JP3950924B2 - 水棲動物に対する有用物質含有リポソームの作製法と投与法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水棲動物に対する有用物質含有リポソームの作製法と投与法等に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、水産生物の養殖現場においては、多種多様の水棲動物が養殖されている。水棲動物には、宿主に応じて、様々な細菌やウイルスが感染することが知られており、そのような病原体による魚病の被害額は毎年甚大に上っている。これまで、水棲動物の細菌感染症に対しては、多種の医薬品が開発・使用されてきた。しかしながら、そのほとんどの医薬品に対して、耐性菌が発生するため、医薬品による治療を行うこと自体が不可能になってきている。
【0003】
また、ウイルス感染症に対しては、研究開発が進められているものの、充分に有効な手段が開発されているとは言い難い。このような現状に対して、ワクチンによる水棲動物病対策が求められてきた。これまでに開発された水棲動物に対するワクチンは、その投与方法によって、大きく三種類に分けられる。すなわち、(1)個々の水棲動物に対して筋肉内または腹腔内に投与する注射ワクチン、(2)ワクチンを含有する液体内に水棲動物を浸漬することで体表や鰓からワクチンを投与する浸漬ワクチン、及び(3)餌等にワクチンを混ぜ込んで投与する経口ワクチンである。これらの投与方法のうち、主として効果の面から、注射ワクチンが主として利用されている。しかしながら、注射ワクチンは、一匹毎に注射を施さねばならないことから、非常の労力がかかることに加え、対象となる水棲動物は僅か5g程度の稚魚であることが多いために煩雑な操作となっていた。また、数百万尾の水棲動物の全てに対して、注射ワクチンを投与することは、実際上は不可能である。
【0004】
このため、水棲動物に対するワクチンとしては、餌にワクチンを混入して摂取させる経口ワクチンが好ましいことから、研究開発が進められている。例えば、特開平6−181656号公報、特開平8−325158号公報には、そのような開発の一例が開示されている。しかしながら、これまでの開発研究にもかかわらず、水棲動物に対してワクチンを腸管から効率よく摂取させることが困難なことから、経口ワクチンの実用化は、一部の例外(例えば、ブリの連鎖球菌症に対する経口ワクチン)を除いて、ほとんど実用化されていない。
【0005】
エビ養殖は世界規模で行われており、特に日本のクルマエビ、東南アジア諸国・中国・インドのウシエビ、中南米諸国のピンクシュリンプが盛んに養殖されている。養殖エビにはバキュロウイルス中腸腺壊死症、イエローヘッド病、タウラシンドロームなど多数のウイルス病が発生し、養殖場では大きな問題となっている。しかし、このような養殖エビのウイルス病に対する有効な手段は現在のところ知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水棲動物等に対して有効に作用し得るリポソームの投与方法、及びそのためのリポソームを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段、発明の作用、及び発明の効果】
本発明者らは、鋭意検討の結果、有用物質とリポソームとを物理的に共存した状態で水棲動物に与えることにより、有用物質がその作用を保持した状態で水棲動物の体内に吸収されることを見出し、基本的には本発明を完成させるに至った。
「有用物質」とは、水棲動物の体内に吸収させることを目的とした物質のことを意味しており、細菌・ウイルスという病原体を意味する。
【0008】
このうち「病原体」には(1)魚類のビブリオ病、エドワジエラ症、運動生エロモナス症、セッソウ病、類結節症、連鎖球菌症、ラクトコッカス症、冷水病、赤点病、細菌性腎臓病、滑走細菌症、抗酸菌症、ノカルジア症などの病気を引き起こす細菌(単独感染および混合感染を含む)を含む。(2)魚類のビルナウイルス、出血性敗血症ウイルス、伝染性造血器壊死症ウイルス、ヒラメラブドウイルス、スプリングバイレミアウイルス、ノダウイルス、ヘルペスウイルス、イリドウイルス、リンホシスチスウイルス、口白症ウイルス、鰓鬱血ウイルスなどを含む。(3)エビなどの甲殻類の中腸腺壊死症バキュロウイルス、イエローヘッド病ウイルス、タウラシンドロームウイルス、MBV病ウイルス、IHHNウイルス、BPウイルスなどを含む。本発明の適用にはこれらの病原体に限定されるものではない。
【0009】
また、病原体が確定されていない症状に対しては、水棲動物の感染症の罹患部ホモジネートを用いることもできる。更に、それらの感染水棲動物から分離された細菌群及びウイルス群も病原体となる。病原体は、主として、抗原として用いられる場合が多く、毒性を弱めた(或いは、消失させた)変異株、失活処理して毒性を消失させた病原体を意味する。また、病原体は、その全体を用いる。また、本発明は、水棲動物の疾患に対して、治療的または予防的のいずれにも用いることができる。また、病原体は、一種類のみを用いる場合の他に、二種類以上のものを混合して用いてもよい。
【0010】
「タンパク質」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合を介して結合したものであり、上記した病原体に含まれるタンパク質の全部または一部の、抗原タンパク質、病原体の抗原に対する抗体タンパク質、病原体致死性因子(例えば、サイトカイン等)等が含まれる。また、タンパク質としては、一種または二種以上のものを含んでも良く、他のアジュバントに結合したものが含まれる。
【0011】
なお、リポソームに含有された有用物質は、タンパク質を含む場合には、ELISA法等の免疫学的方法を用いる等により検出することができる。
【0012】
「リポソーム」とは、リン脂質(PL,phospholipid)を含有する脂質二重層を含み、内部に水相を備えた閉鎖小胞のことを意味する。形態としては、脂質二重層が二層以上の複数に渡ってタマネギ状に重なった多重膜リポソーム(MLV,multilamellar vesicle)と、脂質二重層が一層のリポソームとに分けられる。後者は、更に粒子径によって、小さな単膜リポソーム(SUV,small unilamellar vesicle)と、大きな単膜リポソーム(LUV,large unilamellar vesicle)とに分類される。
【0013】
リン脂質とは、リン酸と脂質とを含む物質を意味し、その構成成分により、グリセロール骨格を有するグリセロリン脂質と、スフィンゴシン骨格を有するスフィンゴリン脂質とに分類される。グリセロリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(レシチンともいう。本明細書中において、「PC」と略記することがある。)、ホスファチジルエタノールアミン(本明細書中において、「PE」と略記することがある。)、ホスファチジルセリン(本明細書中において、「PS」と略記することがある。)、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)、ホスファチジン酸等を例示できる。
【0014】
また、スフィンゴリン脂質としては、例えばスフィンゴミエリンを例示できる。本発明のリポソームを製造するには、上記各種のリン脂質成分を任意の比で混合したものを用いることができるが、PCを主たる成分(例えば、リン脂質全体の約40%〜約100%の割合)とすることができる。また、PCに加えて、PSを添加することが好ましい。詳細な理由は不明であるが、PSを添加することにより、細胞の貪食能が高まり消化管からのリポソームの吸収率が向上するからである。この場合に、PSの混合割合としては、PCの1質量部に対して、約0.1質量部〜約1質量部、好ましくは約0.2質量部〜約0.8質量部、更に好ましくは約0.3質量部〜約0.6質量部とする。なお、本発明のリポソームを調製するに当たっては、リン脂質に加えて、他の成分、例えばタンパク質・核酸・化合物等を予め混合しておくこともできる。
【0015】
「物理的に共存した状態」とは、有用物質とリポソームとが物理的に共に存在している状態を意味しており、「含有」は、リポソームを構成するリン脂質二重膜に有用物質が含まれている状態を言う。
【0016】
「水棲動物」とは、魚類、甲殻類、貝類、腔腸動物などの水産生物の総称である。水棲動物としては、具体的には、サケマス類、ブリ、ハマチ、タイ、ウナギ、アユ、ハタ、シマアジ、ティラピア、ヒラメ、トラフグ、コイ、フナ、ナマズ、クルマエビ、ブラックタイガー、大正エビ、ピンクシュリンプ、ロブスター、二枚貝類、アワビ、イカ、タコ、サンゴ、ホヤ、ナマコ等が例示されるが、これらに限られるものではない。なお、陸上に生息する昆虫類については、エビ・カニと同様の構造を備えていることから、本発明のリポソームを応用できる可能性が非常に高い。
【0017】
「水棲動物に与える」とは、物理的に共存した有用物質とリポソームとを水棲動物に取り込ませることを意味しており、例えば、経口的に取り込ませる(例えば、餌に混ぜて食べさせる。)ことにより、消化管内に取り込ませること、または体表面あるいは鰓を介して液浸的に、有用物質とリポソームとを吸収させる方法が挙げられる。なお、本発明の有用物質とリポソームとは、主として、水棲動物の消化管を介して体内に吸収されることを意図して設計されたものであることから、経口的に与えることが好ましいが、液浸的に与えることもできる。また、経口的に与える場合であっても、一部の有用物質は、体表面または鰓から体内に吸収されることがあり得ることから、水中に与えられた有用物質とリポソームとの一部が経口的に摂取されればよい。
【0018】
「作用を保持した状態」とは、有用物質の全部または一部が、その生物活性を保持した状態で、水棲動物の体内に吸収されるという意味であり、例えば、(1)有用物質が抗原である場合には、抗原提示能を保持している状態、(2)有用物質が抗体である場合には、少なくとも所定の抗原との結合能を保持している状態、(3)有用物質が抗生物質である場合には、所定の抗菌活性を保持している状態等をいう。但し、体内に吸収された全ての有用物質が、そのような作用を保持していることは必ずしも必要ではなく、生物学的に有意である程度の作用を保持していれば足りる。
【0019】
「体内に吸収される」とは、消化管内に取り込まれた有用物質が、その水棲動物の循環系(血管系、またはリンパ系を含む。)に入り込むことを意味している。
本発明によれば、水棲動物等に対して、有用物質の作用を保持した状態で体内に吸収させることができるので、有用な効果を奏することができる。例えば、細菌・ウイルス等の病原体の全部または一部を抗原として投与した場合には、その抗原に対する抗体を生産させて、疾患の予防または治療を行うことができる。また、抗体または医薬品を投与した場合にも、同様に疾患の予防または治療を行うことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0021】
<実施例1:大腸菌含有リポソームのキャラクタリゼーションと抗体産生能>
1.大腸菌形質膜含有リポソームの調製
病原体のモデルとして、大腸菌(E.coli)を用いて、有用物質含有リポソームを調製した。
【0022】
(1)(F−E.coli/PL)−MLV−SUVの調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質及びコレステロール(以下には、「CHOL」と略記することがある。)(PS:PC:CHOL)をスクリューキャップ式試験管に入れ、ロータリーエバポレータでクロロホルムを除去した。リン脂質及びコレステロールのモル比は、1:1:1とした。
【0023】
試験管の壁面に薄膜状となったリン脂質及びコレステロールに対して、フルオレセイン(Fluorescein)で蛍光標識した大腸菌(以下、「F−E.coli」と略記する。)を2.0mg/mL(本明細書中においては、ミリリットルを「mL」と、マイクロリットルを「μL」と記述する。)の濃度に調整した懸濁液300μLと700μLの緩衝液Aとを加え、アルゴンガスで試験管内を充填し、共栓をした。この試験管をボルテックスミキサーで30秒間処理することにより、F−E.coli混合MLVを調製した。このMLVをプローブ型ソニケータを用いて、溶液が透明になるまで超音波処理を繰り返す(より詳細には、約1分間のソニケータ処理と、約1分間の氷中静置処理とを交互に繰り返した。)ことにより、大腸菌形質膜含有SUVを調製した。得られたSUVを4℃にて750xgで5分間遠心分離し上清を採取することにより、SUVを形成しなかった大腸菌及びリン脂質を除去した。
【0024】
(2)(F−E.coli/Rh−PL)−MLV−SUVの調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質、ローダミンで蛍光標識したリン脂質及びコレステロール(PS:PC:CHOL:N-(ローダミンBスルホニル)-ホスファチジルエタノールアミン(N-(rhodamine-B-sulfonyl)-phosphatidyl ethanolamine(Rh-PE))をスクリューキャップ式試験管に入れ、ロータリーエバポレータでクロロホルムを除去した。リン脂質、ローダミンで蛍光標識したリン脂質及びコレステロールのモル比は、1:1:1:0.004とした。以下、上記(1)と同様の処理を行うことにより、(F−E.coli/Rh−PL)−MLV−SUVを調製した。
【0025】
(3)(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUVの調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質及びコレステロール(PS:PC:CHOL)をスクリューキャップ式試験管に入れ、ロータリーエバポレータでクロロホルムを除去した。リン脂質及びコレステロールのモル比は、1:1:1とした。
【0026】
試験管の壁面に薄膜状となったリン脂質及びコレステロールに対して、500μLの緩衝液Aを加え、アルゴンガスで試験管内を充填し、共栓をした。この試験管をボルテックスミキサーで30秒間処理することにより、MLVを調製した。一方、別の試験管に300μLの2.0mg/mLに調整したF−E.coliと200μLの緩衝液Aとを加え、ボルテックスミキサーで30秒間処理した。
【0027】
こうして別々に調製したMLVとボルテックス処理したF−E.coliとを混合し、プローブ型ソニケータを用いて、溶液が透明になるまで超音波処理を繰り返す(なお詳細には、上記1の時間間隔に同じである。)ことにより、大腸菌形質膜含有SUVを調製した。得られたSUVを4℃にて750xgで5分間遠心分離して上清を採取し、SUVを形成しなかった大腸菌及びリン脂質を除去した。
【0028】
(4)(F−E.coli−MLV/Rh−PL−MLV)−SUVの調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質、ローダミンで蛍光標識したリン脂質及びコレステロール(PS:PC:CHOL:Rh−PE)をスクリューキャップ式試験管に入れ、ロータリーエバポレータでクロロホルムを除去した。リン脂質、ローダミンで蛍光標識したリン脂質及びコレステロールのモル比は、1:1:1:0.004とした。
以下、上記(3)の手順と同様の操作を行うことにより、(F−E.coli−MLV/Rh−PL−MLV)−SUVを調製した。
【0029】
2.超音波処理大腸菌(F−E.coli−SUV)の調製
300μLの2.0mg/mLに調整したF−E.coliに対して700μLの緩衝液Aを加え、ボルテックスミキサーで30秒間処理した。このF−E.coliをプローブ型ソニケータを用いて、上記溶液が透明になるまで超音波処理を繰り返す(なお詳細には、上記1の時間間隔に同じである。)ことにより、F−E.coli−SUVを調製した。得られたSUVを4℃にて750xgで5分間遠心分離して上清を採取し、SUVを形成しなかった大腸菌を除去した。なお、後述する他のリポソームまたは、他の病原体試験においては、基本的には、上記した大腸菌形質膜含有リポソームの調製方法に従って、リポソームを調製した。
【0030】
3.ローダミン導入SUV(Rh−PL−SUV)の調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質、ローダミンで蛍光標識したリン脂質及びコレステロール(PS:PC:CHOL:Rh−PE)をスクリュ−キャップ式試験管に入れ、ロータリーエバポレータでクロロホルムを除去した。リン脂質及びコレステロールの質量比は、=1:1:1:0.004とした。
【0031】
試験管の壁面に薄膜状となったリン脂質及びコレステロールに1.0mLの緩衝液Aを加え、アルゴンガスで試験管内を充填した後、共栓をした。この試験管をボルテックスミキサーで30秒間処理して、MLVを調製した。このMLVをプローブ型ソニケータを用いて、溶液が透明になるまで超音波処理を繰り返すこと(より詳細には、約1分間のソニケータ処理と、約1分間の氷中静置処理とを交互に繰り返した)により、SUVの調製を行った。得られたSUVを4℃にて750xgで5分間遠心分離して上清を採取し、SUVを形成しなかったリン脂質を除去した。
【0032】
4.リン脂質の濃度測定
上記の各サンプルについては、適宜リン脂質の濃度を測定した。測定手順は、次の通りである。すなわち、サンプルとコントロール(KH2PO4溶液)のそれぞれについて、0.4mLの10N硫酸を添加した後、ブロックヒータを用いて170℃で30分間以上加熱した。これを室温に放冷した後、100μLの30%過酸化水素水を添加し、再び170℃で30分間以上加熱した。
【0033】
次に、これを室温に放冷した後、サンプルとコントロールのそれぞれの溶液に対して、0.24N硫酸に溶解したモリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O)を4.6mL加えてボルテックスした後、200μLの発色試薬(フィスケ・サバロー試薬)を加えて、沸騰水中で10分間加熱した。最後に室温に放冷した後、サンプルとコントロールの吸光度を830nmで測定することにより、サンプル中のリン含有量を決定した。
【0034】
5.タンパク質の濃度測定
上記の各サンプルについては、適宜タンパク質の濃度を測定した。測定手順は、次の通りである。すなわち、サンプルとコントロール(E.coli)のそれぞれに200μLのブラッドフォード試薬を加えて、ボルテックスした後、吸光度を595nmで測定することにより、サンプル中のタンパク質含有量を決定した。
【0035】
6.作製されたリポソームのキャラクタリゼーション
(1)蛍光エネルギー移動によるキャラクタリゼーション
調製されたリポソームに、大腸菌形質膜とリポソーム膜とが共存しているか否かを以下のようにして確認した。前述のようにして、▲1▼(F−E.coli/PL)−MLV−SUV、▲2▼(F−E.coli/Rh−PL)−MLV−SUV、▲3▼(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUV、▲4▼(F−E.coli−MLV/Rh−PL−MLV)−SUV、▲5▼F−E.coli−SUV、▲6▼Rh−PL−SUV、及び▲7▼F−E.coliとRh−PL−SUVとを別々に調製した後混ぜ合わせたF−E.coli−SUV+Rh−PL−SUV、のそれぞれのサンプルに対するフルオレセインの蛍光スペクトルを励起波長500nmで測定し、その蛍光エネルギー移動と520nmの蛍光強度で評価した。また、リン脂質濃度とタンパク質濃度とを上記の方法により測定した。このリン脂質濃度を用いて、回収されたリポソーム濃度を計算し、タンパク質濃度を用いて、回収された大腸菌濃度を計算した。結果を表1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
次に、蛍光強度について見ると、サンプル1とサンプル2との間、及びサンプル3とサンプル4との間で比較すると、ローダミン標識したリン脂質で作製したリポソームの蛍光強度が、ローダミン標識を施していないリン脂質で作製したリポソームの蛍光強度よりも低い値を示した。また、サンプル2、サンプル4、及びサンプル7を比較すると、サンプル2及びサンプル4のいずれもサンプル7よりも高い蛍光強度を示した。これらの結果は、フルオレセインとローダミンとの間でエネルギー転移が起こったことに依るものと考えられる。すなわち、大腸菌断片とリン脂質との間の距離が、極めて接近していることを示唆するものである。従って、調製されたリポソームは、大腸菌形質膜とリポソーム膜とが物理的に共存していると考えられる。
【0038】
(2)ゲルクロマトグラフィーによるキャラクタリゼーション
次に、上記各サンプルをセファクリルS−1000カラムにアプライし分取した後、各フラクションについて、フルオレセインとローダミンの蛍光強度をそれぞれ励起波長500nm、蛍光波長527nm、及び励起波長575nm、蛍光波長589nmで測定した。図1には、F−E.coli−SUVとRh−PL−SUVとを別々にカラムにアプライし分取した後、前者のフラクションについてはフルオレセインの蛍光強度を、後者のフラクションについてはローダミンの蛍光強度を、それぞれ測定した結果を示した。また、図2には、F−E.coli−SUVとRh−PL−SUVとの二つのサンプルを混合した後にカラムにアプライし分取した後、各フラクションについて、フルオレセインとローダミンの蛍光強度を測定した結果を示した。図1及び図2の両結果共に、フルオレセインとローダミンの蛍光強度のピークは、それぞれ別々の溶出位置に確認された。
【0039】
図3には、(F−E.coli/Rh−PL)−MLV−SUVをカラムにアプライし分取した後、各フラクションについて、フルオレセインとローダミンの蛍光強度を測定した結果を示した。また、図4には、(F−E.coli−MLV/Rh−PL−MLV)−SUVをカラムにアプライし分取した後、各フラクションについて、フルオレセインとローダミンの蛍光強度を測定した結果を示した。図3及び図4のいずれにおいても、ローダミンの溶出位置に、フルオレセインが検出された。
【0040】
これらの結果から、調製されたリポソームは、大腸菌形質膜とリン脂質とが物理的に共存した大腸菌形質膜含有リポソームであると確証された。なお、図3及び図4のいずれの結果についても、フルオレセインのピークについては、ローダミンと同じ位置にみられたピークの他に、F−E−coli−SUVとほぼ一致する溶出位置にピークが確認された。従って、このフルオレセイン単独のピークは、リポソームに含有されなかった大腸菌断片であると判断される。
【0041】
7.コイにおけるリポソームの腸管吸収
(1)NBD導入MLVの調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質及び蛍光標識したリン脂質(PS:PC:N-(7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール-4-イル)-ホスファチジルエタノールアミン(N-(7-nitro-2,1,3-benzoxadiazol-4-yl)-phosphatidylethanolamine(NBD-PE))をスクリューキャップ式試験管に入れ、ロータリーエバボレータでクロロホルムを除去した。各リン脂質成分のモル比は、1:1:0.04とした。
【0042】
試験管の壁面に薄膜状となったリン脂質に対して、緩衝液A(成分は、10mM HEPES/100mM NaCl(pH7.5)である。)を1.0mL加え、アルゴンガスで試験管内を充填した後、共栓をした。この試験管をボルテックスミキサーで30秒間処理することによって、NBD導入MLVを調製した。
【0043】
(2)NBD導入MLVの腸管吸収
前述の方法により調製したNBD導入MLVを一個の餌あたり約10μLとなるようにして混入した後、餌と共にコイに経口投与した。投与から24時間後に、コイの各臓器を蛍光顕微鏡観察した。その結果、図示はしないが、腸管や腎臓など種々の臓器に至るまで蛍光が観察された。このことから、MLVは、コイに経口投与されると、腸管上皮から体内に吸収されることが明らかとなった。
【0044】
8.摂取された大腸菌形質膜含有リポソームに対する抗体産生
(1)大腸菌形質膜含有リポソームの腸管吸収
前述の方法により調整した二種類の大腸菌形質膜含有リポソーム((F−E.coli/PL)−MLV−SUV、及び(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUV)を一個の餌あたり約10μLとなるようにして混入した後、餌と共にコイに経口投与した。投与から24時間後に、コイの各臓器(腸管、脾臓、及び腎臓など)を蛍光顕微鏡観察した。その結果、図示はしないが、種々の臓器に至るまで蛍光が観察された。すなわち、腸管の圧偏標本では、大腸菌形質膜含有リポソーム(以下、抗原として菌体またはウイルスを有用物質として含有したリポソームを「リポソームワクチン」と称する。)が、腸管後部の上皮で取り込まれているのが観察された。また、脾臓の塗末標本においても蛍光が観察され、マクロファージがリポソームワクチンを貪食しているのが観察された。また、腎臓の塗末標本では、尿細管上皮に蛍光が観察された。これらの所見は、腸管上皮から体内に吸収されたリポソームワクチンが、血液を通じて全身に到達したことを証明するものである。
【0045】
(2)リポソームワクチンの抗体産生能
リポソームワクチンの抗体産生能を調べるために、二種類の大腸菌形質膜含有リポソーム((F−E.coli/PL)−MLV−SUV、及び(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUV)、超音波処理のみのF−E.coli−SUV、及び未処理のF−E.coliを摂取させたコイから血清を調製し、この血清に大腸菌生菌を加えたときの凝集体の生成を顕微鏡により観察した。
【0046】
体重約30gのコイを30リットルコンテナ水槽に収容して水温25℃で飼育した。1日のリポソーム投与量は、1匹あたり10μLとした。リポソーム投与は、餌のペレットにリポソームを浸潤させ、その餌を自由摂餌させることにより行った。また、ワクチン投与日以外は、コイに対して通常飼料を給餌した。
【0047】
ワクチン投与プロトコールは、以下の通りである。まず、コンテナ水槽について、(F−E.coli/PL)−MLV−SUV投与区、(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUV投与区、及びF−E.coli−SUV投与区の3区画を設定した。それぞれの区画について、2日間のリポソームワクチンまたはF−E.coli−SUVを投与した。投与最終日から18日目、32日目、及び72日目に各区画のコイを取り出し、ウレタン麻酔下、尾静脈から0.2mLの採血を行うことにより血清を得た。
【0048】
血清内に抗体が産生されている場合には、血清と抗原(大腸菌)とを混合すると抗原抗体反応を起こして、大腸菌が凝集する。血清を順次に2倍希釈した希釈系列を作製し、各希釈サンプルについて、大腸菌を混合した後に、凝集反応の有無を光学顕微鏡を用いて観察した。そのときに凝集反応を誘起可能な最大の血清希釈率を抗体価として、各サンプル間の比較を行った。結果を表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、超音波処理大腸菌(F−E.coli−SUV)の抗体価に比べると、二種類のリポソームワクチンのいずれも高い抗体価を示した。すなわち、(F−E.coli/PL)−MLV−SUV投与区では、18日目には128という高レベルの抗体価が確認され、その抗体価は、32日目及び72日目まで持続された。また、(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUV投与区では、18日目には抗体価の上昇は認められず、32日目には抗体価は128に上昇したものの、72日目には16まで下降した。
【0051】
このことから、本実施形態の2種類のリポソームワクチンは、いずれも良好な抗原として働き、高い抗体価を持つ抗体を産生させる能力を備えているものの、(F−E.coli/PL)−MLV−SUVは(F−E.coli−MLV/PL−MLV)−SUVよりも早く効果が表れ、持続期間も長いことがわかった。このため、以下の実験では、(F−E.coli/PL)−MLV−SUVの製造方法に従ってリポソームワクチンを調製した。
【0052】
<実施例2:病原体に対するリポソームワクチンの効果>
1.リポソームワクチンの調製
クロロホルムに溶かしたリン脂質及びコレステロール(PS:PC:CHOL)をスクリューキャップ式試験管に入れ、ロータリーエバポレータでクロロホルムを除去した。このとき、リン脂質及びコレステロールのモル比は、1:1:1とした。試験管の壁面に薄膜状となったリン脂質及びコレステロールに対して、ホルマリン死菌と緩衝液Aとを加え、アルゴンガスで試験管内を充填し、共栓をした。この試験管をボルテックスミキサーで30秒間処理することによりMLVを調製した。このMLVをプローブ型ソニケータを用いて、溶液が透明になるまで1分間の超音波処理と1分間の氷冷処理とを繰り返すことにより、死菌膜含有SUVを調製した。得られたSUVを4℃にて750xgで5分間遠心分離して上清を採取し、リポソームワクチンを調製した。
【0053】
なお、対照として、細菌ホルマリン死菌のみをボルテックス処理し、超音波処理を行い、4℃にて750xgで5分間の遠心分離を行った後、その上清内にある菌体由来の膜小胞を回収した(以下、この方法で調製された膜小胞を「ベシクル」という)。
【0054】
2.エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)含有リポソームワクチンの効果
コイやウナギの病原体であるエロモナス・ハイドロフィラを用いたコイでの実験を以下のようにして行った。なお、リポソームワクチンは、上記1の方法により調製した。また、コイの飼育方法及びリポソームワクチン、またはベシクルの投与プロトコールは、前述の大腸菌形質膜含有リポソームに対する抗体産生と同様であるため記載を省略する。
【0055】
コイをエロモナス・ハイドロフィラ含有リポソーム(リポソームワクチン)投与区、及びエロモナス・ハイドロフィラベシクル投与区の2区画に分割し、それぞれにリポソームワクチンまたはベシクルを餌に浸漬させて投与した。また、各区画のサンプル数は、それぞれ5匹ずつとした。なお、血清採取及び、抗体価の算出方法は、前述の大腸菌形質膜含有リポソームと同様であるため省略する。
【0056】
結果を表3に示した。また、表下欄の符号は、投与と血液採取の日程を示すものである。すなわち、試験開始から3日間のリポソームワクチンまたはベシクルを投与した後、12日目に血液を採取し、14日目及び15日目に追加抗原(ブースター)の投与を行った。そして、追加抗原投与から8日目、18日目、及び37日目に、血液採取を行ったことを示している。
【0057】
【表3】
【0058】
ベシクル投与区では、いずれの個体についても十分な抗体価の上昇は見られなかった。
一方、リポソームワクチン投与区では、初回の投与後12日目には、全ての個体に高い抗体価(32〜256:平均値121.6)が認められた。また、試験開始から14日目及び15日目に追加抗原を投与し、その投与から8日目および18日目には、抗体価は32〜1024(平均値339.2)と更に上昇した。この抗体価は、追加抗原の投与から37日目には低下していた。なお、NO.4の個体のように抗体価が上昇しないものが見られたのは、リポソームワクチンを浸潤させた餌の摂餌競争に負けたためと思われた。また、NO.1の個体では、追加抗原投与から18日目には、急激に抗体産生効果が低下していた。これは、採血しすぎのため、抗原記憶細胞や抗体産生細胞の数が著しく減少したためと考えられた。
【0059】
3.エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)含有リポソームの効果
次に、エドワジエラ・タルダを用いた実験をヒラメで行った。なお、リポソームワクチンは、上記1の方法により調製した。
ヒラメ養殖場に2区画を設け、それぞれの区画をエドワジエラ・タルダ含有リポソーム(リポソームワクチン)投与区、及びエドワジエラ・タルダベシクル投与区として、1週間の馴致を行った。なお、各区画は500リットル水槽とし、流水海水(水温16℃)にて飼育した。また、各区画には、体重約160gの養殖ヒラメを16尾ずつ飼育した。
【0060】
2.5mLのリポソームワクチンまたはベシクルを通常飼料32個に対してほぼ均等に浸潤させた。この飼料を1匹あたリ2個づつとして、各ヒラメに自由摂餌させる方法で3日間連続してリポソームワクチンまたはベシクルを投与した。その後は、通常飼料のみを給餌して飼育した。
【0061】
ワクチン投与最終日から23日目に各区画から5尾を取り上げ、ウレタン麻酔下でキュビエ氏管から採血した後、血清を分離し、抗体価の測定をした。なお、抗体価の算出方法は、前述の大腸菌形質膜含有リポソームと同様であるため省略する。結果を表4に示した。なお、表中リポソームワクチンAは、エドワジエラ・タルダ含有リポソームを意味している。また、表下欄の符号は、投与と血液採取の日程を示すものである。すなわち、試験開始から3日間のリポソームワクチンまたはベシクルを投与した後、投与終了から23日目に血液を採取し、24日目に生エドワジエラ・タルダによる攻撃を行ったことを示している。
【0062】
【表4】
【0063】
エドワジエラ・タルダベシクル投与区では、5尾のヒラメの抗体価は、4〜16(平均値10.4)であり、十分な抗体価の上昇は認められなかった。
一方、エドワジエラ・タルダ含有リポソームワクチン投与区では、5尾のヒラメの抗体価は、16〜1024(平均値387.2)と非常に高い濃度で抗体が産生されていた。
【0064】
各区画の残りのヒラメ11尾については、24日目にエドワジエラ・タルダの生菌による攻撃実験を行った。菌体による攻撃は、5.9x108CFU/mLに調製したエドワジエラ・タルダを1匹あたり0.2mLづつ筋肉内に接種することにより行った。菌体を接種されたヒラメは、流水海水(水温16℃)で給餌飼育し、発病及び斃死に関する観察を行った。
試験結果を表5に示した。なお、表中リポソームワクチンAは、エドワジエラ・タルダ含有リポソームを意味している。
【0065】
【表5】
【0066】
攻撃実験においては、各区共に生菌を接種されたヒラメは、菌体接種部位に膨大な病巣を形成して、徐々に斃死していった。ベシクル投与区では、菌体接種から6日目から5匹の斃死魚が確認され、7日目には4匹、9日目には2匹の斃死魚がそれぞれ確認された。また、菌体接種から9日目には、100%の斃死率となった。
【0067】
一方、エドワジエラ・タルダ含有リポソームワクチン投与区では、菌体接種から7日目に1匹の斃死魚が確認され、9日目に7匹、10日目に2匹の斃死魚がそれぞれ確認された。菌体接種から10日目までの斃死率は、90.9%であった。また、11匹のヒラメ中、1匹の延命魚が確認された。
【0068】
ベシクル投与区とエドワジエラ・タルダ含有リポソームワクチン投与区とにおいて、菌体接種から10日目までの斃死率を比較すると100%と90.9%であり、一見すると大きな相違は見られないように思われる。しかしながら、エドワジエラ・タルダ含有リポソームワクチン投与区では、ベシクル投与区に比較して、斃死魚の発生日において1日(それぞれ7日目と6日目)の遅延が、また斃死魚の最大数の発生日において3日(それぞれ9日目と6日目)の遅延が認められる。
【0069】
これは、ヒラメの体内に産生された抗体が、エドワジエラ・タルダ生菌に対して作用したことによるものと考えられた。加えて、エドワジエラ・タルダ含有リポソームワクチン投与区では、1匹の生残魚が認められたことから、リポソームワクチン投与によって血清中に高濃度で抗体が産生されると、高濃度の菌量の攻撃にも耐え得ることを示している。
なお、エドワジエラ・タルダの攻撃実験においては、通常には105CFU/mLの菌体を用いるところ、これを大幅に上回る108CFU/mLという高濃度の菌体を用いてしまったために高い斃死率が誘起されたものと考えられた。
【0070】
4.イリドウイルス含有リポソームの効果
養殖魚類の間に大量斃死を引き起こすウイルスであるイリドウイルスを用いて、イリドウイルス含有リポソームワクチンを作成し、このリポソームワクチンを経口投与することにより免疫成立の有無を確認した。
実験には淡水で容易に飼育できるパ−ルグラミー(体重約2.5g)を用いた。パールグラミーをイリドウイルス含有リポソームワクチン投与区(8尾)とリポソーム非投与対照区(9尾)との2区画に分けた。なお、実験に際し水温25℃で、餌つけ馴致した。
【0071】
イリドウイルス含有リポソームワクチンは、上記1の方法によって調製した。このリポソームワクチンを注射筒を用いて、餌のペレットに40μL浸潤させ、パールグラミーに自由に摂取させた。
イリドウイルス含有リポソームワクチンの初回投与から1週間の間隔をあけて2回目の投与を行った。なお、リポソーム非投与対照区には普通餌料のみを与えた。
【0072】
最終のリポソームワクチン投与から1週間後に、両区の個体に対してマダイ由来のイリドウイルスを筋肉注射により接種した。接種したイリドウイルスは、マダイの脾臓500mgをホモジェナイズし、上清を濾過した後、10mMリン酸緩衝液-150mM NaCl(pH7.4)にて10倍に希釈したものを用いた。ウイルス力価は103TCID50/mLのレベルであった。なお、ウイルス攻撃後は両区ともに普通餌料のみを投与した。結果を表6に示した。なお、表中、ワクチンとは、イリドウイルス含有リポソームを意味している。
【0073】
【表6】
【0074】
リポソーム非投与対照区では、イリドウイルスの攻撃から8日後から斃死魚が確認され始めた。斃死魚の数は、8日後に2匹、9日後に2匹、及び10日後に1匹であった。また、対照区における斃死率は、55.6%(5/9)であった。その後、7日間に渡って観察したところ、残った魚は一時期弱っていたが、その後に回復し斃死することはなかった。
【0075】
イリドウイルス含有リポソームワクチン投与区では、イリドウイルスの攻撃から17日間の観察を行ったところ、斃死魚は観察されず、100%(8/8)の生存率であった。このことから、リボソ−ムワクチンには、強力な免疫効果が確認された。リポソームワクチン投与区の実験魚の非発病をさらに確認するために、PCRアッセイを行った。PCRアッセイには、本発明者らにより開発されたATPase遺伝子の一部を増幅するように設計されたプライマーと、メジャーカプシッドプロテイン(以下、「MCP」と略す)遺伝子を増幅するプライマーを用いた。PCR産物を電気泳動した結果、リポソームワクチン投与グループの内臓塊をMCPのプライマーを用いてPCRアッセイを行ったもの、同様の内臓塊にATPaseのプライマーを用いたもの、リポソームワクチン投与グループの脾臓をそれぞれMCP、ATPaseのプライマーにてPCRアッセイを行ったものともにPCR産物は増幅されなかった。但し、攻撃試験に使用したマダイのイリドウイルスからは、明確にPCR産物が増幅された(図5を参照)。この結果から、イルドウイルスに対するリポソームワクチン投与グループは、イリドウイルスに感染していなかったことが確認された。
【0076】
<実施例の効果と考察>
上記各種の実施例に示すように、本発明者らは、極めて高いワクチン能を有する経口投与タイプの病原体含有リポソームの開発に成功した。現在の養殖魚類における細菌感染症に対する水産用ワクチンや抗生物質による対策には種々の問題がある。具体的には、(1)ワクチンを一尾毎に注射するため投与に時間と手間がかかる、(2)ワクチンを経口投与しても効率よく摂取させて抗体を産生させることが極めて難しい、(3)抗生物質などの化学物質の大量投与による魚類の薬漬け問題や環境汚染問題など、が挙げられる。本明細書に開示する発明は、これらの問題をすべて解決できる可能性を持つものである。
【0077】
まず、経口投与という簡単な方法で投与可能であることから、時間と手間とを大幅に短縮することができる。また、本実施例の方法では、一個の餌あたりに極めて少ない量のリポソームを混入させただけで、腸管上皮から体内にその抗原の作用を保持した状態で吸収させて、抗体を産生させることが可能であった。このことから、他の物質(例えば、抗生物質・ホルモン等の医薬品、核酸、その他の化合物)についても、従来の使用量に比べると極めて少ない量で水棲生物に吸収させることが可能であると考えられる。また、低分子量の化学物質(例えば、抗生物質)については、従来の方法では餌からの漏出による環境汚染が心配されるが、本発明の有用物質含有リポソームでは、餌に混じり込んでしまうことから、外部に漏れ難い。このため、薬漬け問題及び環境汚染問題を回避することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 F−E.coli−SUVとRh−PL−SUVとを別々にゲルクロマトグラフィーにかけたときのフルオレセインとローダミンの蛍光強度を示すグラフである。
【図2】 F−E.coli−SUVとRh−PL−SUVとを混合した後にゲルクロマトグラフィーにかけたときのフルオレセインとローダミンの蛍光強度を示すグラフである。
【図3】 (F−E.coli/Rh−PL)−MLV−SUVをゲルクロマトグラフィーにかけたときのフルオレセインとローダミンの蛍光強度を示すグラフである。
【図4】 (F−E.coli−MLV/Rh−PL−MLV)−SUVをゲルクロマトグラフィーにかけたときのフルオレセインとローダミンの蛍光強度を示すグラフである。
【図5】 イリドウイルス含有リポソームワクチン投与区の生存魚の内臓組織に対するPCRアッセイの結果を示す電気泳動写真図である。図中、Visural organは内臓を、Spleenは脾臓を示す。
Claims (3)
- リポソームを構成しホスファチジルセリンを含むリン脂質二重膜に有用物質が含まれているものであって、前記有用物質は、失活処理して毒性を消失させた病原体であることを特徴とする水棲動物用有用物質含有リポソーム。
- 有用物質である失活処理して毒性を消失させた病原体とホスファチジルセリンを含むリン脂質とを溶液中に共存させた状態で超音波処理を行い、リポソームを構成するリン脂質二重膜に前記病原体が含まれている状態をつくることを特徴とする水棲動物用有用物質含有リポソームの作製法。
- リポソームを構成しホスファチジルセリンを含むリン脂質二重膜に有用物質である失活処理して毒性を消失させた病原体が含まれている状態で水棲動物に与えることを特徴とする有用物質含有リポソームの投与法。
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