JP3947964B2 - 歪取り焼鈍後の磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

歪取り焼鈍後の磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気機器の鉄心材料用途として高周波(200〜1kHz)で用いるのに好適な、歪取り焼鈍後の磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電気機器の小型化、高効率化の観点から機器の駆動周波数の高周波化が進んでいる。それに伴い、コア材として使用される無方向性電磁鋼板にも高周波鉄損の低い材料が望まれている。
【0003】
従来、高周波鉄損を低減する技術としては、Crに着眼した技術がある。例えば、特開平11−229095号公報には、Crを0.5〜5.5%添加することにより高周波鉄損を低減する技法が開示されている。また、特開平12−119822号公報には、Crを1〜8%添加して鋼板のフェライト粒径を100〜200μmに規定することにより高周波鉄損を低減する技法が開示されている。さらに、特開平11−343544号公報にはCrを1.5〜20%添加し、かつC+Nを合計量で100ppm以下に低減し、比抵抗を60μΩcm以上にすることで高周波鉄損を低減する方法が開示されている。
【0004】
ところで、高効率用エアコン、冷蔵庫などのコンプレッサーモータでは、コア材となる無方向性電磁鋼板を打ち抜き加工後に積層したのち、加工歪を除去する目的で歪取り焼鈍と呼ばれる熱処理を施すことがある。しかし、従来のCr添加による鉄損低減技法は、仕上焼鈍後の高周波鉄損の低減についてのみ言及しており、歪取り焼鈍を行わずそのまま使用することを前提としたものである。歪取り焼鈍前に鉄損値が低い材料が歪取り焼鈍後にも鉄損値が低いとは限らず、このような鋼板をそのまま歪取り焼鈍を行う材料として使用することはできない。
【0005】
また、Cr添加電磁鋼板では、熱延時の大気や露点の高い還元性雰囲気の焼鈍により酸洗性の悪いスケールが形成され易く、脱スケールの為にショットブラスト等が必要となり、製造コストの高さも問題となっていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、歪取り焼鈍後の高周波(200〜1kHz)において低い鉄損を示し、高周波で使用されるコア材等の電磁材料として用いるのに適当であると共に、酸洗性に優れて生産能率が高いために安価である無方向性電磁鋼板を製造する方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、所定量のCrを添加し、かつ熱間圧延後に黒皮のままで、0℃以下の低露点での脱炭を行いC含有量を所定の範囲に管理することにより、脱炭処理後の酸洗性と歪取り焼鈍後の鉄損を低減できることを見出した。すなわち、前記課題は、重量%でC:0.005%以下、Si:4%以下、Al:0.1〜2%、Mn:0.05〜2%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、S:0.02%以下、Cr:0.4〜5%を含み、残部がFe 及び不可避不純物からなるスラブを熱間圧延し、熱間圧延後に黒皮のままで露点を0℃以下にして脱炭焼鈍を行い、C量を0.0015%以下とし、さらに所定の板厚まで冷間圧延したのち、焼鈍する工程を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法(請求項1)により解決される。
【0008】
なお、特に断らない限り、本明細書において鋼の成分を示す%は重量%であり、ppmも重量ppmである。
【0009】
また、本発明においては、前述した条件以外の製造条件は特に規定されない。例えば、転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理し所定の成分に調整し、引き続き鋳造、熱間圧延を行なう。熱間圧延時の仕上焼鈍温度、巻取り温度は特に規定する必要はなく、公知の無方向性電磁鋼板を製造する方法で構わない。次いで、黒皮のままで0℃以下の露点にて脱炭焼鈍を行い酸洗し、一回の圧延もしくは中間焼鈍をはさんだ2回以上の圧延により所定の板厚とした後、仕上焼鈍を行なう。その後、皮膜を塗布して焼き付け、その後、需要家にて加工歪を除去するため歪取り焼鈍が行われる。
【0010】
(発明に至る過程と発明特定事項の選定理由)
まず、Crが歪取り焼鈍後の磁気特性に及ぼす影響を調査するため、C:0.0035%、Si:2.5%、Mn:0.18%、P:0.01%、Al:1.0%、S:0.0005%、N:0.0020%とし、Cr=tr.の鋼(鋼種X)とCr=1%添加した鋼(鋼種Y)を実験室にて溶解し、熱間圧延後に酸洗して、100%H雰囲気にて860℃×3hrの熱延板焼鈍を行い、板厚0.35mmまで冷間圧延した。次いで、10%H-90%N雰囲気で1000℃×1分間の仕上焼鈍を行い、仕上焼鈍後の磁気特性を測定した。さらに、100%N雰囲気にて750℃×2hrの歪取り焼鈍後、磁気特性を測定した。ここで磁気特性の評価は、外径45mm、内径33mmのリングサンプルを用い、1次側100ターン、2次側100ターンの巻線したもので高周波特性を測定した。表1に鋼XとYの、仕上焼鈍後と歪取り焼鈍後の400Hzでの鉄損W10/400(W/kg)を示す。
【0011】
【表1】
Figure 0003947964
【0012】
表1より、Cr添加鋼において歪取り焼鈍後の鉄損が劣化していることがわかる。この原因を調査するため、1%Cr添加鋼の歪取り焼鈍後の組織を観察した。その結果、特に粒界に炭化物が多数観察された。さらに、Cr添加鋼の仕上焼鈍後のサンプルでは、このような炭化物は認められなかったことから、歪取り焼鈍時に炭化物が析出し、磁壁の移動が妨げられたため、鉄損が劣化したものと考えられる。これまで、Cr添加による高周波鉄損を低減する提案は数多く提案されているが、これらは全て仕上焼鈍後の磁気特性のみに言及したものであり、歪取り焼鈍時の炭化物の析出は、これまでにはなかった新たな知見である。
【0013】
しかし、Crを添加する場合、工業的には比較的安価なフェロクロムを原料として使用するのが一般的であるが、不純物からのCの混入が避けらない。そこで、本発明者らは、製造工程中において脱炭処理を行い、歪取り焼鈍時の炭化物の析出を抑制することについて検討を重ねた。その結果、C量を15ppm以下に落とせば、歪取り焼鈍後の鉄損特性の劣化を小さくできることを見出したが、冷延時に蛇行等が起こりコイル破断が起こり易いこともわかってきた。
【0014】
その原因を調査したところ、酸洗後のスケールの残存量に差がある為にロールの左右で摩擦に差が生じていた。SEM-EDXによる調査では、溶け残りの多い部分には、マグネタイト層の他にアルミナ層が多く形成されていた。これは、脱炭時のHOにより、酸化され易いAlがマグネタイトスケール中にアルミナとして多く生成されたためであると考えられる。アルミナは通常の酸洗にて落ち難いので、ショットブラスト等により除去することも検討したが、コスト高を招かざるを得なかった。
【0015】
そのため、アルミナ層の形成を抑制し、酸洗性を向上することを鋭意検討した結果、熱延後の黒皮を酸洗で落とさずに0℃以下の露点で脱炭焼鈍を行い、アルミナの生成を抑制すると共に、鋼中のCと黒皮中の酸素を反応せしめCOとし脱炭を行い鋼のC量は15ppm以下に制御し、かつ黒皮自体は鉄に還元することで酸洗性を高められることを見出した。
【0016】
Cが歪取り焼鈍後の磁気特性に及ぼす影響と脱炭条件による酸洗性の良否を調査するため、C:0.0050%、Si:2.5%、Mn:0.18%、P:0.01%、S:0.0005%、Al:1.0%、Cr:1.0%、N:0.0020%の鋼を実験室にて溶解し、熱間圧延した。この後、鋼A〜Hは酸洗後に、鋼I〜Lは酸洗せずに黒皮のままで、表2に示す条件にてそれぞれ脱炭処理を行い、ついで100%H雰囲気にて860℃×3hrの熱延板焼鈍を行なった。熱延板焼鈍後に酸洗を行い、画像処理にて圧延方向長さ1m×全幅の面積表裏のスケール残存面積を測定し酸洗性の指標とした。
【0017】
スケール残存面積率10%以下を○、10〜30%を△、30%以上を×で表現した。○以外のサンプルは冷延時に蛇行し破断し易いので、ショットブラストを実施し冷間圧延した。板厚0.35mmまで冷間圧延し、10%H-90%N雰囲気で1000℃×1分間の仕上焼鈍を行い、100%N雰囲気での750℃×2hrの歪取り焼鈍後、磁気特性を測定した。
【0018】
表2に、熱延後の酸洗有無、脱炭条件、酸洗性、脱炭後のC量、400Hzでの鉄損をまとめた。磁気特性が良好でかつ脱炭後の酸洗性が良好なのは黒皮まま脱炭材の脱炭後のCレベルが15ppm以下のものであることがわかる。
【0019】
【表2】
Figure 0003947964
【0020】
次に、Crが歪取り焼鈍後の磁気特性に及ぼす影響を調査するため、C:0.0035%、Si:2.5%、Mn:0.18%、P:0.01%、S:0.0005%、Al:1.0%、N:0.0020%、Cr:tr.〜5.5%の鋼を実験室にて溶解し、熱間圧延した。その後、黒皮のままで5%H雰囲気、露点-15℃、750℃×2hrの脱炭処理を行い、100%H雰囲気にて860℃×3hrの熱延板焼鈍を行い、酸洗後に板厚0.35mmまで冷間圧延した。次いで10%H-90%N雰囲気にて1000℃×1分間の仕上焼鈍を行い、さらに100%N雰囲気にて750℃×2hrの歪取り焼鈍後、磁気特性を測定した。
【0021】
図1にCr量と歪取り焼鈍後の400Hzでの鉄損(W10/400)の相関を示す。図1より、Crが0.4%以上の範囲にて、鉄損が低下していることがわかる。これは、電気抵抗の増大により渦電流損が減少したためである。よってCrの下限を0.4%とする。一方、コストの観点からCrの上限を5%とする。なお、図1においてプロットされている点のCr量は、左から、0、0.25、0.45、0.60、0.85、1、1.2、1.4、1.6、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5、5.5%である。
【0022】
次に、その他の成分の限定理由について説明する。
Si:Siは、鋼板の固有抵抗を上げるために有効な元素であるが、4%を超えると磁束密度が低下するため上限を4%とする。
Al:Alは、Siと同様、固有抵抗を上げるために有効な元素であるが、0.1%より少ない場合は微細なAlNが生成し磁気特性が劣化するために下限を0.1%とし、2%を超えると磁束密度が劣化するので上限を2%とする。
Mn:Mnは、熱間圧延時の赤熱脆性を防止するために0.05%以上必要であるが、2%以上になると磁束密度の低下を招くため0.05〜2%とする。
P:Pは、0.1%を超えて含有させると鋼板が硬くなるため上限を0.1%とする。
N:Nは、AlNを形成して鉄損増大の原因となるため、上限を0.005%とする。
S:Sは、0.02%を超えるとMnSの析出により鉄損増大の原因となるため、上限を0.02%とする。
【0024】
【実施例】
鋼を転炉で吹練した後に脱ガス処理を行うことにより、表3に示す所定の成分に調整後鋳造し、スラブを1140℃で1hr加熱した後、板厚2.0mmまで熱間圧延を行った。熱延仕上げ温度は750℃とし、巻取り温度は610℃とした。その後一部酸洗し(比較例)、表3に示す条件で脱炭焼鈍を行い、続いて100%H雰囲気にて860℃×3hrの熱延板焼鈍を行なった。ついで20secの酸洗によりスケールを落とすと共に、スケールの残存率を測定し、酸洗性の良否を判定した。酸洗性の悪いものに対しては、ショットブラストを実施した。
【0025】
次いで、板厚0.35mmまで冷間圧延し、10%H-90%N雰囲気において1000℃×1minの仕上焼鈍を行い、続いて100%N雰囲気での750℃×2hrの歪取り焼鈍後、磁気特性を測定した。各鋼板の脱炭後酸洗性、C量、歪取り焼鈍後の磁気特性(W10/400、B50)を表3に併せて示す。
【0026】
表3より黒皮のままで0℃以下の露点で脱炭を行い、Crと脱炭後のCをはじめ、本発明で規定される成分値を規定範囲にした実験No.1〜5の鋼において、優れた歪取り焼鈍後の磁気特性が得られ、かつ酸洗性が良好なため高い生産性で鋼板を製造可能であることが分かる。
【0027】
これに対し、実験No.6〜9の鋼においては、脱炭焼鈍後のC量が本発明の範囲より高いため、歪取り焼鈍後の鉄損が大きくなっている。
【0028】
また、実験No.10の鋼はCr量が本発明の範囲より低いので、歪取り焼鈍後の鉄損が高く、実験No.11の鋼はCr量が本発明の範囲より高いので、歪取り焼鈍後の磁束密度が低くなっている。
【0029】
実験No.12〜15の鋼は、脱炭焼鈍時の露点が本発明の範囲より高いので、いずれも脱炭焼鈍後の酸洗性が悪化している。
【0030】
実験No.16、17、18の鋼は、それぞれSi、Al、Mn量が本発明の範囲より高いので、いずれも歪取り焼鈍後の磁束密度が低くなっている。
【0031】
実験No.19、20の鋼は、それぞれS、Nの範囲が本発明の範囲より高いので、いずれも歪取り焼鈍後の鉄損が大きくなっている。
【0032】
【表3】
Figure 0003947964
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、歪取り焼鈍後の高周波(200〜1kHz)において低い鉄損を示し、高周波で使用されるコア材等の電磁材料として用いるのに適当であると共に、酸洗性に優れて生産能率が高いために安価である無方向性電磁鋼板を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Cr量と歪取り焼鈍後の400Hzでの鉄損(W10/400)の相関を示す図である。

Claims (1)

  1. 重量%でC:0.005%以下、Si:4%以下、Al:0.1〜2%、Mn:0.05〜2%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、S:0.02%以下、Cr:0.4〜5%を含み、残部がFe 及び不可避不純物からなるスラブを熱間圧延し、熱間圧延後に黒皮のままで露点を0℃以下にして脱炭焼鈍を行い、C量を0.0015%以下とし、さらに所定の板厚まで冷間圧延したのち、焼鈍する工程を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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