JP3954190B2 - ラッピング定盤およびそれを用いたラッピング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体基板、石英ガラス、光学レンズなどのラッピングに用いられるラッピング定盤、およびそれを用いたラッピング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、Siウエハ、GaAs、InPなどの半導体基板、LiTaO3 などの酸化物単結晶基板、石英フォトマスクなどのラッピング加工においては、上下のラッピング定盤と被加工物との間にスラリー状の研磨砥粒を供給し、加工圧力を加えながらラッピング定盤の回転運動を利用して、研磨材がもつ刃先で被加工物から必要量の削り代を取り除き、これによりラッピング定盤が有する平坦度を被加工物に転写する方法が採用されている。ラッピング効率を高めるためには、研磨砥粒の分布を適切化することが重要である。そのために、ラッピング定盤には球状黒鉛が均一に分散している球状黒鉛鋳鉄が一般的に採用されており、黒鉛を砥粒の保持サイトとして機能させている。
【0003】
このようなラッピング加工はSiウエハなどに限らず、ガラス、セラミックス、金属、宝石などの表面を平坦化する目的で使用されている。特に最近、Siウエハなどの半導体基板はULSIの急激な集積度の増大に伴って、ますます平坦度が厳しく要求されるようになってきており、ラッピングに用いる定盤の平坦度維持の重要性が増大している。
【0004】
ところで、Siウエハの両面ラッピング用の定盤は、Siウエハと同様に砥粒によって研磨されていくが、定盤の回転により砥粒量の分布と回転の角速度は外周側が大きくなるため、特に下定盤の外周側がラッピング作業時間の経過と共に大きく研磨される。つまり、ラッピング作業時間の経過と共にラッピング定盤の平坦度が変化し、特に下定盤のラッピング面は上に凸となるように変化する傾向を有している。
【0005】
このように、ラッピング定盤の平坦度は研磨作業時間の経過と共に変化する傾向があり、Siウエハなどの被加工物の平坦度は定盤のそれに大きく影響を受けることになる。上述したように、Siウエハなどの平坦度要求が高まるにつれて、ラッピング定盤の平坦度変化を低く抑えることが重要な技術課題となってきている。このため、Siウエハ用のラッピング定盤における従来の常識を覆して、硬さがHv 200以上の材質からなる研磨定盤が提案されており(特公平 4- 80791号公報、特開平6-212252号公報など参照)、実際にSiウエハの研磨に実用化されている。
【0006】
上述したように、ラッピング定盤の耐磨耗性の面からの平坦度維持は、研磨面材質の硬さを高めることで解決がなされてきたが、最近では定盤の大型化に伴って研磨熱によるラッピング定盤の熱変形が問題になってきている。一般的なSiウエハのラッピングにおける研磨面の温度上昇は 4℃ないし 7℃程度であり、そのために直径1.5mのラッピング定盤は50μm から 100μm 程度の平坦度変化を示すことが測定されている。Siウエハ用ラッピング定盤の平坦度は通常数10μm のオーダーで管理されているため、50μm 以上の熱変形はもはや無視できない問題となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、Siウエハなどのラッピングにおける平坦度精度を高めるためには、ラッピング定盤の平坦度の維持が重要である。そのために、ラッピング定盤の高硬度化などが実施されており、耐磨耗性の面からの平坦度維持が図られている。しかしながら、ラッピング定盤の高硬度化とは別に、定盤の大型化に伴ってラッピング時の研磨面温度の上昇によるラッピング定盤の熱変形が無視できない問題になってきている。
【0008】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、研磨面の耐磨耗性の面からの平坦度維持を図ると共に、熱変形に伴う平坦度変化を抑えることを可能にしたラッピング定盤、およびそれを用いたラッピング装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のラッピング定盤は、請求項1に記載したように、硬さ(ビッカース硬度)がHv250以上の高硬度材料からなり、遊離砥粒と接触してラッピング面を提供する研磨プレートと、前記研磨プレートを支持するベース部とを具備し、前記研磨プレートは複数のセグメントに分割されており、かつ前記複数のセグメントはそれらの間に間隙を設けて前記ベース部上に配置されると共に、各セグメントの中央部付近のみがそれぞれ前記ベース部に連結固定されていることを特徴としている。
【0010】
本発明の他のラッピング定盤は、請求項2に記載したように、硬さ(ビッカース硬度)がHv250以上の高硬度材料からなり、遊離砥粒と接触してラッピング面を提供する研磨プレートと、室温から100℃の温度範囲の熱膨張係数が7×10-6/K以下である低熱膨張材料からなり、前記研磨プレートを支持するベース部とを具備し、前記研磨プレートは複数のセグメントに分割されており、かつ前記複数のセグメントはそれらの間に間隙を設けて前記ベース部上に配置されると共に、各セグメントの中央部付近のみがそれぞれ前記ベース部に連結固定されていることを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明のラッピング定盤は、請求項に記載したように、前記研磨プレートのラッピング面には複数の溝が形成されていること、請求項に記載したように、前記研磨プレートは伸びが1%以下の材料からなること、また請求項に記載したように、前記研磨プレートは前記ベース部に対して脱着可能に連結固定されていることを、さらに特徴としている。
【0012】
本発明のラッピング定盤において、前記ベース部には例えば請求項に記載したように、20〜40重量%のNi、16重量%以下のCo、3重量%以下のC、1重量%以下のSiおよび1重量%以下のMnを含有するFe合金が、また前記研磨プレートには例えば請求項に記載したように、硬さがHv250以上に調整された球状黒鉛鋳鉄が用いられる。なお、ベース部や研磨プレートには、セラミックス材料、玄武岩や大理石のような天然石などを用いることも可能である。
【0013】
本発明のラッピング装置は、請求項に記載したように、上記した本発明のラッピング定盤と、前記ラッピング定盤に接続された駆動軸を介して、前記ラッピング定盤を回転駆動させる駆動系と、前記ラッピング定盤の研磨プレート上に研磨砥粒を供給する研磨砥粒供給手段とを具備することを特徴としている。
【0014】
本発明のラッピング装置のより具体的な構成としては、請求項に記載したように、前記ラッピング定盤は被加工物を挟むように上下に配置されており、これら上下一対のラッピング定盤のうち少なくとも一方が請求項1または請求項2記載のラッピング定盤からなる構成が挙げられる。
【0015】
本発明のラッピング定盤においては、高硬度材料からなる研磨プレートを複数のセグメントに分割していると共に、これら各セグメントをそれぞれ中央部付近の 1個所のみでベース部に固定している。このため、研磨プレートがラッピング時の研磨面温度の上昇により熱膨張しても、これを半径方向や周方向に逃がすことができる。すなわち、研磨プレートの熱膨張の拘束に伴う熱変形を防止することできる。この研磨プレートの熱変形の防止と高硬度化によって、ラッピング精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の他のラッピング定盤においては、研磨プレートを支持するベース部を室温から100℃の温度範囲の熱膨張係数が7×10-6/K以下の低熱膨張材料で構成し、ベース部のラッピング作業時における熱変形を防止している。このように、ベース部の熱変形を防止することによって、その上に連結固定される研磨プレートは熱変形が制限され、高精度のラッピング面を提供することが可能となる。また、複数のセグメントに分割した研磨プレートを用いることで、上記したように研磨プレートの熱膨張の拘束に伴う熱変形を防止することができ、さらにベース部の熱変形を防止することによって、各研磨プレートセグメントのラッピング面精度を高めることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明のラッピング定盤の一実施形態の構成を示す図であり、図1(a)はこの実施形態のラッピング定盤の平面図、図1(b)はその断面図、図2は図1に示すラッピング定盤の要部を示す斜視図である。これらの図に示すラッピング定盤1は、ラッピング面を提供する研磨プレート2と、この研磨プレート2を一体回転可能なように支持するベース部3とを有している。
【0019】
研磨プレート2は、遊離砥粒と接触してラッピング面を提供するものであり、硬さがHv 250(ビッカース硬度)以上の高硬度材料により構成されている。このようなHv 250以上の高硬度材料からなる研磨プレート2を用いることによって、ラッピング定盤1の平坦度を耐磨耗性の面から高精度に維持することが可能となる。
【0020】
そして、研磨プレート2は複数のセグメント2a、2a…に分割されている。これら研磨プレートセグメント2a、2a…は、それぞれ円盤を数等分した扇形状を有しており、全体形状として円盤状の研磨プレート2を構成している。ただし、各研磨プレートセグメント2a、2a…間には、熱膨張した際にセグメント2a同士が接触することを防ぐように、例えば 1〜 2mm程度の間隙が設けられている。セグメント2a、2a…間の間隔は、各セグメント2aの大きさおよび作業時の熱膨張を考慮して設定される。
【0021】
複数の研磨プレートセグメント2a、2a…は、それぞれ中央部付近のみが円盤形状のベース部3に連結固定されている。具体的には、研磨プレートセグメント2aは図1(b)および図2に示すように、その重心位置で固定ボルト4をベース部3側から捩込むことによって、ベース部3に連結固定されている。なお、ベース部3への研磨プレートセグメント2aの連結固定手段は、固定ボルト4に限られるものではなく、各研磨プレートセグメント2aを中央部付近の 1個所のみでベース部3に連結固定することが可能であれば、各種の固定手段を使用することができる。
【0022】
このように、複数に分割した研磨プレートセグメント2a、2a…を、それぞれ中央部付近の 1個所のみでベース部3に固定することによって、研磨プレート2がラッピング時の研磨面温度の上昇により熱膨張しても、これを半径方向や周方向に逃がすことができる。すなわち、研磨プレート2の熱膨張の拘束に伴う熱変形を防止することができる。この研磨プレート2の熱変形の防止と高硬度化によって、ラッピング精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0023】
また、ベース部3は複数の研磨プレートセグメント2a、2a…を一体的に支持することが可能なものであればよいが、特に室温から 100℃の温度範囲の熱膨張係数が 7×10-6/K以下の低熱膨張材料で構成することが好ましい。このように、ベース部3を低熱膨張材料で構成することによって、ラッピング定盤1全体としてラッピング時の研磨面温度の上昇による熱変形が抑制される。
【0025】
ここで、実際のSiウエハなどのラッピングでは、 50K以上の温度上昇が経験されているが、室温から 100℃の温度範囲の熱膨張係数が 7×10-6/K以下の低熱膨張材料であれば、ラッピング作業時のベース部3の熱変形を防止することができる。このように、ベース部3の熱変形を防止することによって、その上に連結固定される研磨プレート2は熱変形が制限され、高精度のラッピング面を提供することが可能となる。複数のセグメントに分割した研磨プレート2の場合においても、ベース部3の熱変形を防止することによって、各研磨プレートセグメント2aのラッピング面精度を高めることができる。
【0026】
ベース部3を構成する低熱膨張材料としては、例えば20〜40重量% のNi、16重量% 以下のCo(NiとCoの合計量は25〜45重量% の範囲が好ましい)、 3重量% 以下のC、 1重量% 以下のSiおよび 1重量% 以下のMnを含有するFe合金が用いられる。このFe合金には 1重量% 以下のNbなどを添加してもよい。このようなFe合金は、例えばインバー合金系材料、スーパーインバー合金系材料、低膨張鋳鉄系材料などとして得られる。特に、低膨張鋳鉄は大気中溶解、大気中鋳造が容易で、切削加工性が他の 2つの材料に比べて著しく容易であり、経済的に有利であって実用性が高い。
【0027】
なお、ベース部3の熱変形を抑制する他の対策として、ベース部3内に冷却ジャケット(図示せず)を設置することも有効である。すなわち、ベース部3内に冷却水の流入管と流出管を接続し、研磨プレート2の直下に冷却ジャケットを設けることによって、ベース部3並びに研磨プレート2の熱変形を抑制することができる。
【0028】
上述した研磨プレート2の表面(ラッピング面)には、砥粒液の均一供給(砥粒の均一分布)および研磨屑の排出のために溝5が設けられている。この溝5の寸法は、例えば幅 1〜 4mm、深さ10〜25mm程度とすることが好ましく、このような溝5が例えば30〜40mm程度のピッチで格子状に設けられている。
【0029】
研磨プレート2の構成材料としては、熱処理により硬さをHv 250以上に調整した球状黒鉛鋳鉄が好ましく用いられる。球状黒鉛鋳鉄は球状黒鉛が研磨砥粒(遊離砥粒)のトラップ部として作用するための、ラッピング効率の向上を図ることができる。鋳鉄組織中に分散させる球状黒鉛は、ラッピングに用いる砥粒の平均寸法に対しておよそ 1〜 4倍程度の断面直径を有していることが好ましく、これにより高いラッピング効率が得られる。例えば、Siウエハのラッピングにおいては15〜20μm 程度の砥粒が一般的に用いられるため、黒鉛寸法が20〜60μm 程度の球状黒鉛鋳鉄が好適である。
【0030】
研磨プレート2として用いる球状黒鉛鋳鉄の熱処理は、溶体化熱処理した後に急冷処理することが好ましい。このような熱処理によって、マルテンサイト組織や焼戻しマルテンサイト、あるいはベイナイト組織、微細パーライト組織として硬さをHv 250以上とする。なお、球状黒鉛鋳鉄の硬さの上限としてはHv 600程度までの実績がある。
【0031】
さらに、球状黒鉛鋳鉄は熱処理により高硬度化するだけでなく、伸び(引張り試験で破断した際の伸び)を1%以下とすることが好ましい。これは上記した溝5の端部、さらには研磨プレートセグメント2aの端部に生じるバリを抑制するためである。溝5の端部などにバリなどが生じると、被研磨物の表面にキズなどを生じさせる。このように、研磨プレート2の構成材料には伸びが1%以下の材料(例えば鉄系材料)を用いることが好ましい。
【0032】
研磨プレート2には金属材料に限らず、アルミナ系、シリカ系、マグネシア系などの酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物、炭化珪素などの炭化物などのセラミックス材料を使用することもできる。また、玄武岩や大理石のような天然石などを用いてもよい。ベース部3についても同様である。ここで、研磨プレート2の場合には、鋳鉄の黒鉛が果たしている砥粒サイトの代わりに、粉砕されやすい黒鉛粒子やBN粒子などをセラミックス材料の成形工程で添加して分散させておくことが有効である。
【0033】
セラミックス材料や天然石材料は、伸びが小さく、また熱膨張係数が小さいという特徴を有し、さらに酸系の研磨液に対する耐食性にも優れている。なお、セラミックス材料の一体物では、大型化されたラッピング定盤の研磨プレートを構成することが、コストや製造技術などの点から難しく実用性は低いが、研磨プレート2を複数のセグメントに分割している本発明では、セラミックス材料によっても研磨プレート2を容易に作製することができ、実用的である。
【0034】
研磨プレート2は溝5の深さの約 80%程度まで擦り減ると寿命となる。また、セラミックス材料などからなる研磨プレートは、ラッピング面に欠けなどのキズの発生原因となる欠陥が生じることがある。従って、研磨プレート2はベース部3に対して脱着可能としておくことが好ましい。前述した固定ネジ4は、このような点からも好ましい固定手段であるということができる。
【0035】
この実施形態のラッピング定盤においては、高硬度材料からなる研磨プレート2を複数のセグメント2a、2a…に分割していると共に、これら各セグメント2a、2a…を熱膨張を自由に逃がすように、それぞれ中央部付近の 1個所のみでベース部3に固定している。従って、研磨プレート2の熱変形を有効に防止することできる。
【0036】
そして、砥粒による偏磨耗などは研磨プレート2の高硬度化により抑制しているため、研磨熱による研磨プレート2の熱変形と砥粒による偏磨耗に基づく研磨プレート2の平坦度の低下を低く抑えることができる。さらに、ベース部3に低熱膨張材料を適用することで、ラッピング定盤1全体としての熱変形をより一層低く抑えることができる。これらによって、Siウエハをはじめとする各種材料のラッピング精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0037】
また、高硬度材料からなる研磨プレート2と低熱膨張材料からなるベース部3との組合せによっても、ラッピング定盤1全体としての熱変形の抑制および研磨プレート2の偏磨耗の防止に基づいて、ラッピング定盤1として平坦度の低下を抑制することができる。これらによっても、Siウエハをはじめとする各種材料のラッピング精度を向上させることが可能となる。
【0038】
図3は、上述した実施形態のラッピング定盤1を両面研磨方式のラッピング装置に搭載した一構成例、すなわち本発明のラッピング装置を両面研磨方式に適用した一実施形態の要部概略構造を示す図である。
【0039】
上述した研磨プレート(例えばセグメント化したもの)2とベース部3とで構成した下部ラッピング定盤1Aの下側、具体的にはベース部3の下側には図示を省略した駆動軸が固着されている。この駆動軸は駆動系としての例えばモータと接続されており、この駆動系により下部ラッピング定盤1Aは所定の回転速度で回転駆動される。
【0040】
下部ラッピング定盤1Aの研磨プレート2上には、キャリヤ11内に配置された状態で被研磨物12、例えばSiウエハがセットされる。キャリヤ11は通常の両面ラッピング装置と同様に、図示を省略した中心駆動軸の太陽歯車および外周部の内歯車と噛み合った遊星歯車を有しており、中心駆動軸を回転駆動させることによりその回りを遊星運動するように構成されている。
【0041】
被研磨物12が配置されたキャリヤ11の上側には、下部ラッピング定盤1Aと同様に、研磨プレート2とベース部3とで構成された上部ラッピング定盤1Bが配置されている。上部ラッピング定盤1Bは、下部ラッピング定盤1Aとは別の駆動系を有しており、被研磨物12に対して所定の圧力を加えつつ回転駆動される。
【0042】
また、上下一対のラッピング定盤1A、1Bの間には、スラリー状の研磨砥粒、例えば研磨砥粒(遊離砥粒)とポリッシング液との混合スラリーなどが、図示を省略した研磨砥粒供給装置から供給される。そして、被研磨物12に上下一対のラッピング定盤1A、1Bで所定の圧力を加え、この状態で上記研磨砥粒を供給しつつ、下部および上部ラッピング定盤1A、1Bを同方向もしくは逆方向に回転させると共に、被研磨物12が配置されたキャリヤ11を遊星運動させる。このようにして、Siウエハなどの被研磨物12のそれぞれの表面(両面)のラッピング加工が行われる。
【0043】
この実施形態のラッピング装置においては、研磨プレート2とベース部3とのハイブリッド構造のラッピング定盤1を用いていることから、Siウエハなどの被研磨物のラッピングを高精度に実施することができる。なお、この実施形態では下部および上部ラッピング定盤1A、1B共にハイブリッド構造の定盤を用いる場合について説明したが、一方のラッピング定盤(特に下部定盤)のみに本発明のハイブリッド構造のラッピング定盤を適用することも可能である。
【0044】
上記実施形態のラッピング装置は、Siウエハなどのラッピングに限らず、 GaAs、InPなどの他の半導体ウエハ、LiTaO3 などの酸化物単結晶基板、石英フォトマスクなどの石英ガラス基板、光学レンズなどのラッピングに適用することができる。また、本発明のラッピング装置は両面研磨方式に必ずしも限られるものではなく、場合によっては片面研磨方式のラッピング装置に適用することも可能である。
【0045】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0046】
実施例1
まず、表1に組成を示す球状黒鉛鋳鉄を用いて、図1に示した研磨プレート2を作製した。一方、表1に組成を示す低膨張鋳鉄を用いて、図1に示したベース部3を作製した。そして、これらから直径1400mmのラッピング定盤1を作製し、それを用いて図3に示したような両面ラッピング装置を構成した。なお、各材料の特性は表2に示す通りである。
【0047】
【表1】
Figure 0003954190
【表2】
Figure 0003954190
ラッピング定盤の作製にあたっては、まず球状黒鉛鋳鉄からなる研磨プレート2の鋳造において、黒鉛チラーを用いて急冷凝固させ、黒鉛寸法を30〜45μm に微細化させた。さらに粗面化し、 950℃の温度に保持した後に油焼入れし、次いで 450℃で焼戻し処理を行って、Hv 460の焼戻しマルテンサイト組織とした。この円盤に幅 1.5mm、深さ17mmの溝をピッチ40mm角の格子状に加工した後、 8個に等分してそれぞれ扇形のセグメントとした。
【0048】
一方、ベース部の低膨張鋳鉄は鋳造後に 750℃から焼入れし、さらに機械加工した後に応力除去のための焼鈍を行った。このようなベース部に上記した各研磨プレートセグメントを、その重心位置に固定ネジを捩じ込むことにより固定した。研磨プレートセグメントはそれぞれ 1つの固定ネジのみでベース部に連結固定されている。また、セグメント間隔は 1.5mmとした。
【0049】
また、本発明との比較例として、表1に組成を示した球状黒鉛鋳鉄で研磨プレートおよびベース部を共に形成したもの(比較例1)、および表1に組成を示した低膨張鋳鉄で研磨プレートおよびベース部を共に形成したもの(比較例2)をそれぞれ作製し、実施例と同様にラッピング装置を構成した。
【0050】
上述した実施例および比較例1、2の各ラッピング装置を用いて、Siウエハ( 8インチウエハ)のラッピング試験を実施し、定盤の平坦度を測定した。その結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
Figure 0003954190
表3から明らかなように、実施例のラッピング装置では、研磨中の定盤の初期平坦度および温度上昇の抑制が共に優れ、これらによりラッピング定盤の平坦度を高精度に維持し得ることが分かる。従って、Siウエハなどの研磨精度および作業効率を大幅に向上させることができる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のラッピング定盤によれば、研磨面の耐磨耗性の面からの平坦度維持を図った上で、熱変形に伴う平坦度変化を抑制することができる。従って、ラッピング面の平坦度を高精度に維持することが可能となる。そして、このようなラッピング定盤を用いた本発明のラッピング装置によれば、各種被研磨物のラッピング作業を高精度にかつ効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のラッピング定盤の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】 図1に示すラッピング定盤の要部を示す斜視図である。
【図3】 図1に示すラッピング定盤を用いた本発明の一実施形態のラッピング装置の要部概略構造を示す図である。
【符号の説明】
1……ラッピング定盤
2……研磨プレート
2a…研磨プレートセグメント
3……ベース部
4……固定ネジ
5……溝
11……キャリヤ
12……被研磨物

Claims (9)

  1. 硬さがHv250以上の高硬度材料からなり、遊離砥粒と接触してラッピング面を提供する研磨プレートと、前記研磨プレートを支持するベース部とを具備し、
    前記研磨プレートは複数のセグメントに分割されており、かつ前記複数のセグメントはそれらの間に間隙を設けて前記ベース部上に配置されると共に、各セグメントの中央部付近のみがそれぞれ前記ベース部に連結固定されていることを特徴とするラッピング定盤。
  2. 硬さがHv250以上の高硬度材料からなり、遊離砥粒と接触してラッピング面を提供する研磨プレートと、室温から100℃の温度範囲の熱膨張係数が7×10-6/K以下である低熱膨張材料からなり、前記研磨プレートを支持するベース部とを具備し、
    前記研磨プレートは複数のセグメントに分割されており、かつ前記複数のセグメントはそれらの間に間隙を設けて前記ベース部上に配置されると共に、各セグメントの中央部付近のみがそれぞれ前記ベース部に連結固定されていることを特徴とするラッピング定盤。
  3. 請求項1または請求項2記載のラッピング定盤において、
    前記研磨プレートのラッピング面には複数の溝が形成されていることを特徴とするラッピング定盤。
  4. 請求項1または請求項2記載のラッピング定盤において、
    前記研磨プレートは伸びが1%以下の材料からなることを特徴とするラッピング定盤。
  5. 請求項1または請求項2記載のラッピング定盤において、
    前記研磨プレートは前記ベース部に対して脱着可能に連結固定されていることを特徴とするラッピング定盤。
  6. 請求項1または請求項2記載のラッピング定盤において、
    前記ベース部は、20〜40重量%のNi、16重量%以下のCo、3重量%以下のC、1重量%以下のSiおよび1重量%以下のMnを含むFe合金からなることを特徴とするラッピング定盤。
  7. 請求項1または請求項2記載のラッピング定盤において、
    前記研磨プレートは、硬さがHv250以上に調整された球状黒鉛鋳鉄からなることを特徴とするラッピング定盤。
  8. 請求項1または請求項2記載のラッピング定盤と、
    前記ラッピング定盤に接続された駆動軸を介して、前記ラッピング定盤を回転駆動させる駆動系と、
    前記ラッピング定盤の前記研磨プレート上に研磨砥粒を供給する研磨砥粒供給手段と
    を具備することを特徴とするラッピング装置。
  9. 請求項8記載のラッピング装置において、
    前記ラッピング定盤は被加工物を挟むように上下に配置されており、これら上下一対のラッピング定盤のうち少なくとも一方が請求項1または請求項2記載のラッピング定盤からなることを特徴とするラッピング装置。
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