JP3952483B2 - 密閉式鉛蓄電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は密閉式鉛蓄電池の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電池の充電中に発生する酸素ガスを負極で吸収させるタイプの密閉式鉛蓄電池のうち、リテーナ式電池は正極板と負極板との間に微細繊維を素材とするマット状セパレータ(例えばガラスセパレータ)を挿入し、放電に必要な硫酸電解液の保持と両極の隔離を行なっている。
【0003】
従来のリテーナ式密閉式鉛蓄電池では、格子体にアンチモンを含まない、鉛−カルシウム系合金を用いている。
【0004】
しかし、鉛−カルシウム系合金は深い放電を含む充放電サイクルを行なった場合、放電時に格子−活物質界面に緻密な絶縁体である硫酸鉛が生成して早期に容量が低下したり、活物質である二酸化鉛粒子間の結合が弱まり活物質が脱落しやすくなる。また、鉛−カルシウム系合金は鉛−アンチモン系合金に比べて非常に軟らかいために格子の伸びによるショートが発生し易い。
【0005】
正極格子体に鉛−アンチモン系合金を用いればアンチモンが格子−活物質界面に生成する腐食層を多孔性にし、また二酸化鉛粒子間の結合力を強固にするために早期容量低下や活物質の脱落はなく、さらに格子の伸びによるショートも起こりにくい。
【0006】
しかし、リテーナ式密閉式鉛蓄電池に鉛−アンチモン系合金を使用すると、アンチモンが充放電中に正極格子体より溶出して電解液中を移動し、負極板上に析出して水素過電圧を低下させるために水分解による水素発生量が増加し、その結果密閉式鉛蓄電池では致命的なドライアップが起こって寿命となってしまう。このため従来の密閉式鉛蓄電池では、正極格子に鉛−カルシウム系合金を用いている。
【0007】
正極格子に鉛−アンチモン系合金を用いて、正極から負極へのアンチモンの移動を防ぐことができれば、サイクル寿命性能の優れた密閉式鉛蓄電池を作製することができる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
溶出したアンチモンの負極への移動を防ぐ方法のひとつとして、アンチモンイオンを捕捉する物質を極間に添加する方法が検討されてきている。アンチモンイオン捕捉材としてリグニンを極間に添加すると正極から負極へのアンチモンの移動を防ぐ効果が大きかった。リグニンは電池の充電中に正極板で酸化されて分解し、格子腐食などの悪影響を引き起こす場合がある。また、負極板周辺に存在するリグニン量が多すぎる場合には、負極板の充電受入低下などの悪影響を引き起こす。このように、極間へのリグニンの添加により電池の寿命は改善されるが、正負極板への影響を小さく抑えてリグニンによりアンチモンの負極への移動を防ぐことができればさらにサイクル寿命性能の優れた密閉式鉛蓄電池を作製することができる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述した事柄に鑑みて、優れた充放電サイクル寿命を有する密閉式鉛蓄電池を提供するもので、その要旨は、鉛−アンチモン系合金よりなる正極格子を用い、かつ正負極板間のセパレータにリグニンを添加したことにある。正極格子に鉛−アンチモン系合金を用いることで、正極板の早期容量低下や活物質の脱落や格子の伸びを防ぐことができ、正負極板間のセパレータ層にリグニンを添加すれば、アンチモンをセパレータ層に捕捉して前述したような水分解の増加を引き起こさないので、密閉式鉛蓄電池の最大の特徴である無保守、無補水という特徴は損なわれない。さらに正負極間のセパレータを2層以上の多層構造にし、正極板に当接するセパレータ層のリグニンの含有量を他のセパレータ層の含有量よりも少なくすれば、電池の充電中の正極板でのリグニンの分解による悪影響が抑えられる。また、負極板に当接するセパレータ層のリグニンの含有量を他のセパレータ層の含有量よりも少なくすれば、負極板周辺のリグニン量の過多による負極板の充電受入低下などの悪影響が抑えられる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は1層構造のセパレータを有するリテーナ式鉛蓄電池、図2は2層構造のセパレータを有するリテーナ式鉛蓄電池、図3は3層構造のセパレータを有するリテーナ式鉛蓄電池の正負極間の断面図である。正負極間のセパレータ層の数は何層であっても、また単層でも同様の効果が認められた。またセパレータ層のうち、どの層のリグニン量を多くしても、極間に含まれる総リグニン量が等しければアンチモン捕捉の効果はほぼ同等であったが、正極、負極に当接するセパレータ層にリグニンを多く添加すると正極格子の腐食や充電受入性の低下などがみられた。
【0011】
また、本発明は、正極格子に鉛−アンチモン系合金、電解液保持体にガラスマットを用いたリテーナ式鉛蓄電池であれば、セパレータの材料がガラス繊維、樹脂繊維、その他複数種類の材料の混抄品など、どのような材料でも同様の効果が認められた。また、セパレータの形状や繊維自身の太さや形状にかかわらず、さらにリグニンの添加方法についても混抄や懸濁液の吹き付け、浸漬等どの方法でも同様の効果、すなわち減液量が少なく長寿命という性能が認められた。
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0013】
【実施例】
(実施例1)
比較を行なうために、表1に示すように正極格子合金として鉛−1.7%アンチモン系合金を用いた、厚さ2.3mmの正極板10枚と、厚さ1.7mmの負極板11枚と、電解液保持体として微細ガラス繊維セパレータを用いた定格容量60Ah(3時間率)のリテーナ式電池を作製した。
【0014】
【表1】
なお、負極格子には、鉛−カルシウム系合金を用いた。記号Aの電池は、電解液保持体の微細ガラス繊維セパレータにリグニンを混抄し、リグニンが電池の極間1cm3 あたり0.05g含まれるようにして製作した。比較のために、極間にリグニンを添加していない、従来の電池(B)も併せて製作した。また正極格子に鉛−カルシウム系合金を用いた電池(C)も比較のために製作した。これらの電池を用いてJISD−5301の寿命試験を行ない、放電容量の推移および減液量を調べた。結果を図4及び図5に示す。放電容量は、試験前の容量を100%として比較したものであり、減液量は試験前を0%として液減少量を重量%で示した。
【0015】
記号Bの電池は、寿命が最も短く、減液量も多かった。これは正極格子より溶出したアンチモンが負極板上に析出して水分解が増加し、電解液量が減少したことがその原因である。記号Cの電池では減液量は少ないものの記号Aの電池に比べ寿命が短かった。これは、アンチモンを含まないために正極活物質が劣化し易かったことおよび鉛−カルシウム系合金は鉛−アンチモン系合金に比べて軟らかいために格子が伸びてショートが起こったことなどが寿命原因となっている。これらに対して、本発明品である正極格子に鉛−アンチモン系合金を用い、リグニンを混抄した微細ガラス繊維セパレータを使用した、記号Aの電池では、寿命サイクル数が最も長く減液量も非常に少ないという結果が得られた。これは、正極格子に鉛−アンチモン系合金を用いているために正極活物質の劣化や格子の伸びが少なかったこと、またセパレータ中のリグニンがアンチモンの正極から負極への移動を阻止したために減液量が少なくなったことなどがその理由である。 しかし、記号Aの電池でも、寿命試験後の電池では、正極格子腐食と負極活物質への硫酸鉛の蓄積が見られた。これらはリグニン混抄セパレータが直接、正負極板に当接していたために起こったと考えられる。そこでこれらの劣化を防ぎ、さらに長寿命化するために以下の実験を行った。
【0016】
(実施例2)つぎに、図1〜3に示すようにセパレータ層が1層、2層、3層の電池で、表2に示すようにリグニンを加えるセパレータ層の位置や添加量を変えて実施例1と同様の試験を実施し、容量が初期の80%になるまでの充放電サイクル数を調べた。結果を図6aおよび図6bに示す。正極格子中のアンチモン含有量が0.5%未満では正極の寿命が短いために、極間に添加するリグニン量に関わらず、早期に電池が劣化した。また、正極格子中のアンチモン含有量が1.7%を越える場合と、正極格子中のアンチモン含有量が0.5以上1.7%以下でかつ極間にリグニンを添加しなかった場合には、正極格子より溶出したアンチモンが負極板上に析出して水分解が増加し、電解液量が減少したために早期に寿命となった。これに対し、正極格子に0.5%以上1.7%以下のアンチモンを含む鉛−アンチモン系合金を用い、正負極板間のセパレータにリグニンが極間1cm あたり0.025g以上含まれている場合には、500サイクルをはるかに凌ぐ寿命性能を示した。
【0017】
【表2】
また、リグニンの添加量を等しくして、添加するセパレータ層を変えた場合には、正極にも負極にも当接しないセパレータ層に添加した、記号Nの電池の寿命が最も長かった。一方、これらの電池を寿命サイクルの前後に調査したところ、記号J、K、Mの電池では寿命後の正極格子の腐食が激しく、このために寿命となっていた。記号L、Oの電池では寿命試験前から負極の硫酸鉛量が比較的多く、負極の容量不足により寿命となっていた。リグニンを多く添加したセパレータ層を正極または負極に当接させると、リグニンによる悪影響が大きいことがわかった。
【0018】
以上の試験結果から、格子に0.5%以上1.7%以下のアンチモンを含む鉛−アンチモン系合金を用い、かつ正極に当接しないセパレータ層にリグニンを添加した電池の寿命性能が他に比べて特に優れていることがわかった。
【0019】
【発明の効果】
上述の実施例からも明らかなように、本発明による密閉式鉛蓄電池は鉛−アンチモン系合金より成る正極格子を用い、正負極板間のセパレータにリグニンが極間1cm あたり0.025g以上含ませ、さらにはセパレータを多層構造にして、正極板や負極板の当接する層のリグニン量を少なくすることにより、従来の密閉式鉛蓄電池の短所を克服することができ、その工業的価値は甚だ大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】1層式セパレータを有するリテーナ式電池の極間の断面図を示した図である。
【図2】セパレータ層を2 層にした例の極間の断面図を示した図である。
【図3】セパレータ層を3層にした例の極間の断面図を示した図である。
【図4】サイクル寿命試験中の容量推移を示す特性図である。
【図5】サイクル寿命試験中の減液量を示す特性図である。
【図6a】サイクル寿命試験中容量が初期の80%になるまでのサイクル数を示す特性図である。
【図6b】サイクル寿命試験中容量が初期の80%になるまでのサイクル数を示す特性図である。
【符号の説明】
1.1層セパレータ
2.2層セパレータ
3.3層セパレータ
4.リグニン添加層
5.正極板
6.負極板

Claims (3)

  1. 密閉式鉛蓄電池において、正極格子に0.5%以上1.7%以下のアンチモンを含む鉛−アンチモン系合金を用い、正負極板間のセパレータにリグニンが極間1cm あたり0.025g以上含まれていることを特徴とする密閉式鉛蓄電池。
  2. 正負極板間のセパレータが2層構造であって、正極板に当接するセパレータ層のリグニンの含有量を他のセパレータの含有量よりも少なくしたことを特徴とする請求項1に記載の密閉式鉛蓄電池。
  3. 正負極板間のセパレータが3層以上の多層構造であって、正極板に当接するセパレータ層と負極板に当接するセパレータ層のリグニンの含有量を他のセパレータ層の含有量よりも少なくしたことを特徴とする請求項1に記載の密閉式鉛蓄電池。
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