JP3941501B2 - 車体前部骨格構造および車体前部骨格の結合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、フロントサイドメンバがフロント部材とリア部材との結合により構成され、とりわけ、フロント部材が閉断面の筒型形状に一体成形された押出材によって形成された車体前部骨格構造および車体前部骨格の結合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車の車体は、エンジンルームの車幅方向両側に前後方向を指向して配置されるフロントサイドメンバを車体骨格の1つとして備え、このフロントサイドメンバに、エンジンなどの駆動源と出力用のギアトレーンとを結合したパワーユニットやフロントサスペンションが支持されるようになっている。
【0003】
また、前記フロントサイドメンバは、一般的に、前面衝突時に潰れ変形(軸圧壊変形)することにより、衝突エネルギを吸収できるようになっている。
【0004】
ところで、近年では軽量化や剛性確保などを目的として、車体構造の一部をアルミ合金で形成したものがあり、前記フロントサイドメンバにあっても、アルミ合金として形成したものがある。
【0005】
この場合、フロントサイドメンバを、フロント部材とリア部材とに前後分割し、フロント部材は、衝突時にその長さ方向にほぼ均等に潰れ変形できるように閉断面の筒型形状をした押出材として直状に形成されるとともに、リア部材は、パワーユニットのマウント部分やフロントサスペンションの取付部などを含めるように鋼製の鋳物によって形成されている。
【0006】
そして、これらフロント、リア両部材相互は、修理性を考慮し、ボルトによって固定することが一般的となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したフロント部材とリア部材とは、いずれも閉断面形状を呈していて、これらの全周を固定する構成となっていることから、結合面全周の精度を確保できないと、ボルト固定しても、面接触しない箇所が発生するので、実用強度相当(約17kN)の入力を車体前後方向から受けると、結合部にずれが生じるという問題がある。
【0008】
そこで、この発明は、フロント部材とリア部材との結合強度を高めることを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、車体前部の車幅方向両側に前後方向に配置されるとともに、パワーユニットやフロントサスペンションを支持するフロントサイドメンバを備え、このフロントサイドメンバが、閉断面の筒型形状に一体成形されて、車体前部からの入力荷重で潰れ変形してエネルギを吸収するフロント部材と、このフロント部材の後方端部に結合されて、エンジンマウント部やフロントサスペンションの取付部が設けられるリア部材とで構成される車体前部骨格構造において、前記リア部材は、上部が開放して該開放側から前記フロント部材がセットされる開断面形状を備えた部材を有し、該開断面形状を備えた部材と前記フロント部材との固定面を、2面もしくは3面とし、これら2面もしくは3面による前記固定面での前記フロント部材と前記リア部材との間に塗装層を設けた構成としてある。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明の構成において、前記塗装層は、電着塗装層である構成としてある。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明の構成において、前記フロント部材の内側に締結具を備えたプレートを設け、このプレートと前記リア部材とで前記フロント部材を挟持して固定する構成としてある。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項の発明の構成において、前記塗装層は、フロント部材に施されている構成としてある。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項の発明の構成において、前記フロント部材に対する前記リア部材の固定面のうち、少なくともこれら両者を締結固定する締結具に対応する部位に凹凸部を形成した構成としてある。
【0015】
請求項6の発明は、車体前部の車幅方向両側に前後方向に配置されるとともに、パワーユニットやフロントサスペンションを支持するフロントサイドメンバを備え、このフロントサイドメンバが、閉断面の筒型形状に一体成形されて、車体前部からの入力荷重で潰れ変形してエネルギを吸収するフロント部材と、このフロント部材の後方端部に結合されて、エンジンマウント部やフロントサスペンションの取付部が設けられるリア部材とで構成される車体前部骨格の結合方法において、前記リア部材は、上部が開放して該開放側から前記フロント部材がセットされる開断面形状を備えた部材を有し、該開断面形状を備えた部材と前記フロント部材との固定面を、2面もしくは3面とし、これら2面もしくは3面による前記固定面での前記フロント部材と前記リア部材との少なくともいずれか一方に塗装層を設けた後、前記フロント部材と前記リア部材とを相互に結合する車体前部骨格の結合方法としてある。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6の発明の車体前部骨格の結合方法において、前記フロント部材と前記リア部材との少なくともいずれか一方に塗装を施した後、前記フロント部材の内側に締結具を備えたプレートを挿入し、このプレートと前記リア部材とで前記フロント部材を挟持して固定するものとしてある。
【0017】
請求項8の発明は、請求項6または7の発明の車体前部骨格の結合方法において、前記塗装層は、電着塗装層としてある。
【0018】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、フロント部材とリア部材との間に塗装層を設けたので、フロント部材とリア部材との間の摩擦抵抗が増大して結合強度が向上し、車体前後方向の入力を受けても、これら両部材相互の結合部のずれを防止できる。また、塗装層により、フロント部材とリア部材との間の電食による腐食を防止することができる。
また、リア部材の開断面部材とフロント部材との結合面を2面もしくは3面としてあるので、結合部を高精度に確保することが容易となる。また、開断面部材は、閉断面部材に比べて剛性が低いため、治具を用いて両部材を強制的に矯正変形させて結合する組立が可能となり、フロント部材とリア部材との結合部を高精度に加工する必要がなく、製造コストが低減するとともに、フロント部材を開断面部材の開方向からセットすればよいので、治具へのセットも容易なものとなる。
【0019】
請求項2の発明によれば、フロント部材とリア部材との間に電着塗装層を設けたので、フロント部材とリア部材との間の摩擦抵抗が増大して結合強度が向上し、車体前後方向の入力を受けても、これら両部材相互の結合部のずれを防止できる。また、電着塗装層により、フロント部材とリア部材との間の電食による腐食を防止することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、フロント部材を、リア部材とプレートとで挟持するため、フロント部材における結合部の接触面が、プレートを設けない場合に比べて表裏両面でほぼ2倍となり、結合部の摩擦係数も見かけ上2倍となるので、結合強度をより高めることができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、塗装層をフロント部材にのみ施すことで、フロント部材に接するリア部材を含む他の部材に対する電食防止のための塗装が不要となり、その分コスト低下を図ることができる。また、リア部材にも塗装を施す場合には、リア部材に他部品を溶接固定する際に、その溶接部に塗料が付着しないように、マスキングなどを実施する必要があってコストアップとなるが、塗装層をフロント部材にのみ施すことで、このようなコストアップを回避することができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、リア部材は、フロント部材に対する固定面に形成した凹凸部により、表面の摩擦係数が高まり、フロント部材とリア部材との結合強度をさらに向上させることができる。
【0024】
請求項6の発明によれば、フロント部材とリア部材との少なくともいずれか一方に塗装層を施すようにしたので、フロント部材とリア部材との間の摩擦抵抗が増大して結合強度が向上し、車体前後方向の入力を受けても、これら両部材相互の結合部のずれを防止できる。また、塗装層により、フロント部材とリア部材との間の電食による腐食を防止することができる。
また、リア部材の開断面部材とフロント部材との結合面を2面もしくは3面としてあるので、結合部を高精度に確保することが容易となる。また、開断面部材は、閉断面部材に比べて剛性が低いため、治具を用いて両部材を強制的に矯正変形させて結合する組立が可能となり、フロント部材とリア部材との結合部を高精度に加工する必要がなく、製造コストが低減するとともに、フロント部材を開断面部材の開方向からセットすればよいので、治具へのセットも容易なものとなる。
【0025】
請求項7の発明によれば、フロント部材を、リア部材とプレートとで挟持するため、フロント部材における結合部の接触面が、プレートを設けない場合に比べて表裏両面でほぼ2倍となり、結合部の摩擦係数も見かけ上2倍となるので、結合強度をより高めることができる。
【0026】
請求項8の発明によれば、フロント部材とリア部材との少なくともいずれか一方に電着塗装層を施すようにしたので、フロント部材とリア部材との間の摩擦抵抗が増大して結合強度が向上し、車体前後方向の入力を受けても、これら両部材相互の結合部のずれを防止できる。また、電着塗装層により、フロント部材とリア部材との間の電食による腐食を防止することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0028】
図1は、この発明の第1の実施形態に係わる車体前部骨格構造を示す分解斜視図である。フロントサイドメンバ1は、フロント部材3とリア部材5とを有し、図示しない自動車の車体前部の車幅方向両側に配置されて、図示しないパワーユニットやフロントサスペンションを支持し、前面衝突時などにあって車体前部からの荷重に対して潰れ変形(軸圧壊変形)して、そのエネルギを吸入する機能をも備える。
【0029】
フロント部材3は、アルミ合金の押出成形により断面が六角形となる閉断面の筒型形状に一体成形され、その後端部がリア部材5との結合部7となる。リア部材5は、フロント部材3との結合部9から車体後方側が下方に向けて屈曲形成されるとともに、上部が開放している開断面形状となる鋼製の鋳物によって形成されている。
【0030】
図2(a)は、フロント部材3とリア部材5とを結合した状態の拡大された断面図である。ただし図2においては、フロント部材3の上部は省略してある。リア部材5における結合部9は、底面11と左右両側面13,15とを備え、これら各面11,13,15は、フロント部材3の結合部7における底面17と左右両側面19,21にそれぞれ接合される。
【0031】
そして、リア部材5の底面11および左右両側面13,15には、車体前後方向に沿って、ボルト挿入孔11aおよび13a,15aがそれぞれ複数形成されている。これらボルト挿入孔11aおよび13a,15aにそれぞれ対応して、フロント部材3の底面17および左右両側面19,21には、ボルト挿入孔17aおよび19a,21aが形成されている。
【0032】
上記したフロント部材3の結合部7における上部側の一方の側面には、ストラットハウジング25が取り付けられるストラット取付板23が上方に向けて突出して設けられている。
【0033】
ここで、フロント部材3は、リア部材5との結合前にあらかじめ電着塗装が施されている。この電着塗装は、エポキシ、アクリルなどを原料とし、アミノ基をもつ樹脂塩基で中和した水溶液を塗料として使用しており、焼き付け後の塗装層27(図2(b)参照)の厚さは、10μm〜20μmである。ただし、図2(b)では、ボルト39は省略してある。
【0034】
フロント部材3の結合部7内には、締結具を備えたプレートであるナットプレート29が挿入配置される。ナットプレート29は、フロント部材3における固定部7の底面17および左右両側面19,21の内面にそれぞれ接合される底面31および左右両側面33,35を有し、これら各面31および33,35には、フロント部材3のボルト挿入孔17aおよび19a,21aにそれぞれ整合するボルト挿入孔31aおよび33a,35aが形成されている。
【0035】
そして、図2に示されているように、ナットプレート29の各面31および33,35の内面のボルト挿入孔31aおよび33a,35aには、締結具としてのナット37が固定されている。したがって、ナットプレート29をフロント部材3の結合部7の内面に挿入し、かつリア部材5の結合部9をフロント部材3の結合部7の下部に整合させた状態で、締結具としてのボルト39を、リア部材5の外側から挿入し、ナットプレート29のナット37に締結することで、フロント部材3とリア部材5とが相互に結合された状態となる。
【0036】
以上のようにして結合されたフロントサイドメンバ1にあっては、車体前方に配置されるフロント部材3が、アルミ合金により断面六角形の筒型形状の押出材によって形成されており、このフロント部材3は車両前方からの荷重に対して潰れ変形して、衝突エネルギを吸収する。
【0037】
そして、このように押出材で形成されたフロント部材3と、その後端部に結合されるリア部材5との間には、フロント部材3の表面に施した電着塗装層27が形成されている。この電着塗装層27は、静摩擦係数が0.39程度であり、これはフロント部材3やリア部材5の無塗装時の各表面の約2.3倍となっている。
【0038】
このため、フロント部材3とリア部材5との間の摩擦抵抗が無塗装時に比べて増大して結合強度が向上しており、フロントサイドメンバ1が車体前後方向の入力を受けても、これら両部材3,5における結合部7,9相互のずれを防止することができる。また、静摩擦係数の上記した増大により、塗装時と無塗装時での結合力を同等と考えた場合に、塗装時のボルト39の軸力を約57%低減することができ、したがってボルト39の締結点数、サイズ、強度区分を適宜下げることも可能となる。
【0039】
また、フロント部材3を、リア部材5とナットプレート29とで挟持固定するため、フロント部材3における結合部7の接触面が、ナットプレート29を設けない場合に比べて表裏両面でほぼ2倍となり、結合部7の静摩擦係数も見かけ上2倍となるので、結合強度がより一層高まり、ボルト39の締結点数、サイズ、強度区分をさらに下げることができる。
【0040】
リア部材5は、上部が開放している開断面部材であり、この開断面部材は、閉断面部材に比べて剛性が低いため、治具を用いて両部材3,5を強制的に矯正変形させて結合する組立が可能となる。これにより、フロント部材3とリア部材5との各結合部7,9を高精度に加工する必要がなく、製造コストが低減するとともに、フロント部材3をリア部材5の開方向である上方からセットすればよいので、治具へのセット作業も容易なものとなる。
【0041】
また、電着塗装層27を設けることで、フロント部材3とリア部材5との間の電食による腐食を防止することもできる。
【0042】
上記したような電着塗装は、フロント部材3のみに施している。これにより、フロント部材3に接するリア部材5を含む他の部材に対する電食防止のための塗装が不要となり、その分コスト低下を図ることができる。リア部材5にも電着塗装を施す場合には、リア部材5に他部品を溶接固定する際に、その溶接部に塗料が付着しないように、マスキングなどを実施する必要があってコストアップとなるが、塗装層27をフロント部材3にのみ施すことで、このようなコストアップを回避することができる。
【0043】
また、フロント部材3は、真直材であって荷姿がよいため、一度に複数本まとめて電着塗装を施すことが可能であり、高効率な塗装作業が行える。
【0044】
図3は、この発明の第2の実施形態を示すもので、フロント部材3とリア部材5とを、その各底面17,11相互を離間させた構造として、互いの接合面を2面としたものであり、その他の構造は第1の実施形態と同様である。このように、フロント部材3に対するリア部材5とナットプレート29とによる挟持固定面を2面、あるいは前記した第1の実施形態を示す図2のように3面とすることで、リア部材をも閉断面形状として、両部材相互を全周に対して結合する場合に比べ、結合部を高精度に確保することが容易となる。
【0045】
第3の実施形態として、フロント部材3とリア部材5との結合強度をさらに向上させる構造を、図4および図5に示す。これは、リア部材5のフロント部材3に接触する面のうち、図4に示すように、ボルト39のフランジ39a(図2,図3参照)あるいはワッシャに対応する環状の面41に、凹凸部を形成している。
【0046】
凹凸部としては例えば、図4の拡大されたA−A断面図である図5(a)に示すように、フロント部材3側(図5中で左側)に向けてH=0.5mm程度突出するエンボス部43を形成する。エンボス部43の窪みの角度θは90度としてある。エンボス部43は、図4に示すように、環状の面41の幅方向中心位置にて円周方向等間隔に複数形成する。
【0047】
図5(b)は、図4における上記した環状の面41を、薬品またはサンドブラストにより粗くして粗面45を形成することで、凹凸部としている。
【0048】
このように、リア部材5におけるボルト39のフランジ39aやワッシャが接触する環状の面41に、凹凸部を形成することで、フロント部材3とリア部材5との間の摩擦抵抗がより高まり、これら両部材3,5相互間の結合強度をさらに向上させることができる。
【0049】
図6は、図7に示すような実験装置を用いて、アルミ押出材の摩擦力の測定結果を、電着塗装品(実線図示)と無塗装品(破線図示)とで比較して示したものである。
【0050】
実験装置は、固定部51に固定された鋼板製の実験用リア部材53に、アルミ押出材の実験用フロント部材55を10本のボルト(図7中で紙面の表裏両側に5本ずつ)を用いて結合固定したもので、この状態で実験用フロント部材55を、図中で左方向に向けて引張荷重Fを作用させている。10本のボルトのサイズ,強度区分は、M8,9Tであり、各ボルトの軸力平均値は、4.5kNである。
【0051】
なお、図7中で符号57は、実験用フロント部材55の実験用リア部材53に対する変位量を測定する変位針である。また、ボルト挿入用孔は、引っ張り時に実験用フロント部材55が変位可能なように、ボルト径に対して3mm以上の余裕を持たせてある。
【0052】
図6において、横軸は実験用フロント部材55の変位量(mm)で、縦軸が実験用フロント部材55が実験用リア部材53に対して滑り始める滑り荷重(kN)である。
【0053】
これによれば、破線で示す無塗装品の場合には、滑り荷重が15.3kNであるのに対し、実線で示す電着塗装品の場合の滑り荷重は、無塗装品に比べて2倍以上の35.4kNとなっており、実用強度2次相当入力値(17.4kN)を充分超えている。この実験装置での電着塗装品の静摩擦係数は、35.4/(4.5×10)=0.787となる。
【0054】
図8は、この発明の第4の実施形態に係わる車体前部骨格構造を示す分解斜視図である。この実施形態におけるフロント部材3についても、アルミ合金の押出し成形により断面が六角形となる筒型形状に一体成形され、フロント部材3の後方端部(図1中右端部)がリア部材5への結合部となる。
【0055】
一方、リア部材5は、フロント部材3の後方端部を嵌合するように断面を六角形として形成される。このリア部材5は、上下に2分割され、分割した上方を第1分割部材59とし、下方を第2分割部材61としてあり、これら第1,第2分割部材59,61はそれぞれ個別にアルミ合金の鋳物として形成される。
【0056】
第1分割部材59の両側部には、第2分割部材61の両側部分61a,61bの外側に重ね合わさるようにそれぞれフランジ部59a,59bが延設され、これらフランジ部59a,59bと両側部分61a,61bとによってインロー構造となる接合部63が構成される。
【0057】
また、前記フロント部材3の後方端部には、各六角面それぞれにねじ孔65が形成されるとともに、第1,第2分割部材59,61の前端部には、前記ねじ孔65に対応する位置にそれぞれボルト挿通孔67が形成されている。
【0058】
ここで、フロント部材3は、前記図1に示した第1の実施形態のものと同様に、リア部材5との結合前にあらかじめ電着塗装が施されている。
【0059】
そして、フロント部材3の後端部を、リア部材5の第1,第2分割部材59,61の前端部で挟持した状態で、締結具としてのボルト69をボルト挿通孔67に挿通して、ねじ孔65にねじ込むことで、フロント部材3とリア部材5とが相互に結合される。
【0060】
上記した図8のフロント部材3と、その後端部に結合されるリア部材5との間にも、フロント部材3の表面に形成した電着塗装層が形成されているので、図1のものと同様に、両部材3,5相互間の摩擦抵抗が増大し、結合強度が向上したものとなっている。このため、フロントサイドメンバ1が車体前後方向の入力を受けても、フロント部材3およびリア部材5における各結合部7,9相互のずれを防止することができる。
【0061】
また、リア部材5の第1分割部材59および第2分割部材61は、互いに対向する部位が開放している開断面部材であり、この開断面部材は、閉断面部材に比べて剛性が低いため、治具を用いて両部材3,5を強制的に矯正変形させて結合する組立が可能となり、フロント部材3およびリア部材5の各結合部を高精度に加工する必要がなく、製造コストが低減するとともに、フロント部材3をリア部材5の第2分割部材61の開方向である上方からセットし、さらにその上方から第1分割部材59をセットすればよいので、治具へのセット作業も容易なものとなる。
【0062】
さらに、電着塗装層を設けることで、フロント部材3とリア部材5との間の電食による腐食を防止できるとともに、この電着塗装層をフロント部材3のみに施すことで、フロント部材3に接するリア部材5を含む他の部材に対する電食防止のための塗装が不要になるなど、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0063】
図9は、この発明の第5の実施形態に係わる車体前部骨格構造を示す分解斜視図である。この実施形態が前記第4の実施形態と主に異なる点は、複数の締結具うちの1つをフロント部材とリア部材との嵌合部分を貫通して締付け固定するとともに、この貫通した締結具をフロントサスペンションの取付け用締結具として兼用することにある。
【0064】
すなわち、図9に示すフロントサイドメンバ1は、前記第4の実施形態と同様にフロント部材3とリア部材5との結合により構成され、フロント部材3はアルミ合金の押出し材として形成されるとともに、リア部材5は、アルミ合金の鋳物として形成された第1分割部材59と第2分割部材61との結合で構成される。そして、これら第1,第2分割部材59,61は、前記第4の実施形態と同様に、フロント部材3の後方端部を挟んで接合部63を溶接することにより一体化されるようになっている。
【0065】
また、この実施形態では、フロント部材3の後方端部には、前記第4の実施形態のねじ孔65に代えてボルト挿入孔71が形成されている。
【0066】
ここで、フロント部材3は、前記した図1のものと同様に、リア部材5との結合前にあらかじめ電着塗装が施されている。
【0067】
この実施形態では、上方に配置される前記第1分割部材59には、前半部上側に図示しないパワーユニットを支持するエンジンマウント部分73と、後半部外側にストラットハウジング75が一体成形される。
【0068】
一方、下方に配置される前記第2分割部材61は、後方端部下側が下方に膨出される形状を成し、その前端部下側にフロントサスペンションのサブフレーム77を取付ける取付け部79が形成される。
【0069】
また、前記フロント部材3の後方端部には、締結具を備えたプレートであるナットプレート81が嵌合される。このナットプレート81は、上下のボルト挿入孔71を除いた両側4箇所のボルト挿入孔71位置にそれぞれ対応する締結具としてのナット83を固定したもので、各ナット83に締結具としての短軸ボルト85が螺合される。
【0070】
そして、前記ナット83が設けられない上下のボルト挿入孔71,71間には、長軸ボルト87が挿入される。つまり、この長軸ボルト87は、前記第1分割部材59、フロント部材3および第2分割部材61を順次貫通し、その先端ねじ部87aにナット89を締付け固定するようになっている。
【0071】
このとき、前記長軸ボルト87には、締付け力によりフロント部材3が変形して、ナット89とのねじ込み部分が緩まないようにカラー91が挿通される。また、前記長軸ボルト87が挿入される第2分割部材61のボルト挿入孔67は、サブフレーム77の取付け部79に開口されるようになっている。
【0072】
したがって、サブフレーム77の前方取付けフランジ93を前記取付け部79の下側に直接当接させるとともに、長軸ボルト87の先端ねじ部87aを、この前方取付けフランジ93の挿通孔93aに挿通した後に前記ナット89を締付け固定し、この長軸ボルト87をサブフレーム77の取付け用ボルトとして兼用するようになっている。
【0073】
上記した図9のフロント部材3と、その後端部に結合されるリア部材5との間にも、フロント部材3の表面に施した電着塗装層が形成されているので、図1のものと同様に、両部材3,5相互間の摩擦抵抗が増大し、結合強度が向上したものとなっている。このため、フロントサイドメンバ1が車体前後方向の入力を受けても、フロント部材3およびリア部材5の各結合部相互のずれを防止することができる。
【0074】
また、リア部材5の第1分割部材59および第2分割部材61は、図8のものと同様に、互い対向する部位が開放していて低剛性の開断面部材であることから、治具を用いて両部材3,5を強制的に矯正変形させて結合する組立が可能となり、両部材3,5相互の結合部を高精度に加工する必要がなく、製造コストが低減するとともに、フロント部材3をリア部材5の第2分割部材61の開方向である上方からセットし、さらにその上方から第1分割部材59をセットすればよいので、治具へのセット作業も容易なものとなる。
【0075】
また、電着塗装層を設けることで、フロント部材3とリア部材5との間の電食による腐食を防止できるとともに、この電着塗装層をフロント部材3のみに施すことで、フロント部材3に接するリア部材5を含む他の部材に対する電食防止のための塗装が不要になるなど、第4の実施形態と同様の効果を奏する。
【0076】
さらに、この実施形態では前記第4の実施形態と同様の機能を発揮できるのはもちろんのこと、フロント部材3とリア部材5の嵌合部分を貫通する長軸ボルト87を、サブフレーム77の取付け用ボルトとして兼用したことにより、このサブフレーム77をリア部材5に直結することができる。
【0077】
このため、サブフレーム77の取付け部分を別部品により補強する必要がなくなり、これによって部品点数の増加を抑制できるため、サブフレーム77の取付け強度を確保しつつコスト低減を達成することができる。
【0078】
また、前記長軸ボルト87をフロント部材3に貫通して、この貫通した長軸ボルト87によって第1,第2分割部材59,61を締め付け固定するようにしたので、フロント部材3とリア部材5とを、その上下方向で隙間無く接合することができ、両部材3,5の結合強度を高めることができる。
【0079】
さらに、前記長軸ボルト87の先端ねじ部87aが挿入されるボルト挿入孔67は、第2分割部材61の内側に一体に突設されるボス部95に形成されており、このボス部95と第2分割部材61の内側との間に補強リブ97を設けることにより、前記サブフレーム77の取付け強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施形態に係わる車体前部骨格構造を示す分解斜視図である。
【図2】(a)は図1の車体骨格構造におけるフロント部材とリア部材とを結合した状態の拡大された断面図、(b)は(a)の要部の拡大された断面図である。
【図3】この発明の第2の実施形態を示す、図2(a)に相当する断面図である。
【図4】この発明の第3の実施形態に係わるリア部材のフロント部材に接触する面におけるボルトのフランジに対応する領域を示す説明図である。
【図5】(a)は図4のA−A断面図、(b)は(a)のエンボス部に代わる他の例をを示す断面図である。
【図6】図7に示す実験装置を用いて、アルミ押出材の摩擦力の測定結果を、電着塗装品(実線図示)と無塗装品(破線図示)とで比較して示した説明図である。
【図7】図6の測定に使用する実験装置図である。
【図8】この発明の第4の実施形態に係わる車体前部骨格構造を示す分解斜視図である。
【図9】この発明の第5の実施形態に係わる車体前部骨格構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
1 フロントサイドメンバ
3 フロント部材
5 リア部材
27 電着塗装層
29,81 ナットプレート
37 ナット(締結具)
39 ボルト(締結具)
43 エンボス部(凹凸部)
45 粗面(凹凸部)
83 ナット(締結具)
85 短軸ボルト(締結具)
Claims (8)
- 車体前部の車幅方向両側に前後方向に配置されるとともに、パワーユニットやフロントサスペンションを支持するフロントサイドメンバを備え、このフロントサイドメンバが、閉断面の筒型形状に一体成形されて、車体前部からの入力荷重で潰れ変形してエネルギを吸収するフロント部材と、このフロント部材の後方端部に結合されて、エンジンマウント部やフロントサスペンションの取付部が設けられるリア部材とで構成される車体前部骨格構造において、前記リア部材は、上部が開放して該開放側から前記フロント部材がセットされる開断面形状を備えた部材を有し、該開断面形状を備えた部材と前記フロント部材との固定面を、2面もしくは3面とし、これら2面もしくは3面による前記固定面での前記フロント部材と前記リア部材との間に塗装層を設けたことを特徴とする車体前部骨格構造。
- 前記塗装層は、電着塗装層であることを特徴とする請求項1記載の車体前部骨格構造。
- 前記フロント部材の内側に締結具を備えたプレートを設け、このプレートと前記リア部材とで前記フロント部材を挟持して固定することを特徴とする請求項1または2記載の車体前部骨格構造。
- 前記塗装層は、フロント部材に施されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車体前部骨格構造。
- 前記フロント部材に対する前記リア部材の固定面のうち、少なくともこれら両者を締結固定する締結具に対応する部位に凹凸部を形成したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車体前部骨格構造。
- 車体前部の車幅方向両側に前後方向に配置されるとともに、パワーユニットやフロントサスペンションを支持するフロントサイドメンバを備え、このフロントサイドメンバが、閉断面の筒型形状に一体成形されて、車体前部からの入力荷重で潰れ変形してエネルギを吸収するフロント部材と、このフロント部材の後方端部に結合されて、エンジンマウント部やフロントサスペンションの取付部が設けられるリア部材とで構成される車体前部骨格の結合方法において、前記リア部材は、上部が開放して該開放側から前記フロント部材がセットされる開断面形状を備えた部材を有し、該開断面形状を備えた部材と前記フロント部材との固定面を、2面もしくは3面とし、これら2面もしくは3面による前記固定面での前記フロント部材と前記リア部材との少なくともいずれか一方に塗装層を設けた後、前記フロント部材と前記リア部材とを相互に結合することを特徴とする車体前部骨格の結合方法。
- 前記フロント部材と前記リア部材との少なくともいずれか一方に塗装を施した後、前記フロント部材の内側に締結具を備えたプレートを挿入し、このプレートと前記リア部材とで前記フロント部材を挟持して固定することを特徴とする請求項6記載の車体前部骨格の結合方法。
- 前記塗装層は、電着塗装層であることを特徴とする請求項6または7記載の車体前部骨格の結合方法。
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