JP3932821B2 - 強度および靱性に優れる電縫鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラインパイプに使用される電縫鋼管およびその製造方法に係り、特に、肉厚が10mm以上の電縫鋼管においても、その溶接部および母材部の全体にわたりAPI規格における5L−X60グレード以上の高い強度を確保するとともに、高靱性である電縫鋼管およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パイプラインの高圧操業化に伴って、使用される鋼管には厚肉化および高強度化が進んでいるが、同時に、万一の破断事故発生時にも破断が短い長さで停止するように、高い靱性が求められている。
【0003】
一般に、鋼の強度を向上させると靱性が劣化する傾向があるが、強度および靱性を両立させる唯一の方法である金属組織の微細化に関して種々の知見が開示されてきた。熱間圧延時に金属組織を微細化するのに有力な方法は、未再結晶γ域での強圧下であり、これは、γ結晶粒内にフェライトまたはベイナイト等の変態生成物の核生成サイトを増加させる方法である。
【0004】
しかし、この方法では、ポリゴナルフェライトを主体とする組織の場合には均一な微細組織が得られるものの、ベイニティックフェライトを主体とする組織の場合には圧延方向に平行に扁平な様相を呈する金属組織となり、圧延方向に亀裂が進展する場合の破壊抵抗性の低下や圧延方向に平行な方向の強度が低下する懸念があった。
【0005】
特開平6-145881号公報には、鋼の化学組成を所定の範囲内に調整するとともに、その結晶粒の最大長さが20μm以下である鋼が開示されている。しかし、同公報に記載される鋼は、そのミクロ組織がフェライト+MAコンスティテュウエントの2相組織であり、ベイナイト組織が混在することにより靱性が劣化するとしている。また、特開平8-85841号公報には、所定の化学組成を有し、ミクロ組織がベイナイトである鋼が開示されているが、結晶粒度について触れていない。
【0006】
また、電縫鋼管の溶接部の信頼性は、サブマージアーク溶接管等の溶融溶接鋼管と比較して劣っていると考えられており、敷設に際しては電縫溶接部での破断をある程度想定して、隣り合うパイプの溶接部の円周方向の位置をずらして溶接するのが一般的である。しかし、近年の敷設環境では、安全性に加えて環境問題まで考慮すると破断事故が許容されるような場所は皆無に等しい。また、実際のラインパイプの使用環境では、母材部にも溶接部にも同様に内圧や他の環境因子が作用するため、溶接部が母材部よりも先に破断しないようにするためには、溶接部が母材部以上の引張強度を有するとともに、靱性についても同等以上である必要がある。しかし、母材部および溶接部の限界性能を総合的に検討した例はほとんどない。
【0007】
特開平5-230594号公報には、鋼の化学組成を所定の範囲に調整し、母材と電縫溶接部の性能差が小さいことを特徴とする鋼が開示されているが、溶接による性能劣化を小さくするにとどまり、破壊に対して溶接部に母材部よりも優れた性能を得ようとするものではない。特開平6-158177号公報には、所定の化学組成を有する鋼板を電縫溶接した後、溶接部を850〜1050℃に加熱し、冷却速度5〜20℃/secで冷却することを特徴とした電縫鋼管の製造方法が開示されている。この方法を採用すれば、溶接部の性能を母材部の性能に近づけることができるとされているが、靱性について母材部との比較がなされていない。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであって、ベイニティックフェライトを主体とする金属組織を有する鋼板を使用することにより、鋼管全体にわたりAPI5L-X60グレード以上の強度と靱性を確保し、溶接部における靱性が母材部の靱性と同等以上の電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記の(a)および(b)に示す電縫鋼管、および下記の(c)に示す電縫鋼管の製造方法にある。
【0010】
(a)質量%で、C:0.04〜0.10%、 Si : 0.5 %以下、Mn:0.8〜1.6%、 Al : 0.06 %以下、Nb:0.005〜0.06%およびTi:0.005〜0.05%を含有し、残部は鉄および不純物からなり、かつ金属組織の 60vol %以上がベイニティックフェライトである熱延鋼板を電縫溶接した後に、電縫溶接部を一旦オーステナイト化する温度まで加熱した後、水冷および焼戻処理を施して、下記の(1)式で表される外内面HAZ幅比(H)を1.1〜1.5とし、かつ電縫溶接部の金属組織の 50vol %以上をフェライトとすることを特徴とする電縫鋼管の製造方法である。但し、HOUTは、管外面のAC1熱影響部幅を示し、HINは、管内面のAC1熱影響部幅を示す。
H=HOUT/HIN・・・(1)
【0011】
(b)質量%で、C:0.04〜0.10%、 Si : 0.5 %以下、Mn:0.8〜1.6%、 Al : 0.06 %以下、Nb:0.005〜0.06%およびTi:0.005〜0.05%であり、Cu:0.10〜0.8%、Ni:0.10〜1.5%、Cr:0.10〜0.8%、Mo:0.05〜0.8%およびV:0.02〜0.08%から選択される1種以上を含有し、残部は鉄および不純物からなり、かつ金属組織の 60vol %以上がベイニティックフェライトである熱延鋼板を電縫溶接した後に、電縫溶接部を一旦オーステナイト化する温度まで加熱した後、水冷および焼戻処理を施して、上記の(1)式で表される外内面HAZ幅比(H)を1.1〜1.5とし、かつ電縫溶接部の金属組織の 50vol %以上をフェライトとすることを特徴とする電縫鋼管の製造方法である。
【0012】
(c)下記の(2)式で表されるA値が15μm以下であることを特徴とする上記の(a)または(b)の方法によって製造された電縫鋼管である。但し、DLは、圧延方向に平行な断面で観察したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(μm)を示し、DCは、圧延方向に垂直な断面で観測したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(μm)を示す。
A=0.43×(DL+0.90×DC)・・・(2)
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明で規定される各化学成分についての限定理由を説明する。なお、各成分の%は質量%を意味する。
【0014】
C:0.04〜0.10%
Cは、鋼の強度を確保するのに有効な元素であり、API5L-X60グレード以上の高い強度を得るためには、その含有量を0.04%以上とする必要がある。一方、その含有量が0.10%を超える場合には、鋼管の母材部および溶接部ともに靱性が劣化する。従って、Cの含有量を0.04〜0.10%とした。望ましくは、0.04〜0.08%である。
【0015】
Mn:0.8〜1.6%
Mnは、鋼の焼入性を向上させて強度を高めるのに有効な元素である。API5L-X60グレード以上の高い強度を得るためには、その含有量を0.8%以上とする必要がある。一方、Mnの含有量が1.6%を超えると、靱性の劣化が著しくなる。従って、Mnの含有量を0.8〜1.6%とした。なお、Mnの含有量がSiの含有量と比較して少なくなるほど、溶接部にペネレータと呼ばれる酸化物欠陥が発生し溶接部の靱性が劣化するため、Mnの含有量はSiの含有量の4倍以上である必要がある。望ましくは6倍以上である。
【0016】
Nb:0.005〜0.06%
Nbは、γの低温域で微細なNb炭窒化物を形成することによりγ結晶粒を微細化するとともに、析出したNb炭窒化物は、鋼板が圧延されたときの未再結晶γ粒の回復および再結晶を抑制するので、母材部および溶接部の靱性を確保するのに有効な元素である。この効果を得るためには、その含有量を0.005%以上とする必要がある。一方、その含有量が0.06%を超えると、逆に母材部および溶接部の靱性を劣化させる。従って、Nbの含有量を0.005〜0.06%とした。
【0017】
Ti:0.005〜0.05%
Tiは、γ結晶粒の微細化に有効な元素であり、母材部および溶接部の靱性を向上させるのに不可欠な元素である。また、連続鋳造時の鋳片の横ひび割れを防止する観点からも必須の添加元素である。これらの効果を得るためには、その含有量を0.005%以上とする必要がある。一方、その含有量が0.05%を超えると、母材部および溶接部における靱性が劣化する。従って、Tiの含有量を0.005〜0.05%とした。
【0018】
Si:0.5%以下
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であるが、その含有量が過剰な場合には、溶接部の靱性を低下させるため、その含有量を0.5%以下に制限する。なお、鋼の脱酸は、Alの添加によっても行えるため、Siの含有量は不純物レベルであってもよい。
【0019】
Al:0.06%以下
Alは、鋼の脱酸に有効な元素であるが、その含有量が過剰な場合には、溶接性が悪くなるため、その含有量を0.06%以下に制限する。なお、鋼の脱酸は、Siによっても行えるため、その含有量は不純物レベルであってもよい。
【0020】
本発明の製造方法に供される熱延鋼板は、上記の化学成分を含有し、残部は鉄および不純物からなるものである。但し、上記の化学成分に加え、Cu:0.10〜0.8%、Ni:0.10〜1.5%、Cr:0.10〜0.8%、Mo:0.05〜0.8%およびV:0.02〜0.08%から選択される1種以上を含有してもよい。以下、これらの元素を含有させる場合の限定理由を述べる。
【0021】
Cu:0.10〜0.8%
Cuは、焼入性を向上して鋼の強度を上昇させるのに有効な元素であり、本発明の電縫鋼管に含有させてもよい。この効果を得るためには、その含有量を0.10%以上とすればよい。しかし、その含有量が0.8%を超えると、鋼の靱性および溶接性が劣化する。従って、Cuを含有させる場合には、その含有量を0.10〜0.8%とすればよい。
【0022】
Ni:0.10〜1.5%
Niは、靱性を向上させるのに有効な元素であり、本発明の電縫鋼管に含有させてもよい。この効果を得るためには、その含有量を0.10%以上とすればよい。しかし、Niは高価な元素であるので経済性の観点から、その含有量を1.5%以下に制限するのが望ましい。従って、Niを含有させる場合には、その含有量を0.10〜1.5%とすればよい。
【0023】
Cr:0.10〜0.8%
Crは、焼入性を向上して鋼の強度を上昇させるのに有効な元素であり、本発明の電縫鋼管に含有させてもよい。この効果を得るためには、その含有量を0.10%以上とすればよい。しかし、その含有量が0.8%を超えると強度が高くなりすぎて溶接性が悪くなる。従って、Crを含有させる場合には、その含有量を0.10〜0.8%とすればよい。
【0024】
Mo:0.05〜0.8%
Moは、焼入性および焼戻軟化抵抗を向上させる効果があり、鋼の強度を向上させるのに有効な元素であるので、本発明の電縫鋼管に含有させてもよい。この効果を得るためには、その含有量を0.05%以上とすればよい。しかし、その含有量が0.8%を超えると、強度が高くなりすぎて溶接性が劣化する。従って、Moを含有させる場合には、その含有量を0.05〜0.8%とすればよい。
【0025】
V:0.02〜0.08%
Vは、炭窒化物を形成して鋼の強度を向上させるのに有効な元素であり、本発明の電縫鋼管に含有させてもよい。この効果を得るためには、その含有量を0.02%以上とすればよい。しかし、その含有量が0.08%を超えると、母材部および溶接部の靱性が劣化する。従って、Vの含有量を0.02〜0.08%とすればよい。
【0027】
さらに、本発明の製造方法に供される熱延鋼板は、上記の化学組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ不純物中のPが0.020%以下、Sが0.005%以下であるのが望ましい。
【0028】
P:0.020%以下
Pは、鋼中に不可避的に含有する不純物元素であり、その含有量はできるだけ少ない方がよい。特に、Pの含有量が0.020%を超えると、結晶粒界に偏析して鋼の靱性を劣化させる。従って、Pの含有量は0.020%以下に制限する必要がある。
【0029】
S:0.005%以下
SもPと同様に、鋼中に不可避的に含有する不純物元素であり、その含有量はできるだけ少ない方がよい。特に、Sの含有量が0.005%を超えると、介在物清浄度を悪化して鋼の靱性を劣化させる。従って、Sの含有量は0.005%以下に制限する必要がある。
【0030】
本発明の電縫鋼管を製造する際に供される熱延鋼板は、上記の化学組成を有し、かつその金属組織が主としてベイニティックフェライトである必要がある。
【0031】
熱延鋼板の金属組織:主としてベイニティックフェライト
本発明において「金属組織が主としてベイニティックフェライトである」とは、金属組織の60vol%以上がベイニティックフェライトであるものをいうものとする。本発明によれば、このような金属組織を有する鋼を使用しても管全体にわたる強度に優れるとともに、母材部および溶接部における靱性に優れる電縫鋼管を提供できるからである。
【0032】
本発明においては、上記の化学組成および金属組織を有する熱延鋼板を電縫溶接した後に、引き続いて当該溶接部を一旦オーステナイト化する温度まで加熱した後、水冷することによって溶接部における組織を完全に変態をさせる。本発明では、このような加熱および水冷を施した後、焼戻処理を施すこととしている。これは、焼戻処理が溶接部の内部応力を除去して、溶接部の靱性を向上させるからである。この焼戻処理は、溶接部のみに施しても良いが、母材部も含めた鋼管全体に施してもよい。
【0033】
ここで、誘導加熱等の加熱のための熱源は、一般に管の外面側に設置されており、内面側の加熱は、熱伝導や磁束の浸透により確保される。従って、肉厚が10mm以上であるような熱延鋼板を使用して電縫鋼管を製造する際には、管の外面付近と内面付近とでは、かなりの温度差が生じる可能性があり、管を肉厚断面で観察すると、管の外面付近と内面付近との金属組織が異なる場合がある。
【0034】
そこで、本発明者が鋭意研究を行った結果、熱処理条件を調整することによって、下記の(1)式で表される外内面HAZ幅比(H)を1.1〜1.5とし、かつ溶接部の金属組織の 50vol %以上をフェライトとすれば、溶接部における靱性が母材部の靱性と同等以上の電縫鋼管を製造できることに到達した。但し、HOUTは、管外面のAC1熱影響部幅を示し、HINは、管内面のAC1熱影響部幅を示す。
H=HOUT/HIN・・・(1)
【0035】
なお、管の外面および内面におけるそれぞれのAC1熱影響部幅は、溶接方向に垂直な断面を研磨した後、エッチングした状態で変態の境界線を確認することによって得ることができる。このとき、焼戻処理による変態境界線は無視することとする。
【0036】
外内面HAZ幅比(H):1.1〜1.5
外内面HAZ幅比が1.1未満となるような条件で溶接部に熱処理を施すと、外面付近における溶接部の組織がベイナイトとなり、溶接部の外面側における靱性が劣化する。一方、外内面幅比が1.5を超えるような条件で溶接部に熱処理を施すと、内面付近における溶接部の組織が十分に改善されず、溶接部の内面側における靱性が劣化する。従って、外内面HAZ幅比が1.1〜1.5となるような条件で、溶接部に熱処理を施さなければならない。なお、熱処理条件は、使用される加熱器の種類、仕様、配置、周波数、加熱パターンによって変化するが、当業者であればこれらを調整して、使用される設備に対応した外内面HAZ幅比を1.1〜1.5とする設定条件を見出すことができる。
【0037】
前述したとおり、本発明の製造方法においては、熱処理条件を調整することによって、溶接部の金属組織を主としてフェライトとする必要がある。
【0038】
溶接部の金属組織:主としてフェライト
溶接部の靱性を向上させるためには、溶接部における金属組織の微細化が必須であり、通常、板材の場合には圧下によって組織の微細化を実現できるが、電縫鋼管の場合には圧下をかけることができないため、ベイナイト組織では細粒化が困難となる。従って、溶接部に施す熱処理条件を調整して、溶接部の金属組織を主としてフェライトとする必要がある。
【0039】
ここで、「溶接部の金属組織が主としてフェライト」とは、溶接部の外表面付近にベイナイトの析出を許容するものである。具体的には、管外面の表面下1mmの位置において、ベイナイトが50%未満である場合も本発明の範囲である。これは、通常、熱源が管の外面側にあるため、溶接部が高温になって管外面にベイナイトが発生する場合もあるが、フェライト組織中に微細なベイナイトが現れる程度であれば、極端に靱性が劣化することはないからである。
【0040】
以上のような原理から、本発明の製造方法によれば、溶接部における靱性が母材部の靱性と同等以上である電縫鋼管を製造することができるのである。更に、本発明者は、電縫鋼管の母材部における靱性をさらに向上させることについても検討した結果、下記の(2)式で表されるA値が15μm以下である電縫鋼管に想到した。但し、(2)式中のDLは、圧延方向に平行な断面で観察したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(μm)を示し、DCは、圧延方向に垂直な断面で観測したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(μm)を示す。
A=0.43×(DL+0.90×DC) …(2)
【0041】
A値:15μm以下
強度と靱性を向上させるためには結晶粒の微細化が有効であることは、前述したとおりであるが、圧延鋼板の結晶粒の大きさは、圧延方向に平行な面における金属組織を観察することによって求められるのが一般的である。しかし、このような面で金属組織を観察した結果、それぞれのフェライト粒やベイナイト組織が微細であって、かつその結晶粒同士の方位が異なっていても、圧延方向に垂直な断面においては、結晶粒同士の方位差が小さく、ラインパイプとして十分な強度や靱性を有する微細組織となっていない場合がある。ラインパイプの破壊抵抗性は、いかなる方向からの亀裂に対しても十分な性能を満足する必要がある。そのためには、圧延方向に平行な断面における結晶粒を観測するだけでなく、圧延方向に垂直な断面における結晶粒をも観測して、両断面における結晶粒の大きさを総合的に判断する必要がある。本発明者は、このような観点から電縫鋼管の母材部における結晶粒の大きさについて検討し、上記の(2)式を規定した。上記の(2)式に基づいて、既知の実験データを整理したところ、(2)式で表されるA値が15μmを超える場合に、母材部での靱性の劣化が著しくなることを確認し本発明の電縫鋼管を完成した。
【0042】
【実施例】
表1に示す各化学組成を有する鋼を用いて熱延鋼板を製造した。
【0043】
【表1】
【0044】
この熱延鋼板を下記の製管ラインAまたはBによって、電縫鋼管を製造し、それぞれの電縫鋼管に熱処理を施した。これらの製造条件を表2に示す。
【0045】
製管ラインA:
表1に示す各化学組成を有する熱延鋼板を用いて、電縫溶接によって外径:406.4mm、肉厚:15.9mmの鋼管を製造し、溶接直後に周波数:500〜1,000Hzの高周波加熱機5台を用いてそれぞれの鋼管の溶接部を加熱し、水冷によって加速冷却した後、周波数:500〜1,000Hzの高周波加熱機2台を用いて焼戻処理を施した。なお、いずれの鋼管も製管速度を10m/minの一定として製管した。
【0046】
製管ラインB:
表1に示す各化学組成を有する熱延鋼板を用いて、電縫溶接によって外径:168.3mm、肉厚:10.3mmの鋼管を製造し、溶接直後に周波数:500〜1,000Hzの高周波加熱機3台を用いてそれぞれの鋼管の溶接部を加熱し、水冷によって加速冷却した後、炉熱処理により鋼管全体に焼戻処理を施した。なお、いずれの鋼管も製管速度を10m/minの一定として製管した。
【0047】
母材部における金属組織の大きさを示すパラメータ(A)および上記の製管ラインAまたはBで製造したそれぞれの鋼管の外内面HAZ幅比(H)をそれぞれ下記の方法によって求め、これらの結果を表2に併記した。
【0048】
金属組織の大きさを示すパラメータ(A)の測定方法:
それぞれの電縫鋼管から試験片を切り出し、圧延方向に平行な断面および圧延方向に垂直な断面における金属組織を光学顕微鏡によって倍率:1,000倍で観察し、それぞれの断面におけるベイニティックフェライトの長さ(μm)を測定した。同様の方法によって20視野の観察を繰り返し、圧延方向に平行な断面で観察したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(DL)および圧延方向に垂直な断面で観察したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(DC)を算出した。これらの値を下記の(2)式に代入して、それぞれの電縫鋼管における金属組織の大きさを示すパラメータ(A)を求めた。
A=0.43×(DL+0.90×DC) …(2)
【0049】
外内面HAZ幅比(H)の測定方法:
それぞれの電縫鋼管の溶接方向に垂直な断面を研磨し、ナイタールでエッチングした状態で変態の境界線を確認することによって、管外面および管内面におけるAC1熱影響部幅を測定した。これらのAC1熱影響部幅(HOUT)および管内面におけるAC1熱影響部幅(HIN)の値を下記の(1)式に代入して、それぞれの電縫鋼管における外内面HAZ幅比を求めた。
H=HOUT/HIN …(1)
【0050】
溶接部における金属組織は、ASTM E112にしたがって、管外面および管内面の表面下1mm位置の組織を観察し、その金属組織がフェライトであるものを「F」、フェライトおよび微細なベイナイトであるものを「F+B」、ベイナイトであるものを「B」、およびマルテンサイトであるものを「M」として表2に併記した。
【0051】
また、それぞれの電縫鋼管の母材部および溶接部における管円周方向から切り出したAPI引張試験片を用いて、常温における引張強さ(TS)を測定し、それぞれの電縫鋼管における引張強さの差(ΔTS、〔溶接部TS〕−〔母材部TS〕)を求め、表2に併記した。さらに、それぞれの電縫鋼管の母材部および溶接部における管円周方向から切り出したフルサイズのシャルピー試験片を用いて、試験温度を変化させて破面遷移温度(vTrs)を測定した。この結果も表2に併記した。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示したとおり、本発明例1〜17はいずれも、溶接部における引張強さが母材部のそれを上回るとともに、母材部および溶接部の双方における破面遷移温度が−41℃以下と低い値を確保しており、本発明例においては、溶接部および母材部ともに強度および靱性に優れることが確認できた。特に、本発明例1〜12は、そのA値が15μm以下であるため、本発明例13〜17と比較しても母材部の靱性が更に優れることも確認できた。一方、比較例1〜12はいずれも、溶接部における靱性が劣る。特に、比較例1〜4は、本発明で規定する化学組成の範囲内にあるにもかかわらず、外内面HAZ幅比が本発明で規定する範囲内にないため、溶接部の破面遷移温度が高く、溶接部における靱性が劣る。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、肉厚が10mm以上の電縫鋼管においても、API5L-X60グレード以上の高い強度を確保するとともに、溶接部における靱性が母材部における靱性と同等以上である電縫鋼管を製造することができるので、内圧に対して溶接部での破断は発生しない。従って、パイプラインの操業トラブル等により内圧が限界まで上昇した場合でも、溶接部が母材部より先に破断することがなく、破壊が母材部の性能に支配されるため、一般に不安とされる溶接部性能を考慮する必要がない。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.04〜0.10%、 Si : 0.5 %以下、Mn:0.8〜1.6%、 Al : 0.06 %以下、Nb:0.005〜0.06%およびTi:0.005〜0.05%を含有し、残部は鉄および不純物からなり、かつ金属組織の 60vol %以上がベイニティックフェライトである熱延鋼板を電縫溶接した後に、電縫溶接部を一旦オーステナイト化する温度まで加熱した後、水冷および焼戻処理を施して、下記の(1)式で表される外内面HAZ幅比(H)を1.1〜1.5とし、かつ電縫溶接部の金属組織の 50vol %以上をフェライトとすることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
H=HOUT/HIN・・・(1)
但し、HOUTは、管外面のAC1熱影響部幅を示し、HINは、管内面のAC1熱影響部幅を示す。 - 質量%で、C:0.04〜0.10%、 Si : 0.5 %以下、Mn:0.8〜1.6%、 Al : 0.06 %以下、Nb:0.005〜0.06%およびTi:0.005〜0.05%であり、Cu:0.10〜0.8%、Ni:0.10〜1.5%、Cr:0.10〜0.8%、Mo:0.05〜0.8%およびV:0.02〜0.08%から選択される1種以上を含有し、残部は鉄および不純物からなり、かつ金属組織の 60vol %以上がベイニティックフェライトである熱延鋼板を電縫溶接した後に、電縫溶接部を一旦オーステナイト化する温度まで加熱した後、水冷および焼戻処理を施して、下記の(1)式で表される外内面HAZ幅比(H)を1.1〜1.5とし、かつ電縫溶接部の金属組織の 50vol %以上をフェライトとすることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
H=HOUT/HIN・・・(1)
但し、HOUTは、管外面のAC1熱影響部幅を示し、HINは、管内面のAC1熱影響部幅を示す。 - 下記の(2)式で表されるA値が15μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法によって製造された電縫鋼管。
A=0.43×(DL+0.90×DC)・・・(2)
但し、DLは、圧延方向に平行な断面で観察したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(μm)を示し、DCは、圧延方向に垂直な断面で観測したときの母材部におけるベイニティックフェライトの平均長さ(μm)を示す。
Priority Applications (1)
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