JP3936138B2 - 流体噴射弁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車用エンジンの燃料噴射弁等として好適に用いられる流体噴射弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、流体噴射弁としては、例えば自動車用エンジンに燃料を噴射する燃料噴射弁が知られている。そして、この燃料噴射弁は、燃料通路が設けられた筒状の弁ケーシングと、該弁ケーシングの先端側内周に設けられ噴射口を囲んで弁座が形成された弁座部材と、前記噴射口を外側から覆うように該弁座部材の先端側に設けられ前記弁ケーシング内の燃料を外部に噴出させる複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、前記弁ケーシング内に設けられ電磁アクチュエータの作動により前記弁座部材の弁座に離着座する弁体とにより構成されている(例えば特開平3−194163号、特開平11−70347号公報等)。
【0003】
この種の従来技術による燃料噴射弁は、弁体が電磁アクチュエータにより軸方向に駆動されて開弁すると、その弁部が弁座から離座することにより、弁ケーシング内に供給された燃料が弁部と弁座との間を介して噴射口に流入するようになり、この燃料はノズルプレートの各ノズル孔からエンジンの吸気側に向けて噴射されるものである。
【0004】
また、弁体の閉弁時には、その弁部が弁座部材の弁座に着座することにより噴射口が閉塞され、燃料の噴射は停止される。そして、弁体の閉弁時にあっては、弁座部材の噴射口は、その内側端が弁体の弁部によって閉塞され、噴射口の外側端はノズルプレートによって覆われているため、噴射口内には、弁体が閉弁している状態でも、弁体とノズルプレートとの間に位置して一定容積の隙間空間が形成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来技術では、弁体の閉弁時にも、噴射口内に位置して弁体とノズルプレートとの間に隙間空間が形成されるため、燃料の噴射を停止しているときに、この隙間空間内に燃料の一部が残るようになる。そして、この状態でエンジンの吸入負圧がノズルプレートの外側に作用すると、噴射口内に残っている燃料がノズルプレートの各ノズル孔からエンジンの吸入空気側に吸引されることがある。
【0006】
このように、エンジンの運転中には、燃料噴射弁が閉弁状態であるにも拘らず、その噴射口内に残った燃料が吸入空気中に流出することがあるため、吸入空気と燃料との混合比にばらつきが生じ易くなり、エンジンの空燃比制御が不安定になるという問題がある。
【0007】
これに対し、噴射口内に残留する燃料の量を減少させるため、弁座部材の噴射口周囲を薄肉に形成し、前記隙間空間の容積を小さくする等の対策も検討されている。
【0008】
しかし、噴射口の周囲を薄肉に形成すると、弁座部材の噴射口周囲における剛性低下を招くことになり、その耐久性、寿命が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、弁体の閉弁時に噴射口内に残る流体の残量を減らすことができ、噴射弁としての性能、信頼性を向上できるようにした流体噴射弁を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために本発明は、流体通路が設けられた筒状の弁ケーシングと、該弁ケーシングの先端側内周に設けられ噴射口の流入側を囲んで弁座が形成された弁座部材と、前記噴射口の流出側を外側から覆うように該弁座部材の先端面側に設けられ前記弁ケーシング内の流体を外部に噴出させる複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、前記弁ケーシング内に設けられアクチュエータの作動により前記弁座部材の弁座に離着座する弁体とからなる流体噴射弁に適用される。
【0011】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、ノズルプレートは、前記弁座部材の噴射口の流出側から流入側へと前記弁体に向けて凸湾曲状に突出する蓋部を有した凸有蓋形状に形成し、前記弁体は、前記ノズルプレートの蓋部に対し微小隙間を介して対面する凹湾曲面部を有する形状に形成したことにある。
【0012】
このように構成することにより、ノズルプレートの蓋部を弁体に向けて凸湾曲状に突出させて凸有蓋形状に形成し、前記弁体をノズルプレートの蓋部に対し微小隙間を介して対面させることができるから、弁体の閉弁時には、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの凸有蓋形状の蓋部との間に形成される隙間空間の容積を減少させることができる。即ち、弁体の閉弁時には、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部との間に微小隙間が介在するようになるので、これらの間の隙間空間の容積を減少させることができる。しかも、ノズ ルプレートの蓋部は弁体に向けて凸湾曲状に突出しているので、弁体の閉弁時には、弁体の先端側とノズルプレートの蓋部との間に残留した流体を蓋部の外周側に溜めることができ、残留した流体が蓋部の中心側に位置するノズル孔から外部に漏れ出すのを防止することができる。
【0013】
また、請求項2の発明によると、ノズルプレートは、前記弁座部材の先端面側に当接して固定される環状のフランジ部と、該フランジ部の内周側から前記噴射口内に向けて突出し外周側が前記噴射口に嵌合される嵌合筒部と、前記弁座部材内で弁体と対面するように該嵌合筒部の突出端側に一体形成され前記複数のノズル孔が穿設された前記蓋部とにより構成している。
【0014】
これにより、ノズルプレートの嵌合筒部を噴射口内に嵌合した状態で、ノズルプレートのフランジ部を弁座部材の先端面側に容易に固定することができる。そして、この状態で各ノズル孔が形成された蓋部を弁体と対面させ、弁体と蓋部との間の隙間を可能な限り小さくすることができる。
【0015】
さらに、請求項3の発明によると、弁座部材の噴射口は流入側と流出側との間にある長さ寸法をもって形成し、前記ノズルプレートは前記噴射口内に嵌合させる構成としている。
【0016】
これにより、弁座部材のうち噴射口の周囲を肉厚に形成して剛性を確保できると共に、ノズルプレートのうち凸有蓋形状の部位を噴射口内に安定的に嵌合させることができる。
【0017】
また、請求項4の発明によると、弁座部材の先端側端面と前記弁座との間の軸方向の間隔をHとし、前記弁座の直径をDとし、前記噴射口の軸方向の長さをLsとし、前記ノズルプレートに形成されたノズル孔の個数をnとし、各ノズル孔の孔径をdとし、前記弁体の開弁時における前記ノズルプレートの突出端側と弁体との間の間隔をhとしたときに、前記間隔H,h、直径d、長さLs、個数nおよび孔径dは、
からなる3つの関係を満たす構成としている。
【0018】
これにより、(1)の式によって噴射口には一定の軸方向長さを与えることができ、弁座部材のうち噴射口の周囲を肉厚に形成して剛性を確保することができる。また、例えばノズルプレートのうち凸有蓋形状の部位を噴射口内に安定させて嵌合することができる。
【0019】
また、(2)の式を満たすことにより、弁体の開弁時には、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部との間に位置する隙間空間の形状を偏平に形成でき、弁体の外周側からこの隙間空間内に流入する流体の流れをノズルプレートの蓋部表面で互いに衝突させることができる。
【0020】
さらに(3)の式を満たすことにより、弁体の開弁時には、各ノズル孔から噴射される流体の総噴射量に対して弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部との間の隙間空間内に十分な量の流体を供給することができる。また、このときの隙間空間の軸方向寸法に対応する間隔hをノズル孔の孔径dに対応して流体の噴射に必要な最小限の大きさに抑えることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態による流体噴射弁を、自動車用エンジンに用いられる燃料噴射弁に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
ここで、図1ないし図6は本発明の前提となる参考例による燃料噴射弁を示している。
【0023】
1は燃料噴射弁の本体をなす筒状の弁ケーシングで、該弁ケーシング1は、例えば電磁ステンレス鋼等の磁性材料により段付き筒状に形成されている。そして、弁ケーシング1は、基端側に後述の樹脂カバー18が取付けられた大径筒部1Aと、該大径筒部1Aの先端側に一体形成された小径筒部1Bとからなり、その内部には後述の弁体8が挿通される燃料通路2が軸方向に設けられている。
【0024】
3は弁ケーシング1の基端側に固着された筒状の連結部材で、該連結部材3は非磁性材料によって形成され、弁ケーシング1と後述の燃料流入パイプ4との間に介在している。
【0025】
4は例えば電磁ステンレス鋼等の磁性材料によって形成された筒状の燃料流入パイプで、該燃料流入パイプ4は、連結部材3を用いて弁ケーシング1の基端側に固定され、その先端側は燃料通路2に連通している。また、燃料流入パイプ4の基端側内周には燃料フィルタ5が設けられている。
【0026】
ここで、燃料流入パイプ4と弁ケーシング1とは、これらの外周側に取付けられた磁性金属片等からなる連結コア6を介して磁気的に連結されている。そして、後述の電磁コイル12に通電したときには、弁ケーシング1、燃料流入パイプ4、連結コア6と、後述する弁体8の吸着部10との間に閉磁路が形成される。
【0027】
7は弁ケーシング1の小径筒部1B内に挿嵌して設けられた弁座部材で、該弁座部材7は、例えば金属材料、樹脂材料等からなり、図2、図3に示す如く略筒状に形成されると共に、その先端面7A側は後述のノズルプレート15と押えプレート17とを介して小径筒部1Bの内周側に固着されている。また、弁座部材7の内周側には、その先端面7Aに開口した噴射口7Bと、該噴射口7Bを取囲む略円錐状の傾斜面部7Cと、該傾斜面部7Cの途中部位に位置して後述する弁体8の弁部11が離着座する環状の弁座7Dとが設けられている。
【0028】
ここで、噴射口7Bは軸方向に延びた円筒状の貫通孔からなり、燃料の流入側に位置する流入側開口7B1と、燃料の流出側に位置する流出側開口7B2とを有している。そして、噴射口7Bは流入側開口7B1と流出側開口7B2との間に位置して予め定められた軸方向の長さLsを有し、この長さLsは、後述するノズルプレート15の筒部15Cを噴射口7B内に安定的に嵌合させるため、例えばノズル孔16の孔径dに対して下記数1の式を満たす大きさに設定されている。
【0029】
【数1】
【0030】
また、弁座7Dは、弁座部材7の先端面7Aに対して軸方向に間隔H分だけ離して配設され、この間隔Hは、後述の図6に示す如く弁体8の開弁時に偏平な隙間空間S2を形成するため、噴射口7Bの長さLsとノズル孔16の孔径dに対して下記数2の式を満たす寸法として予め設定されている。
【0031】
【数2】
【0032】
また、弁座7Dは噴射口7Bを取囲むように配置され、その直径Dは、後述する数3の式を満たす大きさに予め設定されているものである。
【0033】
8は弁ケーシング1の燃料通路2内に挿通して設けられた弁体で、該弁体8は、図1に示す如く、金属板等を略筒状に折曲げることにより形成された弁軸9と、該弁軸9の基端側に固着された磁性材料等からなる筒状の吸着部10と、弁軸9の先端側に固着して設けられ、弁座部材7の弁座7Dに離着座する球状の弁部11とから構成されている。
【0034】
ここで、吸着部10の基端面は、燃料流入パイプ4と軸方向の隙間を挟んで対向し、この隙間の寸法は弁体8のリフト量として予め調整されている。また、弁部11の外周側には、図2に示す如く周方向の複数箇所に面取り部11Aが設けられ、該各面取り部11Aは弁座部材7と弁部11との間に燃料用の通路を形成している。
【0035】
また、弁部11の先端側には、後述するノズルプレート15の蓋部15Cの形状に対応して平坦に切欠いた平坦面部11Bが設けられ、これにより弁体8は、截頭球状の弁部11を有するポペット弁体として構成されている。
【0036】
そして、弁体8の閉弁時には、図3に示す如く、その弁部11が弁座部材7の弁座7Dに着座することにより、弁部11の平坦面部11Bとノズルプレート15の蓋部15Cとの間には微小な隙間空間S1が形成された状態となっている。
【0037】
また、弁体8の開弁時には、図6に示す如く弁体8が矢示A方向に変位し、弁部11が弁座7Dから離座することにより、弁部11の平坦面部11Bとノズルプレート15の蓋部15Cとは軸方向の間隔hをもって互いに対向し、これらの間には偏平な隙間空間S2が形成されるようになる。そして、この間隔hの大きさは、後述の理由により、弁座7Dの直径D、ノズル孔16の孔径dおよび個数nに対して、下記数3の式を満たすように予め設定されている。
【0038】
【数3】
12は弁ケーシング1の基端側で樹脂カバー18内に固着して設けられたアクチュエータとしての電磁コイルで、該電磁コイル12は、図1に示す如く、後述のコネクタ19を用いて外部から通電されることにより弁体8の吸着部10を磁気的に吸引する。これにより、弁体8は、弁ばね13に抗して矢示A方向へと軸方向に変位し、このとき弁部11は弁座部材7の弁座7Dから一定のリフト量をもって離座することにより開弁するものである。
【0039】
13は燃料流入パイプ4内に配置された圧縮ばねからなる弁ばねで、該弁ばね13は、燃料流入パイプ4の上流側に固着された筒体14と弁体8の基端側との間に設けられ、弁体8を弁座部材7に向けて閉弁方向に付勢している。
【0040】
15は後述の押えプレート17と共に弁座部材7の先端面7Aに固定されたノズルプレートで、該ノズルプレート15は、図2ないし図5に示す如く、例えば円形の金属薄板等をプレス加工することにより一体形成され、弁座部材7の先端面7A側から噴射口7B内に突出した凸有蓋形状を有している。
【0041】
ここで、ノズルプレート15は、弁座部材7の噴射口7Bを取囲む位置で先端面7Aに溶接等の手段を用いて固着された環状のフランジ部15Aと、該フランジ部15Aの内周側に設けられ、弁座部材7の噴射口7Bの流出側開口7B2から流入側開口7B1に向けて軸方向に突出した円筒状の嵌合筒部15Bと、該嵌合筒部15Bの突出端側を施蓋するように該嵌合筒部15Bに設けられ、後述のノズル孔16,16,…が穿設された円板状の蓋部15Cとによって構成されている。
【0042】
そして、嵌合筒部15Bは、図5に示す如く、例えば噴射口7Bの長さLsとほぼ等しい突出寸法Lpを有し(Lp≒Ls)、噴射口7B内に嵌合して取付けられている。また、蓋部15Cは、弁体8の閉弁時に弁部11の平坦面部11Bと微小な隙間空間S1を介して対面した状態に保持されるため、これらの間に残留する燃料が隙間空間S1の容積に対応して少量に抑制されるものである。
【0043】
16,16,…はノズルプレート15の蓋部15Cを貫通して形成された例えばn個のノズル孔で、該各ノズル孔16は、例えば0.1〜0.2mm程度の孔径dを有している。また、各ノズル孔16のうち、図4中の直径M−Mを挟んで左側に位置するノズル孔16は左方向に傾斜して形成され、右側に位置するノズル孔16は右方向に傾斜して形成されている。
【0044】
そして、弁体8の開弁時には、図6に示す如く、弁ケーシング1内に供給される燃料がノズルプレート15の各ノズル孔16から左,右方向に分岐して噴射され(一方のみ図示)、このとき噴射燃料はノズル孔16により微粒化されるものである。
【0045】
一方、17は略環状の金属板等によって形成された押えプレートで、該押えプレート17は、図2に示す如く、外周側が溶接部17Aによって弁ケーシング1の小径筒部1B内に溶接され、内周側が他の溶接部17Bによってノズルプレート15と一緒に弁座部材7の先端面7A側に溶接されると共に、これによりノズルプレート15と弁座部材7とを弁ケーシング1内に固定している。
【0046】
また、18は弁ケーシング1の大径筒部1A等を覆うように取付けられた樹脂カバーで、該樹脂カバー18には、図1に示す如くコネクタ19が設けられている。さらに、20は弁ケーシング1の小径筒部1Bに取付けられたプロテクタで、該プロテクタ20はノズルプレート15等を保護するものである。
【0047】
本発明の前提となる参考例による燃料噴射弁は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0048】
まず、弁ケーシング1内の燃料通路2には、燃料流入パイプ4の基端側から燃料が供給される。そして、電磁コイル12がコネクタ19を介して通電されると、弁体8は、その吸着部10が電磁コイル12により弁ケーシング1、燃料流入パイプ4および連結コア6を介して磁気的に吸引され、弁ばね13に抗して開弁する。これにより、燃料通路2内の燃料は、弁座部材7の噴射口7B内を流入側開口7B1から流出側開口7B2に向けて流出し、ノズルプレート15の各ノズル孔16からエンジンの吸入空気側に噴射される。
【0049】
この場合、弁ケーシング1内の燃料は、図6中の矢示Bに示す如く、弁座部材7の傾斜面部7Cに沿って弁座7Dと弁体8の弁部11との間を流通し、隙間空間S2内へと流入する。そして、隙間空間S2内に流入した燃料は、弁部11の全周から中心側に向けて偏平な隙間空間S2内を径方向に流通し、隙間空間S2の中央部で互いに衝突して乱流状態となるため、各ノズル孔16から噴射される燃料の微粒化を促進することができる。
【0050】
また、弁体8が閉弁して弁部11が弁座部材7の弁座7Dに着座したときには、ノズルプレート15の蓋部15Cが弁座部材7の先端側から噴射口7B内に突出しているため、この蓋部15Cと弁部11の平坦面部11Bとの間の隙間容積は大きく減少し、これらの間には微小な隙間空間S1が形成された状態となる。これにより、隙間空間S1に残留する燃料を減らすことができ、弁体8の閉弁時に隙間空間S1内の燃料が各ノズル孔16からエンジンの吸入空気中に漏れ出すのを抑制することができる。
【0051】
ところで、弁体8の開弁時における隙間空間S2の間隔h等については、前記数3の式を満たすように設定しているが、この数3の式を説明するため、弁体8の開弁時に弁部11の外周側から隙間空間S2内に流入する燃料と各ノズル孔16から噴射される燃料の流量について比較してみる。
【0052】
まず、流入側の燃料は、弁部11の外周側と弁座7Dとの間に形成された環状の流路を通じて隙間空間S2内に流入する。そして、この環状流路の流路面積Raは、弁部11の平坦面部11Bとノズルプレート15の蓋部15Cとの間の間隔hと、弁座7Dの直径Dと、円周率πとを用いて近似的に表すと、下記数4の式のようになる。
【0053】
【数4】
【0054】
また、ノズルプレート15の各ノズル孔16から燃料が噴射されるときの総流路面積Rbは、ノズル孔16の個数nと孔径dとを用いて下記数5の式のように表すことができる。
【0055】
【数5】
また、流入側の流路面積Raを噴射側の流路面積Rb以上の大きさに形成すれば、各ノズル孔16から噴射される燃料の総噴射量に対して弁ケーシング1側から隙間空間S2内に十分な量の燃料が供給されるようになるから、この条件(Ra≧Rb)に前記数4、数5の式を代入して下記数6の式を得ることができる。
【0056】
【数6】
そして、この数6の式を下記数7の式のように変形すると、数7の式は、前述した数3の式の左辺と中辺に等しいことが判る。
【0057】
【数7】
従って、これらの間隔h、直径D、個数nおよび孔径dが前記数3の式を満たすように設定することにより、各ノズル孔16からの燃料噴射量に対して弁ケーシング1側から隙間空間S2内に十分な量の燃料を供給できると共に、間隔hを孔径dの4倍よりも小さくして最小限の大きさに形成することができる。
【0058】
かくして、本発明の前提となる参考例では、ノズルプレート15を、弁座部材7の噴射口7Bの流出側開口7B2から流入側開口7B1に向けて突出する凸有蓋形状に形成し、フランジ部15A、嵌合筒部15Bおよび蓋部15Cにより構成したので、その嵌合筒部15Bと蓋部15Cとをフランジ部15Aから噴射口7B内に突出させることができ、弁体8の閉弁時には、弁部11の平坦面部11Bとノズルプレート15の蓋部15Cとの間に形成される隙間空間S1の容積を確実に減少させることができる。
【0059】
これにより、燃料噴射を停止しているときには、隙間空間S1に残留する燃料を少量に抑えることができ、この燃料がエンジンの吸入負圧等によってノズルプレート15のノズル孔16から外部に漏れ出すのを防止できると共に、隙間空間S1からの燃料漏れを減らすために弁座部材7を薄肉に形成する必要もなくなり、耐久性や寿命を高めることができる。
【0060】
従って、本発明の前提となる参考例によれば、弁体8の開,閉動作に応じて燃料の噴射,停止を確実に実行でき、エンジンの空燃比制御等を安定的に行うことができると共に、噴射弁としての性能、信頼性を向上させることができる。
【0061】
また、ノズルプレート15の嵌合筒部15Bを弁座部材7の噴射口7B内に嵌合させたので、噴射弁の組立時にノズルプレート15を弁座部材7に取付けるときには、その嵌合筒部15Bを噴射口7B内に嵌合させた状態でフランジ部15Aを弁座部材7の先端面7Aに容易に溶接でき、取付作業を効率よく行うことができる。しかも、嵌合筒部15Bを噴射口7B内に嵌合させることにより、ノズルプレート15の蓋部15Cを弁体8等の径方向に対して容易に位置合わせ(センタリング)できるから、各ノズル孔16を設計等により予め定められた位置に確実に配置でき、組付精度を高めることができる。
【0062】
この場合、弁座部材7の噴射口7Bを前記数1の式による一定の長さLsに形成し、ノズルプレート15の嵌合筒部15Bを噴射口7Bの長さLsとほぼ等しい突出寸法Lpに形成したので、これらを安定的に嵌合できると共に、弁座部材7のうち噴射口7Bの周囲を肉厚に形成して剛性を確保することができる。
【0063】
また、弁体8の弁部11には、ノズルプレート15の蓋部15Cに対応する形状の平坦面部11Bを設けたので、これらの蓋部15Cと平坦面部11Bとを微小な隙間空間S1を介して対面させることができ、隙間空間S1の容積を可能な限り小さく形成することができる。
【0064】
また、弁座部材7の間隔H、噴射口7Bの長さLsおよびノズル孔16の孔径dが前記数2の式を満たすように形成したので、弁体8の開弁時には、隙間空間S2の形状を軸方向に対して偏平に形成でき、この隙間空間S2に外周側から流入する燃料をノズルプレート15の蓋部15C上で互いに衝突させつつ、各ノズル孔16から微粒化状態で噴射できると共に、燃料の噴射性能をより高めることができる。
【0065】
さらに、弁座部材7の直径D、隙間空間S2の間隔h、ノズル孔16の個数nおよび孔径dが前記数3の式を満たすように形成したので、弁体8の開弁時には、各ノズル孔16から噴射される燃料の総噴射量に対して弁ケーシング1側から隙間空間S2に向けて十分な量の燃料を供給でき、噴射弁を安定して作動させることができると共に、間隔hを可能な限り小さくして隙間空間S2の偏平化を図ることができる。
【0066】
次に、図7は本発明による実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、ノズルプレートを凸湾曲状に形成する構成としたことにある。なお、本実施の形態では前述した参考例と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0067】
21は本実施の形態に適用される燃料噴射弁の弁体で、該弁体21は、第1の実施の形態とほぼ同様に、弁軸9と、吸着部(図示せず)と、外周側に複数の面取り部22Aが形成された略球状の弁部22とを含んで構成されている。しかし、弁部22の先端側には、後述するノズルプレート23の蓋部23Cに対応する形状に切欠いた凹湾曲面部22Bが形成され、弁体21は、截頭球状の弁部22を有するポペット弁体として構成されている。
【0068】
23は弁座部材7の先端面7Aに固定されたノズルプレートで、該ノズルプレート23は、第1の実施の形態とほぼ同様に、例えば円形の金属薄板等をプレス加工することにより凸有蓋形状に形成され、弁座部材7の先端面7Aに溶接された環状のフランジ部23Aと、該フランジ部23Aの内周側に設けられ、弁座部材7の噴射口7Bの流出側開口7B2から流入側開口7B1に向けて軸方向に突出すると共に噴射口7B内に嵌合された円筒状の嵌合筒部23Bと、該嵌合筒部23Bの突出端側を施蓋して設けられ、複数のノズル孔24,24,…が穿設された蓋部23Cとによって構成されている。
【0069】
また、蓋部23Cは、弁体21に向けて突出した凸湾曲状または凸球面状に形成され、その中心部が最突出端部位となり、中心部から外周側に向けて斜めに傾斜した形状となっている。そして、弁体21の閉弁時には、ノズルプレート23の蓋部23Cと弁部22の凹湾曲面部22Bとが微小な隙間空間S3を介して対面した状態に保持されるため、これらの間に残留する燃料が隙間空間S3の容積に対応して少量に抑制されるものである。
【0070】
かくして、このように構成される本実施の形態では、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、ノズルプレート23の蓋部23Cを弁体21に向けて突出した凸湾曲形状に形成する構成としたので、弁体21の閉弁時には、燃料が微小な隙間空間S3に残留している場合でも、この燃料をノズルプレート23の蓋部23Cに沿って中心側から外周側へと流動させ、隙間空間S3のうち各ノズル孔24から離れた外周側の部位に燃料を溜めることができる。従って、隙間空間S3内の燃料がノズルプレート23の各ノズル孔24から外部に漏れ出すのをより確実に防止することができる。
【0071】
【発明の効果】
以上詳述した通り、請求項1の発明によれば、ノズルプレートは、弁座部材の噴射口の流出側から流入側へと弁体に向けて凸湾曲状に突出する蓋部を有した凸有蓋形状に形成し、前記弁体は、前記ノズルプレートの蓋部に対し微小隙間を介して対面する凹湾曲面部を有する形状に形成する構成としたので、弁体の閉弁時には、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部との間に形成される隙間空間の容積を確実に減少させることができる。即ち、弁体の凹湾曲面部はノズルプレートの蓋部に対し微小隙間を介して対面するので、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部との間に形成される隙間空間の容積を可能な限り小さく形成でき、この空間に残留する燃料をより減少させることができる。これにより、流体の噴射を停止しているときには、隙間空間内に残留する流体を少量に抑えることができ、この流体が外部の負圧等によってノズルプレートのノズル孔から外部に漏れ出すのを防止できると共に、隙間空間からの流体漏れを減らすために弁座部材を薄肉に形成する必要もなくなり、耐久性や寿命を高めることができる。
【0072】
しかも、ノズルプレートの蓋部は弁体に向けて凸湾曲状に突出しているので、弁体の閉弁時には、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部との間に少量の流体が残留している場合でも、この流体を各ノズル孔から離れた蓋部の外周側に溜めることができ、残留した流体が各ノズル孔から外部に漏れ出すのをより確実に防止することができる。従って、弁体の開,閉動作に応じて流体の噴射,停止を確実に実行でき、噴射弁としての性能、信頼性を向上させることができる。
【0073】
また、請求項2の発明によれば、ノズルプレートをフランジ部、嵌合筒部および蓋部によって構成したので、ノズルプレートを弁座部材に取付けるときには、その嵌合筒部を噴射口内に嵌合させた状態でフランジ部を弁座部材の先端側に容易に固定でき、取付作業を効率よく行うことができる。しかも、このときノズルプレートの蓋部を弁体等の径方向に対して容易に位置合わせ(センタリング)できるから、各ノズル孔を設計等により予め定められた位置に確実に配置でき、組付精度を高めることができる。
【0074】
さらに、請求項3の発明によれば、弁座部材の噴射口は流入側と流出側との間にある長さ寸法をもって形成し、ノズルプレートは噴射口内に嵌合させる構成としたので、弁座部材のうち噴射口の周囲を肉厚に形成して剛性を確保できると共に、ノズルプレートのうち凸有蓋形状の部位を噴射口内に安定的に嵌合させることができる。
【0075】
また、請求項4の発明によれば、弁座部材と弁座との間隔H、弁座の直径D、噴射口の長さLs、ノズル孔の個数n、孔径d、開弁時におけるノズルプレートと弁体との間隔hは、
からなる3つの関係を満たす構成としたので、(1)の式によって噴射口には一定の軸方向長さを与えることができ、弁座部材のうち噴射口の周囲を肉厚に形成して剛性を確保することができる。また、例えばノズルプレートの突出端側を噴射口内に安定させて嵌合することができる。
【0076】
また、(2)の式を満たすことにより、弁体の開弁時には、弁体の凹湾曲面部とノズルプレートの蓋部側との間の隙間空間の形状を偏平に形成でき、この隙間空間に流入する流体をノズルプレートの蓋部の表面側で互いに衝突させつつ、各ノズル孔から微粒化状態で噴射できると共に、流体の噴射性能をより高めることができる。
【0077】
さらに(3)の式を満たすことにより、弁体の開弁時には、各ノズル孔から噴射される流体の総噴射量に対して弁ケーシングの流体通路から弁体の凹湾曲面部とノズルプレートとの間の隙間空間内に十分な量の流体を供給でき、噴射弁を安定して作動させることができる。また、間隔hを可能な限り小さくして隙間空間の偏平化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の前提となる参考例による燃料噴射弁を示す縦断面図である。
【図2】 弁ケーシングの先端側を示す拡大断面図である。
【図3】 弁体、弁座部材、ノズルプレート等を示す図2中の要部拡大断面図である。
【図4】 ノズルプレートを示す平面図である。
【図5】 図4中の矢示V−V方向からみたノズルプレートの断面図である。
【図6】 弁体が開弁した状態を示す弁ケーシング先端側の要部拡大断面図である。
【図7】 本発明の実施の形態による燃料噴射弁の一部を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
1 弁ケーシング
2 燃料通路(流体通路)
3 連結部材
4 燃料流入パイプ
5 燃料フィルタ
6 連結コア
7 弁座部材
7A 先端面
7B 噴射口
7B1 流入側開口
7B2 流出側開口
7C 傾斜面部
7D 弁座
8,21 弁体
9 弁軸
10 吸着部
11,22 弁部
11A,22A 面取り部
11B 平坦面部
12 電磁コイル(アクチュエータ)
13 弁ばね
15,23 ノズルプレート
15A,23A フランジ部
15B,23B 嵌合筒部
15C,23C 蓋部
16,24 ノズル孔
17 押えプレート
22B 凹湾曲面部
Claims (4)
- 流体通路が設けられた筒状の弁ケーシングと、該弁ケーシングの先端側内周に設けられ噴射口の流入側を囲んで弁座が形成された弁座部材と、前記噴射口の流出側を外側から覆うように該弁座部材の先端面側に設けられ前記弁ケーシング内の流体を外部に噴出させる複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、前記弁ケーシング内に設けられアクチュエータの作動により前記弁座部材の弁座に離着座する弁体とからなる流体噴射弁において、
前記ノズルプレートは、前記弁座部材の噴射口の流出側から流入側へと前記弁体に向けて凸湾曲状に突出する蓋部を有した凸有蓋形状に形成し、
前記弁体は、前記ノズルプレートの蓋部に対し微小隙間を介して対面する凹湾曲面部を有する形状に形成したことを特徴とする流体噴射弁。 - 前記ノズルプレートは、前記弁座部材の先端面側に当接して固定される環状のフランジ部と、該フランジ部の内周側から前記噴射口内に向けて突出し外周側が前記噴射口に嵌合される嵌合筒部と、前記弁座部材内で弁体と対面するように該嵌合筒部の突出端側に一体形成され前記複数のノズル孔が穿設された前記蓋部とにより構成してなる請求項1に記載の流体噴射弁。
- 前記弁座部材の噴射口は流入側と流出側との間にある長さ寸法をもって形成し、前記ノズルプレートは前記噴射口内に嵌合させる構成としてなる請求項1または2に記載の流体噴射弁。
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