JP3944466B2 - インモールド加飾品の製造方法及びインモールド加飾品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面に装飾性を有する樹脂(プラスチック)成形品の製造などに使用されるインモールド加飾品の製造方法に関する。特に、本発明は、パソコン、カメラ、携帯電話などの各種の電気製品のハウジングやカバーなどの部材用、または車輌用尾灯などの車輌用部材などの樹脂成形品の製造に適するインモールド品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のインモールド加飾品の製造方法では、通常、熱可塑性のフィルムに所望の図柄をスクリーン印刷し、この印刷済みのフィルムを真空成形または圧空成形などで形状付与する。次に、形状付与された印刷済みのフィルムを金型のキャビティ内にセットし、熱可塑性樹脂を注入して製品とする。加飾方法による製品(以下、加飾品という。)を図柄を塗装した製品と比べると、仕上がりの美感に優れ、また塗装に必要とされる溶剤を使用しないことから環境にもよいという利点がある。
【0003】
しかし、加飾品でも写真などに比べて鮮鋭性に劣り、画質の点では充分ではない。また、印刷済みのフィルムを前記キャビティ内にセットし、熱可塑性樹脂を注入する際に、ゲート周辺の前記フィルムから印刷されたインクの一部が流れ落ちることがあり、にじみが発生する。したがって、ゲート位置の選定、金型設計、成形条件の設定などに熟練と時間を要するなどの問題点もある。さらに、加飾品の印刷する図柄が複雑になるとそれだけ高価なスクリーン、スッテンシルをたくさん準備する必要があり、工数、製造コストがかかる問題点もある。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2に開示されるように、車輌用尾灯ランプ組立品の製造方法としてインモールド方法、またはインモールド加飾方法(IMD)が提案されている。インモールド加飾方法は、加飾を基材の成形サイクル中に行うものである。すなわち、1またはそれ以上の着色または加飾された基材を単一金型キャビティに入れ、次に溶融樹脂を前記金型のキャビティ内に射出成形して、単一レンズパネル内に1またはそれ以上の着色または加飾された一体成形組立て品を得るものである。この方法で得られた一体成形組立て品は、点灯時に均一な色の分布を与え、かつ、従来の製品と比較してコスト及び製造時間が低減される。
【0005】
前記インモールド加飾方法において、特許文献2に開示される方法では、基材上に加飾する手段として、目の細かい織物からなるスクリーンを有するスクリーン印刷が採用されている。スクリーン印刷はインク厚さを正確に変更し、調整できることから、多種多様なプラスチック基材の加飾における有用な方法であり、塗装方法などに比較すると美的仕上がりは良好である。
【0006】
しかし、スクリーン印刷を使用する場合には、寸法の正確なフィラメントを用いて精密な制御の下で面密に織られたメッシュスクリーンを準備する必要があり、特にこれは、模様、色合いが複雑になった場合には、多大の費用と時間がかかる。また、スクリーン印刷では、基材上に精密な加飾を施す必要があるため、エッジガイド、メカニカルストッパー及び自動装置を用いた大がかりな装置を必要とし、それら装置の調達も容易ではない。
【0007】
スクリーン印刷を使用するインモールド加飾方法の場合、このような、精密、かつ大がかりな装置を必要とするため、製造個数が少量であると、個数あたりのコストが高くなるため、製造個数がまとまる必要性があり、少量ロットのニーズには充分に応えきれない問題点を有していた。さらに、スクリーン印刷で使用されるインクは、成形時の高温条件でインク流れを起こし易く、それを防ぐための手段が必要であるとともに、製造された樹脂成形品の有する表面の加飾(画像)は、前記のように塗装品に比べれば良好であるが、鮮鋭性が写真などと比較すると充分ではなく、さらに改良の余地があるものであった。
【0008】
【従来文献】
【特許文献1】
特開平4−320825号公報(米国特許5275764号)
【特許文献2】
特開平11−240441号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、大がかりな装置を使用することなく、少量ロットでもコストの上昇を招くことなく、また成形時にも加飾に使用したインク流れを起こすことのない、インモールド加飾品の製造方法の提供を課題とする。
また、本発明は、写真などに比べても遜色のない鮮鋭な印刷画像を有し、かつ印刷のにじみもなく優れた画質を有するインモールド加飾品の製造方法およびインモールド加飾品の提供を課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねたところ、インモールド加飾品の製造方法において、基材上にヘーズが70%以下の透明性の高いインク受容層を形成し、該インク受容層に対してインクジェット印刷するという新規な方法を採用することにより、前記の課題を解決しうることを見出した。特に、前記基材上に形成するインク受容層として、特定の材質から形成されるインク受容層を使用した場合には、特に好適な結果が得られることが見出された。
【0011】
かくして、本発明は以下の構成上の特徴を有するものである。
(1)透明な基材の表面に設けられた、ヘーズが70%以下の透明性の高いインク受容層面にインクジェット印刷により図柄を加飾する工程(A)と、次に、前記加飾された基材をインク受容層を内側にして金型内に装着し、装着後、金型内に溶融樹脂を射出成形して全体が一体化された成形品を得る工程(B)と、を含むことを特徴とするインモールド加飾品の製造方法。
(2)インク受容層が空隙吸収型インク受容層であり、かつ顔料及びバインダを含む前記(1)に記載のインモールド加飾品の製造方法。
(3)空隙吸収型インク受容層は、平均細孔半径が3〜25nmであり、かつ細孔容積が0.3〜2.0cm3/gである前記(2)に記載のインモールド加飾品の製造方法。
(4)前記インク受容層が膨潤型インク受容層であり、親水性高分子及び顔料を含む(1)に記載のインモールド加飾品の製造方法。
(5)前記膨潤型インク受容層が、親水性高分子100質量部に対し、顔料が200質量部以下である、(1)または(4)に記載のインモールド加飾品の製造方法。
(6)前記基材と前記膨潤型インク受容層の間に、顔料及びバインダを含む中間層を設けた、(1)、(4)又は(5)に記載のインモールド加飾品の製造方法。
(7)前記中間層が、顔料とバインダとを含む空隙吸収型インク受容層である、(6)に記載のインモールド加飾品の製造方法。
(8)インクジェット印刷のインクが顔料インクである前記(1)〜(7)のいずれかに記載のインモールド加飾品の製造方法。
(9)溶融樹脂が、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、変性ポリフェニレンエーテル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの2種以上からなるポリマーアロイである前記(1)〜(8)のいずれかに記載のインモールド加飾品の製造方法。
(10)インクジェット印刷されたインク受容層を有する基材において、当該インク受容層に接するように樹脂層が形成されていることを特徴とする加飾品。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のインモールド加飾品の製造方法は、前記したように、(A)及び(B)の工程を通じて実施される。以下にそれぞれの各工程について説明する。
まず、本発明では、透明な基材の表面に設けられた特定のインク受容層にインクジェット印刷により図柄を加飾する工程(A)が実施される。ここで透明な基材とは、ヘーズが15%以下のものが好ましく、特に5%以下のものが好ましい。かくして、基材としては、透明性の高い各種の合成樹脂のフィルムまたはシートが使用される。合成樹脂の好ましい例としては、熱可塑性樹脂があり、例えば、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、変性ポリフェニレンエーテル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの2種以上からなるポリマーアロイなどが挙げられる。なかでも、耐熱性、耐衝撃性、透明性、及び3次元加工性に適している点から、ポリカーボネートが特に好適である。また、基材の厚さは、好ましくは0.1〜1mmが良好である。厚さが0.1mmよりも薄い場合には、成形時に溶融樹脂の圧力で基材が破損しやすくなり、また、厚さが1mmよりも厚い場合には、肉薄の加飾品の成形が難しくなってしまう。なかでも厚さは0.1〜0.5mmが好適である。
【0013】
基材に設けられるインク受容層としては、ヘーズが70%以下の透明性の優れたものを使用する。ヘーズは70%超であると得られるインモールド加飾品の画像がぼやけて見にくくなるおそれがあるため好ましくない。ヘーズは、50%以下が特に好ましい。なお、本発明では、ヘーズの測定はJIS K7165に則って行う。インク受容層としては、微粒子間の空隙にインクを受容させる、いわゆる空隙吸収型受容層であっても、樹脂塗工層にインクを膨潤定着させる膨潤型受容層であってもよい。空隙吸収型受容層の場合は、画像が鮮明なものが得られ、また、インク受容層の耐熱性が優れるため、溶融樹脂の温度が高い場合でも加飾された画像がにじんだり、劣化することがないため好ましい。膨潤型受容層の場合はインク受容層が柔軟性に優れるため、3次元にインモールド加工する際にも加飾品が損傷しにくいため好ましい。インク受容層の厚さは、インク吸収性、インク受容層の強度、用途などに応じても選択されるが、好ましくは、2〜80μmが採用される。前記厚さが2μmに満たない場合はインク受容層としての効果が発現し難く、一方、80μmを超える場合は、透明性や強度が低下するおそれがあるので好ましくない。なかでも、インク受容層の厚さは、10〜50μmが適切である。
【0014】
空隙吸収型インク受容層は、平均細孔半径が3〜25nmであり、特には、5〜15nmが適切であり、かつ細孔容積が0.3〜2.0cm3/gが好ましく、特には、0.5〜1.5cm3/gであると好適である。空隙吸収型インク受容層は顔料とバインダを含むのが好ましい。なかでも顔料は、無機顔料が好ましい。顔料の例としては、シリカ、アルミナ、ベーマイト、合成微粒子シリカ、合成微粒子アルミナシリケート、気相法合成シリカ、ゼオライト、モンモリロナイト群鉱物、バイデライト群鉱物、サポナイト群鉱物、ヘクトライト群鉱物、スチーブンサイト群鉱物、ハイドロタルサイト群鉱物、スメクタイト群鉱物、ベントナイト群鉱物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム化合物、アルミナ水和物、プラスチックピグメント、尿素樹脂顔料、セルロース粒子、澱粉粒子、シリカアルミナ複合粒子などが挙げられる。
【0015】
なかでも、気相法合成シリカ、シリカ、アルミナ、ベーマイトがインク受容層の透明性がより優れるため好ましい。このうち、特にベーマイト(Al2O3・nH2O、n=1〜1.5)がインクの吸収性、定着性、透明性の点から好適である。
【0016】
前記バインダとしては、でんぷんまたはその変性物、ポリビニルアルコールまたはその変性物、ゼラチンまたはその変性物、カゼインまたはその変性物、ポリビニルアセタール樹脂、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ニトリル・ブタジエンゴムラテックス、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等の水溶性重合体、アルコール可溶性の重合体若しくはこれらの重合体の混合物などが使用できる。なかでも、本発明では、インク吸収性や耐水性が良好であることから、ポリビニルアルコールまたはその変性物の使用が好ましい。バインダは、材質によりその態様が変化するため一概には決められないが、インク受容層における前記顔料100質量部に対して、好ましくは、1〜50質量部、特には、5〜30質量部含まれると適切である。
【0017】
膨潤型インク受容層は、好ましくは、親水性高分子及び顔料を含むのが好ましい。親水性高分子としては、分子内に親水性官能機を有しており、水に溶解した状態、または自己乳化した状態の高分子物質を意味する。その好ましい例としては、ウレタン樹脂またはその変性物、ポリビニルアルコールまたはその変性物、ポリビニルピロリドンまたはその変性物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼインまたはその変性物、ゼラチンまたはその変性が挙げられる。なかでも変性ウレタン樹脂が耐熱性に優れることから特に好ましい。なお、本発明で変性ウレタン樹脂とは、水性化されたウレタン樹脂を意味し、水に安定して分散できるように、ウレタン骨格の主鎖中に親水基を導入して自己乳化するか、または、外部乳化剤で分散させて得られる、ウレタン樹脂の水分散体を示す。変性ウレタン樹脂としては、特に、ポリカーボネート系ポリオールまたはポリエステル系ポリオールと脂肪族イソシアネートとから得られる自己乳化タイプのものが好ましい。また、顔料としては、前記空隙吸収型インク受容層に使用されるのと同じ顔料が挙げられるが、無機顔料が特に好ましい。
【0018】
膨潤型インク受容層を形成する親水性高分子と顔料の配合比率は、材質により特性が変化するため一概には決められないが、親水性高分子100質量部に対して、顔料が200質量部以下が好ましく、特には150質量部以下がより好ましい。
【0019】
インク受容層が膨潤型インク受容層の場合、基材と膨潤型インク受容層の間に、顔料を含む中間層を設けるとさらに好ましい。中間層の形成により、中間層を介して、膨潤型インク受容層と基材との密着強度が高まり、インク受容層の耐熱性が向上する。かくすることにより、射出成形において溶融樹脂を注入した場合に、注入ゲート周辺の印刷されたフィルム上の膨潤型インク受容層が熱の影響を受けて変形し、フィルム上から剥がれやすくなるのを抑制することができる。上記中間層としては、上述の空隙吸収型インク受容層と同じ組成物を使用することが好ましい。中間層の厚さは、0.2〜15μmが好ましい。
【0020】
前記インク受容層は、前記空隙吸収型インク受容層、または樹脂膨潤型インク受容層の構成成分を含む塗工液を調製し、該塗工液を適宜の塗工手段で基材の表面に塗工することにより形成される。塗工手段としては、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スライドコーターなどが使用される。塗工後には、乾燥されるが、乾燥方法としては、熱風、赤外線、加熱シリンダー等がある。
なお、前記インク受容層の密着性レベルを向上させるために、コロナ放電処理、プライマーコーティングなどにより、基材の表面を予め処理しておくことも可能である。
【0021】
基材の表面に設けられたインク受容層に図柄をインクジェット印刷により加飾する。加飾される図柄(グラフィックス)は、最終製品の用途、タイプ、種類などに応じてそれぞれ選択される。本発明では、前記インク受容層に対してインクジェット印刷により図柄が加飾されるために種々の色、模様等が容易に、かつ精細に印刷できる。インクジェット印刷機としては、印刷インクの種類などにより適宜選択される。印刷インクとしては、水性染料インク、水性顔料インク、溶剤系染料インク、溶剤系顔料インク、ソリッドインクが使用される。なかでも、高精細な画像を得る場合には、染料系のインクの使用が好ましく、一方、高堅牢性の画像を得る場合には、顔料系のインクの使用が好ましい。
【0022】
インクジェット印刷の終了後には、使用したインクの種類に応じてインクを乾燥または硬化させることが好ましい。インクが溶剤系または水系の場合、ガス式または電気式ドライヤーを使用してインクを乾燥できる。この場合、基材の歪みを避けるため乾燥の温度と滞留時間を制御することが好ましい。溶剤インクを用いる場合、ヒュームを消散させるため空気流れの良好な乾燥を行うことが好ましい。インクの種類によっては赤外線乾燥を使用できる。インクが紫外線硬化性の場合、数多くの市販乾燥機が好適に利用できる。
【0023】
次いで、本発明では、インクジェット印刷により加飾された基材をインク受容層を内側に向けて金型内に装着し、装着後、金型内に溶融樹脂を射出成形して全体が一体化された成形品を得る工程(B)を通じて最終製品(加飾品)が製造される。これにより得られるインモールド加飾品は画像がシートの内側に保護されるため、耐擦傷性、耐候性に優れたものが得られる。
【0024】
本発明により得られる一例の加飾品の断面図を図1に示す。図1は、基材1のインク受容層2の上に樹脂層3がある構造の加飾品10を示す。図1の場合、工程(B)は加飾されたインク受容層2に接するように溶融樹脂が射出成形され、樹脂層3となる。
【0025】
なお、本発明における工程(B)は、基材がインクジェット印刷により加飾された基材であることを除いて、基本的には前記した特開平11−240441号公報に開示される方法が採用され、該方法と同様に実施できる。
【0026】
本発明において、加飾品が板状製品である場合には、工程(A)に続いて工程(B)が行われるが、加飾品が複雑な三次元形状を有する場合には、工程(B)の前に、加飾品の三次元形状に合致した金型内に適合するように、加飾された基材を成形することが好ましい。かかる成形は、好ましくは真空成形機、圧空成形機などの成形機を使用し、基材を形成する樹脂に応じた好ましい成形温度、成形圧力が採用される。基材がポリカーボネートフィルムの場合には、好ましくは、温度160〜220℃、圧力0.1〜10MPaが採用される。
【0027】
工程(B)における金型は、金属、石膏、硬木、ガラス繊維、シンタクチックフォーム及びシリコーンのような材料から形成できる。これらの材料は加工が比較的容易で、軽い修正を施すことができる。なかでも、ポリカーボネートなどの場合には、炭素鋼、プリハードン鋼、ステンレス鋼のような耐久性材料が好ましい。
【0028】
前記金型内に設けられるゲートの位置は、これを通じて溶融樹脂(溶融状態にある樹脂)が射出された場合の衝撃により、加飾された基材にしわが生じないように選択される。ゲートを通じて射出される溶融樹脂は、熱可塑性樹脂であればよく、例えば、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、変性ポリフェニレンエーテル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの2種以上からなるポリマーアロイなどの各種の樹脂が使用される。ポリカーボネート、ポリアクリレートおよび変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選ばれる1種以上であるとさらに好ましい。ポリカーボネートおよび/またはポリアクリレートであると特に好ましい。この樹脂は、前記基材の樹脂と必ずしも同じである必要はないが、基材との接着性が大きい点からして、同じ樹脂の使用が好ましい。なかでも、本発明では、前記基材ともどもポリカーボネート樹脂の使用が好適である。
【0029】
本発明では加飾品の耐候性、耐光性、耐酸化性などを向上させるために、基材とともに、これらの特性を有する樹脂フィルムを併用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素ポリマーからなる樹脂フィルムが挙げられる。
このようにして、本発明のインモールド加飾品の製造方法により得られる加飾品は、基材、インクジェット印刷されたインク受容層、及び射出成形された樹脂層を含むものである。
【0030】
本発明のインモールド加飾品の製造方法により得られる加飾品は、特に限定されることなく、各種の分野に使用される種々のものが含まれる。なかでも、精密な加飾模様を有する種々の透明樹脂成形品、特に、パソコン、カメラ、携帯電話などの各種の電気製品のハウジングやカバーなどの部材、または車両用の尾灯ランプ、ダッシュボード、ドアーの内側のランプ組立体、産業用の警報ランプ、自動車用内装部品(センターパネル、ハンドルカバー等)、看板などの製造に好適である。
【0031】
【実施例】
以下に、例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されるものではないことはもちろんである。例1〜例6は、本発明の実施例であり、例7、例8は比較例である。また、例中の部は特に断らない限り、質量部を示す。なお、本実施例では、ヘーズは、ヘーズメーター(スガ試験機社製、HGM−30P)で測定した。
【0032】
[例1]
ポリカーボネートフィルム(旭硝子社製、商品名:レキサンフィルム:品番8010、厚み:0.125mm、ヘーズ:0.4)に270W・min/m2の条件にてコロナ放電処理を施した。該ポリカーボネートフィルムのコロナ放電処理面に、インク受容層処方(アルミナゾル:固形分換算で100部、ポリビニルアルコール(PVA、日本合成化学社製、商品名:ゴーセノールNH−18):固形分換算で10部、及びホウ酸:固形分換算で0.5部を含む、固形分濃度17%、粘度60mPa・sの水性懸濁液)を、バーコーターを用いて乾燥後の塗工厚が20μmになるように塗工した。次いで、80℃の熱風ドライヤーで20分間乾燥し、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0033】
なお、前記インク受容層処方で使用したアルミナゾルは、95℃に加熱したポリ塩化アルミニウムと水からなる液にアルミン酸ナトリウム溶液を添加し、熟成したスラリーをイオン交換水で洗浄し、再び95℃に昇温し、酢酸を添加して解膠と濃縮を行い、次いで超音波処理を行って得られたアルミナゾルである。
【0034】
[例2]
インク受容層処方が、変性ウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名:パテラコールIJ−70、以下同じ)を固形分換算で100部、アルミナゾルを固形分換算で80部を含有する、固形分濃度10質量%、粘度340mPa・sの水系懸濁液であり、乾燥後の塗工厚が10μmであること以外は例1と同様にして、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0035】
[例3]
インク受容層処方が、変性ウレタン樹脂を固形分換算で100部、コロイダルシリカ(触媒化成社製、商品名カタロイドSI−80)を固形分換算で80部を含有する、固形分濃度10%、粘度70mPa・sの水系懸濁液であること以外は例2と同様にして、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0036】
[例4]
インク受容層処方が、変性ウレタン樹脂100部を含有する、固形分濃度10%、粘度 75mPa・sの水系懸濁液であること以外は例2と同様にして、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0037】
[例5]
例1と同様にして得られたポリカーボネートフィルムのコロナ放電処理面に、中間層となる、実施例1と同じインク受容層処方の液を、同様にして乾燥後の塗工厚が2μmになるように塗工した。次いで、80℃の熱風ドライヤーで2分間乾燥し、表面に中間層を有するポリカーボネートフィルムを得た。該中間層上に、例3と同じインク受容層処方の液を実施例3と同様にして乾燥後の塗工厚が10μmになるように塗工した。次いで、80℃の熱風ドライヤーで20分間乾燥し、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0038】
[例6]
インク受容層処方が、市販のアクリル系共重合体樹脂(ISP社製、商品名:VVPR300)を固形分換算で 100部を含有する、固形分濃度10%、粘度 50mPa・sの水系懸濁液であること以外は例2と同様にして、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0039】
[例7]
インク受容層処方が、市販のシリカゲル(トクヤマ社製,商品名:ファインシールX-37)100部及びポリビニルアルコール(日本合成化学社製、商品名:ゴーセノールNH−18):固形分換算で30部を含有する、固形分濃度10%、粘度80mPa・sの水系懸濁液であること以外は例1と同様にして、表面にインク受容層を有するポリカーボネートフィルムを得た。
【0040】
上記例1〜例7で得られた6種のポリカーボネートフィルムのインク受容層面に、顔料インク型インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、商品名:MC−2000)で、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの5色の階調パターンをインクジェット印刷した。なお、インク受容層の形成されていないポリカーボネートのフィルムのコロナ放電処理面に同様にしてインクジェット印刷を行ったが、インクを全く吸収せず、全く画像が形成されなかった。
【0041】
次いで、印刷済みのポリカーボネートフィルムを、射出成形機を用いて板状に成形した。得られた成形物をトリミングした後、該成形物の形状に合致した表面を有する金型(横150mm×縦150mm×3mm)内に成形物を装着した。
【0042】
次いで、金型キャビティ内に金型に設けられたサイドゲートを通して、前記成形物の印刷面に対してポリカーボネートの溶融樹脂を射出し、金型温度70℃、射出速度を低速設定(設定値で8〜20%)し、それぞれ樹脂温度230℃、260℃、及び290℃の成形条件にてインモールド成形して全体が一体化された成形品(図1に相当)を製造した。
【0043】
上記で得られた結果を表1にまとめて示す。表1において得られたインモールド成形品の耐熱性、立体成形性、及び画像鮮鋭性における○、×、△は、それぞれ以下を意味する。
耐熱性:
○:画像の変形は見られなかった。
△:わずかに画像の変形が見られた。
×:著しく画像の変形がおき、元の画像が認識できなかった。
立体成形性:
○:画像にひび割れは発生しなかった。
△:わずかに画像にひび割れは発生した。
×:著しく画像にひび割れが発生し、元の画像が認識できなかった。
画像鮮鋭性:
○:画像の鮮鋭性が高い。
×:画像の鮮鋭性が低い。
【0044】
表1に示される結果からわかるように、本発明の実施例で製造された成形品は、その表面に有する印刷画像が鮮鋭であり、印刷のにじみもなく、優れた画質であった。また、画像出力はインクジェットプリンターによるため、少量部数でも、部数あたりのコストは低コストであり、作業性も簡易であった。
【0045】
[例8]
例1において、インクジェット印刷に代えて、インク受容層の形成されていないポリカーボネートフィルムのコロナ放電処理面に対してスクリーン印刷を行った。スクリーン印刷は、通常の条件にて行った。前記の他は例1と全く同様に実施することにより、全体が一体化された成形品を製造した。その結果を表1に示す。
【0046】
表1に示されるように、例8で製造された成形品は、その表面の印刷画像の鮮鋭性が不十分であり、印刷のにじみも見られた。なお、スクリーン印刷機は、5色もの多色刷りであることもあり、スクリーン及びインク交換の手間がかかり作業性も面倒であり、少量部数の場合には、部数あたりのコストが高いものであった。
【0047】
【表1】
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、大がかりな装置を使用することなく、製造個数が少量の場合でもコストの上昇を招くことがないため、少量個数のニーズにも十分に応えることができ、また成形時にも加飾に使用したインク流れを起こすこともない、表面に装飾性を有する樹脂成形品の製造などに使用されるインモールド加飾品の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、写真などに比べても遜色のない鮮鋭な印刷画像を有し、かつ印刷のにじみもなく優れた画質を有する、インモールド加飾品が提供される。
したがって、本発明の製造方法を使用することにより、従来は実質的に不可能であった各種家電製品、情報機器のハウジング等に個人ユーザーが希望する図柄を付与して、各個人ユーザー専用の家電製品、情報機器を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインモールド加飾品の製造方法により製造されたインモールド加飾品の一例の断面図。
【符号の説明】
1 :基材
2 :加飾されたインク受容層
3 :樹脂層
10 :本発明のインモールド加飾品の製造方法により製造されたインモールド加飾品
Claims (10)
- 透明な基材の表面に設けられた、ヘーズが70%以下の透明性の高いインク受容層面にインクジェット印刷により図柄を加飾する工程(A)と、次に、前記加飾された基材をインク受容層を内側にして金型内に装着し、装着後、金型内に溶融樹脂を射出成形して全体が一体化された成形品を得る工程(B)と、を含むことを特徴とするインモールド加飾品の製造方法。
- 前記インク受容層が空隙吸収型インク受容層であり、かつ顔料及びバインダを含む請求項1に記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記空隙吸収型インク受容層は、平均細孔半径が3〜25nmであり、かつ細孔容積が0.3〜2.0cm3/gである請求項2に記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記インク受容層が膨潤型インク受容層であり、親水性高分子及び顔料を含む請求項1に記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記膨潤型インク受容層が、親水性高分子100質量部に対し、顔料が200質量部以下である請求項4に記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記基材と前記膨潤型インク受容層の間に、顔料及びバインダを含む中間層を設けた請求項4又は5に記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記中間層が、顔料とバインダとを含む空隙吸収型インク受容層である請求項6に記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記インクジェット印刷のインクが顔料インクである請求項1〜7のいずれかに記載のインモールド加飾品の製造方法。
- 前記溶融樹脂が、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、変性ポリフェニレンエーテル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの2種以上からなるポリマーアロイである請求項1〜8のいずれかに記載のインモールド加飾品の製造方法。
- インクジェット印刷されたインク受容層を有する基材において、当該インク受容層に接するように樹脂層が形成されていることを特徴とするインモールド加飾品。
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