JP3932876B2 - 車両用交流発電機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乗用車やトラック等に搭載される車両用交流発電機に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、車両用交流発電機の出力端子に接続されている電力ケーブルが外れたり、接触不良になると、サージ電圧が発生して、車載機器や発電機内部の半導体部品にダメージを与えるおそれがある。
【0003】
このサージ電圧の発生メカニズムは、電力ケーブルが外れたり瞬間的に遮断状態になることで電流の供給先が断たれ、発電機の出力端子にいわゆる無負荷飽和電圧が現れることに起因する。この無負荷飽和電圧の発生は、発電機の界磁極を励磁する界磁電流が流れ続ける限り継続する。
【0004】
車両用交流発電機は、車両走行用の内燃機関により駆動されるため、使用回転数範囲が極めて広く、その範囲内において車載機器やバッテリに対して安定的に出力電圧を供給する必要があり、車両のアイドリング回転数以下において定格電圧を発生する設計がなされている。例えば、車両のアイドリング回転数が600rpm、増速比が2.5に設定されている車両では、このアイドリング回転時での車両用交流発電機の回転数が1500rpmになるが、車両用交流発電機は、この回転数において定格電圧14Vで数十Aの出力電流を得ることができるように設計されている。このために、車両用交流発電機の発電開始回転数、すなわち定格電圧確立回転数は約1000rpmに設計されている。
【0005】
一般に、車両用交流発電機は、同期発電機の一種であるため、電機子に誘起する電圧は界磁極の回転速度に比例して増大する。約1000rpmで定格電圧14Vを発生する車両用交流発電機では、最高使用回転数である約20000rpmにおいて電機子に誘起する電圧は280Vに到達し、電力ケーブルが外れた際にはこの高電圧が無負荷飽和電圧として出力端子に現れる。
【0006】
近年の車両用交流発電機においては、このような高電圧を発電機外部に出力しないように、全波整流器の整流素子を逆降伏特性を有するツェナーダイオードで構成する手法が採用されている。しかしながら、ツェナーダイオードで構成した全波整流器を用いた車両用交流発電機でサージ電圧が発生すると、このエネルギーは外部に放出されない代わりに、ツェナーダイオードの逆方向消費電力として熱エネルギーに変換されるため、ツェナーダイオードに大きな熱的ダメージを与えることになる。
【0007】
従来の電圧制御装置は、発電機の出力電圧を検出しており、この検出した出力電圧が基準値を超えると界磁電流の供給を停止して界磁束を弱め、反対に検出した出力電圧が基準値を下回ると界磁電流の供給が許可されて界磁束を増強することで、出力電圧を所定範囲内に収束させる制御を実施している。したがって、不慮の事故等によって電力ケーブルが車両用交流発電機の出力端子から外れて、この出力端子に無負荷飽和電圧が現れると、直ちに界磁電流の供給が停止され、界磁束が減少するようになっている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、界磁電流の供給を停止しても、界磁巻線にはインダクタンス成分が存在し、界磁電流の遮断時にこのインダクタンス成分によって過大な高電圧(磁気エネルギーの急激な放出)が発生するため、電圧制御装置が破損するおそれがある。このため、図9に示すような環流ダイオードが従来から使用されている。界磁電流は、この環流ダイオードによって、供給停止時に瞬間的に減衰するのではなく、界磁巻線と環流ダイオードで形成される閉回路を環流しながら、界磁巻線の抵抗成分によって熱エネルギーに変換して減衰させている。
【0009】
このときの電流は、定量的に表すと、次の方程式の解として得られる。
ここで、Lは界磁巻線のインダクタンス、Rは界磁巻線の抵抗値、Vdは環流ダイオードの順方向電圧降下、I0は界磁供給停止直前の界磁電流値、Vqは界磁電流の断続制御を行うパワートランジスタの閉成時の電圧降下である。
【0010】
界磁供給停止後の界磁電流の挙動は、図2の点線bのようになり、時定数τ=L/R、最終到達値Ifinal=−Vd/Rで指数関数的に減衰する。しかし、環流ダイオードは、逆方向に導通できないため、電流値I(t)=0となった時点で通電は停止する。つまり、パワートランジスタを開成して界磁供給を停止しても、(3)式でIf=0となる時間(=−(L/R)・ln(Vd/(Vd+R・I0)))に対応する期間は、界磁電流が流れ続け、過電圧を発生し続けることになる。
【0011】
特に、最近の小型高出力化された車両用交流発電機においては、界磁巻線の抵抗が小さくインダクタンスが大きくなる傾向にあるため、過電圧継続時間がその分だけ長くなる。
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、短時間に界磁電流を減衰させることができる車両用交流発電機を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、本発明の車両用交流発電機は、複数の界磁極を備えた回転子と、界磁極を磁化させる第1の界磁巻線と、第1の界磁巻線の時定数よりも短い時定数を有し、界磁極を磁化させる第2の界磁巻線と、回転子により発生する回転磁界によって交流電圧を誘起する電機子と、電機子の交流出力を直流に変換する整流器と、第1および第2の界磁巻線に通電する界磁電流を調整することにより出力電圧を制御する制御装置と、第1および第2の界磁巻線と並列に接続されており、制御装置の制御によって界磁電流の供給が遮断されたときに、界磁電流を環流させる環流回路とを備えている。電力ケーブルの切断等によって過大な出力電圧が発生して界磁電流の供給が停止されたときに、短い時定数を有する第2の界磁巻線に流れる界磁電流は短期間に減衰して逆起電圧が0になる。このため、それ以後は第1の界磁巻線に流れる界磁電流が環流回路と第2の界磁巻線を通して流れることになり、第2の界磁巻線には逆極性の電流が流れることになる。これにより、電機子への鎖交磁束が急速に減衰するため、車両用交流発電機の過電圧状態を早期に解消することが可能になる。
【0013】
また、上述した環流回路が1つのダイオードで構成された第1の回路と界磁電流の減衰を促進する素子を備えた第2の回路とを有する場合に、これら第1および第2の回路を切り替える切替手段をさらに備えるとともに、制御装置によって、整流器の出力電圧が基準値を超えたときに切替手段を切り替えて第2の回路を選択し、超えないときに第1の回路を選択することが望ましい。これにより、出力電圧が基準値を超えたときに第2の回路に切り替えることで、界磁電流の減衰を促進することが可能になり、過電圧の継続時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
また、上述した第2の回路は、複数のダイオードを直列に接続することにより構成することが望ましい。環流回路として使用されるダイオードの個数を増やすことにより、界磁電流の供給を停止した後にこの環流回路に流れる界磁電流の最終到達値を引き下げることが可能であり、界磁電流が消失するまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0015】
また、整流器に含まれる整流素子がツェナーダイオードである場合に、上述した制御装置は、ツェナーダイオードの逆方向降伏電圧より小さな基準値を超えたときに、第2の回路を選択することが望ましい。ツェナーダイオードを用いて整流器を構成することにより、ツェナー電圧以上の高電圧が発生したときにツェナーダイオードが逆降伏して電流が流れることでサージ発生を抑制することができる。また、第2の回路に切り替える基準値をこのツェナー電圧以下とすることにより、ツェナー電圧を超えるような高電圧発生時において界磁電流を速やかに減衰させて出力電圧を下げることが可能になり、ツェナーダイオードに与えるダメージを最小限に抑えることができる。
【0016】
また、上述した制御装置は、第1の回路から第2の回路への切り替えを、第1および第2の界磁巻線を含む閉回路を形成した状態で行うことが望ましい。これにより、環流回路を切り替える際の瞬間的な回路遮断を防止することができ、界磁電流が瞬断されることで発生するサージ電圧を防ぐことができるため、過剰な保護回路等が不要になる。
【0017】
また、上述した第1および第2の界磁巻線は、同軸配置されていることが望ましい。第2の界磁巻線は、時定数が短いため、小インダクタンス(巻回数少)、大抵抗(線径小)とすることができる。このため、従来の界磁回路をそのまま利用することが可能になり、従来から用いられている界磁巻線を第1の界磁巻線として巻装した空きスペースに、第2の界磁巻線を追加して巻装することが可能になり、設計変更が最小限で済むとともに、体格の大型化を抑えることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した一実施形態の車両用交流発電機について、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第1の実施形態〕
図1は、第1の実施形態の車両用交流発電機の構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の車両用交流発電機1は、電機子巻線2、整流器3、界磁巻線4、5および電圧制御装置6を含んで構成されている。
【0019】
電機子巻線2は、多相巻線(例えば三相巻線)であって、電機子鉄心に巻装されて電機子を構成している。電機子巻線2に誘起される交流出力が整流器3に供給される。
整流器3は、電機子巻線2の交流出力を直流出力に整流する全波整流回路であり、電機子巻線2の各相に対応する整流素子としてダイオードが用いられている。
【0020】
一方の界磁巻線4は、電機子巻線2に電圧を誘起させるために必要な鎖交磁束を発生する。この界磁巻線4は、界磁極(図示せず)に巻装されて回転子を構成している。また、他方の界磁巻線5は、界磁巻線4の時定数よりも短い時定数を有し、界磁巻線4に対して同軸配置されて界磁極に巻装されている。
【0021】
電圧制御装置6は、界磁巻線4、5に通電する界磁電流を調整することにより、車両用交流発電機1の出力電圧を所定範囲内に制御する。このために、電圧制御装置6は、パワートランジスタ61、環流ダイオード62、LPF(ローパスフィルタ)63、電圧比較器64を含んで構成されている。
【0022】
パワートランジスタ61は、界磁巻線4、5に直列に接続されて界磁電流を断続する。環流ダイオード62は、界磁巻線4、5に並列に接続され、パワートランジスタ61が開成したときに界磁電流を環流させる。この環流ダイオード62によって環流回路が構成されている。LPF63は、車両用交流発電機1の出力電圧の高周波成分を除去するためのものであり、例えば周知の抵抗とコンデンサによるCR回路で構成されている。電圧比較器64は、LPF63の出力電圧Vs を所定の基準値Vreg1と比較する。この基準値Vreg1は、車両用交流発電機1の出力電圧を制御するためのものであり、例えば14.5Vに設定されている。
【0023】
本実施形態の車両用交流発電機1はこのような構成を有しており、次にその動作を説明する。
電力ケーブルが確実に接続されており、接触不良も生じていない正常状態においては、電圧制御装置6内の電圧比較器64によって、車両用交流発電機1の出力電圧と所定の基準値Vreg1とが比較される。そして、出力電圧の方が基準値Vreg1よりも高い場合にはパワートランジスタ61が開成されて界磁巻線4、5に流れる界磁電流が減少するため、出力電圧が低くなる。反対に、出力電圧の方が基準値Vreg1よりも低い場合にはパワートランジスタ61が閉成されて界磁巻線4、5に流れる界磁電流が増加するため、出力電圧が高くなる。このように、正常状態においては、車両用交流発電機1の出力電圧が基準値Vreg1に収束するように制御される。
【0024】
一方、何らかの事故により電力ケーブルが車両用交流発電機1の出力端子Bから外れたり、電力ケーブルと出力端子Bとの間で接触不良が発生すると(以後、この状態を「異常状態」と称する)、車両用交流発電機1が無負荷状態で発電動作を行うことになるため、出力端子Bに高電圧が発生する。当然ながら、このときの出力電圧は基準値Vreg1よりも高いため、パワートランジスタ61は連続的に開成状態になって、パワートランジスタ61から界磁巻線4、5に対する界磁電流の供給が停止される。
【0025】
図2は、異常状態における鎖交磁束数と界磁電流の変化を示す図である。図2において、「a」は本実施形態の車両用交流発電機1の電機子の鎖交磁束数を、「b」は従来の車両用交流発電機の電機子の鎖交磁束数を、「If1」は、界磁巻線4の界磁電流を、「If2」は界磁巻線5の界磁電流をそれぞれ示している。また、図3および図4は異常状態における界磁電流の通電経路の説明図である。
【0026】
異常状態になってパワートランジスタ61が連続的に開成されると、その直後の時刻t0からt1までは、2つの界磁巻線4、5に流れる界磁電流がともに指数関数的に減衰する(図2、図3)。特に、界磁巻線5は時定数が短く設定されているので、この界磁巻線5に流れる界磁電流は短期間に減衰する。
【0027】
界磁巻線4に流れる界磁電流をIf1、界磁巻線5に流れる界磁電流をIf2とすると、時刻t0からt1までの間におけるこれらの値は以下のようになる。
ここで、L1は界磁巻線4のインダクタンス、L2は界磁巻線5のインダクタンス、R1は界磁巻線4の抵抗値、R2は界磁巻線5の抵抗値、Vdは環流ダイオード62の順方向電圧降下、I01は界磁電流供給停止直前に界磁巻線4に流れていた界磁電流値、I02は界磁電流供給停止直前に界磁巻線5に流れていた界磁電流値である。
【0028】
時刻t1に達すると、界磁巻線5を流れる界磁電流が0になり、この界磁巻線5の逆起電圧が消失するので、逆方向に電流が流れ始める(図4)。この電流の供給元は一方の界磁巻線4であり、時刻t1以降は、界磁巻線5が界磁巻線4の環流回路として作用する。つまり、一方の界磁巻線4に流れる界磁電流によって発生する界磁束を相殺する向きの起磁力が、他方の界磁巻線5に流れる界磁電流によって発生し、時刻t1からt2の期間に、電機子巻線2に対する総鎖交磁束数は急激に減衰する。この間に、界磁巻線5に発生する逆起電圧は、環流ダイオード62が併設されていることにより、この環流ダイオード62の順方向電圧Vdに固定される。したがって、この間に界磁巻線5に流れる逆方向電流は、Vd/R2で表すことができる。
【0029】
このように、時刻t1からt2までの間において界磁巻線5に流れる界磁電流If2は、
If2=−Vd/R2 …(6)
となる。なお、時刻t1からt2までの間において界磁巻線4に流れる界磁電流If1は、上述した(4)式がそのまま適用される。
【0030】
ところで、電機子巻線2に対する鎖交磁束数λは、界磁巻線4、5のそれぞれの界磁電流If1、If2を用いると以下のように表すことができる。
λ=k1・If1+k2・If2 … (7)
この(7)式からも、(6)式で表される界磁電流が界磁巻線5に流れることにより、界磁巻線4に流れる界磁電流によって発生する磁束が、界磁巻線5に流れる界磁電流によって発生する磁束によって相殺されて、電機子巻線2に鎖交する磁束が急激に減衰することがわかる。
【0031】
さらに、時刻t2に達すると、もはや環流ダイオード62を導通させるだけの逆起電圧が界磁巻線4には生じ得ないため、界磁電流は、他方の界磁巻線5のみで環流して直ちに消滅する。時刻t2以降において界磁巻線4、5に流れる界磁電流If1、If2は、
となる。ここで、It2は時刻t2において界磁巻線4、5に流れていた界磁電流値である。
【0032】
このように、本実施形態の車両用交流発電機1では、電力ケーブルの切断等によって過大な出力電圧が発生して、界磁巻線4、5に対する界磁電流の供給が停止されたときに、短い時定数を有する界磁巻線5に流れる界磁電流は短期間に減衰して逆起電圧が0になる。このため、それ以後は界磁巻線4に流れる界磁電流が環流ダイオード62と界磁巻線5を通して流れることになり、界磁巻線4の発生磁束を打ち消す極性の電流を界磁巻線5に流すことが可能になる。これにより、電機子への鎖交磁束が急速に減衰するため、車両用交流発電機1の過電圧状態を早期に解消することが可能になる。
【0033】
また、本実施形態の車両用交流発電機1では、界磁巻線5は時定数が短いため、小インダクタンス(巻回数少)、大抵抗(線径小)とすることができる。このため、従来の界磁回路をそのまま利用することが可能になり、従来から用いられている界磁巻線4を巻装した空きスペースに、界磁巻線5を追加して巻装することが可能になり、設計変更が最小限で済むとともに、体格の大型化を抑えることができる。
【0034】
〔第2の実施形態〕
図5は、第2の実施形態の車両用交流発電機の構成を示す図である。図5に示すように、本実施形態の車両用交流発電機1Aは、電機子巻線2、整流器3、界磁巻線4、5および電圧制御装置6Aを含んで構成されている。この車両用交流発電機1Aは、図1に示した車両用交流発電機1に対して、電圧制御装置6を電圧制御装置6Aに置き換えた点が異なっており、それ以外の構成については基本的に共通する。
【0035】
電圧制御装置6Aは、パワートランジスタ61、環流ダイオード62、LPF63、電圧比較器64、65、環流回路66、スイッチ67、68を含んで構成されている。図1に示した電圧制御装置6と共通する構成については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0036】
電圧比較器65は、LPF63の出力電圧Vs を所定の基準値Vreg2と比較する。この基準値Vreg2は、パワートランジスタ61の断続状態を制御する電圧比較器64で用いられている基準値Vreg1よりも大きな値に設定されている。例えば、基準値Vreg1が14.5Vのときに、この基準値Vreg2は20Vに設定されている。
【0037】
環流回路66は、界磁電流の減衰を促進する素子であり、具体的には多段接続されたダイオードによって構成されている。スイッチ67、68は、電圧比較器65の出力に基づいて、第1の回路としての環流ダイオード62と第2の回路としての環流回路66とを選択的に切り替える切替手段である。具体的には、電圧比較器65の出力がローレベルのとき、すなわちLPF63の出力電圧が基準値Vreg2を超えない正常状態においては、環流ダイオード62に直列に接続されたスイッチ67のみが閉成されて環流ダイオード62が選択される。一方、電圧比較器65の出力がハイレベルのとき、すなわちLPF63の出力電圧が基準値Vreg2を超えるような異常状態においては、環流回路66に直列に接続されたスイッチ68のみが閉成されて環流回路66が選択される。
【0038】
本実施形態の車両用交流発電機1Aはこのような構成を有しており、次にその動作を説明する。
電力ケーブルが確実に接続されており、接触不良も生じていない正常状態においては、電圧比較器65の出力がローレベルを維持するため、スイッチ67が閉成されて環流ダイオード62が選択される。したがって、電圧制御装置6Aの動作は、図1に示した電圧制御装置6の動作と同じになり、車両用交流発電機1Aの出力電圧が基準値Vreg1に収束するように制御される。
【0039】
一方、何らかの事故により電力ケーブルが車両用交流発電機1Aの出力端子Bから外れたり、電力ケーブルと出力端子Bとの間で接触不良が発生して異常状態になると、車両用交流発電機1Aが無負荷状態で発電動作を行うことになるため、出力端子Bに高電圧が発生する。この高電圧が基準値Vreg1よりも高くなると、パワートランジスタ61が連続的に開成状態になって、パワートランジスタ61から界磁巻線4、5に対する界磁電流の供給が停止される。
【0040】
図6は、異常状態における鎖交磁束と界磁電流の変化を示す図である。図6において、「a」は本実施形態の車両用交流発電機1Aの電機子の鎖交磁束数を、「b」は従来の車両用交流発電機の電機子の鎖交磁束数をそれぞれ示している。異常状態になって車両用交流発電機1Aの出力電圧が基準値Vreg2を超えると電圧比較器65の出力がローレベルからハイレベルに変化する。電圧比較器65の出力がハイレベルになると、スイッチ68が閉成されるとともにスイッチ67が開成されて、環流ダイオード62から環流回路66に接続が切り替わる。
【0041】
ところで、本実施形態の環流回路66は、ダイオードを多段接続することにより構成されているため、一つの環流ダイオード62を用いた場合に比べて、順方向電圧をn倍(nは多段接続されたダイオード数)にすることができる。このため、界磁電流の最終到達値を大幅に引き下げることができ、界磁電流の減衰促進による高電圧状態の早期解消が可能になる。なお、環流回路66を構成するダイオードの直列段数が増えるほど環流回路66の両端電圧が大きくなるが、界磁巻線4を流れる界磁電流の減衰に起因して界磁巻線4の逆起電圧も減衰する。このとき、界磁巻線5を流れる逆極性の界磁電流による逆起電圧と界磁巻線4に発生する逆起電圧が同じ大きさになると(時刻t4)、この逆起電圧がダイオードの順方向電圧降下分(n・Vd)に到達していなくても、界磁巻線5に流れる界磁電流は一転して減衰に転じる。すなわち、時刻t3からt4までの期間に劇的に鎖交磁束数を減衰させる働きをする。
【0042】
界磁巻線4に流れる界磁電流をIf1’、界磁巻線5に流れる界磁電流をIf2’とすると、異常が発生した時刻t0から界磁巻線5に流れる界磁電流If2’が0になる時刻t3までのこれらの界磁電流の値は以下のようになる。
時刻t3に達すると、界磁巻線5を流れる界磁電流が0になり、この界磁巻線5の逆起電圧が消失するので、逆方向に電流が流れ始める。この電流の供給元は一方の界磁巻線4であり、時刻t3以降は、界磁巻線5が界磁巻線4の環流回路として作用する。つまり、一方の界磁巻線4に流れる界磁電流によって発生する界磁束を相殺する向きの起磁力が、他方の界磁巻線5に流れる界磁電流によって発生し、時刻t3からt4の期間に、電機子巻線2に対する総鎖交磁束数は急激に減衰する。この間に、界磁巻線5に発生する逆起電圧は、環流回路66が併設されていることにより、この環流回路66全体の順方向電圧n・Vdに達するまで増加する。したがって、この間に界磁巻線5に流れる逆方向電流の最終到達値は、n・Vd/R2で表すことができる。
【0043】
具体的には、時刻t3からt4までの間において界磁巻線5に流れる界磁電流If2’は、
となる。なお、時刻t3からt4までの間において界磁巻線4に流れる界磁電流If1’は、上述した(9)式がそのまま適用される。
【0044】
電機子巻線2に対する鎖交磁束数λは、界磁巻線4、5のそれぞれの界磁電流If1’、If2’を用いると以下のように表すことができる。
λ=k1・If1’+k2・If2’ … (12)この(12)式からも、(11)式で表される界磁電流が界磁巻線5に流れることにより、界磁巻線4に流れる界磁電流によって発生する磁束を、界磁巻線5に流れる界磁電流によって発生する磁束によって相殺して、電機子巻線2に鎖交する磁束を急激に減衰させることがわかる。特に、第1の実施形態の場合と異なり、時刻t3〜t4における界磁巻線5の電流値If2’が大きくなるため、この界磁電流に基づく鎖交磁束の相殺分(k2・If2’)を多くすることができる。
【0045】
さらに、時刻t4に達すると、もはや環流回路66を導通させるだけの逆起電圧が界磁巻線4には生じ得ないため、界磁電流は、他方の界磁巻線5のみで環流して直ちに消滅する。時刻t4以降において界磁巻線4、5に流れる界磁電流If1’、If2’は、
となる。ここで、It4は時刻t4において界磁巻線4、5に流れていた界磁電流値である。
【0046】
このように、本実施形態の車両用交流発電機1Aでは、環流回路66として使用するダイオードの個数を増やすことにより、界磁電流の供給を停止した後にこの環流回路66に流れる界磁電流の最終到達値を引き下げることが可能であり、界磁電流が消失するまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0047】
また、本実施形態の車両用交流発電機1Aでは、スイッチ67、68を用いて環流ダイオード62と環流回路66を切り替えているため、電力ケーブルの外れ等が生じていない系統正常時における電圧制御の安定性を保ちながら、電力ケーブルの外れ等が生じた系統異常時における過電圧継続時間の短縮を実現することができる。すなわち、出力電圧の安定性という観点からは、環流回路の時定数は長い方が好ましいため、系統正常時には環流ダイオード62を用いて界磁電流を環流させている。また、系統異常時には界磁電流およびこれに起因して発生する鎖交磁束の減衰を早めるために、環流回路の時定数は短い方が好ましいため、ダイオードが多段接続された環流回路66を用いて界磁電流を環流させている。
【0048】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した各実施形態では、整流器3に含まれる各整流素子をダイオードで構成したが、各整流素子をツェナーダイオードで構成するようにしてもよい。これにより、異常発生時における出力電圧の上昇をツェナーダイオードの逆方向降伏電圧(ツェナー電圧)以下に抑えることができ、電圧制御装置6、6A内の各種制御回路(図示せず)等に与えるダメージを減らすことができる。
【0049】
また、上述した第2の実施形態の車両用交流発電機1Aに含まれる整流器3をツェナーダイオードを用いて構成した場合に、電圧比較器65の基準値Vreg2をツェナー電圧以下に設定することが望ましい。例えば、ツェナー電圧Vzが20Vの場合に、基準値Vreg2が18Vに設定される。これにより、異常発生時に車両用交流発電機1Aの出力電圧がツェナー電圧を超えるときには、既に環流ダイオード62から環流回路66に切り替わっているため、整流器3を構成するツェナーダイオードでの発熱を最小限に抑えることができる。
【0050】
また、上述した第2の実施形態の車両用交流発電機1Aでは、環流ダイオード62から環流回路66に切り替える際に、それぞれに直列に接続されたスイッチ67、68を同時に切り替えたが、この切り替えにおいては、界磁巻線4、5を含む閉回路を一時的に形成した状態で行うことが望ましい。
【0051】
例えば、電圧制御装置6A内のパワートランジスタ61を短時間閉成した状態で、スイッチ67、68を切り替えるようにする。これにより、環流回路を切り替える際の瞬間的な回路遮断を防止することができ、界磁電流が瞬断されることで発生するサージ電圧を防ぐことができるため、過剰な保護回路等が不要になる。
【0052】
また、上述した第2の実施形態では、複数のダイオードを直列接続して環流回路を形成したが、図7に示すように、1つのノーマルダイオード75とツェナーダイオード76を互いに逆方向に直列接続して環流回路を構成するようにしてもよい。このようにすることで半導体のチップサイズを小型化することができるメリットが生じる。
【0053】
図8は、電圧制御装置の変形例を示す図である。図8に示す電圧制御装置6Bは、図5に示した電圧制御装置6Aに対して、スイッチ68の断続状態を設定する電圧比較器69を追加した点が異なっている。この電圧比較器69は、LPF63の出力電圧Vs を所定の基準値Vreg3と比較する。この基準値Vreg3は、電圧比較器65で用いられている基準電圧Vreg2よりも若干小さな値に設定されている。例えば、基準値Vreg2が20Vのときに、この基準値Vreg3は19Vに設定されている。したがって、電力ケーブルが外れる等の異常状態が発生して、車両用交流発電機の出力電圧が高くなったときに、まず電圧比較器69の出力がハイレベルに変化し、その直後に電圧比較器65の出力がハイレベルに変化する。このため、一時的に2つのスイッチ67、68が同時に閉成され、その後僅かな時間差でスイッチ67が開成される。このようにして2つのスイッチ67、68の切り替えを行った場合にも、界磁巻線4、5を含む閉回路を一時的に形成することができる。これにより、瞬間的な回路遮断を防止することができ、界磁電流が瞬断されることで発生するサージ電圧を防ぐことができるため、過剰な保護回路等が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態の車両用交流発電機の構成を示す図である。
【図2】異常状態における鎖交磁束と界磁電流の変化を示す図である。
【図3】異常状態における界磁電流の通電経路の説明図である。
【図4】異常状態における界磁電流の通電経路の説明図である。
【図5】第2の実施形態の車両用交流発電機の構成を示す図である。
【図6】異常状態における鎖交磁束と界磁電流の変化を示す図である。
【図7】環流回路の変形例を示す図である。
【図8】電圧制御装置の変形例を示す図である。
【図9】従来の界磁電流の通電経路の説明図である。
【符号の説明】
1、1A 車両用交流発電機
2 電機子巻線
3 整流器
4、5 界磁巻線
6、6A、6B 電圧制御装置
61 パワートランジスタ
62 環流ダイオード
63 LPF(ローパスフィルタ)
64、65、69 電圧比較器
66 環流回路
67、68 スイッチ
Claims (6)
- 複数の界磁極を備えた回転子と、
前記界磁極を磁化させる第1の界磁巻線と、
前記第1の界磁巻線と並列に接続されており、前記第1の界磁巻線の時定数よりも短い時定数を有し、前記界磁極を磁化させる第2の界磁巻線と、
前記回転子により発生する回転磁界によって交流電圧を誘起する電機子と、
前記電機子の交流出力を直流に変換する整流器と、
前記第1および第2の界磁巻線に通電する界磁電流を調整することにより出力電圧を制御する制御装置と、
前記第1および第2の界磁巻線と並列に接続されており、前記制御装置の制御によって前記界磁電流の供給が遮断されたときに、前記界磁電流を環流させる環流回路と、
を備えることを特徴とする車両用交流発電機。 - 請求項1において、
前記環流回路は、1つのダイオードで構成された第1の回路と、前記界磁電流の減衰を促進する素子を備えた第2の回路を有し、
前記第1および第2の回路を切り替える切替手段をさらに備えており、
前記制御装置は、前記整流器の出力電圧が基準値を超えたときに前記切替手段を切り替えて前記第2の回路を選択し、超えないときに前記第1の回路を選択することを特徴とする車両用交流発電機。 - 請求項2において、
前記第2の回路は、複数のダイオードを直列に接続することにより構成されることを特徴とする車両用交流発電機。 - 請求項2または3において、
前記整流器に含まれる整流素子はツェナーダイオードであり、
前記制御装置は、前記ツェナーダイオードの逆方向降伏電圧より小さな前記基準値を超えたときに、前記第2の回路を選択することを特徴とする車両用交流発電機。 - 請求項2〜4のいずれかにおいて、
前記制御装置は、前記第1の回路から前記第2の回路への切り替えを、前記第1および第2の界磁巻線を含む閉回路を形成した状態で行うことを特徴とする車両用交流発電機。 - 請求項1において、
前記第1および第2の界磁巻線は、同軸配置されていることを特徴とする車両用交流発電機。
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