JP3947187B2 - 木材又は紙用塗料 - Google Patents

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Description

本発明は、短時間で自然乾燥可能な木材又は紙用塗料に関する。
天然漆は、「ふっくら感」、「しっとり感」、「深み感」などの感性を発現する美的耐久性に優れた塗膜を形成する。しかし、その乾燥は高湿度で加速され、低湿度では進行しない湿気硬化型の塗料用硬化材料であり、初期の乾燥が遅いため、「ダレ」、「タマリ」などの塗膜欠陥を生じやすく、過剰の加湿によって皺を発生するため、乾燥の管理には熟練を要する。さらに、完全乾燥には1週間以上の養生期間が必要である。
この乾燥システムは、天然漆液中に含まれるラッカーゼ酵素が高湿度の環境で活性化され、主成分であるウルシオールを酸化してオリゴマーを生成し、ウルシオール側鎖の自動酸化反応を経て硬化するものであり、一般には、漆室(ムロ)と称する特殊な乾燥設備が必要である。このため、湿度の影響を受けることなく速乾性を有する自然乾燥性漆の開発が望まれていた。
天然漆液の乾燥促進を目的として多くの発明が提案されているが、いずれも乾燥促進の効果はあるものの、依然として乾燥速度は満足しうるものではなく、また、高湿度の漆室(ムロ)を必要としていた。例えば、特許文献1は、反応容器中で酵素重合を行い、ウルシオールオリゴマーを生成させる自動酸化反応主体の自然乾燥性重合漆の技術を開示しているが、硬化するまでに8時間以上を要している。
一方、カシューナットシェルオイルは安価であるため、天然漆の代替として広く使用されているが、そのままでは硬化せず、ホルムアルデヒドやヘキサミンなどを反応させてオリゴマー化したものを塗料などの硬化成分として使用していた。しかし、このオリゴマー化反応は工程が増えて、価格も高くなるだけでなく、依然として、天然漆と同様の「乾燥に長時間を要する」という問題を有していた。
特許第3001056号公報
本発明は、漆室(ムロ)などの特殊な設備を使用することなく、常温、常湿で従来より著しく短時間で乾燥して、高品質の漆(様)の被膜を形成することができると共に溶剤を含まないハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルを硬化成分とする木材又は紙用塗料を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究した結果、漆類とカシューナットシェルオイルのフェノール性水酸基に特定化学構造の化合物を反応させて有機−無機ハイブリッド化することにより前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の(1)〜()である。
(1) (A)ラッカーゼ酵素を含む漆類及び/又はカシューナットシェルオイルと、(B)一般式:XnSi(OR)m(但し、式中、Xはアミノ基、アルキルアミノ基、アミノアルキル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基ビニル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基からなる群から選ばれる基であり、Rはアルキル基であり、nとmはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい1〜3の整数であり、かつ、nとmの合計は4である。)で表わされる化合物を、(A)成分の有効成分100gに対して(B)成分を10〜500gの割合で、かつ50℃を超えないよう温度制御しながら、反応させて得られた、常温速乾性のラッカーゼ酵素を含むハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルを含有すること、を特徴とする木材又は紙用塗料。
(2) (A)成分がラッカーゼ酵素を含む漆類である、前記(1)の木材又は紙用塗料。
(3) (A)成分がカシューナットシェルオイルである、前記(1)の木材又は紙用料。
常温で(A)成分と(B)成分とを一緒に攪拌するという簡易な操作でハイブリッド化して得られた、本発明における有機−無機のハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルは、常温、常湿で従来より著しく短時間で乾燥して、高品質の漆(様)の被膜を形成でき、無溶剤で使用できる。すなわち、本発明の木材又は紙用塗料は、例えば20〜25℃、40〜50%RHといった低湿度の条件でも(従来公知の方法に較べて著しく速い)2時間以内で硬化、乾燥して、鉛筆硬度2H以上で、淡色で透明度が高く、皺のない膜厚の被膜を形成することができ、天然漆から伝統的手法により形成される塗膜に比べて同等以上の品質を持っている。また、本発明の速乾性のハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルを含有する木材又は紙用塗料は、木材や紙に対して高い接着力を持っている。そのため、漆室(ムロ)などの特殊な設備を要せず、しかも、塗装効率及び接着効率が顕著に向上できるので、漆の工業塗装分野への展開が可能となるという重大な意義を有する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における(B)一般式:XnSi(OR)m(但し、式中、Xはアミノ基、アルキルアミノ基、アミノアルキル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基ビニル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基からなる群から選ばれる基であり、Rはアルキル基であり、かつ、nとmはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい1〜3の整数であり、nとmの合計は4である。)で表わされる化合物は、漆類、カシューナットシェルオイルのフェノール性水酸基を変性して、その硬化を顕著に促進させるためのものである。このXは、具体的には、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基ビニル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基などであり、このうち、アミノ基、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基ビニル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基又はβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が好ましい。Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基などが挙げられ、このうち、メチル基が好ましい。
この化合物は、単独で使用できるだけではなく、2種以上を混合して使用することができる。混合使用した場合、縮合度の異なるハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルが得られ、耐水性の向上や乾燥速度の調節も容易となる。
本発明における常温速乾性のハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルの製造は、(A)漆類及び/又はカシューナットシェルオイルと、(B)前記一般式で表される化合物とを単に混合することにより容易に行うことができる。
本発明における漆類とは、漆料植物から得られる漆液(生漆)、生漆をJIS K 5950の方法によって「クロメ」(加熱脱水)処理して得られる精製漆、生漆のアセトン可溶成分を濃縮して得られるウルシオール、ラッコール又はチチオール、化学合成によって得られるアルケニルカテコール、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。アルケニルカテコールとしては、具体的には、3−(8−ペンタデセニルカテコール)、3−(8,11−ペンタデカジエニルカテコール)、3−ペンタデカトリエニルカテコールなどが挙げられる(永瀬、宮腰:塗装工学、Vol.32、No.11、p22〜35(1997)参照)。本発明において、漆類は天然漆液に含まれるラッカーゼ酵素を含むものである。カシューナットシェルオイルは、カシュー樹の実から得られるものであり、カルダノールを有効成分とするものである。特に、生漆を「クロメ」処理して得られる精製漆と、これ以外の前記漆類或いはカシューナットシェルオイルとを混合して使用するのが好ましい。また、カシューナットシェルオイルと前記漆類とを混合して使用することもできるが、カシューナットシェルオイルが主成分の場合は、前記一般式で表される化合物を作用させると粘度と乾燥速度が高くなり、漆類が主成分の場合は、粘度と乾燥速度が低くなる傾向にある。
(A)漆類、カシューナットシェルオイルに(B)前記一般式で表される化合物を加えると、その官能基Xが漆類、カシューナットシェルオイルのフェノール性水酸基に作用して共縮合体を生成し、その際、発熱を伴って増粘するため、前記一般式で表される化合物は少量ずつ添加し、反応系が50℃を超えないよう温度制御することが必要であり、常温で1〜3時間攪拌するのが好ましい。
本発明における常温速乾性のハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルの製造において、前記一般式で表される化合物の使用量は、それらの有効成分(ウルシオール、ラッコール、チチオール、アルケニルカテコール又はカルダノール100%として)100gに対して、前記一般式で表される化合物10〜500gであり、30〜300gの割合であることが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例1
中国産生漆のアセトン可溶分を濃縮して得たウルシオール100gに、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン50gを滴下し、液温が50℃を超えないよう制御しながら攪拌して反応を行って、常温になった時を終点として共縮合体を得た。この反応生成物の粘度は8200mPa・s/20℃であった。
これを76±5μmのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して常温、40〜50%RHの室内に静置したところ、30分間で指触乾燥し、2時間で硬化乾燥した。24時間後の乾燥塗膜の鉛筆硬度は5Hであり、淡赤褐色を示した。
なお、比較のために、同条件で試験した市販の精製漆塗膜は、24時間経過しても乾燥していなかった。
実施例2
カテコールと亜麻仁油のクロスカップリング反応によって得た3−アルケニルカテコール100gにN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン100gを滴下し反応させた以外は実施例1と同様にして共縮合物を得た。
この反応生成物は、粘度が7000mPa・s/20℃であり、塗膜形成後、常温、40〜50%RH、1時間で指触乾燥し、2.5時間で硬化乾燥した。24時間後の乾燥塗膜の鉛筆硬度は3Hであり、60度反射光沢度計による乾燥塗膜の光沢は100%を示した。
実施例3
カシューナットシェルオイル100gにN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシランとβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとの混合物100gを滴下し反応させた以外は実施例1と同様にして共縮合物を得た。
この反応生成物の粘度は5500mPa・s/20℃であり、常温、40〜50%RH、2時間で指触乾燥し、5時間で硬化乾燥した。24時間後の乾燥塗膜の鉛筆硬度は2Hであり、淡黄色を示した。
実施例4
中国産生漆のアセトン可溶分を濃縮して得たウルシオール100gとカシューナットシェルオイル100gを混合し、この中にN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン50gを滴下し反応させた以外は実施例1と同様にして共縮合物を得た。
この反応生成物は、粘度が5500mPa・s/20℃であり、塗膜形成後、常温、40〜50%RH、1時間で指触乾燥し、3時間で硬化乾燥した。24時間後の乾燥塗膜の鉛筆硬度は3Hであり、60度反射光沢度計による乾燥塗膜の光沢は100%を示した。
実施例5
中国産生漆をJIS K 5950の方法に準じて「クロメ」処理した(ラッカーゼ酵素を含む)精製漆100gにN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシランとβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとの混合物60gを滴下し反応させた以外は実施例1と同様にして共縮合物を得た。
この反応生成物の粘度は8500mPa・s/20℃であり、塗膜形成後、常温、40〜50%RH、30分間で指触乾燥し、2時間で硬化乾燥した。24時間後の乾燥塗膜の鉛筆硬度は5Hであった。
実施例6
中国産生漆をJIS K 5950の方法に準じて「クロメ」処理した(ラッカーゼ酵素を含む)精製漆50gとカシューナットシェルオイル50gを混合し、この中にN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシランとβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとの混合物100gを滴下した以外は実施例1と同様にして共縮合物を得た。
この反応生成物の粘度は4000mPa・s/20℃であり、塗膜形成後、常温、40〜50%RH、40分間で指触乾燥し、3時間で硬化乾燥した。24時間後の乾燥塗膜の鉛筆硬度は3Hであった。

Claims (3)

  1. (A)ラッカーゼ酵素を含む漆類及び/又はカシューナットシェルオイルと、(B)一般式:XnSi(OR)m(但し、式中、Xはアミノ基、アルキルアミノ基、アミノアルキル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基ビニル基、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基からなる群から選ばれる基であり、Rはアルキル基であり、nとmはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい1〜3の整数であり、かつ、nとmの合計は4である。)で表わされる化合物を、(A)成分の有効成分100gに対して(B)成分を10〜500gの割合で、かつ50℃を超えないよう温度制御しながら、反応させて得られた、常温速乾性のラッカーゼ酵素を含むハイブリッド漆類及び/又はハイブリッドカシューナットシェルオイルを含有すること、を特徴とする木材又は紙用塗料。
  2. (A)成分がラッカーゼ酵素を含む漆類である、請求項1に記載の木材又は紙用塗料。
  3. (A)成分がカシューナットシェルオイルである、請求項1に記載の木材又は紙用塗料。
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