JP3949080B2 - 電磁ブレーキ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、電磁コイルの磁力によって回転体に制動力を作用させる電磁ブレーキに関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の電磁ブレーキとして以下のようなものが知られている(特許文献1参照。)。
【0003】
この電磁ブレーキは、非回転部材に円筒状の外側極歯ヨークと内側極歯ヨーク(制動体)が同軸に設けられ、これらのヨークの対向面に形成された複数の極歯が円周方向にオフセットして配置されている。そして、前記両ヨークの軸方向の側部には電磁コイルが固定設置され、両ヨーク間の環状隙間には、ヒステリシス材から成る円筒状の回転体が非接触状態で介装されている。
【0004】
この電磁ブレーキは、電磁コイルに対する通電によって両ヨークの極歯間に磁界を生じさせ、このとき極歯間に発生する磁界の向きと、ヒステリシス材(回転体)の内部磁束の向きのずれによって制動力を発生する。
【0005】
【特許文献1】
特許第2862050号明細書
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記の電磁ブレーキは、両ヨーク間の環状隙間に回転体が非接触状態で介装され、ヨーク(制動体)と回転体の両対向面が電磁コイルの磁路の一部とされている。つまり、電磁コイルの発生磁束は一方のヨークからそのヨークと回転体の間のエアギャップを通して回転体に入り、さらにその回転体と他方のヨークの間のエアギャップを通して他方のヨークへとの流れる。
【0007】
このような電磁ブレーキにおいては、電磁コイルの磁路中のエアギャップをできる限り小さくすることが制動トルクを大きくするうえで有効であることが知られている。しかし、この種の電磁ブレーキは、加工精度や組付精度等の関係でエアギャップを小さくするのに限界があり、エアギャップをたとえ充分に小さくできたとしても製造コストの高騰を招いてしまう。このため、従来ではヨークの磁路断面の拡大や電磁コイルのコイル巻数の増加等によって制動トルクの増大を図るようにしており、このことが装置全体の大型化の原因となっていた。
【0008】
そこで、この出願の発明は装置全体の大型化を招くことなく、制動トルクの増大を図ることのできる電磁ブレーキを提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するための手段として、この出願の発明は、磁性材料から成る複数の可動片を、電磁コイルの磁路の一部を成す制動体と回転体の両対向面のうちの一方に、回転体の軸回り方向の変位を規制した状態で相手対向面方向に進退自在となるように保持させるようにした。
【0010】
この発明の場合、電磁コイルが通電されると、その電磁コイルの発生磁束が可動片を通して制動体と回転体の間に流れ、その磁束の流れを妨げるように回転しようとする回転体に対して制動作用が働く。このとき、各可動片は磁力による吸引作用等によって相手対向面方向に変位し、相手対向面に対して接触または近接してギャップが殆どない状態とされる。この結果、電磁コイルの磁束が流れる磁路の抵抗が非常に小さくなり、回転体には大きな制動作用が働くこととなる。また、磁路の一部として機能する可動片は複数設けられ、各可動片は独立して進退作動するため、外乱等によって一部の可動片の接触状態や姿勢が変化しても、他の可動片はその影響を殆ど受けることなく安定して磁路を形成し続けることができる。
【0011】
したがって、この発明によれば、磁路断面の拡大や電磁コイルの巻数増加等による装置全体の大型化を招くことなく、確実にトルクの増大を図ることができる。
【0012】
また、前記可動片の相手対向面に対峙する端部に、先細り状となるように傾斜面を設けると共に、可動片と相手対向面の間に潤滑液を供給するようにしても良い。
【0013】
この場合、電磁コイルの通電によって可動片が相手対向面に接触したとしても、可動片の端部の傾斜面を通して相手対向面との間に潤滑液が確実に入り込むため、潤滑液による皮膜によって摺動抵抗を低減し、可動片と相手対向面の接触部の摩耗を防止することができる。また、この場合、可動片と相手対向面の間に潤滑液が確実に入り込むことから、潤滑液による緩衝作用によって可動片のバタ付きを抑制し、装置の静粛性を高めることができる。
【0014】
前記可動片は転動体によって構成するようにしても良い。
【0015】
この場合、可動片は相手対向面に対して基本的に転動状態で接触することとなり、部材相互の摺動が殆どなくなるため、接触部の摩耗や異音の発生を低減できる。また、このような構成とした場合、可動片が非制動時に相手対向面に接触しても回転体の回転を殆ど妨げることがないため、制動体と回転体を充分に近付けて装置のさらなるコンパクト化を図ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、この出願の発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図6は第1の実施形態を示すものであり、この実施形態はこの出願の発明にかかる電磁ブレーキ1を内燃機関のバルブタイミング制御装置に適用したものである。尚、以下においては、バルブタイミング制御装置は内燃機関の吸気側の動弁系に適用したものとして説明するが、排気側の動弁系に同様に適用することも可能である。
【0018】
バルブタイミング制御装置は、図1に示すように内燃機関の吸気側のカムシャフト2の前端部に結合された従動軸部材3(従動回転体)と、この従動軸部材3に必要に応じて相対回動できるように組み付けられ、チェーン(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に連係される駆動リング4(駆動回転体)と、この駆動リング4の内周側に配置され、駆動リング4と従動軸部材3を相対回動させて両者の組付角を操作する組付角操作機構5と、この組付角操作機構5に操作力を付与する操作力付与手段6と、を備えている。
【0019】
駆動リング4は、全体がほぼ有底円筒状に形成され、その外周に駆動入力用のスプロケット7が一体に形成されると共に、カムシャフト2側に配置された底壁の前面側に、図2,図3に示すように3つの径方向溝8が形成されている。
【0020】
また、従動軸部材3は、図1に示すように、カムシャフト2の前端部に突き合される基部側の外周に拡径部が形成されると共に、その拡径部よりも前方側の外周面に放射状に突出する三つのレバー9が一体に形成されている。各レバー9には、リンク10の基端がピン11によって枢支連結され、各リンク10の先端には前記各径方向溝8に摺動自在に係合する円柱状の突出部12が一体に形成されている。
【0021】
各リンク10は、突出部12が対応する径方向溝8に係合した状態において、ピン11を介して従動軸部材3に連結されているため、リンク10の先端側が外力を受けて径方向溝8に沿って変位すると、駆動リング4と従動軸部材3はリンク10の作用でもって突出部12の変位に応じた方向及び角度だけ相対回動する。
【0022】
また、各リンク10の先端部には、軸方向前方側に開口する収容穴が形成され、この収容穴に、後述する渦巻き溝13(渦巻き状ガイド)に係合する係合ピン14と、この係合ピン14を前方側(渦巻き溝13側)に付勢するコイルばね15とが収容されている。尚、この実施形態の場合、リンク10の先端の突出部12と係合ピン14、コイルばね15等によって径方向に変位可能な可動案内部が構成されている。
【0023】
一方、従動軸部材3のレバー9の突設位置よりも前方側には、円板状のフランジ壁を有する中間回転体16が軸受17を介して回転自在に支持されている。中間回転体16のフランジ壁の後面側には断面半円状の前述の渦巻き溝13が形成され、この渦巻き溝13に、前記各リンク10の先端の係合ピン14が転動自在に案内係合されている。渦巻き溝13の渦巻きは、図2,図3に示すように機関回転方向Rに沿って次第に縮径するように形成されている。したがって、各リンク10先端の係合ピン14が渦巻き溝13に係合した状態において、中間回転体16が駆動リング4に対して遅れ方向に相対回転すると、リンク10の先端部は径方向溝8に案内されつつ、渦巻き溝13の渦巻き形状に誘導されて半径方向内側に移動し、逆に、中間回転体16が進み方向に相対回転すると、半径方向外側に移動する。
【0024】
組付角操作機構5は、以上説明した駆動リング4の径方向溝8、リンク10、突出部12、係合ピン14、レバー9、中間回転体16、渦巻き溝13等によって構成されている。この組付角操作機構5は、後述する操作力付与手段6から中間回転体16に駆動リング4に対する相対的な回動操作力が入力されると、その操作力が渦巻き溝13と係合ピン14の係合部を通してリンク10の先端を径方向に変位させ、このときリンク10が揺動してその揺動量に応じて駆動リング4と従動軸部材3を相対回動させる。
【0025】
一方、操作力付与手段6は、中間回転体16を駆動リング4に対して機関回転方向Rに付勢する付勢手段としてのゼンマイばね18と、中間回転体16を駆動リング4に対して機関回転方向Rと逆方向に相対回動させるこの発明にかかる電磁ブレーキ1と、を備え、ゼンマイばね18の付勢力と電磁ブレーキ1の制動力とのバランスによって中間回転体16を回動操作するようになっている。
【0026】
ゼンマイばね18は、その外周側端部が駆動リング4の円筒部に結合される一方、内周端部が中間回転体16の円筒状の基部に結合されている。
【0027】
電磁ブレーキ1は、非回転部材である図示しないVTCカバーに支持固定されたヨークブロック19(この発明における制動体)と、このヨークブロック19の内部に組み付けられた電磁コイル20と、前記ヨークブロック19の中心側に軸受21を介して回転自在に支持された軸部材22と、この軸部材22の端部に一体に結合され、前記電磁コイル20で発生した磁界による制動力を受ける制動力受け部23と、を備え、この制動力受け部23がゴムブッシュ24と連結ピン25を介して前記中間回転体16に連結されている。
【0028】
前記ヨークブロック19には中間回転体16側に開口する環状凹部26が設けられ、電磁コイル20が通電されたときに、この環状凹部26の内周面27と外周面28とに異磁極が現れるようになっている。また、前記制動力受け部23は、円板状の本体部の外周に円筒状のヒステリシス材29(この発明における回転体)が一体に結合されて成り、そのヒステリシス材29の先端部側がヨークブロック19の前記環状凹部26に挿入されている。環状凹部26の内周面27とヒステリシス材29の外周面30、ヒステリシス材29の内周面31と環状凹部26の外周面28は夫々相互に対向しており、環状凹部26側の周面27,28がこの発明における一方の対向面を構成し、ヒステリシス材29側の周面30,31がこの発明における相手対向面を構成している。
【0029】
そして、環状凹部26の内周面27と外周面28には、図1及び図4,図5に示すように軸方向に延出する複数のガイド溝32,33が円周方向等間隔に形成され、その各ガイド溝32,33に、磁性材料から成るローラ34(転動体,この発明における可動片)が回転可能に、かつ径方向に進退自在となって収容されている。また、各ローラ34はガイド溝32,33に収容されることにより、ヒステリシス材29の軸回り方向の変位を規制されている。
【0030】
環状凹部26の内周面27側のローラ34と外周面28側のローラ34とは相互に円周方向にオフセットするように配置され、電磁コイル20の通電によって異磁極の現れる極歯を成すようになっている。つまり、電磁コイル20が通電されると、円周方向にオフセットした位置関係にあるローラ34,34に異磁極が生じ、これによって法線方向に対して傾斜した向きの磁界が発生する。一方、ヒステリシス材29は磁気的ヒステリシス特性を有するため、ヒステリシス材29の回転中に前記電磁コイル20の通電によってオフセットした位置関係にあるローラ34,34間に磁界が発生すると、その磁界の向きとヒステリシス材29の内部磁束の向きにずれが生じ、そのずれによって磁気的制動作用を受けることとなる。
【0031】
ここで、ヨークブロック19に形成されたガイド溝32,33の軸方向一端側には、図4に示すように磁性材料から成る環状のストッパブロック35,36が配置され、他端側には抜け止めリング37が配置されている。これらはローラ34の軸方向変位を規制するものであるが、抜け止めリング37は、図4〜図6に示すようにヨークブロック19の端面に形成された環状溝38内に収容され、環状溝38の縁部がかしめられる(図中かしめ部は符号39で示す。)ことによってヨークブロック19に固定されている。
【0032】
また、図1に示すように、このバルブタイミング制御装置の内部には、オイルポンプ40から送給された潤滑液を、カムシャフト2の内部を通じて組付角操作機構5と操作力付与手段6の可動部に供給するための供給通路41が設けられている。この供給通路41は、カムシャフト2と従動軸部材3の内部を通過した潤滑液を組付角操作機構5のリンク10の周域空間に導入し、その導入された潤滑液をさらに軸受17の隙間を通して電磁ブレーキ1の軸受21部分とヒステリシス材29の周域部分とに供給する。
【0033】
ヒステリシス材29部分への潤滑液の供給は、図4に拡大して示すように、制動力受け部23の本体部とヨークブロック19の径方向に沿った隙間を通して行われ、潤滑液がヒステリシス材29の内周面に突き当たったところでヨークブロック19の環状凹部26内に入り込む。ここで潤滑液はヒステリシス材29の内周面に沿って軸方向に進み、環状凹部26の底部で折り返した後にヒステリシス材29の外周面側に沿って流れ、環状凹部26の開口端に達したところで外部に排出される。このとき、潤滑液は各ローラ34とヒステリシス材29の接触部の潤滑を行うと同時に、ヒステリシス材29やヨークブロック19、電磁コイル20等の冷却を行う。
【0034】
このバルブタイミング制御装置は以上のような構成であるため、クランクシャフトとカムシャフト2の回転位相(機関弁の開閉タイミング)を進角側に変更する場合には、電磁ブレーキ1に適宜通電することにより、ゼンマイばね18の力に抗する電磁ブレーキ1の制動力が制動力受け部23から中間回転体16にゴムブッシュ24と連結ピン25を介して伝達される。これにより、中間回転体16が駆動リング4に対して逆方向に回転し、それによってリンク10の先端の係合ピン14が渦巻き溝13に誘導されてリンク10の先端部が径方向内側に変位し、このとき、図3に示すようにリンク10の作用によって駆動リング4と従動軸部材3の組付角が進角側に変更される。
【0035】
また、クランクシャフトとカムシャフト2の回転位相(機関弁の開閉タイミング)を遅角側に変更する場合には、電磁ブレーキ1の通電電流をオフまたは微弱にすることにより、中間回転体16がゼンマイばね18の力によって機関回転方向に回転させられる。すると、渦巻き溝13による係合ピン14の誘導によってリンク10の先端部が径方向外側に変位し、このとき、図2に示すようにリンク10の作用によって駆動リング4と従動軸部材3の組付角が遅角側に変更される。
【0036】
ところで、このバルブタイミング制御装置で採用した電磁ブレーキ1は、磁性材料から成る複数のローラ34がヨークブロック19のガイド溝32,33内に進退自在に収容され、そのローラ34が電磁コイル20の通電時に極歯として機能するが、電磁コイル20に通電が為されると、各ローラ34はヒステリシス材29方向に磁気的に吸引され、そのヒステリシス材29の周面30,31に接触することとなる。したがって、この状態では各ローラ34とヒステリシス材29の間にギャップが生じなくなり、ローラ34とヒステリシス材29の間でロスなく磁束が流れることとなる。よって、この電磁ブレーキ1においては、ヨークブロック19や電磁コイル20の大型化を招くことなく充分に大きな制動トルクを得ることができる。
【0037】
また、この実施形態の電磁ブレーキ1は、ヨークブロック19の周面27,28に配置する可動片が転動体であるローラ34によって構成されているため、非制動時にローラ34がヒステリシス材29に接触することがあっても、中間回転体16側に必要外の回転抵抗を付与することがない。さらに、制動時にあってもローラ34はヒステリシス材29に対して転動し摺動することは殆どないため、接触面の摩耗や異音の発生が生じないという利点がある。尚、この電磁ブレーキ1は、あくまで磁気的に制動力を得るものであって接触摩擦によってヒステリシス材29を制動させるものではないため、摩擦抵抗の低減は特に問題になることはない。
【0038】
この実施形態においては、ローラ34とヒステリシス材29の接触部に潤滑液を供給するようにしているため、ローラ34とヒステリシス材29の間の抵抗を非常に小さくすることができる。そして、ローラ34はヒステリシス材29に対峙する部分が先細りになるように円形断面に形成されていることもあり、ヒステリシス材29との接触部分に常時安定して潤滑液を供給することができる。また、ローラ34の周囲に供給された潤滑液は緩衝作用を発揮するため、ローラ34のガタ付きやそれによる異音の発生を防止できるという利点もある。
【0039】
また、この電磁ブレーキ1の場合、ヒステリシス材29との間で磁路を成す各ローラ34が夫々ガイド溝32,33内に収容されて独立して進退作動できるようになっているため、外乱等によって一部のローラ34がヒステリシス材29の周面30,31から離間することがあっても、他のローラ34をヒステリシス材29に対して安定接触させることができる。したがって、この電磁ブレーキ1は、外乱等によって制動性能が変化しにくいという利点がある。
【0040】
この実施形態においては、ヨークブロック19の周面27,28に可動片としてローラ34を進退自在に配置したが、転動可能な可動片として磁性材料から成る球を用いることも可能である。ただし、この実施形態のようにローラ34を用いた場合には、ヒステリシス材29に対する摺動抵抗を低減できるという利点の他、ローラ34が軸長全域でヒステリシス材29に対向することから、ヒステリシス材29との間の磁路断面を充分に確保し、より強力な制動トルクを得ることができるという利点がある。
【0041】
また、この実施形態のように回転体であるヒステリシス材29を円筒状に形成し、そのヒステリシス材29に対向するヨークブロック19の周面27,28にローラ34を軸方向に沿うように配置した場合には、電磁ブレーキ1の外径をより小さくすることができる。
【0042】
また、この発明にかかる電磁ブレーキ1の適用はバルブタイミング制御装置に限るものではないが、この実施形態のようにバルブタイミング制御装置の操作力付与手段6に用いるようにした場合には、小型の電磁ブレーキ1で組付角操作機構5を確実に作動させることが可能であるため、バルブタイミング制御装置全体を小型化して車載性を向上させることができる。
【0043】
つづいて、図7〜図10に示す第2の実施形態について説明する。尚、この第2の実施形態も含め、以下で説明する実施形態では第1の実施形態と同一部分に同一符号を付し、重複する部分については説明を省略するものとする。
【0044】
この実施形態は第1の実施形態と同様に内燃機関のバルブタイミング制御装置に適用したものであり、図示は省略するが、電磁ブレーキ101の制動力受け部23には第1の実施形態と同様の組付角操作機構(5)が連結されている。
【0045】
電磁ブレーキ101は、第1の実施形態と同様にヨークブロック19の環状凹部26に円筒状のヒステリシス材29が挿入され、ヒステリシス材29の外周面30と内周面31に対してヨークブロック19の内周面27と外周面28が対峙している。ヨークブロック19の内周面27と外周面28には夫々軸方向に沿う複数の極歯50,51が円周方向等間隔に形成され、内周面27側の極歯50と外周面28側の極歯51は円周方向でオフセットするように配置されている。そして、内周面27側の極歯50のうちの、円周方向に二つおきに離間したものには、図9,図10に示すように、その先端面中央にガイド溝32が形成され、そのガイド溝32に磁性材料から成る転動体としてのローラ34(この発明における可動片)が収容されている。この各ローラ34は、ガイド溝32にヒステリシス材29の軸回り方向の変位を規制した状態で進退自在に収容され、その状態でヒステリシス材29の外周面30に対して転動可能となっている。
【0046】
一方、ヨークブロック19の外周面28側の極歯51にはガイド溝32やローラ34は設けられておらず、その極歯51はヒステリシス材29の内周面31に所定のギャップを持って対向している。
【0047】
したがって、この実施形態の電磁ブレーキ101の場合、回転体であるヒステリシス材29は外周面30側の一部の極歯50に対して可動片であるローラ34を介して接触し、残余の極歯50,51に対してはギャップを介して対峙している。このため、ローラ34を持たない極歯50,51とヒステリシス材29の間はギャップを介して磁束が流れ、ローラ34を持つ極歯50とヒステリシス材29の間は図10に示すようにローラ34を介して磁束が流れることとなる。また、電磁コイル20が通電されると、ローラ34は磁気的吸引力によってヒステリシス材29方向に変位し、そのヒステリシス材29の外周面に対して確実に接触することとなる。
【0048】
この電磁ブレーキ101は、以上構成を説明したように、ヨークブロック19の内周面27側の極歯50の一部のみに可動片としてのローラ34が配置されているが、少なくともローラ34の在る部分では磁路抵抗が明かに小さくなるため、ローラ34をまったく設けない場合に比較すれば、電磁ブレーキ1の制動トルクは確実に増大する。
【0049】
また、この電磁ブレーキ101は、基本的には第1の実施形態とほぼ同様作用効果を得ることができるが、ヨークブロック19の内周面27側のみにローラ34を配置するため、ヨークブロック19の内,外周面27,28の両方にローラ34を配置した第1の実施形態のものに比較して部品点数を削減できると共に溝加工を少なくでき、これらのことから、より低コストでの製造が可能になるという利点がある。
【0050】
ただし、ヨークブロック19の内,外周面27,28にローラ34を配置した第1の実施形態のものは、ヨークブロック19に対するヒステリシス材29の内外周両側のギャップを無くすことができるため、より強力な制動トルクを得ることができる。
【0051】
図11,図12はこの発明の第3の実施形態を示すものである。この実施形態は第1の実施形態とほぼ同様の構成であるが、電磁ブレーキ201の可動片にローラを用いる代わりに角柱状のブロック55を用いた点で異なっている。
【0052】
即ち、この実施形態の電磁ブレーキ201では、ヨークブロック19の内周面27と外周面28の各ガイド溝32,33に磁性材料から成る角柱状のブロック55を進退自在に収容し、電磁コイル20の通電によってブロック55がヒステリシス材29方向に変位したときに、ブロック55の先端部がヒステリシス材29の周面30,31に摺動自在に接触するようになっている。ただし、各ブロック55は先端部が若干先細り状になるように円周方向両側の角部が面取りされ、第1の実施形態と同様に供給された潤滑液が各ブロック55の先端部に容易に回り込むようになっている。
【0053】
この電磁ブレーキ201は、基本的に第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるが、可動片が角柱状のブロック55で構成されているため、可動片の製造や組付けが容易であるというさらなる利点がある。
【0054】
図13〜図16はこの発明の第4の実施形態である。この実施形態は、上述の他の実施形態と同様に、この発明にかかる電磁ブレーキ301を内燃機関のバルブタイミング制御装置に適用したものであるが、バルブタイミング制御装置の基本構成は第1の実施形態のものと同様となっている。
【0055】
この実施形態の電磁ブレーキ301は、第1の実施形態と同様に、ヨークブロック319(この発明における制動体)が非回転部材である図示しないVTCカバーに固定され、制動力受け部のヒステリシス材329(回転体)が組付角操作機構5の中間回転体16と一体回転可能とされているが、ヒステリシス材329は円板状に形成され、その内周縁部が中間回転体16の軸方向端部にねじ60によって直接固定されている。
【0056】
ヨークブロック319は、全体がほぼ円環プレート状に形成され、その内部に電磁コイル20が収容されると共に、ヒステリシス材329の端面61(この発明における相手対向面)に臨む位置に第1対向面62(この発明における一方の対向面)と第2対向面63が設けられている。第1,第2対向面62,63は、ヨークブロック319の内周縁部と外周縁部に夫々円環平面状に形成され、第1対向面62は第2対向面63に対して凹状に一段窪んで形成されている。
【0057】
そして、第1対向面62の外周縁部には、図14に示すように円弧状の5つの長孔64が形成され、第1対向面62と第2対向面63は隣接する長孔64,64間の狭い連接部65部分だけで直結されている。また、第1対面面62には、放射状に複数のガイド溝66が形成され、その各ガイド溝66に転動体であるローラ34(この出願の発明における可動片)が進退自在に収容されている。各ローラ34は、ガイド溝66内での自由な回転が許容されると共に、ヒステリシス材329の軸回り方向の回転がガイド溝66によって規制されている。
【0058】
また、各ローラ34のガイド溝66からの脱落は、第1対向面62の前面に取り付けられたガイドプレート67によって制限されている。ガイドプレート67は全体がほぼ円板状に形成され、第1対向面62のガイド溝66に対向する位置に放射状にスリット68が形成されると共に、外周縁部に、第1対向面62の長孔64に掛止される爪部69が一体に形成されている。各スリット68の幅は、図16に示すようにローラ34の直径よりも若干狭く設定されている。ガイドプレート67は爪部69を長孔64に掛止させることによって第1対向面62の前面に取り付けられ、スリット68を通して各ローラ34の第1対向面62の前方側への突出を許容すると共に、スリット68の縁部によって各ローラ34の脱落を防止するようになっている。
【0059】
この電磁ブレーキ301の場合、電磁コイル20の発生磁束は、図13中の矢印で示すようにヨークブロック319とヒステリシス材329を磁路として図示断面内を環状に流れる。具体的には、発生磁束は、例えば、ヨークブロック319の外周側の第2対向面63とヒステリシス材329の間のギャップを通ってヒステリシス材329の内部に入り、ヒステリシス材329の端面から複数のローラ34を介してヨークブロック319の内周側の第1対向面62に流れ、さらに電磁コイル20の周域を回るようにヨークブロック31内を流れる。尚、第1対向面62と第2対向面63は連接部65で直結されているが、連接部65の幅はごく狭くなっているため、殆どの磁束はこの連接部65を通らずヒステリシス材329を磁路として流れる。
【0060】
また、バルブタイミング制御装置には第1の実施形態と同様の潤滑液の供給通路41が設けられ、電磁ブレーキ301の第1,第2対向面62,63とヒステリシス材329の間には軸受17を通過した潤滑液が遠心力等によって径方向外側に向かって流れ込むようになっている。
【0061】
この電磁コイル301は、以上構成を説明したように、磁性材料から成る複数のローラ34がヨークブロック319のガイド溝66内に進退自在に収容されているため、電磁コイル20が通電されると、各ローラ34が磁気的吸引作用によってヒステリシス材329方向に変位し、ヒステリシス材329の端面に転動自在に接触することとなる。このようにローラ34がヒステリシス材329に接触すると磁路抵抗が小さくなり、ヨークブロック319の断面や電磁コイル20を大型化することなく、大きな制動トルクを得ることが可能となる。
【0062】
このほか、この電磁ブレーキ301は第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができるが、この電磁コイル301は円板状のヒステリシス材329の端面に対して、ヨークブロック319の第1対向面62を軸方向から対峙させ、その第1対向面62に放射状に形成したガイド溝66にローラ34を進退自在に収容した構成であるため、第1の実施形態のものに比較して電磁ブレーキ301の軸長を大幅に短縮することができる。したがって、バルブタイミング制御装置の軸長も大きく短縮され、内燃機関の車載上非常に有利となる。
【0063】
尚、この発明の実施形態は以上で説明したものに限るものでなく、例えば、上記の実施形態では、相手対向面を成す回転体をいずれもヒステリシス材によって形成したが、ヒステリシス材に限らず鉄系の金属によって形成するようにしても良い。この場合、磁気的ヒステリシス作用は得られないため、電磁ブレーキはほぼ磁気的吸着力のみによって制動効果を得ることとなる。
【0064】
図17は、ヒステリシス材を使用した従来の電磁ブレーキと、第1,第2の実施形態の電磁ブレーキの発生トルク−電流特性を示すグラフである。このグラフからあきらかなように、この発明にかかる電磁ブレーキは従来の電磁ブレーキに比較して通電電流に対する発生トルクが全体に大きくなる。また、ヒステリシス材の内外両面にローラを接触させる第1の実施形態のものは、片面のみにローラを接触させる第2の実施形態のものよりも発生トルクが大きくなる。
【0065】
さらに、相手対向面に鉄系金属を用いた場合には、通電電流の増加に対する発生トルクの立ち上がりが急激になり、より大きな発生トルクを得ることができる。ただし、バルブタイミング制御装置等において、制動トルクを連続して精密に制御しようとする場合には、立ち上がりがやや緩やかとなるヒステリシス材を用いたものの特性の方が望ましい。つまり、立ち上がりが緩やかであれば、通電電流の制御幅が広がり、それだけ制動トルクの制御精度を容易に高めることができる。
【0066】
また、上記の各実施形態は、可動片を制動体側に設けたものであるが、可動片は回転体側に同様に設けるようにしても良い。
【0067】
次に、上記の各実施形態から把握し得る請求項に記載以外の発明について、以下にその作用効果と共に記載する。
【0068】
(イ) 相手対向面側の部材をヒステリシス材によって構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0069】
この場合、通電電流の増加に対する制動トルクの立ち上がりを緩やかにすることができる。したがって、制動トルクの制御を精度良く行うことが可能となる。
【0070】
(ロ) 相手対向面側の部材を鉄系材料によって構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0071】
この場合、通電電流の増加に対する制動トルクの立ち上がりを急にすることができる。したがって、大きな制動トルクを容易に得ることが可能となる。
【0072】
(ハ) 回転体の被制動部の前後に制動体の一対の制動部を配置することにより、または、制動体の制動部の前後に回転体の一対の被制動部を配置することにより、電磁コイルの磁路の一部を成す対向面の対を二組設け、各対向面の対の一方に可動片を設けたことを特徴とする請求項1〜3、前記(イ),(ロ)のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0073】
この場合、回転体の被制動部の前後、または、制動体の制動部の前後で可動片を通した磁束の入出が行われるため、より大きな制動トルクを効率良く得ることができる。したがって、このようにした場合には装置全体をより小型化することが可能となる。
【0074】
(ニ) 前記可動片は一方の対向面に形成された溝内に進退自在に収容されていることを特徴とする請求項1〜3、前記(イ)〜(ハ)のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0075】
この場合、簡単な構成でありながら、可動片の回転方向の変位を規制した状態において、その可動片の進退作動を許容することができる。
【0076】
(ホ) 前記可動片は長手方向に延出する部材であることを特徴とする請求項1〜3、(イ)〜(ニ)のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0077】
(ヘ) 前記転動体はローラであることを特徴とする請求項3に記載の電磁ブレーキ。
【0078】
これら(ホ),(ヘ)の場合、可動片の磁路断面を大きく確保することができるため、大きな制動トルクを得ることが可能となる。
【0079】
(ト) 前記相手対向面は周面であり、一方の対向面と相手対向面は径方向で対向しており、前記複数の可動片は相手対向面の周面に沿うように一方の対向面に配置されていることを特徴とする請求項1〜3、前記(イ)〜(ヘ)のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0080】
この場合、可動片を軸方向に延出させることによって磁路断面の増大を図ることができるため、装置の外径をより小さくすることができる。
【0081】
(チ) 前記相手対向面は平面であり、一方の対向面と相手対向面は軸方向で対向しており、前記複数の可動片は一方の対向面に放射状に配置されていることを特徴とする請求項1〜3、前記(イ)〜(ヘ)のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0082】
この場合、可動片を放射方向に延出させることによって磁路断面の増大を図ることができるため、装置の軸長をより短くすることができる。
【0083】
(リ) 内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動される駆動回転体と、カムシャフト若しくは同シャフトに結合された別体部材から成る従動回転体と、前記駆動回転体と従動回転体に対して相対回動可能な中間回転体を有し、その中間回転体が回動操作されることによって駆動回転体と従動回転体を相対回動させる組付角操作機構と、前記中間回転体を回動操作すべく制動力を付与する制動機構と、を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置において、前記制動機構に用いたことを特徴とする請求項1〜3、前記(イ)〜(チ)のいずれかに記載の電磁ブレーキ。
【0084】
この場合、電磁ブレーキが装置全体の大型化を招くことなく、充分な制動トルクを得ることができるため、バルブタイミング制御装置の車載性が向上する。
【0085】
(ヌ) 組付角操作機構は、駆動回転体と従動回転体のいずれか一方に設けられた径方向ガイドと、前記駆動回転体と従動回転体に対して相対回転可能に設けられ、前記径方向ガイドに対峙する側の面に渦巻き状ガイドを有する中間回転体と、前記径方向ガイドと渦巻き状ガイドに変位可能に案内係合される可動案内部と、前記駆動回転体と従動回転体のいずれか他方のものの回転中心から離間した部位と前記可動案内部とを揺動可能に連結するリンクと、を備えた構成であることを特徴とする前記(リ)に記載の電磁ブレーキ。
【0086】
この場合、組付角操作機構の操作フリクションが非常に小さいうえ、カムシャフト側の変動トルクによって駆動回転体と従動回転体の組付角が変更されにくくなり、電磁ブレーキに要求される制動トルクも小さくなる。したがって、電磁ブレーキを含むバルブタイミング制御装置をより小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の第1の実施形態を示す図5のC−C断面に対応する断面図。
【図2】同実施形態を示す図1のA−A部分の端面図。
【図3】同実施形態の作動状態を示す図2と同様の端面図。
【図4】同実施形態を示す図1のE部分の拡大断面図。
【図5】同実施形態を示す図1のB−B部分の端面図。
【図6】同実施形態を示す図4のD−D断面に対応する拡大断面図。
【図7】この出願の発明の第2の実施形態を示す図8のG−G断面に対応する断面図。
【図8】同実施形態を示す図7のF−F部分の端面図。
【図9】同実施形態を示す図7のI部分の拡大断面図。
【図10】同実施形態を示す図8のJ部分の拡大図。
【図11】この出願の発明の第3の実施形態を示す図12のL−L断面に対応する断面図。
【図12】同実施形態を示す図11のK−K部分の端面図。
【図13】この出願の発明の第4の実施形態を示す図15のN−N断面に対応する断面図。
【図14】同実施形態を示すものであり、ガイドプレートを取り去った図13のM−M部分の端面図。
【図15】同実施形態を示す図13のM−M部分の端面図。
【図16】同実施形態を示す図15のP−P断面に対応する拡大断面図。
【図17】この発明の実施形態と従来例についてのトルク−電流特性図。
【符号の説明】
1,101,201,301…電磁ブレーキ
19,319…ヨークブロック(制動体)
20…電磁コイル
27…内周面(一方の対向面)
28…外周面(一方の対向面)
29,329…ヒステリシス材(回転体)
30…外周面(相手対向面)
31…内周面(相手対向面)
34…ローラ
55…ブロック(可動片)
61…端面(相手対向面)
62…第1対向面(一方の対向面)
Claims (3)
- 回転体が非回転の制動体に対して対向して配置されると共に、その制動体と回転体の両対向面が電磁コイルの磁路の一部とされ、前記電磁コイルへの通電によって回転体に制動力を作用させる電磁ブレーキにおいて、
磁性材料から成る複数の可動片を、前記制動体と回転体の両対向面のうちの一方に、回転体の軸回り方向の変位を規制した状態で相手対向面方向に進退自在となるように保持させたことを特徴とする電磁ブレーキ。 - 前記可動片の相手対向面に対峙する端部に、先細り状となるように傾斜面を設けると共に、可動片と相手対向面の間に潤滑液を供給したことを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ。
- 前記可動片を転動体によって構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁ブレーキ。
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