JP3947355B2 - 砥粒工具及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、砥粒工具及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、砥粒分布密度を制御することができ、しかも被削材表面に筋の残らない、作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電着やロウ付けなどにより作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具が知られている。これらの砥粒工具における砥粒の配置は、大きく分けて、ランダム配置と規則配置の2種類がある。
砥粒がランダム配置された砥粒工具の製造方法として、例えば、ばらまき法がある。ばらまき法は、作用面に一定量の砥粒を文字通りばらまくもので、簡易的ではあるが、砥粒分布密度の制御が難しく、密度の偏りが生じることが多い。
砥粒が規則配置された砥粒工具の製造方法は、個々の砥粒の位置を制御するものである。例えば、特開平5−285846号公報には、簡単な方法で台金表面に砥粒を均一に分散させる方法として、台金の表面に非マスキング部の穴径が電着する砥粒の径の110〜160%であり、厚みが電着する砥粒の径の50〜150%である非マスキング部を有する絶縁物のマスキングを施して、非マスキング部に砥粒を電着する方法が提案され、規則的なマスキングパターンを有するマスキングシートが例示されている。また、特開平6−114741号公報には、超砥粒の分布を1粒単位でコントロールする方法として、台金表面にパターンシートを貼着して、パターンシートの各孔に対応する位置に超砥粒を1個ずつ配置して電着する方法が提案されている。さらに、特開平9−19868号公報には、研削加工時に目詰まりがなく、寿命の長い電着ホイールとして、超砥粒が研削面に島状に分散して固着され、ひとつの島に超砥粒が2〜10個集合して固着され、島部分の全面積が研削面の全面積の0.02〜0.5倍である電着ホイールが提案され、規則的な島の配列パターンが例示されている。
砥粒がランダム配置された砥粒工具は、砥粒の分布密度の制御が難しく、工具性能がばらつきやすいという問題がある。また、砥粒が規則配置された砥粒工具は、同一線上に砥粒が並ぶために、例えば、ホイールに適用した場合、同一軌跡を砥粒が通り、被削材の表面に筋がつきやすいという問題がある。被削材の表面の筋を防ぐために、砥粒を配置する格子を回転方向に対してある角度に傾けるという方法があるが、角度を適切に選ばないと、依然として筋が発生する場合がある。また、ストレートホイールの外周に適用した場合、円周上の1か所で格子の継ぎ目が残るという問題もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、砥粒分布密度を制御することができ、しかも被削材表面に筋の残らない、作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、砥粒工具の作用面に仮想的な格子を想定し、該格子の個々の交点をランダムに変位させた位置に砥粒を配置することにより、砥粒分布密度が精密に制御され、しかも被削材表面に筋が残らない砥粒工具を製造し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具において、該工具の作用面に仮想的な格子を想定し、該格子の個々の交点を、交差する2本の格子線方向又はX方向とY方向に、それぞれ砥粒の平均粒径の3倍以下の距離だけランダムに変位させた位置に対応させて穴をあけたマスキングテープ若しくは板状ジグを作用面に取り付け、マスキングテープ若しくは板状ジグの穴部分に砥粒を1個ずつ配置して仮固定し、マスキングテープ若しくは板状ジグを取り外したのち、前記砥粒を作用面に固定することを特徴とする砥粒工具の製造方法、及び、
(2)マスキングテープ若しくは板状ジグの穴の位置のランダムな変位が、乱数に基づいて設定される第1項記載の砥粒工具の製造方法、
を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の砥粒工具は、作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具であって、該工具の作用面に仮想的な格子を想定し、該格子の個々の交点を、交差する2本の格子線方向又はX方向とY方向に、それぞれ砥粒の平均粒径の3倍以下の距離だけランダムに変位させた位置に砥粒が配置されてなる砥粒工具である。本発明の砥粒工具の製造方法においては、作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具において、該工具の作用面に仮想的な格子を想定し、該格子の個々の交点を、交差する2本の格子線方向又はX方向とY方向に、それぞれ砥粒の平均粒径の3倍以下の距離だけランダムに変位させた位置に砥粒を配置する。
本発明において、作用面に想定する仮想的な格子の形状に特に制限はなく、例えば、図1(a)に示す正方格子、図1(b)に示す長方格子、図1(c)に示す斜方格子、図1(d)に示す格子線の間隔が変化する方格子、図1(e)に示す平行線と放射線の組み合わせからなる格子、図1(f)に示す同心円と放射線の組み合わせからなる格子、図1(g)に示す同心円と平行線の組み合わせからなる格子、これらの格子の格子線の間隔が波状に増減する格子などを挙げることができる。
【0006】
本発明において、格子の個々の交点をランダムに変位させる方法に特に制限はないが、ランダムな変位を乱数に基づいて設定する方法は、市販されている書籍に掲載された乱数表、電気的にパルスを発生させる方法で作成した乱数列、市販されている表計算ソフトウェアの乱数発生機能などを利用することができるので好ましい。使用する乱数に特に制限はなく、一様乱数、疑似乱数のいずれをも用いることができる。市販されている表計算ソフトウェアの乱数発生機能としては、例えば、表計算ソフトウェア「エクセル」(マイクロソフト社)の「RAND」機能などを挙げることができ、この機能を利用して、容易に乱数列を作成することができる。図2は、「RAND」で作成した0〜1の範囲の乱数列の一例である。
本発明において、格子の個々の交点を、交差する2本の格子線方向又はX方向とY方向に、それぞれ変位させる距離は、砥粒の平均粒径の3倍以下であり、好ましくは砥粒の平均粒径の0.5〜2倍であり、より好ましくは砥粒の平均粒径の0.8〜1.5倍である。変位させる距離が砥粒の平均粒径の3倍を超えると、砥粒分布密度に部分的に過度の粗密を生ずるおそれがある。
【0007】
平均粒径250μmの砥粒を、格子線の間隔1,000μmの正方格子に配置し、図2に示す乱数列を用いて、格子の個々の交点をX方向及びY方向に、砥粒の平均粒径の1.2倍以下の距離、すなわち最大300μm変位させる場合を考える。図3は、交点のランダム変位の計算例を示す説明図である。交点を変位させない場合、正方格子上において、4個の砥粒、a、b、c及びdは、図3(a)に示す位置に配置される。図2に示す乱数例の左上から順に、砥粒aのX方向の変位距離、Y方向の変位距離、砥粒bのX方向の変位距離、Y方向の変位距離、砥粒cのX方向の変位距離、Y方向の変位距離、砥粒dのX方向の変位距離、Y方向の変位距離に対応させる。図2に示す乱数列は、0〜1の乱数列なので、図2に示される数値から0.5を減じ、600μmを乗ずることにより、交点を変位させる距離を求めることができる。なお、この数値が正のときは、X方向は右方向、Y方向は上方向、この数値が負のときは、X方向は左方向、Y方向は下方向と決めておく。
【0008】
乱数列の最初の数値は0.16778なので、砥粒aのX方向の変位距離は、
(0.16778−0.5)×600 = −199(μm)
となり、乱数列の次の数値は0.978594なので、砥粒aのY方向の変位距離は、
(0.978594−0.5)×600 = 287(μm)
となる。すなわち、砥粒aは、X方向は左方向に199μm、Y方向は上方向に287μm変位する。
砥粒bの変位距離は、同様にして乱数列の0.979155と0.495107を用いて、
X方向 (0.979155−0.5)×600 = 287(μm)
Y方向 (0.495107−0.5)×600 = −3(μm)
となる。以下、同様にして、砥粒cの変位距離は、
X方向 (0.657807−0.5)×600 = 95(μm)
Y方向 (0.530777−0.5)×600 = 18(μm)
砥粒dの変位距離は、
X方向 (0.533587−0.5)×600 = 20(μm)
Y方向 (0.577899−0.5)×600 = 47(μm)
となる。このようにして設定したランダムな変位を、図3に示す砥粒a、b、c及びdに適用すると、砥粒a、b、c及びdは、図3(b)に示す位置に配置される。
【0009】
図4は、本発明方法に用いられる変位距離の計算を示す模式図の一例である。本例においては、上記の計算と同様に格子線間隔1,000μmの正方格子の個々の交点をX方向及びY方向に、それそぞれ最大変位距離300μmで変位させている。
図5は、本発明方法に用いられる変位距離の計算を示す模式図の他の例である。本例においては、格子線間隔1,000μmの正方格子の個々の交点をX方向及びY方向に、それそぞれ最大変位距離250μmで変位させている。
図6は、本発明方法に用いられる変位距離の計算を示す模式図の他の例である。本例においては、格子線間隔1,000μmの正方格子の個々の交点をX方向及びY方向に、それそぞれ最大変位距離200μmで変位させている。
【0010】
格子線がX方向又はY方向を向いていない、例えば、図1(c)に示す斜方格子の場合は、上記のようにして計算した変位距離の数値が正の場合は斜め上方に変位させ、負の場合は斜め下方に変位させると決めておくことにより、交点の変位の方向と距離を定めることができる。また、図1(f)、図1(g)に示す同心円状の格子線を有する格子では、上記のようにして計算した変位距離の数値が正の場合は時計回り方向に変位させ、負の場合は反時計回り方向に変位させると決めておくことにより、交点の変位の方向と距離を定めることができる。
本発明において、格子線がX方向及びY方向を向いている場合は、交差する2本の格子線方向はX方向及びY方向と一致するが、格子線がX方向又はY方向を向いていない場合は、格子の個々の交点を交差する2本の格子線方向に変位させる代わりに、X方向及びY方向に変位させることができる。ランダムな変位の方向及び距離をコンピュータ処理により設定する場合は、X方向及びY方向に変位させることにより、より容易に変位の設定を行うことができる。
【0011】
本発明方法においては、板状のジグやマスキングテープなどの、上記のようにして設定された位置に、ドリルなどを用いて穴をあけ、この穴を通して砥粒を工具の作用面に配置することができる。また、砥粒を1個又は複数個ずつ、NC制御で作用面に固着することもでき、あるいは、設定された位置に接着剤又は粘着剤をつけておき、砥粒を仮固定する方法を適用することもできる。砥粒を固定する方法に特に制限はなく、電着、ロウ付け、溶射などにより砥粒を固定することができる。
本発明の砥粒工具の製造方法によれば、砥粒分布密度を再現性よく制御して、性能が安定し、しかも被削材表面に筋の残らない、作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具を容易に製造し、眼鏡芯取り用ホイールなどの各種材料の研削に用いる研削ホイールや、CMPコンディショナなどの工具として効果的に使用することができる。
【0012】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
寸法100D−20T−20Hのダイヤモンドストレートホイールを製作し、眼鏡レンズの芯取りを行った。
仮想的な格子として、図7(a)に示すホイール回転方向の格子線の間隔が900μmであり、ホイール回転方向の格子線上に2,000μmおきに砥粒が配置される斜方格子を想定した。砥粒として、平均粒径350μmの人造ダイヤモンド砥粒を用いた。図7(a)で○を付した交点を、CADを用いて乱数に基づき、回転方向に最大300μm、軸方向に最大150μmランダムに変位させた。
マスキングテープに、上記のCADで設定した砥粒配列に基づき、直径400μmの穴をあけた。また、炭素工具鋼S45Cで、φ99.3−20T−20Hの台金を製作した。台金の外周作用面に、穴をあけたマスキングテープを貼り付け、マスキングテープの穴部分に砥粒を1個ずつ配置し、台金作用面に接着剤[セメダイン(株)、工業用セメダイン]を用いて仮固定した。
マスキングテープを外したのち、仮固定した砥粒の間に平均粒径約100μmのNi−Cr系ロウ材粉末を充填し、外周から三つ割の黒鉛製外型で固定し、真空炉中に載置して、5×10-3Pa、1,050℃で15分間保持して、砥粒をロウ付けし、ホイールを完成した。
このホイールを眼鏡レンズ用玉刷り機に取り付け、乾式定圧切り込み円筒研削方式により、直径76.5mm、厚さ5.5mmのポリカーボネート製レンズの研削を行った。ホイール周速を1,057m/minとし、レンズ回転数6min-1で反転を繰り返した。研削の結果は、バリが少なく、加工面の凹凸が小さく、研削方向の筋は認められなかった。
比較例1
ダイヤモンド砥粒を配置する位置が仮想的な格子の交点であって、ランダムに変位されていないダイヤモンドストレートホイールを製作し、眼鏡レンズの芯取りを行った。
仮想的な格子として、図7(a)に示すホイール回転方向の格子線の間隔が900μmであり、ホイール回転方向の格子線上に2,000μmおきに砥粒が配置される斜方格子を想定した。砥粒として、平均粒径350μmの人造ダイヤモンド砥粒を用いた。
マスキングテープの図7(a)で○を付した交点の位置に、直径400μmの穴をあけた。また、炭素工具鋼S45Cで、φ99.3−20T−20Hの台金を製作した。台金の外周作用面に、穴をあけたマスキングテープを貼り付け、実施例1と同様にして、マスキングテープの穴部分に砥粒を1個ずつ仮固定したのち、砥粒をロウ付けし、ホイールを完成した。
このホイールを眼鏡レンズ用玉刷り機に取り付け、実施例1と同様にしてポリカーボネート製レンズの研削を行った。レンズ外周の加工面に、深さ約0.1mmの円周方向の溝が数本観察され、この溝がレンズの外観を著しく悪化させた。
実施例2
寸法100D−4Tで、中心穴のないCMPコンディショナを製作し、ポリッシングパッドのコンディショニングを行った。
仮想的な格子として、図7(b)に示す格子線の間隔が1,000μmである正方格子を想定した。砥粒として、平均粒径250μmの人造ダイヤモンド砥粒を用いた。正方格子の交点を、CADを用いて乱数に基づき、X方向及びY方向にそれぞれ最大300μmランダムに変位させた。
マスキングテープに、上記のCADで設定した砥粒配列に基づき、直径270μmの穴をあけた。また、ステンレス鋼SUS304で、100D−4Tの基板を製作した。基板の作用面に、穴をあけたマスキングテープを貼り付け、マスキングテープの穴部分に砥粒を1個ずつ配置し、基板の作用面に接着剤[セメダイン(株)、工業用セメダイン]を用いて仮固定した。
マスキングテープを外したのち、ニッケルメッキにより平均砥粒径の約70%まで埋め込んで砥粒を固定し、CMPコンディショナを完成した。
このCMPコンディショナを用いてポリッシングパッドをコンディショニングしたのち、酸化膜付きシリコンウェーハのCMP加工を行った。加工後のシリコンウェーハは、平坦度が良好であり、スクラッチも認められなかった。
【0013】
【発明の効果】
本発明の砥粒工具の製造方法によれば、砥粒分布密度を制御することができ、しかも被削材表面に筋の残らない、作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、仮想的な格子の形状の例である。
【図2】図2は、0〜1の範囲の乱数列の一例である。
【図3】図3は、交点のランダム変位の計算例を示す説明図である。
【図4】図4は、本発明方法に用いられる変位距離の計算を示す模式図の一例である。
【図5】図5は、本発明方法に用いられる変位距離の計算を示す模式図の他の例である。
【図6】図6は、本発明方法に用いられる変位距離の計算を示す模式図の他の例である。
【図7】図7は、実施例において想定した仮想的な格子である。
Claims (2)
- 作用面に砥粒を単層に固着した砥粒工具において、該工具の作用面に仮想的な格子を想定し、該格子の個々の交点を、交差する2本の格子線方向又はX方向とY方向に、それぞれ砥粒の平均粒径の3倍以下の距離だけランダムに変位させた位置に対応させて穴をあけたマスキングテープ若しくは板状ジグを作用面に取り付け、マスキングテープ若しくは板状ジグの穴部分に砥粒を1個ずつ配置して仮固定し、マスキングテープ若しくは板状ジグを取り外したのち、前記砥粒を作用面に固定することを特徴とする砥粒工具の製造方法。
- マスキングテープ若しくは板状ジグの穴の位置のランダムな変位が、乱数に基づいて設定される請求項1記載の砥粒工具の製造方法。
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