JP3955652B2 - 合成アミノ糖類誘導体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医用材料や化粧品材料として有用な新規な糖含有化合物、特に、キトサンあるいはキトオリゴ糖という天然の糖鎖に更なる糖側鎖を結合させた合成アミノ糖鎖誘導体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の糖鎖に関する研究の進歩にはめざましいものがある。例えば、(1)細胞の安定化に寄与する植物細胞壁のプロテオグリカン、(2)細胞の分化、増殖、接着、移動などに深い関わりを持つ糖脂質、および(3)細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質などに関する研究がそれである。これらの生体高分子が有する糖鎖が、互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精緻な生体反応を制御していることが明らかにされつつある。
【0003】
特に、細胞の分化やがん化、あるいは免疫反応に対する糖鎖の関わりが明確になれば、臨床医学上有用な応用が期待できる。
【0004】
また、糖鎖を介した白血球の接着や浸潤あるいはウイルスの結合は、炎症反応あるいは感染に関係し、肝細胞の糖レセプターを介した糖蛋白質のエンドサイトーシスは代謝に関わっている。また、細胞が組織中で機能を発現するために、糖鎖を介した細胞-マトリックス相互作用も重要な役割を果たしている。
【0005】
それらの一例を具体的に示すと、肝実質細胞はガラクトースやマンノースを選択的に認識し、血管の組織細胞はMan、N-アセチルグルコサミン、およびN-アセチルマンナンを、リンパ球はManNAcおよびGlcNAcを特異的に認識する。
【0006】
しかしながら、これらの糖鎖は糖蛋白質やプロテオグリカンなどの糖質中に含まれるごく一部の構成糖である、また、その糖蛋白質やプロテオグリカンなどが植物、海洋生物、昆虫などに含まれる微少成分であるため、有用な糖鎖成分を簡便、安価、且つ大量に用いることが難しかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、従来から糖鎖の特異的な親和力に着目し鋭意検討を重ねてきており、例えば、ほ乳類の肝細胞に存在するガラクトース結合性のアシアロ糖蛋白質レセプターに対するリガンドモデルとして、ガラクトースを側鎖に有するビニル系高分子であるポリ(N−p−ビニルベンジル−[O−β−D−ガラクトピラノシル−(1→4)−D−グルコンアミド])(PV−LAと略記)を設計・合成した。
【0008】
例えば、このビニル系ポリスチレン誘導体であるPV−LAを被覆したシャーレ上では、肝実質細胞のアシアロ糖蛋白質レセプターを介した糖特異的な細胞接着が起こり、しかも他の培養系では見られない接着型の三次元的自己集合化が導かれることを見いだした(由良洋文、赤池敏宏、「組織培養」、19巻、317−322頁、1993年)。
【0009】
そこで今回、有用な糖鎖成分を簡便、安価、且つ大量に供給するものとして、新たに、天然または合成の多糖類もしくはオリゴ糖類に、生物学的に特異性の高い糖鎖を結合させた合成アミノ糖鎖誘導体が優れた性質を有することを見いだし本発明を完成させるに至った。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
よって本発明における課題は、天然または合成の多糖類もしくはオリゴ糖類に、生物学的に特異性の高い糖鎖を結合させた新規な合成アミノ糖類誘導体及びその糖類誘導体の製造方法を提供することにある。本発明によって、これまでにない臨床医学、生物化学、免疫学に適用可能であり、かつ取扱いが容易で安価な糖含有材料を提供することができる。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、アミノ糖を構成糖として含む多糖類及び/またはオリゴ糖類のアミノ糖の少なくとも一部のアミノ基を介して、少なくとも1種の他の糖類を誘導した合成アミノ糖類誘導体を提供する。
【0012】
さらに本発明は、アミノ糖を構成糖として含む多糖類及び/またはオリゴ糖類のアミノ糖の少なくとも一部のアミノ基に、少なくとも1種の他の糖類を結合させてなる合成アミノ糖類誘導体の製造方法であって、前記他の糖類の還元末端を酸化開環して形成した末端基と前記アミノ糖のアミノ基とを結合させることからなる合成アミノ糖類誘導体の製造方法を提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に係る合成アミノ糖類誘導体は、下記の一般構造式(I)に代表されるようなアミノ基を分子中に少なくとも1以上有する構成糖を少なくとも1つ含有する多糖類もしくはオリゴ糖類を主骨格とし、このアミノ基の一部もしくは全部を介して、少なくとも1つの他の糖類を側鎖として結合させた合成アミノ糖類である。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明の合成アミノ糖鎖誘導体の主骨格をなすのは、少なくとも1つのアミノ基を有する構成糖を少なくとも1つ含む多糖類またはオリゴ糖類であれば、天然由来でも合成由来でもよく、例えば、以下のものが好適に用いられる。
・構成糖としてアミノ基を有するキチン、ヘパリン、ヒアルロン酸などの天然の多糖類またはオリゴ糖類、
・N-アセチルグルコサミンやN-アセチルガラクトサミンを脱アセチル化して合成したアミノ基を有する多糖類およびオリゴ糖類、及び、
・構成糖の水酸基、ヒドロキシメチル基に有機合成的にアミノ基を誘導したアミノ基を有する多糖類およびオリゴ糖類。
【0016】
これらの中で、二種類以上の単糖およびその誘導体の縮合体でアミノ基を含むヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などのヘテロ多糖類やグリコサミノグリカン類が好適に用いられ得る。しかし、これに限定されるものではなく、セルロース、デキストラン、プルラン、イヌリン、ペクチン、キチンなどの単一多糖類の水酸基やカルボキシル基を化学的にアミノ化したりN-アセチル基を脱アセチル化するなどしてアミノ基を形成したもの、とりわけ、キチンを脱アセチル化したキトサンやそのオリゴ糖は特に好適に用いることができる。
【0017】
これらの主骨格をなす糖類としては、構成糖が線状に配列したもの、分子量:2,000〜200,000程度、重合度:10〜1,200程度のものが好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
また、主骨格をなす多糖類あるいはオリゴ糖類に含まれるアミノ基を有するアミノ糖の含有率は、目的や用途によって適宜選択できるが、一般的には10〜100%とするのが好ましい。
【0018】
上記の主骨格に側鎖として誘導される他の糖類は、特に限定されるものではなく、天然または合成の単糖類、二糖類、オリゴ糖類などである。例えば、マルトース、ラクトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ルチノース、ショ糖、トレハロース、ラミナリビオース、マンノビオース、ジガラクトサミン、ジグルコサミン、ジガラクツロン酸、ジグルクロン酸、メリビオース、イソマルトース、マルトトリオース、ラフィノース、またはパノース等の二糖類や三糖類などが好適であるが、ブドウ糖、ガラクトース、マンノース、ウロン酸果糖、およびフコースなどのデオキシ糖などの単糖類も誘導可能である。
【0019】
これらの糖類の中で、生物学的に特異的な相互作用が認められているラクトース、メリビオース、カルボキシル化ラクトース、グルコース、マルトース、ラミナリビオース、セロビオース、マンノビオース、ジガラクトサミン、またはジグルコサミンを用いるのが特に好ましい。
【0020】
構成糖のアミノ基に対する糖鎖の誘導率は、目的や用途に応じて適宜選択できる。
【0021】
次に、本発明の合成アミノ糖類誘導体の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、アミノ糖を構成糖として含む多糖類及び/またはオリゴ糖類のアミノ糖の少なくとも一部のアミノ基に、少なくとも1種の他の糖類を結合させてなる合成糖類誘導体の製造方法であって、前記他の糖類の還元末端を酸化開環して形成した末端基と前記アミノ糖のアミノ基とを結合させることを特徴とする。
【0022】
アミノ糖を構成糖として含む多糖類及び/またはオリゴ糖類としては、上記の式(I)で表されるようなアミノ基を有する構成糖を少なくとも1つ含有するものであればよく、例えば、次式(II)で表されるような、構成糖すべてにアミノ基を含有する多糖類またはオリゴ糖類であってもよい。式(II)中のXは、多糖類またはオリゴ糖類の重合度を表し、10から200程度の数値とするのが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
本発明の製造方法で用いられる他の糖類としては、前記したような単糖類、二糖類、オリゴ糖類等が好適に用いられる。
まず、これら他の糖類の還元末端を酸化開環して、アミノ基と結合可能な末端基を形成する。次いで、この末端基を前記多糖類又はオリゴ糖類のアミノ基に結合させる。
以下に、具体例を挙げて本発明の製造方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこの具体例に限定されるものではない。
【0025】
アミノ基を含有する多糖類またはオリゴ糖類として、下記式(III)で表されるキトサンまたはキトオリゴ糖を用い、還元末端が開環した他の糖類として、下記式(IV)で表されるD-ガラクトピラノシル−グルコン酸を用いた場合を考える。なお、下記式中、Rはアミノ基、アセチル基、硫酸基等の官能基を示す。Xは、多糖類またはオリゴ糖類の重合度を示し、好ましくは10から200の数値を表す。
【0026】
【化3】
【0027】
【化4】
【0028】
上記式(IV)に示したような還元末端が開環した二糖類は、例えばヨウ素を用いた酸化反応によって容易に得られる。また、ラクトースを用いるときは、酵素的にカルボシル基を誘導した4-O-β-D-ガラクトピラノシル-グルコン酸(商品名:ラクトビオン酸、東京化成)が市販されていて便利である。
【0029】
この末端基(カルボキシル基)と、上記式(III)で表されるキトサンあるいはキトオリゴ糖の構成糖の2位のアミノ基との間にアミド結合を形成させる。このアミド結合形成には、カルボキシル基またはアミノ基を活性化する方法およびカップリング剤を用いる方法などが好ましく採用される。
【0030】
アミド結合形成のうちカルボキシル基を活性化する方法としては、主骨格である多糖類あるいはオリゴ糖類に結合させることができる二糖類のD-ガラクトピラノシル−グルコン酸などのカルボキシル基を、例えば、p-ニトロフェニルエステルの形態で活性化し、活性化化合物を分離した後、これに多糖類あるいはオリゴ糖類のアミノ基と反応させる。この反応は、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒中、室温あるいは冷却下で行われる。反応時間は数時間から数日間で完了する。アミド結合形成の進行率は、反応に伴って遊離するp-ニトロフェノールを定量することによって知ることができる。
【0031】
次に、カップリング剤を用いる方法としては、例えば、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド(EDC)などのカルボジイミド系カップリング剤、好ましくは、水溶性カルボジイミドの存在下、多糖類あるいはオリゴ糖類のアミノ基とD-ガラクトピラノシル−グルコン酸のカルボキシル基を縮合させる。この反応条件は、上述のカルボキシル基の活性化によるアミド結合形成と同様である。このようにして、下記式(V)に示すような本発明の合成アミノ糖類誘導体を得ることができる。
【0032】
【化5】
【0033】
上述の方法に従って調製された合成アミノ糖類誘導体(V)は、例えば、セルロース透析膜などを用いて透析すること等によって精製してもよい。
【0034】
【実施例】
<合成例1>
カニ由来のキチン粉末50gを、5℃に冷却した48重量%水酸化ナトリウム水溶液1000g中に分散させ、5℃に保ちながら攪拌して、2時間減圧・脱気してキチン分散液を得た。ついで、砕氷2150gを加え、攪拌して、キチン濃度1.5重量%、水酸化ナトリウム濃度15重量%のアルカリキチン溶液を得た。
【0035】
このアルカリキチン溶液を5℃下で、約1週間静置した後、6N塩酸約2000mlを数回に分けて加え、pH8.5に調整した。
このときに析出した白色ゲル上沈殿物を、遠心分離によって回収し、蒸留水とエチルアルコールの1:1混合液で洗浄して塩分を除去した。ついで、この沈殿物を、蒸留水5000mlに分散させ、噴霧乾燥させ白色粉末を42g得た。
【0036】
この調製物の脱アセチル化率をコロイド滴定法により測定したところ、33%であった。
【0037】
脱アセチル化反応の進行度合いは、添加するキチン濃度、アルカリ濃度、反応温度などで制御できる。例えば、90℃前後で反応を行えば、脱アセチル化度80%のキチンが収率70%で獲得できる。 これを、一般的に、分子鎖中にアミノ基を豊富に含む酸可溶性のキトサンと称する。
【0038】
このキトサンに、微生物由来のキチナーゼあるいはキトサナーゼを作用させると、鎖長の短いキトサンオリゴ糖を得ることができる(平野茂博、科学技術誌 VOL. 9, 45-48, 1983)。
【0039】
<実施例1>
ラクトビオン酸5gをTEMED緩衝液(50mM テトラメチレンエチレンジアミン、pH4.7)30mlに溶解し、EDC5gを加えて30分間攪拌する。このEDC溶液添加に、10gのキトサンを溶解したTEMED緩衝液120mlを加えて3日間攪拌する。この間、3.3gのEDCを数回に分けて添加する。その後、透析あるいはアシライザーにより低分子成分を除き、凍結乾燥により製品を得た(収量12.5g)。合成されたキトサン-ラクトース誘導体(CH-LA10[ラクトースの導入率約31.5%])のラクトースの導入を13C-NMRによって確認した。今回使用したキトサンには存在しないカルボニルに由来する175ppmにラクトース固有のピークが観察された(図2)。
【0040】
<実施例2>
添加するラクトビオン酸を1.5gにした以外は、実施例1に示す手順に従ってラクトビオン酸をキトサンに誘導した(収量10g)。合成されたキトサン-ラクトース誘導体(CH-LA15[ラクトースの導入率1.6%])のラクトースの導入を13C-NMRによって確認した。ラクトースを導入していないキトサンと異なって、176ppmにラクトース固有のピークが観察された(図3)。
【0041】
<実施例3>
添加するラクトビオン酸を2.0gにした以外は、実施例1に示す手順に従ってキトサンへのラクトビオン酸の誘導を行った(収量11g)。合成されたキトサン-ラクトース誘導体(CH-LA20[ラクトースの導入率2.4%])のラクトースの導入を13C-NMRによって確認した。ラクトースを導入していないキトサンと異なって、175ppmにラクトース固有のピークが観察された(図4)。
【0042】
(糖導入率の決定)
ラクトース(LA)の導入率の決定はNMR解析によった。
キトサン全体を100(%)とし、そのうちX(%)にLAが導入されたものとする。例えば、図2に示したNMRチャートにおいて、100ppm付近の強いピークは骨格糖類であるキトサンのβ結合のCHによるものであるので、この積分値を100(%)とする。次に、175ppmの強いシグナルはラクトースのC=Oによるものであり、95ppm付近のものは、ラクトースのβ結合のCHによるものであるので、これらの積分値は、各々X(%)となる。一方、実際の測定値として、175ppm付近のピークの積分値は2.040、100ppmから95ppm付近のピークの合計積分値は8.516であった。
従って、X:(X+100)=2.040:8.516なる等式が成り立ち、この式から計算すると、ラクトース導入率X=31.5(%)と算出される。
実施例2及び3のキトサン-ラクトース誘導体においても、同様の方法によってラクトースの導入率を算出した。
【0043】
【発明の効果】
本発明のアミノ糖類誘導体は新規であり、前項で示すごとく様々な生物学的に有用な活性な他の糖類を誘導することにより、種々の生物学的活性を有するものとなり得る。従って、(1)標的である細胞に対する認識作用を有する他の糖類を誘導すれば、生体認識高分子として医療分野に応用することができる。(2)細胞外基質の構成成分である様々な他の糖鎖を誘導すれば、細胞培養用の足場として好適に使用できる。(3)主骨格をなす多糖類あるいはオリゴ糖類は、分子中に含まれる豊富な水酸基などに基づく保湿性を有するので基礎化粧品添加物として有効である。(4)水溶性の高い糖鎖を更に誘導しているため、結晶性が高く難溶性だった多糖類でも可溶化し物性が向上する。したがって、本発明は、多くの臨床医学や基礎的研究分野さらには工業的分野で応用できるバイオマテリアルとなり得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1により得られたアミノ糖類誘導体(CH-LA10)の1H−NMRスペクトルを示す。
【図2】 実施例1により得られたアミノ糖類誘導体(CH-LA10)の13C−NMRスペクトルを示す。
【図3】 実施例2により得られたアミノ糖類誘導体(CH-LA15)の13C−NMRスペクトルを示す。
【図4】 実施例3により得られたアミノ糖類誘導体(CH-LA20)の13C−NMRスペクトルを示す。
Claims (3)
- 前記カップリング剤が、少なくとも1種の水溶性カルボジイミドを含むことを特徴とする請求項2記載の製造方法。
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