JP3939473B2 - ホットワイヤ溶接装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、ホットワイヤ溶接装置(TIG溶接トーチ)に関し、特に母材に対して異材を幅広に肉盛するに好適なホットワイヤTIG溶接用電源に関する。
【0002】
【従来の技術】
TIGアークを用いて肉盛溶接する場合、従来はTIGアークトーチとワイヤ添加トーチとを一体に組み合わせ、あるいはワイヤトーチを固定したままのTIGアークトーチを10Hz以下の周波数でウイービング(揺動)する装置を用いている。
【0003】
いずれにしても10mmを超える幅でTIGアークを動かす場合には、従来はスライドベースあるいはロボットに搭載してロボットのアームでTIGトーチ全体を動かすのが通常で、そのようにしてアークを動かす場合には大きな機構を動かすために、ほとんどの場合が10Hz以下の低いウイービング周波数であった。
【0004】
これに対し、本発明者らによる特願平11−055623号の装置、すなわち、アーク電流300A以上のTIGアークを発生し、振幅10mmから50mm、周波数30Hzなどでタングステン電極の先端を揺動させながらTIGアークを用いて肉盛溶接する装置が実用されている。その装置では、1本あるいは2本、3本など複数本のホットワイヤを送給して、高能率に肉盛溶接ができるようにしている。
【0005】
図6は特願平11−055623号の装置の溶接ヘッド部1を略図的に示した説明図である。図7は溶進行方向から図6の溶接ヘッド部1を見たときのTIGアークトーチ部2とワイヤトーチ部3と溶接電源との接続状態などを略図的に示した説明図である。
【0006】
図6に示す溶接ヘッド部1の内部には、TIGトーチ部2を振り子状に揺動する機構が組み込まれている。即ち、先端にタングステン電極4を取り付けたトーチ部2を電磁アクチュエータ5に絶縁部材6を介して機構的に直結し、TIGトーチ部2は両側から図示していないバネで拘束しておいて、電磁アクチュエータ5に交流電流を流して揺動させ、その駆動力とバネとの作用で10Hz以上の周波数で自励発振的に揺動するように構成しているので、常に共振あるいは共振に近い状態で揺動している。なお、TIGトーチ部2は図示していない2本の冷却水用のホースと接続しており、トーチ部2先端のタングステン電極4を保持している銅チップ7は水冷されている。
【0007】
電磁アクチュエータ5は支持台8によって溶接ヘッド1の筐体9に固定されている。一方、添加ワイヤ10は図示されていないワイヤ送給装置から図示されていないコンジットを経由してコンタクトチューブ11、セラミックガイド12を通り、母材13上の溶融池14へと送給される。
【0008】
図7に示すように、ワイヤトーチ3は3a、3b、3cの3本あり、それぞれ別々に3台のワイヤ加熱電源15a、15b、15cの+端子側に接続されている。そして各ワイヤ電源15a、15b、15cの−端子側は、母材13に接続されている。またTIGトーチ部2は、アーク電源16の−端子側に接続し、アーク電源16の+側端子は母材13に接続されている。
【0009】
このようにしてタングステン電極4と母材13間にアーク17(図6)が形成される。タングステン電極4の先端は電磁アクチュエータ5の軸芯軸18を支点として図7の矢印のように振り子状に正弦波的に揺動する。軸芯軸18からタングステン電極4の先端までは約200mmあり、TIGトーチ2が±7.1度振れるとき先端の全揺動幅は50mmとなる。
【0010】
なお、筐体9には図示されていないガスホースが接続されており、TIGトーチ2及びワイヤトーチ3を囲む形に取り付けられたシールドノズル19からシールドガスが流出するように構成されている。このようにしてアーク17発生部にワイヤ10を供給し、母材13上に肉盛ビード20を形成する。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術では、ワイヤ加熱に例えば100Hzのパルス電流を用いると、その通電周波数とアークの揺動周波数が異なるので、アークの磁気吹き現象が激しく発生したり、あるいは発生しなくなったりして、アークの状態を安定化できないという問題があった。
また、ワイヤ本数分の台数のワイヤ加熱電源を用いていたので、電源設備費が高価になり、また広い設置空間が必要になるなどの問題があった。
【0012】
本発明の課題は、ホットワイヤ溶接装置において、ワイヤ電流による磁気吹きによるアークの不安定化の問題をより少なくすることにある。
また本発明の他の課題は、ホットワイヤ溶接装置において、より経済的な、またより狭い設置空間とするワイヤ加熱用の電源を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記第1の課題を解決するため、TIGアークの揺動位相に同期するように、ワイヤ加熱電流の通電期間を制御するワイヤ加熱電源の制御装置を設けた。また、前記第2の課題を解決するために、各ワイヤが同時に通電しないように通電タイミングを制御し、1つの電源トランスから1つ以上の独立したワイヤ加熱電流を出力するように構成した。
【0014】
すなわち、本発明は次の構成から成る。請求項1記載の発明は、アーク電源(のマイナス出力端子)に接続した広幅に揺動するTIGアーク電極とワイヤ電源(のプラス出力端子)に接続した1本のワイヤトーチを有し、母材を前記アーク電源(のプラス出力端子)とワイヤ電源(のマイナス出力端子)に接続して、前記TIGアーク電極と母材との間で発生したアークにより母材表面を溶融すると共に、前記ワイヤトーチから通電したワイヤを送給して溶接するホットワイヤ溶接装置において、前記ワイヤトーチをTIGアーク電極の揺動中央部に設け、前記TIGアーク電極が揺動中央部にあるときは前記ワイヤトーチの通電を停止するホットワイヤ溶接装置(TIG溶接トーチ)である。
【0015】
請求項2記載の発明は、アーク電源に接続した広幅に揺動するTIGアーク電極とワイヤ電源に接続した2本のワイヤトーチを有し、母材を前記アーク電源とワイヤ電源に接続して、前記TIGアーク電極と母材との間で発生したアークにより母材表面を溶融すると共に、前記ワイヤトーチから通電したワイヤを送給して溶接するホットワイヤ溶接装置において、前記2本のワイヤトーチを、TIGアーク電極の揺動右端部と左端部に各1本設け、前記TIGアーク電極が揺動右端部にあるときは右端部に設けたワイヤトーチの通電を停止し、かつ前記TIGアーク電極が揺動左端部にあるときは左端部に設けたワイヤトーチの通電を停止するホットワイヤ溶接装置である。
このとき、ワイヤ電源の制御装置は2本以上の添加ワイヤの中の各ワイヤが同時に通電しないように通電タイミングを制御するように構成する。例えば、アーク電極が揺動して、アークがR(右)側の端側にあるときその反対側のワイヤトーチに電流を通電し、L(左)側の端側にあるときその反対側のワイヤトーチに電流を通電するように制御すると、ワイヤ電流とアーク間の距離が遠く、磁気吹きは生じない。
【0016】
請求項3記載の発明は、アーク電源に接続した広幅に揺動するTIGアーク電極とワイヤ電源に接続した3本のワイヤトーチを有し、母材を前記アーク電源とワイヤ電源に接続して、前記TIGアーク電極と母材との間で発生したアークにより母材表面を溶融すると共に、前記ワイヤトーチから通電したワイヤを送給して溶接するホットワイヤ溶接装置において、前記3本のワイヤトーチを、前記TIGアーク電極の揺動左端部、中央部及び右端部に各1本設け、前記TIGアーク電極が揺動右端部にあるときは右端部に設けたワイヤトーチの通電を停止すると共に左端部のワイヤトーチに通電し、かつ前記TIGアーク電極が揺動左端部にあるときは左端部に設けたワイヤトーチの通電を停止すると共に右端部のワイヤトーチに通電するホットワイヤ溶接装置である。
この場合、アークが揺動の中心部を通過する頃に中央部にあるワイヤトーチに電流を流すと、アークは通電しているワイヤの近くを通過するので、磁気吹きを生じる。しかし、いつも同じ状態の磁気吹きを発生するので、磁気吹きを発生したりしなくなったりした場合と比較すると、母材の溶融状態は安定している。
【0017】
請求項4記載の発明は、前記ワイヤトーチの通電を制御するワイヤ電源の制御装置が、一つの電源トランスから2つ以上の独立したワイヤ加熱電流を出力するように構成した請求項2又は3記載のホットワイヤ溶接装置である。
これにより、前記ワイヤトーチの通電を制御するワイヤ電源の制御装置は、複数のワイヤへの通電は重複しないようにスイッチングしているので、複数のワイヤに通電する場合でも、電源の1次側の回路及びトランスは1組だけ設ければ良く、図7に示すような個別の3電源15a〜15cを設ける場合と比較して、電源は安価に製作でき、また小型になる。
【0018】
こうして、TIGアーク電極を振幅10mm以上かつ周波数10Hz以上で広幅に揺動する構成としても母材13の溶融状態は安定している。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図1〜図5に基づいて説明する。なお、本実施の形態のホットワイヤTIG溶接用装置のTIGトーチ2の揺動機構は、図6に示すものと同一であるので、その図示と説明は省略する。
【0020】
図1は本実施の形態に係るホットワイヤTIG溶接用装置の構成図を示し、広幅揺動TIG溶接ヘッド1とアーク電源16及びワイヤ電源21との間の電気的接続関係を示している。溶接ヘッド1には3本のワイヤトーチ3a、3b、3cがあり、それぞれワイヤ電源21の+1、+2、+3出力端子に接続されている。ワイヤ電源の−(マイナス)出力は母材13と接続されている。またアーク電源16の−(マイナス)出力は溶接トーチ2に接続され、+(プラス)出力は母材13と接続されており、タングステン電極4は図1の矢印のようにR方向、L方向と幅広く振り子状に揺動しながら母材13との間で発生したアーク(図示せず)によって母材表面を溶融する。
【0021】
図2は図1のワイヤ電源21の主要回路構成を示したものである。u、v、w入力端子から3相200Vを入力し、整流回路RCで直流で変換し、大容量トランジスタからなるHブリッジ回路HBで20KHzにスイッチングしてトランスTの一次側に接続している。トランスTの2次側でダイオードD1、D2で整流しているが、その+(プラス)側はIGBTからなるTR1、TR2、TR3を経て各+(プラス)側出力+1、+2、+3に接続され、−(マイナス)側は一個の−(マイナス)出力端子に接続されている。
【0022】
制御器CTLRには、入力信号s、n、i1、i2、i3及びiが入ってきて、出力信号t、t1、t2及びt3を出力する。入力信号sはTIGトーチ4が振り子状に揺動する時に揺動中心からR側に滞在するときはハイHに、L側に滞在するときにはロウLを出力するトーチ位置検出センサの出力信号である。実際に出力する端子の数の信号、i1、i2、i3はそれぞれワイヤ電源の出力端子+1、+2、+3からの出力電流のピーク値を設定する電流設定信号である。iは2次電流を検出するホールセンサHからの電流信号である。tはHブリッジを構成しているパワートランジスタへのスイッチング信号であり、t1、t2、t3はそれぞれ出力側をオンオフする信号である。
【0023】
図3はワイヤを3本添加する場合について、図2のワイヤ電源21から出力されたワイヤ加熱電流I1、I2、I3とタングステン電極4の先端位置との関係を説明する図である。
【0024】
ワイヤ電源21は図2のような構成なので、以下のように動作して図3に示す出力を形成する。制御器CTLRは出力すべき端子数を入力信号nで知り、揺動位相を信号sから求め、出力電流I1、I2、I3の出力期間を設定する。図3のI1電流波形に示すように、揺動の0から2π/3迄の位相の期間をI1出力期間とし、その期間中はI1の電流設定信号i1に基づいたスイッチング信号を形成してHブリッジHBに出力し、同時に制御器CTLRは制御信号t1、t2、t3を出力して2次側のスイッチングトランジスタTR1をオン、TR2、TR3をオフする。
【0025】
電流I1が設定信号i1に対応した値になっているかどうかをホールセンサHで検出した値を制御器に戻してフィードバック制御する。同様にして揺動の2π/3から4π/3迄の位相の期間はI2を出力し、揺動の4π/3から0迄の位相の期間はI3を出力する。
【0026】
図4はトーチ10aとトーチ10cを使ってワイヤを2本送給した場合である。また、図5はトーチ10bを使ってワイヤを1本送給した場合である。図3〜図5に示すように揺動位相に同期してワイヤ通電しているので、ワイヤ電流によってアークが磁気吹きする状態は常に一定となって安定する。図3の場合、電極4が揺動して、アークがR側の端側にあるときその反対側のワイヤトーチ10aにI1電流を通電し、L側の端側にあるときその反対側のワイヤトーチ10cにI3電流を通電しているので、ワイヤ電流とアーク間の距離が遠く、磁気吹きは生じない。
【0027】
また、アークが揺動の中心部を通過する頃に中央部にあるワイヤトーチ10bにI2電流を流すが、このときはアークは通電しているワイヤの近くを通過するので、磁気吹きを生じる。しかし、いつも同じ状態の磁気吹きを発生するので、磁気吹きを発生したりしなくなったりした場合と比較すると、母材13の溶融状態は安定している。
【0028】
図4のワイヤが2本の場合は、ワイヤトーチ10aと10cを用いて常にアークが滞在している方向と反対側にあるワイヤに通電するように制御しており、また、ワイヤが1本の場合はワイヤトーチ10bを用いてアークがL側、R側の両端部にある時にワイヤ通電するように制御しており、このようにしてワイヤ電流によるアークの磁気吹きは生じなくしている。
【0029】
また、ワイヤ電源21は図2のような回路原理であり、各ワイヤ10a〜10cへの通電は重複しないようにスイッチングしているので、3本のワイヤ10a〜10cに通電する場合でも、電源の1次側の回路及びトランスTは1組だけ設ければ良いので、図7に示すような個別の3電源15a〜15cを設ける場合と比較して、電源は安価に製作でき、また小型になる。
【0030】
なお、上記の実施の形態では、ワイヤ10a〜10cが最大3本の場合について説明したが、4本、5本などワイヤの本数が更に増しても、同様な考え方でワイヤ電源21を構成できる。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、広幅に揺動しているアークの滞在位置と関連づけて多数のワイヤのそれぞれの通電期間を制御できるので、アークの磁気吹きの発生をより少なくでき、またアークの磁気吹きが発生する場合でも一定した状態で発生するようになるので、アークの発生及び母材の溶融状態が安定する効果がある。
【0032】
また、本発明によれば、インバータ電源の一次回路側は1セットだけ設ければ良く、また2次側は多出力となるが、相互の制御が電源装置内部の制御装置で行われるので、全体構成は独立した多台数電源と比較して、安価に構成でき、また全体としてコンパクトに製作できるので、設置空間もより狭くなるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る溶接装置の全体構成図である。
【図2】 本発明の実施の形態に係るワイヤ電源の回路原理の説明図である。
【図3】 本発明の実施の形態に係るワイヤ通電期間の説明図である。
【図4】 本発明の実施の形態に係るワイヤ通電期間の説明図である。
【図5】 本発明の実施の形態に係るワイヤ通電期間の説明図である。
【図6】 本願発明者らが先に提案した溶接装置の溶接ヘッド部の説明図である。
【図7】 本願発明者らが先に提案した溶接装置の電源も含めた構成の説明図である。
【符号の説明】
1 溶接ヘッド 2 TIGトーチ
3 ワイヤトーチ 4 タングステン電極
5 電磁アクチュエータ 6 絶縁材
7 銅チップ 8 支持台
9 筐体 10 ワイヤ
11 コンタクトチューブ 12 セラミックガイド
13 母材 14 溶融池
15 ワイヤ電源 16 アーク電源
17 アーク 18 軸芯軸
19 シールドノズル 20 肉盛ビード
21 ワイヤ電源
Claims (4)
- アーク電源に接続した広幅に揺動するTIGアーク電極とワイヤ電源に接続した1本のワイヤトーチを有し、母材を前記アーク電源とワイヤ電源に接続して、前記TIGアーク電極と母材との間で発生したアークにより母材表面を溶融すると共に、前記ワイヤトーチから通電したワイヤを送給して溶接するホットワイヤ溶接装置において、
前記ワイヤトーチをTIGアーク電極の揺動中央部に設け、前記TIGアーク電極が揺動中央部にあるときは前記ワイヤトーチの通電を停止することを特徴とするホットワイヤ溶接装置。 - アーク電源に接続した広幅に揺動するTIGアーク電極とワイヤ電源に接続した2本のワイヤトーチを有し、母材を前記アーク電源とワイヤ電源に接続して、前記TIGアーク電極と母材との間で発生したアークにより母材表面を溶融すると共に、前記ワイヤトーチから通電したワイヤを送給して溶接するホットワイヤ溶接装置において、
前記2本のワイヤトーチを、TIGアーク電極の揺動右端部と左端部に各1本設け、前記TIGアーク電極が揺動右端部にあるときは右端部に設けたワイヤトーチの通電を停止し、かつ前記TIGアーク電極が揺動左端部にあるときは左端部に設けたワイヤトーチの通電を停止することを特徴とするホットワイヤ溶接装置。 - アーク電源に接続した広幅に揺動するTIGアーク電極とワイヤ電源に接続した3本のワイヤトーチを有し、母材を前記アーク電源とワイヤ電源に接続して、前記TIGアーク電極と母材との間で発生したアークにより母材表面を溶融すると共に、前記ワイヤトーチから通電したワイヤを送給して溶接するホットワイヤ溶接装置において、
前記3本のワイヤトーチを、前記TIGアーク電極の揺動左端部、中央部及び右端部に各1本設け、前記TIGアーク電極が揺動右端部にあるときは右端部に設けたワイヤトーチの通電を停止すると共に左端部のワイヤトーチに通電し、かつ前記TIGアーク電極が揺動左端部にあるときは左端部に設けたワイヤトーチの通電を停止すると共に右端部のワイヤトーチに通電することを特徴とするホットワイヤ溶接装置。 - 前記ワイヤトーチの通電を制御するワイヤ電源の制御装置は、一つの電源トランスから2つ以上の独立したワイヤ加熱電流を出力するように構成したことを特徴とする請求項2又は3記載のホットワイヤ溶接装置。
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