JP3947414B2 - 既設管の更生方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば下水、電力、ガス、農水、または工場排水などの老朽既設管路(以下、既設管という)を更生する既設管の更生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
下水管路などの既設管を更生する方法としては、例えば特開平5−8297号公報に開示されているように、既設管の内面を樹脂製の更生管によりライニングする方法が知られている。
【0003】
特開平5−8297号に開示の技術では、更生管として、既設管の内径と同等または僅かに小さい外径を有する熱可塑性樹脂パイプを用い、その熱可塑性樹脂パイプを加熱軟化させた後に既設管内に挿入し、次いで熱可塑性樹脂パイプを加熱・加圧することにより、既設管内面に密着させている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特開平5−8297号に記載の更生方法では、既設管の内径と同等または僅かに小さい外径を有する更生管を用いているため、配管路内に大きな曲がり部がある場合には、曲がり内周部に皺が発生して流下性能が低下したり、曲がり外周部の肉厚が減肉して耐外水圧強度が低下するという問題がある。また、クランク数(曲がり数)が多い場合には、既設管と更生管との間の摩擦力が大きくなってしまい、既設管内への更生管の引き込み作業が困難になり、最悪の場合、既設管の更生を適切に実施できなくなることがある。特に、下水管路などの取付管(枝管)においては、管径が小さくて、大きな曲がり部やクランク数が多いことから、そのような問題が顕著となる。
【0005】
また、下水管路などの取付管においては、図9に示すように、同一配管内に口径が異なる管が存在する場合がある。このような取付管(既設管)の更生を行う方法としては、口径が変化するポイントで開削を行って、更生を2段階に分けて実施するという方法が考えられる。しかし、この場合、開削工程が余分に必要になるうえ、ライニング工程も2回以上必要になるため、更生に多くの時間とコストを要する。
【0006】
これに対し、取付管(既設管)の全体を一度で更生するようにすれば、工期的な問題などは解消できる。しかし、更生を一度に実施しようとして、上流側の既設管の管径(図9の例の場合、呼び径φ125)に合わせて更生管の管径を選択した場合、下流側の既設管(呼び径φ150)と更生管との間にかなりの隙間ができてしまい、下流側の既設管のライニングが不良となる場合がある。
【0007】
その逆に、下流側の既設管の管径に合わせて更生管の管径を選択すると、上流側において更生管の周長が既設管の周長よりも長くなってしまい、その余分長さに起因して配管の直管部分に皺が発生する。また、直管部分での問題が生じなかったとしても、配管の屈曲部の曲がり内周部に皺が発生することがある。
【0008】
このように、取付管などの既設管において、同一配管内に異口径管が存在する場合、従来のライニング技術つまり更生管を僅かに拡径させてライニングする技術では、その全体を、一度の更生でかつ皺のない良好な状態で更生することは困難であった。
【0009】
ここで、合成樹脂を用いたライニング技術は、従来、ライニング鋼管継手の製造方法において広く実施されているが、この場合、ライニング材としてガラス転移温度が80℃付近の材料が使用されていることが多く、このため蒸気加圧方式では、曲がりの内周部と外周部におけるライナー材の肉厚が大きな偏肉をもつことになり実施不可能である。従って、この種のライニング技術では、80〜85℃に管理された温水を使用する温水循環加圧方式を用いて工場内で行われているのが一般的であり、現場施工である既設管の更生には不向きである。
【0010】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、下水、電力通信、ガス、農水または工場排水などの既設管において、配管内に大きな曲がり部がある場合やクランク数が多い場合でも、曲がり内周部に皺が発生しにくく、しかも曲がり外周部の耐外水圧強度を保証できる最低肉厚を確保することが可能な既設管の更生方法の提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の更生方法は、同一配管内に異なる口径の管が存在するとともに、曲がり部を有して本管に接続された既設の取付管の内面を樹脂製の更生管にてライニングすることにより既設の取付管を更生する方法であって、更生前の呼び径が、既設の取付管の配管内の最小口径管の呼び径に対して1サイズだけ小さい更生管を用い、この更生管を既設の取付管内に挿入して配管内の全体に1本の更生管を配置した状態で、更生管を加熱するとともに、更生管内部の加圧を行って更生管を膨張させることにより、更生管を既設の取付管内面に密着させることを特徴づけられる。
【0014】
この発明の更生方法によれば、更生管を僅かに拡径させてライニングするのではなく、更生前の外径が既設の取付管の内径よりもかなり小さい外径の更生管を加熱・加圧により大きく膨らませてライニングする方法とし、しかも既設の取付管の配管内の最小口径管の呼び径に対して1サイズだけ小さい更生管を用いるという方法を採用しているので、更生管の加熱・加圧膨張により既設の取付管の小径側の内面に更生管が密着するとともに、大径側の内面に更生管の外面が沿うような形態でライニングすることができ、一度の施工で既設の取付管を更生することが可能になる。また、配管内の最小口径管の計画流量(必要最小限の有効断面積)を確保することができる。
【0015】
さらに、更生管の更生前の外径を既設の取付管内径よりもかなり小さくできることから、既設の取付管内の大きな曲がりに対する追従性が良くて、曲がり内周部における皺の発生がなくなるとともに、曲がり外周部の耐外水圧強度を保証するのに必要な最低肉厚を確保することができる。また、クランク数が多い場合であっても、既設の取付管との間に発生する摩擦力が小さいため、既設の取付管への引き込みが容易であり、更生を問題なく実施することができる。
【0016】
ここで、本発明の各更生方法において、更生管の材料としては、ガラス転移温度(以下、Tgという)が30〜80℃の硬質塩化ビニル系配合剤が好ましい。このように、Tgが30〜80℃の更生管を用いると、更生管の加熱に蒸気、加圧に蒸気または圧縮空気を用いることが可能になり、現場施工を容易に実現できる。さらに、蒸気(圧縮空気を含む)による加熱加圧は、温水循環加圧と比較して施工装置が小型でかつ簡易であり、経済的にも優れている。
【0017】
なお、Tgが30〜80℃である硬質塩化ビニル系配合剤としては、例えば、平均重合度が1000〜1400の塩化ビニル樹脂またはアクリルグラフト変性塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂100重量部に、錫系あるいは鉛系安定剤1〜6重量部、アクリルゴム、ニトリルゴムまたはエチレン−酢酸ビニル重合体の1種または2種以上の熱可塑性エラストマー10〜20重量部、その他の添加剤(滑剤、加工助剤、顔料等)1〜5重量部を配合したものが挙げられる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の更生方法を、下水管路の取付管の更生に適用した場合の実施形態を図1〜図7を参照して説明する。
【0019】
まず、更生方法の概略を各項目ごとに説明する。
【0020】
[更生管の説明]
更生管を構成する材料としては、例えば、平均重合度が、1000〜1400の塩化ビニル樹脂またはアクリルグラフト変性塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂100重量部に、錫系あるいは鉛系安定剤1〜6重量部、アクリルゴム、ニトリルゴムまたはエチレン−酢酸ビニル重合体の1種または2種以上の熱可塑性エラストマー10〜20重量部、その他の添加剤(滑剤、加工助剤、顔料等)1〜5重量部を配合したものを使用する。この塩化ビニル系樹脂材料のTgは30〜80℃である。
【0021】
次に、既設管(取付管)と更生管との管径の関係は、更生を行う既設管が1種の口径である場合、更生管の更生前の外径を、既設管の内径に対して70〜90%とする。その具体的な管径及び肉厚の数値例を下記の表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
また、図9に示すように、既設管の同一配管内に異口径管が存在する場合、その既設管の配管内の最小口径管の呼び径に対して1サイズだけ小さい更生管を使用する。その具体的な管径及び肉厚の数値例を下記の表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
[ライニング方法の説明]
次に、更生管1のライニング方法を説明する。このライニング方法は、少なくとも、更生管の挿入工程、更生管の加熱・膨張工程、及び更生管の先端部処理工程を備える。その各工程を以下に説明する。
【0026】
<更生管の挿入工程>
まず、更生管1は、管周壁の一部を管内方に織り込んだ縮径形状(図3参照)に変形されており、この状態で、図1に示すように、枡13側の地表付近に設置した巻取機4に巻かれている。更生管1の先端部は引込栓2によって絞り込まれるように閉止されている。引込栓2にはワイヤー3が連結されている。
【0027】
更生管1を取付管12内に挿入するに際しては、図1に示すように、巻取機4から更生管1を取付管(既設管)12内に繰り出す一方、引込栓2に連結したワイヤー3を、本管11の内部及びマンホール14を通じてウインチ5に導いて巻き取る。なお、本管11の内部底面には、ワイヤー3の軌道を変更するための滑車81,82が設置されている。
【0028】
<更生管の加熱・膨張工程>
以上の取付管12内への更生管1の挿入作業によって、図2及び図3に示すように、引込栓2を伴う更生管1の先端部が本管11内にまで達する。続いて、更生管1の繰り出し端を切断し、その切断部にソケット6を気密状態で取り付ける。ソケット6には、地上に設置した蒸気・エアー発生装置7からの給気ホース71と排気ホース72が接続されている。なお、排気ホース72は、更生管1内の圧力調整とドレン抜きの双方を行うためのものである。
【0029】
そして、蒸気・エアー発生装置7から給気ホース71を通じて更生管1の内部に高温・高圧の蒸気を供給して更生管1を加熱し(管外表面温度が例えば80〜85℃となる加熱)、次いで蒸気・エアー発生装置7から給気ホース71を通じて更生管1の内部にエアー(圧縮空気)を供給して更生管1を膨張させる。このような加熱・膨張により、図4に示すように、更生管1が大きく膨らんで、取付管12の内面が更生管1にてライニングされる。なお、この例では、蒸気による加熱後、更生管1内にエアーを供給して更生管1を膨張させているが、これに替えて、更生管1内に供給した蒸気で更生管1の加熱及び加圧の双方を行うようにしてもよい。
【0030】
<更生管の先端部処理工程>
次に、図5に示すように、本管11内に突出した更生管1の先端部を、本管11内に搬入した切断機9によって切除し、更生管1の切断端を本管11内に開口させる。このとき、更生管1の切断端1aを本管11内に若干突出させて、本管11内に更生管1の突出部1bを残すようにする。そして、図6及び図7に示すように、突出部1bの切断端1aを、本管11内に搬入した加熱成形装置10により、下方から押し拡げてフランジ1cを成形する(鍔返し)。こうして成形されたフランジ1cが本管11の内面に沿って取付管口の周囲を被覆することにより、本管11と取付管12との接続箇所においても良好な止水性を得ることができる。
【0031】
ここで、図9に示すように、更生を行う既設管の同一配管内に異径管が存在している場合、下流側の既設管と更生管との間の隙間が大きくなり、前記したような鍔返しを行う際の倍率が大きくなりすぎるため、鍔返しを実施できないことがある。このような場合、図8に示すように、短管21とサドル状のフランジ22とを一体成形した樹脂製の止水パッド20を、本管11の取付管口に予め取り付けておくという工法を採用すればよい。なお、止水パッド20の材料としては、更生管1と同じものを用いることが好ましい。
【0032】
以上の実施形態では、本管に接続された取付管について説明したが、マンホールに接続された取付管の更生にも本発明は適用できる。
【0033】
また、以上の実施形態では、取付管の更生に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、下水管路などの本管の更生にも適用できる。また、本発明は、下水管路のほか、電力通信、ガス、農水道、または工場排水などの各種の既設管の更生にも適用できる。
【0034】
[ライニング部の必要最低肉厚の検討]
次に、更生を行った既設管(内径150mm)の更生管(ライニング部)の必要最低肉厚を、設計短期曲げ弾性率と耐外水圧に対する考え方に基づいて計算した。その詳細を以下に述べる。
【0035】
<計算根拠>
下記のチモシェンコの座屈式を用いて計算を行った。
【0036】
【数1】
【0037】
ここで、P:耐外水圧(N/mm2)、K:支持向上率、E:設計短期曲げ弾性率(N/mm2)、N:安全率、ν:ポアソン比、D:仕上がり外径(=既設管内径:mm)、t:仕上がり厚さ(mm)
<計算条件>
・支持向上率:K=7
・仕上がり厚さ:t=3.0mm
・仕上がり外径:D=150.0mm
・設計短期曲げ弾性率:E=1764N/mm2 JIS K7171で実施
・ポアソン比:ν=0.38
・安全率:N=4
<耐外水圧強度計算>
【0038】
【数2】
【0039】
以上の計算結果から、最低肉厚3.0mmを確保できれば、土被りは最低6mまで耐えることができる。
【0040】
また、同様な計算により、仕上がり外径(既設管内径)Dが100mmの場合は最低肉厚が2.0mm、仕上がり外径Dが125mmである場合は最低肉厚が2.5mmを確保できれば、土被りは最低6mまで耐えることができる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0042】
[実施例1]
▲1▼呼び径150のヒューム管(内径150mm)の直管、▲2▼45°継手、▲3▼90°継手を、▲1▼→▲2▼→▲1▼→▲3▼→▲1▼の順で接続したものを既設管(取付管)とし、前記した塩化ビニル系樹脂材料製の更生管(外径114mm、肉厚7.1mm)を用いて、前記したライニング方法により既設管の更生を行った。
【0043】
このような更生を行った後のライニング部分の肉厚(更生後の更生管の肉厚)と、コーナー部の皺の有無を評価した。その評価結果を下記の表3に示す。
【0044】
[比較例2]
▲1▼呼び径150のヒューム管(内径150mm)の直管、▲3▼90°継手を、▲1▼→▲3▼→▲1▼の順で接続したものを既設管(取付管)とし、前記した塩化ビニル系樹脂材料製の更生管(外径141mm、肉厚3.6mm)を用いて、前記したライニング方法により既設管の更生を行った。
【0045】
このような更生を行った後のライニング部分の肉厚(更生後の更生管の肉厚)と、コーナー部の皺の有無を評価した。その評価結果を下記の表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
以上の表3の結果から明らかなように、本発明の実施例1では、直管部及びコーナー部における必要最低肉厚を十分に確保することができ、耐外水圧に優れていること、及び、コーナー部において皺が発生することなく既設管を更生できることがわかる。
【0048】
[実施例2]
▲1▼呼び径150のヒューム管(内径150mm)の直管、▲2▼45°継手、▲3▼90°継手、▲4▼呼び径100のヒューム管(内径100mm)の直管、を、▲4▼→▲2▼→▲1▼→▲3▼→▲1▼の順で接続したものを既設管(取付管)とし、前記した塩化ビニル系樹脂材料製の更生管(呼び径75(既設管最小呼び径の1サイズダウン):外径89.0mm、肉厚5.9mm)を用いて、前記したライニング方法により既設管の更生を行った。
【0049】
このような更生を行った後のライニング部分の肉厚(更生後の更生管の肉厚)と、コーナー部の皺の有無を評価した。その結果、コーナー部における必要最低肉厚は十分に確保されており、耐外水圧に優れていることが確認できた。また、コーナー部における皺の発生は見られなかった。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の更生方法によれば、同一配管内に異なる口径の管が存在する既設の取付管の内面を樹脂製の更生管によってライニングする更生方法において、更
生前の呼び径が、配管内の最小口径管の呼び径に対して1サイズだけ小さい更生管を用い、この更生管を既設の取付管内に挿入した状態で、更生管を加熱するとともに、更生管内部の加圧を行って更生管を大きく膨らませる方法であるので、更生管の加熱・加圧膨張により、既設の取付管の小径側の内面に更生管が密着するとともに、大径側の内面に更生管の外面が沿うような形態でライニングすることができ、既設の取付管を一度で更生することができる。また、配管内の最小口径管の計画流量を確保することができる。さらに、更生管の更生前の外径を既設の取付管内径よりもかなり小さくできることから、曲がり内周部における皺の発生がなくなるとともに、曲がり外周部の耐外水圧強度を保証するのに必要な最低肉厚を確保することができる。また、クランク数が多い場合であっても、既設の取付管との間に発生する摩擦力が小さいため、既設の取付管への引き込みが容易であり、更生を問題なく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の更生方法において実施する更生管の挿入工程の説明図である。
【図2】本発明の更生方法において実施する更生管の加熱・膨張工程の説明図である。
【図3】同じく更生管の加熱・膨張工程の説明図である。
【図4】同じく更生管の加熱・膨張工程の説明図である。
【図5】本発明の更生方法において実施する更生管の先端部処理工程の説明図である。
【図6】同じく更生管の先端部処理工程の説明図である。
【図7】同じく更生管の先端部処理工程の説明図である。
【図8】更生管口の止水処理の一例を模式的に示す断面図である。
【図9】同一配管内に異なる口径の管が存在する取付管(既設管)の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 更生管
2 引込栓
3 ワイヤー
4 巻取機
5 ウインチ
6 ソケット
7 蒸気・エアー発生装置
71 給気ホース
72 排気ホース
81,82 滑車
9 切断機
11 本管
12 取付管(既設管)
13 枡
14 マンホール
20 止水パッド
Claims (1)
- 同一配管内に異なる口径の管が存在するとともに、曲がり部を有して本管に接続された既設の取付管の内面を樹脂製の更生管にてライニングすることにより既設の取付管を更生する方法であって、更生前の呼び径が、既設の取付管の配管内の最小口径管の呼び径に対して1サイズだけ小さい更生管を用い、この更生管を既設の取付管内に挿入して配管内の全体に1本の更生管を配置した状態で、更生管を加熱するとともに、更生管内部の加圧を行って更生管を膨張させることにより、更生管を既設の取付管内面に密着させることを特徴とする既設管の更生方法。
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