JP3946513B2 - 円筒部を有する鋳造品及び円筒部内面の表面加工方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は,ダイカストなどの鋳造により得られた円筒部を有する鋳造品,及び円筒部内面の表面加工方法に関する。
【0002】
【従来技術】
例えばダイカストなどによって得られた鋳造品を研削または切削して形状を整えて表面処理する場合には,鋳巣等の表面付近の鋳造欠陥が問題となる。そのために,表面を加工して欠陥を潰す方法がいくつか提案されている。
第1の従来法は,特開平10−94869号公報に示されているごとく,シリンダブロック上平面をコンパクトな加圧手段で表面を加圧し,表面層の鋳巣を潰す方法である。この方法では,転動,ローラー,球を用い,これらを加圧方向に対して横方向あるいは斜め方向に移動させながら,鋳物の表面を連続して加圧する。また,上記シリンダブロックを加熱することも記載されている。
【0003】
第2の従来法は,特開2000−263335号公報に示されているごとく,アルミ鋳物シール面を荒加工後,発熱用プローブピンを回転させながら押し付け,発生する摩擦熱で母材を塑性流動させピンを押し込み,移動させることで,内部欠陥を潰す方法である。
【0004】
第3の従来法は,特開2000−33455号公報に示されているごとく,シリンダブロックそのものの鋳巣を潰すのではなく,別部材であるスリーブ素材を型鍛造により略コップ状に成形し,底部を除去してスリーブとし,シリンダブロックに鋳込みまたは圧入する方法である。
【0005】
第4の従来法は,塑性加工学会において,株式会社豊田中央研究所,名古屋工業大学,名古屋大学などにより発表されたものであって,円筒部材内面を加工するに当たって,ボールやローラーを押し通したりする方法である。最近では多数個のボールやローラーをベアリングに保持して内面に押し当てて回転しながら通して仕上げる方法も提案されている。
【0006】
第5の従来法は,USP5609922号公報に示されているように,溶射で表面の鋳造欠陥を埋める方法である。
【0007】
【解決しようとする課題】
しかしながら,例えばエンジンのシリンダブロックのように円筒部を有する鋳造品の円筒部内面を表面加工するには,上記いずれの従来法にも問題がある。
即ち,上記第1及び第2の従来法は,そもそも平面を加工対象としており,また,加工が局部的に行われるので面全体を加工するのに時間がかかる。また加工後の精度は低いと考えられる。第3の従来法は,鋳巣等の鋳造欠陥を改善するものではない。第4の従来法では,滑らかな内面を形成するのは困難である。さらに,第5の従来法では生産能率(処理コスト)や性能に問題がある。
【0008】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,鋳造品における円筒部の内面を効率よく容易に表面加工することができる表面加工方法及びこの方法によって得られた鋳造品を提供しようとするものである。
【0009】
【課題の解決手段】
第1の発明は,円筒部を有する鋳造品の上記円筒部の内面を表面加工する方法であって,
円周方向に押圧突起と溝部とを交互に配設して凹凸形状を呈してなる凹凸加工部を軸線方向に複数有していると共に,隣接する上記凹凸加工部における上記押圧突起の配設位置が互いにずれており,軸線方向に透視した場合に上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部の加工前内径よりも若干大きい径の円形を描くよう構成された円筒工具を用い,
該円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させることなく軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法にある(請求項1)。
【0010】
上記第1の発明の円筒工具は,上記複数の凹凸加工部を軸線方向に連ねて有している。そのため,この円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させることなく軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させるだけで,比較的小さな加工荷重で精度よく表面加工を行うことができる。
【0011】
即ち,上記各凹凸加工部は,上記押圧突起と溝部とを交互に有している。そのため,上記円筒工具を上記鋳造品の円筒部内で前進させる際には,上記押圧突起の外周面部分のみが上記円筒部の内表面に接触し,その部分が局部的に加工される。そのため,加工荷重は,内表面の円周方向全面を同時に加工する場合に比べて大幅に小さくすることができ,また,過剰な荷重が円筒部に付与されて円筒部に割れが入る等の不具合を防止することもできる。
【0012】
また,上記円筒工具には,上記凹凸加工部が軸方向に複数段連なっている。そして,各段の押圧突起の位置は互いにずれているので,前段に配設されている凹凸加工部の押圧突起により加工されなかった部分は,後段側に配設されている凹凸加工部の押圧突起によって加工される。また,すべての押圧突起の外周端を結んだ輪郭は,上記のごとく円形を有しているので,上記円筒工具の前進につれて加工された部分が増え,前進完了によって内表面全体が加工される。
【0013】
そして,上記押圧突起による押圧によって加工された上記鋳造品の円筒部の内表面は,鋳巣等が押し潰されて鋳造欠陥が少なくなり,表面粗さや形状精度も向上する。しかも,このような効果は,上記のごとく,円筒工具を回転させることなく前進させるだけで得られるのである。
このように,上記第1の本発明によれば,鋳造品における円筒部の内面を効率よく容易に表面加工することができる表面加工方法を提供することができる。
【0014】
第2の発明は,円筒部を有する鋳造品の上記円筒部の内面を表面加工する方法であって,
円筒状の外周面において押圧突起と溝部とを交互に有すると共に上記押圧突起及び上記溝部を軸線方向から所定角度傾けて配置してなり,軸線方向に透視した場合に上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部の加工前内径よりも若干大きい径の円形を描くよう構成され,上記押圧突起は,上記溝部に面する側面に設けた傾斜面と,上記押圧突起の頂点部に設けた外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有し,該ランド部と上記傾斜面との境界部である角部が,上記円筒部の加工前内径と上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭との差である圧下量の0.1〜0.5倍の値の曲率半径を有する曲面になるよう滑らかに面取りしてある円筒工具を用い,
該円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させることなく軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法にある(請求項5)。
【0015】
上記第2の発明の円筒工具は,上記押圧突起と溝部とを軸線方向から所定角度傾むけて斜めに配置してあり,いわばはすば歯車のような形状を有している。そのため,この円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させることなく軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させることにより,比較的小さな加工荷重で精度よく表面加工を行うことができる。
【0016】
即ち,上記各押圧突起と溝部とは軸線方向に対して傾いているので,円筒工具を円筒部内で前進させることによって,上記鋳造品の円筒部内面に対して,上記押圧突起が局部的に順次接触し,加工される。そのため,加工荷重は,内表面の円周方向全面を同時に加工する場合に比べて大幅に小さくすることができ,また,過剰な荷重が円筒部に付与されて円筒部に割れが入る等の不具合を防止することもできる。
【0017】
また,上記円筒工具は,上記斜めの押圧突起のすべての外周端を結んだ輪郭が,上記のごとく円形を有するよう構成されている。そのため,上記円筒工具の前進につれて加工された部分が増え,前進完了によって内表面全体が加工される。
そして,この第2発明によっても,上記押圧突起による押圧によって加工された上記鋳造品の円筒部の内表面は,鋳巣等が押し潰されて鋳造欠陥が少なくなり,表面粗さや形状精度も向上する。しかも,このような効果が,上記のごとく,円筒工具を回転させることなく前進させるだけで得られるのである。
【0018】
第3の発明は,円筒部を有する鋳造品の上記円筒部の内面を表面加工する方法であって,
円筒状の外周面において押圧突起と溝部とを交互に有すると共に上記押圧突起及び上記溝部を軸線方向から0°あるいは所定角度傾けて配置してなり,軸線方向に透視した場合に上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部の加工前内径よりも若干大きい径の円形を連続的又は間欠的に描くよう構成され,上記押圧突起は,上記溝部に面する側面に設けた傾斜面と,上記押圧突起の頂点部に設けた外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有し,該ランド部と上記傾斜面との境界部である角部が,上記円筒部の加工前内径と上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭との差である圧下量の0.1〜0.5倍の値の曲率半径を有する曲面になるよう滑らかに面取りしてある円筒工具を用い,
該円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させながら軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させ,
かつ,上記円筒工具の周速をA(mm/s),軸線方向の前進の速度をB(mm/s)とした場合,A/Bが0.5〜50であることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法にある(請求項8)。
【0019】
上記第3の発明の円筒工具も,上記押圧突起と溝部とを軸線方向から所定角度傾むけて斜めに配置してあり,いわばはすば歯車状の形状を有している。そして,この円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させながら前進させる。このとき上記のごとく,上記円筒工具の周速をA,軸線方向の前進の速度をBとした場合,A/Bが0.5〜50とする。これにより,効率よく,かつ精度よく上記円筒部内面の表面加工を行うことができる。
【0020】
上記A/Bが0.5未満の場合には,回転による表面粗度向上効果が少なくなるという問題がある。一方,上記A/Bが50を超える場合には,前進速度に対する周速が早すぎて,微小圧下状態でこする現象が生じやすくなり,鋳巣等の鋳造欠陥を潰す効果が減少するおそれがある。
なお,このA/Bの比の与え方は,回転させながら押し込んでも,間欠的に,即ち一定量押し込んでから一定量周方向へ送る方法でも良い。
【0021】
また,この第3の発明によっても,上記押圧突起による局部的な加工が繰り返されるので,内表面の円周方向全面を同時に加工する場合に比べて加工荷重を小さくすることができ,また,過剰な荷重が円筒部に付与されて円筒部に割れが入る等の不具合を防止することもできる。
【0022】
また,上記円筒工具には,上記斜めの押圧突起のすべての外周端を結んだ輪郭が,上記のごとく連続的又は間欠的に円形を描くように構成されているので,上記円筒工具の前進と回転につれて加工された部分が増え,前進及び回転の完了によって内表面全体が加工される。
そして,この第3発明によっても,上記押圧突起による押圧によって加工された上記鋳造品の円筒部の内表面は,鋳巣等が押し潰されて鋳造欠陥が少なくなり,表面粗さや形状精度も向上する。
【0023】
第4の発明は,円筒部を有する鋳造品であって,上記円筒部の内面は,請求項1〜9のいずれか1項に記載の円筒部内面の表面加工方法を施してあることを特徴とする円筒部を有する鋳造品にある(請求項11)。
【0024】
この鋳造品は,上記のごとく優れた加工方法により円筒部内面を表面加工されているので,非常に平滑で優れた内面を有するものとなる。それ故,例えば,エンジンのシリンダブロック等の円筒部の精度が重要な部品にも適用することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
上記第1の発明においては,上記押圧突起は,軸線方向に対して傾斜した傾斜面と,外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有していることが好ましい(請求項2)。この場合には,上記傾斜部によって徐々に円筒部内面への押圧量を増し,上記ランド部によって押圧状態を維持することができる。これにより,鋳巣等の鋳造欠陥を潰す効果を安定して得ることができる。
【0026】
また,上記円筒工具は,3以上の上記凹凸加工部を有していることが好ましい(請求項3)。これにより,1つの凹凸加工部における押圧突起により同時に加工する面積をより小さくすることができ,加工荷重をより低減することができる。さらに,同一箇所を複数回順次加工するように多数の凹凸加工部を配置することにより,形状精度をさらに向上させることができる。
【0027】
また,上記第1又は第2の発明においては,上記円筒工具は,上記円周方向において凹凸のない略真円状の加工面を有するサイジング部を最後部に有していることが好ましい(請求項4,7)。これにより,上記鋳造品の円筒部の形状精度や表面粗度をさらに向上させることができる。
【0028】
また,上記第2又は第3の発明においては,上記押圧突起は,上記溝部に面する側面に設けた傾斜面と,上記押圧突起の頂点部に設けた外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有している。これにより,上記傾斜部によって徐々に円筒部内面への押圧量を増し,上記ランド部によって押圧状態を維持することができ,鋳巣等の鋳造欠陥を潰す効果を安定して得ることができる。
【0029】
また,上記第4の発明にいては,上記円筒部の内面は,上記表面加工方法を施した後に,表面処理を施してあることが好ましい(請求項11)。この場合には,上記表面処理によって,より平滑で優れた内面を得ることができる。
【0030】
また,上記円筒部内面の表面加工方法を施した後に施す上記表面処理は,溶射処理であることが好ましい(請求項12)。溶射処理は,溶融した金属粒子等を吹きつけて被覆を行う方法であって,表面硬化,防錆その他の種々の改質を得ることができる。
【0031】
【実施例】
(実施例1)
本発明の実施例に係る円筒部内面の表面加工方法につき,図1〜図6を用いて説明する。
本例の表面加工方法は,図5,図6に示すごとく,円筒部81を有する鋳造品8の上記円筒部81の内面を表面加工する方法である。
この方法は,図1に示すごとく,円周方向に押圧突起11と溝部12とを交互に配設して凹凸形状を呈してなる凹凸加工部10(10a〜10c)を軸線C1方向に複数有していると共に,隣接する上記凹凸加工部10における上記押圧突起11の配設位置が互いにずれており,軸線C1方向に透視した場合に上記押圧突起11の外周端を結んだ輪郭R(図2)が上記円筒部81の加工前内径よりも若干大きい径の円形を描くよう構成された円筒工具1を用いる。
そして,円筒工具1の軸線C1と上記鋳造品8における円筒部81の軸線C2とを同一線上に合わせた状態で,円筒工具1を回転させることなく軸線方向に沿って円筒部81内で前進させる。
以下,これを詳説する。
【0032】
本例で加工する鋳造品8は,図5,図6に示すごとく,アルミ合金をダイカストすることにより得られたエンジンのシリンダブロックである。この鋳造品8は,図5に示すごとく,円筒部81としてのシリンダを4箇所に有し,各円筒部81の周囲には水冷ジャケット用の空隙85が形成されている。本例では,この円筒部81の内面を表面加工する。図6に示すごとく,円筒部81の内周面は,予め直径D1となるように切削加工しておく。この時点では,鋳巣が表面に露出し,内周面に微小な凹部が残存している。
【0033】
この鋳造品8の円筒部81内面を加工する工具としては,上記の円筒工具1を用いる。本例では,図1に示すごとく,上記凹凸加工部10a,10b,10cをそれぞれ有する円盤状のセグメントを少しずつ位相を変えて3つ重ねて一体化したものを用いた。
図2に示すごとく,隣接するセグメント,即ち隣接する凹凸加工部10における上記押圧突起11の配設位置が互いにずれており,軸線方向に透視した押圧突起11の外周端を結んだ輪郭Rが上記円筒部81の加工前内径D1よりも若干大きい径d0を有している。具体的な直径差は,例えば0.2〜3mm,圧下量に換算して0.1〜1.5mmに設定する。また,本例では,工具直径80mm,溝数12とし,各凹凸加工部10の押圧突起11の配設ピッチP1を20.9mm,その軸方向長さL1を20mmとした。
【0034】
なお,この直径差(圧下量)は,上記円筒部81の肉厚等によって変更することができる。ここで上記円筒部81の肉厚をtとすると,圧下量はtの0.01倍〜0.3倍の範囲で設定することが好ましい。圧下量が円筒部の肉厚tの0.01倍未満の場合には,材料流れが小さくなり,表面の空隙がうまらないという問題があり,一方,0.3倍を超える場合には,シリンダ外周部にかかる応力が高くなって割れやすくなるという問題がある。
【0035】
また,図3に示すごとく,各押圧突起11は,軸線方向に対して傾斜した傾斜面111と,外径が略一定のランド部112とを連ねた形状を有している。上記傾斜部111の軸線方向に対する傾斜角α1は,円筒部81の内面を圧下する圧下量の設定値などによって適宜変更することができるが,4°〜60°の範囲にすることが好ましい。4°未満の場合には,適度な圧下量を得るのに長い距離が必要となり,一方,60°を超える場合には傾斜がきつすぎて円筒工具1の前進をスムーズに行うことが困難となるという問題がある。
【0036】
また,図4に示すごとく,各押圧突起の側面角部113には,外周端の接線方向に対して傾斜角度α2の角度の面取りを施してある。これにより押圧突起11からの押圧によって円筒部81の内面の材料に段差ができて折り重なったりする不具合を防止する。なお,この傾斜角度α2も,10°〜60°の範囲で適宜変更することができる。α2が10°未満の場合には,円周方向のランド部112の長さが短くなる問題が生じ,一方,60°を超える場合には,上記折り重なり等の不具合防止効果が小さくなるという問題がある。
【0037】
次に,上記のごとき構成を有する円筒工具1を用いて上記鋳造品8の円筒部81内面を加工するに当たっては,まず,図1に示すごとく,円筒工具1の軸線C1と上記鋳造品8における上記円筒部81の軸線C2とを同一線上に合わせる。
次いで,円筒工具1を回転させることなく軸線C1方向に沿って円筒部81内に挿入し,前進させる。そして,円筒工具1が円筒部81を貫通して抜け出るまで円筒工具1を前進させる。
【0038】
このときの上記円筒工具1の前進によって,まず第1段目のセグメントにおける凹凸加工部10aの押圧突起11が,円筒部81内に圧入される。具体的には,図3に示すごとく,押圧突起11の傾斜部111が円筒部81の内面に当接し,その当接部を局部的に圧下量hまで圧下し,その後ランド部112により圧下量hを維持したまま押圧を続ける。次いで,2段目のセグメントにおける凹凸加工部10bの押圧突起11が,軸方向において1段目の押圧突起11と重なっている部分では,さらにランド部112による圧下量hの押圧が続けられる。
【0039】
同様に,1段目の押圧突起11と3段目の押圧突起11による2回の押圧,あるいは1段目には押圧されずに,2段目の押圧突起11と3段目の押圧突起11によって圧下される部分も有り,全体で見れば,すべての面が順次局部的に最小限1回は押圧加工される。そして,すべての押圧突起11の外周端を結んだ輪郭Rが,上記のごとく円形を有しているので,円筒工具1の前進につれて加工された部分が増え,前進完了によって内表面全体が加工される。
【0040】
これにより,上記円筒工具1を通過させた円筒部81の内表面は,鋳巣等が押し潰されて鋳造欠陥が少なくなり,表面粗さや形状精度も向上した非常に優れた面となる。
しかも,このような効果は,上記のごとく,円筒工具1を回転させることなく前進させるだけで得られるのである。そしてその際の加工荷重は,内表面の円周方向全面を同時に加工する場合に比べて大幅に小さくすることができ,また,過剰な荷重が円筒部に付与されて円筒部81に割れが入る等の不具合を防止することもできる。
【0041】
しかも,このような効果は,上記のごとく,円筒工具1を回転させることなく前進させるだけで得られるのである。
このように,本例によれば,鋳造品8における円筒部81の内面を効率よく容易に表面加工することができる
【0042】
(実施例2)
本例では,図7に示すごとく,実施例1における円筒工具1の構成を変更し,凹凸加工部10(a〜f)を6段構成とすると共に,さらに最終段として円周方向において凹凸のない略真円状の加工面を有するサイジング部19を,上記凹凸加工部10fの最後部に設けた例である。
【0043】
この場合には,上記サイジング部19を通過させることにより,上記円筒部81の内面の面粗度状態や形状精度をさらに向上させることができる。
さらに,上記凹凸加工部10を3段から6段に増加させることによって,最初の3段(10a〜10c)の外形寸法(d01)と後の3段(10d〜10f)の外形寸法(d02)を変化させることもでき,2段階の押圧加工を1度の前進動作により実施することもできる。これにより,一層大きな加工を円筒部81内面に与えることも可能となる。
【0044】
この凹凸加工部10の段数やサイジング部19の有無は,対象部品の厚みtや鋳造時に発生した欠陥の大きさや分布状況によって適宜選択することができる。
ただし,あまり段数が多いと,工具製造にコストがかかるため,10段以下とすることが望ましい。少ないほうは,最小限2段とすることもできる。
また,1段後部の凹凸部は本例では12であるが,最小限3,最大はいくつでもよいが,製作の手間からすると50くらいまでとすべきである。
【0045】
(実施例3)
本例は,実施例1における円筒工具1に変えて,異なる形状の円筒工具2を用いて上記円筒部81の内面を表面加工する例である。
本例の円筒工具2は,図8に示すごとく,円筒状の外周面において押圧突起21と溝部22とを交互に有すると共に上記押圧突起21及び上記溝部22を軸線C3方向から所定角度β1傾けて配置してなり,軸線C3方向に透視した場合に上記押圧突起21の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部81の加工前内径D1よりも若干大きい径d0の円形を描くよう構成されている。
【0046】
また,押圧突起21の傾きβ1は,図8に示すごとく,軸線C3方向で見たときに重なりKが生ずるように選ぶ必要がある。従って,押圧突起21の軸線方向長さL2が短いほど,傾き角β1は大きくとる必要がある。
本例では,傾き角β1を30°とし,長さとピッチを選んだ。
【0047】
また,図9,図10に示すごとく,上記押圧突起21は,上記溝部22に面する側面に設けた傾斜面211と,上記押圧突起21の頂点部に設けた外径が略一定のランド部212とを連ねた形状を有している。本例では,上記押圧突起21の左右の側面に傾斜面211を設け,いずれも同じ傾き角β3とした。この傾き角β3は10°〜60°の範囲で選択することができる。また,傾斜面211とランド部212との境界部である角部215は,曲率半径が圧下量hの0.1〜0.5倍程度の曲面になるよう滑らかに面取りしてある。
【0048】
また,押圧突起21の前端角部には,傾斜角β2だけ傾斜した導入部213を設けた。β2は4°〜60°の範囲で選びうる。その理由は実施例1と同様な理由である。
さらに,図8に示すごとく,本例の円筒工具2は,上記円周方向において凹凸のない略真円状の加工面を有するサイジング部29を最後部に有している。
【0049】
そして,図8に示すごとく,本例においても,実施例1と同様に,上記構成の円筒工具2の軸線C3と鋳造品3における円筒部81の軸線C2とを同一線上に合わせた状態で,円筒工具2を回転させることなく軸線C3方向に沿って円筒部81内で前進させる。これにより,鋳造品8の円筒部81内面に対して,押圧突起21が局部的に順次圧接触し,加工が施される。そのため,加工荷重は,内表面の円周方向全面を同時に加工する場合に比べて大幅に小さくすることができ,また,過剰な荷重が円筒部81に付与されて円筒部81に割れが入る等の不具合を防止することもできる。
【0050】
また,上記円筒工具2は,上記斜めの押圧突起21のすべての外周端を結んだ輪郭が,上記のごとく円形を有するよう構成されている。そのため,上記円筒工具21の前進につれて加工された部分が増え,前進完了によって内表面全体が加工される。
そして,本例によっても,上記押圧突起21による押圧によって加工された上記鋳造品8の円筒部81の内表面は,鋳巣等が押し潰されて鋳造欠陥が少なくなり,表面粗さや形状精度も向上する。しかも,このような効果が,上記のごとく,円筒工具2を回転させることなく前進させるだけで得られるのである。
【0051】
なお,本実施例における円筒工具2の構成を変えて,多段構成とすることもできる。この場合,上記押圧突起21を有する工具を2段以上とすることで,より大きな圧下量がとれ,面の性状も向上する。また,2段以上にする場合,ねじれ角の方向を交互に逆転させることで,加工時に工具と被加工物間で回転しようとする力を抑制することもできる。
【0052】
(実施例4)
本例は,実施例3とほぼ同様あるいはねじれ角が0かやや減少させた円筒工具3を用いて,これを回転させながら軸線C4方向に沿って前進させて表面加工する例である。
図11に示すごとく,本例の円筒工具3は,円筒状の外周面において押圧突起31と溝部32とを交互に有すると共に上記押圧突起31及び溝部32を軸線C4方向から所定角度γ1傾けて配置してなり,実施例3のごとく,軸線C4方向に透視した場合に押圧突起31の外周端を結んだ輪郭が円筒部81の加工前内径D1よりも若干大きい径d0の円形を描くよう構成してもよいが,回転させることから,必ずしも円形とならず間欠した円形でもよい。
【0053】
押圧突起31は,図12に示すごとく,溝部32に面する側面に設けた傾斜面311と,上記押圧突起31の頂点部に設けた外径が略一定のランド部312とを連ねた形状を有している。
即ち,本例の円筒工具3は,実施例3における円筒工具2からサイジング部29を除いたことや,ねじれ角を減少方向に変化させた以外はほぼ同様の構成としたものである。
【0054】
本例の円筒工具3が実施例3の場合と大きく異なる点は,円筒工具3が,図11に示すごとく,矢印G方向に回転しながら前進できるよう構成されている点である。
また,この回転を取り入れることにより,本例の場合には,上記押圧突起31の傾き角度γ1を0°〜15°程度の範囲で選択可能である。また,図12に示すごとく,押圧突起31の傾斜部311の傾き角γ3は実施例3のβ3と異なる値に設定することができる。この理由は,円筒工具の押し込みにより排除された材料が円周方向にも流されるが,この排除されるボリュームは,押圧突起31のランド部312の長さ,導入角γ2,傾き角γ3,傾き角γ1及び軸線方向の送り速度Bと周速Aとの関係によって変化するからである。
なお,その他の傾斜部311とランド部312との境界部315の面取り曲率半径等は,実施例3の場合と同様に設定することができる。
【0055】
そして本例では,加工条件である送り速度(円筒工具の前進速度B)と周速Aの相対的な設定の仕方が重要である。
本例では,A/Bが0.5〜50となるように設定した。
この条件で上記鋳造品8の円筒部81内面を表面加工した結果,鋳巣等の鋳造欠陥は潰れて消滅し,内面形状及び面粗度は非常に優れた状態となった。
【0056】
なお,工具回転や送りが遅いと加工能率が悪く,速すぎると発熱や,モーターパワーおよび振動等が問題となる。また,送りに対して工具回転が遅すぎると工具回転トルクが過大となるため,そのため,送り速度Bは10mm/s〜40mm/s,周速を回転数Nに換算した場合,回転数Nは10rpm〜500rpm程度が適当である。
【0057】
また,工具回転数のみ必要以上に高速化しても,表面が微小圧下状態でこすられるために,表面肌は向上するが,結果的に押圧突起31の一回当りの圧下量は小さくなり,変形が内部まで及びにくくなって,大きな鋳造欠陥はつぶされないため,最表面に微小な仕上げ加工する以外はさけるべきである。
工具を適度に回転させることは,機械油等の潤滑剤の導入効果を促進し,工具に設ける突起数も最小限でよい利点もあるが,上記の理由によって最適な工具押しこみ送りと回転速度の設定に配慮しないと,鋳造欠陥を押しつぶす効果は十分には得られない。
【0058】
なお,工具の突起は最小2個でも可能であるが,3個以上が望ましい。そしてその回転の仕方は送りと同期して連続的でも一定量送ってから間欠的に回転させてもよい。そして工具を多段として,大きな圧下量を与えることも可能である。
【0059】
上述した実施例1〜4においては,鋳造品8として上記シリンダブロックを適用し,そのシリンダ部分である円筒部81の内面を表面加工して優れた加工結果を得ることができた。この鋳造品8に代えて,円筒部の肉厚が極端に薄くなったり,成形性が極めて悪い材料の場合を加工する場合には,円筒部の外周部を拘束することで,割れ発生を抑制することができ,健全に内面を加工することができる。また,円筒部の外周部が鋳造により形成されている場合には,精度の低い曲面形状をしているために,通常の工具では効果的に拘束することが容易ではなく,鋳造時の中子に相当する型形状を模擬した形状としたり,砂や油等の流動性にとんだものを用いることが効果的である。
【0060】
また,上記実施例1〜4において表面加工された円筒部81の内面は,鋳巣等が消滅しているので,その後に溶射処理等の表面処理を施すことによって,非常に平滑で表面硬度の高い円筒内面となる。それ故,上記方法を用いれば,容易に優れたシリンダブロックを製造することができる。
【0061】
なお,加工対象となる鋳造品は,上記のシリンダーブロックに限らず,円筒部を有する鋳造品であれば他の様々なものを加工対象とすることができることは勿論である。特にアルミダイカスト品に対しては極めて有効である。一例を挙げるとブレーキ用油圧シリンダの内面仕上げにも有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における,円筒部内面の表面加工方法を示す説明図。
【図2】実施例1における,円筒工具を正面(図1のA矢視)から見た説明図。
【図3】実施例1における,円筒工具の縦断面図(図2のB−B線矢視断面図)。
【図4】実施例1における,円筒工具を正面(図3のC矢視)から見た説明図。
【図5】実施例1における,鋳造品の斜視図。
【図6】実施例1における,鋳造品の円筒部を示す断面図(図5のD−D線矢視断面図)。
【図7】実施例2における,円筒工具の構成を示す説明図。
【図8】実施例3における,円筒部内面の表面加工方法を示す説明図。
【図9】実施例3における,押圧突起の形状を示す説明図。
【図10】実施例3における,押圧突起の断面形状を示す説明図(図8のE−E線矢視断面図)。
【図11】実施例4における,円筒部内面の表面加工方法を示す説明図。
【図12】実施例4における,押圧突起の断面図(図11のF−F線矢視断面図)。
【符号の説明】
1,2,3...円筒工具,
10...凹凸加工部,
11,21,31...押圧突起,
111,211,311...傾斜面,
112,212,312...ランド部,
12,22,32...溝部,
19,29...サイジング部,
8...鋳造品,
81...円筒部,
Claims (13)
- 円筒部を有する鋳造品の上記円筒部の内面を表面加工する方法であって,
円周方向に押圧突起と溝部とを交互に配設して凹凸形状を呈してなる凹凸加工部を軸線方向に複数有していると共に,隣接する上記凹凸加工部における上記押圧突起の配設位置が互いにずれており,軸線方向に透視した場合に上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部の加工前内径よりも若干大きい径の円形を描くよう構成された円筒工具を用い,
該円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させることなく軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。 - 請求項1において,上記押圧突起は,軸線方向に対して傾斜した傾斜面と,外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有していることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。
- 請求項1又は2において,上記円筒工具は,3以上の上記凹凸加工部を有していることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項において,上記円筒工具は,上記円周方向において凹凸のない略真円状の加工面を有するサイジング部を,上記凹凸加工部の最後部に有していることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。
- 円筒部を有する鋳造品の上記円筒部の内面を表面加工する方法であって,
円筒状の外周面において押圧突起と溝部とを交互に有すると共に上記押圧突起及び上記溝部を軸線方向から所定角度傾けて配置してなり,軸線方向に透視した場合に上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部の加工前内径よりも若干大きい径の円形を描くよう構成され,上記押圧突起は,上記溝部に面する側面に設けた傾斜面と,上記押圧突起の頂点部に設けた外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有し,該ランド部と上記傾斜面との境界部である角部が,上記円筒部の加工前内径と上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭との差である圧下量の0.1〜0.5倍の値の曲率半径を有する曲面になるよう滑らかに面取りしてある円筒工具を用い,
該円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させることなく軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。 - 請求項5において,上記溝部に面する側面に設けた上記傾斜面の径方向に対する傾き角度は10°〜60°の範囲にあることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。
- 請求項5又は6において,上記円筒工具は,上記円周方向において凹凸のない略真円状の加工面を有するサイジング部を最後部に有していることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。
- 円筒部を有する鋳造品の上記円筒部の内面を表面加工する方法であって,
円筒状の外周面において押圧突起と溝部とを交互に有すると共に上記押圧突起及び上記溝部を軸線方向から0°あるいは所定角度傾けて配置してなり,軸線方向に透視した場合に上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭が上記円筒部の加工前内径よりも若干大きい径の円形を連続的又は間欠的に描くよう構成され,上記押圧突起は,上記溝部に面する側面に設けた傾斜面と,上記押圧突起の頂点部に設けた外径が略一定のランド部とを連ねた形状を有し,該ランド部と上記傾斜面との境界部である角部が,上記円筒部の加工前内径と上記押圧突起の外周端を結んだ輪郭との差である圧下量の0.1〜0.5倍の値の曲率半径を有する曲面になるよう滑らかに面取りしてある円筒工具を用い,
該円筒工具の軸線と上記鋳造品における上記円筒部の軸線とを同一線上に合わせた状態で,上記円筒工具を回転させながら軸線方向に沿って上記円筒部内で前進させ,
かつ,上記円筒工具の周速をA(mm/s),軸線方向の前進の速度をB(mm/s)とした場合,A/Bが0.5〜50であることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。 - 請求項8において,上記溝部に面する側面に設けた上記傾斜面の径方向に対する傾き角度は10°〜60°の範囲にあることを特徴とする円筒部内面の表面加工方法。
- 円筒部を有する鋳造品であって,上記円筒部の内面は,請求項1〜9のいずれか1項に記載の円筒部内面の表面加工方法を施してあることを特徴とする円筒部を有する鋳造品。
- 請求項10において,上記円筒部の内面は,上記表面加工方法を施した後に,表面処理を施してあることを特徴とする円筒部を有する鋳造品。
- 請求項11において,上記表面処理は,溶射処理であることを特徴とする円筒部を有する鋳造品。
- 請求項10〜12のいずれか1項において,上記鋳造品は,アルミ合金をダイカストすることにより得られたエンジンのシリンダブロックであることを特徴とする円筒部を有する鋳造品。
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