以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、第1の実施の形態における車線逸脱防止装置の一例を示す車両概略構成図である。なお、この車両は、自動変速機及びコンベンショナルディファレンシャルギヤを搭載した後輪駆動車両であり、制動装置は、前後輪とも、左右輪の制動力を独立に制御可能としている。
図1中の符号1はブレーキペダル、2はブースタ、3はマスタシリンダ、4はリザーバであり、通常は、ドライバによるブレーキペダル1の踏込み量に応じて、マスタシリンダ3で昇圧された制動流体圧が、各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給されるようになっているが、このマスタシリンダ3と各ホイールシリンダ6FL〜6RRとの間には制動流体圧制御回路7が介挿されており、この制動流体圧制御回路7内で、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を個別に制御することも可能となっている。
前記制動流体圧制御回路7は、例えばアンチスキッド制御やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものであり、この実施形態では、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を、単独で増減圧することができるように構成されている。この制動流体圧制御回路7は、後述する車両状態コントロールユニット8からの制動流体圧指令値に応じて各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御する。
また、この車両は、エンジン9の運転状態、自動変速機10の選択変速比、並びにスロットルバルブ11のスロットル開度を制御することにより、駆動輪である後輪5RL、5RRへの駆動トルクを制御する駆動トルクコントロールユニット12が設けられている。エンジン9の運転状態制御は、例えば燃料噴射量や点火時期を制御することによって制御することができるし、同時にスロットル開度を制御することによっても制御することができる。
なお、この駆動トルクコントロールユニット12は、単独で、駆動輪である後輪5RL、5RRの駆動トルクを制御することも可能であるが、前述した車両状態コントロールユニット8から駆動トルクの指令値が入力されたときには、その駆動トルク指令値を参照しながら駆動輪トルクを制御する。
また、この車両には、自車両の走行車線からの逸脱判断用に走行車線内の自車両の位置を検出するための前方外界認識センサとして、CCDカメラ等で構成される単眼カメラ13及びカメラコントローラ14を備えている。このカメラコントローラ14では、単眼カメラ13で捉えた自車両前方の撮像画像から、例えば白線等のレーンマーカを検出して走行車線を検出すると共に、図2に示すように、前記走行車線に対する自車両のヨー角φ、すなわち走行車線に対する自車両の向き、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率ρ、走行車線幅W等を算出することができるように構成されている。
なお、このカメラコントローラ14は、レーンマーカ等を検出するための走行車線検出エリアを用いて走行車線検出を行い、その検出された走行車線に対して前記各データを算出する。走行車線の検出には、例えば特開平11−296660号公報に記載される手法を用いることができる。
具体的には、自車両が走行している走行車線の両側の白線等のレーンマーカを検出し、そのレーンマーカを用いて自車両が走行している走行車線を検出する。ここで、撮像された画像全域で白線等のレーンマーカを検出する(走査する)と、演算負荷も大きいし、時間もかかる。そこで、レーンマーカが存在しそうな領域に、更に小さな検出領域(いわゆるウィンドウ)を設定し、その検出領域内でレーンマーカを検出する。一般に、車線に対する自車両の向きが変わると、画像内に映し出されるレーンマーカの位置も変わるので、例えば前記特開平11−296660号公報では、操舵角θから車線に対する自車両の向きを推定し、画像内のレーンマーカが映し出されているであろう領域に検出領域を設定する。
そして、例えばレーンマーカと路面との境界を際立たせるフィルタ処理などを施し、各レーンマーカ検出領域内において、最もレーンマーカと路面との境界らしい直線を検出し、その直線上の一点(レーンマーカ候補点)をレーンマーカの代表的な部位として検出する。このようにして得られた各ウインドウのレーンマーカ候補点を連続すると、自車両前方に展開している走行車線を検出することができる。
また、この車両には、自車両に発生する前後加速度Xg及び横加速度Ygを検出する加速度センサ15、自車両に発生するヨーレートγを検出するヨーレートセンサ16、前記マスタシリンダ3の出力圧、いわゆるマスタシリンダ圧Pmを検出するマスタシリンダ圧センサ17、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ18、ステアリングホイール21の操舵角θを検出する操舵角センサ19、各車輪5FL〜5RRの回転速度、いわゆる車輪速度Vwi(i=FL〜RR)を検出する車輪速度センサ22FL〜22RR、方向指示器による方向指示操作を検出する方向指示スイッチ20が備えられ、それらの検出信号は前記車両状態コントロールユニット8に出力される。
また、前記カメラコントローラ14で検出された走行車線に対する自車両のヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率ρ、走行車線幅W、駆動トルクコントロールユニット12で制御された車輪軸上での駆動トルクTwも合わせて車両状態コントロールユニット8に出力される。
なお、検出された車両の走行状態データに左右の方向性がある場合には、何れも左方向を正方向とし、右方向を負方向とする。すなわち、ヨーレートγや横加速度Yg、操舵角θ、ヨー角φは、左旋回時に正値となり、右旋回時に負値となる。また、横変位Xは、走行車線中央から左方にずれているときに正値となり、逆に右方向にずれているときに負値となる。また、走行車線の曲率ρは、左カーブの場合に正値となり、右カーブの場合に負値となる。
また、車両には、前記車両状態コントロールユニット8によって車線逸脱が検知された場合にこれをドライバに警告するための警報装置23が設けられている。この警報装置23は、音声やブザー音を発生するためのスピーカやモニタを含んで構成され、表示情報及び音声情報によってドライバに警告を発するようになっている。
次に、前記車両状態コントロールユニット8で行われる演算処理の処理手順を図3のフローチャートに従って説明する。この演算処理は、所定サンプリング時間ΔT(例えば、10〔ms〕)毎にタイマ割込によって実行される。なお、このフローチャートでは通信のためのステップを設けていないが、演算処理によって得られた情報は随時記憶装置に更新記憶されると共に、必要な情報は随時記憶装置から読み出される。
この演算処理では、その概略を説明すると、まずステップS1で、前記各センサや各コントローラ、コントロールユニットからの各種データを読込み、次いでステップS2でこれら各種データに基づいて、所定時間後の予測される横ずれ量である推定横変位Xsを算出し、この推定横変位Xsに基づいて逸脱判定処理を行う(ステップS3)。そして、この逸脱判定処理の結果に応じて目標ヨーモーメントを算出し(ステップS4)、逸脱傾向にあることをドライバに通知するための警報を発生する処理(ステップS5)及び目標ヨーモーメントを発生させるための制駆動力制御処理(ステップS6)を行い、必要に応じて警報及びヨーモーメントの発生を行う。
具体的には、前記ステップS1の処理では、前記各センサで検出された前後加速度Xg、横加速度Yg、ヨーレートγ、各車輪速度Vwi、アクセル開度Acc、マスタシリンダ圧Pm、操舵角θ、方向指示スイッチ信号、カメラコントローラ14からの走行車線に対する自車両のヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率ρ、走行車線幅W、また駆動トルクコントロールユニット12からの駆動トルクTwを読込む。
また、各車輪速度Vwi(i=FL〜RR)のうち、非駆動輪である前左右輪速度VwFL、VwFRの平均値から自車両の走行速度Vを算出する。
なお、ここでは、前左右輪速度VwFL、VwFRに基づいて走行速度Vを算出するようにした場合について説明したが、例えば、車両に公知のアンチスキッド制御を行うABS制御手段が搭載されており、このABS制御手段によりアンチスキッド制御が行われている場合には、このアンチスキッド制御での処理過程で推定される推定車体速を用いるようにすればよい。
次に、前記ステップS2での推定横変位Xsの算出は、図4のフローチャートに示す手順で行う。まず、ステップS11で、ステップS1で算出した自車両の走行速度Vと車頭時間Ttとを乗算して、前方注視距離Ls*を算出する。
次いで、ステップS12に移行し、前回のサンプリング時点での逸脱警報又は逸脱防止制御の作動状態を判定する。この判定は、警報装置23により逸脱警報を発生させるか否かを表す警報フラグFW及び逸脱防止制御によりヨーモーメントを発生させるか否かを表す逸脱判断フラグFLDに基づいて行い、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0であるとき、逸脱警報及び逸脱防止制御の少なくとも何れか一方が作動していると判断し、ステップS13に移行して、前回の前方注視距離Lsを保持するかどうかを表す保持フラグFHOLDを“1”に設定する。一方、ステップS12で、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”であるときには、逸脱警報及び逸脱防止制御のいずれも作動していないと判定し、ステップS14に移行して保持フラグFHOLDを“0”に設定する。
このようにステップS13又はステップS14の処理で保持フラグFHOLDを設定したならばステップS15に移行し、保持フラグFHOLDが“0”であって前回のサンプリング時点で逸脱警報及び逸脱防止制御のいずれも作動していないと判断されるときにはステップS16に移行し、前記ステップS11で算出した前方注視距離Ls*を新たに前方注視距離Lsとして更新する。一方、ステップS15で保持フラグFHOLDが“1であって前回のサンプリング時点で逸脱警報及び逸脱防止制御の少なくともいずれか一方が作動したと判断されるときにはそのままステップS17に移行する。
このステップS17では、前記ステップS1で読込んだ自車両の走行車線に対するヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率ρ、自車両の走行速度V、及び前方注視距離Lsを用い、下記(1)式にしたがって将来の推定横変位Xsを算出する。
なお、ここでは、前記(1)式に基づいて推定横変位Xsを算出するようにした場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば次式(2)に示すように、車両に作用するヨーレートを考慮して算出するようにしてもよい。例えば、ヨーレートセンサ16の精度が高くまたノイズが少ない場合等には、このように、ヨーレートを考慮して推定横変位Xsを算出することによって、逸脱警報や逸脱防止制御をより的確なタイミングで作動させ、また、解除させることができる。
なお、前記Ttは前方注視距離算出用の車頭時間であり、車頭時間Ttに自車両の走行速度Vを乗じると前方注視距離になる。つまり、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位Xsとなる。後述するように、本実施形態では、この将来の推定横変位Xsが所定の横変位限界値以上となるときに自車両は走行車線を逸脱する可能性がある、或いは逸脱傾向にあると判断する。
一般に、ドライバが警報に気づいて逸脱の回避操作を行うまでには、いくらかの所要時間が要する場合が多い。また、自車両が車線逸脱する可能性が高いと判定して逸脱防止制御が作動したとしても、自車両は逸脱防止制御の作動に伴ってすぐに走行中の車線中央へ向かって移動するわけではなく、車線を逸脱する速度は低くなるものの、車両の向きが車線内側へ向くまでの間は、走行車線の外側に向かって移動していく。このため、ドライバに対し、余裕をもって車線の逸脱防止操作を行うことを促すために、車頭時間Ttは“0”〔s〕よりも大きな値に設定することが望ましい。
次に、前記ステップS3での自車両が走行車線から逸脱傾向にあるか否かの判断は、図5のフローチャートに示す手順で行う。まず、ステップS21で方向指示スイッチ20がオン状態であるか否かを判定し、オン状態である場合にはステップS22に移行して方向指示スイッチ20の指示方向と、ステップS2で算出した推定横変位Xsで特定される逸脱方向とが一致するかどうかを判定する。そして、これらが一致するときには車線変更を行うものと判定し、ステップS23に移行して車線変更フラグFLCを“1”に設定した後、後述のステップS27に移行する。一方、方向指示スイッチ20の指示方向と、推定横変位Xsで特定される逸脱方向とが一致しない場合には、車線変更ではないと判定してステップS24に移行し、車線変更フラグFLCを“0”に設定した後、ステップS27に移行する。また、前記ステップS21で方向指示スイッチ20がオン状態でない場合には、ステップS25に移行し、方向指示スイッチ20がオン状態からオフ状態に切り替わった時点から所定時間経過したかどうかを判定する。そして、方向指示スイッチ20がオン状態からオフ状態に切り替わった時点から所定時間経過しているときにはステップS26に移行し、車線変更フラグFLCを“0”にリセットした後ステップS27に移行し、所定時間経過していないときには、そのままステップS27に移行する。なお、前記所定時間は、車線変更の後期の時点で方向指示スイッチ20をオフ状態に切り替えられた時点から、自車両の走行位置が車線変更先の車線中央よりの位置に達したとみなすことの可能な時間に設定され、例えば4秒程度に設定される。
このステップS27では、車線変更フラグFLCが“1”であって車線変更中である場合にはステップS28に移行し、車線逸脱傾向にあったとしても車線変更中である場合には警報を発生する必要がないから警報フラグFWを“0”に設定する。
一方、前記ステップS27で、車線変更フラグFLCが“0であって、車線変更中でない場合にはステップS29に移行し、車両の逸脱状態を判定する。つまり、推定横変位Xsの絶対値|Xs|が、警報判断しきい値Xw以上であるかどうかを判定し、|Xs|≧Xwであるときには、車両が逸脱傾向にあるとしてステップS30に移行し、推定横変位Xsの符号が正であるときには左方向へ逸脱傾向にあるとしてステップS30からステップS31に移行して警報フラグFWを“1”に設定する。一方、推定横変位XsがXs>0でないときにはステップS32に移行し、警報フラグFWを“−1”に設定する。
なお、前記警報判断しきい値Xwは、逸脱警報が作動してから推定横変位Xsが横変位限界値Xc以上となって逸脱防止制御が作動するまでのマージン(定数)Xmを、前記横変位限界値Xcから減算した値(=Xc−Xm)である。前記横変位限界値Xcは、定数であって、日本国内では、高速道路の車線幅は約3.5〔m〕であることから、例えば、0.8〔m〕程度に設定すればよい。また、例えば、走行車線幅Wの半分値から自車両の車幅の半分値を減じた値と、例えば、前記0.8〔m〕とのうちの何れか小さい方を用いるようにしてもよい。
そして、前記ステップS29で、推定横変位Xsの絶対値|Xs|が、警報判断しきい値Xwよりも小さいときにはステップS33に移行し、推定横変位Xsの絶対値|Xs|が、警報判断しきい値Xwから逸脱警報のハンチングを回避するためのヒステリシス値Xhを減算した値よりも小さいときには、ステップS34に移行して警報フラグFWを“0”に設定し、そうではないときにはそのまま逸脱判定処理を終了する。また、前記ステップS28、S31、S32、S34で警報フラグFWを設定したならば、逸脱判定処理を終了する。
次に、前記ステップS4での目標ヨーモーメントの算出は、図6のフローチャートに示す手順で行う。まず、ステップS41で警報フラグFWに基づいて逸脱警報作動中であるかどうかを判定する。そして、警報フラグFWが“0”であって、警報装置23が作動中ではなく、自車両が逸脱傾向にない場合にはステップS42に移行し、逸脱判断フラグFLDを“0”に設定する。一方、ステップS41で警報フラグがFW≠0であって、警報装置23が作動中であり自車両が逸脱傾向にある場合にはステップS43に移行し、推定横変位Xsが横変位限界値Xc以上であるかどうかを判定し、Xs≧Xcであるときには、左に車線逸脱すると判定してステップS44に移行し、逸脱判断フラグFLDを“1”に設定する。一方、ステップS43で、Xs≧Xcでない場合にはステップS45に移行し、推定横変位Xsが負の横変位限界値“−Xc”以下であるかどうかを判定し、Xs≦−Xcであるときには右に車線逸脱すると判断してステップS46に移行し、逸脱判断フラグFLDを“−1”に設定する。また、ステップS45でXs≦−Xcでない場合にはステップS47に移行し、自車両は逸脱状態ではないと判断して逸脱判断フラグFLDを“0”に設定する。
そして、前記ステップS44又はステップS46で、逸脱判断フラグFLDが“1”又は“−1”に設定され左右の何れかに車線逸脱すると判断されているときにはステップS48に移行し、次式(3)にしたがって、目標ヨーモーメントMsを算出する。
Ms=−K1×K2×(Xs−Xc) ……(3)
なお、式(3)中のK1は車両諸元によって定まる定数である。また、K2は、自車両の走行速度Vに応じて設定される比例係数であって、例えば、図7に示すように設定される。図7において、横軸は車両の走行速度V、縦軸は、比例係数K2である。この比例係数K2は、走行速度Vが第1のしきい値Vs1以下の場合には、比較的大きな一定値KHに設定され、走行速度Vが第1のしきい値Vs1よりも大きくなるほどこれに反比例して比例係数K2は減少し、走行速度Vが第2のしきい値Vs2以上となると比例係数K2は比較的小さな一定値KLに設定される。つまり、走行速度Vが比較的大きいときには比例係数K2を比較的小さな値に設定して、目標ヨーモーメントを抑制し、高速走行時に大きなヨーモーメントが作用することにより車両挙動が不安定となることを回避し、逆に走行速度Vが比較的小さいときには比例的大きな値に設定して、十分な目標ヨーモーメントを確保し、ヨーモーメントを発生させることにより逸脱状態からの速やかな回復を図るようになっている。
一方、前記ステップS42又はステップS47の処理で逸脱判断フラグFLDが“0”に設定されたとき、つまり、自車両が逸脱状態にはないと判断されるときにはステップS49に移行し、ヨーモーメントを発生させる必要はないから目標ヨーモーメントMsとして“0”を設定する。そして、このようにして目標ヨーモーメントMsを設定したならば、目標ヨーモーメントの算出処理を終了する。
次に、前記ステップS5での警報出力処理は、図8のフローチャートに示す手順で行う。まず、ステップS51で警報フラグがFW≠0であるかどうかを判定し、FW≠0であるときには、逸脱状態にあると判断してステップS52に移行して警報装置23を作動させ、音声やモニタ画面への表示によって車線逸脱傾向にあることをドライバに通知する。一方、警報フラグがFW≠0でない場合には、逸脱状態にないと判断し、ステップS51からステップS53に移行し、警報装置23により警報を発している場合にはこれを停止させる。
なお、ここでは、逸脱方向に関係なく、逸脱状態にあるか否かによって警報装置23を作動させるようにした場合について説明したが、例えば、警報装置23を、ドライバに対し、左右の異なる方向から警報音を発することができるように構成し、自車両が左側に車線逸脱傾向にあるときには、ドライバに対して左側から警報音を発するようにし、逆に右側に車線逸脱傾向にあるときにはドライバに対して右側から警報音を発するようにしてもよい。
この場合には、図9のフローチャートに示す手順で処理を行えばよい。まず、ステップS61で警報フラグがFW>0であるかどうかを判定し、FW>0であるときには左側に逸脱状態にあるからステップS62で左側から警報音を発生するよう警報装置23を作動する。また、警報フラグがFW>0でない場合にはステップS61からステップS63に移行して警報フラグがFW<0であるかどうかを判定し、FW<0であるときには右側に逸脱状態にあるからステップS64で右側から警報音を発生するよう警報装置23を作動する。また、警報フラグがFW>0でなく且つFW<0でないときには、自車両は逸脱状態ではないから、ステップS63からステップS65に移行し、警報装置23を作動させている場合にはこれを停止させる。
次に、前記ステップS6の制駆動力制御処理は、図10のフローチャートに示す手順で行う。まず、ステップS71で、逸脱判断フラグがFLD≠0であるかどうかを判定し、FLD≠0でない場合には、自車両は逸脱状態にないからステップS72に移行し、前左右輪5FL、5FRのホイールシリンダ6FL、6FRへの目標制動流体圧PsFL、PsFRとして、共に、マスタシリンダ圧Pmとし、後左右輪5RL、5RRのホイールシリンダ6RL、6RRへの目標制動流体圧PsRL、PsRRとして、共に後輪用マスタシリンダ圧PmRを設定する。
なお、前記PmRは、ステップS1で読み込んだマスタシリンダ圧Pmに対し、前後制動力配分に基づく後輪用マスタシリンダ圧である。
一方、ステップS71で逸脱判断フラグがFLD≠0である場合には、ステップS73に移行して、前記目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて場合分けを行い、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|が所定値Ms0未満であるときにはステップS74に移行して後左右輪の制動力にだけ差を発生させる。つまり、前左右輪目標制動流体圧差ΔPsFは“0”、後左右輪目標制動流体圧差ΔPsRは次式(4)に設定する。なお、式(4)中のTは、トレッド(前後輪で同じとする)、KbR及び後述のKbFはそれぞれ、制動力を制動流体圧に換算するための換算係数であり、ブレーキ諸元によって決まる。
ΔPsR=2×KbR×|Ms|/T ……(4)
一方、前記目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|が所定値Ms0以上であるときにはステップS73からステップS75に移行し、前後左右輪の制動力に差を発生させる。具体的には、前左右輪目標制動流体圧差ΔPsFは次式(5)で、また後左右輪目標制動流体圧差ΔPsRは次式(6)で算出する。
ΔPsF=2×KbF×(|Ms|−Ms0)/T ……(5)
ΔPsR=2×KbR×Ms0/T ……(6)
なお、ここでは、前後輪をそれぞれ制御するようにした場合について説明したが、例えば前輪のみで制御するようにしてもよく、この場合には、ΔPsF=2×KbF×|Ms|/Tとするようにしてもよい。
そして、このように前後輪について左右の制動力差を算出したならば、ステップS76に移行し、目標ヨーモーメントMsが負値であるとき、すなわち、自車両が左方向に車線逸脱しようとしているときには、ステップS77に移行し、各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧Psiを次式(7)により算出する。
PsFL=Pm
PsFR=Pm+ΔPsF
PsRL=PmR
PsRR=PmR+ΔPsR ……(7)
一方、前記目標ヨーモーメントMsが零以上の値であってすなわち自車両が右方向に車線逸脱しようとしているときにはステップS78に移行し、各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧Psiを下記(8)式により算出する。
PsFL=Pm+ΔPsF
PsFR=Pm
PsRL=PmR+ΔPsR
PsRR=PmR ……(8)
このようにしてステップS72、S77、S78の何れかによって目標制動力を算出したならば、ステップS79に移行し、逸脱判断フラグがFLD≠0であって逸脱状態にある場合にはステップS80に移行し、次式(9)により目標駆動トルクTrqを算出する。
Trq=f(Acc)−g(Ps) ……(9)
一方、逸脱判断フラグがFLD≠0ではなく逸脱状態にない場合にはステップS81に移行し、目標駆動トルクTrqはf(Acc)とする。
なお、前記f(Acc)は、アクセル開度Accに応じた駆動トルクを算出するためのアクセル関数fにより算出される、駆動トルク相当値である。また、前記(9)式中のPsは、逸脱防止制御により発生させる前及び後の左右輪目標制動流体圧差ΔPsR及びΔPsFの和(Pg=ΔPsR+ΔPsF)であって、g(Ps)は、目標制動流体圧差の和Psによって発生が予測される制動トルクを算出するための関数gにより算出される、制動トルク相当値である。
そして、このようにしてステップS80又はステップS81で目標駆動トルクTrqを算出したならばステップS82に移行し、ステップS80又はステップS81で算出した目標駆動トルクTrqを発生するよう駆動トルクコントロールユニット12に制御信号を出力し、また、前記ステップS72、S77、S78の何れかによって算出した各車輪の目標制動流体圧を前記制動流体圧制御回路7に向けて出力する。
以上の処理によって図3に示す演算処理が終了する。そして、一連の演算処理が終了したならば、タイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
次に、上記第1の実施の形態の動作を説明する。
今、自車両が走行車線中央よりを直進走行している場合には、逸脱警報も逸脱防止制御も行われないから、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDは共に“0”に設定されている。このため、図4の推定横変位算出処理では、ステップS11からステップS12を経てステップS14に移行し、保持フラグはFHOLD=0に設定される。したがって、ステップS15からステップS16に移行して、前方注視距離Lsが、ステップS11で算出された自車両の走行速度Vに応じた前方注視距離Ls*に更新設定され、この前方注視距離Lsつまりこの時点における走行速度Vに応じた前方注視距離Ls*に応じた推定横変位Xsが算出される。
このとき、自車両は走行車線中央よりを直進走行しており、車線変更中でなく、また推定横変位Xsは比較的小さいことから、推定横変位Xsの絶対値は警報判断しきい値Xw及び“Xw−Xh”よりも小さくなって、図5の逸脱判定処理では、ステップS29からステップS33を経てステップS34に移行し、警報フラグはFw=0に設定される。このため、図6の目標ヨーモーメント算出処理では、ステップS41からステップS42に移行して逸脱判断フラグFLDが“0”に設定されることから目標ヨーモーメントはMs=0に設定される(ステップS49)。
このため、図10の制駆動力制御処理では、ステップS72の処理で目標制動流体圧としてマスタシリンダ圧Pmに応じた流体圧が設定され、また、ステップS81の処理で、目標駆動トルクTrqとしてアクセル開度Accに応じた駆動トルクが設定されることから、ドライバのアクセルペダルの操作量に応じた目標駆動力が発生されると共にマスタシリンダ圧Pmに応じた制動力が発生されることになり、ヨーモーメントが発生されることなく、ドライバの運転操作に即した車両挙動となる。また、このとき、警報フラグFWは“0”に設定されているから、図8の警報出力処理では、ステップS51からステップS53に移行し、警報装置23を作動させない。したがって、警報が発せられることはない。
そして、自車両が車線逸脱傾向になく、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”に設定されている間は、図4のステップS14の処理で保持フラグFHOLDが“0”に設定されるから、ステップS11で逐次算出される走行速度Vに応じた前方注視距離Ls*が前方注視距離Lsとして逐次更新され、前方注視距離Ls*に基づいて推定横変位Xsが算出されることになる。
この状態から、自車両が左に逸脱する傾向となり推定横変位Xsが増加し、警報判断しきい値Xw以上となると、このとき、ドライバが車線変更を目的として方向指示スイッチ20をオン状態にしている場合には、方向指示スイッチ20による指示方向と推定横変位Xsに基づく逸脱方向とが共に左側であってこれらは一致するから車線変更であると判断し、ステップS21からS22を経てステップS23に移行し車線変更フラグFLCが“1”に設定される。このためステップS27からステップS28に移行し、車線変更中であって逸脱警報を発する必要はないとして警報フラグFWは“0”に設定され、また、これに伴って図6のステップS41からステップS42に移行し、逸脱判断フラグFLDは“0”に設定される。したがって、自車両の車線変更に伴って推定横変位Xsが増加した場合であっても、警報装置23が作動されることはなくまた逸脱防止制御が作動されることもないから、車線変更時に、車両にヨーモーメントが作用することはない。
そして、車線変更が終了し、方向指示スイッチ20がオフとなると、図5の逸脱判定処理では、ステップS21からステップS25に移行し、所定時間経過するまでは車線変更フラグFLCの更新は行われない。したがって、車線変更後期においてまだ自車両が車線逸脱傾向にあって推定横変位Xsが比較的大きい状態であっても逸脱警報或いは逸脱防止制御が作動されることはない。そして、方向指示スイッチ20がオフとなった時点から所定時間が経過し、車線変更先の車線における自車両の走行位置が車線中央よりに達したとみなすことの可能な時点で、ステップS25からステップS26に移行し、車線変更フラグFLCが“0”に設定されるから、車線変更後期段階で、自車両が車線中央よりの位置に移行している途中の時点で逸脱警報の作動判断が行われることはなく、車線変更に起因する推定横変位Xsの増加に対し、これを車線逸脱として誤判断を回避することができる。
そして、この状態から、車線変更ではなく自車両が左に逸脱する傾向となると、図5の逸脱判定処理では、方向指示スイッチ20がオフ状態であることからステップS21からステップS25を経てステップS27に移行し、車線変更中ではないからステップS29に移行する。そして、推定横変位Xsが警報判断しきい値Xw、Xw−Xhを下回る状態では、ステップS33を経てステップS34に移行し警報フラグFWは“0”に設定されることから逸脱警報は作動しないが、推定横変位Xsが警報判断しきい値Xw以上となると、ステップS29からステップS30を経てステップS31に移行し、警報フラグFWが“1”に設定される。このため、図6の目標ヨーモーメント算出処理では、ステップS41からステップS43に移行するが、推定横変位Xsが横変位限界値Xcよりも小さい間は、まだ逸脱防止制御を行う必要はないとしてステップS43からステップS45を経てステップS47に移行し、逸脱判断フラグはFLD=0に設定される。したがって、目標ヨーモーメントMsは“0”に設定されるから、この時点ではヨーモーメントMsは発生されず引き続きドライバの運転操作に即した車両挙動となるが、警報フラグFWが“1”に設定されていることから図8の警報出力処理ではステップS51からステップS52に移行し、警報装置23が作動され、ドライバに対して逸脱傾向にあることが通知される。
これによって、ドライバは警報装置23が作動することによって自車両が逸脱傾向にあることを認識することができ、減速操作や操舵操作等、逸脱を回避するための操作を行うことができる。
そして、次のサンプリング時点では、警報フラグFWが“1”に設定されていることから図4の推定横変位算出処理では、ステップS12からステップS13に移行し、保持フラグがFHOLD=1に設定され、ステップS15からそのままステップS17に移行して、前回のサンプリング時点における前方注視距離Lsを用いて推定横変位Xsが算出されることになる。そして、警報フラグFWが“1”に設定されている間は、引き続き警報フラグFWが“1”に切り替わった時点における前方注視距離Lsを用いて推定横変位Xsが算出されることになり、つまり、前記(1)式において、自車両の横変位Xと、自車両の走行車線に対するヨー角φとの変動に応じて推定横変位Xsが変化することになる。
そして、さらに自車両の車線逸脱が進み、推定横変位Xsが横変位限界値Xc以上となると、図6のステップS43からステップS44に移行し、逸脱判断フラグがFLD=1に設定され、ステップS48で推定横変位Xsと横変位限界値Xcとの差、つまり自車両の横ずれ量に応じた目標ヨーモーメントMsが算出される。このため、図10のステップS71からステップS73に移行し、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて、後輪側のみ又は前後輪共に左右輪の制動力差を発生するよう、目標制動流体圧Psiが算出され、また、目標ヨーモーメントMsの発生に要する制動力相当の制動トルクg(Ps)分だけ抑制した駆動トルクTrqを発生するよう駆動トルクが制御され、ヨーモーメントと駆動トルクの干渉を回避しつつ、自車両の横ずれ量に応じたヨーモーメントが発生され、これによって逸脱防止が図られることになる。
そして、このように警報やヨーモーメントを発生し、また、ドライバが操舵操作或いは減速操作を行うことによって自車両の推定横変位Xsが減少すると、横変位限界値Xcを下回った時点で図6のステップS43からステップS45を経てステップS47に移行し、逸脱判断フラグFLDが“0”に設定されてヨーモーメントの発生が停止され、さらに推定横変位Xsが、警報判断しきい値Xwからヒステリシス値Xhを減算したXw−Xhを下回る状態となった時点で、図5のステップS29からステップS33を経てステップS34に移行し、警報フラグFWが“0”にリセットされ、警報装置23の作動が停止される。
そして、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”となることから、次のサンプリング時点では、図4のステップS12からステップS14に移行し、保持フラグFHOLDが“0”に設定される。このため、ステップS15からステップS16に移行し、前方注視距離Lsの更新が再開されることになって、以後、走行速度Vに応じた前方注視距離Ls*に基づいて推定横変位Xsの算出が行われることになる。
このとき、推定横変位Xsが警報判断しきい値Xw以上であって警報フラグがFLD≠0であるとき、又は、推定横変位|Xs|が横変位限界値Xc以上であって逸脱判断フラグがFLD≠0である間は、図4のステップS13の処理において保持フラグFHOLDが“1”に設定されることから、前方注視距離Lsの更新は行われず、推定横変位Xsが警報判断しきい値Xw以上となった時点での走行速度Vに応じた前方注視距離Lsに基づいて推定横変位Xsの算出が行われることになる。
ここで、警報フラグFW或いは逸脱判断フラグFLDが“0”ではなく、警報が発生されている間や逸脱防止制御によりヨーモーメントが作用している間も、前方注視距離Lsを引き続き走行速度Vに応じて更新するようにした場合、逸脱警報の作動に伴ってドライバが車線逸脱傾向にあることを認識し、これに伴って減速や操舵操作を行った場合、或いは、逸脱防止制御によりヨーモーメントが発生された場合、図11に示すように、自車両の走行速度Vやヨー角φは、図11(a)に示す逸脱警報や逸脱防止制御作動前の状態に比較して、図11(b)に示す逸脱警報や逸脱防止制御作動後の状態の方が小さくなる。
このため、逸脱警報や逸脱防止制御作動前では地点K1に達すると予測していたのに対し、図11(b)に示すように、走行速度V及びヨー角φの変化に伴って、地点K1から地点K2に到達すると予測するようになり、このときの前方注視距離Ls*は、作動前の前方注視距離Lsよりも小さくなる。このため、この前方注視距離Ls*に応じて算出される推定横変位Xs*も減少し、場合によっては、警報判断しきい値Xwや横変位限界値Xcを下回り、逸脱状態ではないと判断され、ヨーモーメントの発生や警報の発生が停止される。
しかしながら、このように減速や操舵操作、ヨーモーメントの発生開始に伴って走行速度Vやヨー角φが変化したとしても、自車両が完全に車両中央より方向に向きを替えていない場合には、自車両は地点K2からやがて地点K3に達することになり、推定横変位Xsは、やがて再度、警報判断しきい値Xwや横変位限界値Xcを上回ることになる。このため、逸脱警報や逸脱防止制御が再度再開され、これら一連の動作を繰り返すことになって、逸脱警報や逸脱防止制御の作動及び非作動を繰り返す場合がある。
これに対し、上述のように、推定横変位Xsが警報判断しきい値Xw以上となった時点における前方注視距離Lsを維持するようにし、自車両は逸脱警報や逸脱防止制御作動前と同じ走行速度Vで走行し所定時間後には地点K3に達すると想定して、前回と同一の前方注視距離Lsに基づいて推定横変位Xsを推定することによって、ドライバによる減速や操舵操作或いはヨーモーメントの発生による走行速度Vの変化に伴う前方注視距離Lsの変動を抑制することができる。したがって、走行速度Vの変化に伴う推定横変位Xsの変動を抑制することができ、走行速度Vの変動に伴って推定横変位Xsが減少することに起因して、逸脱警報や逸脱防止制御の作動開始のための判断しきい値を下回る傾向となって前述のように、これら逸脱警報や逸脱防止制御の作動及び非作動が頻繁に切り替わることを回避することができる。また、このとき、走行速度Vの変化に伴う推定横変位Xsの変動を抑制することができるから、この推定横変位Xsに基づいて制御量を設定している逸脱防止制御において、その制御量が大きく変動することを抑制することができる。したがって、逸脱防止制御によって、車両挙動が大きく変化することを抑制し、車両挙動の安定を図ることができる。
また、図11(b)に示すように、走行速度Vの変動に伴って前方注視距離Lsがより短く算出された場合、この前方注視距離Lsに応じた推定横変位Xsに基づいて逸脱防止制御を行った場合、本来ならば、地点K1から横変位限界値Xcで特定される範囲内にまで自車両を移動させるのに十分な逸脱防止制御を行わなければならないのに対し、前方注視距離Lsがより短く算出されることからこれに応じた推定横変位Xsに基づいて算出される逸脱防止制御による制御量は不足傾向となり、逸脱防止制御の制御性能が低下することになる。
しかしながら、上述のように、自車両が逸脱傾向にあるときには、逸脱傾向検出開始時点における前方注視距離Lsに応じて推定横変位Xsを算出するようにしているから、逸脱防止制御の制御性能の低下を抑制することができる。
また、前方注視距離Lsを、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”となるまで保持するようにしているから、実際の車両の、車線内側方向への回復状況に即して、逸脱警報や逸脱防止制御を解除することができ、自車両の車両状態が確実に逸脱状態から回復したとみなすことの可能な時点で逸脱防止制御や逸脱警報を解除することができる。したがって、前述のように、ヨーモーメントの発生や警報の発生を解除した後、再度、逸脱状態と判定されるといったような現象が発生することを回避することができ、これに伴ってドライバに違和感を与えることを回避することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、図3のステップS2で実行される推定横変位算出処理の処理手順が異なること以外は同様であるので、同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
この第2の実施の形態では、推定横変位Xsの算出を、図12のフローチャートに示す処理手順で行う。
すなわち、まず、ステップS11で上記第1の実施の形態と同様にしてこの時点での自車両の走行速度Vに基づいて前方注視距離Ls*を算出し、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”であって自車両が逸脱傾向にないときにはステップS12からステップS14に移行して保持フラグFHOLDを“0”に設定し、ステップS15からステップS16に移行して前方注視距離Lsの更新を行い、現時点での走行速度Vに応じた前方注視距離Lsに基づいて推定横変位Xsを算出する。
一方、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0であって、逸脱警報又は逸脱防止制御が作動している場合には、ステップS12からステップS101に移行し、ステップS1で読み込んだ、走行車線に対する自車両のヨー角φの絶対値と、ヨー角φが十分に小さいと判断できる程度のしきい値εとの比較を行う。そして、ε≦|φ|であって、ヨー角φが十分に小さいと判断することができない場合にはステップS13に移行し、保持フラグをFHOLD=1に設定し、ステップS15からそのままステップS17に移行し、前方注視距離Lsの更新は行わず、前回の前方注視距離Ls、つまり、逸脱傾向検出開始時点の前方注視距離Lsに基づいて推定横変位Xsを算出する。
一方、ステップS101で、ε>|φ|であって、ヨー角φが十分に小さいと判断することができる場合には、ステップS101からステップS14に移行し、保持フラグFHOLDは“0”に設定し、前方注視距離Lsの更新を再開する。
つまり、ヨー角φが十分に小さいということは、図13に示すように、車両の向きが逸脱方向にある状態(図13(a))から回復途中にあって、図13(b)に示すように、車両の向きが逸脱する方向へは向いていない状態であって、車両の車線逸脱速度も十分低下した状態とみなすことができる。このため、前方注視距離Lsが更新されたとしても、前記(1)式から算出される推定横変位Xsの変動量は小さく、これに応じて算出される逸脱防止制御の制御量の変動量は小さい。したがって、推定横変位Xsがまだ十分に回復していない状態であっても、ヨー角|φ|がしきい値εより小さいときには、推定横変位Xsは走行速度Vの変動による影響を受けることはない。よって、この時点で、前方注視距離Lsの更新を再開することによって、推定横変位Xsが十分に回復する以前のより速い段階で、走行速度Vに応じた前方注視距離Lsに基づく逸脱傾向の判定や、逸脱防止制御を再開することができる。
また、図13(c)に示すようにさらに走行速度が低下しまた車両の向きが車線内側方向となった状態で、逸脱傾向検出開始時点の前方注視距離Lsに基づいて推定横変位Xsを算出した場合、この算出される推定横変位Xsは、この時点における走行速度Vに応じた前方注視距離Ls*に基づく推定横変位Xsよりも、より短い値に算出される傾向となり、車両の走行状態に対して制御量不足傾向となる。しかしながら、自車両のヨー角が十分小さくなった時点で前方注視距離Lsの更新を再開することによって、自車両の向きが車線内側方向となった後においても的確に逸脱防止制御を行うことができる。したがって、自車両のヨー角が十分小さくなった時点以後、真に必要とする推定横変位Xsをより早い段階で算出することによって、より早い段階でより的確な逸脱防止制御を再開することができる。
なお、この第2の実施の形態においては、ヨー角|φ|に基づいて走行速度Vの変動により推定横変位Xsに与える影響を予測し、ヨー角|φ|が十分小さいときに前方注視距離Lsの更新を再開するようにした場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば、推定横変位Xsの単位時間当たりの変化量が小さいかどうかに基づいて、走行速度Vの変動により推定横変位Xsに与える影響を予測するようにしてもよい。
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。
この第3の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、図3のステップS2で実行される推定横変位算出処理を図14のフローチャートに示す処理手順で行っている。なお、その他の処理は上記第1の実施の形態と同様であるので、同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
この第3の実施の形態では、図14のフローチャートに示すように、警報フラグFW、逸脱判断フラグFLDが共に“0”の場合には、上記第1の実施の形態と同様に保持フラグFHOLDを“0”に設定し、前方注視距離Lsの更新を行う。一方、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0である場合には、自車両が左右の何れかの方向に逸脱増加傾向にあるかどうかを判定する。すなわち、ステップS12からステップS111に移行し、まず、自車両が左方向に逸脱増加傾向にあるかどうかを判断する。具体的には、ステップS1で読み込んだ自車両のヨー角φが、ヨー角φが車線に対して左向きであることを判断するための十分小さいしきい値ε以上であり、且つ、推定横変位Xsが“0”以上であるかどうかを判断する。そして、φ≧ε且つXs≧0であるときには、左に逸脱増加傾向にあると判断してステップS13に移行し、保持フラグFHOLDを“1”に設定し、引き続き前方注視距離Lsの更新は行わない。
一方、前記ステップS111で左側に逸脱増加傾向にないと判断されるときにはステップS112に移行し、次に同様にして右側に逸脱増加傾向にあるかどうかを判断する。つまり、自車両のヨー角φが、前記しきい値εの負値“−ε”以下であり且つ推定横変位Xsが“0”以下であるかを判定する。そして、−ε≧φ且つ0≧Xsであるときには、右側に逸脱増加傾向にあるとして、ステップS112からステップS13に移行し、保持フラグFHOLDを“1”に設定し、引き続き前方注視距離Lsの更新は行わない。
そして、ステップS111及びS112で左右の何れの方向にも逸脱増加傾向にないと判断されるときにはステップS113に移行し、ステップS11で算出される現時点の走行速度Vに応じた前方注視距離Ls*と前回の前方注視距離Lsとを比較する。そして、Ls≧Ls*を満足するときにはステップS113からステップS14に移行して保持フラグをFHOLD=0に設定して前方注視距離Lsの更新を再開するが、Ls≧Ls*を満足しないときにはステップS113からステップS13に移行して保持フラグをFHOLD=1に設定する。
つまり、自車両が左右のいずれの方向にも逸脱増加傾向にはないときには、推定横変位Xsは車線中央側に向かう方向に変化することになる。ここで、前回の前方注視距離Lsよりも値の大きいLs*を前方注視距離Lsとして設定した場合、推定横変位Xsは、より車線中央よりの地点に相当する値に算出される傾向となって、逸脱が回避されたと判断されやすくなる傾向となる。このため、実際には、まだ車両が走行車線からの逸脱を完全に回避する状態とはなっていない状態で、逸脱警報や逸脱防止制御を解除してしまう可能性がある。したがって、Ls<Ls*の場合には、前方注視距離Lsの更新を行わない。逆に、Ls≧Ls*の場合には、このより小さな値を前方注視距離Lsとして更新したとしても、推定横変位Xsは、これまでの地点よりも、より車線外側の地点に相当する値に算出される傾向となって、逸脱傾向から回復したと誤判断されることはない。したがって、この場合には、前方注視距離Lsの更新を再開する。
このように、推定横変位Xsが車線内側に向かう方向に変化するようになった場合には、前方注視距離Lsがより小さくなる方向への更新のみを行うようにしているから、この場合も、真に必要とする推定横変位Xsをより早い段階で算出することができ、より早い段階でより適切な逸脱防止制御を再開することができる。また、このとき、前方注視距離Lsがより小さくなる方向への更新のみを行うようにしているから、走行速度Vの変動に伴い前方注視距離Lsが変化することに起因して、実際には、まだ回復していないにも関わらず逸脱傾向から回復したと誤判断されることを回避することができ、これに伴う逸脱警報や逸脱防止制御の作動及び非作動のハンチングの発生を回避することができる。
また、車線内側方向に向かう方向に自車両の向きが変化している状態で前方注視距離Lsの更新を再開した場合、例えば、自車両が下り坂等を走行しているために、走行速度Vが増加した場合等においては、前方注視距離Lsが増加し、これに伴って、推定横変位Xsはより車線内側よりとなって逸脱傾向が回復した誤判断されやすくなる傾向となるが、上述のように、前方注視距離Lsが減少する方向にのみ前方注視距離Lsの更新を行うようにしているから、走行速度Vの変化に起因して逸脱傾向が回復したと誤判断することを回避することができる。
なお、上記第3の実施の形態においては、ヨー角φの向きと、推定横変位Xsの向きとに基づいて左右の何れかの方向に逸脱増加傾向にあるかどうかを検出するようにした場合について説明したがこれに限るものではなく、前記ヨー角φに替えて、推定横変位Xsの変化方向と、推定横変位Xsの向きとに基づいて逸脱増加傾向にあるかどうかを検出するようにすることも可能である。
次に、本発明の第4の実施の形態を説明する。
この第4の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、図3のステップS2で実行される推定横変位Xsの算出処理を図15のフローチャートに示す処理手順で行っている。なお、その他の処理は上記第1の実施の形態と同様であるので、同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
この第4の実施の形態では、図15のフローチャートに示すように、警報フラグFW、逸脱判断フラグFLDが共に“0”の場合には、上記第1の実施の形態と同様に、保持フラグFHOLDを“0”に設定し、前方注視距離Lsの更新を行う。一方、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0である場合には、ステップS12からステップS121に移行し、自車両の現在の横変位Xの絶対値と、完全に逸脱状態ではないと判断することの可能な値、例えば警報判断しきい値Xwとを比較する。そして、Xw≦|X|を満足するときには、まだ、完全に車線逸脱が回避されていない状態であると判断し、ステップS13に移行して保持フラグFHOLDを“1”に設定し、引き続き前方注視距離Lsの更新は行わない。一方、Xw>|X|であって、横変位|X|が警報判断しきい値Xwよりも小さいときには、完全に車線逸脱が回避された状態であると判断し、ステップS14に移行して保持フラグFHOLDを“0”に設定し、前方注視距離Lsの更新を再開する。
したがって、このように、車線逸脱の可能性が完全になくなった状態となった時点で、前方注視距離の更新を再開することによって、例えば、逸脱傾向にあるときに走行速度Vが変化した場合であっても、この走行速度Vの変化に伴う前方注視距離Lsの変動に起因して、逸脱警報や逸脱防止制御の作動及び非作動のハンチングをより確実に回避することができ、乗員に与える違和感をより確実に回避することができる。
次に、本発明の第5の実施の形態を説明する。
この第5の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、図3のステップS2で実行される推定横変位算出処理を図16のフローチャートに示す処理手順で行っている。なお、その他の処理は上記第1の実施の形態と同様であるので、同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
この第5の実施の形態では、図16のフローチャートに示すように、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0であるときには、ステップS12からステップS131に移行し、タイマカウンタtHOLDに、予め設定した待機時間THOLDを設定した後、ステップS13に移行し、保持フラグFHOLDを“1”に設定し、前方注視距離Lsの更新は行わない。
一方、警報フラグFW、逸脱判断フラグFLDが共に“0”であるときにはステップS12からステップS132に移行し、タイマカウンタtHOLDのカウント値からカウンタ更新量dtHOLDだけ減算してこれを新たにタイマカウンタtHOLDに設定する。次いで、ステップS133に移行し、待機時間THOLDが経過したかどうか、つまり、タイマカウンタtHOLDが“0”となったかどうかを判定し、待機時間THOLDが経過していないときには、ステップS133からステップS13に移行し、引き続き前方注視距離Lsの更新は行わない。
そして、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0の状態から、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”となったとき、この時点からタイマカウンタtHOLDのインクリメントを開始し、タイマカウンタtHOLDが“0”とならない間は、逸脱警報や逸脱防止制御の作動が解除されてから十分な時間、つまり待機時間THOLDが経過していないと判断し引き続き前方注視距離Lsの更新を行わない。そして、タイマカウンタtHOLDが“0”となったときには、逸脱警報及び逸脱防止制御の作動が解除されてから十分な時間が経過したと判断し、ステップS133からステップS134に移行し、自車両の現在の横変位Xの絶対値と、完全に逸脱状態ではないと判断することの可能な値、例えば、警報判断しきい値Xwとを比較する。
そして、Xw≦|X|を満足するときには、まだ、完全に車線逸脱が回避されていない状態であると判断し、ステップS13に移行して保持フラグFHOLDを“1”に設定し、引き続き前方注視距離Lsの更新は行わない。一方、Xw>|X|であって、横変位|X|が警報判断しきい値Xwよりも小さいときには、完全に車線逸脱が回避された状態であると判断し、ステップS14に移行し保持フラグFHOLDを“0”に設定し、前方注視距離Lsの更新を再開する。
つまり、この第5の実施の形態では、乗員が逸脱警報や逸脱防止制御が安定して行われていると判断するためには、ある程度以上継続することが望ましいため、少なくともある所定時間、つまり待機時間THOLDの間は、推定横変位Xsを算出するための前方注視距離Lsを警報装置23或いは逸脱防止制御の作動開始時点における前方注視距離Lsに維持するようにしている。
これと共に、現在の車両の横位置Xが確実に逸脱を回避したと判断される所定領域内に復帰しない限り、前方注視距離Lsの更新を再開しないようにしているから、完全に車線逸脱が回避された状態となるまでは、前方注視距離Lsの更新は行われない。よって完全に車線逸脱が回避されるまでは、不用意に推定横変位Xsが減少することを回避することができ、より的確なタイミングで逸脱警報や逸脱防止制御の作動及びその解除を行うことができる。
次に、本発明の第6の実施の形態を説明する。
この第6の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、図3のステップS2で実行される推定横変位の算出処理を図17のフローチャートに示す処理手順で行っている。なお、その他の処理は上記第1の実施の形態と同様であるので、同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
この第6の実施の形態では、図17のフローチャートに示すように、警報フラグがFW≠0又は逸脱判断フラグがFLD≠0であるときには、ステップS12からステップS141に移行し、前方注視距離Lsの変動量に応じた前方注視距離の更新量dLsを算出する。具体的には、まず、図18に示すように、関数fdLsに基づいて、ステップS4の処理で算出される前回の目標ヨーモーメントMsに応じた前方注視距離Lsの更新量の上限値又は下限値を算出する。ステップS11の処理で算出される今回の前方注視距離Ls*と、前回の前方注視距離Lsとが、Ls*>Lsを満足する場合には、図18(a)に示すように、更新量の上限値dLsmaxを算出し、Ls*<Lsを満足する場合には、図18(b)に示すように、更新量の下限値dLsminを算出する。なお、図18(a)、(b)において、横軸は目標ヨーモーメントMs、縦軸は、更新量の上限値dLsmax又は下限値dLsminである。
図18(a)に示すように、更新量の上限値dLsmaxは、目標ヨーモーメントMsが比較的小さい第1のしきい値Ms1以下であるときには、上限値dLsmaxは比較的大きな正の一定値に設定され、目標ヨーモーメントMsが第1のしきい値Ms1よりも大きくなるとこれに反比例して上限値dLsmaxは減少し、目標ヨーモーメントMsが第2のしきい値Ms2以上となると、上限値dLsmaxは、比較的小さな正の一定値に設定される。
一方、図18(b)に示すように、更新量の下限値dLsminは、目標ヨーモーメントMsが比較的小さい第1のしきい値Ms1以下であるときには、下限値dLsminは負方向に比較的大きな負の一定値に設定され、目標ヨーモーメントMsが第1のしきい値Ms1よりも大きくなるとこれに比例して下限値dLsminは増加し、目標ヨーモーメントMsが第2のしきい値Ms2以上となると、下限値dLsminは、負方向に比較的小さな負の一定値に設定される。
そして、図18(a)及び図18(b)に示すように、前回の前方注視距離LsとステップS11で算出した今回の前方注視距離Ls*とがLs*>Lsのときには、Ls*−Lsをその上限値dLsmaxで制限し、逆に、Ls*<Lsのときには、Ls*−Lsをその下限値dLsminで制限し、このようにして制限した値を、前方注視距離の更新量dLsとして設定する。
なお、ここでは、目標ヨーモーメントMsを用いて更新量dLsを算出するようにした場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、目標ヨーモーメントMsの代わりに前記図10の制駆動力制御処理で算出される目標制動流体圧Psiに基づいて、次式(10)で算出される左右の制動流体圧差を用いるようにしてもよく、この場合であっても同等の作用効果を得ることができる。
ΔPsLR=(PsFL+PsRL)−(PsFR+PsRR) ……(10)
一方、前記ステップS12で、警報フラグFW及び逸脱判断フラグFLDが共に“0”であるときにはステップS12からステップS142に移行し、前方注視距離Lsの更新量としてdLs=Ls*−Lsに設定する。
このようにして、ステップS141又はS142で前方注視距離Lsの更新量dLsを算出したならば、ステップS143に移行し、前回の前方注視距離Lsに更新量dLsを加算した値を新たな前方注視距離Lsとして更新記憶する。つまり、前方注視距離Lsは、ステップS11で算出された今回の前方注視距離Ls*に近づくように更新されることになる。
そして、ステップS17に移行し、前記ステップS143で算出した前方注視距離Lsに応じた推定横変位Xsを前記(1)式にしたがって算出する。
つまり、この第6の実施の形態においては、前方注視距離Lsに対し、逸脱防止制御の制御量つまり目標ヨーモーメントMsの大小に応じてその更新度合が調整され、逸脱防止制御の制御量が大きいときには前方注視距離Lsを今回の前方注視距離Ls*にゆっくりと一致するように更新し、逸脱防止制御の制御量が小さい場合には、逸脱防止制御の制御量が大きい場合に比較してより速やかに前方注視距離Ls*に一致するように更新している。なお、例えば、逸脱防止制御の制御量が大きい場合には、前方注視距離Lsに対して遅いローパスフィルタ処理を行い、逆に逸脱防止制御の制御量が小さい場合には、前方注視距離Lsに対して、逸脱防止制御の制御量が大きい場合のローパスフィルタ処理よりもより速いローパスフィルタ処理を行うようにすることも可能である。
このように、逸脱防止制御の制御量が小さいときには前方注視距離Lsの更新速度をより早くし、逸脱防止制御の制御量が小さく逸脱防止制御による車両の状態変化が小さい状況においては、前方注視距離Lsを速やかに前方注視距離Ls*に一致させ、走行速度Vに応じた推定横変位Xsに基づいて逸脱防止制御を行うことによって、ドライバのブレーキ操作等によって走行速度Vが減少するような場合には、走行速度Vの減少に応じてこれに即した逸脱防止制御に必要な制御量を算出することができる。
逆に、逸脱防止制御の制御量が大きく、車両の逸脱傾向が大きいと予測されるときには、大きな逸脱防止制御量が作用することによって、車両姿勢が車線内側方向へ、また走行速度Vが減速方向へ同時に大きく変化する可能性があるが、逸脱防止制御量が大きく車両挙動に与える影響が大きいと予測されるときには、前方注視距離Lsの更新速度に制限を設け、逸脱防止制御の安定化を図るようにしているため、車両挙動が大きく変動することに起因して乗員に違和感を与えることを回避することができる。
なお、上記各実施の形態においては、推定横変位Xsが警報判断しきい値Xw以上となったときに警報を発生する警報発生手段及び推定横変位Xsが横変位限界値Xc以上となったときにヨーモーメントを発生する逸脱防止制御手段を共に備えた場合について説明したが、何れか一方のみを有している場合であっても適用することができる。
また、警報発生手段及び逸脱防止制御手段では、同一の前方注視距離を用いてその作動及び非作動の判断を行うようにした場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば、警報発生手段で用いる前方注視距離をLs1、逸脱防止制御手段で用いる前方注視距離をLs2としてそれぞれ独立に設定し、それぞれの前方注視距離に基づいてその作動及び非作動の判断を行うようになっている場合であっても適用することができる。この場合には、前方注視距離Ls1及びLs2についてそれぞれ個別に前方注視距離の更新条件設定し、前方注視距離Ls1及びLs2を更新するようにすればよい。
このとき、例えば逸脱警報の作動判断に用いる前方注視距離のみを、この逸脱警報の作動が開始した時点での値に保持するようにした場合には、逸脱防止制御の作動判断に用いる前方注視距離は、走行速度Vに応じて算出され、この前方注視距離に応じて逸脱防止制御の制御量が算出されるため、この逸脱防止制御の制御量は走行速度Vの変化に伴って変化する可能性があるため作動及び非作動のハンチングが生じる可能性があるが、逸脱警報の作動及び非作動のハンチングはなくすことができる。
ここで、逸脱防止制御が作動及び非作動を繰り返す状態となった場合であっても、制御量変動自体がある程度の範囲内であれば、この逸脱防止制御による減速度の変動も小さく、乗員が感じる不快感は小さい可能性がある。しかしながら、主にブザー音やオーディオ装置によって警報音を発生するような警報装置23の場合には、警報音が作動及び非作動のハンチングを繰り返した場合、非常に耳障りであると共に、車両状態があまり変動しない状態で警報音が作動及び非作動を繰り返すと、乗員は何に対して警報音が発せられているのかを理解することが難しくなり、逸脱警報に対する信頼感が低下してしまう場合がある。
しかしながら、上述のように、少なくとも逸脱警報の作動判断のための前方注視距離を、逸脱警報の作動を開始した時点での値に保持するような構成とすることによって、逸脱警報の作動及び非作動の切り替わり条件を安定させることができ、乗員によって、逸脱警報が発せられている間の車両の走行状態を認識しやすくすることができる。
また、上記各実施の形態においては、逸脱防止制御手段として、自車両にヨーモーメントを発生させることにより逸脱を回避するようにしたヨーモーメント発生手段を適用した場合について説明したが、これに限るものでなく、例えば、逸脱検出時には自車両を減速させ、逸脱するまでの速度を低減するようにした減速制御手段や、操舵アクチュエータを備え、逸脱を回避する方向に操舵制御することによって車線逸脱を防止するようにした操舵制御手段等を適用することも可能であって、この場合も、上記と同等の作用効果を得ることができる。
また、上記各実施の形態はそれぞれ単独で実行するようにした場合について説明したが、これに限るものではなく、これらのうちの複数を組み合わせて実行するようにすることも可能である。
ここで、上記各実施の形態において、図3のステップS2における推定横変位算出処理で、前方注視距離Lsを設定する処理が注視距離設定手段に対応し、逸脱判断フラグFLD及び逸脱警報フラグFWの状態に応じて、前方注視距離Lsの更新を行う処理が注視点距離変動抑制手段に対応している。
また、カメラコントローラ14で自車両の横変位Xを算出する処理が走行位置検出手段に対応し、図3のステップS4及びステップS6で目標ヨーモーメントを算出しこれに応じた制駆動力を発生させる処理が逸脱防止制御手段及びヨーモーメント発生手段に対応し、ステップS5の処理が警報発生手段に対応している。