JP3941352B2 - ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法 - Google Patents

ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法に係り、特に、グラファイト、焼結金属等の難削材をワイヤ放電加工するためのワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤカット放電加工用電極線(以下、ワイヤ放電加工用電極線と示す)としては、優れた伸線加工性及び経済性、高い引張強度、および良好な放電加工特性を備えていることが好ましいことから、従来、黄銅線が多用されてきた。
【0003】
ここで、放電加工特性は、ワイヤ放電加工機の性能およびワイヤ放電加工用電極線の特性に依存するところが大きい。特に、ワイヤ放電加工用電極線の特性は、その含有成分や構造によって様々に変わるものであることから、放電加工特性の改善に関する研究が盛んに行われてきており、様々な黄銅線が開発されている。
【0004】
例えば、生産性の向上を図るべく、即ち放電加工速度を上げるべく、黄銅にAl等を添加したCu-Zn 系電極線や、Fe、Cu、又は黄銅等からなるコア材の周囲に、放電特性が良好なZn、黄銅、又は黄銅に第3元素を添加した合金からなる被覆層を形成した複合線が知られている(特開昭56−91308号公報、特公昭62−54382号公報、特公昭62−54383号公報、及び特公昭63−20294号公報等参照)。これらの黄銅線は、加工速度および加工精度に優れていることから、ワイヤ放電加工用電極線として多用されるに至っている。
【0005】
さて、従来、ワイヤ放電加工に供されていた鋼材として、炭素工具鋼(SKD−11等)や合金工具鋼(SK−3等)等の一般鋼材が挙げられるが、最近では、グラファイト、リードフレームの型プレス合金である超硬合金、航空機用部品の金型合金であるTi合金,インコネル(登録商標),セラミックス、その他の焼結合金などといったワイヤ放電加工ではあまりなじみのなかった難削材についても、ワイヤ放電加工による加工要求が高まってきている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したCu-Zn 系電極線や複合線などの黄銅線を用いてワイヤ放電加工を行う場合、一般鋼材に対しては優れた放電加工特性を有するものの、難削材に対しては加工が不安定となり、ハンチング現象や二次放電の発生による断線が多発してしまう。即ち、断線限界が低いといった問題が生じる。ここで、断線を防ぐためには加工速度を極端に下げなくてはならないため、生産性が上がらない等といった問題が生じてしまう。
【0007】
また、タービンブレード等の厚肉材を加工する場合、(i)全く加工ができない、(ii)形状不良の発生、(iii)加工物上下の加工精度が所望の精度に達しない(低い面精度)といった金型欠陥が生じてしまう。特に、複合線の場合、ある一定の肉厚の厚肉材(又はある一定の板厚の板材)の加工を行うと、ワイヤ表層部の被覆層が完全(又は略完全)に消耗してしまうことから、厚肉材の加工には肉厚の制限が生じてしまう。その結果、加工可能な材質又は肉厚が著しく限定されてしまうといった問題があった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、グラファイト等の難削材に対する放電加工特性に優れたワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係るワイヤ放電加工用電極線は、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、Snの含有量とInの含有量の合計が2.00質量%以上であり、残部がCu及び不可避不純物からなるものである。
【0010】
以上の構成によれば、Cuに対する添加元素の種類・量を規定することで、伸線性が良好で、かつ、放電加工特性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができる。
【0011】
一方、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、Snの含有量とInの含有量の合計が2.00質量%以上であり、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いてビレットを鋳造形成した後、このビレットに熱間押出加工を施して母線を形成し、この母線に熱処理および伸線加工を施して所望の線径に形成するものである。
【0012】
以上の方法によれば、Cuに対する添加元素の種類・量を規定することで、伸線加工中の断線のおそれがなく、放電加工特性が良好なワイヤ放電加工用電極線を製造することができる。
【0013】
また、上記伸線加工の減面率が95%以上であるのが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を説明する。
【0015】
本発明に係るワイヤ放電加工用電極線は、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなるものである。
【0016】
ここで、母材として、CuにSn及びInをそれぞれ添加したものを用いた理由は、純Cu電極線を用いたワイヤ放電加工では、放電加工機で設定しているワイヤテンションに満たない引張強度しか得られないためであり、また、高温下での耐熱特性が低いことから加工中に断線が多発してしまい、加工自体ができなくなるためである。CuにSn及びInをそれぞれ添加した母材で電極線を形成することで、引張強度およびスプリング性の両者を高いレベルで達成することができ、特に、高温下での耐熱特性を著しく向上させることができる。
【0017】
また、Sn及びInの添加量(含有量)をそれぞれ0.01〜2.10質量%と規定したのは、この範囲で添加することにより、引張強度の向上を図ることができ、また、Cu単体では得られない放電特性を得ることができるためである。ここで、0.01質量%未満の添加では、これらの効果が得られず、逆に2.10質量%を超えた添加では、鋳造時の熱間変形抵抗が大きくなり溶解鋳造性が悪化すると共に、冷間伸線加工性が著しく低下してしまう。
【0018】
さらに、Sn及びInそれぞれの添加量は、0.01〜2.10質量%、特に好ましくは0.01〜2.10質量%、かつ、(Sn+In)≧2.00質量%以上である。
【0019】
ワイヤ放電加工用電極線の線径は、特に限定するものではないが、0.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.3mm以下とする。
【0020】
本発明に係るワイヤ放電加工用電極線によれば、Cuに添加するSn及びInの量をそれぞれ0.01〜2.40質量%と規定しているため、伸線性が良好で、かつ、放電加工特性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができる。特に放電加工特性における加工精度についても、従来の黄銅線(例えば、Cu−35質量%Zn線、Cu-Zn 系電極線、複合線等)と略同等の精度が得られる。
【0021】
また、従来の黄銅線においては、グラファイト等の難削材のワイヤ放電加工を行う場合、ハンチング現象や二次放電の発生による断線が生じることがあったが、本発明に係る電極線では、引張強度、スプリング性、及び高温耐熱性に優れているため、断線が生じるおそれがない。
【0022】
さらに、断線のおそれがないことから、グラファイト等の難削材のワイヤ放電加工を行う場合においても、放電加工の加工条件レベルを引き下げる(例えば、加工速度を下げる)必要がなく、一般鋼材に対するワイヤ放電加工時と略同じ生産性を維持することができる。
【0023】
次に、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法について説明する。
【0024】
先ず、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いてビレットを鋳造形成する。
【0025】
次に、このビレットに熱間押出加工を施し、所定の直径(例えば、5〜8mm)の母線を形成する。その後、母線に熱処理および伸線加工を施し、所望の線径(例えば、0.5mm以下)のワイヤ放電加工用電極線を得る。ここで、熱処理および伸線加工(冷間伸線加工)の工程は、必要に応じて適宜繰り返してもよい。
【0026】
母線に対する熱処理としては、通電アニーラ又は焼鈍炉等による連続処理又はバッチ処理が挙げられる。また、熱処理条件は、特に限定するものではなく、Sn及びInの添加量、後工程の冷間伸線加工の加工条件、及びワイヤ放電加工用電極線に要求される特性等に応じて適宜選択されるものである。熱処理条件は、例えば、1.0〜50(A)×200〜2000(m/min)又は100〜1000℃×0.2〜1.5(hr)としてもよい。
【0027】
また、伸線加工の減面率は、95%以上が好ましく、より好ましくは98%以上である。
【0028】
本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法によれば、伸線性を損なわない範囲でCuに対してSn及びInをそれぞれ添加することで、減面率が95%以上の強い伸線加工を施しても断線するおそれがない。この加工硬化と、添加元素による固溶硬化との相乗効果によって、高い引張強度を得ることができる。
【0029】
【実施例】
(参考例1)
質量比で、Snを0.01質量%、Inを0.01質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いて、直径が115mmφ、長さが900mmのビレットを鋳造形成する。
【0030】
次に、このビレットに熱間押出加工を施し、直径6.5mmφの母線を形成する。その後、母線に熱処理および冷間伸線加工を繰返して施し、線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0031】
(実施例1)
質量比で、Snを0.01質量%、Inを2.00質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0032】
(実施例2)
質量比で、Snを2.00質量%、Inを0.01質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0033】
(実施例3)
質量比で、Snを2.00質量%、Inを2.00質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0034】
(比較例1)
質量比で、Inを0.008質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0035】
(比較例2)
質量比で、Snを0.006質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0036】
(比較例3)
質量比で、Snを2.50質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0037】
(比較例4)
質量比で、Inを3.00質量%含有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0038】
(比較例5)
Cu−35質量%Znからなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0039】
(比較例6)
Cu−40質量%Znからなる合金溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0040】
(比較例7)
純Cu溶湯を用いる以外は、参考例1と同様にして線径が0.25mmφのワイヤ放電加工用電極線を得る。
【0041】
実施例1〜3、比較例1〜7ないし参考例1の各電極線の伸線加工性について評価を行った。各電極線の諸元及び伸線加工性の評価結果を表1に示す。ここで、表面欠陥や伸線加工中の断線がなかったものを良、表面欠陥や断線が発生したものを難と示している。
【0042】
【表1】
Figure 0003941352
【0043】
表1に示すように、比較例3,4の電極線以外は全て伸線加工性が良好であった。これに対して、比較例3,4の電極線は、冷間における伸線加工性が極めて悪く、加工中に断線してしまった。これは、規定範囲を超えた量のSn又はInを添加しているためである。
【0044】
また、実施例1〜3、比較例1〜7および参考例1の各電極線を用い、板厚70mmの2種類の板材(SKD−11鋼材(JIS G4404に規定の冷間ダイス調質材)、グラファイト材(ED−4:イビデン製))に対して放電加工を行い、10mm角に切断する。この時、両板材に対する各電極線の放電加工特性(加工速度、形状精度、面精度、及び断線の有無)の評価を行った。放電加工特性の評価結果を表2に示す。尚、加工速度、形状精度、及び面精度は、比較例5の電極線の結果を100とした時の相対評価とした。
【0045】
【表2】
Figure 0003941352
【0046】
表2に示すように、実施例1〜3の各電極線は、SKD−11鋼材およびグラファイト材のいずれにおいても断線が生じることがなかった。このため、加工速度比を大きくすることができた。また、実施例1〜3の各電極線による形状精度及び面精度については、SKD−11鋼材およびグラファイト材のいずれにおいても、比較例5の電極線と略同等の精度が得られた。
【0047】
これに対して、比較例1,2の各電極線は、SKD−11鋼材およびグラファイト材のいずれにおいても良好な形状精度及び面精度が得られたものの、Sn又はInの添加量が規定範囲よりも少ないため、引張強度及び高温耐熱性が極端に低かった。このため、SKD−11鋼材およびグラファイト材のいずれにおいても放電加工中に断線が発生しやすく、その結果、加工速度比が小さくなり、特にSKD−11鋼材において顕著に現れた。
【0048】
比較例3,4の各電極線は、伸線加工自体が不可能であったため、放電加工特性の評価ができなかった。
【0049】
比較例5,6の各電極線は、SKD−11鋼材の放電加工においては特に問題が生じないものの、グラファイト材の放電加工においては断線が生じた。
【0050】
比較例7の電極線は、SKD−11鋼材およびグラファイト材のいずれにおいても、例中で最も良好な形状精度及び面精度を有していたものの、純Cu線であるため、比較例1,2の各電極線よりも更に引張強度及び高温耐熱性が低かった。このため、SKD−11鋼材およびグラファイト材のいずれにおいても放電加工中に断線が発生しやすく、その結果、加工速度比が例中で最も小さくなり、特にSKD−11鋼材において顕著に現れた。
【0051】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0052】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、Snの含有量とInの含有量の合計が2.00質量%以上であり、残部がCu及び不可避不純物からなるワイヤ放電加工用電極線を用いるので、伸線性が良好で、かつ、グラファイト、焼結金属、超硬合金、Ti合金、インコネル(登録商標)およびセラミックスのいずれかから選択される被加工物を加工する際にも、放電加工特性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができるという優れた効果を発揮する。

Claims (3)

  1. グラファイト、焼結金属、超硬合金、Ti合金、インコネル(登録商標)およびセラミックスのいずれかから選択される被加工物を加工するワイヤ放電加工用電極線において、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、Snの含有量とInの含有量の合計が2.00質量%以上であり、残部がCu及び不可避不純物からなることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
  2. グラファイト、焼結金属、超硬合金、Ti合金、インコネル(登録商標)およびセラミックスのいずれかから選択される被加工物を加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、質量比で、Snを0.01〜2.10質量%、Inを0.01〜2.10質量%含有し、かつ、Snの含有量とInの含有量の合計が2.00質量%以上であり、残部がCu及び不可避不純物からなる合金溶湯を用いてビレットを鋳造形成した後、このビレットに熱間押出加工を施して母線を形成し、この母線に熱処理および伸線加工を施して所望の線径に形成することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
  3. 上記伸線加工の減面率が95%以上である請求項2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
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