JP3949075B2 - 吹付け工法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、吹付け直後の急結性が要求される道路、鉄道や導水路等のトンネル工事、石油備蓄タンクや発電所等の地下構造物等の建設工事、及び、コンクリート構造物の吹付け補修工事に広く使用できる吹付け材用組成物、吹付け材、及びそれらを用いた吹付け工法に関する。
【0002】
なお、本発明でいう部や%は特に規定がない限り質量基準である。また、本発明でいうコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの総称である。
【0003】
【従来の技術とその課題】
本発明の吹付け材組成物、吹付け材、及びそれを用いた吹付け工法は、法面、トンネル掘削面、及び切羽等に吹付け施工する等の目的で使用され、吹付け面の崩落を防止するとともに、支保構造物や、法面等の表面保護材等として機能するものである。
【0004】
これまで、吹付け材用の急結剤として、
(1)カルシウムアルミネートを含有した粉体急結剤。
(2)アルカリ金属アルミン酸塩を含有した液体急結剤。
(3)アルカリ金属アルミン酸塩と炭酸塩とを含有した二成分系の急結剤。
(4)アルカリ金属アルミン酸塩、カルシウムアルミネート、及び炭酸塩を含有した三成分系の急結剤。
等が提案されている(特許文献1〜6参照)。
【0005】
これらの急結剤を含む吹付け材は、岩盤等の壁面に吹付けて付着させると数秒〜数十秒程度の短時間で凝結が開始される等の特徴を有するものである。
【0006】
カルシウムアルミネートを主成分とする粉体急結剤を用いる吹付け材は初期のこわばり(以下、凝結性状という)及び長期強度がアルカリ金属アルミン酸塩と比べて優れるため、国内の多くの現場で採用されている。しかしながら、吹付け作業時の粉塵発生やリバウンド率が高いという課題があり、また、大型のトンネル工事等では更なる凝結性状、長期強度の増加や長期にわたる耐久性の向上等が要望されるようになった。
【0007】
一方、アルカリ金属アルミン酸塩を含有してなる急結剤は、液体急結剤として使用することにより粉塵発生量を抑制したり、低アルカリ性の急結剤とすることが可能であるが、初期の凝結遅延が起こることがあり、一時的に初期の水和が停止する擬凝結現象等を起こす場合があった。大規模地下構造物及び大断面トンネルの建設等においては、吹付け材に高強度や高い信頼性が要求されるため、アルカリ金属アルミン酸塩を主成分とする急結剤の使用は敬遠される方向にあった。
【0008】
また、アルカリ金属アルミン酸塩を含有する急結剤は、擬凝結を起こしやすく、凝結性状や強度発現性が不足することがあるため、トンネル壁面に吹付けた吹付け材にダレや変形が生じたり、吹付け厚さが増大して施工コストがかかることがあるという課題があった。
【0009】
また、アルカリ金属アルミン酸塩を主成分とする急結剤の初期の凝結遅延を防止するため、炭酸塩や石膏等の硫酸塩とを混合した急結剤が提案されているが、これまでアルカリ金属アルミン酸塩を主成分とする急結剤では、カルシウムアルミネートを主成分とする急結剤と同程度、あるいはそれ以上の凝結性状や強度発現性を有する急結剤は得られていない。
【0010】
そこで、強度発現性に優れたカルシウムアルミネートを主体とし、アルカリ金属アルミン酸塩やセッコウを含有する急結剤を用いる方法も提案されており、凝結性状や長期強度がカルシウムアルミネートを主体とする粉体急結剤に比べて大幅に改善されているが、この急結剤を用いた吹付け材も、更なる強度特性の向上を求める声が高かった。
【0011】
本発明は、これらの吹付け材に関する課題を解決すべく為されたものであって、特定の結合材及び急結剤等からなる吹付け材を用いることにより、吹付け材の基本特性である長期強度、凝結性状、粉塵発生、及びリバウンド率に優れた吹付け材とすることができると同時に、長期にわたる強度発現性を有する吹付け材が得られることを知見し、本発明を為すに至った。
【0012】
【特許文献1】
特公昭56−27457号公報
【特許文献2】
特公昭60−4149号公報
【特許文献3】
特開昭61−247648号公報
【特許文献4】
特開平01−294554号公報
【特許文献5】
特公平07−25577号公報
【特許文献6】
特開平10−87358号公報
【0013】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、(1)(1−1)〜(1−3)を混合してなる吹付けコンクリートを圧送し、圧送の途中より、(2−1)〜(2−3)を含有する急結剤を、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部に対し 8 20 部を、吹付けコンクリートに混合して吹付ける吹付け工法であり、
(1−1)セメント、
(1−2)セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部中、 (CaO+MgO+Al 2 O 3 )/SiO 2 の重量比で表される塩基度が 1.7 2.1 である高炉水砕スラグ微粉末 5 80 部(高炉水砕スラグ微粉末のブレーン値は 3,000 10,000cm 2 /g )、
(1−3)水、
(2−1) R 2 O/Al 2 O 3 モル比( R はアルカリ金属)が 0.9 1.5 のアルカリ金属アルミン酸塩 100 部、
(2−2)カルシウムアルミネート 100 800 部、
(2−3)急結剤 100 部中 80 10 部の石膏(石膏の pH 3 7
(1)(1−1)〜(1−3)を混合してなる吹付けコンクリートを圧送し、圧送の途中より、(2−1)〜(2−4)を含有する急結剤を、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部に対し 8 20 部を、吹付けコンクリートに混合して吹付ける吹付け工法であり、
(1−1)セメント、
(1−2)セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部中、 (CaO+MgO+Al 2 O 3 )/SiO 2 の重量比で表される塩基度が 1.7 2.1 である高炉水砕スラグ微粉末 5 80 部(高炉水砕スラグ微粉末のブレーン値は 3,000 10,000cm 2 /g )、
(1−3)水、
(2−1) R 2 O/Al 2 O 3 モル比が 0.9 1.5 のアルカリ金属アルミン酸塩 100 部、
(2−2)カルシウムアルミネート 100 800 部、
(2−3)急結剤 100 部中 80 10 部の石膏(石膏の pH 3 7
(2−4)水
吹付けコンクリートの水/結合材比が 30 80% である該吹付け工法であり、吹付けコンクリートにおけるセメントと砂の質量比が、 1:0.5 1:5 である該吹付け工法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に使用する高炉水砕スラグ微粉末は、(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2の重量比で表される塩基度が1.7〜2.1の高炉水砕スラグを粉砕し、微粉末としたものである。
【0016】
高炉水砕スラグ微粉末はブレーン法による比表面積(以下ブレーン値という)で3,000〜10,000cm2/gに粉砕したものが好ましい。また、高炉水砕スラグ微粉末は、不純物量等がJIS A 6206の規格を満たすものが好ましい。高炉水砕スラグ微粉末は、あらかじめポルトランドセメントに混和しても良い。
【0017】
また、高炉水砕スラグ微粉末の塩基度は1.7〜2.1であり、1.8〜2.0のものが好ましい。高炉水砕スラグ微粉末は、塩基度が低すぎたり、粒度が粗いと水和活性が低下し、強度発現性が得られない場合がある。また、高炉水砕スラグ微粉末の塩基度が高すぎる場合は、強度発現性が十分でない場合がある。
【0018】
本発明で使用するセメントは特に限定されないが、ポルトランドセメントを含有することが好ましく、例えば普通、早強、超早強、低熱、又は中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントにフライアッシュ、又はシリカフューム等を混合した各種混合セメント、あるいは、ポルトランドセメントに石灰石粉末等を混合した石灰石フィラーセメント等が挙げられる。
【0019】
高炉水砕スラグ微粉末及びセメントからなる結合材、骨材、及び水などを混練してなる吹付けコンクリートおいて、高炉水砕スラグ微粉末とセメントの混合比率は特に限定されないが、結合材100部中、高炉水砕スラグ微粉末が5〜80部が好ましく、30〜70部がより好ましい。高炉水砕スラグ微粉末が5部未満では充分な長期強度発現性が得られないことがあり、高炉水砕スラグ微粉末が80部を超えると、強度不足となることがある。
【0020】
また、吹付けコンクリートの水/結合材比は特に制限されないが、30〜80%が好ましく、35〜70%がより好ましい。ここでいう水/結合材比とは、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材と、混練水との重量比である。水/結合材比が30%未満では混練が困難となり、80%を超えると十分な長期強度が得られないことがある。
【0021】
吹付けコンクリートにおけるセメントと砂の質量比は特に制限されないが、1:0.5〜1:5程度が好ましい。砂の量がセメントの0.5倍未満ではコスト増の原因となり、セメントの5倍を超えると強度低下の原因となる場合がある。
【0022】
本発明で使用するカルシウムアルミネートは、カルシア原料とアルミナ原料等を混合して、キルンでの焼成や電気炉での溶融等の1,000〜1,600℃で熱処理をして得られる、CaOとAl2O3を主たる成分とする水和活性を有する物質の総称である。
【0023】
本発明で用いるカルシウムアルミネートはCaO及び/又はAl2O3の一部がアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAl2O3を主たる成分とするものに、これらが本発明の目的を阻害しない範囲内で、少量固溶した物質であっても良い。
【0024】
本発明で用いるカルシウムアルミネートは特に限定されず、CaOをC、Al2O3をAと表記したとき、C12A7、及びC3A等の結晶質の化合物や、CaO及びAl2O3を焼成してなるなるガラス等が該当するが、CaOとAl2O3のモル比のCaO/Al2O3比が1.3〜3であるか、あるいは、非晶質であることが好ましく、12CaO・7Al2O3に相当する非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
【0025】
非晶質のカルシウムアルミネートは電気炉で溶解したカルシウムアルミネートのクリンカーを圧縮空気等に接触させて急冷することで得られる。CaO/Al2O3比が1.3未満では長期強度が低下することがあり、CaO/Al2O3比が3.0を超えると過剰な石灰が析出して不純物となるため不経済である。
【0026】
カルシウムアルミネートの粒度は、ブレーン値で3,000cm2/g以上が好ましく、5,000〜8,000cm2/gがより好ましい。カルシウムアルミネートの粒度が粗いと、即ち、ブレーン値が3,000cm2/g未満の場合、急結剤としての反応性が低下し、初期強度発現性も低下する場合がある。また、ブレーン値が8,000cm2/gを超えると、過剰な粉砕動力が必要となる場合がある。
【0027】
カルシウムアルミネートに不純物として含まれる酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化鉄等は少ない方が好ましい。即ち、過剰の酸化ケイ素等は凝結性状不足の原因となることがあり、また、酸化マグネシウムや酸化鉄は、その吹付け材の硬化体に膨張してひび割れ等の原因となることがあるため、カルシウムアルミネート中の酸化マグネシウムや酸化鉄の含有量は各々3%以下であることが好ましく、これらの不純物の合計が10%以下のものが好ましい。これらの不純物が多いとカルシウムアルミネートの水和活性が低下する場合がある。
【0028】
硫酸塩としては、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、及び硫酸アルミニウム等が挙げられ、そのうち、アルカリ土類金属硫酸塩である硫酸カルシウムが最も好ましい。硫酸カルシウムとしては、無水石膏、半水石膏、及び二水石膏等の石膏が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用可能である。また、無水石膏としては、市販の無水石膏の他に、弗酸副生無水石膏や天然無水石膏が挙げられる。これら硫酸塩の中でセメントやカルシウムアルミネートとの反応性から無水石膏が最も好ましく、弗酸副生無水石膏や天然無水石膏等が使用可能である。
【0029】
硫酸塩は初期及び強度発現性を向上させるものである。硫酸塩の含有量が少なすぎたり過剰な場合には、凝結性状及び長期強度が低下することがある。
【0030】
硫酸塩の粒度は、ブレーン値で3,000cm2/g以上が好ましく、5,000cm2/g以上がより好ましい。粒度がより細かい方が急結剤としての凝結性状に優れ、吹付け材の硬化体の強度発現性が優れるため好ましい。硫酸塩の粒度が粗いと、低温施工時の急結性が不足する場合がある。
【0031】
石膏を用いる場合は、石膏の結晶形態や粒度の他、石膏のpHが8以下の、弱アルカリ性から酸性のものが好ましく、pH3〜7のものがより好ましい。pHが8を超えると石膏成分の溶解度が高くなり、初期の強度発現性を阻害する場合があり、pHが3未満では長期保存性低下や強度低下の原因となることがある。また、ここでいう石膏のpHとは石膏/イオン交換水=1g/100g混合物の20℃における希釈スラリーのpHを、イオン交換電極等を備えたpHメーターで測定したものである。
【0032】
アルカリ金属アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウム等が挙げられ、セメントの凝結促進の面やコスト面等からナトリウム塩又はカリウム塩が好ましく、ナトリウム塩が生産性の面からより好ましい。
【0033】
アルカリ金属アルミン酸塩のR2O/Al2O3モル比(Rはアルカリ金属、R=Li、Na、K)は重要であって、0.9〜1.5が好ましく、1.0〜1.25がより好ましい。アルカリ金属アルミン酸塩のR2O/Al2O3モル比が0.9未満では急結性が劣る場合があり、1.5を超えると貯蔵時の潮解性が強くなり、長期にわたり保存した場合、急結剤としての性能が低下する場合がある。
【0034】
アルカリ金属アルミン酸塩の平均粒度は、カルシウムアルミネートや硫酸塩の平均粒度と同等か、細かい方が急結力に優れるため好ましい。アルカリ金属アルミン酸塩は粒度分布より求めた平均粒度が300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下が最も好ましい。
【0035】
アルカリ金属アルミン酸塩の粒度が粗いと所定の急結性を得るための急結剤の添加量を多くせざるを得ず、結果として吹付け材の硬化体の強度が低下する場合がある。
【0036】
また、アルカリ金属アルミン酸塩は液状のものを用いることも可能である。
【0037】
カルシウムアルミネートは急結剤の主成分として凝結を促進し、強度増進にも大きく寄与し、吹付け材の硬化体の機械強度を大きくする機能を有する。カルシウムアルミネートの含有量が少なすぎたり、過剰な場合には、凝結性状及び長期強度が不足する場合がある。
【0038】
アルカリ金属アルミン酸塩は、セメントの初期凝結を促進し、カルシウムアルミネートに混合することにより、急結性と強度発現性を向上し、同時に、高炉水砕スラグ微粉末に対してアルカリ刺激剤として作用して凝結を促進する機能も有している。アルカリ金属アルミン酸塩の含有量が少なすぎたり、過剰な場合には、凝結性状及び長期強度が低下する場合がある。
【0039】
本発明の急結剤におけるカルシウムアルミネート及びアルカリ金属アルミン酸塩の配合比率は特に限定されないが、アルカリ金属アルミン酸塩100部に対してカルシウムアルミネート100〜800部が好ましく、200〜700部がより好ましい。カルシウムアルミネートが100部未満又はカルシウムアルミネートが800部を超えると凝結性状及び長期強度が不足する場合がある。
【0040】
また、急結剤全体に占めるアルカリ金属アルミン酸塩の量は、急結剤100部中2〜30部が好ましく、4〜16部がより好ましい。アルカリ金属アルミン酸塩が2部未満では凝結性が低下し、30部を超えると長期強度が低下する場合がある。
【0041】
また、硫酸塩の配合割合は、特に限定されないが、カルシウムアルミネート及び/又はアルカリ金属アルミン酸塩と硫酸塩からなる急結剤100部中70〜20部が好ましく、60〜40部がより好ましい。硫酸塩の含有量が20部未満か、又は70部を超えると凝結性状及び長期強度が低下することがある。
【0042】
本発明の急結剤はあらかじめ粉砕した粉末状の材料を混合して製造することが可能であり、また、ペレット状や塊状の材料を配合して混合した後、所定の粒度になるように粉砕して製造することも可能であり、また、液状のアルカリ金属アルミン酸塩などを用いても良い。
【0043】
本発明の急結剤の使用量は特に限定されないが、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材100部に対し、通常、4〜20部が好ましく、6〜12部が強度発現性の面からより好ましい。急結剤の添加量が多くなると長期強度発現性が阻害される場合がある。
【0044】
本発明では、必要に応じて生石灰、消石灰、及びアルカリ金属炭酸塩等を、急結剤の一部として適量配合することが可能である。これらを配合することで低温施工時の急結性向上やトンネル湧水部への吹付け施工等がはかれる。
【0045】
本発明で使用する水は、通常、コンクリートに使用される混練り水であって、セメントや急結剤の水和に必要なものである。水の品質は、JIS A 5308や土木学会JSCE-B-101等に規定されている練混ぜ水の品質を満たしたものであれば良く、レディーミクスコンクリート工場等の回収水やスラッジ水もJIS A 5308に準じて使用可能である。水の使用量は施工に必要なコンシステンシーが得られる範囲であることが必要であり、施工機械や細骨材や粗骨材の種類に応じて試験練りを行って決めることが好ましい。
【0046】
細骨材は5mm以下品を使用し、粒径0.15mm未満の微粒分が極力少ないものを用いることが好ましい。0.15mm以下程度の微粒分が多すぎる場合には、吹付けコンクリート混練り後に流動性を充分に保持できなくなったり、圧送性が低下したりする場合がある。
【0047】
粗骨材は、吹付け材としての施工性から、5〜15mm程度のものが使用される。吹付け材においては、細骨材率(s/a比)は55〜80%程度が吹付け時のリバウンドが少なく好ましい。最大粗骨材寸法が15mmを超える粗骨材を使用した場合や細骨材率が55%未満の場合では、吹付けコンクリートが輸送配管内で詰まったり、吹付け時に脈動したりして施工性が悪くなったり、リバウンドが増加する場合がある。また、細骨材率が80%を超えると、吹付けコンクリートの混練り後の流動保持性が低下したり、施工機械での圧送性が低下したりする場合がある
【0048】
本発明では、粉塵低減剤や増粘剤を併用することが好ましい。粉塵低減剤や増粘剤は、吹付け材に粘性を付与し、吹付け時の粉塵低減効果を有し、付着時のダレやリバウンドを減じる効果を有するものである。
【0049】
粉塵低減剤や増粘剤の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロ−ス、及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース類、アルギン酸又はその塩、ビニル重合体、アクリル酸類、メタクリル酸類、ビニルアルコール類、酢酸ビニル類、及びグルカン類等が挙げられ、これらの粉塵低減剤や増粘剤を一種又は二種以上を使用することが可能である。
【0050】
また、粉塵低減剤や増粘剤は、主成分である有機物やポリマー等の存在形態によって、溶液、ラテックス、エマルジョン、又はポリマーディスパージョンなどの形態になるが、いずれの形態でも使用可能である。
【0051】
粉塵低減剤や増粘剤としては、凝結時間への影響が少なく、粉塵低減効果の大きいセルロース類の使用が好ましい。粉塵低減剤や増粘剤は、あらかじめ水溶性にして使用することが可能である。粉塵低減剤や増粘剤の使用量は、急結剤100部に対して5部以下が好ましく、0.5〜3部がより好ましい。
【0052】
また、本発明では、流動化剤、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤を併用することが好ましい。これらの減水剤の中でもナフタレン系、メラミン酸系、ポリカルボン酸系、リグニン系等の高性能減水剤や高性能AE剤は高い減水性とスランプ保持性能に優れており好ましい。これら高性能減水剤や高性能AE剤等を本発明の吹付け材に外割で0.1〜5%程度混和することで流動性やフレッシュ性状を大幅に改善でき、密実な吹付け施工が可能であり、高温下での施工が可能であり、強度確保、及び耐久性の面でも好ましい。これらの減水剤には粉末のものと液状のものがあり、本発明では、いずれも使用可能である。
【0053】
また、本発明の吹付け材ではフライアッシュ、シリカヒューム、又は燃成カオリン等を添加することが好ましい。これらの材料を添加することで吹付け材の硬化体を高強度化したり、膨張特性を付与したりできるため、目的に応じて必要量混和することが可能である。フライアッシュ等は単独添加では混練に必要な水量が増加して強度低下の原因となりやすいため、減水剤と併用することが好ましい。
【0054】
さらに本発明の吹付け材は、タフネスや引張強度を向上させる目的で繊維を補強材として使用することが可能である。繊維としては、一般のコンクリートに添加して使用される鋼繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、及びガラス繊維等が使用可能である。繊維の長さは30mm以下のものが好ましい。繊維の長さが30mmを超えると吹付け時に圧送配管が閉塞しやすくなる場合がある。補強材の配合量は、事前試験により混入量を決定する必要があるが、吹付けコンクリート単位量当たり、0.3〜1.0容積%になるように配合することが好ましい。0.3容積%より少ないと繊維による補強効果が少なく、1.0容積%を超えると施工性が悪くなる場合がある。
【0055】
また、本発明の吹付け材は、必要に応じて遅延剤を併用しても良い。遅延剤は、セメントと混和することで水和を抑制するものの総称であり、大別して、有機系と無機系が知られており、いずれも使用可能である。有機系の遅延剤としては、
(1)リグニンスルホン酸、フミン酸、及びタンニン酸等の高分子有機酸とその塩
(2)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アラボン酸、グルコヘプトン酸、アルギン酸、及びグルコン酸等のオキシカルボン酸と、それらオキシカルボン酸の塩
(3)2ケトカルボン酸や尿素等のケト酸とその塩
(4)グルタミン酸等のアミノカルボン酸とその塩
(5)ポリアルコール類
(6)グルコース、フラクトース、グルコノラクトン、ガラクトース、サッカロース、キシロース、キシリトール、アビトース、リポーズ、及び異性化糖等の単糖類
(7)二〜三糖のオリゴ糖類
(8)デキストリン、ヘミセルロース、イヌリン、キシラン、及びデキストラン等の多糖類等
(9)ソルビトール等の糖アルコール類
などが挙げられる。
【0056】
無機系の遅延剤としては、ホウ酸やリン酸とその塩、フッ化カリウムなどのフッ化物、珪フッ化マグネシウムやケイフッ化ナトリウム等の珪フッ化物、氷晶石やカルシウムフロロアルミネート等のフッ素含有鉱物等が挙げられる。
【0057】
遅延剤の使用量は特に限定されないが、セメント100部中、0.05〜5部が好ましく、0.1〜2部がより好ましい。
【0058】
また、本発明の吹付け材では、発泡剤、気泡剤、pH調整剤、分散剤、安定化剤、防凍剤、及び微粉等の各種添加剤を、一種又は二種以上、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0059】
本発明の吹付け材は、吹付け施工で用いられる乾式吹付け工法や湿式吹付け工法等の工法で使用可能である。
【0060】
湿式吹付け工法とは、バッチャプラント等で高炉水砕スラグ微粉末及びセメントからなる結合材、骨材、及び水などを混練りしてなる吹付けコンクリートをポンプ圧送し、圧送配管の途中より急結剤を吹付けコンクリートに合流混合してノズルから施工壁面に吹付け、急結させて施工する方法である。
【0061】
乾式吹付け工法とは、あらかじめ急結剤、結合材、及び骨材等を混合して空練りして空気圧送し、吹付け直前で水を合流混合し、ノズルから施工壁面に吹付け、急結させて施工する方法である。
【0062】
本発明では、強度発現性や耐久性への影響度の大きい水/セメント比を管理しやすい点から、湿式吹付け工法が好ましい。
【0063】
通常、湿式吹付け工法における吹付けコンクリートの圧送量は約10〜20m3/hであり、吹付け圧力は約0.2〜0.7MPaである。また、混合管から吹付けノズル先端までの長さは吹付けコンクリートの粘性によって適正な長さとする必要があり、一般的には約1〜4mである。
【0064】
【実施例】
実験例1
塩基度1.8の高炉水砕スラグ微粉末40部、セメント60部を混合した結合材、水、及び骨材を混合して水/結合材比=60%、結合材/骨材比=1/3の吹付けモルタルとし、該吹付け結合材100部に対してそれぞれ表1に示す配合の急結剤8部を添加し、5分後におけるプロクター貫入抵抗値及び圧縮強度を測定した。また、比較例として、実験No.1-4の配合で高炉水砕スラグ微粉末を含まない結合材を用いた場合についても、同様に試験を行った。試験環境温度は20℃である。結果を表1に併記する。
【0065】
<使用材料>
高炉水砕スラグ微粉末(う):塩基度1.8、ブレーン値 4,000cm2/g、CaO:38.3%、MgO:5.3%、Al2O3:12.8%、SiO2:31.3%
カルシウムアルミネート :非晶質C12A7、ブレーン値6,000cm2/g
アルカリ金属アルミン酸塩:無水アルミン酸ソーダ粉末、Na2O/Al2O3モル比=1.1/1
硫酸塩 :無水石膏、市販品、ブレーン値6,000cm2/g、pH=5.5
セメント:普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製、ブレーン値 4,000cm2/ g
砂 :新潟県姫川産、表面水4.0%、比重2.61
水 :水道水
【0066】
<測定方法>
プロクター貫入抵抗値:土木学会「急結剤の品質規格(案)JSCE-D102」に準拠し、凝結性状を評価した。
圧縮強度:吹付けモルタル及び急結剤を混合してなる吹付け材を型枠に入れて4×4×16cmの試験片を作製し、JIS A 1108に従い、材齢1日及び材齢28日の圧縮強度を測定した。
高炉水砕スラグ微粉末の塩基度:JIS R 5202(ポルトランドセメントの化学分析法)に準じた元素分析法によってCaO、MgO、Al2O3、SiO2で表される各成分の酸化物換算の含有量を測定した後、(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2の重量比を算出し、これを塩基度とした。
石膏のpH:石膏/イオン交換水=1g/100gの20℃における希釈スラリーのpHを、イオン交換電極等を用いて測定した
【0067】
【表1】
Figure 0003949075
注:BBは高炉水砕スラグ微粉末、NPCは高炉水砕スラグ
微粉末を添加しないセメントであることを示す。
【0068】
実験例2
表2に示した高炉水砕スラグ微粉末40部、セメント60部からなる結合材を用い、水/結合材比=60%、結合材/骨材比=1/3のモルタル配合、塩基度の異なる高炉水砕スラグ微粉末を用いた使用した吹付け用モルタルを作製した。また、カルシウムアルミネート45部、硫酸塩45部、アルカリ金属アルミン酸塩10部からなる急結剤100部を調製した。結合材100部に対し、急結剤8部となるように混合し、圧縮強度を測定した。試験環境温度は20℃である。結果を表2に示す。
【0069】
<使用材料>
高炉水砕スラグ微粉末(あ):塩基度1.6、ブレーン値 4,000cm2/g、CaO:38.4%、MgO:5.3%、Al2O3:12.7%、SiO2:35.3%
高炉水砕スラグ微粉末(い):塩基度1.7、ブレーン値 4,000cm2/g、CaO:38.3%、MgO:5.4%、Al2O3:12.6%、SiO2:33.1%
高炉水砕スラグ微粉末(え):塩基度2.0、ブレーン値 4,000cm2/g、CaO:38.3%、MgO:5.3%、Al2O3:12.4%、SiO2:28.0%
高炉水砕スラグ微粉末(お):塩基度2.1、ブレーン値 4,000cm2/g、CaO:38.3%、MgO:5.7%、Al2O3:13.1%、SiO2:27.2%
高炉水砕スラグ微粉末(か):塩基度2.4、ブレーン値 4,000cm2/g、CaO:38.3%、MgO:5.7%、Al2O3:12.6%、SiO2:37.5%
【0070】
【表2】
Figure 0003949075
【0071】
実験例3
屋外に設置した模擬トンネルに、実験例No.1-4の配合の吹付け材を、混合方法を変えて作製し、該模擬トンネルに吹付け試験を行い、粉塵量を測定した。
【0072】
<使用材料>
吹付け材A:急結剤を、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末の混合物を混合して空練したものを圧送し、水と合流混合させた(乾式混合品)
吹付け材B:水、セメント、及び高炉水砕スラグ微粉末(え)を含有してなる吹付けコンクリートと、乾燥粉状態の急結剤とを合流混合した(湿式混合品)
吹付け材C:急結剤及び水を空気圧送で合流混合し、さらに、水とセメントと高炉水砕スラグ微粉末からなる吹付けコンクリートと合流混合した
【0073】
<測定方法>
粉塵量 :吹付け材を4m3/hの圧送速度で10分間、鉄板でアーチ状に製作した高さ3.5m、幅2.5mの模擬トンネルに吹付けた。10分毎に吹付場所より3mの定位置で粉塵量を測定し、得られた測定値の平均値を示した。
リバウンド率:吹付け材を4m3/hの圧送速度で10分間、高さ3.5m、幅2.5mの模擬トンネルに吹付けた。吹付終了後、付着せずに落下した吹付け材の量を測定し、
(リバウンド率)=(吹付けの際に模擬トンネルに付着せずに落下した吹付け材の重量)/(吹付に使用した吹付け材の重量)×100(%)の式より算出した。
【0074】
【表3】
Figure 0003949075
【0075】
【発明の効果】
本発明の吹付け材は、優れた長期強度及び凝結性状が得られるため、従来の吹付け材に比べて吹付け厚さを低減でき、吹付け作業時間を減少することができ、施工コストが削減できるという特徴を有する。本発明の吹付け材用組成物、吹付け材、及びそれを用いた吹付け工法は、吹付け直後の急結性が要求される道路、鉄道、及び導水路等のトンネル工事、石油備蓄タンク、発電所等の地下構造物等の建設工事、並びに、コンクリート構造物の吹付け補修工事等に広く使用できる。

Claims (4)

  1. (1)(1−1)〜(1−3)を混合してなる吹付けコンクリートを圧送し、圧送の途中より、(2−1)〜(2−3)を含有する急結剤を、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部に対し 8 20 部を、吹付けコンクリートに混合して吹付ける吹付け工法。
    (1−1)セメント、
    (1−2)セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部中、 (CaO+MgO+Al 2 O 3 )/SiO 2 の重量比で表される塩基度が 1.7 2.1 である高炉水砕スラグ微粉末 5 80 部(高炉水砕スラグ微粉末のブレーン値は 3,000 10,000cm 2 /g )、
    (1−3)水、
    (2−1) R 2 O/Al 2 O 3 モル比( R はアルカリ金属)が 0.9 1.5 のアルカリ金属アルミン酸塩 100 部、
    (2−2)カルシウムアルミネート 100 800 部、
    (2−3)急結剤 100 部中 80 10 部の石膏(石膏の pH 3 7
  2. (1)(1−1)〜(1−3)を混合してなる吹付けコンクリートを圧送し、圧送の途中より、(2−1)〜(2−4)を含有する急結剤を、セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部に対し 8 20 部を、吹付けコンクリートに混合して吹付ける吹付け工法。
    (1−1)セメント、
    (1−2)セメント及び高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材 100 部中、 (CaO+MgO+Al 2 O 3 )/SiO 2 の重量比で表される塩基度が 1.7 2.1 である高炉水砕スラグ微粉末 5 80 部(高炉水砕スラグ微粉末のブレーン値は 3,000 10,000cm 2 /g )、
    (1−3)水、
    (2−1) R 2 O/Al 2 O 3 モル比( R はアルカリ金属)が 0.9 1.5 のアルカリ金属アルミン酸塩 100 部、
    (2−2)カルシウムアルミネート 100 800 部、
    (2−3)急結剤 100 部中 80 10 部の石膏(石膏の pH 3 7
    (2−4)水
  3. 吹付けコンクリートの水/結合材比が 30 80% である請求項1又は請求項2記載の吹付け工法。
  4. 吹付けコンクリートにおけるセメントと砂の質量比が、 1:0.5 1:5 である請求項1〜3のうちの1項記載の吹付け工法。
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