JP3939791B2 - ダイカスト用プランジャーおよびその使用方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶湯に圧力を加えて型に押込む鋳造法であるダイカストに用いられるプランジャーおよびその使用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ダイカストは、精密な型を使用し、溶湯(溶融金属)を自動または手動でスリーブ内に流し込み、この溶湯にプランジャーチップで圧力を加えて型内に注入し、型の形状の製品を鋳造する方法である。このダイカスト法によれば、精度が高くほとんど機械仕上げの必要がないため、大量生産に適し、自動車、通信機器、日用品、カメラ等の部品製造に広く利用されている。
【0003】
このようなダイカスト用プランジャーは、溶湯流路となるスリーブ内を摺動するプランジャーチップと、このプランジャーチップ後端にネジ締め結合されたロッドとからなり、油圧等により1回の鋳造ごとにスリーブ内を往復する。このプランジャーチップの材料としては、通常耐熱および耐摩耗性に優れたベリリウム−銅合金あるいは熱間金型用鋼、あるいはその表面に対し円滑な摺動性を有する保護層を形成するために窒化処理や溶射処理等の表面硬化処理を施した材料を用いている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般のダイカスト装置においては、特に連続鋳造において、鋳造回数が所定値を越えると、前述のような耐熱および耐摩耗性に優れた窒化処理SKD61等を用いた場合であっても、スリーブ内を摺動するプランジャーチップの表面が熱や溶湯の影響で荒れたり局部的に摩耗して動きが悪くなる。このような場合、従来は、動きの悪くなったプランジャー全体を取外して廃棄し、新しいプランジャーを装着して鋳造を続けていた。しかしながら、このようにプランジャーチップ表面のみが摩耗したり荒れて使用できなくなった場合に、プランジャー全体を廃棄して新しいものと交換することは、使用可能な金属材料部分が無駄になり、省資源上好ましくなく、また、特にSKD61やベリリウム−銅合金は高価であって、これを新たなものと交換することはコスト的にも不利であり経済性の面でも無駄になる。
【0005】
このような経済性の点を考慮して安価な材料を用いれば、チップ表面の荒れや摩耗が激しくなり、短期間で使用不能となって生産性の低下を来すとともに荒れた状態での使用期間が長くなれば装置全体の劣化となって寿命を短くし製品の品質低下を来す。
【0006】
本発明は上記従来技術を考慮してなされたものであって、冷却水循環室等を含む複雑で且つ精密加工を要するダイカスト用プランジャーにおいて、素材および加工の無駄をなくし、経済性および省資源の要求に適った構造のダイカスト用プランジャーおよびその使用方法の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明では、溶湯流路となるスリーブ内を摺動するプランジャーチップと、このプランジャーチップの後端に結合されたロッドとからなるダイカスト用プランジャーにおいて、前記プランジャーチップは、円筒形状を有するチップ本体と、このチップ本体外周に固定され前記スリーブに対する摺動面を形成する耐熱および耐摩耗性に優れた円筒状リングからなり、この円筒状リングを前記チップ本体に対し交換可能に構成したことを特徴とするダイカスト用プランジャーを提供する。
【0008】
上記構成によれば、使用によりプランジャーチップ表面が荒れて動きが悪くなった場合、チップ本体はそのまま残し、その表面の円筒状リングのみを交換することができ、材料の無駄な廃棄が防止され省資源に貢献するとともに経済性の点でも有利になる。また、このように円筒状リングのみを交換することにより、このリングのみを耐熱および耐摩耗性に優れた高価な材料で形成することができ、品質低下を来すことなくコストの低減を図ることができる。また、低コストで優れた材料が使用可能となるため、部品交換頻度が減少し生産性が高まるとともに装置の寿命が延び合わせて品質の向上が図られる。
【0009】
この交換可能な円筒状リングの材料としては、例えば、耐熱性および耐摩耗性に優れた熱間金型用鋼(SKD61)、あるいはさらにこのSKD61に溶射または窒化処理等の表面硬化処理を施した材料、あるいはベリリウム−銅合金やサーメット等の複合金属材料、あるいは超硬焼結材、セラミックス材料等の高価な材料を用いることができる。
【0010】
【実施例】
以下図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施例に係るダイカスト用プランジャーの要部断面構成図であり、図2および図3はそれぞれそのプランジャーチップの背面(後面)図および正面(前面)図である。
【0012】
このダイカスト用プランジャー1は、プランジャーチップ2とその後端部に結合されるロッド3とからなる。プランジャーチップ2は、円筒形状の側面を有するチップ本体4とその周囲に交換可能に装着された円筒状リング5とにより構成される。チップ本体4の内部には冷却水循環室6が形成され、その入口部内面にネジ4aが形成される。ロッド3は、その端部に形成されたネジ3aをチップ本体4のネジ4aに螺合させてチップ本体4にネジ締め固定される。このとき、チップ本体4の後端部に設けたスパナ掛け7を用いてロッド3はチップ本体4に対し強固にネジ結合される。ロッド3の内部には、前記冷却水循環室6に連通する往復の冷却水通路8が形成されている。
【0013】
チップ本体4の前端部にはフランジ状頭部9が形成され、その背面側に段差部10が形成される。この段差部10に対し、前記円筒状リング5が当接し、リング5がチップ本体4の前方に抜け落ちることが防止される。リング5の後端部側のチップ本体4の外周にはネジ4bが形成され、このネジ4bにダブルナット形式のナット12が螺着される。これらのナット12により、リング5をチップ本体4の段差部10に押し当てて強固にネジ締め固定する。このとき、適当な工具をナット締め用の穴13に挿入してナット12を回転させ強固に締め付ける。これにより、リング5はチップ本体4上に、位置ずれや脱落することなく強固に固定保持される。なお、このナット締め用の穴13は、ダイカストマシンへの組立て状態では、溶湯が入らないように下向きにして取付けられるように、プランジャーチップの取付け回転角度が調整される。
【0014】
なお、リング5をチップ本体4に固定する手段として、前述のダブルナット12による方法に代えて、焼バメ方式あるいはねじ込み方式を用いてもよい。このように、リングをチップ本体に対し、直接固定することにより、チップの中心部と外周部の温度差に基づく熱膨張の差により、リングとチップ本体間にガタが発生することを防止し確実にリングをチップ本体上に固定することができる。
【0015】
チップ本体4とリング5との間には、相互の回転を防止するために、キー11が装着される。このキー11は、図示したように、チップ本体4の後端部側に設けることが望ましい。これは、プランジャー先端部側に設けると、この先端部には最も大きな荷重がかかりキー自体あるいはチップ本体が変形するおそれがあるためである。ただし、熱的あるいは強度的に問題がない場合には、着脱作業性の点からチップ本体4の先端部側のフランジ状頭部9の円周上の裏面に設けてもよい。なお、特に小型のプランジャーチップの場合には、このキーは設けなくてもよい。
【0016】
また、キー溝を円周上の2分割または3分割あるいは4分割またはそれ以上に分割した位置に設け、リングの円周側面が摩耗したり荒れてきた場合に、キー溝位置を変えることにより、リングの取付け回転角度を変えて同じリングの使用を続けてもよい。すなわち、一般に、プランジャーチップは、熱的影響が大きい溶湯に直接接触する先端部側および溶湯が溜まるスリーブ下側に接触する下面側が大きく摩耗する。このように、チップの先端部側および下面側の偏摩耗が観察された場合に、リングの取付け回転角度を変えることにより、リングの円周側面を均一に摩耗させてリング材料を有効に利用し使用寿命を長くすることができる。この場合、リングの前後方向の挿入の向きを変えれば、さらに使用寿命を延すことができる。
【0017】
また、キー11を設けずに、リング5をチップ本体4に対し回転自在に装着することにより、使用中にリングが自然に回転し、その周囲側面の偏摩耗を防止してリング側面の均一な摩耗を図ることもできる。
【0018】
チップ本体4の材料としては、例えばSKD61が用いられ、リング5の材料としては、例えば、耐熱性および耐摩耗性に優れた熱間金型用鋼(SKD61)、あるいはさらにこのSKD61に溶射または窒化処理等の表面硬化処理を施した材料、あるいはベリリウム−銅合金やサーメット等の複合金属材料、あるいは超硬焼結材、セラミックス材料等の高価な材料または他の溶射用金属を用いることができる。
【0019】
なお、溶射用金属は、従来よりチップ表面に溶射又は溶接されていた金属材であり、例えば主成分をNi,Cr,B,SiあるいはこれにMoを加えた耐摩耗性に優れた自溶性合金や主成分をCo,Cr,B,SiおよびMoとする耐熱性に優れた自溶性合金が用いられる。
【0020】
図4は、本発明が適用されるコールドチャンバダイカストマシンの構造図である。ベースフレーム30上に固定盤18aおよび可動盤18bが設置される。固定盤18aおよび可動盤18bには、それぞれ固定型19aおよび可動型19bが対向して取付けられる。可動盤18bは、型締めシリンダ29により、タイバー20に沿って往復動作可能である。この可動盤18bには、押出シリンダ28に連結された押出ロッド27および押出板26が装着される。押出板26の前面(図の右側)には複数の押出ピン25が突出して設けられる。
【0021】
一方、固定盤18aには、スリーブ21が装着される。このスリーブ21の端部(図の右側)は固定盤18aから突出し、その上側に湯口14が形成され、内部は溶湯通路17となる。このスリーブ21に、前述の本発明に係るプランジャーチップ2とロッド3とからなるプランジャー1が装着される。ロッド3は、カップリング24を介して、射出シリンダ22のピストンロッド23に連結される。
【0022】
上記構成のダイカストマシンによる鋳造動作において、まず、型締めシリンダ29により、可動盤18bをタイバー20に沿って固定盤18aに向けて移動させ、可動型19bを固定型19aに対し押圧して型締めを行い、両型間に成形品に対応したキャビティを形成する。この型締め状態でスリーブ21の湯口14から溶湯(溶融金属)を注入する。
【0023】
続いて、射出シリンダ22により、ピストンロッド23およびプランジャーロッド3を介して、プランジャーチップ2をスリーブ21内に押込み、溶湯通路17を通して溶湯をキャビティ内に射出しキャビティを溶湯で充填する。
【0024】
キャビティ内に射出充填された溶湯が硬化したら、可動盤18bを固定盤18aから離す方向に移動させ、可動型19bおよび固定型19aを開いて、押出シリンダ28により、押出ロッド27および押出板26を介して、押出ピン25をキャビティ内に突出させ、製品を型から押出す。これにより、1サイクル(1ショット)の鋳造動作が終了する。このような鋳造動作を繰り返すことにより、連続的にダイカスト製品が得られる。
【0025】
鋳造回数がある程度以上に達すると、溶湯の熱やスリーブとの摩擦により、前述のように、プランジャー1のプランジャーチップ2の表面が偏摩耗したり荒れて摺動動作が円滑にならず動きが悪くなる。このような状態は、本実施例においては、プランジャーチップ2のチップ本体4に装着したリング5の表面が摩耗したり荒れて劣化した状態である。したがって、このような状態になったときは、チップ本体4に装着されたナット12(図1)を外して劣化したリング5を取外し、これを新しいリングと交換して再びチップ本体4に装着し、ナット12で締め付け固定保持する。これにより、チップ本体4は残したまま、摩耗したり荒れた状態の摺動面のみを新しくすることができ、材料を無駄に廃棄することなく、摺動部の僅かな材料の交換のみで新製品と同じ円滑な摺動動作が達成される。
【0026】
なお、摩耗したリング5の円周側面を研削し、円周側面が新製品と同じ未使用の耐熱、耐摩耗性材料が露出した状態の縮径したプランジャーチップとして再生し、これに適合した径のスリーブに装着して再利用することもできる。あるいは、円周側面を研削した後、溶射や溶接等によりリング径を拡大して元のリング径に戻して同じダイカストマシンで再使用することもできる。
【0027】
図5〜図8は、本発明の別の実施例に係るプランジャーチップを示す。図5はチップ本体の断面図、図6はチップ本体に装着するリングの断面図、図7は図6のリングの正面図、図8はプランジャーチップ組立て状態の断面図である。このプランジャーチップは、図6に示すように、リング5の後部内面にネジ5aを形成し、このネジ5aによりリング5を図5のチップ本体4に設けたネジ4bにネジ止め固定するものである。リング5をチップ本体4上に装着した後、図8に示すように、キー32を打込んでリング5の回転を防止し、その後ナット12を螺着させてリング5をチップ本体4上に固定する。リング5には、着脱作業用のスパナ掛け31を形成しておくことが望ましい。また、チップ本体4にも同様に着脱作業用のスパナ掛け30を設けておくことが望ましい。なお、廻り止め用のキー32は、省略可能であり、特に小径のチップの場合には省略しても何等問題はない。
【0028】
このように、リング5をチップ本体4に対しネジ止めにより結合することにより、リング交換時の着脱作業、特に摩耗したリングの取外し作業が容易に行われる。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明においては、使用によりプランジャーチップ表面が偏摩耗したり溶湯の熱的影響により荒れて動きが悪くなった場合、チップ内部を構成するチップ本体はそのまま残し、その外周囲側面を覆う円筒状リングのみを交換することができ、材料の無駄な廃棄が防止され省資源に貢献するとともに経済性の点でも有利になる。また、このように円筒状リングのみを交換することにより、このリングのみを、例えば、耐熱性および耐摩耗性に優れた熱間金型用鋼(SKD61)、あるいはさらにこのSKD61に溶射または窒化処理等の表面硬化処理を施した材料、あるいはベリリウム−銅合金やサーメット等の複合金属材料、あるいは超硬焼結材、セラミックス材料等の高価な材料あるいはその他の溶射用金属を用いて形成することができ、内部のチップ本体の材料としてこれより安価な材料を用いることができる。これにより、品質低下を来すことなくコストの低減を図ることができる。また、低コストで優れた材料が使用可能となるため、部品交換頻度が減少し生産性が高まるとともに装置の寿命が延び合わせて品質の向上が図られる。
【0030】
これにより、鋳造製品の製造プロセスにおける必要部品のリサイクルを図り、常に変動する経済情勢にかかわらずコストを安定して低く抑えるとともに、限られた資源を有効に利用して材料を節約し産業界全体の発展に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係るダイカスト用プランジャーの要部断面構成図。
【図2】 図1のプランジャーのチップ本体の後面図。
【図3】 図1のプランジャーのチップ本体の前面図。
【図4】 図1のプランジャーが適用されるダイカスト装置の基本構成図。
【図5】 本発明の別の実施例に係るチップ本体の断面図。
【図6】 図5のチップ本体に装着するリングの断面図。
【図7】 図6のリングの正面図。
【図8】 図5チップ本体に図6のリングを装着した状態の断面図。
【符号の説明】
1:プランジャー、2:プランジャーチップ、3:ロッド、4:チップ本体、
5:リング、9:フランジ状頭部、10:段差部、11:キー、12:ナット。
Claims (3)
- 溶湯流路となるスリーブ内を摺動するプランジャーチップと、このプランジャーチップの後端に結合されたロッドとからなるダイカスト用プランジャーにおいて、
前記プランジャーチップは、円筒形状を有するチップ本体と、このチップ本体外周に固定され前記スリーブに対する摺動面を形成する耐熱性および耐摩耗性に優れた円筒状リングからなり、この円筒状リングを前記チップ本体に対し交換可能に構成し、
前記チップ本体と前記円筒状リングとの間には、相互の回転を防止するためのキーが装着され、
該キーは、前記チップ本体と前記円筒状リングに複数個形成されたキー溝に装着されて、前記チップ本体の後端部側に設けられたことを特徴とするダイカスト用プランジャー。 - 前記円筒状リングは、SKD61、SKD61に溶射または窒化処理からなる表面硬化処理を施した材料、ベリリウム−銅合金、サーメット、または超硬性セラミックスからなることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト用プランジャー。
- 溶湯流路となるスリーブ内を摺動するプランジャーチップと、このプランジャーチップの後端に結合されたロッドとからなるダイカスト用プランジャーの使用方法において、
前記プランジャーチップを、円筒形状を有するチップ本体と、このチップ本体外周に固定され前記スリーブに対する摺動面を形成する円筒状リングとにより構成し、
前記チップ本体と前記円筒状リングの間には、相互の回転を防止するためにキーが装着され、
当該キーは前記チップ本体の後端部側に設けられ、
前記キーは前記チップ本体と前記円筒状リングの間の円周上に複数個所設けられたキー溝に取付けられ、
所定回数の使用後に前記円筒状リングを前記チップ本体から取外して新たな円筒状リングを装着して前記チップ本体を再使用し、
前記円筒状リング表面が局部的に摩耗または荒れたときに、前記キーが取付けられる前記キー溝の位置を変えることにより、その円筒状リングのチップ本体に対する取付け回転角度を変えてさらに使用し、その後、この円筒状リングを新たな円筒状リングと交換することを特徴とするダイカスト用プランジャーの使用方法。
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