JP3948503B2 - 蛍光偏光法による核酸の測定方法およびVero毒素生産菌の検出方法 - Google Patents

蛍光偏光法による核酸の測定方法およびVero毒素生産菌の検出方法 Download PDF

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Description

【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中の核酸の測定において、核酸を遺伝子増幅法により増幅した産物を、蛍光偏光法を利用して迅速に測定する方法に関し、更には該方法によってVero毒素生産菌の有無を迅速に検出する方法に関する。
【0001】
【従来の技術】
近年、遺伝子の本体である核酸を測定する必要性が高まっており、従来の免疫測定法をモデルとして、放射性標識や酵素標識を用いる測定法が研究され一部実用化されている。これらに代表される従来の核酸の測定法はほとんどの場合、不均一系の測定系として構成されている。すなわち測定物質核酸を含む試料と測定に用いる試薬(測定試薬)とを混合し反応させた後、未反応の測定物質または測定試薬を既反応のそれらと分離した上で、標識に起因して発生する信号を計測する方法である。上述の分離操作は通常、B/F分離とよばれる。このようなB/F分離の方法としては、反応容器やフィルム等に固定化されたDNA試薬を用いる方法、磁性微粒子を用いる方法または電気泳動を用いる方法などがあるが、いずれの場合も煩雑なあるいは長時間の操作を必要とする。
【0002】
このようなB/F分離が不要な測定法として、均一系の測定系に適用できる蛍光偏光法が知られている。該方法は、従来から試料中の薬物等の簡便かつ迅速な測定法として知られているが、また同様に、核酸の測定法として応用可能であると考えられている(特開平5−123196号公報など)。
該方法により核酸を測定するためには、検出すべき核酸の塩基配列と相補的な塩基配列を含む核酸に蛍光物質を標識し、これを試薬として用いる。ここで上記試薬を蛍光標識試薬(標識プローブ)とよぶ。通常、該試薬には1本鎖の核酸が用いられる。
【0003】
蛍光偏光法による核酸の測定法のプロセスの例を以下に示す。まず、測定すべき試料に蛍光標識試薬を加える。該試料中に標的とする塩基配列を含む核酸が存在する場合、該試薬にある反応時間で標的とする塩基配列を有する部位と、互いに相補的な配列同士が会合し結合する。この反応をハイブリダイゼーションとよぶ。ここで試料中の核酸は温度あるいは薬品等の処理によって1本鎖の状態に前処理されているものとする。ハイブリダイゼーションにより、蛍光標識試薬が標的とする核酸と結合すると該試薬の見かけ上の分子量は結合前より増大する。一般に溶液中での分子運動は分子量が大きいほど緩慢である。そこで反応前後の蛍光偏光度をモニターすると、ハイブリダイゼーションによる結合後の値は結合前より大きくなる。これは標的核酸とのハイブリダイゼーションにより、蛍光標識試薬の見かけ上の分子量が増大するからである。蛍光標識試薬の量を一定とすれば、この変化の程度は標的とする核酸の量に対応する。そこで反応前後の蛍光偏光度の変化により、標的とする核酸の量を測定することができる。
【0004】
なお通常、蛍光偏光度は、励起側、蛍光側ともに偏光素子をセットし、蛍光側の偏光素子を回転させ励起光の偏光面と平行および垂直の偏光面を有する蛍光を測定することによって得られるので、1分以内の短時間で1回の測定を終了することができる。
以上説明したように、蛍光偏光法はB/F分離操作が不要であり、迅速・簡便な核酸測定法に応用することが可能である。しかし、同法の測定感度は、基本的に蛍光標識物質(ラベル)の検出感度に依存しているため、高感度とはいい難い。一方、たとえば、患者からの検体や食品中の微生物の核酸を測定する場合、その量は微量であることが多く、蛍光偏光法によると感度的に測定困難な場合がある。
【0005】
そこで、これらの微生物や細胞等の核酸を高感度に測定する為には、予めPCR(たとえば、 Erlich, H. A., Gelfand, D. H. and Saiki, R. K. (1988) Specific DNA amplification. Nature 331, 461-462.参照)等の遺伝子増幅法により、微生物の遺伝子(核酸)の量を増幅させておき、これを蛍光偏光法によって測定すればよいだろうということは容易に想像される。また、すでに、蛍光標識したオリゴDNAを遺伝子核酸の増幅用プライマーとして用い、増幅の進行とともに蛍光偏光度が増大することを利用して、核酸を測定する方法も提唱されている(Tamiya, E. and Karube, I. (1993) New Functionality Materials B, 99-104. 参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前項の従来の技術に記したように、DNA等の核酸を測定する場合、感度上の理由から、あらかじめ遺伝子増幅法により核酸の量を増幅し、この増幅産物を蛍光偏光法により測定することが想像される。
しかしながら、デオキシリボ核酸(DNA)を測定した実験によると、測定試料に対して通常のPCR操作(たとえば、 Erlich, H. A., Gelfand, D. H. and Saiki, R. K. (1988) Specific DNA amplification. Nature 331,Nature 331 (1988) 461-462参照)を行い、該産物中のDNAをそのまま蛍光偏光法によって測定した場合、未だに検出感度が不十分であったり、結果の再現性が低い等の問題が見られることがあった。
従って、本発明は、従来の技術の欠点を克服し、試料中の核酸の測定において、核酸を遺伝子増幅法により増幅した産物を、蛍光偏光法を利用して再現性良く、正確かつ迅速に測定する方法、および該方法を用いてO−157等のVero毒素生産菌の有無を迅速に検出する方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)試料中の核酸を遺伝子増幅法によって増幅し、該増幅産物中の核酸の量を蛍光偏光法によって測定する方法において、該遺伝子増幅に際して、非対称増幅法を用い、蛍光標識試薬の増幅産物核酸への結合を容易にすることを特徴とする蛍光偏光法による核酸の測定方法。
(2)非対称増幅法により試料中の核酸を増幅するに際し、蛍光標識試薬が相補的に結合する塩基配列を有する側の1本鎖核酸を選択的に増幅することを特徴とする前記(1)の蛍光偏光法による核酸の測定方法。
【0008】
(3)試料中の核酸を遺伝子増幅法によって増幅した後、プライマーのアニール処理を行い、蛍光標識試薬の増幅産物核酸への結合を容易にすることを特徴とする蛍光偏光法による核酸の測定方法。
(4)前記増幅産物および蛍光標識試薬を含む反応溶液中の無機酸塩または有機酸塩の塩濃度を0.01〜5mol/リットルの範囲で維持することを特徴とする前記(1)または(3)の蛍光偏光法による核酸の測定方法。
(5)塩濃度の範囲を0.05〜3mol/リットルとすることを特徴とする前記(4)の蛍光偏光法による核酸の測定方法。
【0009】
(6)前記(1)〜(5)のいずれかの方法を用いたVero毒素生産菌の検出方法。
(7)AGTATCGGGGAGAGGATGGTGTC の塩基配列で表されるDNA(配列番号1)をプローブとして使用することを特徴とする前記(6)のVero毒素生産菌の検出方法。
(8)AGTATCGGGGAGAGGATGGTGTC の塩基配列で表されるDNA(配列番号1)。
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、通常のPCR法で得られる核酸増幅産物をそのまま蛍光偏光法によって測定した場合の不都合な理由として、以下のことを推測した。
即ち、通常のPCR法で得られる核酸増幅産物は、完全な2本鎖がほとんどであり、これに対して、蛍光偏光法で用いる蛍光標識試薬は、基本的には比較的短い1本鎖である。サンプル中のこれより長い2本鎖核酸を熱処理等により変性させ一本鎖とし、次いで該蛍光標識試薬と、これと相補的な塩基配列を有する側の1本鎖核酸とのハイブリダイゼーションを試みると、該蛍光標識試薬と相補的な塩基配列を有さない側の1本鎖核酸が、該蛍光標識試薬と競合し、エネルギー的にハイブリダイゼーションが困難になると考えられる。
以上のように、蛍光偏光法を応用した核酸の測定法において、通常知られているPCR等の遺伝子増幅法と蛍光偏光法を単に組み合わせても、核酸を再現性よくかつ高感度に測定することは期待できなかった。
【0011】
しかし、本発明の如く、遺伝子増幅に際して非対称増幅法を用い、蛍光標識試薬が相補的に結合する塩基配列を有する側の1本鎖核酸を選択的に増幅することにより、該1本鎖核酸が他方の1本鎖核酸よりも多くなり、該蛍光標識試薬のこれと相補的に結合する塩基配列を有する側の1本鎖核酸へのハイブリダイゼーション効率を向上することができると考えられる。
また、別の本発明の如く、核酸を遺伝子増幅法によって増幅し熱処理等により変性させ一本鎖とした後、該増幅に用いたプライマーのアニール処理を行うことにより、蛍光標識試薬をハイブリダイゼーションさせる時に、変性させた一本鎖核酸同士がハイブリダイゼーションすることを避け、該蛍光標識試薬のハイブリダイゼーション効率を向上することができると考えられる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明でいう核酸とは、一般的にDNA(デオキシリボ核酸)またはRNA(リボ核酸)を示す。
非対称増幅法とは、2本鎖からなる複製元の核酸の、ある1本鎖側の配列のみを選択的に増幅するか、ある1本鎖側の配列を他の1本鎖側の配列よりも多くなるように増幅する方法である。
【0013】
通常のPCRでは、測定試料に2種類のプライマーを等量添加し、DNAの複製反応を連鎖的に行う。通常、複製元のDNAは2本鎖であるため、複製されるDNAもほとんどは2本鎖となる。これに対し、非対称増幅法によると、2種類のプライマーのうちの1種のみを添加するか、あるいは、2種類のプライマーのうち1種のプライマーの量をもう1種のプライマーの量より多く添加して行う(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85(1988) 7652-7656 参照)。一例として、2種類のプライマーの量を2〜10倍の比率で変化させることで、非対称増幅法を行うことが好ましい。
【0014】
また、試料中の核酸を遺伝子増幅法によって増幅した後、増幅に用いたプライマーのアニール処理を行うためには、増幅した核酸を変性させ一本鎖とする必要がある。核酸を変性するためには、約100℃の加熱処理やアルカリ剤等による従来公知の方法が挙げられる。
プライマーのアニール条件は、その塩基数の長さによっても異なるが、増幅の操作時に何度も繰り返し行った条件と同様で構わない。
【0015】
核酸を測定する方法としては、下記具体例がある。
A.(1)蛍光標識された1本鎖核酸プローブを(2)試料と混合し、2本鎖形成前の蛍光偏光度と該2本鎖形成後の蛍光偏光度との変化を測定することにより、試料中の核酸に存在する、上記1本鎖核酸プローブに相補的に対応する塩基配列を測定する方法。
【0016】
B.(1)試料中の測定対象核酸および(2)該測定対象核酸と相同な塩基配列を有する蛍光標識された1本鎖核酸プローブを、(3)該測定対象核酸と相補的な塩基配列を含む核酸を固定化担体に結合させた固定化試薬に対して競合させて、2本鎖DNAまたはDNA−RNAを形成させ、該2本鎖形成前の蛍光偏光度と該2本鎖形成後の蛍光偏光度との変化を測定することにより、試料中の核酸に存在する、上記1本鎖核酸プローブに対応する塩基配列を測定する方法。
【0017】
C.(1)試料中の測定対象核酸および(2)試料中の測定対象核酸と相同な塩基配列を有する核酸を固定化担体に結合させた固定化試薬を、(3)検体中の測定対象核酸と相補的な塩基配列を有する蛍光標識された核酸プローブに対して競合させて、2本鎖DNAまたはDNA−RNAを形成させ、2本鎖形成前の蛍光偏光度と2本鎖形成後の蛍光偏光度の変化を測定して、試料中の核酸に存在する、該核酸プローブに相補的に対応する塩基配列を測定する方法。
【0018】
本発明では試料中の核酸と蛍光標識試薬とのハイブリダイゼーション反応を行わせるに際し、蛍光標識試薬の混合前あるいは混合後に、無機酸塩または有機酸塩を添加し、ハイブリダイゼーションを、0.01〜5mol/リットル以上、好ましくは0.05〜3mol/リットルの濃度の無機酸塩または有機酸塩を含む溶液中で行なう。0.01mol/リットル未満であると、ハイブリダイゼーションが飽和に達するのにおよそ30分以上必要とし、実用に適さない。また多くの場合、無機酸塩または有機酸塩は5mol/リットルを越えて溶解させることは難しい。
【0019】
本発明における無機酸塩としては、塩酸、炭酸またはリン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩などがあり、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛等の塩化物または炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明における有機酸塩としては、酢酸、クエン酸、安息香酸またはフェノールのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩などがある。
【0020】
上記塩は溶液中の塩濃度が0.01〜5mol/リットルとなるように添加する。そのためには、測定試薬または測定試料のいずれかあるいは両方に予め上記塩を添加してもよい。また測定試薬または測定試料を塩を含む緩衝液等によって希釈して用いてもよい。また測定試薬と測定試料を混合した後、塩を含む溶液等を添加してもよい。なお一般に塩の解離定数は非常に大きいので、これらの塩を溶液に添加した場合、ほとんどが陽イオン、陰イオンに解離した状態で存在する。
【0021】
本発明において使用する蛍光標識としては、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネートなどがある。核酸に蛍光物質を結合させる方法としては、例えばチオカルバミド結合などの共有結合によるものがある。例えばDNA(24塩基)をホスホアミダイト法によって合成し、蛍光標識、例えばフルオレセインを標識する。
本発明に使用する蛍光標識試薬としては、塩基数は20ないし30塩基程度あれば、ある特定の遺伝子を特異的に検出できる(たとえば、Eur. J. Clin. Microbiol. Infect, Dis., 10 (1991) 1048-1055 ; Nei, M. and Li, W. H. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 76(1979), 5269-5273 参照)。
【0022】
本発明における試料中の核酸としては、例えば血清、尿、各種培養液などの測定試料における細菌、ウイルスなどの核酸、または組織細胞やそれらの遊離核酸などがある。
試料中の核酸と蛍光標識試薬とのハイブリダイゼーション反応を行う緩衝液としては、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などがある。該緩衝液には無機酸塩または有機酸塩のほかに、アジ化ナトリウムやEDTA等を含んでいてもよい。
【0023】
本発明に使用する担体としては、ポリスチレン、ナイロンなどの合成樹脂のビーズ、ラテックス粒子、ガラスビーズやAu、Agなどの金属粒子などが挙げられる。またタンパク質などの高分子物質を用いることもできる。固体担体の分子量は、蛍光偏光法の原理に基づき、相補核酸の分子量が蛍光標識核酸の分子量に対して十分に大きくなるように選択される。固定化担体の分子量は蛍光標識核酸の分子量よりも5倍以上であることが好ましい。
核酸を固定化担体に結合させる方法としては、吸着法、共有結合法、アビジンとビオチンとの特異的結合を利用する方法などがある。
【0024】
以下に蛍光偏光測定の原理について簡単に説明すると、光源から出る光はフィルターによって試薬に含まれる蛍光物質の励起波長に濾過され、偏光板によって直線偏光とされる。この励起波長の偏光は測定物質(サンプル)を入れたセルに投射され、サンプル中の蛍光物質を励起する。励起された蛍光物質は、物質に応じた波長の蛍光を発するが、この際ブラウン運動の激しさに対応して、該蛍光は偏光面の分散を起こす。該蛍光はその波長を透過するフィルターを透過し、偏光板を透過し、光検知器によって電気信号に変換される。偏光板を回転することにより、サンプルの蛍光に対して励起偏光と同じ向きの偏光成分Iaとこれと垂直の偏光成分Ibを求める。これらの値を用いて、次に示す測定物質の蛍光偏光度Pが求められる。
【0025】
【数1】
Figure 0003948503
【0026】
Iaは励起偏光と同じ向きの偏光成分を示す。Ibは上記Iaに垂直な偏光成分を示す。
この場合、蛍光物質または蛍光物質を結合する物質のブラウン運動が激しいほど、励起偏光と垂直な向きの偏光成分Ibは大きく、同時にこれと平行の偏光成分Iaは小さくなり、したがってPは小さくなる。
【0027】
本発明では、サンプルセルに蛍光標識(蛍光標識相補)核酸を含む溶液を入れ、測定対象核酸を含む溶液を加え、続いて必要により固定化相補(固定化)核酸断片を含む溶液を加える。ただし、これらの2(必要により3種)の溶液を加える順序は限定しない。しかし試料中の核酸と蛍光標識試薬とのハイブリダイゼーション反応を行わせるに際し、蛍光標識試薬の混合前、同時あるいは混合後に、無機酸塩または有機酸塩を添加する。加える蛍光標識核酸および固定化核酸(必要により)の濃度は、測定対象核酸の測定濃度範囲に応じて適切に選択される。
【0028】
また本発明においては、蛍光標識(蛍光標識相補)核酸は、測定対象の核酸に特異的に結合させるために用いられるのであり、同様に、核酸に対して特異的に結合する性質を有する物質、例えばPNA(peptide nucleic acid, PerSeptive Biosystems, U.S.A.)等に蛍光物質を標識し、これを蛍光標識核酸の代替として用いることも原理的に可能である。
ただし、蛍光偏光法は蛍光偏光解消法とよばれることがあるが、事実上同じ方法を意味すると考えてよい。また、多くの場合それぞれの指標として用いられる蛍光偏光度および蛍光偏光解消度に関しても同様である。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例では、昨夏より社会的問題となった、O−157を中心とする病原性大腸菌(Vero毒素(VT2)生産菌)の迅速測定のために使用することを試みた。
【0030】
〔実施例1〕
試料中の核酸を非対称PCR法を用いて増幅したものと、通常のPCR法を用いて増幅したものとを、それぞれ蛍光偏光法によって測定し、そのデータを比較した。一例として、プライマーの塩基配列は、Lin Z, et al : Microbiol Immunol 37 : (1993) 543-548, に従い、配列表の配列番号2および配列番号3にそれぞれ示すものとした。増幅区間の長さは905塩基である。
検体試料を、非対称PCR法および通常のPCR法にてそれぞれ増幅した後、蛍光偏光法によって核酸量の測定操作を行った。
検体試料としては、広島市中央卸売市場において採取され、腸管出血性大腸菌O−157が検出されたとされる牛由来のサンプルを、42℃ブイヨン培地にて約24時間増菌培養した後、100℃にて熱処理したものを用いた。
【0031】
非対称PCR法の条件を以下に示す。
1.使用機器
PERKIN ELMER GeneAmp PCR System 9600, MicroAmp Reaction Tube(0.2ml)
2.PCR反応液組成
高温性DNAポリメラーゼであるTakara Ex Taq(Code No.RR001A) を用い、以下の表1に示す組成でPCR反応を行った。
【0032】
【表1】
Figure 0003948503
【0033】
なお、プライマーaおよびbの配列を、配列表の配列番号2および配列番号3にそれぞれ示す。
3.PCR反応サイクル
94℃、1分間の熱変性により増幅対象DNAの1本鎖化を行い、次いで下記の▲1▼〜▲3▼の操作を40サイクル行った後、氷冷(4℃)した。
▲1▼熱変性による1本鎖化;94℃,30秒間、
▲2▼プライマーaおよびbの増幅対象DNAへのアニーリング;45℃,30秒間、
▲3▼Taq ポリメラーゼによるDNAの伸長;72℃,1分間、
なお、通常PCR法の条件は、PCR反応液組成において、プライマーbおよび蒸留滅菌水の量を、それぞれ1μlおよび78.5μlとした以外は、前記非対称PCR法の条件と同じである。
【0034】
蛍光偏光度の測定は、前記の増幅法により得られた遺伝子増幅サンプル80μlと蛍光標識試薬400μlとを混合し、10分後の蛍光偏光度を測定した。
なお蛍光標識試薬は、以下のように調製した。
腸管出血性大腸菌の有するVero毒素(VT2)の遺伝子の1部の塩基配列である、23塩基長のオリゴヌクレオチド(配列表の配列番号1に示す)をDNA合成装置により合成し、この合成オリゴヌクレオチドの5’末端にフルオレセイン標識を行った。この蛍光標識オリゴヌクレオチドを,TE緩衝液(10mMTris−HCl(pH8.0),1mM EDTA,0.8M NaCl)で濃度1nMに希釈し、蛍光標識試薬を調製した。
【0035】
なお、コントロール1として、検体試料核酸量と同等量のサケ精子DNAを含む試料溶液を前記と同条件で非対称PCR増幅操作を行い、前記と同条件の蛍光偏光法による核酸量の測定操作を行った。なお、O−157陰陽性試料の判定は、別途、従来の培養法により確認している。
また、コントロール2として、前記検体試料を全く増幅処理を行わず、前記と同条件の蛍光偏光法による核酸量の測定操作を行った。
検体試料は、食品サンプルより採取後、約24時間の増菌培養を行っている。なお、蛍光偏光法による核酸量の測定は、すべて、同一試料に対し3回の試験を行った。
【0036】
図1に、1)非対称PCRを行った検体試料、2)通常PCRを行った検体試料、3)コントロール1、4)コントロール2のそれぞれのサンプルの蛍光偏光度の時間変化を測定したグラフを示す。その結果、図1から、前記1)〜4)のそれぞれのサンプルの蛍光偏光度値は、測定開始(蛍光標識試薬の試料核酸へのハイブリダイゼーション開始)から10分程度で安定し、その値の差異が明確になることが分かった。
【0037】
また、前記1)〜4)のサンプルの、測定開始から10分後の蛍光偏光度値を図2に示す。この結果から、コントロール1および2では、蛍光偏光度の上昇が全く認められず、また、通常のPCR法を用いて増幅を行った場合には、コントロール2よりも高い蛍光偏光度が得られたが、非対称PCR法を用いた場合の値に及ばないことが認められた。
この事から、非対称PCR法により試料中の核酸を増幅した場合、蛍光偏光法による測定の感度が良くなるということが分かる。
【0038】
また、遺伝子増幅の結果を電気泳動法によって確認した例を図3に示す。
レーン1はO−157陽性試料を通常PCR法で増幅したもの、レーン2はO−157陽性試料を非対称PCR法で増幅したもの、レーン3はO−157陰性試料を通常PCR法で増幅したもの、レーン4はO−157陰性試料を非対称PCR法で増幅したものである。全試料とも、約24時間の増菌培養後に熱処理し、遺伝子増幅を行った。
PCR法による遺伝子増幅の区間は900塩基強であるが、1)および2)のサンプルはこの位置にバンドがみられ、目的のDNAが増幅されていることが分かる。両端は100塩基毎のラダーマーカーである。
また、電気泳動では、ポリアクリルアミドゲルを用い、銀染色法に従った。
【0039】
〔実施例2〕
試料中の核酸を通常のPCR法を用いて増幅した後、一本鎖に変性し、増幅プライマーをアニーリング処理したものと、非アニーリングのものをそれぞれ蛍光偏光法によって測定し、そのデータを比較した。
試料として、前記実施例1で使用したものと同じ検体試料を用いた。通常PCR法、蛍光偏光度の測定条件等も前記実施例1と同様とした。増幅プライマーのアニーリング処理は複数回繰り返すPCR工程で行われるプライマーのアニーリング条件と同様に行った。
【0040】
なお、コントロール3として、検体試料核酸量と同等量のサケ精子DNAを含む試料溶液を、前記と同条件でPCR法を用いて増幅した後アニーリング処理し、前記と同条件の蛍光偏光法による核酸量の測定操作を行った。
また、コントロール4として、前記検体試料を全く増幅処理を行わず、前記と同条件の蛍光偏光法による核酸量の測定操作を行った。
【0041】
図4に、1)アニーリング処理検体試料、2)アニーリング非処理検体試料、3)コントロール3、4)コントロール4のそれぞれのサンプルの、測定開始から10分後の蛍光偏光度値を示したグラフを示す。
その結果、3)および4)のサンプルでは、蛍光偏光度の上昇が全く認められなかった。また、2)のサンプルは、3)および4)よりも高い蛍光偏光度が得られたが、1)のサンプルの値に及ばなかった。
【0042】
また、研究室レベルでは、測定の再現性は向上しており、検体を1日程度増菌培養したサンプルを、約2時間の遺伝子増幅の後、蛍光偏光法により10分間で判定している。
以上のように、蛍光偏光法を応用したDNA測定法は、迅速かつ簡便な測定法として、大きな可能性を有しているものと考えられる。
【0043】
【発明の効果】
本発明に基づく測定方法によれば、微生物、細胞やその他の試料に含まれる核酸を特異的かつ迅速に測定することが可能となり、微生物の検査、臨床診断、その他の検査や研究等に有益な情報を得ることができる。特に、昨夏より社会的問題となった、O−157を中心とする病原性大腸菌(Vero毒素生産菌)等の迅速かつ正確な検知に利用できる。
【0044】
【配列表】
Figure 0003948503
【0045】
Figure 0003948503
【0046】
Figure 0003948503

【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における各サンプルの蛍光偏光度の時間変化を示したグラフ。
【図2】実施例1における各サンプルの測定開始から10分後の蛍光偏光度値を示すグラフ。
【図3】遺伝子増幅操作を施した各サンプルの電気泳動パターンを示す写真。
【図4】実施例2における各サンプルの測定開始から10分後の蛍光偏光度値を示すグラフ。

Claims (3)

  1. 試料中の核酸を非対称増幅法によって増幅した後、塩化ナトリウムの塩濃度が0.8 mol/リットルである反応溶液中で、AGTATCGGGGAGAGGATGGTGTCの塩基配列で表されるDNAをプローブとして使用して増幅産物中の核酸の量を蛍光偏光法によって測定することを特徴とする、Vero毒素生産菌の検出方法。
  2. 非対称増幅法により試料中の核酸を増幅するに際し、蛍光標識試薬が相補的に結合する塩基配列を有する側の1本鎖核酸を選択的に増幅することを特徴とする、請求項1に記載のVero毒素生産菌の検出方法。
  3. 試料中の核酸を遺伝子増幅法によって増幅し、プライマーのアニール処理を行った後、塩化ナトリウムの塩濃度を0.8 mol/リットルの範囲で維持した増幅産物および蛍光標識試薬を含む反応溶液中で、AGTATCGGGGAGAGGATGGTGTCの塩基配列で表されるDNAをプローブとして使用して、該増幅産物中の核酸の量を蛍光偏光法によって測定することを特徴とする、Vero毒素生産菌の検出方法。
    【0001】
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