JP3954450B2 - 表面被覆された銀およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属製品の防錆等に用い得る、アクリル−シロキサン系複合ポリマーによる金属表面被覆用の重合体、該重合体を被覆してなる表面被覆金属およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金、銀、銅等の金属やそれらの合金の表面を防錆等の目的で被覆する手段として、琺瑯やメッキでは地金自体の色を損ないやすく、樹脂加工では耐久性が低いことなどから、有機−無機複合体であるハイブリッドポリマーによる被覆が提案されている。このようなハイブリッドポリマーとしては、通常、ビニル基やメタクリロイル基等の末端反応性基を有するアルコキシシラン類(シランカップリング剤ともいう)をハイブリッドモノマーとして用いて、無機ポリマーの原料としてアルコキシシランを用いる。まず、ハイブリッドモノマーのモノマー部分をポリマー化して、側鎖にシラノール基またはアルコキシル基を有するポリマーを得て、これとアルコキシシランとの混合物を加水分解・脱水縮合してハイブリッドポリマーを得る。
【0003】
このようなハイブリッドポリマーによる金属表面の被覆は、有機ポリマーが持つ透明性(地金の色を損なわない)と、無機ポリマーが持つ表面金属との結合性のよさとの両方を併せ持つ。しかし、被覆したハイブリッドポリマーの耐久性は未だ不十分であり、特に貴金属上に被覆した場合にはハイブリッドポリマーが剥離し易いという欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ハイブリッドポリマーの長所を損なわずに、上記欠点を解消する、すなわち、金属表面から剥離し難いハイブリッドポリマーを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題に関し、本発明者らは、被覆する金属表面とハイブリッドポリマーとの結合性を向上する組成について検討した結果、無機ポリマーの一部の末端にチオール基を導入することを特徴とする以下の発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)少なくとも下記の部分構造A〜Cを有する金属表面被覆用の重合体。
部分構造A:少なくとも一つの側鎖において部分構造Bまたは部分構造Cとシロキサン結合した、アクリルポリマー、
部分構造B:部分構造Aまたは部分構造Cとシロキサン結合した、シロキサンポリマー、
部分構造C:部分構造Aまたは部分構造Bとシロキサン結合し、かつ、チオール基を有する部分構造。
(2)上記部分構造Aのポリマー骨格が、下記(I)の化合物の付加重合によって得られる、上記(1)に記載の重合体。
【0007】
【化7】
【0008】
(式中、R1は水素またはC1-3のアルキル基、R2はC3-5のアルキレン基、R3、R4はC1-3のアルキル基、jは1〜3の整数である。)
(3)上記(I)の化合物がγ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランである上記(2)に記載の重合体。
(4)上記部分構造Bのポリマー骨格が、下記(II)の化合物の加水分解・脱水縮合によって得られる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の重合体。
【0009】
【化8】
【0010】
(式中、R5、R6はC1-3のアルキル基、kは2〜4の整数である。)
(5)上記(II)の化合物がテトラエトキシシランである上記(4)に記載の重合体。
(6)上記部分構造Cが、下記(III)の化合物の加水分解・脱水縮合によって得られる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の重合体。
【0011】
【化9】
【0012】
(式中、R7、R9はC1-3のアルキル基、R8はC3-5のアルキレン基、lは1〜3の整数である。)
(7)上記(III)の化合物がγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランである上記(6)に記載の重合体。
(8)上記重合体中のイオウ原子(S)のケイ素原子(Si)に対する存在比率(S/Si)が、0.5〜10mol%である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の重合体。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体を金属表面に被覆した表面被覆金属。
(10)上記金属が銀である、上記(9)に記載の表面被覆金属。
(11)上記被覆の厚みの平均が1〜10μmである上記(9)または(10)のいずれかに記載の表面被覆金属。
(12)下記工程を有する表面被覆金属の製造方法。
(i) 下記(I)の化合物の付加重合反応を行う工程、
(ii) (i)の工程により得られた重合反応物に下記(II)および(III)の化合物を添加し、加水分解・脱水縮合反応を行う工程、
(iii) (ii)の工程により得られた反応物を金属に塗工して、乾燥させる工程。
【0013】
【化10】
【0014】
(式中、R1は水素またはC1-3のアルキル基、R2はC3-5のアルキレン基、R3、R4はC1-3のアルキル基、jは1〜3の整数である。)
【0015】
【化11】
【0016】
(式中、R5、R6はC1-3のアルキル基、kは2〜4の整数である。)
【0017】
【化12】
【0018】
(式中、R7、R9はC1-3のアルキル基、R8はC3-5のアルキレン基、lは1〜3の整数である。)
(13)上記(I)の化合物がγ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランであり、上記(II)の化合物がテトラエトキシシランであり、上記(III)の化合物がγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランである、上記(12)に記載の製造方法。
(14)上記金属が銀である上記(12)または(13)のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係る金属表面被覆用の重合体は、少なくとも一つの側鎖において下記部分構造Bまたは部分構造Cとシロキサン結合したアクリルポリマー(部分構造A)、該部分構造Aまたは部分構造Cとシロキサン結合したシロキサン結合によるポリマー(部分構造B)、部分構造Aまたは該部分構造Bとシロキサン結合し、かつ、チオール基を有する部分構造(部分構造C)を少なくとも有する。該チオール基は被覆される金属と結合し得る。
【0020】
部分構造Aは、少なくとも一つの側鎖において部分構造Bまたは部分構造Cとシロキサン結合するアクリルポリマーである。好ましくは、部分構造Aは、下記一般式(IV)で表されるアクリルポリマーである。
【0021】
【化13】
【0022】
ここで、R1は水素またはC1-3のアルキル基、R2はC3-5のアルキレン基、重合度nは5〜500である。好ましくは、R1はメチル基、R2はプロピレン基である。珪素原子の三つの結合手のうち、少なくとも一つには酸素原子が結合していて、残りの結合手にはC1-3のアルキル基が結合している。好ましくは、珪素原子には二つの酸素原子が結合し、残り一つの結合手にはメチル基が結合している。珪素原子に結合した酸素原子は他の珪素原子、すなわち部分構造A〜Cの珪素原子とシロキサン結合を形成しているか、あるいは、水素原子とともに末端水酸基を形成して、水素結合可能な化学種(例えば、他の部分構造中の末端水酸基、重合体中に取込んだ溶媒分子、金属表面の吸着水等)と水素結合を形成し得る。
【0023】
部分構造Aはホモポリマーであっても、コポリマーであってもよい。一般式(IV)中の少なくとも一つの側鎖の珪素原子は、部分構造Bまたは部分構造Cとシロキサン結合を形成する。該シロキサン結合の存在は、常法により確認することができる。一例として、赤外分光光度計によるSi−O−Si結合の伸縮振動の吸光ピークの存在を挙げることができる。
【0024】
部分構造Aの製造方法は特に限定はないが、典型的な方法として、上記一般式(I)で表されるような分子構造中にビニル基を有するアルコキシシランの付加重合反応による方法が挙げられる。好ましい部分構造Aを与えるモノマーは、一般式(I)において、R1、R3、R4がメチル基、R2がプロピレン基、jが2である化合物、すなわちγ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランである。付加重合反応は、当業界において公知の方法を任意に用いることができ、一例として、上述のモノマーを窒素ガス雰囲気中で溶媒および必要に応じて重合開始剤等とともに加熱攪拌するなどして行わせる方法を挙げることができる。この段階ではアルコキシシラン部分の加水分解反応が起こらないようにするのが好ましいので、通常、非水溶媒系で重合反応を行う。溶媒には通常の有機溶媒を用いることができるが、エタノール、THF、エトキシエタノールあるいはそれらの混合溶媒を用いるのが好ましい。重合を行う際に重合開始剤を用いることもでき、その場合はα,α’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等で例示されるラジカル重合用の重合開始剤を用いることができる。
【0025】
部分構造Bは、少なくとも部分構造Aまたは部分構造Cと結合しているシロキサンポリマーである。すなわち、部分構造Bの基本骨格は、(−O−Si−)を構成単位とするポリマーである。部分構造Bは連続構造となるので、珪素原子の四つの結合手のうち二つ以上は酸素原子と結合している。残りの結合手にはC1-3のアルキル基が結合している。珪素原子の四つの結合手のうち、いくつの結合手にアルキル基を結合させるかは、所望する無機ポリマーの性質に応じて選択することができ、合成に用いるモノマーによって(あるいは、コポリマーとすることで)制御できる。好ましくは、珪素原子の四つの結合手すべてに酸素が結合している。部分構造Bの珪素原子に結合した酸素は、部分構造A〜Cの珪素とシロキサン結合をするか、末端水酸基となって他の化学種と水素結合し得る。
【0026】
部分構造Bが、部分構造Aまたは部分構造Cと結合していることは、THF(テトラヒドロフラン)に対する溶解性から確認できる。すなわち、部分構造Bがハイブリッドポリマーのネットワークの一部として結合していなければ、THFに容易に溶解するが、部分構造Aまたは部分構造Cと結合したポリマーはTHFに不溶となることで、当該結合の確認が可能となる。
【0027】
部分構造Bの製造方法は特に限定はないが、典型的な方法として、上記一般式(II)で表されるアルコキシシランの加水分解、次いで縮合反応による方法が挙げられる。部分構造Bの好ましい原料は、一般式(II)において、R5がエチル基、kが4である化合物、すなわちテトラエトキシシラン(TEOS)である。本発明においては、部分構造Bの合成は、後述する部分構造Cと同時に行うのが好ましいので、具体的な合成例は後述の部分構造Cの説明において記載する。
【0028】
部分構造Cは、部分構造Aまたは部分構造Bとシロキサン結合し、かつ、チオール基を有する部分構造である。好ましくは、部分構造Cは、下記一般式(V)で表される部分構造である。
【0029】
【化14】
【0030】
ここで、R8はC3-5のアルキレン基であって、好ましくはプロピレン基である。珪素原子の三つの結合手のうち、少なくとも一つには酸素原子が結合していて、残りの結合手にはC1-3のアルキル基が結合している。好ましくは、珪素原子の三つの結合手すべてに酸素原子が結合している。珪素原子に結合した酸素原子は他の珪素原子、すなわち部分構造A〜Cの珪素原子とシロキサン結合を形成しているか、あるいは、水素原子とともに末端水酸基を形成して、他の化学種と水素結合を形成し得る。チオール基は、被覆する金属と直接、化学結合を形成し得る。
【0031】
部分構造Cが、部分構造Aまたは部分構造Bと結合していることは、上述のようにTHFに対する溶解性から判断することができる。また、部分構造Cが、チオール基を有することは、例えば、赤外分光光度計によるC−S結合の伸縮振動の吸光ピークの存在により確認することができる。
【0032】
部分構造Cの製造方法も任意であるが、通常は、上記一般式(III)で表される、分子構造中にチオール基を有するアルコキシシランを部分構造Aまたは部分構造Bのアルコキシル基と加水分解、脱水縮合させることにより得られる。部分構造Cの好ましい原料は、一般式(III)において、R7がメチル基、R8がプロピレン基、lが3である化合物、すなわちγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランである。本発明に係る金属表面被覆用の重合体においては、シロキサン結合は、部分構造Bの基本骨格および部分構造A〜Cの各部分構造間の結合において存在する。したがって、製造工程の簡略化の観点から、以下に述べるように、アルコキシル基の加水分解・脱水縮合は一段階にて行うことができる。加水分解・脱水縮合は当業界において公知の如何なる方法を用いても良く、例えば、上述した部分構造Aの付加重合反応を行った溶液に上記部分構造Bの原料と、部分構造Cの原料とを投入し、希塩酸を滴下(塩酸の滴下量としては、反応当量が例示される)して加熱還流する方法を挙げることができる。この方法等により、各化合物のアルコキシル基が加水分解および脱水縮合することにより、シロキサン結合が形成され、本発明に係る重合体のゾルを得ることができる。
【0033】
部分構造A〜Cの量の割合は、目的とする重合体の性質に合わせて任意に決めればよい。部分構造Aに対する部分構造Bの好ましい割合は、モノマー換算で10〜50mol%である。また、金属表面被覆用の重合体中のイオウ原子(S)のケイ素原子(Si)に対する存在比率(S/Si)は、好ましくは0.3〜10mol%、より好ましくは0.5〜10mol%、特に好ましくは0.5〜4.8mol%である。
【0034】
このようにして得られたゾルを金属表面に被覆させる方法としては当業者にとって公知のあらゆる方法をとることができ、例えば、ディッピング法、スピンコーター法などが挙げられる。被覆の厚みも目的に応じて任意でよいが、従来ハイブリッド膜(チオール基なし)では剥離が生じやすかった1〜10μm、特に1〜5μmという薄い被覆において、本発明の有用性は増す。被覆の厚みの調節も、それぞれの被覆方法における公知の方法によって行うことができ、例えば、ディッピング法における場合には、溶剤等でゾルの粘度を調節すること等により厚さを制御することができる。
【0035】
ゾルを被覆した後に、加熱・乾燥(例えば、150℃、30分)することにより、縮合反応をより完全に進行させ、溶媒を除去することによりゲルが形成し、目的の被覆された金属を得ることができる。もっとも、この種のゾル−ゲル反応では、全てのシランアルコキシドが完全に加水分解・脱水縮合されるわけではなく、一部は溶媒分子と水素結合したり、ポリマーとならずにオリゴマーになっている化学種が重合体中に存在する可能性はある。こういった不完全な反応生成物を含む金属表面被覆用の重合体であっても、特許請求の範囲に記載した要件を満たす限り、本願発明の一実施態様であることはいうまでもない。
【0036】
本発明に係る重合体は部分構造Cにチオール基を有することにより銀等の貴金属の被覆に特に有用である。すなわち、従来のチオール等を有しないハイブリッドポリマーによる被覆においては、被覆する金属表面の吸着水等に由来する水酸基、あるいは該金属の表面酸化に由来する酸素と、シラノールとの水素結合等により被覆がなされると考えられるが、貴金属では吸着水の付着や表面酸化が起こり難いので十分な結合が得られず剥離しやすかったものと考えられる。このような貴金属に対しても、本発明におけるチオール基を有する重合体を用いると、チオール基の硫黄原子は、金属と直接に化学結合し得るので、強固な被覆が達成されるものと考えられる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
部分構造Aの原料として、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランを用いた。64gのγ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランと重合開始剤であるα,α’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.4gをTHF、エタノール混合溶媒(体積比1:3)300mlに加え、窒素ガス雰囲気中、70℃で5時間の攪拌を行い、ラジカル重合反応を行った。次に、80℃に昇温して反応を停止した後、自然冷却した。該ポリマー溶液を減圧エバポレータで粘度が約10cPとなるように濃縮した。さらに、部分構造Bの原料として、テトラエトキシシラン(TEOS)6.3g、部分構造Cの原料として、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン1.3gを加え、塩酸(0.001規定、12.4ml)を滴下して60℃で4時間還流した。次いで、冷却後、THFを加えて粘度10〜12cPのハイブリッド溶液(ゾル)を得た。
【0039】
市販の銀の圧延板(純度99.99%、厚さ1mm)を鏡面に羽布研磨し、20mm×10mmの大きさに切断したものを上記ハイブリッド溶液に浸漬し、速度100mm/minで引き上げる、いわゆるディッピング法を用いてハイブリッド溶液を塗布した。その後、150℃の温風乾燥機内で30分間乾燥することで、銀の表面に無色透明の重合体(ゲル)を得た。被覆は約1μmの厚みであった。
【0040】
〔実施例2〕
ディッピング法の代わりに、スプレー法により塗布したこと以外は、すべて上述の実施例1と同様の操作を行った。被覆の厚みは約3μmであった。
【0041】
〔実施例3〕
市販の銀の圧延板の代わりに、銀のメダル(直径40mm、厚さ3mm)を用いたこと以外は、すべて上述の実施例2と同様の操作を行った。被覆の厚みは約3μmであった。
【0042】
〔実施例4〜8〕
部分構造Aの原料としてのγ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランおよび、部分構造Bの原料としてのTEOSの量を下記の表1のように用いたこと以外は、すべて上述の実施例2と同様の操作を行った。被覆の厚みはいずれも約3μmであった。
【0043】
【表1】
【0044】
〔比較例1〕
上記ハイブリッド溶液(ゾル)の代わりにシロキサン結合を持たない市販のアクリル樹脂塗料(株式会社トウペ製、Z001)を使用したこと以外は、すべて上述の実施例2と同様の操作を行った。
【0045】
〔比較例2〕
上記ハイブリッド溶液(ゾル)の代わりにシロキサン結合を持たない市販のアクリル樹脂塗料(株式会社トウペ製、Z001)を使用したこと以外は、すべて上述の実施例3と同様の操作を行った。
【0046】
〔比較例3〕
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランを加えなかったこと以外は、すべて上述の実施例2と同様の操作を行った。
【0047】
〔評価−耐湿性サイクルテスト〕
実施例2、比較例3により得られた金属表面被覆用の重合体の剥離性を評価するために、剥離性の加速試験に相当する耐湿性サイクルテストを実施した。耐湿性サイクルテストにおいては、温度50℃、湿度80%の恒温恒湿装置に被覆を施した金属を置き、23時間後、装置から取り出して1時間かけて室温まで冷却し、乾燥させた。この環境を繰り返すことにより、温度変化に伴う膨張・収縮あるいは結露を強制的に生じさせることになる。この試験で金属表面被覆用の重合体が剥離するのに要する日数を測定することで、重合体の剥離性を定量化した。
【0048】
該テストの結果、実施例2の表面被覆金属については、80日間テストを繰り返しても金属表面被覆用の重合体の剥離は見られなかった。一方、比較例3の表面被覆金属については、約10日経過後に金属表面被覆用の重合体が剥離した。
【0049】
〔評価−耐摩擦テスト〕
実施例2、比較例1により得られた金属表面被覆用の重合体の耐摩擦性を評価した。重合体により被覆された金属をフェルトで1500gf/cm2の荷重をかけて1000回擦った。その結果、実施例2の表面被覆金属については全く傷つかなかった。一方、比較例1の表面被覆金属には、わずかながら傷の発生が認められた。
【0050】
〔評価−耐溶剤テスト〕
実施例3、比較例2により得られた金属表面被覆用の重合体の耐溶剤性を評価した。重合体により被覆された金属をエタノール、アセトン、トルエン、THFをそれぞれ湿らせたティッシュペーパーで、約30秒間、擦った。
【0051】
その結果、実施例3の表面被覆金属については、いずれの溶剤にも溶けなかった。一方、比較例2の表面被覆金属は、いずれの溶剤で擦ったときにも溶解が認められた。
【0052】
〔評価−腐食促進テスト〕
実施例2、比較例1により得られた金属表面被覆用の重合体の耐腐食性を評価した。被覆を施した金属を、硫化水素1ppm、湿度100%の環境に1週間曝露した。結果は、両者とも銀の変色は認められなかった。
【0053】
〔評価−耐熱テスト〕
実施例3、比較例2により得られた被覆を施したメダルの耐熱性を評価するために、両者を200℃の温風乾燥機に60分間放置した。
【0054】
その結果、実施例3のメダルは、全く変化が見られなかったが、比較例2のメダルは、被覆部分が白くなっていた(銀表面の結晶構造に再配列、すなわち再結晶化が起こり始め、白濁化した)。
【0055】
〔評価−鉛筆硬度テスト〕
実施例4〜8、比較例1により得られた金属表面被覆用の重合体の強度の評価として、JIS K 5400(6.14)に準拠した鉛筆引っかき試験を行った。被覆を施した金属に、各硬度の鉛筆を45°に当て、芯が折れない程度にできる限り強く塗面に押しつけ、前方に均一な速さで引っかいた(各鉛筆につき位置を変えて5回)。下地の金属に届く被覆の破れが、5回の引っかきのうち1回以下である鉛筆のうち、最も高い硬度(下記、表2では「鉛筆硬度」と表記する)を以って、当該被覆の強度の指標とした。結果をまとめた表2からも明らかなように、本発明により製造した金属表面被覆用の重合体は、従来用いられた重合体に比べ高い強度を有している。
【0056】
【表2】
【0057】
【発明の効果】
本発明に係る金属表面被覆用の重合体は、被覆する金属との結合が強固になり、剥離等のし難いハイブリッドポリマーの被覆を行うことが可能となる。特に、表面に吸着水が少なく、表面酸化が起こり難い銀等の貴金属の被覆に有用である。また、従来のハイブリッドポリマーでは困難であった厚み約1μmレベルという薄層の被覆が可能になり、金属メダル、金属装飾品、食器等の防錆のために用いた場合には、地金の色を損なうことなく、かつ、剥離のし難い被覆が可能になる。
Claims (4)
- 下記工程を有する、表面被覆された銀の製造方法。
(1) 下記(I)の化合物の付加重合反応を行う工程、
(2) (1)の工程により得られた重合反応物に下記(II)および(III)の化合物を添加し、加水分解・脱水縮合反応を行ってゾルを得る工程、
(3) (2)の工程により得られたゾルを銀の表面に塗工して、加熱・乾燥することによりゲルからなる被覆を形成させる工程。
- 上記(I)の化合物がγ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシランであり、上記(II)の化合物がテトラエトキシシランであり、上記(III)の化合物がγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランである、請求項1に記載の製造方法。
- 上記被覆の厚みが1〜10μmである請求項1または2の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項の製造方法により製造される、表面被覆された銀。
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