JP3954702B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、リング型磁気ヘッドを使用している現行の磁気記録システムに好適である高密度記録用磁気記録媒体を提供するものであり、詳しくは、できるだけ少ないコバルト量、殊に、Feに対しモル比で0.06以下で高い保磁力、殊に、1800Oe以上を有していることに起因して経時安定性に優れているとともに保磁力ができるだけ高く、高周波領域における出力が大きい磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0002】
【従来技術】
近年、ハードディスクなどの磁気記録装置においては、情報機器やシステムの小型化と高信頼性化の傾向が顕著であり、大容量のデータを取り扱うためには、高密度記録化できる磁気記録媒体を必要とし、その要求が益々高まってきている。
【0003】
このような特性を満たす磁気記録媒体としては、できるだけ大きな保磁力を有していることが強く要求される。
【0004】
大きな保磁力を有する磁気記録媒体として基体と該基体上に形成された磁性薄膜とからなる磁気記録媒体が広く知られている。
【0005】
実用化されている磁性薄膜としては、大別してマグヘマイト等の酸化物磁性薄膜(社団法人電子通信学会発行、「電子通信学会技術報告」、(1981年)MR81−20、5〜12頁)とCoCr合金等の合金薄膜とがある。
【0006】
前者は、酸化物であるため耐酸化性や耐食性に優れており、その結果、経時安定性に優れ、経時による磁気特性の変化が小さいという特徴を有するが、保磁力は高々700Oe程度と低いものであった。
【0007】
後者は、2000Oe程度以上の高い保磁力を有しているという特徴を有するが、材料自体は酸化しやすく、その結果、経時安定性が悪いものである。
【0008】
この酸化による磁気特性の劣化を防ぐため合金薄膜は、通常100〜200Å程度の厚みのカーボン膜等が保護膜として表面にコーティングされており、その結果、カーボン膜の厚み分だけ、磁気的なスペーシング(磁気ヘッドと磁気記録層との距離)ロスが大きくなり、高密度記録用として適さなくなる。
【0009】
そこで、耐酸化性や耐食性が優れているとともに、経時安定性に優れている前記酸化物磁性薄膜の保磁力と飽和磁化値を向上させるためにコバルト等を含有させることが行われ、実用化されている。
【0010】
上記コバルトを含有させた酸化物磁性薄膜は、コバルト量の増加にともなって保磁力が高くなるが、一方、コバルト量の増加にともなって熱などの影響により経時安定性が悪くなるという傾向がある。
【0011】
リング型磁気ヘッドを使用している現行の磁気記録システムに好適である高密度記録用磁気記録媒体は、現在、強く要求されているところである。その中で耐酸化性や耐食性に優れている酸化物磁性薄膜は最も有望視されており、その特性向上が益々強く要求されている。
【0012】
即ち、酸化物磁性薄膜は、前述した通り、できるだけ少ないコバルト量で高い保磁力が得られることが強く要求されるとともに、更に、高周波領域における出力が大きいことが強く要求されている。
【0013】
従来、最も代表的な酸化物磁性薄膜としては、マグヘマイト磁性膜が知れており、該マグヘマイト磁性膜の保磁力値を向上させるためにコバルトを含有させることが行われている(特公昭51−4086号、特公平5−63925号、社団法人日本セラミックス協会発行「セラミックス」(1986年)第24巻、第1号、第21〜24頁 等)。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
リング型磁気ヘッドを使用している現行の磁気記録システムに好適である高密度記録用磁気記録媒体として、経時安定性に優れているとともに保磁力ができるだけ高く、高周波領域における出力が大きい磁気記録媒体は現在最も要求されているところであるが、このような諸特性を有する磁気記録媒体は未だ得られていない。
【0015】
即ち、前出公知のコバルト含有マグヘマイト薄膜は、コバルト量に対する保磁力が未だ高いものとは言えず、高い保磁力、殊に、1800Oe以上を得ようとすれば、Feに対しモル比で0.06を越える多量のコバルトを含有させる必要があり、この場合には熱などの影響による経時変化が大きいものとなる。
【0016】
更に、高周波領域における出力が十分大きいものとは言えないという問題がある。
【0017】
そこで、本発明は、できるだけ少ないコバルト含有量で、高い保磁力を有するとともに、高周波領域における出力が大きい酸化物磁性薄膜を得ることを技術的課題とする。
【0018】
【課題を解決する為の手段】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0019】
即ち、本発明は、リング型磁気ヘッドを用いる磁気記録媒体であって、基体と該基体上に形成されるコバルト含有マグヘマイト薄膜とからなる磁気記録媒体において、上記コバルト含有マグヘマイト薄膜がFeに対しモル比で0.06以下のコバルトを有し、且つ、(311)面における面間隔が2.510Å以下であるとともに保磁力が1800Oe以上であることを特徴とする磁気記録媒体である。
【0020】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0021】
先ず、本発明に係る磁気記録媒体について述べる。
【0022】
本発明に係る磁気記録媒体は、基体と該基体上に形成されているコバルト含有マグヘマイト薄膜とからなる。
【0023】
本発明における基体は、ガラス等の汎用されている基体材料を使用することができる。
【0024】
本発明における磁性薄膜は、厚みが0.005〜1.0μmのコバルト含有マグヘマイト薄膜である。
【0025】
マグヘマイトは、一般式γ−Fe2 3 で示されるが、本発明においては若干のFe2+を含むものであってもよい。
【0026】
また、マグヘマイト磁性薄膜の諸特性向上のために通常使用されることがある周知のMn、Ni、Cu、Ti、Zn等をFeに対しモル比で0.005〜0.04程度含有させてもよく、この場合にも、本発明の目的とする効果と同一の効果を得ることができる。
【0027】
コバルト量はFeに対してモル比で0.06以下であり、好ましくは0.03〜0.06である。0.03未満の場合には、1800Oe以上のより高い保磁力を有する磁気記録媒体が得られ難い。
0.06を越える場合には、経時安定性に優れた磁気記録媒体が得られ難くなる。
【0028】
コバルト含有マグヘマイト薄膜は、(311)面における面間隔が2.510Å以下である。さらに(222)面における面間隔が2.415Å以下又は(220)面における面間隔が2.950Å以下であることが好ましい。
【0030】
(311)面、(222)面及び(220)面のいずれの面間隔にも該当しない場合には、高い保磁力を有する磁気記録媒体を得ることができない。また、高周波領域における出力が十分大きいものとは言い難い。
【0031】
(311)面、(222)面及び(220)面における面間隔とコバルト含有マグヘマト薄膜の保磁力との間には密接な関係があり、Feに対するCoのモル比が同じ場合には、面間隔が小さくなる程、保磁力が大きくなる傾向がある。
【0032】
(311)面における面間隔は、好ましくは2.509Å以下、より好ましくは2.506Å以下である。その下限値は2.490Åである。
【0033】
(222)面における面間隔は、好ましくは2.400Å以下、より好ましくは2.399Å以下、更により好ましくは2.398Å以下である。その下限値は2.385Åである。
【0034】
(220)面における面間隔は、好ましくは2.943Å以下、より好ましくは2.940Å以下である。その下限値は2.920Åである。
【0035】
本発明に係る磁気記録媒体は、飽和磁化値(印加磁界15KOeにおける磁化の値)が好ましくは230〜350emu/cm3 、より好ましくは240〜300emu/cm3 であって、保磁力値が好ましくは2000Oe以上、より好ましくは2000Oe以上である。殊に、本発明においては、Feに対するコバルトのモル比が0.04である場合に、保磁力の上限が3000Oe程度が得られている。リング型磁気ヘッドを使用している現行の磁気記録システムにおいては、保磁力の上限値が4000Oe程度が好ましく、より好ましくは3000Oeである。
【0036】
尚、本発明における磁気記録媒体の保磁力の上限値は、後出の「振動試料型磁力計VSM」で測定できる保磁力の測定限界である印加磁界15kOeで測定した値で示したものである。また、本発明に係る磁気記録媒体は、後出の発明の実施の形態に記載した実験装置を用いて測定した電磁変換特性においては、Sp−p/Nrmsが好ましくは41dB以上、より好ましくは42dB以上が得られている。そして、記録密度1KFRPIにおける出力値に対して出力値が半分になる記録密度が好ましくは120以上、より好ましくは130以上である。そして、ダイパルス比は0である。
【0037】
次に、本発明に係る磁気記録媒体の製造法について述べる。
【0038】
本発明に係る磁気記録媒体は、基体上に、Coを含むFeの合金ターゲットを用いて酸素を導入しながらコバルト含有マグネタイトを生成・堆積させる、所謂、スパッタ法により、上記酸素流量(CCM)と上記コバルト含有マグネタイトの堆積速度(nm/分)とを制御しながら、コバルト含有マグネタイト薄膜を形成し、次いで、該コバルト含有マグネタイト薄膜を200〜450℃の温度で熱処理して、コバルト含有マグヘマイト薄膜に変化させることにより得ることができる。
【0039】
本発明が目的としている磁気記録媒体を得るためには、上記コバルト含有マグネタイトの堆積速度(nm/分)に対する酸素流量(CCM)を制御することが肝要である。
【0040】
本発明の目的とするコバルト含有マグヘマイト薄膜を得るための、コバルト含有マグネタイトの堆積速度(nm/分)に対する酸素流量(CCM)は、装置の種類、構造、全ガス圧、基板温度、スパッタリングターゲット面積等コバルト含有マグネタイト薄膜の酸化度に影響する条件により種々相違するので特定することは困難である。
【0041】
しかしながら、本発明者が行った数多くの実験例から、コバルト含有マグネタイトの堆積速度(nm/分)に対する酸素流量(CCM)が小さくなる程、得られるコバルト含有マグヘマイト薄膜の(311)面、(222)面及び(220)面の各面における面間隔が小さくなる傾向にあるという知見を得ている。
【0042】
従って、各種ケースにおいて、(311)面、(222)面及び(220)面の各面におけるバルクの面間隔よりも小さくなるコバルト含有マグネタイトの堆積速度(nm/分)に対する酸素流量(CCM)値を実験により求め、該値よりも小さい値になる様にコバルト含有マグネタイトの堆積速度及び酸素流量のそれぞれを制御すればよい。
【0043】
本発明者が行った実験によれば、後出実施例及び比較例に示す通り、コバルト含有マグネタイトの堆積速度3.5nm/分の場合、酸素流量(CCM)は0.35以下、好ましくは0.27以下、より好ましくは0.25以下であり、その下限値は0.18である。0.35を越える場合には、得られるコバルト含有マグヘマイト薄膜中にヘマタイトが形成されやすくなり、飽和磁化値が減少することがある。0.18未満になると、得られるコバルト含有マグヘマイト薄膜中に金属鉄(Fe)やウスタイト(FeO)が形成され保磁力が減少することがある。
【0044】
【発明の実施の形態】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0045】
磁気記録媒体の保磁力及び飽和磁化等の静磁気特性は、「振動試料型磁力計VSM」(東英工業株式会社製)を用いて測定した値で示した。
【0046】
磁気記録媒体のX線回折スペクトルは、「X線回折装置RAD−IIA」(理学電機株式会社製)で測定した値で示した。
測定条件は、使用管球:Fe、管電圧:40kVA、管電流:25mA、ゴニオメーター、 サンプリング幅:0.010°、走査速度:1.000°/min、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.30mmで、回折角(2θ)が30.00°から60.00°の領域を測定した。
【0047】
磁気記録媒体の再生出力、ダイパルス等の電磁変換特性は、磁性膜をガラスディスク上に形成し、表面にパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤「FOMBLIN Z DOL」(商品名:アウジモント株式会社製)を塗布した後、ギャップ長が約0.2μm、トラック幅21μmのVCR用MIGヘッドを接触走行させて「記録再生実験装置M−84V」(富士通オートメーション株式会社製)を用いて評価した。
【0048】
ノイズ値(Nrms )は走行速度3.0m/sで「スペクトラムアナライザーTR4171」(アドバンテスト製)を用いて解析した。
再生出力(SP-P )及びダイパルス比は走行速度3.0m/sで「オシロスコープVP5514A」(パナソニック製)を用いて解析した。
【0049】
高周波ハイレートスパッタ装置SH−250H−T06((株)日本真空製)を用いた反応スパッタ法により、基体とターゲットとの間の距離を80mmに設定して、基体上に、250℃で、酸素流量0.27CCM、酸素分圧0.23mTorr、全圧9mTorrのアルゴンと酸素とからなる雰囲気中で、金属合金(Fe+4wt%Co)ターゲットをスパッタリングして4.0nm/分の付着速度で、Coを含有するマグネタイト膜を0.1μmの厚みで形成した。
得られた膜を270℃で1時間大気中で熱処理してCo含有マグヘマイト膜を得た。
このCo含有マグヘマイト膜のX線回折スペクトルの測定の結果、面間隔2.506Åの(311)面の回折ピークと面間隔2.412Åの(111)面の回折ピークが認められた。
【0050】
このCo含有マグヘマイトの静磁気特性を測定したところ、保磁力は3000Oeで飽和磁化は255emu/cm3 であった。
【0051】
このCo含有マグヘマイトの電磁変換特性を測定したところ、100kFRPIの信号を記録して再生した際のSp−p/Nrmsは44dB、D50(記録密度1kFRPIの信号を記録して再生した時の再生出力に対して半分の再生出力になる記録密度)は133kFRPIであった。
【0052】
また、このCo含有マグヘマイトの1kFRPIの信号記録時の孤立再生波形をオシロスコープで観察したところ、ダイパルス比0の単峰形のパルスの形状をしていた。
【0053】
【作用】
先ず、本発明において最も重要な点は、前記本発明の実施の形態に示した通り、基体上に形成したコバルト含有マグヘマイト薄膜がFeに対しモル比で0.06以下のコバルトを有し、且つ、(311)面における面間隔が2.510Å以下、(222)面における面間隔が2.415Å以下又は(220)面における面間隔が2.950Å以下のいずれかに該当する面間隔を有している場合には、高い保磁力を有しているとともに、高周波領域における出力が大きい磁気記録媒体を得ることができるという事実である。
【0054】
このような諸特性を有する磁気記録媒体が得られる理由について、本発明者は、コバルト含有マグヘマイト薄膜が特定の面間隔を有してはいるが、コバルト量が特定範囲外である場合、コバルト含有マグヘマイト薄膜が特定範囲のコバルト量を有してはいるが特定の面間隔を有していない場合のいずれの場合にも、本発明の目的とする磁気記録媒体が得られないことから、特定範囲のコバルト量と特定の面間隔を有するコバルト含有マグヘマイト薄膜の相乗効果によるものと考えている。
【0055】
本発明におけるコバルト含有マグヘマイト薄膜の面間隔は、コバルト含有マグネタイト薄膜を加熱してコバルト含有マグヘマイト薄膜にする際の加熱温度が同じあっても、コバルト含有マグネタイト薄膜の形成時における酸素流量を変化させることによって、コバルト含有マグヘマイト薄膜の(311)面、(222)面及び(220)面における面間隔が変化するという現象から、上記加熱処理による基体とコバルト含有マグヘマイト薄膜との熱膨張率の差によるものではなく、コバルト含有マグヘマイト薄膜の面間隔自体が小さくなっているものと認められる。
【0056】
【実施例】
次に、実施例並びに比較例を挙げる。
【0057】
実施例1〜4、比較例1〜
コバルト含有マグネタイト薄膜のコバルト量、薄膜形成時の酸素流量及び成膜速度、加熱処理温度及び時間を種々変化させた以外は、前記本発明の実施の形態と同様にして磁気記録媒体を得た。
【0058】
この時の主要製造条件及び磁気記録媒体の諸特性を表1及び表2に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0003954702
【0060】
【表2】
Figure 0003954702
【0065】
【発明の効果】
本発明に係る磁気記録媒体は、少ないコバルト量で高い保磁力を有しており、高周波領域における出力が大きいので、リング型の磁気ヘッドを使用している現行の磁気記録システムに用いる高密度記録用磁気記録媒体として好適である。
【0066】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、コバルト含有マグネタイト薄膜をコバルト含有マグヘマイト薄膜に変化させる際の熱処理温度が450℃以下であるので、基体材料の耐熱性が要求されず、現在汎用されているガラス等の使用が可能であり、また、生産性も良いので工業的、経済的に有利である。

Claims (1)

  1. リング型磁気ヘッドを用いる磁気記録媒体であって、基体と該基体上に形成されるコバルト含有マグヘマイト薄膜とからなる磁気記録媒体において、上記コバルト含有マグヘマイト薄膜がFeに対しモル比で0.06以下のコバルトを有し、且つ、(311)面における面間隔が2.510Å以下であるとともに、保磁力が1800Oe以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
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