッチ・ツゥ・クラッチ制御」について説明する。
(概要)
先ず、図3を参照しながら、2速から3速への変速時における油圧制御の概要について説明する。同図において、時刻t0に、出力軸回転速度Noとスロットル開度Thとで定まる点が2速から3速へのアップシフトの変速線を横切ったとする。このとき、アップシフト変速の変速開始指示が出され、電気制御装置50は解放側摩擦係合要素(摩擦ブレーキB1)の油圧制御と係合側摩擦係合要素(摩擦クラッチC3)の油圧制御を開始する(表1参照)。
【0031】
すなわち、電気制御装置50は、解放側摩擦係合要素(摩擦ブレーキB1)に対する制御指令値(指示圧)により、時刻t0から当該係合要素に対する油圧(以下、「解放側油圧」という。)をライン圧PLから急減させその後に徐々に減少させる解放初期ランプ制御を行う。これにより、解放側摩擦係合要素による伝達トルクが減少してスリップが発生する。このスリップ量(タービン回転吹き量)は、タービン回転速度Ntと当該変速段(この場合は2速)のギヤ比を乗じた出力軸回転速度Noとのずれ量に相当し、解放側摩擦係合要素の制御の指標となるものである。電気制御装置50はこのスリップ量を常時監視しつつ、解放側油圧を減少させる。この減圧に伴い時刻t2でスリップ量が設定したしきい値r1を超えると、電気制御装置50は解放側摩擦係合要素のスリップが開始したと判断し、スリップ量を指標に解放側摩擦係合要素のスリップフィードバック制御(スリップFB制御)を開始する。このスリップFB制御にあたっては、変速ショックを抑制する理想的な軌跡を描きながら上記しきい値r1から所定の目標値r2へと推移して同目標値r2を維持するように制御される。この結果、時間の経過とともにスリップ量は目標値r2へと滑らかに上昇する。
【0032】
一方、電気制御装置50は、解放状態にある係合側摩擦係合要素(摩擦クラッチC3)に対する制御指令値(指示圧)により、時刻t0から当該係合要素に対する油圧(以下、「係合側油圧」という。)を急激に上昇させるプリチャージ制御を行う。そして、プリチャージ制御を時刻t1で終了すると、電気制御装置50は係合側油圧をトルク容量(トルクの伝達能力)が発生する寸前の圧(待機圧)まで上昇させ、スリップ(スリップFB制御)が開始する時刻t2までこれを維持する待機圧制御を行う。そして、時刻t2においてスリップが開始すると、電気制御装置50は、係合側摩擦係合要素に対する制御指令値により、イナーシャ相への移行に必要な圧(棚圧)まで時間経過とともに係合側油圧を徐々に上昇させて当該係合要素による伝達トルクを増大させる棚圧制御を開始する。これにより、係合側油圧が上昇し、係合側摩擦係合要素がトルクを持ち始め、スリップ量が減少し始める。このとき、電気制御装置50は上記スリップFB制御によりスリップ量を目標値r2に維持しようとするので、同スリップ量を増大させようとして解放側油圧(解放側摩擦係合要素の伝達トルク)を減少させる。この動作により、係合側摩擦係合要素がつかんだ容量分のトルクを解放側摩擦係合要素が解放していく。この状態が進行し、解放側摩擦係合要素が受け持っていたトルクが係合側摩擦係合要素へ伝達され、係合側摩擦係合要素が十分なトルク容量を持つ時刻t3になると、スリップ量が「0」となる。
【0033】
時刻t3においてスリップ量が消失する(「0」になる)と、電気制御装置50はトルクの受け渡しを行うトルク相を完了したと見なし、スリップFB制御を終了するとともに、解放側油圧を完全ドレンさせるランプ解放制御を行う。そして、時刻t4にてタービン回転速度Ntと当該変速段(この場合は変速前の2速)のギヤ比を乗じた出力軸回転速度Noとの偏差がしきい値r3を下回ると、電気制御装置50はイナーシャ相でのイナーシャFB制御の開始判定をする。そして、電気制御装置50は係合側油圧をタービン回転速度Ntの変化率(実回転変化率ΔNt)が目標回転変化率ΔNTとなるようにするフィードバック制御(イナーシャFB制御)を開始する。そして、時刻t5にてタービン回転速度Ntと当該変速段(この場合は変速後の3速)のギヤ比を乗じた出力軸回転速度Noとが一致すると、係合側油圧をライン圧PLまで増大させる変速終了処理を行う。以上によって変速制御が終了する。
【0034】
ここで、スリップFB制御は、目標スリップ量と実スリップ量との偏差に基づくフィードバック制御となるが、後述するようにこのスリップ量はタービン回転速度(入力軸回転速度)Ntによって求められる。一方、イナーシャFB制御は、目標回転変化率(目標入力軸回転速度勾配)と実回転変化率(実入力軸回転速度勾配)との偏差に基づくフィードバック制御となるが、後述するようにこの回転変化率もタービン回転速度Ntによって求められる。
【0035】
そこで、本実施形態では、自動変速機30における指示圧からタービン回転速度Ntまでのステップ応答やM系列応答などを予め計測することで、変速機本体としての制御対象P(s)の伝達関数を求めている。なお、sは微分演算子であり、制御対象P(s)はこの微分演算子sの多項式で表される。図4の実線は、制御対象P(s)の伝達関数を示すボード線図である。同図から明らかなように、この制御対象P(s)は、範囲Cで示した周波数領域に共振点が存在することが確認される。この共振点は、駆動系の共振点に相当する。
【0036】
そして、本実施形態では、この共振点を打ち消すように設計したノッチフィルタNF(s)によりタービン回転速度Ntをフィルタ処理する。このノッチフィルタNF(s)も、微分演算子sの多項式で表される。図5は、このノッチフィルタNF(s)の伝達関数を示すボード線図である。同図に示されるように、このノッチフィルタNF(s)は、制御対象P(s)の共振点に対応して急減する周波数特性を有している。従って、図4に破線にて併せ示されるように、フィルタ処理後の制御対象P(s)は、共振点での周波数特性が相殺されている。
(スリップFB制御の原理)
次に、上述した時刻t2〜t3におけるスリップFB制御の原理について図6の制御ブロック図に基づき説明する。良いフィーリングを得るためには、スリップ中のアウトプットトルクの変化をできるだけ抑えつつスリップ量を目標値r2に到達させ、係合側摩擦係合要素のトルクが立ち上がるまで、そのスリップ量を維持する必要がある。そこで、図3に併せ示したように、しきい値r1から目標値r2へとステップ状に変化する入力を与えたとき、目標値r2に対してオーバーシュートすることなく同目標値r2へと移行する最良のフィーリングが得られる理想的なスリップ量の時間変化に対して規範モデルM(s)の伝達関数を決定する。ここで、規範モデルM(s)は、微分演算子sの多項式で表される。
【0037】
次に、変速機本体としての制御対象P(s)をI−P制御する閉ループ系を考える。図6において、Ki,Kpは、積分器及び比例器の各ゲインである。この閉ループ系へ入力として上記目標値r2を与えた場合の出力が上記規範モデルM(s)の出力と一致するように、モデルマッチング法を用いてI−P制御コントローラを設計する。このI−P制御コントローラも、微分演算子sの多項式で表される。
【0038】
このようにして得られたI−P制御コントローラを用いて解放側油圧を制御すれば、実スリップ量SLIPは規範モデルの出力のように滑らかに上昇し、従って、自動変速機30のアウトプットトルクの変動が抑制される。
【0039】
ここで、一般的にコントローラの設計(ゲイン設計を含めて)にあたっては、量産化時の個体差ばらつき、温度変化による作動油(ATF)の特性変動や経年変化(摩擦係合要素の磨耗、作動油の劣化)などの外乱の影響も考慮される。しかしながら、上述のクラッチ・ツゥ・クラッチ変速ではこれらの影響が大きいため、これらの影響を受けにくい(あるいは吸収しやすい)制御構造にする必要がある。
【0040】
そこで、目標値r2に対する理想的なスリップ応答である規範モデルM(s)の出力と、上述のI−P制御コントローラの出力である実スリップ量SLIPとの偏差(モデル誤差量)をとる。そして、それに誤差フィードバックゲインTを乗じてフィードバックするいわゆる誤差フィードバック(誤差FB)のループを構成している。これにより、規範モデルM(s)とのずれを小さくするように制御を働かせることができ、ばらつきや外乱の影響を吸収することが可能となる。
【0041】
すなわち、摩擦係合要素のストロークや油圧制御バルブ特性等のばらつき、油温度変化や作動油の劣化による油特性の変動、及び摩擦係合要素の摩耗等に起因する外乱(制御対象P(s)のずれ)の影響を受け難い変速制御を実現することが可能となる。
(実際のスリップ量の求め方)
次に、上記スリップFB制御において使用される実スリップ量SLIPの求め方について説明する。
【0042】
基本的に、スリップFB制御に先だってスリップ開始判定(しきい値r1との比較)に供されるスリップ量は、タービン回転速度(Nt)と出力軸回転速度に変速前のギヤ比G1を乗じた値(No×G1)との差(Nt−No×G1)から算出する。
【0043】
このスリップ開始判定に基づくスリップFB制御への移行に伴い解放側摩擦係合要素が減圧されてスリップを開始すると、タービン回転速度(Nt)が上昇する。上述の駆動系の共振点を含むタービン回転速度を用いてスリップ量を演算し、指示圧によるスリップFB制御を行うと、当該制御によってタービン回転速度の振動が励起される。従って、タービン回転速度については、駆動系の共振点を相殺することを目的とした上述のノッチフィルタNF(s)を設定している。また、フィルタ処理後のタービン回転速度について、更にノイズ(センサノイズ)の除去を目的としたローパスフィルタL2(s)を設定している。
【0044】
また、スリップを開始すると、入力トルクが減少するため、プロペラシャフトや駆動輪(タイヤ)のねじれ、エンジンマウントなどの影響を受け、出力軸回転速度(No)に駆動系振動が重畳する。この振動が重畳した出力軸回転速度Noを用いてスリップ量を演算し、指示圧によるスリップFB制御を行うと、当該制御によってタービン回転速度の振動が励起される。従って、出力軸回転速度については、スリップ中の駆動系振動除去を目的としたローパスフィルタL3(s)を設定している。
【0045】
以上により、スリップFB制御の開始後は、ノッチフィルタNF(s)及びローパスフィルタL2(s)によるフィルタ処理後のタービン回転速度(Nt_flt)と、ローパスフィルタL3(s)によるフィルタ処理後の出力軸回転速度と(No_flt)に基づきスリップ量を演算する。なお、上記各フィルタ処理に係る伝達関数(L2(s),L3(s))は、設計されたスリップFB制御系(図6参照)の特性に対して影響を及ぼさない範囲で調整されている。
【0046】
しかしながら、当然低い振動周波数除去を目的としたフィルタ処理(ここでは出力軸回転速度に対するフィルタ処理L3(s)・No)では遅れが発生する。このため、当該フィルタ処理を行った回転速度を用いて演算するスリップ量は、実際のスリップ量よりも大きく算出されることになる。
【0047】
このフィルタ処理による実スリップ量との誤差は、出力軸回転速度センサ64の出力値を示す生値の出力軸回転速度Noとフィルタ処理後の出力軸回転速度との差であるオフセット量Saを取得して、これによりフィルタ処理後の出力軸回転速度を補正してスリップ量を演算することで、回避することが可能となる。すなわち、図6に併せ示すように、フィルタ処理された回転速度Nt,Noに基づくスリップ量(=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1)に対し、上記オフセット量Sa分の補正を加えて下式に基づき最終的なスリップ量SLIPを演算している。
【0048】
SLIP=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1+Sa
しかしながら、時刻t2においてオフセット量Saを単純に生値の出力軸回転速度Noとフィルタ処理後の出力軸回転速度との差(=No−L3(s)・No)から算出すると、出力軸回転速度Noにはセンサノイズをはじめとするノイズが重畳しているため、取得タイミングの違いによってオフセット量がばらつき、正しく取得できなくなる。
【0049】
そこでスリップ検知の時刻t2のスリップ量がしきい値r1であることを用いて、SLIP(=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1+Sa)がしきい値r1となるオフセット量Saを取得する。このとき、オフセット量Saは、
Sa=NF(s)・L2(s)・Nt−L3(s)・No・G1−r1
となる。
【0050】
当該スリップFB制御では、このときのオフセット量Saをもとに下式に従ってスリップ検知以後のスリップ量を補正・算出する。
SLIP=NF(s)・L2(s)・Nt−(L3(s)・No・G1+Sa)
以上の態様でスリップFB制御を行うことで、ノイズを除去しつつ、駆動系の共振点を相殺して、解放側摩擦係合要素を制御することが可能となる。このため、当該FB制御による駆動系振動の助長が抑制され、アウトプットトルクの変動も抑制される。また、スリップ中の駆動系振動を除去しつつ、係合側摩擦係合要素が容量を持ち始めた際のスリップ量低下にも遅れることなく、解放側摩擦係合要素を制御することが可能となる。そして、円滑なクラッチ・ツゥ・クラッチ変速を達成することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、スリップFB制御においてノッチフィルタNF(s)による駆動系の共振点の相殺等は、前記ロックアップクラッチ22aの非係合状態においてのみ行うようにしている。これは、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態に応じて共振点が変化し、ロックアップクラッチ22aの係合状態では共振点が実質的に消失することによる。
(イナーシャFB制御の原理)
次に、上述した時刻t4〜t5におけるイナーシャFB制御の原理について図7の制御ブロック図に基づき説明する。イナーシャFB制御では、タービン回転速度Ntの実回転変化率ΔNtが所定の目標回転変化率ΔNTとなるように制御される。そこで、制御対象P(s)をPID制御する閉ループ系を考える。図7において、Ki,Kp,Kdは、積分器、比例器及び微分器の各ゲインである。タービン回転速度Ntの変化率ΔNtが目標回転変化率ΔNTとなるようにPID制御コントローラを設計する。このPID制御コントローラも、微分演算子sの多項式で表される。
【0052】
このようにして得られたPID制御コントローラを用いて係合側油圧を制御すれば、タービン回転速度Ntは一定の目標回転変化率ΔNTを保つように減少し、自動変速機30のアウトプットトルクの変動が抑制される。
(実際の回転変化率の求め方)
次に、上記イナーシャFB制御において使用される実回転変化率ΔNtの求め方について説明する。
【0053】
基本的に、イナーシャFB制御の開始判定では、タービン回転速度(Nt)と出力軸回転速度に変速前のギヤ比G1を乗じた値(No×G1)との差(Nt−No×G1)と、しきい値r3とを比較する。
【0054】
この開始判定に基づくイナーシャFB制御への移行に伴い係合側摩擦係合要素が増圧されてトルク伝達を開始すると、タービン回転速度(Nt)が減少する。上述の駆動系の共振点を含むタービン回転速度を用いて回転変化率を演算し、指示圧によるイナーシャFB制御を行うと、当該制御によってタービン回転速度の振動が励起される。従って、タービン回転速度については、駆動系の共振点を相殺することを目的とした上述のノッチフィルタNF(s)を設定している。また、フィルタ処理後のタービン回転速度について、更に上述のノイズ除去を目的としたローパスフィルタL2(s)を設定している。
【0055】
以上により、イナーシャFB制御の開始後は、ノッチフィルタNF(s)及びローパスフィルタL2(s)によるフィルタ処理後のタービン回転速度(Nt_flt)に基づき回転変化率を演算する。なお、上記各フィルタ処理に係る伝達関数(L2(s))は、設計されたイナーシャFB制御系(図7参照)の特性に対して影響を及ぼさない範囲で調整されている。
【0056】
以上の態様でイナーシャFB制御を行うことで、ノイズを除去しつつ、駆動系の共振点を相殺して、係合側摩擦係合要素を制御することが可能となる。このため、当該FB制御による駆動系振動の助長が抑制され、アウトプットトルクの変動も抑制される。そして、円滑なクラッチ・ツゥ・クラッチ変速を達成することができる。
(具体的作動)
次に、上記自動変速機の変速制御装置の2速から3速への変速時における具体的な作動について説明する。
【0057】
まず、電気制御装置50のCPUにより実行されるメインルーチンについて図8のフローチャートに基づき説明する。このルーチンは、変速開始後(アップシフトの変速開始指示後)において、所定時間(例えば5msec)の経過毎に繰り返し実行される。
【0058】
処理がこのルーチンに移行するとCPUは、まずステップ101において現在のタービン回転速度Ntを演算し、更にステップ102において出力軸回転速度Noを演算する。そして、ステップ103に移行して、CPUは下式に基づきフィルタ処理後の出力軸回転速度No_fltを演算する出力軸回転ローパスフィルタ演算を実行する。
【0059】
なお、変数n,n−1,n−2は、今回、前回及び前前回のルーチンにおける各演算値であることを示している(以下も同様)。また、c1〜c5は、当該フィルタ処理(伝達関数:L3(s))を離散化することで得られるローパスフィルタのフィルタ係数c1〜c5である。
【0060】
次に、CPUは、ステップ104においてこのルーチンが変速開始直後である初回実行か否かを判断する。そして、初回実行であればステップ105に移行して以下のタービン回転ノッチフィルタ演算及びタービン回転フィルタ演算におけるフィルタ処理(伝達関数:NF(s),L2(s))をそれぞれ離散化することで得られる各フィルタ係数a,b(a1〜a5,b1〜b5)を読み込む。そして、CPUは更にステップ106に移行して前回の変速時に演算されたノッチフィルタ処理後のタービン回転速度(暫定タービン回転速度Nt_ftmp)を、今回の変速時の暫定タービン回転速度Nt_ftmpの前回値として設定する。同時に、CPUは前回の変速時に演算されたフィルタ処理後のタービン回転速度(フィルタ処理後タービン回転速度Nt_flt)を、今回の変速時のフィルタ処理後タービン回転速度Nt_fltの前回値として設定し、ステップ107に移行する。また、ステップ104において初回実行でないと判断されると、上述の初期処理が不要であることからCPUはそのままステップ107に移行する。
【0061】
ステップ107においてCPUは、下式に基づき暫定タービン回転速度Nt_ftmpを演算するタービン回転ノッチフィルタ演算を実行する。
なお、a1〜a5は、ステップ105で読み込まれたフィルタ係数であり、ここでは2次のノッチフィルタとして処理している。
【0062】
そして、ステップ108においてCPUは、下式に基づきフィルタ処理後のタービン回転速度Nt_fltを演算するタービン回転フィルタ演算を実行する。なお、b1〜b5は、ステップ105で読み込まれたフィルタ係数である。
【0063】
そして、CPUはその後の処理を一旦終了する。
【0064】
次に、電気制御装置50のCPUにより実行される解放側油圧制御ルーチンについて図9のフローチャートに基づき説明する。このルーチンは、アップシフト変速(ここでは、2速から3速)の変速開始指示が出されることで起動される。従って、このタイミングにおいて、CPUはステップ200からの処理を開始する。処理がこのルーチンに移行すると、CPUはステップ201において、解放初期ランプ制御を開始する。すなわち、CPUは解放側油圧をライン圧PLから急減させその後に徐々に減少させる(図3参照)。
【0065】
次いで、CPUはステップ202に進んでスリップ開始判定を行う。具体的には、タービン回転速度Nt及び出力軸回転速度Noに基づく現在の実スリップ量SLIP(=Nt−No・G1)がしきい値r1より大きいか否かを判断する。
【0066】
この段階でスリップが発生していると、CPUはステップ300のサブルーチンに進み、図10及び図11のスリップFB制御を実行する。そして、ステップ301において、スリップFB制御への移行後初めての処理かどうかの初回実行判断を行い、初回実行と判断されるとステップ302に移行する。そして、CPUは各種初期値を記憶する。例えば、CPUは、制御開始時である現在の指示圧(制御指令値)Piniをフィードバック初期値PFBとして記憶する。
【0067】
次に、CPUはステップ303に進み、当該変速段に対応する解放側の比例ゲインKp、積分ゲインKi、誤差フィードバックゲインT、規範モデル係数(an,bn)を読みこみ、ステップ304に進む。なお、規範モデル係数(an,bn)は、規範モデルM(s)を離散化することで得られたものである。
【0068】
また、ステップ301の判断において初回実行ではないと、上述の初期処理が不要であることからそのままステップ304に移行する。
ステップ304においてCPUは、当該変速段に対応する目標スリップ量R_SLIPを読みこみ、更にステップ305に進む。
【0069】
ステップ305において、CPUはロックアップクラッチ22aが係合状態か否かを判断する。そして、ロックアップクラッチ22aが係合状態のときには、CPUはステップ306に進み、タービン回転速度Nt_st及びフィルタ処理後出力軸回転速度No_flt_stを用いて出力軸回転速度のオフセット量Saを下式により取得する。
【0070】
Sa=Nt_st−No_flt_st・G1−r1
なお、ここでのタービン回転速度Nt_st及びフィルタ処理後出力軸回転速度No_flt_stは、ステップ302において、初回実行時においてメモリに保存されたものを使用する。
【0071】
次に、CPUはステップ307に進んで、現在のタービン回転速度Nt及び出力軸回転速度No_fltを用いて実スリップ量SLIPを下式により取得する。
SLIP=Nt−(No_flt・G1+Sa)
一方、ステップ305の判断においてロックアップクラッチ22aが非係合状態のときには、CPUはステップ308に進み、フィルタ処理後タービン回転速度Nt_flt_st及びフィルタ処理後出力軸回転速度No_flt_stを用いて出力軸回転速度のオフセット量Saを下式により取得する。
【0072】
Sa=Nt_flt_st−No_flt_st・G1−r1
なお、ここでのタービン回転速度Nt_st及び出力軸回転速度No_flt_stは、ステップ302において、初回実行時においてメモリに保存されたものを使用する。
【0073】
次に、CPUはステップ309に進んで、現在のフィルタ処理後タービン回転速度Nt_flt及び出力軸回転速度No_fltを用いて実スリップ量SLIPを下式により取得する。
【0074】
SLIP=Nt_flt−(No_flt・G1+Sa)
すなわち、スリップFB制御における駆動系の共振点の相殺等を、ロックアップクラッチ22aの非係合状態においてのみ行っている。
【0075】
ステップ307若しくは309で実スリップ量を演算したCPUは、ステップ310に進み、下式に従い規範モデルの出力値MDLoutを演算する。
なお、ここでのa1,a2,b1〜c3は、スリップ量が理想的な軌跡を描くように設定された規範モデル(伝達関数:M(s))を離散化することで得られるステップ303で読み込まれた規範モデル係数である。
【0076】
次に、CPUはステップ311にて、上記規範モデルの出力値MDLout(n)からスリップ量SLIPを減じ、これに誤差フィードバックゲインTを乗じて誤差FB出力値EFBoutを求める。
【0077】
EFBout=(MDLout(n)−SLIP)・T
次いで、CPUはステップ312に進み、下式に従い積分器の入力値Iinを演算する。
【0078】
Iin=R_SLIP−SLIP−EBout
そして、CPUはステップ313に進み、下式に従い比例器の出力値Poutを演算する。
【0079】
Pout=SLIP×Kp
さらにCPUはステップ314に進み、下式に従い積分器の出力値Ioutを演算する。なお、SMPTは、サンプリング時間である。
【0080】
そして、CPUはステップ315に進み、下式に従い解放側の指示圧(制御指令値)となるIP制御出力値IPoutを演算する。
【0081】
IPout=PFB+Iout−Pout
次に、CPUはステップ316にて解放側指示圧(IPout)を所定の上下限の範囲に制限し、ステップ317に進んで演算されたスリップ量SLIP(ステップ307若しくは309)が「0」以下になったか否かの判断によりスリップの消失判定をする。この段階ではスリップが開始した直後であり、係合側摩擦係合要素に対する供給油圧は小さいので、同係合側摩擦係合要素はトルク伝達を開始していない。従って、スリップ量SLIPは「0」より大きい(スリップが消失していない)ため、CPUは所定時間(ここでは5msec)だけ経過するのを待って図10のステップ304に戻る。以降、CPUはスリップ量SLIPが「0」以下となるまでステップ304〜316の処理を繰り返し実行する。
【0082】
ここで、電気制御装置50のCPUにより実行される係合側油圧制御ルーチンについて図12のフローチャートに基づき併せて説明する。このルーチンも、アップシフト変速(ここでは、2速から3速)の変速開始指示が出されることで起動される。従って、このタイミングにおいて、CPUはステップ400からの処理を開始する。処理がこのルーチンに移行すると、CPUはステップ401において、係合側油圧を急激に上昇させるプリチャージ制御を開始する(図3参照)。そして、プリチャージ制御を終了すると、CPUはステップ402に進んで係合側油圧をトルク容量が発生する寸前の圧(待機圧)まで上昇させ、スリップ(スリップFB制御)が開始するまでこれを維持する待機圧制御を行う。
【0083】
さらに、スリップ(スリップFB制御)が開始すると、CPUはステップ403に進み、係合側摩擦係合要素に対する制御指令値により、イナーシャ相への移行に必要な圧(棚圧)まで時間経過とともに係合側油圧を徐々に上昇させて当該係合要素による伝達トルクを増大させる棚圧制御を開始する。
【0084】
次に、CPUはステップ404に進み、イナーシャ相でのイナーシャFB制御開始判定を行い、開始でなければステップ403に戻って棚圧制御を繰り返す。この結果、時間の経過に伴い係合側摩擦係合要素がトルク伝達を開始し、スリップ量が減少し始める。
【0085】
解放側油圧制御に戻って説明すると、この間、スリップFB制御によってスリップ量を目標値に維持するように解放側油圧が制御される。このため、係合側摩擦係合要素のトルク伝達の開始によりスリップ量が減少し始めると、CPUは同スリップ量を増大させようとして解放側油圧を減少させる。
【0086】
このような経過によりステップ317においてスリップ量が「0」以下になると、CPUはステップ318の終了処理によりスリップFB制御を終了して、図9のステップ203に進む。そして、CPUは解放側油圧を完全ドレンさせるランプ解放制御を行い、更にステップ204に進んで解放側での変速終了処理を行い、解放側油圧制御を終了する。
【0087】
一方、解放側油圧制御の終了により、係合側油圧制御のステップ404においてイナーシャFB制御が開始と判定されると、CPUはステップ500のサブルーチンに進み、図13及び図14のイナーシャFB制御を実行する。そして、ステップ501において、イナーシャFB制御への移行後初めての処理かどうかの初回実行判断を行い、初回実行と判断されるとステップ502に移行する。そして、CPUは制御開始時である現在の指示圧(制御指令値)PAをフィードバック初期値Pfbとして記憶する。
【0088】
次に、CPUはステップ503に進み、当該変速段に対応する係合側の比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKdを読みこみ、ステップ504に進む。
【0089】
また、ステップ501の判断において初回実行ではないと、上述の初期処理が不要であることからそのままステップ504に移行する。
ステップ504においてCPUは、フィルタ処理後タービン回転速度Nt_fltを用いてタービン回転速度Ntの勾配を実回転変化率ΔNtとして下式により取得する。
【0090】
ΔNt=Nt_flt(n)−Nt_flt(n−I)
なお、Iは自然数であって、(n−I)は所定回数(I回)前の演算値であることを示す。このように、所定回数前の演算値を用いて実回転変化率ΔNtを求めるのは、タービン回転速度Ntの周期的な変動を吸収するように実回転変化率ΔNtを求めるためである。
【0091】
次に、CPUはステップ505に進み、当該変速段に対応する目標回転変化率ΔNTを読みこみ、更にステップ506に進む。そして、目標回転変化率ΔNTと、実回転変化率ΔNtとの差を下式により演算して偏差Hensa(n)を算出する。
【0092】
Hensa(n)=ΔNT−ΔNt
さらにCPUはステップ507に進み、下式に従い積分器の出力値Ioutを演算する。
【0093】
Iout(n)=((Hensa(n)*Ki)+Iout(n−1))*SMPT
続いて、CPUはステップ508に進み、下式に従いPID演算の出力値PIDoutを演算する。
【0094】
次に、CPUはステップ509に進み、下式に従いPID演算の出力値PIDoutを積分した値PIDout_Intを取得する。
【0095】
そして、CPUはステップ510に進み、下式に従いPID演算の出力値を積分した値(PIDout_Int)を単位換算して、PID制御出力値Pina_fbを演算する。
【0096】
Pina_fb=PIDout_Int(n)/(I*SMPT)
この単位換算は、各演算に係るサンプリング時間SMPTと実回転変化率ΔNtを求めるときの時間(I*SMPT)との整合をとるためのものである。
【0097】
さらに、CPUはステップ511に進み、下式に従い係合側の指示圧(制御指令値)PAを更新する。
PA=Pfb+PIDout_Int(n)
次に、CPUはステップ512にて係合側指示圧(PA)を所定の上下限の範囲に制限し、ステップ513に進んで現在のギヤ比が所定のしきい値1及びしきい値2の範囲に含まれるかを判断する。このギヤ比の範囲判断は、タービン回転速度Ntが変速後である3速のギヤ比G2と出力軸回転速度Noとの積に一致するか否かの判断に相当する。すなわち、このギヤ比の範囲判断は、イナーシャ相の終了判定をするためのものである。この段階ではイナーシャFB制御が開始した直後であるため、CPUは所定時間(ここでは5msec)だけ経過するのを待って図13のステップ504に戻る。以降、CPUはギヤ比が所定のしきい値1及びしきい値2の範囲に含まれるまでステップ504〜512の処理を繰り返し実行する。
【0098】
このようにイナーシャFB制御が行われると、タービン回転速度Ntが減少していき、図3に示したように、タービン回転速度Ntは変速後である3速のギヤ比G2と出力軸回転速度Noとの積に一致する(ギヤ比が所定のしきい値1及びしきい値2の範囲に含まれる)。これにより、CPUはステップ514の終了処理によりイナーシャFB制御を終了して、図12のステップ405に進む。そして、CPUは係合側での変速終了処理を行い、係合側油圧制御を終了する。
【0099】
以上によって2速から3速へのクラッチ・ツゥ・クラッチ変速が終了する。
図15は、ロックアップクラッチ22aの非係合状態において、2速から3速へのクラッチ・ツゥ・クラッチ変速に伴うエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Nt、出力軸回転速度No及びアウトプットトルクの推移を示すグラフである。同図において、図15(a)はノッチフィルタがないときの推移を示し、図15(b)はノッチフィルタがあるときの推移を示す。
【0100】
図15(a)から明らかなように、ノッチフィルタがないときには、上記変速においてタービン回転速度Ntは、著しく変動しながら次の変速段のタービン回転速度Ntへと切り替わる。そして、このタービン回転速度Ntの変動に対応して、アウトプットトルクも著しく変動している。
【0101】
一方、図15(b)から明らかなように、ノッチフィルタがあるときには、上記変速においてタービン回転速度Ntは、滑らかに次の変速段のタービン回転速度Ntへと切り替わる。そして、このタービン回転速度Ntの変動に対応して、アウトプットトルクの変動も抑制されている。
【0102】
なお、本実施形態では、2速から3速へのアップシフトでの制御態様について説明したが、表1にて示したその他の変速段へのアップシフトにおいても、同様の変速制御が行われる。
【0103】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、解放側摩擦係合要素(摩擦ブレーキB2)及び係合側摩擦係合要素(摩擦クラッチC3)に付与する油圧のフィードバック制御(スリップFB制御及びイナーシャFB制御)に係るタービン回転速度Ntが、ノッチフィルタNF(s)により駆動系(制御対象P(s))の共振点を相殺するように処理される。従って、上記フィードバック制御に伴う解放側及び係合側油圧(指示圧)の増減によって助長されうる駆動系の振動を抑制することができる。そして、振動の抑制によりアウトプットトルクの変動も抑制され、変速フィーリングも向上させることができる。
【0104】
また、例えば付与する油圧(指示圧)にローパスフィルタを設定して所定以上の高周波成分を除去し駆動系の振動抑制を図る場合のように油圧応答性を損なうこともない。
【0105】
(2)本実施形態では、ノッチフィルタNF(s)により処理されたタービン回転速度Nt(Nt_ftmp)が、ローパスフィルタL2(s)によりノイズ(センサノイズ)を除去するように処理される。従って、ノイズの影響が抑制された油圧のフィードバック制御が可能となる。
【0106】
(3)本実施形態では、解放側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御によるスリップ量の制御において、駆動系の振動を抑制することができる。
(4)本実施形態では、係合側摩擦係合要素に付与する油圧のフィードバック制御による回転変化率の制御において、駆動系の振動を抑制することができる。
【0107】
(5)本実施形態では、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合に応じてノッチフィルタNF(s)の設定の有無を切り替えたことで、各状態ごとに好適な制御が可能となる。
【0108】
(6)本実施形態では、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合に応じてローパスフィルタL2(s)の設定の有無を切り替えたことで、各状態ごとに好適な制御が可能となる。
【0109】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に限定されるものではなく、次のように変更してもよい。
・前記実施形態においては、ロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態(制御対象P(s)の状態)に応じてノッチフィルタNF(s)の設定の有無を切り替えた。これに対して、例えばロックアップクラッチ22aの係合・非係合状態に応じて、ノッチフィルタNF(s)が有するフィルタ係数を互いに異なるように切り替えてもよい。
【0110】
・前記実施形態においては、アップシフトでの変速制御に本発明を適用したが、ダウンシフトでの変速制御等に適用してもよい。また、2速及び3速間の変速に限定されるものではなく、その他の変速段間の変速であってもよい。
【0111】
・前記各実施形態において採用されたシステム構成は一例であってその他の構成を採用してもよい。
【0112】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1乃至5に記載の発明によれば、油圧応答性を損なうことなく駆動系の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による自動変速機の油圧制御装置を車両に搭載した場合の概略図。
【図2】図1に示した自動変速機のスケルトン図。
【図3】2速から3速への変速が行われる際の解放側及び係合側指示圧、解放側及び係合側油圧、回転速度、実スリップ量を示すタイムチャート。
【図4】自動変速機(制御対象)の周波数特性を示すグラフ。
【図5】ノッチフィルタの周波数特性を示すグラフ。
【図6】スリップFB制御に係る全システムのブロック線図。
【図7】イナーシャFB制御に係る全システムのブロック線図。
【図8】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図9】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図10】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図11】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図12】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図13】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図14】図1に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンのフローチャート。
【図15】(a)(b)は、ノッチフィルタの効果を説明するタイムチャート。
【符号の説明】
10…エンジン、12…トルクコンバータ入力軸、20…トルクコンバータ、22a…ロックアップクラッチ、30…自動変速機、31…入力軸、32…出力軸、40…油圧制御回路、50…スリップ量算出手段、目標スリップ量算出手段、及びフィードバック制御手段を構成する電気制御装置、63…タービン回転速度センサ、NF(s)…ノッチフィルタ、L2(s)…ローパスフィルタ。
Claims (5)
- 複数の摩擦係合要素の各々に付与する油圧を制御して該摩擦係合要素を係合状態又は解放状態に維持することにより所定の変速段を達成し、一の変速段から他の変速段への変速にあたり解放側摩擦係合要素に付与する油圧を減少させて該解放側摩擦係合要素による伝達トルクを減少させるとともに、係合側摩擦係合要素に付与する油圧を増大させて該係合側摩擦係合要素による伝達トルクを増大させる自動変速機の変速制御装置であって、
前記自動変速機の入力軸回転速度に基づき、前記解放側摩擦係合要素及び前記係合側摩擦係合要素の少なくとも一方に付与する油圧をフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、
駆動系の共振点を相殺するように前記入力軸回転速度を処理するノッチフィルタを設定したことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 - 請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記ノッチフィルタにより処理された入力軸回転速度を、ノイズを除去するように処理するローパスフィルタを設定したことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 - 請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、
前記自動変速機の入力軸回転速度及び出力軸回転速度に基づき、前記解放側摩擦係合要素による伝達トルクの減少によって発生するスリップ量を算出するスリップ量算出手段と、
変速ショックを抑制するように目標スリップ量を算出する目標スリップ量算出手段と、
を有し、前記算出されたスリップ量と目標スリップ量とが等しくなるように前記解放側摩擦係合要素に付与する油圧をフィードバック制御することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 - 請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、前記自動変速機の入力軸回転速度に基づき入力軸回転変化率を算出し、該入力軸回転変化率と所定の目標入力軸回転変化率とが等しくなるように前記係合側摩擦係合要素に付与する油圧をフィードバック制御することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置において、
トルクコンバータの入力軸及び前記自動変速機の入力軸を直結可能なロックアップクラッチを備え、
前記ノッチフィルタは、前記ロックアップクラッチの係合・非係合に応じて異なるフィルタ係数を有することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003202029A JP2005042788A (ja) | 2003-07-25 | 2003-07-25 | 自動変速機の変速制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2003202029A JP2005042788A (ja) | 2003-07-25 | 2003-07-25 | 自動変速機の変速制御装置 |
Publications (1)
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JPWO2020217484A1 (ja) * | 2019-04-26 | 2020-10-29 |
-
2003
- 2003-07-25 JP JP2003202029A patent/JP2005042788A/ja not_active Withdrawn
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JPWO2020217484A1 (ja) * | 2019-04-26 | 2020-10-29 | ||
US11703007B2 (en) | 2019-04-26 | 2023-07-18 | Nissan Motor Co., Ltd. | Control method of engine system, and engine system |
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