JP3936008B2 - 光モジュールの設計方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光モジュールの設計方法に関し、更に詳しくは、半導体レーザ等の発光素子と、グレーチング部を有する光導波路とを光結合して備える光モジュールの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、軸方向単一モード発振を得るために、活性領域全長にわたってグレーチングを有する分布帰還型レーザ(DFBレーザ)や、活性領域の外側にグレーチングを設けた分布反射型レーザ(DBRレーザ)が用いられている。更に、レーザダイオード(LD)の前方に、グレーチング部を有する外部光導波路、例えば光ファイバを配置することにより、レーザの発振波長を一定にして軸方向単一モード発振を起こさせる第3の方法も採用されている。グレーチング部は、例えば光ファイバのコアの長手方向の一部に、数mm程度の所定間隔で屈折率を変化させることで形成され、特定の波長のみを選択的に部分反射する作用を有する。
【0003】
DFBレーザでは、活性領域である半導体上に微細なグレーチングパターンを形成するという複雑な作製工程を必要とする。しかし、グレーチング部を有する光ファイバをレーザ外部に配置する第3の方法によると、LD自体は多重モードで発振する通常のファブリペロー構造のレーザで良いため、製造工程が簡素であるという利点がある。また、出力光を取り出すためには、DFBレーザやDBRレーザでも、結局は光ファイバと結合する必要があるので、この第3の方法は特に複雑な工程を増やすものでもない。つまり、有効なファイバグレーチングさえ形成できれば、比較的簡単に単一モード発振するレーザモジュールを得ることが出来る。従って、この方法は、近年のファイバグレーチングの作製技術の向上ともあいまって、大きな注目を集めている。
【0004】
ところで、光源としての半導体レーザの性能を表す指標として、小信号を変調する際の変調帯域がよく用いられる。これは、半導体レーザの駆動電流に加えられた変調信号に対して、出力光強度の応答がどの程度の高い周波数まで追随できるかを示すもので、この周波数が高いほど、高速信号を伝送する能力を有しているものである。
【0005】
また、変調帯域と良く似た半導体レーザの指標として、緩和振動周波数も用いられている。緩和振動周波数は、半導体レーザの駆動電流に加えられた変調信号によって出力光強度が共振的に増大することが出来る限界周波数を示すもので、この限界周波数以上では出力光強度が急激に減少するものである。従って、一般には緩和振動周波数が大きいほど変調帯域が大きいことになり、光源としての半導体レーザにとって望ましいものである。緩和振動周波数frは、半導体レーザの内部パワー密度P0、レーザ媒質の微分利得g0、及び、光子寿命τpを用いて、fr=(1/2π)・(g0P0/τp)1/2と表される。従って、変調帯域が大きい半導体レーザ光源を得るためには、光子寿命τpを小さくすることが望ましい。
【0006】
光子寿命τpは、一般に、共振器内を往復する光子数が1/eにまで減少する時間として定義される。つまり、光子寿命τpはレーザ共振器の共振器長と共振器内の光子損失とで定まり、共振器長が短いほど、また、光子損失が大きいほど、光子寿命τpは小さくなる。
【0007】
図5(a)及び(b)は夫々、DFBレーザから成る光モジュール、及び、レーザ外部に、グレーチングを一部に有する光ファイバ(グレーチングファイバ)を備える光モジュールにおける夫々の共振器長を示している。符号10は、ファブリ・ペロー型レーザ、20はグレーチングファイバ、30はDFBレーザ、40は通常の光ファイバである。同図(a)に示すDFBレーザ30では、レーザの素子長がそのまま共振器長になるが、同図(b)に示した、グレーチングファイバ20をレーザ10の外部に備える光モジュールでは、実質的なレーザ共振器は、LDチップ10の後端面12とファイバグレーチング21の等価的反射面22とで形成されるので、実効共振器長が非常に長くなる。このため、光子寿命τpが長くなり、このような光モジュールでは、緩和振動周波数及び変調帯域を大きくとることが出来ないという欠点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来は、上記欠点を除く手法が確立されていなかった。強いてあげれば、光子寿命τpを短くするためには、とにかく実効共振器長を短くすればよいとの考えから、レーザ自体の素子長と、レーザの前端面とファイバグレーチングの等価的な反射面との間の距離との双方を極力短くすればよいという、非常に定性的な考えがあるのみであった。しかし、レーザの素子長は、レーザしきい値や最大出力パワーなどに従って最適化することが好ましく、このようにレーザの素子長を短く制限しなければならないということは、光モジュールの設計の自由度を損ねるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑み、従来のグレーチングファイバ付き光モジュールを改良し、もって、レーザの素子長の選択における自由度を高めつつ光子寿命の増大を出来るだけ小さく抑えることにより、高速作動及び単一モード発振が可能な光モジュールを簡素な工程で製作する手法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る光モジュールの設計方法は、前端面及び後端面を有しレーザ共振によって発光する発光素子と、該発光素子の前端面に光学的に結合される入射端面を有すると共に、所定の波長を選択的に前記発光素子に反射するグレーチング部を有する光導波路とを備える光モジュールの設計方法において、
前記発光素子の屈折率及び損失係数を夫々n1及びα1、前記前端面から前記入射端面までの距離及び屈折率を夫々L2及びn2、前記入射端面からグレーチング部の等価的反射面までの距離及び屈折率を夫々L3及びn3、前記発光素子の後端面及び前記グレーチング部の反射率を夫々R1及びR3としたとき、
外部共振器長(n2L2+n3L3)を、(n1/2α1)・ln(1/R1R3)に等しくすることを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明における発光素子に特に限定はないが、好適にはファブリ・ペロー型の多重モード発振の半導体レーザ素子として構成される。また、光導波路にも特に限定はないが、好適には光ファイバとして構成される。グレーチング部は、光導波路の光入射端面の近傍に、一般には光反射率が周期的に異なる部分として形成され、発光素子から入射される特定の波長成分を発光素子側に反射し、発光素子との間で実効的な共振器を形成する。
【0012】
本発明に係る光モジュールの設計方法では、上記構成を採用したことにより、発光素子の素子長の選択の自由度を高めながらも、光子寿命τpの増大を低く抑えることができ、これによって、変調帯域及び緩和振動周波数を大きく維持し、光源としての光レーザモジュールの性能を高く維持することが出来る。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明の構成を説明するために示す、本発明の一実施形態例の設計方法が対象とする光モジュールの模式的平面図である。光モジュールは、多重モードで発振するファブリ・ペロー型の半導体レーザから成る発光素子10と、グレーチング部21を有する光導波路20(グレーチングファイバ)とから成る。ここで、この光モジュールにおいて、発光素子10の素子長、屈折率及び損失係数を夫々L1、n1及びα1、発光素子10の前端面11から光導波路10の光入射端面23までの距離、屈折率及び損失係数を夫々L2、n2及びα2、光導波路20の光入射端面23からグレーチング部21の等価的反射面22との間の距離、屈折率及び損失係数を夫々L3、n3及びα3、発光素子10の後端面12及びグレーチング部21の反射率を夫々R1及びR3とする。
【0014】
本実施形態例の光モジュールでは、発光素子10の光出射面を成す前端面11から、光導波路20のグレーチング部21の等価的反射面22までの光学長(外部共振器長:n2L2+n3L3)を、(n1/2α1)・ln(1/R1R3)にほぼ等しくしている。又は、これに代えて、外部共振器長(n2L2+n3L3)を(n1/2α)・1ln(1/R1R3)より短くすると共に、発光素子の素子長L1を300μmより短くする構成を採用することも出来る。
【0015】
図2は、一般的に、外部共振器長(n2L2+n3L3)によって光子寿命τpが変化することを、素子長L1(L1=0.2、0.4、0.6、0.8μm)をパラメータとして計算した結果で示すグラフである。同図によると、外部共振器長が大きくなると、それに従って光子寿命が長くなることが示されている。また、素子長L1が大きくなると、外部共振器長の大きな範囲ではそれに従って光子寿命が短くなり、且つ、外部共振器長が小さな範囲ではそれに従って光子寿命が長くなることが示されている。
【0016】
ここで、外部共振器長がある特定の値"a"をとるときには、光子寿命τpは、LD素子長L1によらずほぼ一定の値となる。つまり、外部共振器長をこの値"a"に設定することによって、光子寿命τpの値は、LDの素子長L1に依存しなくなるので、LDの素子長を自由に設定することが出来る。つまり、LDの素子長L1は、光子寿命τpの増大を気にすることなく、しきい値や最大出力パワーなどに着目して自由に最適化できる。
【0017】
外部共振器長(n2L2+n3L3)に設定すべき値"a"は以下のように導出される。まず、モジュールの光子寿命τpは、
【数1】
と表わすことが出来る。通常は、α2≒0であり、またα3<<α1であることから、α2及びα3を無視すると、上式は
【数2】
となる。これを変形すると、
【数3】
となる。ここで外部共振器長(n2L2+n3L3)が、
【数4】
であれば、τpはL1によらない一定値n1/(cα1)となることが判る。
【0018】
ここで、典型的な値として、n1=3.5、α1=10cm-1、R1=0.9、R3=0.1と設定すると、外部共振器長(n2L2+n3L3)は、4.2mmとなる。例えば本願発明の先願である特願平8−15167号に示したように、先端をレンズ状に加工したグレーチングファイバーを用いることによって、LDとファイバとの距離を非常に小さくすることができる。この場合、LD素子の前端面からグレーチングファイバの光入射端面までの距離をL2=0とし、ファイバの屈折率をn3=1.5とすれば、光ファイバの光入射端面からグレーチング部の等価的反射面までの距離はL3=2.8mmとなり、十分に実現可能な数値であることが判る。
【0019】
上記構成に代えて、光ファイバの光入射端面からグレーチング部の等価的反射面までの長さをL3=2.8mmより短くし、且つ、LD素子長L1を300μmより短くする構成を採用することも出来る。この構成によると、図2からも理解できるように、この領域では光子寿命は非常に短くなる。その結果、緩和振動周波数frは極めて大きくなり、より大きな帯域の信号の発信源として用いることが可能になる。
【0020】
図3は、図2に示したグラフを再掲し、このグラフ内に上記実施形態例について、本発明で規定される各パラメータの範囲を例示したものである。つまり、本発明で規定される外部共振器長(n2L2+n3L3)は、同図の"a"点にあり、又は、同図の"a"点以下の数値範囲であって且つLDの素子長L1が300μmよりも小さい範囲(b)として示される。従来のグレーチングファイバ付き光モジュールでは、外部共振器長は、"a"点よりも大きな数値である、同図の(c)の範囲として示される。
【0021】
【実施例】
第1実施例:
図4(a)は、本発明の第1実施例として試作した光モジュールを示す模式的側面図で、同図(b)はその光ファイバ先端部分の詳細を示したものである。これらの図は、LDチップ10の光出射側端面を成す前端面にグレーチングファイバ20の光入射端面を光学的に結合した状態で示している。試作したLDチップ10は、通常のいわゆるファブリペロー型の発光素子であり、素子単体では1.55μm付近の波長で多重モード発振する。LDの素子長が600μmとなる位置でへき開し、後端面12にはその反射率が約90%となるような高反射コーティングを、また前端面11にはその反射率が約1%以下となるような低反射コーティングを夫々施した。
【0022】
グレーチングファイバ20には、その光入射端面23がレンズ状に加工されたものを用いた。LDの前端面11と光ファイバ20の光入射端面23との距離は約5μmであり、小さいため殆ど無視できる。光ファイバ20のグレーチング21は、反射の中心波長が1.55μm、この波長における光反射率が約10%、半値幅が0.1nmのものとした。光入射端面23からグレーチング部21の等価的反射面22までの距離は約2.8mm、グレーチング部21の長さは5.6mmとした。これらの構成を採用することにより、外部共振器長(n2L2+n3L3)が、(n1/2α1)・ln(1/R1R3)にほぼ等しくなるように設定される。
【0023】
上記構成の光モジュールにおける発振波長を調べたところ、グレーチング反射の中心波長に対応する1.55μmで単一モード発振することが確認された。光ファイバからの出力パワーが20mWのときの緩和振動周波数を測定したところ、良好な4.7GHzを示した。
【0024】
上記光モジュールから、他のパラメータを一定に保ったまま、LD素子長L1のみを300μm、900μm、1200μmに夫々変えた同様の光モジュールを試作した。これらの光モジュールの特性を測定したところ、全てのモジュールが、グレーチング反射の中心波長に対応する1.55μmで単一モード発信しており、しかも光ファイバからの出力パワーが20mWのときの緩和振動周波数は、何れも4.7GHzであった。外部共振器長を前記のように設定することにより、光子寿命τpがLD素子長L1に影響されないモジュールを作製できることが確認された。
【0025】
第2実施例:
第2の実施例として、外部共振器長(n2L2+n3L3)が、(n1/2α1)・ln(1/R1R3)よりも短い光モジュールを作製した。つまり、グレーチング部は、第1の実施例と同様に、その反射の中心波長を1.55μm、半値幅を0.1nmとした。図4において、光ファイバ20の光入射端面23からグレーチング部21の等価的反射面22までの距離を2mm、グレーチング部の長さを4mmとして、第1の実施例よりも短く設定した。これにより、中心波長における反射率は、第1の実施例よりもグレーチング部21が短い分だけ小さくなり、約8%に低下した。LDの素子長L1が250μmとなるようにへき開し、後端面12には、その反射率が約90%となるような高反射コーティングを、また、前端面11には、その反射率が約1%以下となるような低反射コーティングを夫々施した。
【0026】
第2の実施例のモジュールについて、その発振波長を調べたところ、グレーチング反射の中心波長に対応する1.55μmで単一モード発信することが確認された。光ファイバからの出力パワーが20mWのときの緩和振動周波数を測定したところ、5.5GHzであった。このように、LDの素子長L1を300μm以下に設定することにより、第一の実施例よりも更に緩和振動周波数が高い光モジュールを得ることが出来た。
【0027】
第2の実施例の変形例として、LDの素子長L1を50μmに変えた光モジュールを試作した。第2の実施例と同様に、グレーチング反射の中心波長を1.55μm、半値幅を0.1nm、光ファイバの光入射端面からグレーチング部の等価的反射面までの距離を約2mm、グレーチング部の長さを4mmとした。また、LDの後端面には、その反射率が約90%となるような高反射コーティングを、また、前端面には、その反射率が約1%以下となるような低反射コーティングを上記実施例と同様に夫々施した。
【0028】
LDの素子長L1を50μmとするようなへき開は困難であったので、後端面は、RIBE(反応性イオンビームエッチング)装置を用いてドライエッチングすることにより形成した。この光モジュールでは、光ファイバからの出力パワーが20mWのときの緩和振動周波数は7.9GHzであり、従って、本実施例によっても、緩和振動周波数が極めて高く、しかも単一モード発振する良好な光モジュールが得られた。
【0029】
以上、本発明をその好適な実施形態例に基づいて説明したが、本発明に係る光モジュールの設計方法は、上記実施形態例の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態例の構成から種々の修正及び変更を施した光モジュールの設計方法も、本発明の範囲に含まれる。
【0030】
【発明の効果】
本発明に係る光モジュールの設計方法によると、発光素子とグレーチング部を有する光導波路とを光結合した光モジュールにおいて、発光素子の素子長の選択の自由度を高めながらも、共振器における光子寿命の増大を低く抑えることにより、本発明は、単一モード発振で発振する、高速作動が可能な光モジュールを用途に合わせて作製する手法を提供した顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の設計方法が対象とする光モジュールの構成を説明するための光モジュールの平面図。
【図2】 LD素子長をパラメータとして、外部共振器長と光子寿命との関係を示すグラフ。
【図3】 図2のグラフにおいて本発明の範囲を示すグラフ。
【図4】 本発明の一実施例の設計方法で得られる光モジュールの構成を示す模式的側面図。
【図5】 (a)及び(b)は夫々、従来の半導体レーザモジュール及びレーザ外部にグレーチングファイバを有するモジュールの構成を示す模式的平面図。
【符号の説明】
10 ファブリ・ペロー型半導体レーザ
11 前端面
12 後端面
20 グレーチングファイバ
21 グレーチング部
22 グレーチングの等価的反射面
23 光入射端面
30 DFBレーザ
40 光ファイバ
Claims (1)
- 前端面及び後端面を有しレーザ共振によって発光する発光素子と、該発光素子の前端面に光学的に結合される入射端面を有すると共に、所定の波長を選択的に前記発光素子に反射するグレーチング部を有する光導波路とを備える光モジュールの設計方法において、
前記発光素子の屈折率及び損失係数を夫々n1及びα1、前記前端面から前記入射端面までの距離及び屈折率を夫々L2及びn2、前記入射端面からグレーチング部の等価的反射面までの距離及び屈折率を夫々L3及びn3、前記発光素子の後端面及び前記グレーチング部の反射率を夫々R1及びR3としたとき、
外部共振器長(n2L2+n3L3)を、(n1/2α1)・ln(1/R1R3)に等しくすることを特徴とする光モジュールの設計方法。
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