伝送するデータの大容量化と共に、光ファイバ通信システムで更なる伝送容量の拡大が望まれている。このために、高密度波長分割多重通信方式(Dense Wavelength Division Multiplexing:DWDM)で、それぞれの波長を分割したり統合するための合分波デバイスとしての光波長フィルタの重要性がますます高まっている。
光波長フィルタはさまざまな形態のものがある。中でもアレイ導波路回折格子は、波長特性が狭帯域で高消光比であり、また多入力多出力のフィルタデバイスとしての特徴も持っている。このため、多重化された信号の分離やその逆の動作を行わせることが可能であり、容易に波長合分波デバイスを構成することができるという利点がある。更にアレイ導波路回折格子素子を石英導波路を使用して構成すると、光ファイバとの結合に優れ、挿入損失が数dB(デシベル)程度の低挿入損失動作を実現することができる。このような点から、アレイ導波路回折格子は光波長フィルタの中でも特に重要なデバイスとして注目されており、国内外で盛んに研究が行われている。
図33は、従来のアレイ導波路回折格子の全体的な構成を表わしたものである。アレイ導波路回折格子11は、図示しない基板上に形成された1本または複数本の入力導波路12と、複数本からなる出力導波路13と、異なった曲率でそれぞれ一定方向に曲がったチャネル導波路アレイ14と、入力導波路12とチャネル導波路アレイ14を接続する入力側スラブ導波路15と、チャネル導波路アレイ14と出力導波路13を接続する出力側スラブ導波路16とによって構成されている。入力導波路12から入射した多重信号光は、入力側スラブ導波路15によってその進路を広げる。そしてチャネル導波路アレイ14にそれぞれ等位相で入射する。入射光強度については入力側スラブ導波路15の各入射位置で等しくはなく、中央部ほど強度が強く、ほぼガウス分布となっている。
チャネル導波路アレイ14では、これを構成する各アレイ導波路の間に一定の光路長差が設けられていて、光路長が順次長く、あるいは短くなるように設定されている。したがって、それぞれのアレイ導波路を導波する光には一定間隔ずつの位相差が付けられて出力側スラブ導波路16に到達するようになっている。実際には波長分散があるので、波長によってその等位相面が傾く。この結果、波長によって出力側スラブ導波路16と出力導波路13の界面上の異なった位置に光が結像(集光)する。波長に対応したそれぞれの位置に出力導波路13が配置されているので、出力導波路13からは任意の波長成分を取り出すことが可能になる。
ところでこのようなアレイ導波路回折格子11の中心波長は導波路材料の屈折率の変化に非常に敏感である。このため、その製造プロセスとしての成膜プロセスでのバラツキによって中心波長が変動してしまい、設計通りの値を得ることができない場合が多い。中心波長が変動すると、使用する波長での光損失が大きくなるという問題がある。
そこで、通常のAWG(arrayed wave guide:アレイ状導波路)による入出力導波路の他に波長補正用の入出力導波路を設けるようにする第1の提案(たとえば特許文献1参照。)が行われている。この第1の提案では、波長の補正量に応じて入出力導波路を変更するようにしている。
波長差δλに対する分波方向の確度の差をδθとするとき、アレイ導波路回折格子では入力導波路12の位置、すなわちスラブ入射角度θinを変更することで、中心波長λinを次の(1)式に示す値だけ補正することができる。
ただし、この波長補正用の入出力導波路は離散的に配置されている。このため、波長の補正量も離散的となり、任意に波長を補正することができない。任意の波長補正量を得るためには、スラブ入射角度θinを任意に取る必要がある。
図34は、このような問題を解決するためのアレイ導波路回折格子素子の構成を表わしたものである。この第2の提案(たとえば非特許文献1参照。)では、AWG(arrayed wave guide:アレイ状導波路)ウェハ21の入力側のスラブ入射部22で基板を切断している。そして、やとい(ガラス)によって補強されたスラブ入射部22で、同じくやとい23に挟まれた入力用ファイバ24を接着(固着)している。この接着時に直接調芯を行い、波長補正量に合わせて入力用ファイバ24の位置を任意に変えるようにしている。
しかしながら、一般に入力用ファイバ24のスポットサイズの製造上の誤差は光導波路のスポットサイズの製造上の誤差に比べて非常に大きい。このため、このような手法を採ると入力用ファイバ24のスポットサイズが大きくばらついたような場合にアレイ状導波路の特性を劣化させる要因になるという問題があった。
図35はこのような問題を解決するための第3の提案(たとえば非特許文献2参照。)を示したものである。この第3の提案では、図35に示したようにスラブ入射部22で入力用ファイバ24を接着するのではなく、入力用ファイバ31はスラブ導入用光導波路32を介して入力側スラブ導波路33に接続されている。入力側スラブ導波路33と出力側スラブ導波路34は共にAWG素子ウェハ35上に形成されており、これらの間にはチャネル導波路アレイ36が接続されている。また、出力側スラブ導波路34とファイバアレイ37の間には出力導波路38が接続されている。
特開平9−49936号公報
P.CPU.Clementsetal,IEEE,Photon,Tech,lett,Vol.7,No.10,pp.1040-1041,1995
電子情報通信学会総合大会C−3−76(2000)
図1は本発明の一実施例におけるアレイ導波路回折格子素子を示したものである。このアレイ導波路回折格子素子61は、第1のAWG(arrayed wave guide:アレイ状導波路)チップ621と、この第1のAWGチップ621と切断線63を介して接着(固着)された第2のAWGチップ622の2つのチップから構成されている。これら第1および第2のAWGチップ621、622は本来1つのウェハであったものを切断線63で切断して、この切断線63の方向に所望の量だけ移動させた後に接着剤等で両者を固定したものである。
第2のAWGチップ622の一端部には、入力側ファイバアレイ65が取り付けられている。また、第1のAWGチップ621におけるこれと反対側の端部には出力側ファイバアレイ67が取り付けられている。第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622の境界部分には、補強用のやとい68を入力側の端部に接着した入力側スラブ導波路69が配置されており、第1のAWGチップ621におけるファイバアレイ67の近傍には出力側スラブ導波路71が配置されている。入力側スラブ導波路69と出力側スラブ導波路71の間には、異なった曲率でそれぞれ一定方向に曲がったチャネル導波路アレイ72が配置されている。また、ファイバアレイ65と入力側スラブ導波路69の間には入力導波路74が、出力側のファイバアレイ67と出力側スラブ導波路71の間には出力導波路75がそれぞれ配置されている。
図2は、本実施例のアレイ導波路回折格子素子の製造工程の流れを示したものである。まず、第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622の2つのチップに切断する前のチップを製造し、ウェハから切り出す(ステップS81)。そしてこのチップに対して入力側スラブ導波路69および出力側のファイバアレイ67を取り付けて入力側ファイバアレイ65および出力側ファイバアレイ67を接着する(ステップS82)。次に、入力側スラブ導波路69における切断線63で示す切断箇所を補強するためにこの部位のスラブ導波路の上面、下面あるいはこれら両面にやとい68を接着する(ステップS83)。そしてこの切断線63で示す切断箇所を、光軸に垂直方向に切断する(ステップS84)。切断した端面は、互いに接続が良好に行われるように研磨しておく。このとき、第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622には入力側ファイバアレイ65および出力側ファイバアレイ67が付いたままである。
これら第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622は、光軸調芯され、切断線63と平行の切断方向に対する波長補正が行われる所望の位置が求められる(ステップS85)。その位置で第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622を接着剤で固定する(ステップS86)。接着剤としてはUV(ultraviolet:紫外線)硬化樹脂や、熱硬化樹脂等を用いることができる。UV硬化樹脂を使用する場合には、紫外線透過率を考慮して、デバイス基板材料として石英基板等の透明なもの、すなわち紫外線透過率の高いものを用いることが望ましい。また、入力側スラブ導波路69については切断して位置をずらして固定するので、切断時の切りしろと研磨しろの分だけその長さを長めに設計しておく必要がある。
<第1の変形例>
ところで図1に示したアレイ導波路回折格子素子61で入力導波路74は一つであればよく、複数本用意されている場合があるのはその中の良品を選択できるようにするためである。本発明の場合もこの点に変わりがなく、ステップS85では図1に示したような入力導波路74から光を入射させて、切断線63に沿って第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622の位置関係を変えながら調芯を行うことになる。しかしながら、調芯量が大きくなるほど、入力側スラブ導波路69における光の入射位置がローランド配置からずれて焦点位置が設計値から狂ってしまうことになる。
図3は、このよう場合に有効なアレイ導波路回折格子素子の変形例として入力側スラブ導波路の周囲を拡大して示したものである。この図3で図1と同一部分には同一の符号を付しており、これらの説明を適宜省略する。またこの図3では、煩雑さを避けるために、やとい68(図1参照)の図示を省略している。
この第1の変形例で入力側スラブ導波路69に接続された入力導波路74は複数本741〜74N用意されている。これらの入力導波路741〜74Nの中から、波長補正量に応じたスラブ移動位置に最も近い1本の入力導波路74Kが入力用として最終的に選択される。このような手法によって、入力導波路がローランド円からずれることによって起因するアイソレーション劣化を低減することが可能になる。
ちなみに、図34あるいは図35に示した従来のアレイ導波路回折格子素子で同様なことを行おうとすると、入力用ファイバあるいはPLC(Planar Lightwave Circuit:平面光波回路)を移動させるとこの分だけローランド円からずれることになる。
<第2の変形例>
図4は本発明の第2の変形例としてスラブ切断部で生じる光の反射を軽減したアレイ導波路回折格子素子を説明するためのものである。先の実施例では第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622を切断後に接着している。ここで、このままではスラブ切断部で生じる光の反射が懸念される場合がある。この図4で図1と同一部分には同一の符号を付しており、これらの説明を適宜省略する。
この第2の変形例のアレイ導波路回折格子素子61Aはその入力側スラブ導波路69を光軸91およびAWGチップ62の表面と垂直な面で切ったとしたときの、第1の切断線631よりも僅かに異なった角度θ1となる第2の切断線632で切断している。そしてこの第2の切断線632に沿った方向としての矢印方向92に移動させて、第1のAWGチップ621Bと第2のAWGチップ622Bの位置を調整して接着するようにしている。
一般に入力側スラブ導波路69の光軸91に対して直角とならない角度で入力側スラブ導波路69を切断しこれを矢印方向92に移動させると、移動する位置に応じてスラブの焦点距離が変化し、アイソレーションの劣化に繋がるおそれがある。しかしながら、この第2の変形例で示したように第1および第2の切断線631、632のなす角度θ1を僅かな角度に設定して、第1のAWGチップ621Bと第2のAWGチップ622Bの位置関係をたとえば100μm程度中央位置から移動させたとしても、スラブの焦点距離の誤差は10μm程度である。これは入力側スラブ導波路69のスラブ長が10〜20mmであるのに比べると十分小さい。したがって、アイソレーションの劣化はほとんど生じない。
この図4に示した例ではスラブ切断位置としての第2の切断線632で示す位置を第1の切断線631に対して入射側に設定したが、これをチャネル導波路アレイ72側に位置させることによっても同様に反射を低減することができる。
<第3の変形例>
図5は、本発明の第3の変形例としてのアレイ導波路回折格子素子の要部を説明するためのものである。先の第2の変形例ではAWGチップ62の表面と垂直な面で入力側スラブ導波路69を切断したが、シリコン基板95および導波路96からなるこのチップ62の厚さ方向に微小な角度θ2だけ傾けて切断して第1のAWGチップ621と第2のAWGチップ622を得るようにしている。これらの切断面の位置を調整して接着することで、第2の変形例と同様にスラブ切断部で生じる光の反射を防ぐことができる。
なお、スラブ切断部で生じる光の反射を防止するためには、図4と図5で示した傾斜方向を任意に組み合わせて切断面を設定してもよい。すなわち、一般には切断面は光軸に垂直な面に対して3次元空間上の所定方向に僅かに方向を異ならせた面であれば、スラブ切断部で生じる光の反射を防止することが可能になる。
<第4の変形例>
図6は、本発明の第4の変形例としてのアレイ導波路回折格子素子を示したものである。この図6で図1と同一部分には同一の符号を付しており、これらの説明を適宜省略する。第4の変形例のアレイ導波路回折格子素子61Bは、第1のAWGチップ1011と、この第1のAWGチップ1011と切断線102を介して接着された第2のAWGチップ1012の2つのチップから構成されている。これら第1および第2のAWGチップ1011、1012は本来1つのウェハであったものを切断線102で切断して、この切断線102の方向に所望の量だけ移動させた後に接着剤等で両者を固定したものである。第1のAWGチップ1011と第2のAWGチップ1012の境界部分には、補強用のやとい104を出力側の端部に接着した出力側スラブ導波路71が配置されている。
この変形例でも図1に示したアレイ導波路回折格子素子61と同様に第1および第2のAWGチップ1011、1012の接着位置の調整によって波長の調整を行うことができる。もちろんこの図6に示した第4の変形例でも、図4に示した第2の変形例と同様に、切断箇所を光軸に垂直な面に対して3次元空間上の所定方向に僅かに方向を異ならせた面とすることで、反射による影響を防止することができる。
<第5の変形例>
図7は、本発明の第5の変形例としてのアレイ導波路回折格子素子を示したものである。この図7で図1および図6と同一部分には同一の符号を付しており、これらの説明を適宜省略する。第5の変形例のアレイ導波路回折格子素子61Cは、第1のAWGチップ1211と、この第1のAWGチップ1211と切断線63を介して接着された第2のAWGチップ1212と、第2のAWGチップ1212と他の切断線102を介して接着された第3のAWGチップ1213との3つのチップから構成されている。これら第1〜第3のAWGチップ1211〜1213は本来1つのウェハであったものを切断線63、102で切断して、これらの切断線63、102の方向にそれぞれ所望の量だけ移動させた後に接着剤等でこれらを固定したものである。一方の切断線63は先の実施例と同様に入力側スラブ導波路69を切断しており、他方の切断線102は第4の実施例と同様に出力側スラブ導波路71を切断している。
この変形例でも先の実施例および変形例に示したアレイ導波路回折格子素子61、61Aと同様に第1および第2のAWGチップ1211、1212の接着位置の調整および第2および第3のAWGチップ1212、1213の接着位置の調整によって、それぞれ波長の調整を行うことができる。もちろんこの図7に示した第5の変形例でも、図4に示した第2の変形例と同様に、切断箇所を光軸に垂直な面に対して3次元空間上の所定方向に僅かに方向を異ならせた面とすることで、反射による影響を防止することができる。
<第6の変形例>
ところで、以上の実施例および変形例では入力側と出力側スラブ導波路の一方あるいは双方を切断してこれを所望の距離だけ移動して接着するようにした。このように導波路を形成した同一の基板を切断して接着するだけでなく、異なった基板同士を接着することも可能である。また、これを積極的に推し進めて、あるスラブ導波路を切断した一方のパターンと他方のパターンの導波路基板をそれぞれ単独で多量に作製し、必要に応じてこれらを適宜組み合わせて所望の特性あるいは機能のアレイ導波路回折格子素子を実現することも可能になる。
特に、アレイ導波路回折格子素子をスラブ導波路の箇所で切断した形の複数の部品として別々に製造すると、たとえばチャネル導波路アレイ72のように高精度の加工が必要なものとそれ以外のものとをそれぞれ異なった精度で製造することが可能になり、製造工程に無駄がなくなるばかりでなく、歩留まりの向上も図ることができる。
図8は1つのアレイ導波路回折格子素子を3つの部品に分けて別々に製造し接着した状態を表わしたものである。第1〜第3の部品141〜143は接合面144、145でそれぞれ接着して1つのアレイ導波路回折格子素子61Dを完成させている。このうち一方の接合面144は入力側スラブ導波路69を接合する面であり、他方の接合面145は出力側スラブ導波路71を接合する面である。
図9は、第1の部品を単独で示したものである。また、図10〜図12は図9に示した切断された形状の入力側スラブ導波路の端面近傍領域151を拡大して示す(同図(a))と共に、アレイ導波路回折格子素子の光出力の特性を示した(同図(b))ものである。たとえば図10(a)では入力側スラブ導波路69A1に接続する入力導波路74A1の接続部分の形状が、図11(a)に示した、より拡大したものと図12(a)のストレートなものとの中間的な形状となっている。したがって、この入力導波路74A1を用いた第1の部品141を使用することで第3の部品143として標準的な特性を有する部品が使用されていれば、図10(b)に示すように通常の波長特性のスペクトルを得ることができる。
これに対して、図11(a)に示したような入力導波路74A2を用いた第1の部品141を使用すると、同図(b)で実線で示すように頂上部分がフラットとなった波長特性のスペクトルを得ることができる。更に、図12(a)に示したような入力導波路74A3を用いた第1の部品141を使用すると、同図(b)で実線で示すように頂上部分が急峻となった波長特性のスペクトルを得ることができる。したがって、所望のスペクトル形状に応じて入力導波路74A1〜74A3のいずれかを用いた第1の部品141を選択すればよい。
図13は、第3の部品を単独で示したものである。また、図14〜図16は図13に示した切断された形状の出力側スラブ導波路の端面近傍領域152を拡大して示す(同図(a))と共に、アレイ導波路回折格子素子の光出力の特性を示した(同図(b))ものである。たとえば図14(a)では出力側スラブ導波路71A1に接続する出力導波路75A1の接続部分の形状が、図15(a)に示した、より拡大したものと図16(a)のストレートなものとの中間的な形状となっている。したがって、この出力導波路71A1を用いた第3の部品143を使用することで第1の部品141として標準的な特性を有する部品が使用されていれば、図14(b)に示すように通常の波長特性のスペクトルを得ることができる。
これに対して、図15(a)に示したような出力導波路75A2を用いた第3の部品143を使用すると、同図(b)で実線で示すように頂上部分がフラットとなった波長特性のスペクトルを得ることができる。更に、図16(a)に示したような出力導波路75A3を用いた第3の部品143を使用すると、同図(b)で実線で示すように頂上部分が急峻となった波長特性のスペクトルを得ることができる。したがって、これらの場合にも所望のスペクトル形状に応じて出力導波路75A1〜75A3のいずれかを用いた第3の部品143を選択すればよい。もちろん、第1および第3の部品141、143を組み合わせて使用することで、更に特性を多様なものとすることができる。
<第7の変形例>
図17〜図20は、第6の変形例に関連した変形例としてポート数や出力導波路の配置に特徴をもった出力側スラブ導波路の出力側近傍を示したものである。これらの図に示した切断された出力側スラブ導波路71B1〜71B4は、図13に示した第3の部品143の出力側スラブ導波路の端面近傍領域152を拡大して示したものである。また、図21〜図24は、図17〜図20にそれぞれ示した出力側スラブ導波路および出力導波路を使用した場合のアレイ導波路回折格子素子の出力特性を1つずつ対応させて示したものである。
このうち図17に示した例では出力側スラブ導波路71B1の出力側に16チャネルの出力導波路75B1が接続されている。図18に示した例ではこの16チャネルがより広い間隔で配置されている。したがって、図17に対応する図21と、図18に対応する図22ではそれぞれの光出力の波長のピーク位置の間隔が異なっている。
一方、図19に示した例では図17に示した例と各チャネルの配置密度は同じであるが、図19に示した例では32チャネルにチャネル数が倍増している。このため図23に示すように全チャネルの波長帯域は図21に示した16チャネルのものと比べると倍に増大していることになる。
図20に示した例では、出力側スラブ導波路71B4の出力側の中央付近に出力導波路75B5を配置し、その両隣に所定の間隔を置いて1対の出力導波路75B4、75B6を配置している。後者の1対の出力導波路75B4、75B6は出力をモニタするために使用される。すなわち、図24に対応させて示したように出力導波路75B5の光出力は出力側スラブ導波路71B4の出力側の比較的中央部分から得られるので比較的品質が良好であり、図示しないメインポートに入力されて通常の信号光として処理される。これに対して1対の出力導波路75B4、75B6の双方あるいはいずれか一方の光出力は図示しないモニタポートに入力されて信号光の強度の制御等のモニタ用に使用されることになる。
<第8の変形例>
図25は、第8の変形例として切断及び研磨を考慮した場合に好適な入力側スラブ導波路近傍の形状を表わしたものである。この入力側スラブ導波路69Cは、その切断箇所181が切断および研磨しろ分としてaμmだけ長めにスラブ長Sが設定されるようにマスクパターンを設計している。そして、入力側スラブ導波路69Cの入力導波路74Cは中央部に接続される第1の入力導波路74C1と、その両側に所定の間隔を置いて接続される第2の入力導波路74C2とによって構成されている。第1の入力導波路74C1の接続されるスラブ入力端は第2の入力導波路74C2の接続される部分よりもaμmだけ入射側に突出している。
図26は本発明の第8の変形例の入力側スラブ導波路と対比するために、先の実施例で使用されたと同様の入力側スラブ導波路近傍の形状を表わしたものである。この入力側スラブ導波路69Dは、その切断箇所181の分だけ図25に示した入力側スラブ導波路69Cと同様にスラブ長Sが長めに設定されている。このような入力側スラブ導波路69Dは、切断前に特性をチェックしようとしてもスラブ長Sが長いので特性の初期評価を行うことができない。
これに対して図25に示した変形例の場合には、第1の入力導波路74C1の接続されるスラブ入力端から計った切断前のスラブ長Sは長いのでこの部分での特性の初期評価は同様に不可能であるが、第2の入力導波路74C2の接続箇所はスラブ長Sよりもaμmだけ短くなっている。したがって、切断前にはこの第2の入力導波路74C2を用いて特性の初期評価を行うことができる。そして、特性が良好とされる入力側スラブ導波路69Cを良品として選択し、製品の使用の際には第1の入力導波路74C1を選択すればよい。
<第9の変形例>
図27は、第9の変形例としての出力側スラブ導波路近傍の形状を表わしたものである。この出力側スラブ導波路71Cは、その切断箇所191の近傍に配置された出力導波路75Cの一番端の出力導波路75C1のみが出力側スラブ導波路71Cとの接続箇所がストレートな形状となっており、スペクトルモニタ用となっている。図14および図16で説明したようにこの出力導波路75C1からは急峻なスペクトルの光信号を得ることができるので、この部分をモニタ用とすることで切断箇所191の接着を行う際に位置補正の精度を十分向上させることができる。なお、スペクトルモニタ用の出力導波路75C1は必ずしもストレートな形状である必要はなくその先端が狭まるようなテーパ状をなしていてもよい。この場合にも、同様に急峻なスペクトルの光信号を得ることができる。
<第10の変形例>
図28は、第10の変形例としてのアレイ導波路モジュールを表わしたものである。このアレイ導波路モジュール301は、箱状のケース302とその底部に配置されたペルチェ素子からなる発熱あるいは冷却を行う温度制御素子303と、図1に示したアレイ導波路回折格子素子61とこれらの間に介在する金属板304から構成されている。この変形例では金属板304として熱伝導性の良い銅板を使用している。金属板304は温度制御素子303の温度制御領域を拡大するために温度制御素子303の接触サイズよりも大きなものが使用されている。
金属板304の内部には温度センサ306が熱伝導性の高い材料307と共に埋め込まれている。この温度検出出力は、温度制御回路308に入力されて温度制御素子303の温度制御が行われるようになっている。温度センサ306にはサーミスタが使用されている。また、この図では示していないが、入力導波路側には入力光ファイバが接続され、出力導波路側には出力光ファイバが接続されている。
<第11の変形例>
図29は、第11の変形例としての光通信システムの構成の概要を表わしたものである。この光通信システムで、送信側に配置されたSONET(Synchronous Optical Network)装置(光送信機)401から送り出された波長λ1〜λNのNチャネル分の光信号は光マルチプレクサ(MUX)402で多重された後、ブースタアンプ403で増幅されて光伝送路404に送り出される。光マルチプレクサ402は、アレイ導波路回折格子素子で構成されている。多重化された光信号405はインラインアンプ406で適宜増幅された後、プリアンプ407を経て光デマルチプレクサ(DMUX)408で元の波長λ1〜λNに分離され、SONET装置(光受信機)409で受信されるが、その途中の光伝送路404に適宜の数のノード(OADM)4111〜411Mが配置されている。これらのノード4111〜411Mでは、所望の波長の光信号が入出力されることになる。
図30は、ノードの構成の概要を示したものである。ここでは第1のノード4111を示しているが、第2〜第Mのノード4112〜411Mも原理的には同一の構成となっている。図29に示した光伝送路404からは光信号404が、第1のノード4111の入力側アレイ導波路回折格子素子421に入力されて波長λ1〜λNのNチャネル分の光信号に分波され、各波長λ1〜λNごとに設けられた2入力2出力の光スィッチ4221〜422Nによって、それぞれの波長λ1〜λNの光信号のノード側受信部426に取り込む(drop)と共に、ノード側送信部424から送信した光信号を挿入する(Add)。2入力2出力の光スィッチ4221〜422Nの出力側はそれぞれに対応して設けられたアッテネータ(ATT)4271〜427Nによってゲインを調整された後に出力側アレイ導波路回折格子素子428に入力されるようになっている。出力側アレイ導波路回折格子素子428は入力側アレイ導波路回折格子素子421と逆の構成の素子であり、波長λ1〜λNのNチャネル分の光信号を多重して光伝送路404に光信号405として送り出すことになる。
このように図30に示した第1のノード4111を始めとして、図29に示した第2〜第Mのノード4112〜411Mおよび光マルチプレクサ402ならびに光デマルチプレクサ408は共にアレイ導波路回折格子素子を使用している。したがって、光信号405のチャネル数Nが多くなる要請の下で、アレイ導波路回折格子素子のよりフラットな光周波数特性が求められることになる。
ここでこの変形例で使用されるアレイ導波路回折格子素子としては、図1に示したアレイ導波路回折格子素子61を少なくともその一部に使用することができる。これにより、先に説明した実施例と同様の効果を得ることができる。
最後に以上説明した本発明のスラブ導波路を切断するという技術におけるローランド配置からのずれを考察する。
図31は入力側スラブ導波路の近傍を示したものである。入力側スラブ導波路69の入力導波路74が接続する側の端部である入力スラブの界面はローランド円201の一部を形成している。
所望の光入力位置が矢印203で示す点であるとし、スラブ導波路69を切断線204で示す箇所で切断したとする。入力導波路74が仮に第1〜第5の入力導波路741〜745で構成されているものとして、切断線204の箇所で接着位置を矢印205方向に移動させることで、このうちの第3の入力導波路743を矢印203で示す点まで移動させたとすると、本来のローランド配置からの角度が比較的大きくずれる。しかしながら、入力導波路74がこの例のように複数本で構成されているとすると、矢印203で示す点に最も近い第2の入力導波路742から光を入射してこれをこの点まで移動させることで、角度のずれを小さく抑えることができる。その角度ずれは主に損失値に影響する。
図32は、以上説明したような入力導波路の角度ずれに起因する過剰損失の計算結果の一例を表わしたものである。ここに示した数値は、アレイ状導波路を設計する際の各設計パラメータによって変化することはもちろんである。この図32では、図31に示した第3の入力導波路743に光を入射させてそれを矢印205方向に移動させて中心波長補正を行う場合を示している。波長補正値(Δλ)が大きくなるほど、それぞれに伴う過剰損失が無視できなくなることがわかる。
前記したように図31に示した例では第2の入力導波路742に光を入射させて補正することで、角度ずれに起因する損失を低減することができる。このような手法は、従来技術として示した図34および図35のアレイ導波路回折格子素子の構成では不可能であり、本発明のようにスラブ導波路69で切断して張り合わせたり、あるいは切断した形状同士のものを張り合わせることで初めて可能になる技術である。