[第1の実施の形態]本発明の第1の実施の形態について、図1〜図14を参照して説明する。図1は本発明のプラントの制御装置であるコントローラが搭載された車両の構成図、図2は図1に示した伝達機構のモデル化の説明図、図3は図1に示したコントローラの第1の構成例の制御ブロック図、図4はコントローラの作動を説明した時系列グラフ、図5は図1に示したコントローラの第2の構成例の制御ブロック図、図6は基準パラメータを求めるために用意されたマップの説明図、図7は図1に示したコントローラの第3の構成例の制御ブロック図、図8は図1に示したコントローラの第4の構成例の制御ブロック図、図9〜図13はコントローラの作動フローチャート、図14は本発明をエンジンの回転数制御に適用したときの説明図である。
図1(a)を参照して、本発明のプラントの制御装置であるコントローラ1は、車両2に搭載されて車両2の作動を制御するものであり、エンジン3の駆動力をドライブシャフト5を介して車輪6に伝達するクラッチ機構4の被駆動軸(ドライブシャフト5側の回転軸)の回転数を制御する機能を有している。
そして、コントローラ1は、図1(b)に示したように、車両2におけるエンジン3の駆動力の伝達機構(本発明のプラントに相当する)を、エンジン3の出力(トルク、回転数)がクラッチ機構4を介して車両等価慣性Ivに伝達される系として扱う。この場合、車両等価慣性系の運動方程式は以下の式(1)で表される。
但し、Iv:車両等価慣性、NC:クラッチ回転数、Tc:クラッチ伝達トルク、Td:抵抗トルク。
また、クラッチ機構4のストロークPcl(クラッチ板7aと7b間の距離)とエンジントルクTeを用いると、以下の式(2),式(3)から、クラッチ伝達トルクTcについての以下の式(4)を得ることができる。なお、コントローラ1は、電動モータ等のクラッチアクチュエータ(図示しない)によりクラッチ板7bを移動させて、クラッチストロークPclを変更する。
但し、Kcc”:クラッチのトルク伝達容量係数、Te:エンジントルク。
但し、Kcc’(Pcl):トルク伝達容量算出非線形関数、Pcl:クラッチストローク。
そして、上記式(4)を上記式(1)に代入して以下の式(5)を得ることができる。
さらに、抵抗トルクTdは、本来、走行抵抗Fd(図1(a)参照)であり、以下の式(6)に示すように、走行抵抗Fdは、車速VPに応じて変化する成分Fd1と転がり抵抗や勾配に応じて変化する成分Fd2に分離することができる。
但し、Fd:走行抵抗、Fd1:車速VPに応じた成分、Fd2:転がり抵抗や勾配に応じた成分。
そして、車速VPとクラッチ回転数NCは、クラッチ機構4と接続された変速機(図示しない)のギヤレシオとタイヤの外径により相互に変換可能であるから、抵抗トルクTdも、以下の式(7)に示すように、クラッチ回転数NCに応じて変化する成分Td1と転がり抵抗や勾配に応じて変化する成分Td2に分離することができる。
但し、Td:抵抗トルク、Td1:クラッチ回転数NCに応じた成分、Td2:転がり抵抗や勾配に応じた成分、Kd1:走行抵抗算出非線形係数。
上記式(7)を上記式(5)に代入すると以下の式(8)が得られ、以下の式(8)を離散時間化すると以下の式(9)の形となる。
但し、dt:コントローラ1の制御サイクル、k:制御サイクルの番目。
そして、上記式(9)をクラッチ回転数NCについて整理すると、以下の式(10)の形となる。
上記式(10)が、図1(a)に示した駆動力の伝達系のモデル式となる。なお、上記式(10)のモデルパラメータa1’,b1’,c1’は、厳密にはクラッチ回転数NCやクラッチストロークPclに応じて変化し、また、機械要素の経時変化によっても変化する。そのため、制御サイクル毎にモデルパラメータa1’,b1’,c1’を修正する必要が生じる場合があり、この場合は後述する同定器により修正処理を行う。
次に、図1(a)に示したように、エンジン3の出力をクラッチ機構4を介して駆動輪6に伝達する場合、車両2の発進時や変速機(図示しない)の変速操作に伴うクラッチ機構4の再締結時に、クラッチ機構4のクラッチ板7a,7b間に滑りが生じる状態に保つ、所謂半クラッチ状態とする制御が行なわれる。
そして、この半クラッチ状態は、クラッチ機構4を介してエンジン3から駆動輪6に伝達される駆動力を滑らかに増減させるために用いられるものであり、該駆動力の増減はクラッチ機構4の滑り率の変更によって行われる。図2は、クラッチ機構4の目標滑り率SR_cmdが変更されたとき、及び外乱により実際のクラッチ滑り率SRが変化したときのクラッチ滑り率SRの変化を示したグラフであり、図2(a)のグラフでは縦軸を回転数に設定し横軸を時間に設定している。また、図2(b)のグラフでは縦軸をクラッチ滑り率に設定し横軸を時間に設定している。
図2(b)においては、時刻t1で目標滑り率SR_cmdがSR1からSR2に変更されている。そして、このように目標滑り率SR_cmdが変更されたときに、クラッチ滑り率SRをSR1からSR2に急激に変更すると、クラッチ機構4にかかる負担が大きくなると共に、振動の発生によりドライバビリティも悪くなる。そのため、図示したように、クラッチ滑り率SRを、SR1からSR2へと滑らかに漸近させる制御を行なう必要がある(t1〜t2)。
一方、外乱等により、瞬間的にクラッチ滑り率SRが微かに小さくなって、目標滑り率SR_cmdとの偏差が生じたとき(t3)には、該偏差を速やかにゼロに収束させる必要がある。
なお、コントローラ1は、クラッチ滑り率SRをクラッチ回転数NCに置換えて制御するため、図2(a)に示したように、目標滑り率SR_cmdに応じてクラッチ回転数目標値NC_cmdを変更し(t1)、外乱が生じたときには、クラッチ滑り率SRと目標滑り率SR_cmdとの偏差を解消するように、クラッチストロークPclを調節してクラッチ回転数NCを変更する。
上述したように、コントローラ1は、(1)目標滑り率SR_cmdの変化に対する実際のクラッチ滑り率SRの滑らかな追従性(漸近性)、及び(2)外乱によって生じる目標滑り率SR_cmdと実際のクラッチ滑り率SRとの偏差の速やかな収束性、という2つの特性を併せ持つ必要がある。そこで、コントローラ1は、図3,図5,図6,図8に示したいずれかの構成を備えることによって、上記(1)及び(2)の特性を実現している。
先ず、図3に示したコントローラ1の第1の構成について説明する。図3を参照して、コントローラ1aは、制御対象のプラントであるクラッチ機構4のクラッチ回転数NCが、クラッチ回転数目標値NC_cmdと一致するように、クラッチ機構4のクラッチストロークPcl(本発明のプラントに対する制御入力値に相当する)を決定する。ここで、クラッチストロークPclに応じてクラッチ機構4におけるクラッチ板7a,7b間の滑り率SRが変化し、エンジン3からクラッチ機構4の被動軸に伝達される駆動力が増減するため、クラッチストロークPclを変更することによって、クラッチ回転数NCを制御することができる。
コントローラ1aは、クラッチ回転数目標値NC_cmdにフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値NC_cmd_fを算出する目標値フィルタ11(本発明のフィルタリング手段に相当する)と、上記式(10)のモデル式に基づく応答指定制御を用いてクラッチ機構4に対する制御入力値であるクラッチストローク(Pcl)を決定する応答指定制御部10a(本発明の制御入力決定手段に相当する)とを備えている。
そして、応答指定制御部10aは、等価制御入力Ueq*を算出する等価制御入力部12、フィルタリング目標値NC_cmd_fとクラッチ回転数NCとの偏差Encを算出する減算器13、切換関数σの値を算出する切換関数値算出部14、到達則入力Urch*を算出する到達則入力算出部15、適応則入力Uadp*を算出する適応則入力算出部16、及び等価制御入力Ueq*と到達則入力Urch*と適応則入力Uadp*とを加算してクラッチストロークPclを算出する加算器17を備えている。
目標値フィルタ11は、クラッチ回転数目標値NC_cmd(本発明のプラントの目標出力値に相当する)に対して、以下の式(11)によるフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値NC_cmd_fを算出する。
但し、k:制御サイクルの番数、NC_cmd_f(k):k番目の制御サイクルにおけるフィルタリング目標値、POLE_F:目標値フィルタ係数。
上記式(11)は、1次遅れフィルタであり、フィルタリング目標値NC_cmd_fは、クラッチ回転数目標値NC_cmdが変化したときに、応答遅れを伴って変化後のクラッチ回転数目標値NC_cmdに収束する値となる。そして、クラッチ回転数目標値NC_cmdに対するフィルタリング目標値NC_cmd_fの応答遅れの程度は、目標値フィルタ係数POLE_Fの設定値に応じて変化する。なお、クラッチ回転数目標値NC_cmdが一定であるときは、フィルタリング目標値NC_cmd_fはクラッチ回転数目標値NC_cmdと等しくなる。
切換関数値算出部14は、減算器13により以下の式(12)で算出される偏差Encから、以下の式(13)により、切換関数値σを算出する。
但し、σ(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数値、POLE:切換関数設定パラメータ(−1<POLE<0)。
到達則入力算出部15は、以下の式(14)により到達則入力Urch*を算出する。到達則入力Urch*は、偏差状態量(Enc(k),Enc(k-1))を、切換関数σを0(σ=0)とした切換直線に載せるための入力である。
但し、Urch
*(k):k番目の制御サイクルにおける到達則入力、Krch:フィードバックゲイン。
適応則入力算出部16は、以下の式(15)により適応則入力Uadp*を算出する。適応則入力Uadp*は、モデル化誤差や外乱を吸収して、偏差状態量(Enc(k),Enc(k-1))を切換直線(σ=0)に載せるための入力である。
但し、Uadp
*(k):k番目の制御サイクルにおける適応則入力、Kadp:フィードバックゲイン。
等価制御入力算出部12は、以下の式(16)により等価制御入力Ueq*を算出する。式(16)は、σ(k+1)=σ(k)とおいて、上記式(13)及びc1'(外乱項)を0とした上記式(10)を代入したときのクラッチストロークPclを、等価制御入力Ueq*として算出するものである。等価制御入力Ueq*は、偏差状態量(Enc(k),Enc(k-1))を切換直線(σ(k)=0)上に拘束するための入力である。
但し、POLE:切換関数設定パラメータ(−1<POLE<0)、a1',b1':モデルパラメータ。
そして、加算器17は、以下の式(17)によりクラッチ機構4に対する制御入力であるクラッチストロークPclを算出する。
なお、応答指定制御部10aは、上記式(10)の外乱項c1'を0とし、外乱の影響を適応則入力Uadp
*で吸収している。
図4は、コントローラ1aの作動を示した時系列グラフであり、縦軸がクラッチ回転数(NC,NC_cmd)に設定され、横軸が時間(Time)に設定されている。図中に示したように、目標値フィルタ11により算出されるフィルタリング目標値NC_cmd_fは、クラッチ回転数目標値NC_cmdに対して応答遅れを伴うものとなる。
そして、この応答遅れの程度は、上記式(11)における目標値フィルタ係数POLE_Fの設定値に応じて変化する。そのため、目標値フィルタ係数POLE_Fを変更することによって、クラッチ回転数目標値NC_cmdに対する実際のクラッチ回転数NCの収束速度を設定することができる。
また、応答指定制御部10は、フィルタリング目標値NC_cmd_fと実際のクラッチ回転数NCが一致するように、クラッチストロークPclを決定するが、フィルタリング目標値NC_cmd_fと実際のクラッチ回転数NCとの偏差Encの収束挙動は、上記式(13)における切換関数設定パラメータPOLEに依存する。
そのため、図4に示したように、切換関数設定パラメータPOLEの設定を変えることで、フィルタリング目標値NC_cmd_fに対するクラッチ回転数(NC_1,NC_2,NC_3)の収束挙動が変化する。そこで、フィルタリング目標値NC_cmd_fと実際のクラッチ回転数NCとの偏差の収束速度を、フィルタリング演算において指定されるフィルタリング目標値NC_cmd_fのクラッチ回転数目標値NC_cmdに対する収束速度よりも速く設定する。
具体的には、以下の式(18)に示したように、切換関数設定パラメータPOLE(フィルタリング目標値NC_cmd_fと実際のクラッチ回転数NCとの偏差の収束速度を決定する演算係数)の絶対値を、目標フィルタ係数POLE_F(フィルタリング演算において、フィルタリング目標値NC_cmd_fのクラッチ回転数目標値NC_cmdへの収束速度を決定する演算係数)の絶対値よりも小さい値に設定する。
これにより、クラッチ回転数目標値NC_cmdが変化したときのクラッチ回転数NCの追従速度を、切換関数設定パラメータPOLEの影響を相対的に減少させて指定することができる。そのため、目標フィルタ係数POLE_Fの設定により、クラッチ回転数目標値NC_cmdの変化に対するクラッチ回転数(NC)の追従速度の指定をより正確に行うことができる。
また、クラッチ回転数目標値NC_cmdが一定であるときは、フィルタリング目標値NC_cmd_fとクラッチ回転数目標値NC_cmdは等しくなる。そして、この状態で外乱が生じて図4のt11に示したようにクラッチ回転数NCが変化した場合のクラッチ回転数目標値NC_cmdとの偏差(NC−NC_cmd)の収束挙動は、上記式(13)における切換関数設定パラメータPOLEにより設定することができる。
したがって、図3に示したコントローラ1aによれば、上記式(11)における目標フィルタ係数POLE_Fに設定により、クラッチ回転数目標値NC_cmdが変化したときのクラッチ回転数目標値NC_cmdに対する実際のクラッチ回転数(NC)の追従速度を独立して指定することができる。また、上記式(13)における切換関数設定パラメータPOLEの設定により、クラッチ回転数目標値NC_cmdと実際のクラッチ回転数NCとの偏差の収束速度を独立して設定することができる。
次に、コントローラ1の第2の構成について図5を参照して説明する。なお、図3に示したコントローラ1aと同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。図5に示したコントローラ1bは、応答指定制御部10bに適応則算出部を備えていない点、及び同定器20(本発明の同定手段に相当する)を備えた点が、図3に示したコントローラ1aと相違する。
コントローラ1bの制御対象であるクラッチ機構4をモデル化した上記式(10)のモデルパラメータ(a1’,b1’,c1’)は、クラッチ回転数NCやクラッチストロークPclに応じて変化し、また、クラッチ機構4の経時変化等によっても変化する。そのため、応答指定制御部10bに備えられた同定器20は、モデル化誤差の影響を抑制するために、コントローラ1bの制御サイクル毎にモデルパラメータ(a1’,b1’,c1’)を修正する処理を実行する。
また、応答指定制御部10bにおいては、外乱抑制をより短時間で行うために、前記第1の構成の応答指定制御部10aにおける適応則入力Uadp*による外乱抑制を止め、同定器20により直接的に外乱成分c1'を同定し、同定したc1'を用いて等価制御入力を算出することにより外乱の影響を抑制している。
同定器20は、以下の式(19)〜式(25)により、上記式(10)のモデルパラメータ(a1’,b1’,c1’)の同定値(a1,b1,c1)を算出する。
先ず、以下の式(19)で定義したベクトルζと、式(20)で定義したベクトルθにより、上記式(10)は、以下の式(21)の形で表すことができる。
但し、NC_hat(k):k番目の制御サイクルにおけるクラッチ回転数推定値。
同定器20は、先ず、上記式(21)によるクラッチ回転数推定値NC_hatと、実際のクラッチ回転数NCとの偏差e_idを、上記式(10)のモデル化誤差を表すものとして、以下の式(22)により算出する(以下、偏差e_idを同定誤差e_idという)。
但し、e_id(k):k番目の制御サイクルにおけるクラッチ回転数推定値(NC_hat(k))と実際のクラッチ回転数(NC(k))との偏差。
そして、同定器20は、同定偏差e_idを最小にするように、以下の式(23)により、新たな制御サイクルにおけるモデルパラメータ(a1(k),b1(k),c1(k))を算出する。すなわち、同定器20は、前回の制御サイクルにおいて算出したモデルパラメータ(a1(k-1),b1(k-1),c1(k-1))を、同定誤差e_idに比例させた量だけ変化させて今回の制御サイクルにおける新たなモデルパラメータ(a1(k),b1(k),c1(k))を算出する。
ここで、上記式(23)における「KP」は、以下の式(24)により算出される3次ベクトル(同定誤差e_idに応じた変化度合を規定するゲイン係数ベクトル)である。
また、上記式(23)における「P」は、以下の式(25)の漸化式により算出される3次の正方行列である。
但し、I:単位行列、λ
1,λ
2:同定重みパラメータ。
上記式(25)中の「λ1」、「λ2」の設定の仕方により、固定ゲイン法、漸減ゲイン法、重み付き最小2乗法、最小2乗法、固定トレース法等、各種のアルゴリズムを構成することができる。
そして、同定器20により同定されたモデルパラメータ(a1,b1,c1)に基づいて、到達則入力算出部15は以下の式(26)により到達則入力Urchを算出し、等価制御入力算出部12は以下の式(27)により等価制御入力Ueqを算出する。
到達則入力算出部15により算出された到達則入力Urchと、等価制御入力算出部12により算出された等価制御入力Ueqは、加算器17で加算されて、以下の式(28)に示したようにクラッチ機構4に対するクラッチストロークPclが算出される。
このように、同定器20により同定された新たなモデルパラメータ(a1,b1,c1)に基づいてクラッチ機構4に対する制御入力であるクラッチストロークPclを算出することにより、モデル化誤差の影響を抑制して、クラッチ回転数目標値NC_cmdの変化に対するクラッチ回転数NCの追従挙動を指定することができる。また、上記式(27)により外乱要素c1を用いて等価制御入力Ueqを算出することによって、クラッチ回転数目標値NC_cmdと実際のクラッチ回転数NCとの偏差の収束時間を、上記第1の構成のコントローラ1aによる場合よりも短縮することができる。
なお、本第2の構成例の応答指定制御部10bにおいても、上記第1の構成例の応答指定制御部10aと同様に適応則算出部を備えて、同定されたモデルパラメータb1に基づく適応則入力を算出し、加算器17で該適応則入力を加算してクラッチストロークPclを算出するようにしてもよい。
次に、コントローラ1の第3の構成について図6を参照して説明する。なお、図5に示したコントローラ1bと同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。図6に示したコントローラ1cは、応答指定制御部10cにパラメータスケジューラ30を備えた点が、図5に示したコントローラ1bと相違する。また、同定器21における演算処理が、図5に示した同定器20と相違する。
パラメータスケジューラ30は、図7に示したマップを用いて基準パラメータθbase(a1base,b1base,0)(本発明のモデルパラメータの基準値に相当する)を求める。図7(a)は、クラッチ回転数NCから基準パラメータa1baseを求めるためのNC/a1baseマップであり、変速機のギヤ選択目標値NGEAR_cmdの大小に応じて3種類(Na1,Na2,Na3)の相関データが設定されている。
また、図7(b)は、クラッチストロークPclから基準パラメータb1baseを求めるためのPcl/b1baseマップであり、変速機のギヤ選択目標値NGEAR_cmdの大小に応じて3種類(Pb1,Pb2,Pb3)の相関データが設定されている。
なお、NC/a1baseマップ及びPcl/b1baseマップのデータMAP_datは、実験やシミュレーションに基づいて作成され、予めメモリ(図示しない,本発明の記憶手段に相当する)に記憶されている。また、マップではなく、クラッチ回転数NCと基準パラメータa1baseとの相関関係を表す関係式と、クラッチストロークPclと基準パラメータb1baseとの相関関係を表す関係式を用いて、基準パラメータa1baseとb1baseを求めるようにしてもよい。
同定器21は、パラメータスケジューラ30により求められた基準パラメータa1baseとb1baseを用いて、以下の式(29)で定義したベクトルθbaseと、上記式(24)により算出したKPと、上記式(22)により算出したe_idとにより、以下の式(30)からパラメータ補正値dθを算出する。
そして、同定器21は、以下の式(31)により、新たなモデルパラメータθ
T(k)=(a1,b1,c1)を算出する。
このように、パラメータスケジューラ30によって、クラッチ機構4の動特性(クラッチ回転数NC,クラッチストロークPcl)に応じた基準パラメータθbase(a1base,b1base,0)に基づいて、同定器21によるモデルパラメータ(a1,b1,c1)の同定処理を行うことによって、クラッチ機構4の動特性が急変した場合であっても、その変化に対してコントローラ1cを安定的かつ迅速に適合させることができる。そして、これにより、クラッチ回転数目標値NC_cmdの変化に対する実際のクラッチ回転数NCの追従挙動と、外乱により生じるクラッチ回転
数目標値NC_cmdとクラッチ回転数NCとの偏差の収束挙動の指定に対する実現精度を向上させることができる。
なお、本第3の構成例の応答指定制御部10cにおいても、上記第1の構成例の応答指定制御部10aと同様に適応則算出部を備えて、同定されたモデルパラメータb1に基づく適応則入力を算出し、加算器17で該適応則入力を加算してクラッチストロークPclを算出するようにしてもよい。
次に、コントローラ1の第4の構成について図8を参照して説明する。なお、図6に示したコントローラ1cと同様の構成につては同一の符号を付して説明を省略する。図8に示したコントローラ1dは、応答指定制御部10dに適応外乱オブザーバ50を備えた点、及び同定器を備えていない点が、図6に示したコントローラ1cと相違する。また、パラメータスケジューラ41における処理が、図6に示したパラメータスケジューラ30と相違する。
パラメータスケジューラ41は、クラッチ回転数NCやクラッチストロークPcl等の作動パラメータと、モデルパラメータ(a1sc,b1sc)との相関関係を示すマップに、該作動パラメータを適用してマップ検索し、モデルパラメータ(a1sc,b1sc)を求める。なお、該マップのデータMAP_dataは、予めメモリ(図示しない)に記憶されている。
適応外乱オブザーバ50は、パラメータスケジューラ41により求められたモデルパラメータのスケジュール値(a1sc,b1sc)を用いて、以下の式(32)で定義したベクトルθと、上記式(19)によるζとにより、以下の式(33)によりクラッチ回転数推定値(NC_hat)を算出する。
但し、a1sc,b1sc:モデルパラメータのスケジュール値。
そして、適応外乱オブザーバ50は、以下の式(34)により、クラッチ回転数推定値(NC_hat)と実際のクラッチ回転数(NC)との偏差(e_dov)を算出し、該偏差(e_dov)を以下の式(35)の漸化式に代入して外乱成分c1の同定値(c1(k))を算出する。
そして、到達則入力算出部15は、上記式(26)のモデルパラメータb1(k)を、パラメータスケジューラ41により求められたモデルパラメータのスケジュール値b1sc(k)に置き換えた以下の式(36)により、到達則入力(Urch)を算出する。
また、等価制御入力算出部12は、上記式(27)のモデルパラメータa1(k),b1(k)を、パラメータスケジューラ41により求められたモデルパラメータのスケジュール値a1sc(k),b1sc(k)に置き換えた以下の式(37)に、上記式(35)で算出された外乱成分c1(k)を代入して、等価制御入力Ueqを算出する。
そして、加算器17により、到達則入力Urchと等価制御入力Ueqが加算されて、クラッチ機構4に対するクラッチストローク(Pcl)が算出される。
以上説明したコントローラ1dの応答指定制御部10dによれば、適応外乱オブザーバ50によってモデルパラメータ(a1,b1,c1)のうちの外乱成分c1のみを同定することにより、各制御サイクルにおける演算量を減少させることができる。
そして、これにより、コントローラ1dの制御サイクルを短縮して、クラッチ機構4が有するヒステリシスやバックラッシュ、フリクション等の非線形特性に対する制御性を向上させることができる。なお、パラメータスケジューラ41を用いずに、固定したモデルパラメータa1,b1を用いることも可能である。
また、本第4の構成例の応答指定制御部10dにおいても、上記第1の構成例の応答指定制御部10aと同様に適応則算出部を備えて、スケジュール化されたモデルパラメータb1scに基づく適応則入力を算出し、加算器17で該適応則入力を加算してクラッチストロークPclを算出するようにしてもよい。
次に、上記コントローラ1によりクラッチ機構4の作動を制御する際の具体的な例として、上記第3の構成によるコントローラ1cを用いた場合の実行手順を図9〜図13に示したフローチャートに従って説明する。
図9は、コントローラ1cのメインの作動フローチャートであり、コントローラ1cは、STEP1で車両の運転者によりアクセルペダル(図示しない)又はブレーキペダル(図示しない)が操作されたときに、その操作内容に応じて、以下の式(38)により、車両2の駆動輪6(図1(a)参照)に与える駆動力を設定するための駆動力インデックスUdrvを決定する。
但し、Udrv:駆動力インデックス、AP:アクセルペダル開度、BK:ブレーキ踏力、Kbk:ブレーキ踏力(0〜最大)をアクセルペダル開度(0〜−90度)に変換する係数。
そして、コントローラ1cは、決定した駆動力インデックスUdrvに基づいて、STEP2でクラッチ機構4(図1(a)参照)と接続された変速機(図示しない)の変速操作を行うか否かを判断し、変速操作を行うときは、変速先のギヤを設定して変速機の変速操作を行う「変速機制御」を実行する。また、続くSTEP3で、コントローラ1cは、クラッチ機構4の滑り率を制御する「クラッチ制御」を実行する。
次に、図10,図11に示したフローチャートに従って、コントローラ1cによる「変速機制御」の実行手順について説明する。コントローラ1cは、先ず、図10のSTEP10で、車両の運転者により後退要求がなされているか否かを確認する。そして、変速操作がなされていたときは、STEP20に分岐してギヤ選択目標値NGEAR_cmdを−1(リバース)とする。
一方、STEP10で後退要求がなされていなかったときには、STEP11に進み、コントローラ1cは、図示したUdrv,VP/NGEAR_cmdマップに駆動力インデックスUdrvと車両2の車速VPとを適用して、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdを求める。なお、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdと選択ギヤとの関係は以下の表(1)の通りである。
続くSTEP12で、コントローラ1cは、変速機のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているか否かを
判断する。そして、ギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているときはSTEP15に進み、変速機の変速操作は行わない。
一方、STEP12で変速機のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致していなかったときには、STEP13に進んで、コントローラ10はタイマをスタートし、次のSTEP14で変速機の「変速操作処理」のサブルーチンを実行する。
ここで、変速機の変速操作は、クラッチ機構4をクラッチOFF状態として変速機のシフト/セレクト機構を可動状態とする「クラッチOFF工程」と、クラッチOFF状態でシフト/セレクト機構により変速機のギヤ選択位置をギヤ選択目標値NGEAR_cmdに対応した位置に変更する「ギヤ位置変更工程」と、該「ギヤ位置変更工程」の終了後にクラッチ機構4をクラッチON状態に戻す「クラッチON工程」という3つの工程により実行される。
そして、STEP13でタイマがスタートした時から各工程が終了するまでのタイミングを把握するために、各工程の完了時間を想定した、クラッチOFF完了時間TM_CLOFF、ギヤ位置変更完了時間TM_SCHG、及びクラッチON完了時間TM_CLONが予め設定されている(TM_CLOFF<TM_SCHG<TM_CLON)。
図11は、図10のSTEP14で実行される「変速操作処理」のサブルーチンのフローチャートである。コントローラ1cは、先ず、STEP30でクラッチ機構4のOFF操作を実行する。そして、次のSTEP31でタイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えたとき、すなわち、「クラッチOFF工程」が終了したときに、STEP32に進み、コントローラ1cはシフト/セレクト機構により変速機のギヤ選択位置をギヤ選択目標値NGEAR_cmdに応じた位置に変更する操作を開始する。
そして、次のSTEP33でタイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えたときに、「ギヤ位置変更工程」が終了したと判断して、STEP34に進み、コントローラ1cは、クラッチ機構4のON操作を行う。
続くSTEP35でタイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えたときに、「クラッチON工程」が終了したと判断して、コントローラ1cは変速操作処理を終了する。
次に、図12及び図13に示したフローチャートに従って、「クラッチ制御」の実行手順について説明する。コントローラ1cは、先ず、STEP80で、変速機の実際のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているか否かを判断する。
そして、STEP80で変速機のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているとき、すなわち、変速操作が終了した状態にあるときには、STEP90に進み、コントローラ1cは、図示したUdrv,VP/SR_cmd_drマップに、駆動力インデックスUdrvと実車速VPとを適用して、走行時目標滑り率SR_cmd_drを求める。
なお、Udrv,VP/SR_cmd_drマップのデータは、予めメモリ(図示しない)に記憶されており、クラッチ機構4の走行時目標滑り率SR_cmd_drが0%(クラッチON状態、滑り無し)〜100%(クラッチOFF状態)の範囲で設定される。
一方、STEP80で変速機の実際のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致していないとき、すなわち、変速操作処理の実行中であるときにはSTEP81に進み、コントローラ1cは、タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えているか否かを判断する。
そして、タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF時間TM_CLOFFを越えているとき、すなわち、変速操作処理の実行中であるときには、STEP82に進んで、コントローラ1cは、目標滑り率SR_cmdを100%(クラッチOFF状態)とし、続くSTEP83に進む。STEP83で、コントローラ1cは、目標滑り率(SR_cmd)に応じたクラッチストローク目標値Pcl_cmdを算出する。
一方、STEP81でタイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えていたとき、すなわち、「クラッチOFF工程」が終了していたときには、STEP100に進んで、コントローラ1cは、タイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えているか否かを判断する。
そして、タイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えていたとき、すなわち、「ギヤ位置変更工程」が完了していたときには、STEP110に分岐して、コントローラ1cは目標滑り率SR_cmdを0%(クラッチON状態、滑り無し)に設定する。
一方、STEP100でタイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えていなかったとき、すなわち、「ギヤ位置変更工程」の実行中であるときには、STEP82に進んで、コントローラ1cは目標滑り率SR_cmdを100%(クラッチOFF状態)とする。
そして、コントローラ1cは、STEP83で、目標滑り率SR_cmd(0〜100%)が達成されるようにクラッチストロークPclを制御する「滑り率制御処理」のサブルーチンを実行する。
図13は、図12のSTEP83で実行される「滑り率制御処理」のサブルーチンのフローチャートである。コントローラ1cは、先ず、STEP120で以下の式(39)によりクラッチ回転数目標値NC_cmdを算出する。
但し、NC_cmd(k):k番目の制御サイクルにおけるクラッチ回転数目標値、NE(k):k番目に制御サイクルにおけるクラッチ回転数、SR_cmd:目標滑り率。
続くSTEP121〜STEP125は、コントローラ1cに備えられた応答指定制御部10c(図6参照)により実行される処理である。STEP121で、応答指定制御部10cに備えられたパラメータスケジューラ30は、図示したNC/a1baseマップにクラッチ回転数(NC)を適用して基準パラメータa1base(k)を求め、また、図示したPcl/b1baseマップにクラッチストロークPclを適用して基準パラメータb1base(k)を求める。
そして、次のSTEP122でクラッチストロークPclがクラッチOFF位置Pcl_offを超えていないとき、すなわちクラッチOFF状態にないときは、STEP123に進み、同定器21(図6参照)により上記式(30)によりモデルパラメータの補正値dθが算出される。
一方、STEP122でクラッチストロークPclがクラッチOFF位置Pcl_offを超えているとき、すなわちクラッチOFF状態であるときには、STEP124に分岐し、同定器21によるモデルパラメータの補正値dθの更新は行われない。そして、これにより、変速操作の実行時にクラッチOFF状態でのクラッチ回転数(NC)が、0(目標滑り率100%に応じた目標クラッチ回転数NC_cmd)とならないときに、モデルパラメータの補正値dθが増大して、上記式(31)により算出される外乱項c1(k)が肥大化することを防止することができる。
そして、STEP124で、同定器21は、上記式(31)により、モデルパラメータの同定値(a1(k),b1(k),c1(k))を算出する。また、続くSTEP125で、等価制御入力算出部12、減算器13、切換関数値算出部14、到達則入力算出部15、及び加算器17により、上記式(26)〜式(28)の演算が実行されて、クラッチ機構4に対するクラッチストロークPcl(k)が決定される。
なお、本実施の形態では、応答指定制御部10により、応答指定制御を用いてクラッチストロークPclを決定したが、応答指定制御としては、スライディングモード制御やバックステッピング制御等を用いることができる。
また、本第1の実施の形態では、本発明をクラッチ機構4に適用した例を示したが、本発明は他の種類のプラントに対しても適用可能である。図14は、本発明をエンジン100(本発明のプラントに相当する)の回転数NE(本発明のプラントの出力値に相当する)の制御に適用した例を示したものである。
例えば、車両が走行状態から停止して、エンジン100をアイドル状態に移行させる際には、図14(a)に示したように、エンジン100の回転数NEを、アイドル条件外(図中Ar1)からアイドル条件内(図中Ar2)へと、オーバーシュートを生じることなく滑らかにアイドル目標回転数NOBJに漸近させることが要求される。
また、エンジン100がアイドリング状態にあるときに、エアコンやパワーステアリングポンプ等の電気負荷がON/OFFされて、例えば、図14(a)のt20に示したように、エンジン回転数NEが低下したときには、エンジン回転数NEを速やかにアイドル目標回転数NOBJに復帰させることが要求される。
すなわち、エンジン回転数NEの制御においても、(1)目標回転数の変化に対するエンジン回転数NEの滑らかな追従性、及び(2)外乱によりエンジン回転数NEが変化したときの目標回転数とエンジン回転数NEの偏差の速やかな収束性、という2つの応答性の指定を独立して個別に設定できることが要求される。
そこで、図14(b)に示したように、エンジン100の回転数NEが目標回転数NE_cmdと一致するように、エンジン100に対する空気吸入量を調節するスロットル(図示しない)の開度THを制御するコントローラ101に、本発明の構成を備えたものを用いることで、上記(1),(2)の要求を満たす制御を実現することができる。
[第2の実施形態]次に、本発明の第2の実施形態について、図15〜図37を参照して説明する。図15は図1に示した車両2に備えられた変速機の構成図、図16は変速機のシフト/セレクト機構の詳細図、図17は変速機の作動説明図、図18は図1に示したコントローラ1に備えられたシフト動作及びセレクト動作用の制御部の構成図、図19は図18に示したセレクトコントローラのブロック図、図20は1自由度のスライディングモードコントローラを用いたときのシフト動作時におけるシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図21は2自由度のスライディングモードコントローラを用いたときのシフト動作時におけるシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図22は図18に示したセレクトコントローラのブロック図、図23はモデルパラメータの同定処理方法に関する仮想プラントのブロック図、図24はセレクト動作時におけるシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図25は1自由度のスライディングモードコントローラ及び2自由度のスライディングモードコントローラを用いてセレクト動作を行ったときのシフトアームの目標位置への収束挙動を示したグラフ、図26はマニュアル変速機におけるシフト動作の説明図、図27はマニュアル変速機におけるシフト動作時のシフトアームの変位を示したグラフ、図28は自動マニュアル変速機におけるシフト動作の説明図、図29は応答指定パラメータの変更による外乱抑制能力の変化を示したグラフ、図30は自動マニュアル変速機において応答指定パラメータを変更したときのシフト動作の説明図、図31はシフト動作時におけるシフトアームの変位と応答指定パラメータの設定を示したグラフ、図32は自動マニュアル変速機におけるセレクト動作の説明図、図33,図34は変速操作のフローチャート、図35はシフト/セレクト操作のフローチャート、図36,図37は回転同期動作時目標値算出のフローチャートである。
図15を参照して、本第2の実施の形態は、変速機80を本発明のプラントとして、コントローラ1によりその作動を制御するものである。変速機80は車両2(図1(a)参照)に搭載されて、エンジン3の出力をクラッチ機構4と連結ギヤ90を介して伝達する。そして、連結ギヤ90はディファレンシャル93のギヤ91と噛合い、これによりエンジン3の出力が駆動軸92を介して駆動輪6に伝達される。
コントローラ1は、アクセルペダル95、燃料供給制御ユニット96、チェンジレバー97、クラッチペダル98、及びブレーキペダル99の状態に応じて、セレクト用モータ66(本発明のセレクト用アクチュエータに相当する)、シフト用モータ67、及びクラッチ用アクチュエータ68を駆動することによって、変速機80の変速動作を制御する。
変速機80は、入力軸62、出力軸61、前進1〜6速ギヤ対63a〜63f及び64a〜64f、後進ギヤ軸84及び後進ギヤ列83,85,86を備えている。ここで、入力軸62、出力軸61、及び後進ギヤ軸84は、互いに平行に配置されている。
前進1〜6速ギヤ対63a〜63f及び64a〜64fは、互いに異なるギヤ比に設定されている。そして、入力側前進1速ギヤ63aと入力側前進2速ギヤ63bは入力軸62と一体に設けられており、対応する出力側前進1速ギヤ64aと出力側前進2速ギヤ64bは出力軸61に対して回転自在なアイドルギヤで構成されている。そして、1・2速用同期機構60aにより、出力側前進1速ギヤ64aと出力側前進2速ギヤ64bを選択的に出力軸61に接続した状態(変速確立状態)と、双方のギヤ64a,64bを共に出力軸61から遮断した状態(ニュートラル状態)とに切換えられる。
また、入力側前進3速ギヤ63cと入力側前進4速ギヤ63dは、入力軸62に対して回転自在のアイドルギヤで構成され、対応する出力側前進3速ギヤ64cと出力側前進4速ギヤ64dは、出力軸61と一体に設けられている。そして、3・4速用同期機構60bにより、入力側前進3速ギヤ63cと入力側前進4速ギヤ63dを選択的に入力軸62に接続した状態(変速確立状態)と、双方のギヤ63c,63dを共に入力軸62から遮断した状態(ニュートラル状態)とに切換えられる。
同様に、入力側前進5速ギヤ63eと入力側前進6速ギヤ63fは、入力軸62に対して回転自在のアイドルギヤで構成され、対応する出力側前進5速ギヤ64eと出力側前進6速ギヤ64fは、出力軸61と一体に設けられている。そして、5・6速用同期機構60cにより、入力側前進5速ギヤ63eと入力側前進6速ギヤ63fを選択的に入力軸62に接続した状態(変速確立状態)と、双方のギヤ63e,63fを共に入力軸62から遮断した状態(ニュートラル状態)とに切換えられる。
また、後進ギヤ列83,85,86は、後進ギヤ軸84に取り付けられた第1後進ギヤ85と、入力軸62と一体に設けられた第2後進ギヤ83と、出力軸61の1・2速用同期機構60aと一体の第3後進ギヤ86とにより構成されている。そして、第1後進ギヤ85は、スプライン嵌め合いにより後進ギヤ軸84に取り付けられている。これにより、第1後進ギヤ85は後進ギヤ軸84と一体に回転すると共に、第2後進ギヤ83と第3後進ギヤ86の双方と噛合う位置と、これらとの噛合いが解除される位置(ニュートラル位置)との間で、後進ギヤ軸84の軸線方向に摺動自在となっている。
そして、各同期機構60a,60b,60c及び第1後進ギヤ85には、シフトフォーク69a,69b,69c,69dがそれぞれ接続され、各シフトフォークの先端に設けられたシフトピース(図16参照)が、シフトアーム65と選択的に係合される。シフトアーム65はセレクト用モータ66により回転し、各シフトフォークはシフトアーム65が回転する円弧方向(セレクト方向)にほぼ直線的に並列して設けられている。そして、シフトアーム65は、各シフトピースと係合する位置に、選択的に位置決めされる。
また、シフトアーム65はいずれかのシフトピースと係合した状態で、シフト用モータ67により入力軸62平行な軸方向(シフト方向)に移動する。そして、シフトアーム65は、ニュートラル位置と各変速段の確立位置(シフト位置)とに位置決めされる。
次に、図16(a)は図15に示した同期機構60bの構成を示したものである。なお、同期機構60cの構成は同期機構60bと同様である。また、同期機構60aは出力軸61に設けられている点で同期機構60b,60cと相違するが、基本的な構成と作動内容は共通する。
同期機構60bには、入力軸62と一体に回転するカップリングスリーブ72、カップリングスリーブ72と入力側前進3速ギヤ63cの間の入力軸62に回転自在且つ入力軸62の軸方向に移動自在に設けられたシンクロナイザリング73a、カップリングスリーブ72と入力側前進4速ギヤ63dの間の入力軸62に回転自在且つ入力軸62の軸方向に移動自在に設けられたシンクロナイザリング73b、及びカップリングスリーブ72と接続されたシフトフォーク69bが備えられている。
そして、シフトフォーク69bの先端に固定されたシフトピース71が、シフト/セレクト軸70に固定されたシフトアーム65と係合する。シフト/セレクト軸70は、セレクト用モータ66の作動に応じて回転する(セレクト動作)と共に、シフト用モータ67の作動に応じて軸方向に移動する(シフト動作)。セレクト動作によりシフトアーム65をシフトピース71と係合させた状態で、シフト動作することにより、カップリングスリーブ72が、ニュートラル位置から入力側前進3速ギヤ63cの方向(3速選択時)又は入力側前進4速ギヤ63dの方向(4速選択時)に変位する。
カップリングスリーブ72の両端は中空構造となっており、中空部の内周面にスプライン74a,74bが形成されている。そして、シンクロナイザリング73aの外周面にカップリングスリーブ72のスプライン74aと係合可能なスプライン75aが形成され、入力側前進3速ギヤ63cのシンクロナイザリング73aと対向する部分の外周面にもカップリングスリーブ72のスプライン74aと係合可能なスプライン76aが形成されている。
同様に、シンクロナイザリング73bの外周面にカップリングスリーブ72のスプライン74bと係合可能なスプライン75bが形成され、入力側前進4速ギヤ63dのシンクロナイザリング73bと対向する部分の外周面にもカップリングスリーブ72のスプライン74bと係合可能なスプライン76bが形成されている。
そして、入力軸62と共に回転したカップリングスリーブ72をシフトフォーク69bにより入力側3速前進ギヤ63cの方向に移動すると、カップリングスリーブ72とシンクロナイザリング73aが接触し、さらにシンクロナイザリング73aと入力側前進3速63cも接触する状態となる。このとき、接触により生じる摩擦力により、シンクロナイザリング73aを介してカップリングスリーブ72と入力側前進3速ギヤ63cの回転数が同期する。
このように、カップリングスリーブ72と入力側前進3速ギヤ63cの回転数が同期した状態で、カップリングスリーブ72をさらに入力側3速ギヤ63cの方向に移動させると、カップリングスリーブ72に形成されたスプライン74aが、シンクロナイザリング73aに形成されたスプライン75aを通過して入力側前進3速ギヤ63cに形成されたスプライン76aと係合する。そして、これにより、入力軸62と出力軸61間で動力が伝達される状態(変速確立状態)となる。
同様にして、入力軸62と共に回転したカップリングスリーブ72をシフトフォーク69bにより入力側前進4速ギヤ63dの方向に移動すると、シンクロナイザリング73bを介してカップリングスリーブ72と入力側前進4速ギヤ63dの回転数が同期する。そして、カップリングスリーブ72に形成されたスプライン74bが、シンクロナイザリング73bに形成されたスプライン75bを通過して入力側前進4速ギヤ63dに形成されたスプライン76bと係合する。
図16(b)は、シフトアーム65側から、直線的に配置されたシフトピース71a,71b,71c,71dを見た図であり、セレクト動作時においては、シフトアーム65は図中Psl方向(セレクト方向)に移動して、1・2速選択位置Psl_12、3・4速選択位置Psl_34、5・6速選択位置Psl_56、リバース(後退)選択位置Psl_rのいずれかに位置決めされて、シフトピース71a,71b,71c,71dのいずれかと係合する。また、シフト動作時においては、シフトアーム65は図中Psc方向(シフト方向)に移動して、変速段(1〜6速、リバース)が確立される。
図17は、2速の変速段が確立された状態から3速の変速段を確立するときのシフトアーム65の動作を説明したもので、(a)→(b)→(c)→(d)の順でシフトアーム65の位置決め処理が実行される。(a)は2速の変速段が確立された状態であり、シフトアーム65はシフトピース71aと係合している。そして、シフトアーム65のセレクト方向位置Pslは1・2速選択位置Psl_12に位置決めされ、シフトアーム65のシフト位置方向位置P_scは1速シフト位置Psc_1に位置決めされている。
(b)では、シフトアーム65のシフト方向位置Pscをニュートラル位置0としてセレクト動作が可能な状態とし、(c)でセレクト動作によりシフトアーム65を3・4速選択位置Psc_34に位置決めする。これにより、シフトアーム65とシフトピース71bとが係合する。そして、(d)でシフト動作によりシフトアーム65をニュートラルから3速シフト位置Psc_3に位置決めして、3速の変速段を確立する。
次に、図18を参照して、コントローラ1には、シフトアーム65のシフト方向の目標位置Psc_cmdとセレクト方向の目標位置Psl_cmdとを設定する目標位置算出部112と、シフトアーム65のシフト方向の実位置Pscと目標位置Psc_cmdとが一致するように、シフト用モータ67への印加電圧Vscを制御するシフトコントローラ110と、シフトアーム65のセレクト方向の実位置Pslと目標位置Psl_cmdとが一致するように、セレクト用モータ66への印加電圧Vsl(本発明のセレクト用アクチュエータに対する制御入力に相当する)を制御するセレクトコントローラ111とが備えられている。
シフトコントローラ110には、スライディングモード制御(本発明の応答指定型制御に相当する)を用いて、シフト用モータ67への印加電圧Vscを決定するスライディングモードコントローラ113と、スライディングモードコントローラ113における応答指定パラメータVPOLE_scを設定するVPOLE_sc算出部114とが備えられている。
図19を参照して、シフトコントローラ110に備えられたスライディングモードコントローラ113には、シフトアーム65のシフト方向の目標位置Psc_cmdに対して、以下の式(40)によるフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値Psc_cmd_fを算出する目標値フィルタ121(本発明のフィルタリング手段に相当する)が備えられている。
但し、VPOLE_f_sc:目標値フィルタ係数、Psc_cmd_f(k):k番目の制御サイクルにおけるフィルタリング目標値。
スライディングモードコントローラ113には、変速機80におけるシフトアーム65をシフト方向に位置決めする構成を以下式(41)によりモデル化し、フィルタリング目標値Psc_cmd_f(k)とシフトアーム65のシフト方向位置Psc(k)との偏差E_scを算出する減算器122、切換関数σ_scの値を算出する切換関数値算出部123、到達則入力Urch_scを算出する到達則入力算出部124、適応則入力Uadp_scを算出する適応則入力算出部125、等価制御入力Ueq_srを算出する等価制御入力算出部126、及び等価制御入力Ueq_srと到達則入力Urch_srと適応則入力Uadp_scとを加算してシフト用モータ67への印加電圧の制御値Vslを算出する加算器127が備えられている。
但し、a1_sc,a2_sc,b1_sc,b2_sc:モデルパラメータ。
切換関数値算出部123は、減算器122により以下の式(42)で算出される偏差E_sc(k)から、以下の式(43)により、切換関数値σ_sc(k)を算出する。
但し、E_sc(k):k番目の制御サイクルにおけるシフトアームのシフト方向のフィルタリング目標値Psc_cmd_f(k-1)と実位置Psc(k)との偏差。
但し、σ_sc(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数値、VPOLE_sc:切換関数設定パラメータ(−1<VPOLE_sc<0)。
適応則入力算出部125は、以下の式(44)により切換関数積分値SUM_σsc(k)を算出し、以下の式(45)により適応則入力Uadp_sc(k)を算出する。適応則入力Uadp_sc(k)は、モデル化誤差や外乱を吸収して、偏差状態量(E_sc(k),E_sc(k-1))を切換直線(σ_sc(k)=0)に載せるための入力である。
但し、SUM_σsc(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数積分値。
但し、Uadp_sc(k):k番目の制御サイクルにおける適応則入力、Kadp_sc:フィードバックゲイン。
到達則入力算出部124は、以下の式(46)により到達則入力Urch_sc(k)を算出する。到達則入力Urch_sc(k)は、偏差状態量(E_sc(k),E_sc(k-1))を、切換直線(σ_sc(k)=0)に載せるための入力である。
但し、Urch_sc(k):k番目の制御サイクルにおける到達則入力、Krch_sc:フィードバックゲイン。
等価制御入力算出部126は、以下の式(47)により等価制御入力Ueq_sc(k)を算出する。式(47)は、σ_sc(k+1)=σ_sc(k)とおいて、上記式(43),式(42),式(41)を代入したときのシフト用モータ67に対する制御入力Vsc(k)を等価制御入力Ueq_sc(k)として算出するものである。等価制御入力Ueq_sc(k)は、偏差状態量(E_sc(k),E_sc(k-1))を切換直線(σ_sc(k)=0)上に拘束するための入力である。
但し、Ueq_sc(k):k番目の制御サイクルにおける等価制御入力。
そして、加算器127は、以下の式(48)により、シフト用モータ67に対する制御入力Vsc(k)を算出する。
以上説明した構成により、スライディングモードコントローラ113は、シフト方向の目標位置Psc_cmdに対するシフトアーム65の追従特性と、外乱により生じる目標位置Psc_cmdと実位置Pscとの偏差の収束挙動を、個別に設定可能な2自由度の特性を備えている。具体的には、目標値フィルタVPOLE_f_scを変更することにより、シフト方向の目標位置Psc_cmdに対するシフトアーム65の追従特性を設定することができる。また、切換関数設定パラメータVPOLE_scを変更することにより、外乱により生じた目標位置Psc_cmdと実位置Pscとの偏差の収束挙動を設定することができる。
そして、シフトコントローラ110は、図16(a)を参照して、以下のMode1〜Mode4の工程を経てシフトアーム65のシフト動作を行う。なお、以下では同期機構60b(図15参照)により、3速の変速段を確立する場合を例に説明したが、他の変速段を確立する場合も同様である。
(1) Mode1(目標値追従&コンプライアンスモード)
ニュートラル位置からシフト動作を開始して、シフトアーム65の実位置Pscがシンクロナイザリング73aの待機位置Psc_defに達するまで(Psc<Psc_def)。
(2) Mode2(回転同期制御モード)
Psc_def≦Psc≦Psc_scf(カップリングスリーブ72とシンクロナイザリング73aとの接触想定位置)、且つ、ΔPsc<ΔPsc_sc(ΔPsc_sc:カップリングスリーブ72とシンクロナイザリング73aの接触判定値)の条件成立後、シンクロナイザリング73aに適切な押付け力を与える。そして、これにより、カップリングスリーブ72と入力側前進3速ギヤ63cの回転数の同期を図る。
(3) Mode3(静止モード)
Psc_scf<Pscの条件が成立した時点で、目標値Psc_cmdをシフト完了時目標値Psc_endとし、PscのPsc_cmdに対するオーバーシュート(オーバーシュートが生じると、図示しないストッパ部材との衝突音が発生する)を防止するため、上記式(44)による切換関数積分値SUM_σscをリセットとする。これにより、カップリングスリーブ72がシンクロナイザリング73aを通過して移動し、入力側前進3速ギヤ63cと係合する。
(4) Mode4(ホールドモード)
シフト動作完了後、及びセレクト動作時は、シフト用モータ67への印加電力低減による省電力化のため、シフトコントローラ110における外乱抑制能力を低下させる。
ここで、図20(a),図20(b)は、図19に示した目標値フィルタ121を有しない1自由度のスライディングモードコントローラを用いて、上記Mode1〜Mode4の工程によるシフト動作を行った場合のシフトアーム65の挙動を示したグラフである。図20(a),図20(b)の上段のグラフの縦軸はシフトアーム65のシフト方向の目標位置Psc_cmd及び実位置Pscに設定され、下段のグラフの縦軸はシフト用モータ67に対する制御入力Vscに設定されている。また、横軸は共通の時間軸tに設定されている。
そして、図20(a)のグラフにおいては、x1が目標位置Psc_cmdを示し、y1が実位置Pscを示し、z1が制御入力Vscを示している。また、図20(b)のグラフにおいては、x2が目標位置Psc_cmdを示し、y2が実位置Pscを示し、z2が制御入力Vscを示している。
図20(a)のグラフは、スライディングモードコントローラの設計時に予め想定した標準的な動特性を有するシフト機構を対象としてシフト動作を行った場合を示している。一方、図20(b)のグラフは、該標準的な動特性よりも低フリクションで、且つ、回転同期時の反力が小さい動特性を有するシフト機構を対象としてシフト動作を行った場合を示している。
図20(a)のグラフにおいては、t32でMode1からMode2に移行して目標位置Psc_cmdがPsc_scfからPsc_scに変更されたとき、及びt33でMode2からMode3に移行して目標位置Psc_cmdがPsc_scからPsc_endに変更されたときに、制御入力Vscが急敏に増大している。しかし、かかる制御入力Vscの急敏な増大は設計時に想定した動特性の範囲内であるため、シフトアーム65の位置Pscを各目標位置Psc_sc,Psc_endに安定して追従している。
一方、図20(b)のグラフにおいては、低フリクションであるため、シフト動作を開始したMode1のt30で目標位置Psc_cmdに対して不要なオーバーシュートが生じている。また、回転同期時の反力が小さいため、Mode2(t42〜t43)に要する時間が短くなっている。この場合、カップリングスリーブ72が過剰な力でシンクロナイザリング73aに押し込まれるため、急激な回転速度の変化による慣性ショックや衝撃音が生じる。さらに、Mode3において、目標位置Psc_cmdに対して実位置Pscの過大なオーバーシュートが生じている。この場合、カップリングスリーブ72がストッパ(図示しない)に衝突して、運転者にとって不快な衝撃音が発生する。
それに対して、図21(a),図21(b)は、図19に示した2自由度のスライディングモードコントローラ113により、シフト動作を行った場合を示している。図21(a)は図20(a)と同様の動作特性を有するシフト機構に対してシフト動作を行った場合のグラフであり、図20(b)と同様の動作特性を有するシフト機構に対してシフト動作を行った場合のグラフである。
2自由度のスライディングモードコントローラ113においては、上記式(40)における目標値フィルタ係数VPOLE_f_scを変更することによって、目標値Psc_cmdに対するシフトアーム65の追従性を独立して設定することができる。そのため、図21(a)に示したように、t52でMode1からMode2に移行して目標位置Psc_cmdがPsc_scfからPsc_scに変更されたとき、及びt53でMode2からMode3に移行して目標位置Psc_cmdがPsc_scからPsc_endに変更されたときに、制御入力Vscが滑らかに立ち上がるように設定することが可能である。
さらに、2自由度のスライディングモードコントローラ113においては、上記式(43)における切換関数設定パラメータVPOLE_scを変更することによって、外乱抑制能力(上記式(42)の偏差E_sc(k)の収束挙動)を独立して設定することができる。そのため、図21(b)に示したように、シフト機構のフリクションが低い場合であっても、Mode2における回転同期時のシフトアーム65の位置Pscの急激な変位が抑制される。これにより、図20(b)に示したようなカップリングスリーブ72の急激な押し込みが生じることを防止して、安定したシフト動作を行うことができる。
また、VPOLE_sc算出部114は、上記Mode1〜Mode4において、以下の式(49)に示したように切換関数パラメータVPOLE_scを変更する。そして、これにより、シフト動作中の各Modeにおけるスライディングモードコントローラ113の外乱抑制能力が切り替えられる。
但し、Psc_def:シンクロナイザリングの待機位置、Psc_scf:カップリングスリーブとシンクロナイザリングとの接触位置。
また、目標値フィルタ121は、上記Mode1〜Mode4において、以下の式(50)に示したように目標値フィルタ係数VPOLE_f_scを変更する。そして、これにより、シフト動作中の各Modeにおけるスライディングモードコントローラ113の目標値Psc_cmdに対する追従性が切り替えられる。
上記式(50)によれば、カップリングスリーブ72がシンクロナイザリング73の待機位置Psc_defまで移動するMode1においては、シフトアーム65の目標値Psc_cmdに対する実位置Pscの追従性が高く設定される(VPOLE_f_sc=−0.8)。そして、目標値Psc_cmdが急増するMode2及びMode3においては、目標値Psc_cmdに対する実位置Pscの追従性が低く設定され(VPOLE_f_sc=−0.98,−0.9)、これにより、シフト用モータ67への印加電圧が急敏に上昇することを抑制している。
次に、セレクトコントローラ111(図18参照)には、スライディングモード制御(本発明の応答指定型制御に相当する)を用いて、セレクト用モータ66への印加電圧Vslを決定するスライディングモードコントローラ115と、スライディングモードコントローラ115における応答指定パラメータVPOLE_slを設定するVPOLE_sl算出部116と、スライディングモード制御におけるモデルパラメータb1_sl,b2_sl,c1_sl(本発明の同定モデルパラメータに相当する)を同定する部分パラメータ同定器117(本発明の同定手段に相当する)とが備えられている。
図22を参照して、セレクトコントローラ111のスライディングモードコントローラ115は、シフトアーム65をセレクト方向に移動させる変速機80のセレクト機構130を、シフトアーム65のセレクト方向の位置Pslをセレクト用モータ66(本発明のセレクト用アクチュエータに相当する)への印加電圧Vsl(本発明のセレクト用アクチュエータに対する制御入力に相当する)により表した以下の式(51)によりモデル化する。
但し、Psl(k+1),Psl(k),Psl(k-1):k+1番目,k番目,k−1番目の制御サイクルにおけるシフトアームの位置、Vsl(k),Vsl(k-1):k番目,k−1番目の制御サイクルにおけるセレクト用モータに対する印加電圧、a1_sl,a2_sl:モデルパラメータ、b1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k):k番目の制御サイクルにおけるモデルパラメータの同定値。
部分パラメータ同定器117は、上記式(51)におけるモデルパラメータa1_sl,a2_sl,b1_sl,b2_sl,c1_slのうち、セレクト機構130の動特性の変化との関連性が高い、セレクト用モータ66に対する印加電圧Vslに係る制御入力成分項の係数であるb1_sl及びb2_slと、外乱成分項であるc1_slのみについて同定処理を行う。なお、同定の対象となるb1_sl,b2_sl,c1_slが本発明の同定モデルパラメータに相当する。
ここで、上記式(51)を1制御サイクル遅延させて、同定モデルパラメータb1_sl,b2_sl,c1_slに係る成分項を右辺にまとめ、その他の成分項を左辺にまとめると、以下の式(52)の形に整理することができる。
そして、上記式(52)の左辺を以下の式(53)に示したようにW(k)と定義し、右辺を以下の式(54)に示したようにW_hat(k)と定義すると、W(k)は図23に示した仮想プラント140の仮想出力となる。そのため、W(k)は仮想プラント140のモデル出力、W_hat(k)は仮想プラント140のモデル式と考えることができる。
但し、W(k):k番目の制御サイクルにおける仮想プラントのモデル出力。
但し、W_hat(k):k番目の制御サイクルにおける仮想プラントのモデル式。
図23に示した仮想プラント140は、シフトアーム65の位置Psl(k)の成分から、Psl(k)をZ-1変換部141により1制御サイクル遅延させて乗算部143によりa1_slを乗じた成分と、Psl(k)をZ-1変換部141及び144により2制御サイクル遅延させて乗算部145によりa2_slを乗じた成分とを、減算器146により減じて、W(k)として出力するものである。
そして、上記式(54)の仮想プラント140のモデル式は、同定モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)に係る成分項のみから構成されている。そのため、仮想プラント140の出力W(k)とモデル出力W_hat(k)とが一致するように、仮想プラント140のモデルパラメータを逐次型同定アルゴリズムを用いて算出すれば、同定モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の逐次同定を実現することができる。
そこで、部分パラメータ同定器117は、以下の式(55)〜式(61)により、同定モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の同定処理を実行する。先ず、以下の式(55)によりζ_sl(k)を定義し、以下の式(56)によりθ_sl(k)を定義して、上記式(54)のモデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の代わりに、既に算出されている1制御サイクル前のモデルパラメータb1_sl(k-1),b2_sl(k-1),c1_sl(k-1)を用いた出力を、以下の式(57)に示したようにW_hat'(k)とする。
そして、仮想プラント140の出力W(k)に対するモデル出力W_hat'(k)の偏差E_id_sl(k)を、上記式(57)のモデル化誤差を表すものとして、以下の式(58)により算出する(以下、偏差E_id_sl(k)を同定誤差E_id_sl(k)という)。
但し、E_id_sl(k):k番目の制御サイクルにおける仮想プラントの出力W(k)とモデル出力W_hat'(k)との偏差。
また、部分パラメータ同定器117は、以下の式(59)の漸化式により3次の正方行列である「P_sl」を算出し、以下の式(60)により同定誤差E_id_sl(k)に応じた変化度合を規定するゲイン係数ベクトルである3次ベクトル「KP_sl」を算出する。
但し、I:3×3の単位行列、λ
1_sl,λ
2_sl:同定重みパラメータ。
なお、上記式(59)における同定重みパラメータλ
1_sl,λ
2_slの設定は、以下の表(2)に示した意味を持つ。
そして、部分パラメータ同定器117は、以下の式(61)により、新たなモデルパラメータの同定値θ_sl
T(k)=[b1_sl(k) b2_sl(k) c1_sl(k)]を算出する。
また、図22を参照して、スライディングモードコントローラ115には、シフトアーム65のセレクト方向の目標位置Psl_cmdに対して、以下の式(62)によるフィルタリング演算を施してフィルタリング目標値Psl_cmd_fを算出する目標値フィルタ131(本発明のフィルタリング手段に相当する)が備えられている。
但し、VPOLE_f_sl:目標値フィルタ係数、Psl_cmd_f(k):k番目の制御サイクルにおけるフィルタリング目標値。
さらに、スライディングモードコントローラ115には、シフトアーム65のセレクト方向の実位置Pslと目標位置Psl_cmdとの差E_slを算出する減算器132、切換関数σ_slの値を算出する切換関数値算出部133、到達則入力Urch_slを算出する到達則入力算出部134、等価制御入力Ueq_slを算出する等価制御入力算出部135、及び等価制御入力Ueq_slと到達則制御入力Urch_slとを加算してセレクト機構130のセレクト用モータ66への印加電圧の制御値Vslを算出する加算器136が備えられている。
切換関数値算出部133は、減算器132により以下の式(63)で算出される偏差E_sl(k)から、以下の式(64)により、切換関数値σ_sl(k)を算出する。
但し、E_sl(k):k番目の制御サイクルにおけるシフトアームのセレクト方向の実位置と目標位置との偏差。
但し、σ_sl(k):k番目の制御サイクルにおける切換関数値、VPOLE_sl:切換関数設定パラメータ(−1<VPOLE_sl<0)。
到達則入力算出部134は、以下の式(65)により到達則入力Urch_sl(k)を算出する。到達則入力Urch_sl(k)は、偏差状態量(E_sl(k),E_sl(k-1))を、切換関数σ_slを0(σ_sl(k)=0)とした切換直線に載せるための入力である。
但し、Urch_sl(k):k番目の制御サイクルにおける到達則入力、Krch_sl:フィードバックゲイン。
等価制御入力算出部135は、以下の式(66)により等価制御入力Ueq_sl(k)を算出する。式(66)は、σ_sl(k+1)=σ_sl(k)とおいて、上記式(63),式(62),式(52)を代入したときのセレクト用モータ66への印加電圧の制御値Vsl(k)を、等価制御入力Ueq_sl(k)として算出するものである。
但し、Ueq_sl(k):k番目の制御サイクルにおける等価制御入力。
そして、加算器136は、以下の式(67)により、セレクト機構130のセレクト用モータ66への印加電圧の制御値Vslを算出する。
上述したように、部分パラメータ同定器117は、上記式(51)におけるモデルパラメータa1_sl,a2_sl,b1_sl,b2_sl,c1_slのうち、セレクト機構130の動特性の変化との連動性が高いb1_sl,b2_sl,c1_slについてのみ同定処理を行う。そして、セレクトコントローラ111のスライディングモードコントローラ115は、部分パラメータ同定器117により同定されたb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)を用いて、セレクト用モータ66に対する印加電圧の制御入力Vslを算出する。
この場合、同定の対象とするモデルパラメータの個数を減少させることにより、モデルパラメータの最適値への収束時間を短くすることができる。また、全てのモデルパラメータについて同定処理を行う場合よりも演算量が減少して演算時間が短くなるため、セレクトコントローラ111の制御サイクルを短く設定して、セレクトコントローラ111の制御性を高めることができる。
図24は、セレクト動作時におけるシフトアーム65の変位を示したグラフであり、縦軸がシフトアーム65のセレクト方向の実位置Pslと目標位置Psl_cmdに設定され、横軸が時間tに設定されている。そして、t71で目標位置がPsl_cmd70からPsl_cmd71に変更されてセレクト動作が開始されたときに、部分パラメータ同定器117によるモデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)の同定処理により、モデル化誤差が速やかに吸収されている。
そのため、目標位置Psl_cmd71に対するオーバーシュートや振動を生じることなく、シフトアーム65の位置Pslが目標位置Psl_cmd71に収束している。そして、セレクト動作完了の判定条件である、(1)ΔPsl(=Psl−Psl_cmd)<D_Pslf(変化率の判定値)、且つ、(2)|Psl−Psl_cmd61|<E_Pslf(偏差の判定値)、が成立したt72でセレクト動作が短時間で完了している。
次に、図25(a)は、図22に示した目標値フィルタ131を有しない1自由度のスライディングモードコントローラを用いて、セレクト動作を行った場合のシフトアーム65の挙動を示したグラフである。また、図25(b)は、図22に示した2自由度のスライディングモードコントローラ115を用いて、セレクト動作を行った場合のシフトアーム65の挙動を示したグラフである。
図25(a),図25(b)のグラフの縦軸はシフトアーム65の目標位置Psl_cmd及び実位置Pslに設定され、横軸は時間tに設定されている。また、図25(a)中、x10は目標位置Psl_cmdを示し、y10は予め想定した標準範囲のフリクション特性を有するセレクト機構における実位置Pslの変位を示し、z10は該標準範囲よりも低フリクションのセレクト機構における実位置Pslの変位を示し、u10は該標準範囲よりも高フリクションのセレクト機構における実位置Pslの変位を示している。
同様に、図25(b)中、x11は目標位置Psl_cmdを示し、y11は予め想定した標準範囲のフリクション特性を有するセレクト機構における実位置Pslの変位を示し、z11は該標準範囲よりも低フリクションのセレクト機構における実位置Pslの変位を示し、u11は該標準範囲よりも高フリクションのセレクト機構における実位置Pslの変位を示している。
ここで、1自由度のスライディングモードコントローラにおいては、シフトアーム65のセレクト方向の目標位置Psl_cmdと実位置Pslとの偏差E_slの収束挙動を設定するパラメータは、切換関数設定パラメータVPOLE_slのみである。そのため、標準範囲のフリクションと有するセレクト機構を想定して、偏差E_slを速やかに収束させるように切換関数設定パラメータVPOLE_slを設定すると、図25(a)に示したように、フリクションの高低により、収束時間のばらつきが生じる。
すなわち、標準範囲のy10においては、目標位置Psl_cmd51に実位置Pslが速やかに収束しているが、低フリクションのz10においては、目標位置Psl_cmd51に対して実位置Pslが大きくオーバーシュートして振動を生じ、目標位置Psl_cmd51への収束時間が長くなっている。また、高フリクションのu10においても、移動時の負荷が高くなるため、目標位置Psl_cmd51への収束時間が長くなっている。
それに対して、2自由度のスライディングモードコントローラ115においては、上記式(62)における目標値フィルタ係数VPOLE_f_slを変更することによって、目標値Psl_cmdに対するシフトアーム65の追従性を独立して設定することができる。そのため、図23(b)に示したように、t91で目標位置Psl_cmdがPsl_cmd50からPsl_cmd51に変更されたときに、低フリクションのz11においても制御入力Vslが滑らかに立ち上がるように設定することができる。そして、これにより、目標位置Psl_cmdに対するオーバーシュートの発生や、該オーバーシュートに起因するシフトアーム65の振動の発生を抑制して、目標位置Psl_cmd51への収束時間が長くなることを防止することができる。
さらに、2自由度のスライディングモードコントローラ115においては、上記式(64)における切換関数設定パラメータVPOLE_slを変更することによって、外乱抑制能力(上記式(63)の偏差E_sl(k))の収束挙動)を独立して設定することができる。そのため、外乱抑制能力を高く設定することにより、図23(b)に示したように、高フリクションのu11においてもシフトアーム65の位置Pslを目標位置Psl_cmd51に速やかに収束させることができる。また、低フリクションのz11においても振動の発生を抑制して、シフトアーム65の位置Pslを目標位置Psl_cmd51に速やかに収束させることができる。
次に、変速機80においては、機械的なガタや部品の個体バラツキ等により、予め設定された各変速段の選択位置の目標値Psl_cmdと、真の選択位置に対応した目標値Psl_cmd*との間にズレが生じる場合がある。図26は3・4速選択位置において、このようなズレが生じた場合を示している。
図26(a)においては、3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34が、真の目標値Psl_cmd34*に対して、シフトピース71a側にずれている。そのため、シフトアーム65をPsl_cmd34に位置決めした状態で、ニュートラル位置から3速シフト位置にシフト動作させると、シフトアーム65とシフトピース71aとが干渉してシフト動作が妨げられる。
ここで、シフトアーム65と各シフトピース71a〜71dには、面取り処理が施されている。そのため、シフト動作とセレクト動作をモータ等のアクチュエータではなく運転者の操作力により行うマニュアルトランスミッション(MT)においては、シフトアーム65に対する干渉を感じた運転者が、セレクト方向の保持力を若干緩めることにより、図26(b)に示したように、面取り処理部分に沿ってシフトアーム65を真の目標値Psl_cmd34にずらして、シフト動作を行うことができる。
図27は、以上説明したMTにおけるシフト操作時のシフトアーム65のシフト方向の位置Pscとセレクト方向の実位置Pslの推移を示したグラフであり、図27(a)は縦軸がシフト方向の実位置Pscに設定され横軸が時間tに設定されたグラフである。また、図27(b)は縦軸がセレクト方向の実位置Pslに設定され、横軸が図27(a)と共通の時間軸tに設定されたグラフである。
図27(a),27(b)のt100でシフト動作が開始され、図27(a)に示したようにシフトアーム65が3速シフト位置の目標値Psc_cmd3に向かって移動を開始する。そして、t101がシフトアーム65とシフトピース71aとの干渉が生じた時点であり、図27(b)に示したように、t101からt102にかけてシフトアーム65が3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34から真の目標値Psl_cmd34*にずれる。これにより、シフトアーム65とシフトピース71aとの干渉を回避しながら、図27(a)に示したようにシフトアーム65を3速シフト位置の目標値Psc_cmd3に移動させることができる。
それに対して、シフト動作とセレクト動作をシフト用モータ67とセレクト用モータ66により行う本実施の形態の自動マニュアルトランスミッション(AMT)において、シフトアーム65を3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34に保持する位置決めを行うと、シフトアーム65とシフトピース71aとが干渉したときに、シフトアーム65はセレクト方向にずれることができない。そのため、シフト動作が不能になる。
図28(a)は、AMTにおいて、3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34に位置決めされた状態で、3速シフト位置の目標値Psc_cmd3への移動を行ったときに、シフトピース71aとの干渉により、シフトアーム65がセレクト方向に若干ずれた場合を示している。この場合、セレクトコントローラ111は、ずれE_slを解消してシフトアーム65のセレクト方向位置をPsl_cmd34に戻すようにセレクト用モータ66への出力電圧Vslを決定する。そのため、セレクト方向の力Fslが発生する。
ここで、Fslのシフトアーム65とシフトピース71aの面取り部の接線α方向の成分をFsl1、接線αの法線β方向の成分をFsl2とし、シフト動作により生じるシフト方向の力Fscの接線α方向の成分をFsc1、法線β方向の成分をFsc2とする。このとき、Fsc1とFsl1とが釣り合うと、シフト動作が停止する。
図28(b)は、以上説明したシフト動作中のシフトアーム65の変位を示したものであり、上段のグラフの縦軸がシフトアーム65のシフト方向の実位置Pscに設定され、下段のグラフの縦軸がシフトアーム65のセレクト方向の実位置Pslに設定され、横軸が共通の時間軸tに設定されている。t110でシフト動作が開始され、3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34が真の目標値Psl_cmd34*に対してズレているために、t111でシフトアーム65とシフトピース71aとが干渉し始める。
そして、面取り部の作用により、シフトアーム65はセレクト方向に若干ずれるが、t112でFsc1とFsl1とが釣り合ってセレクト方向への移動が停止すると共に、シフト方向の移動も停止する。その結果、シフト動作が中断されて、シフトアーム65を3速シフト位置の目標値Psc_cmd3まで移動することができない。
このとき、シフトコンローラ50は、シフトアーム65を3速シフト位置の目標値Psc_cmd3に移動させるためにシフト用モータ67への印加電圧の制御値Vscを増加させる。また、セレクトコントローラ111は、シフトアーム65を3・4速選択位置の目標値Psl_cmd34に移動させるためにセレクト用モータ66への印加電圧の制御値Vslを増加させる。そのため、シフト用モータ67への印加電圧とセレクト用モータ66への印加電圧が過大となって、シフト用モータ67とセレクト用モータ66が故障するおそれがある。
そこで、セレクトコントローラ111は、セレクト動作時とシフト動作時とで、上記式(64)における切換関数設定パラメータVPOLE_slを変更して、外乱に対する抑制能力を変化させる制御を行なう。図29は、セレクトコントローラ111のスライディングモードコントローラ115の応答指定特性を示したものであり、VPOLE_slを−0.5,−0.8,−0.99,−1.0に設定して、上記式(64)の切換関数σ_sl=0かつ上記式(63)の偏差E_sl=0である状態でステップ外乱dを与えた場合の制御系の応答を示したグラフであり、縦軸を上から偏差E_sl、切換関数σ_sl、外乱dとし、横軸を時間kとしたものである。
図29から明らかなように、VPOLE_slの絶対値を小さくするほど、外乱dが偏差E_slに与える影響が小さくなり、逆に、VPOLE_slの絶対値を大きくして1に近づけるほど、スライディングモードコントローラ115が許容する偏差E_slが大きくなるという特性がある。そしてこのとき、VPOLE_slの値に拘わらず切換関数σ_slの挙動が同一となっていることから、外乱dに対する抑制能力をVPOLE_slによって指定できることがわかる。
そこで、セレクトコントローラ111のVPOLE_sl算出部116は、以下の式(68)に示したように、シフト動作時とシフト動作時以外(セレクト動作時)とで、VPOLE_slの値を変更する。
但し、|VPOLE_sl_l|>|VPOLE_sl_h|となるように、例えばVPOLE_sl_l=-0.95、VPOLE_sl_h=-0.7に設定される。
なお、セレクトコントローラ111は、以下の式(69),式(70)の関係が共に成立するときに、シフト動作時であると判断する。
但し、Psc_cmd:シフト方向の目標値、Psc_cmd_vp:予め設定されたニュートラル位置(Psc_cmd=0)からの変位量の基準値(例えば0.3mm)。
但し、ΔPsl:前回の制御サイクルからのセレクト方向の変位量、dpsl_vp:予め設定された制御サイクルにおける変位量の基準値(例えば0.1mm/step)。
上記式(68)により、シフト動作時におけるVPOLE_slをVPOLE_sl_lとして、セレクト動作時よりも外乱に対する抑制能力を低く設定し、図28(a)と同様に3速シフト位置の目標値Psc_cmd3にシフト動作したときのシフトアーム65の変位を図30(a)に示す。
図30(a)においては、セレクトコントローラ111のスライディングモードコントローラ115における外乱抑制能力が低くなっているため、シフトアーム65とシフトピース71aとの干渉により、シフトアーム65が3・4速選択位置の目標位置Psl_cmd34からセレクト方向にずれて、Psl_cmd34との偏差E_slが生じたときに、該偏差E_slを解消するためにセレクト用モータ66に印加される電圧Vslが低くなる。
そのため、セレクト用モータ66の駆動により生じるセレクト方向の力Fslが小さくなり、Fslの接線α方向の成分Fsl1よりも、シフト用モータ67の駆動により生じるシフト方向の力Fscの接線α方向の成分Fsc1の方が大きくなって、接線α方向の力Ftが生じる。そして、該Ftにより、シフトアーム65が接線α方向に移動して、シフトアーム65のセレクト方向の位置がPsl_cmdからPsl_cmd*に変位する。これにより、シフトアーム65とシフトピース71aとの干渉が回避され、シフトアーム65のシフト方向への移動が可能となる。
図30(b)は、以上説明した図30(a)におけるシフトアーム65の変位を示したグラフであり、縦軸を上からシフトアーム65のシフト方向の実位置Psc、セレクト方向の実位置Psl、切換関数設定パラメータVPOLE_slとし、横軸を共通の時間tとしたものである。
t121でシフト動作が開始されると、セレクトコントローラ111のVPOLE_sl算出部116により、スライディングモードコントローラ115におけるVPOLE_slの設定が、VPOLE_sl_hからVPOLE_sl_lに切換えられて、スライディングモードコントローラ115による外乱抑制能力が低下する。
そして、t122でシフトアーム65とシフトピース71aが干渉すると、シフトアーム65が3・4速選択目標位置Psl_cms34からセレクト方向にずれ、t123でシフトアーム65のセレクト方向の位置が真の3・4速選択目標位置Psl_cmd34*に達する。このように、シフトアーム65がセレクト方向にずれることによって、シフトピース71aによりシフト動作が妨げられることが回避され、シフトアーム65のシフト方向の位置がニュートラル位置から3速シフト目標位置Psc_cmd3に移動する。
次に、図31を参照して、シフトコントローラ110は、上記Mode1〜Mode4において、上記式(49)に示したように切換関数設定パラメータVPOLE_scを切換える。このように、切換関数設定パラメータVPOLE_scを切換えることにより、上述したセレクトコントローラ111の場合と同様に、シフトコントローラ110の外乱抑制能力を変更することができる。
図31(a)は縦軸をシフト方向のシフトアーム65の実位置Psc及び目標位置Psc_cmdに設定し、横軸を時間tに設定したグラフであり、図31(b)は縦軸を切換関数設定パラメータVPOLE_scに設定し、横軸を図31(a)と共通の時間tに設定したグラフである。この場合、Mode1〜Mode4の各工程において、以下の効果を得ることができる。
(1) Mode1(t130〜t132:目標値追従&コンプライアンスモード)
ニュートラル位置からシフト動作を開始して、シフトアーム65の実位置Pscがシンクロナイザリング73aの待機位置Psc_defに達するまで(Psc<Psc_def)、シフトコントローラ110のVPOLE_sc算出部114(図19参照)は、VPOLE_scをVPOLE_sc11(=-0.8)に設定する。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制力を高くして目標位置Psc_cmdに対するシフトアーム65の追従性を高めている。
そして、シフトアーム65の実位置Pscがシンクロナイザリング73aの待機位置Psc_defに達したt131で、VPOLE_sc算出部114は、VPOLE_scをVPOLE_sc12(=-0.98)に設定する。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制能力が低下し、カップリングスリーブ72とシンクロナイザリング73aの接触時に、緩衝効果を生じさせて、衝撃音の発生やシンクロナイザリング73aに対する無理な押し込が生じることを抑制することができる。
(2) Mode2(t132〜t133:回転同期制御モード)
Psc_def≦Psc≦Psc_scf、且つ、ΔPsc<ΔPsc_sc(ΔPsc_sc:カップリングスリーブ72とシンクロナイザリング73aとの接触判定値)の条件成立後、目標値Psc_cmdをPsc_sc、VPOLE_scをVPOLE_sc2(=-0.85)として、シンクロナイザリング73aに適切な押付け力を与える。そして、これにより、カップリングスリーブ72と入力側前進3速ギヤ63cの回転数の同期を図る。
(3) Mode3(t133〜t134:静止モード)
Psc_scf<Pscの条件が成立したt133で、目標値Psc_cmdをシフト完了時目標値Psc_endとし、PscのPsc_cmdに対するオーバーシュート(オーバーシュートが生じると、図示しないストッパ部材との衝突音が発生する)を防止するため、切換関数積分値SUM_σscをリセットとすると共に、VPOLE_scをVPOLE_sc3(=-0.7)として外乱抑制能力を高める。これにより、カップリングスリーブ72がシンクロナイザリング73aを通過して移動し、入力側前進3速ギヤ63cと係合する。
(4) Mode4(t134〜:ホールドモード)
シフト動作完了後、及びセレクト動作時は、シフト用モータ67への印加電力低減による省電力化のため、VPOLE_scをVPOLE_sc4(=-0.9)として、シフトコントローラ110における外乱抑制能力を低下させる。また、図32(a)に示したように、シフトピース71bとシフトピース71cとの間に位置ずれE_Pscが生じている状態で、シフトアーム65を5・6速選択位置から1・2速選択位置に移動させてセレクト動作を行うと、シフトアーム65とシフトピース71bの面取り部が接触する。
このとき、シフトコントローラ110の外乱抑制能力を高く維持していると、セレクト用モータ66の駆動により生じるセレクト方向の力Fslの面取り部の接線方向の成分Fsl'と、シフト用モータ67の駆動により生じるシフト方向の力Fscの面取り部の接線方向の成分Fsc'とが干渉して、シフトアーム65のシフト動作が停止する。また、シフトコントローラ110及びセレクトコントローラ111による目標位置への位置決め制御により、セレクト用モータ66及びシフト用モータ67への印加電圧が高くなって、セレクト用モータ66及びシフト用モータ67の故障が生じ得る。
そこで、セレクト動作時にVPOLE_scをVPOLE_sc4(=-0.9)として、シフトコントローラ110における外乱抑制能力を低下させることによって、図32(b)に示したように、シフト方向の力Fscを減少させることができる。そして、これにより、図中yの径路で示したように、シフトアーム65がシフト方向にずれ易くなり、シフトピース71bとの干渉を回避して、シフトアーム65を1・2速選択位置まで速やかに移動させることができる。
次に、コントローラ1による変速機80の制御の実行手順を図33〜図37に示したフローチャートに従って説明する。図33〜図34に示したフローチャートは、図11のSTEP30で「クラッチOFF操作」を開始した後の、コントローラ1による変速機80の『変速操作』の実行手順を示したものである。コントローラ1は、先ず、図33のSTEP130で変速機80の現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しているか否かを判断する。
そして、ギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致し、『変速操作』が完了した状態にあると判断できるときは、STEP145に分岐して、コントローラ1は、変速動作基準タイマの計時時間tm_shiftをクリアし、次のSTEP146で変速機80のギヤ抜き処理の完了時にセットされるギヤ抜き完了フラグF_SCNをリセットし(F_SCN=0)、変速機80のセレクト動作の完了時にセットされるセレクト完了フラグF_SLFをリセットする(F_SLF=0)。
そして、STEP161に進み、コントローラ1は、シフトコントローラ110によるシフトアーム65のシフト方向の目標位置Psc_cmdと、セレクトコントローラ111によるシフトアーム65のセレクト方向の目標位置Psl_cmdとを、現状値に維持して現在のギヤ選択位置を保持し、図34のSTEP133に進む。
また、このとき、シフトコントローラ110のVPOLE_sc算出部114により、シフトコントローラ110のスライディングモードコントローラ113における応答指定パラメータVPOLE_scがVPOLE_sc4(=-0.9)に設定される。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制能力が低下して、シフト用モータ67の省電力化が図られる。
さらに、セレクトコントローラ111のVPOLE_sl算出部116により、セレクトコントローラ111のスライディングモードコントローラ115における応答指定パラメータVPOLE_slがVPOLE_sl_l(=-0.95)に設定される。これにより、シフトコントローラ55の外乱抑制能力が低下して、セレクト用モータ66の省電力化が図られる。
一方、STEP130で変速機80の現在のギヤ選択位置NGEARがギヤ選択目標値NGEAR_cmdと一致しておらず、変速機80の『変速操作』が実行中であると判断できるときには、STEP131に進む。
STEP131で、コントローラ1は、タイマ(図10のSTEP10でスタートされたもの)の計時時間tm_shiftがクラッチOFF時間TM_CLOFFを超えているか否かを判断する。そして、タイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超えておらず、「クラッチOFF工程」が終了していないと判断できるときには、STEP132に進み、コントローラ1は、STEP161と同様の処理を行って現在のギヤ選択位置を保持する。
一方、STEP131でタイマの計時時間tm_shiftがクラッチOFF完了時間TM_CLOFFを超え、「クラッチOFF工程」が終了していると判断できるときにはSTEP150に分岐し、コントローラ1は、タイマの計時時間tm_shihtがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えているか否かを判断する。
そして、STEP150でタイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHG)を超えておらず、「ギヤ位置変更工程」の実行中であると判断できるときには、STEP151に進んで、コントローラ1は『シフト/セレクト操作』を実行し、図34のSTEP133に進む。
一方、STEP150でタイマの計時時間tm_shiftがギヤ位置変更完了時間TM_SCHGを超えており、「ギヤ位置変更工程」が終了していると判断できるときには、STEP160に分岐して、タイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えているか否かを判断する。
そして、STEP160でタイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えておらず、「クラッチON工程」が実行中であると判断できるときは、上述したSTEP161の処理を行って、図34のSTEP133に進む。
一方、STEP160でタイマの計時時間tm_shiftがクラッチON完了時間TM_CLONを超えており(TM_CLON<tm_shift)、「クラッチON工程」が終了していると判断できるときには、STEP70に分岐して、コントローラ1は、現在のギヤ選択位置NGEARをギヤ選択目標値NGEAR_cmdにセットしてSTEP161に進み、上述したSTEP161の処理を行って図34のSTEP133に進む。
図34のSTEP133〜STEP137及びSTEP180は、シフトコントローラ110のスライディングモードコントローラ113による処理である。スライディングモードコントローラ113は、STEP133で、上記式(40)により目標値フィルタ121によって算出されたフィルタリング目標値Psc_cmd_f(k)を用いて、上記式(42)によりE_sc(k)を算出し、上記式(43)によりσ_sc(k)を算出する。
そして、続くSTEP134で、上記Mode2からMode3への移行時にセットされるモード3移行フラグF_Mode2to3がセットされていたとき(F_Mode2to3=1)は、STEP135に進んで上記式(44)で算出された切換関数積分値SUM_σsc(k)をリセットする(SUM_σsc=0)。一方、STEP134で、モード3移行フラグF_Mode2to3がリセットされていたとき(F_Mode2to3=0)は、STEP180に分岐して上記式(44)により切換関数積分値SUM_σsc(k)を更新し、STEP136に進む。
そして、スライディングモードコントローラ113は、STEP136で上記式(45)〜式(47)により等価制御入力Ueq_sc(k)と到達則入力Urch_sc(k)と適応則入力Uadp_sc(k)を算出し、STEP137で上記式(48)によりシフト用モータ67に対する印加電圧の制御入力Vsc(k)を算出して、シフト用モータ67を制御する。
また、続くSTEP138〜STEP140は、セレクトコントローラ111のスライディングモードコントローラ115及び部分パラメータ同定器117による処理である。スライディングモードコントローラ115は、STEP138で、上記式(62)により目標値フィルタ131によって算出されたフィルタリング目標値Psl_cmd_f(k)を用いて、上記式(63)によりE_sl(k)を算出し、上記式(64)によりσ_sl(k)を算出する。
また、続くSTEP139で、部分パラメータ同定器117は、上記式(57)〜式(61)による同定処理を行って、モデルパラメータb1_sl(k),b2_sl(k),c1_sl(k)を算出し、スライディングモードコントローラ115は、上記式(65)により到達則入力Urch_sl(k)を算出し、上記式(66)により等価制御入力Ueq_sl(k)を算出する。そして、スライディングモードコントローラ115は、STEP140で上記式(67)によりセレクト用モータ66に対する印加電圧の制御入力指令値Vsl(k)を算出し、次のSTEP141に進んで、コントローラ1は『変速操作』を終了する。
次に、図35は図33のSTEP151における『シフト/セレクト操作』のフローチャートである。STEP190で、変速機80のギヤ抜き処理の完了時にセットされるギヤ抜き完了フラグF_SCNがリセットされており(F_SCN=0)、ギヤ抜き動作中であると判断できるときはSTEP191に進む。
STEP191〜STEP192は目標位置算出部112(図18参照)による処理であり、目標位置算出部112は、STEP191でシフトアーム65のセレクト方向の目標位置Psl_cmdを現在位置に保持し、STEP192でシフトアーム65のシフト方向の目標位置Psc_cmdを0(ニュートラル位置)に設定する。また、STEP193はVPOLE_sc算出部114(図18参照)とVPOLE_sl算出部116による処理であり、VPOLE_sl算出部116はVPOLE_slをVPOLE_sl_l(-0.95)に設定し、VPOLE_sc算出部114はVPOLE_scをVPOLE_sc11(=-0.8)に設定する。
これにより、セレクトコントローラ111の外乱抑制能力が低下し、シフトアーム65のセレクト方向へのずれの許容幅が拡大するため、シフトアーム65とシフトピース71との干渉の影響を小さくしてシフトアーム65をスムーズにシフト方向に移動させることができる。
そして、続くSTEP194で、シフトアーム65のシフト方向の位置(絶対値)が、予め設定されたニュートラル判定値Psc_N(例えば0.15mm)未満となったときに、ギヤ抜き処理が終了したと判断してSTEP195に進み、コントローラ1はギヤ抜き完了フラグF_SCNをセット(F_SCN=1)し、STEP196に進んで『シフト/セレクト操作』を終了する。
一方、STEP190でギヤ抜き完了フラグF_SCNがセット(F_SCN=1)されており、ギヤ抜き処理が終了していると判断できるときにはSTEP200に分岐する。STEP200〜STEP203及びSTEP210は目標位置算出部112による処理であり、目標位置算出部112は、STEP200でセレクト完了フラグF_SLFがセットされているか否かを判断する。
そして、セレクト完了フラグF_SLFがリセットされており(F_SLF=0)、セレクト動作中であると判断できるときはSTEP201に進み、目標位置算出部112は、図示したNGEAR_cmd/Psl_cmd_tableマップをマップ検索して、NGER_cmdに応じた各変速段のセレクト方向の設定値Psl_cmd_tableを取得する。
続くSTEP203で、目標位置算出部112は、シフトアーム65のシフト方向の目標値Psc_cmdを現状値に保持し、シフト方向の目標値の増加幅を指定するPsc_cmd_tmpをゼロとする。次のSTEP204は、VPOLE_sc算出部114とVPOLE_sl算出部116による処理であり、VPOLE_sl算出部116はVPOLE_slをVPOLE_sl_h(=-0.7)に設定し、VPOLE_sc算出部114はVPOLE_scをVPOLE_sc4(=-0.9)に設定する。
これにより、シフトコントローラ110による外乱抑制能力が低下し、セレクト動作時にシフトアーム65がシフト方向にずれ易くなる。そのため、図32(b)を参照して上述したように、シフトアーム65とシフトピース71とが干渉する場合であっても、スムーズにセレクト動作を実行することができる。
そして、STEP205で、シフトアーム65のセレクト方向の現在位置と目標位置との差の絶対値|Psl−Psl_cmd|がセレクト完了判定値E_Pslf(例えば0.15mm)未満となり、且つ、STEP206で、シフトアーム65のセレクト方向の移動速度ΔPslがセレクト速度収束判定値D_Pslf(例えば0.1mm/step)未満となったときに、セレクト動作が完了したと判断してSTEP207に進む。そして、コントローラ1は、セレクト完了フラグF_SLFをセット(F_SLF=1)してSTEP196に進み、『シフト/セレクト操作』を終了する。
一方、STEP200でセレクト完了フラグF_SLFがセットされており、セレクト動作が完了していると判断できるときには、STEP210に分岐する。STEP210〜STEP211は目標位置算出部112による処理である。目標位置算出部112は、STEP210でシフトアーム65のシフト方向の目標位置Psl_cmdを現状値に保持し、STEP211で後述する『回転同期動作時目標値算出』を実行する。
次のSTEP212はVPOLE_sl算出部116による処理であり、VPOLE_sl算出部116は、VPOLE_slをVPOLE_sl_l(=-0.95)に設定する。これにより、セレクトコントローラ111の外乱抑制能力が低下し、シフトアーム65とシフトピース71とが干渉する場合であっても、図30を参照して上述したようにシフトアーム65のシフト動作をスムーズに行うことができる。そして、STEP212からSTEP196に進み、コントローラ1は、『シフト/セレクト操作』を終了する。
次に、図36は、図35のSTEP211における『回転同期動作時目標値算出』のフローチャートである。『回転同期動作時目標値算出』は、主として目標位置算出部112により実行される。
目標位置算出部112は、STEP220で、図示したNGEAR_cmd/Psc_def,_scf,_end,_tableマップを検索して、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdに対応した各同期機構60a〜60c及び後進ギヤ列83,85,86におけるシンクロナイザリングの待機位置Psc_def、シンクロナイザリングを介してカップリングスリーブと被同期ギヤ(出力側前進1速ギヤ64a,出力側前進2速ギヤ64b,入力側前進3速ギヤ63c,入力側前進4速ギヤ63d,入力側前進5速ギヤ63e,入力側前進6速ギヤ63f,第2後進ギヤ83及び第3後進ギヤ86)との回転同期が開始される位置Psc__scf、該回転同期が終了する位置Psc_sc、及びシフト動作の終了位置Psc_endを取得する。
また、続くSTEP221で、目標位置算出部112は、ギヤ選択目標値NGEAR_cmdに応じたシフト動作の変位速度D_Psc_cmd_tableを取得する。なお、このように、変速段に応じて変位速度D_Psc_cmd_tableを変更することによって、ローギヤにおけるシフトショックとシンクロナイザリングとカップリングスリーブとの接触音の発生を抑制している。
そして、次のSTEP222で、目標位置算出部112は、上述したマップ検索により取得したPsc_def_table,Psc_scf_table,Psc_sc_table,Psc_end_table,D_Psc_cmd_tableを、対応する目標値Psc_def,Psc_scf,Psc_sc,Psc_end,D_Psc_cmd
にそれぞれ設定する。また、続くSTEP223で、シフト動作におけるシフトアーム65の途中目標位置Psc_cmd_tmpを設定する。
図37のSTEP224以降は、上述したMode1〜Mode4による処理であり、STEP224でシフトアーム65のシフト方向位置PscがPsc_scfを超えておらず、カップリングスリーブとシンクロナイザリングの回転同期が完了しないと判断できるときはSTEP225に進む。
STEP225で、コントローラ1は、Mode1又はMode2の処理を実行中であることを示すモード1・2フラグF_mode12をセット(F_mode12=1)する。そして、次のSTEP226でシフトアーム65のシフト方向位置PscがPsc_defを超えていないとき、すなわち、シフトアーム65がシンクロナイザの待機位置を越えていないときには、STEP227に進む。
STEP227はMode1による処理であり、シフトコントローラ110のVPOLE_sc算出部114により、VPOLE_scがVPOLE_sc_11(=-0.8)に設定される。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制能力が高くなり、目標位置Psc_cmdに対する追従性が向上する。
一方、STEP226でシフトアーム65のシフト方向位置PscがPsc_defを超え、シフトアーム65がシンクロナイザリングの待機位置に達していると判断できるときには、STEP260に分岐し、シフトアーム65のシフト方向位置の変化量ΔPscが、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとの接触判定値ΔPsc_scを超えているか否かを判断する。
そして、ΔPscがΔPsc_sc未満であり、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとが未だ接触していないときはSTEP261に進み、また、ΔPscがΔPsc_scを超えており、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとが接触しているときはSTEP270に分岐する。
STEP261はMode1による処理であり、VPOLE_sc算出部114は、VPOLE_scをVPOLE_sc12(=-0.98)に設定する。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制能力が低下し、カップリングスリーブとシンクロナイザリングとの接触時の衝撃を減少させることができる。
また、STEP270はMode2による処理であり、VPOLE_sc算出部114は、VPOLE_scをVPOLE_sc2(-0.85)に設定する。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制能力が高くなり、シンクロナイザリングに適切な押付け力を与えて、カップリングスリーブと被同期ギヤの回転数を同期させることができる。
そして、STEP271で、目標位置算出部112は、Psc_scをシフトアーム65のシフト方向目標位置Psc_cmdに設定してSTEP230に進み、『回転同期動作時目標値算出』処理を終了する。
一方、STEP224でシフトアーム65のシフト方向位置PscがPsc_scfを越えているとき、すなわち、カップリングスリーブと被同期ギヤとの回転数の同期が完了しているときには、STEP240に分岐する。そして、STEP240でモード1・2フラグF_mode12がセットされているか否かを判断する。
STEP240でモード1・2フラグF_mode12がセット(F_mode12=1)されていたとき、すなわち前記Mode1又はMode2の実行中であるときは、STEP250に分岐して、コントローラ1は、モード3移行フラグF_mode2to3をセット(F_mode2to3=1)すると共にモード1・2フラグF_mode1・2をリセット(F_mode1・2=0)して、STEP242に進む。一方、STEP240でモード1・2フラグがリセット(F_mode12=0)されていたとき、すなわち、既にMode2が終了していたときには、STEP241に進み、コントローラ1はモード3移行フラグF_mode2to3をリセット(F_mode2to3=0)してSTEP242に進む。
そして、STEP242で、シフトコントローラ110のVPOLE_sc算出部114は、VPOLE_scをVPOLE_sc3(=-0.7)に設定し、次のSTEP243で目標位置算出部112は、シフトアーム65のシフト方向の目標値Psc_cmdをPsc_endに設定する。これにより、シフトコントローラ110の外乱抑制能力を高め、シフトアーム65がシフト完了位置Psc_endからオーバーランすることを防止している。そして、STEP243からSTEP230に進んで、コントローラ1は『回転同期動作時目標値算出』処理を終了する。
なお、本第2の実施の形態においては、上記式(51)におけるモデルパラメータa1_sl,a2_sl,b1_sl,b2_sl,c1_slのうち、b1_sl,b2_sl,c1_slを同定モデルパラメータとし、a1_sl,a2_slを非同定モデルパラメータとしたが、同定モデルパラメータの選択はこれに限らず、変速機の仕様に応じてセレクト機構の動特性の変化との連動性が高いものを選択すればよい。
また、本第2の実施の形態においては、シフトコントローラ110とセレクトコントローラ111は、本発明の応答指定型制御としてスライディングモード制御を用いたが、バックステッピング制御等の他の種類の応答指定型制御を用いてもよい。
1…コントローラ、2…車両、3…エンジン、4…クラッチ機構、5…ドライブシャフト、6…駆動輪、10(10a,10b,10c,10d)…応答指定制御部、11…目標値フィルタ、12…等価制御入力算出部、14…切換関数値算出部、15…到達則入力算出部、16…適応則入力算出部、60…同期機構、61…出力軸、62…入力軸、69…シフトフォーク、65…シフトアーム、66…セレクト用モータ、67…シフト用モータ、70…シフト/セレクト軸、71…シフトピース、72…カップリングスリーブ、73…シンクロナイザリング、80…変速機、110…シフトコントローラ、111…セレクトコントローラ、112…目標位置算出部、117…部分パラメータ同定器、120…シフト機構、130…セレクト機構