JP3932585B2 - ガラス母材の延伸方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、光ファイバ用ガラス母材を延伸する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、光ファイバ用ガラス母材を所望の外径に延伸する方法としては、抵抗加熱炉などのヒーターによりガラス母材の一方の端部から順次加熱軟化させて引っ張り応力などを加え、縮径されたガラス母材の外径を非接触の外径測定器によって測定しながら、得られた測定値が目標値である制御外径値と一致するよう、ガラス母材に引っ張り応力を加えるために上側及び下側チャックの移動速度を制御する方法などが知られている。なお、このような制御方法は、例えば、特開平4-83726号公報、特開昭56-45843号公報に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の延伸方法では、得られる延伸体の外径を所望の値とするため、ガラス母材の一部であって、引っ張り応力が加えられた状態で加熱されることにより、テーパ状に変形した軟化部の所定の位置の外径を外径測定器で測定し、測定した外径が設定値である制御外径値と一致するようにガラス母材を加熱炉に送り込むための上側チャックの移動速度と、該加熱炉からガラス母材を引き出すための下側チャックの移動速度(該ガラス母材に所定の引っ張り応力を加えるため、下側チャックの移動速度は上側チャックの移動速度よりも早い)を制御している。
【0004】
そのため、得られた延伸体の外径(以下、仕上り外径という)は制御外径の設定値よりも幾らか小さい値となるが、ガラス母材の両端部付近を除く、一定の外径を有する中央部分(定常部分)を延伸しているときは、制御外径の設定値と仕上り外径との差が一定で安定している。このため、測定位置での外径から仕上り外径までの縮径を見込んだ値を制御外径として設定し、上記上側チャックの移動速度又は下側チャックの移動速度をフィードバック制御すれば、所望の仕上り外径にガラス母材を延伸することができる。
【0005】
しかし、ガラス母材の両端は円錐状の形状に端末処理がなされており、その外径が大きく変化しているために、ガラス母材の中央部分(定常部分)を延伸するときと同じ制御外径の設定値に一致させるようガラス母材に引っ張り応力を加えると、両端部付近では一定の仕上り外径が得られない。具体的には、得られる延伸体の両端部付近以外の定常部分ではその外径が一定で所望の縮径が得られるが、両端部のテーパ部では、仕上り外径が大きくなる(図10(a)、(b)参照)。特に、図10(b)に示されたように、延伸開始部が太くなった場合に、その後に続く部分がその反動で細くなる。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、光ファイバ用ガラス母材を所望の外径を有する延伸体に精度良く延伸するための延伸方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る延伸方法は、図1に示されたように、所定の外径を有する定常部分10の第1端及び第2端(図中の矢印P1及びP2で示された部分)のそれぞれに、該定常部分10よりも小さい外径を有する第1及び第2テーパー部11a、11bが設けられたガラス母材1を長手方向に延伸し、所望の外径を有する延伸体100を得る方法である。このガラス母材1の内部には、長手方向に延びた、光ファイバのコアとなるべき領域(以下、コア領域という)10aが設けられており、そして、上記第1及び第2テーパー部11a、11bには取り扱いを容易にするためのダミー棒12a、12bが取り付けられている。一方、延伸体100は、所望の外径を有する定常部分110(長手方向に延びたコア領域110aを含む)の両端(図中の矢印P11、P12で示された部分であって、ガラス母材1の定常部分10の各端P1、P2にそれぞれ対応している)にテーパー部111a、111b(ガラス母材1の第1及び第2テーパー部11a、11bに対応している)を有している。
【0008】
具体的に、この発明に係る延伸方法は、図2に示された延伸装置によって実行される。当該延伸方法では、まず上述のガラス母材1のダミー棒12bが上側チャック13に把持されるとともに、該ガラス母材1のダミー棒12aが下側チャク14に把持されることにより、該ガラス母材1が図2の延伸装置にセットされる。上側チャック13はガラス母材1を所定の速度(第1の速度)で図中の矢印S1で示された方向に沿って、ヒーター9内に送り込む。これにより、ガラス母材1は、第1テーパー部11aから第2テーパー部11bに向かって順次抵抗加熱炉などのヒーター9内に位置する部分(加熱部分)が加熱され、該加熱部分を含む所定部分(軟化部分200)が軟化する(加熱工程)。一方、下側チャック14は、上記上側チャック13の移動方向に沿って(矢印S1で示された方向に一致する矢印S2で示された方向に沿って)該上側チャック13よりも早く移動することにより、該上側チャック13と協働して所定部分が軟化しているガラス母材1に引っ張り応力を加える(延伸工程)。これにより、該ガラス母材1は上側チャック13の移動距離と下側チャック14の移動距離の差だけ延伸された延伸体が得られる。なお、延伸体100の外径制御は、上記ガラス母材1の軟化部分200における所定部位15の外径を外径測定器6で測定しながら、得られる測定値を予め設定された制御外径の設定値に一致させるよう、制御部7が、上側チャック13及び下側チャック14の少なくともいずれか一方の移動速度をフィードバック制御することにより行われる(制御工程)。
【0009】
特に、この発明に係る延伸方法は、少なくとも、上記ガラス母材1の定常部分10の第2端P2とヒーター9の開口位置(図中、Qで示された位置)との間隔が所定値になった時点から延伸終了時点までの期間中、上記制御外径の設定値を変化させることを特徴としている。なお、この制御外径の設定値の変更は、ヒーター9内へ送り込まれるガラス母材1の移動距離に対応して、段階的に減少させることも、あるいは連続的に変更させることも可能である。
【0010】
また、図2の延伸装置は、上側チャック13と下側チャック14の速度差(移動距離の差)を利用してガラス母材1に所望の引っ張り応力を加えることにより、得られる延伸体100の外径を調節している。そのため、この制御外径の設定値を変更する期間中における、延伸体100の外径制御は、上側チャック13及び/又は下側チャック14の移動速度を、測定値を上記設定値に一致させるよう調節することにより行われている。特に、この速度制御には、所定の時点から延伸終了時点までの間、ガラス母材1をヒーター9内へ送り込むための上記上側チャック13を停止させる動作が含まれる。なお、図2の延伸装置において、上側チャックの停止は上記制御外径の設定値を0に設定することにより実現できる。
【0011】
さらに、この発明に係る延伸方法は、上述のような延伸終了時点を含む所定期間だけでなく、延伸開始時点から所定期間中においても、制御外径の設定値を変更するようにしてもよい。すなわち、延伸開始時点から、ガラス母材1の定常部分10の第1端P1とヒーターの開口位置Qとの間隔が所定値になった時点までの期間中、上記制御外径の設定値を変化させる。
【0012】
この制御外径の設定値の変更は、ヒーター9内へ送り込まれるガラス母材1の移動距離に対応して、段階的に増加させることも、あるいは連続的に増加させることも可能である。
【0013】
なお、この明細書において、延伸開始時点とは、少なくともガラス母材1に上側チャック13と協働して引っ張り応力を加えるための下側チャック14が移動し始めた時点をいい、延伸終了時点とは、該下側チャック14が停止した時点をいう。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、この発明に係る延伸方法を、図1〜図9を用いて説明する。
【0015】
図1において、延伸対象であるガラス母材1は、その中央部が円柱状をなす。ガラス母材1の延伸開始端側の端部(第1テーパ部)11a、該ガラス母材1の延伸終了端側の端部(第2テーパ部)11bの両端部は円錐状に端末処理がなされている。さらに、これら第1及び第2テーパー部11a、11bの末端には取扱の便宜のためダミー棒12a、12bが接合されている。
【0016】
図2は、この発明に係る延伸方法を実施するための延伸装置の構成を示す図であり、上記ガラス母材1を延伸している途中状態を示している。この図2において、9は縦型加熱炉(抵抗加熱炉に含まれる)である。200は延伸中のガラス母材2の引っ張り応力が加えられた状態で加熱されることにより、テーパ状に変形した部分であって、斜線で示してある。具体的には、縦型加熱炉9の上端に対応する位置(図中、Qで示された開口位置)から被加熱部3、外径被測定部位15を経て、延伸体100の定常部分110の端部に至るテーパ状の形状をなす部分をいう。被加熱部3は延伸中のガラス母材1の縦型加熱炉9による被加熱部分であり、軟化部200のうち縦型加熱炉9に入っている部分をいう。210は、被加熱部3のうち、縦型加熱炉9の縦方向の中心に位置する部分(以下、被加熱中心部という)をいう。この被加熱中心210は、一般に他の部分と比較して最も高温でかつ粘度が低いため、ガラス母材1の移動速度(ガラス母材1の太さなどの要因により可変)や引っ張り応力に対し最も鋭敏に反応する部分である。
【0017】
6は外径測定器であり、レーザ光線を発振して軟化部200の所定部位15における外径を非接触で測定する。この測定されるべき部位は、軟化部200の開始端(開口位置Q)から進行方向(矢印S1、S2で示される方向)に一定の距離だけ離れた最適位置が試行錯誤により経験的に選ばれ、この部位15の外径と制御外径の設定値とを比較することによりガラス母材1へ加えられる引っ張り応力が調節される。
【0018】
14は下側チャックであり、延伸対象であるガラス母材1の延伸開始端に位置するダミー棒12aを把持する。13は上側チャックであり、該ガラス母材1の延伸終了端に位置するダミー棒12bを把持する。8は下側チャック14を矢印S2で示された方向に、所定速度で移動させるための駆動モータ、5は上側チャック13を矢印S1で示された方向に、所定速度(下側チャックよりも遅い)で移動させるための駆動モータであり、それぞれ協働して、ガラス母材1を延伸する。
【0019】
図2の装置は、下側チャック14の移動速度と上側チャック13の移動速度に差をつけることにより、ガラス母材1に引っ張り応力を加える。すなわち、上側チャック13の単位時間当りの移動距離と下側チャック14の単位時間当りの移動距離の差が単位時間当りの延伸長となる。したがって、上側及び下側チャック13、14の移動速度の制御では、軟化部200の被測定部位15における外径測定値と制御外径の設定値とを比較し、測定値の方が大きいときは該上側チャック13と下側チャック14との速度差を大きくするよう、また、小さいときはこれらの速度差を小さくするように制御されている。下側チャック14の引っ張り動作は、主にガラス母材1を延伸するよう機能する。また、上側チャック13の送り動作は、ガラス母材1の移動速度及び移動距離を規定するよう機能する。なお、これら上側及び下側チャック13、14の速度制御は、ガラス母材1の外径の変化による熱容量の変化を考慮して、ガラス母材1の外径(特に定常部分10の外径)が小さいときは各チャック13、14の移動速度を早く、大きいときは遅くなるように制御する。
【0020】
7は上記上側及び下側13、14の移動速度及び移動距離をそれぞれ独立に調節するための制御ユニットであり、外径測定器6で測定された被測定部位15の外径値と予め設定された制御外径の設定値とを比較して、下側チャック14の移動速度、及び/又は上側チャック13の移動速度を決定し、各駆動モータ8、5を駆動させる。
【0021】
次に、図2の延伸装置における、ガラス母材1の延伸動作について図3(a)〜(c)を用いて説明する。なお、上述された図3(a)〜(c)は、この発明に係る延伸方法を時系列に表示した図である。
【0022】
まず、予めその形状、大きさが分かっているガラス母材1は、加熱炉9を介してダミー棒12aが下側チャック14に把持されるとともに、ダミー棒12bが上側チャック13に把持されることにより、当該延伸装置にセットされる(図3(a)参照)。一般に、ガラス母材1のセッティングでは、該ガラス母材1の定常部分10の下端(矢印P1で示された部分)が加熱炉9の開口位置Qよりも上方に位置するように行われる(A>0mm)。なお、セットされたガラス母材1のうち第1テーパー部11aが長手方向に対して短い場合には、該ガラス母材1の定常部分10の下端P1は加熱炉9内に位置することもあるが、通常、この定常部分10の下端P1と加熱炉9の開口位置Qとの間隔Aは、0mm〜100mmの範囲に設定される。
【0023】
ガラス母材1の定常部分10の延伸は、図3(b)に示された状態から図3(c)に示された状態へと連続的に行われる。すなわち、図3(b)は、上側チャック13がセッティング位置(図中、破線で示された位置130に対応)からX1だけ移動し、下側チャック14がセッティング位置(図中、破線で示された位置140に対応)からX2だけ移動した時点の状態(ガラス母材1が(X2−X1)だけ延伸された状態)を示す。また、図3(c)は、上側チャック13がセッティング位置(図中、破線で示された位置130に対応)からX10だけ移動し、下側チャック14がセッティング位置(図中、破線で示された位置140に対応)からX20だけ移動した時点の状態(ガラス母材1が(X20−X10)だけ延伸された状態)を示す。
【0024】
このように、ガラス母材1の定常部分10を延伸しているときは、その外径が一定になっているので、軟化部200の被測定部位15における外径に対して、仕上がり外径(延伸体100の定常部分110の外径)は略一定の割合で縮径する。そのため、制御ユニット7は、外径測定器6から得られる測定部位15の外径値と、制御外径の設定値とを比較し、該測定値が設定値に一致するようガラス母材1に加えられる引っ張り応力を調整している。具体的には、図2の延伸装置では、上側チャック13の移動距離と下側チャック14の移動距離との間に所定の差を与えることにより(上側チャック13の単位時間当たりの移動距離よりも下側チャック14の単位時間当たりの移動距離を大きくすることにより)、ガラス母材1に引っ張り応力を加えているので、該上側チャック13及び/又は下側チャック14の移動速度を調整することにより、単位時間当たりの該ガラス母材1の延伸長を変え、結果的に、得られる延伸体100の仕上がり外径を制御している。
【0025】
次に、図3(c)に示されたように、ガラス母材1の上端(図中、矢印P2で示された部分)と加熱炉9の開口位置Qとの間隔Bが所定値になった時点以降から延伸終了時点までの端部延伸動作を図5のフローチャートを用いて説明する。なお、以下の説明では、上記間隔Bが負の数であるとき、該間隔Bは、図4(a)に示されたように、ガラス母材1の定常部分10の上端P2が加熱炉9内に入る前の状態を示すものとする。一方、上記間隔Bが正の数であるとき、該間隔Bは、図4(b)に示されたように、ガラス母材1の定常部分10の上端P2が加熱炉9内に入った状態を示すものとする。
【0026】
定常状態(図3(b)に示されたように、ガラス母材1の定常部分10を延伸する定常部分延伸動作が行われている状態)では、制御ユニット7は、外径測定装置6からの測定値と制御外径の設定値とを一致させるように、駆動モータ5、8を制御している(上側及び下側チャック13、14の速度制御)。一方、図2の延伸装置にセットされたガラス母材1の形状及びサイズは予め分っているため、制御ユニット7はガラス母材1に関する情報と上側チャック13の移動距離とから、加熱炉9の開口位置Qとガラス母材1の定常部分10の上端P2との間隔Bを延伸終了時点まで監視している(ステップST1、ST2)。
【0027】
そして、上記間隔Bが所定値a以上となったとき、上述の定常状態における制御外径の設定値を変更するよう、制御ユニット7は定常部分延伸動作から端部延伸動作へ移行する。この端部延伸動作では、上記間隔Bが少なくとも所定の条件(B≧β)を満たすまで、制御外径の設定値を変更していく。
【0028】
定常状態からこの端部延伸状態に移行した段階では、該設定値を所定値だけ小さくし(ステップST6)、間隔Bが上記条件を満たしているか否かを判断する(ステップST7)。もし、この条件が満たされていなければ、制御ユニット7は、続けて間隔Bを算出し(ステップST3)、該設定値を変更する時期を規定する値αi(i=1,2,3,…;α1≦α2≦α3≦…)以上であるか否かを判断する(ステップST4)。以後、制御ユニット7は、上記条件が満たされるまで、変数iをインクリメントしながら上述の設定値の変更動作を繰り返す(ステップST3〜ST7)。なお、この明細書において、延伸終了時点とは、少なくとも下側チャック14が停止した時点を意味する。
【0029】
実施例1
次に、具体的な端部延伸動作として、直径70mm(定常部分10の直径)のガラス母材1を直径40mm(定常部分110の直径)の延伸体100に延伸する実施例1について説明する。
【0030】
用意されたガラス母材1は、外径70mm、長さ500mmの円柱状ガラス体(定常部分10)と、その両端に取り付けられた、それぞれ長さ(ガラス母材1における長手方向の長さ)100mmの円錐状ガラス部(各テーパー部11a、11b)からなる。さらに、該テーパー部11a、11bの端部にそれぞれ外径30mmのダミー棒12a、12bが溶着接続されている。
【0031】
なお、定常状態(図3(b)に示されたように、該ガラス母材1の定常部分10を延伸している期間)での延伸条件は、上側チャック13の設定速度が10.0mm/分、下側チャック14の設定速度が30.6mm/分、そして、制御外径の設定値Dxが44.0mmである。
【0032】
この延伸動作では、まず上記上側チャック13と下側チャック14の速度比を1.0:3.06に維持しつつ、10分間かけて上側及び下側チャック13、14の移動速度を上記設定速度まで上昇させた(図3(b)に示された定常状態)。その後、下側チャック14の移動速度が一定に維持された状態で上側チャック13の移動速度を、軟化部200の被測定部位15における外径変化を打ち消すように変化させるフィードバック制御(外径制御)を行いながら、用意されたガラス母材1の定常部分10の延伸を行った。なお、制御ユニット7は、上述の外径制御(定常部分延伸動作)を行うとともに、この期間中、該定常部分延伸動作から端部延伸動作へ切替えるため、既知のガラス母材1に関する情報及び上側チャックの移動距離から、該定常部分10の上端P2と加熱炉9の開口位置Qとの間隔Bを計算している。
【0033】
この実施例1の端部延伸動作では、上記間隔Bが0mmのときに、定常状態での制御外径の設定値Dxを0.5mm下げ(設定値は43.5mm)、上記間隔Bが+10mmのときに設定値をさらに0.5mm下げる(設定値は43.0mm)。そして、上記間隔Bが+20mmのときに上側チャック13を停止させ、下側チャック14のみをさらに上記設定速度で500mm移動させて、この延伸動作を終了した。なお、延伸動作の終了時点は、少なくとも下側チャック14が停止した時点をいう。また、この実施例1では、延伸終了前に上側チャック13を停止させているが、これは、上記制御外径の設定値を0mmに設定することにより実現される。
【0034】
以上説明された実施例1の結果、得られた延伸体100の端部外観を図7に示す。この図より明らかなように定常部分110からテーパー部111bにかけて滑らかにその外径が減少し、40mm±1.0mmの精度で均一な外径の延伸ガラス母材(延伸体100)が得られた。
【0035】
実施例2
次に、直径130mm(定常部分10の直径)のガラス母材1を直径70mm(定常部分110の直径)の延伸体100に延伸する実施例2について説明する。
【0036】
用意されたガラス母材1は、外径130mm、長さ500mmの円柱状ガラス体(定常部分10)と、その両端に取り付けられた、それぞれ長さ200mmの円錐状ガラス部(各テーパー部11a、11b)からなる。さらに、該テーパー部11a、11bの端部にそれぞれ外径30mmのダミー棒12a、12bが溶着接続されている。
【0037】
なお、定常状態での延伸条件は、上側チャック13の設定速度が10.0mm/分、下側チャック14の設定速度が34.5mm/分、そして、制御外径の設定値Dxが78.0mmである。
【0038】
この延伸動作では、まず上記上側チャック13と下側チャック14の速度比を1.0:3.45に維持しつつ、10分間かけて上側及び下側チャック13、14の移動速度を上記設定速度まで上昇させた(図3(b)に示された定常状態)。その後、下側チャック14の移動速度が一定に維持された状態で上側チャック13の移動速度を、軟化部200の被測定部位15における外径変化を打ち消すように変化させるフィードバック制御(定常部分延伸動作)を行いながら、用意されたガラス母材1の定常部分10の延伸を行った。
【0039】
この実施例2の端部延伸動作では、制御ユニット7で算出された上記間隔Bが−30mmのときに、制御外径の設定値を0.5mm下げ(設定値は77.5mm)、上側チャック13が10mm進むごとに(上記間隔Bが10mm大きくなるごとに)制御外径の設定値を0.5mmずつ下げた。最終的に間隔Bは+80mmで設定値を72.0mmに設定して延伸動作を終了した。なお、この実施例2では上側チャック13は延伸終了まで停止させない。
【0040】
以上の端部延伸動作の開始は、上記間隔Bの値が−50mm〜+50mmの範囲内にあるときが適している。また、最終的に設定される制御外径値は、少なくとも、定常状態での設定値Dxに対して2mm以上小さいことが好ましい。この端部延伸動作では延伸終了前であって、間隔Bが−10mm〜+120mmのいずれかの時点で、上側チャック13を停止させる場合がある。したがって、制御外径の設定値の取り得る範囲は、図6中の斜線で示された領域である。
【0041】
次に、延伸開始から所定期間までの端部延伸動作を、図8のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
まず、ガラス母材は初期位置γ1にセットされるとともに、制御外径が初期値にセットされる(ステップST8)。その後、加熱炉9を十分に加熱した状態で、上側チャック13及び下側チャック14をそれぞれ所定速度で移動させる(延伸動作の開始)。この時、制御ユニット7では、上記上側及び下側チャック13、14の移動速度の制御の他、その形状、大きさが予め分っているガラス母材1の定常部分10の下端P1と加熱炉9の開口位置Qとの間隔Aを、上側チャック13の移動距離から算出して(ステップST9)、制御外径の設定値を変更する時期を規定する母材位置γj(j=1、2、3、…;γ1>γ2>γ3>…>0)と、間隔Aとを比較する(ステップST10)。この時、上記間隔Aが設定値を過ぎる毎に、変数jをインクリメントし(ステップST11)、制御外径の設定値を変更する(ステップST12)。そして、最終的に上記間隔Aが0mmとなった時点で(ステップST13)、定常状態の制御外径の設定値Dxがセットされ(ステップST14)、定常状態の定常部分延伸動作に移行する。
【0043】
なお、上述の動作では、A=0mmを端部延伸動作の終了条件としているが、ガラス母材1の下端テーパー部11aの長さが短い場合にはこの終了条件は負の値であってもよい(定常部分10の下端P1が加熱炉9内に位置する状態)。
【0044】
実施例3
次に、直径130mm(定常部分10の直径)のガラス母材1を直径70mm(定常部分110の直径)の延伸体100に延伸する実施例3(実施例2と同じ条件)について説明する。
【0045】
用意されたガラス母材1は、外径130mm、長さ500mmの円柱状ガラス体(定常部分10)と、その両端に取り付けられた、それぞれ長さ200mmの円錐状ガラス部(各テーパー部11a、11b)からなる。さらに、該テーパー部11a、11bの端部にそれぞれ外径30mmのダミー棒12a、12bが溶着接続されている。
【0046】
なお、定常状態での延伸条件は、上側チャック13の設定速度が10.0mm/分、下側チャック14の設定速度が34.5mm/分、そして、制御外径の設定値Dxが78.0mmである。
【0047】
延伸動作の開始から所定期間までに行われる、この端部延伸動作では、まず、ガラス母材1がA=+80mmの位置にセットされる。そして、上側チャック13と下側チャック14とを、初期の速度比を1.0:3.45として駆動させる。制御ユニット7は、上側チャック13の移動速度を一定の割合(すなわち加速度一定)で増加させつつ、下側チャック14の移動速度を、軟化部200の被測定部位15における外径変化を打ち消すように変化させるフィードバック制御(外径制御)を行う(図9参照)。なお、図9において、この動作中の上側チャック13及び下側チャック14の移動速度は、それぞれvU、vLで示されている。
【0048】
この端部延伸動作では、延伸動作の開始時点(A=+80mm)の設定値を74mmとし、上部チャック13が10mm進むごとに(間隔Aが10mm小さくなるごとに)、制御外径の設定値0.5mmずつ大きくし、最終的には、間隔Aが0mmとなった時点で設定値を78mm(=Dx)とした。
【0049】
比較のために、上述の端部延伸動作を行わない延伸方法により得られた延伸体の各端部の外観を図10(a)及び図10(b)に示す。
【0050】
図10(a)は、実施例1及び2と同じ定常状態の延伸条件で延伸したときの延伸体端部(比較例1及び2)を示し、図10(b)は実施例3と同じ定常状態の延伸条件で延伸したときの延伸体端部(比較例3)を示している。
【0051】
実施例1及び2の端部延伸動作を行っていない比較例1及び2は、いずれも図10(a)に示されたように、延伸体100の上端が太くなった。具体的に、比較例1(実施例1のガラス母材を使用)では延伸体100の定常部分110の外径(仕上り外径)D1よりも上端の外径D2は10〜15mm程度太くなった。また、比較例2(実施例2のガラス母材を使用)では、上端の外径D2はD1よりも5〜8mm太くなった。このため、延伸体100の有効領域はこの発明に係る延伸方法により得られた延伸体100よりも300mm〜600mm程度短くなる。
【0052】
一方、比較例3は、図10(b)に示されたように、下端が太くなるとともに、一部ネックダウンを起している部分も確認できる。この比較例3では、太くなった部分の外径D4は定常部分110の外径(仕上り外径)D1よりも3mm〜5mm程度太くなり、ネックダウンを起こしている部分の外径D3はD1よりも1mm程度細くなっている。このため、延伸体100の有効領域は、この発明に係る延伸方法で得られた延伸体100よりも500mm〜700mm程度短くなる。
【0053】
次に、得られる延伸体の外径変動について以下考察する。通常、外径測定を軟化部200の範囲のうち、仕上り外径に近いところで測定すれば制御外径の値と仕上り外径との差が小さくなるので、仕上り外径の精度が向上し、外径変動は小さくなるのではないかと考えられる。しかし、被測定部位15が被加熱部3から遠くなると制御の時間遅れが大きくなるため、仕上り外径を安定に制御することが困難となる。
【0054】
逆に、被測定部位15を被加熱部3に近い位置にすると、制御性はよくなるが制御外径の値と仕上り外径との差が大きいために、延伸前の外径が変化などした場合、その影響が仕上り外径に現われ易く、外径変動が起こり易くなる。したがって、一般にはこの制御の応答性と外径変動の安定性とのトレードオフとして、ガラス母材1の被加熱部3から一定の移動距離だけ離れたテーパ状の軟化部200の範囲において経験的に発見した最適位置で外径を測定し、引っ張り速度(下側チャック14の移動速度に依存)を制御している。
【0055】
この結果、被測定部位15は、被加熱部3から離れているために、被測定部位15での外径を制御外径の設定値に合せようとして、引っ張り速度を制御しても、その効果は被加熱中心部210に最も顕著に現われ、かつその効果は被加熱中心部210から被測定部位15までの移動時間を経過したのちでなければ検出できず、制御命令をフィードバックできないことになる。
【0056】
ガラス母材1の下端P1近傍に位置する円錐形状のテーパー部11a付近を延伸する場合、被加熱中心部210での外径が定常部分延伸時の外径に近くなっても、被測定部位15の外径が定常部分延伸時の制御外径の設定値よりもかなり小さいという位置関係にある。したがって、下側チャック14の移動速度は小さくなるように制御されるが、被加熱中心部210での外径は定常部分延伸時のそれとあまり変わらないために、仕上り外径が逆に太くなる。
【0057】
これに対し、延伸体の上端(ガラス母材1の上端P2近傍に位置するテーパー部11bに対応する部分)が太くなる原因は、ガラス母材1の上端と下端で軟化部200と被測定部位15におけるガラス母材1の各外径の大きさの関係が逆になっていることから、本質的に異なる。
【0058】
前述のように、制御外径は、被測定部位15で測定された外径から仕上り外径までの一定の縮径を見込んで設定されている。しかし、この縮径の大きさは、ガラス母材1の外径によって異なるものであり、該ガラス母材1の外径が大きければ、縮径も大きく、該ガラス母材1の外径が小さければ、縮径も小さくなる。
【0059】
そこで、ガラス母材1の上端P2近傍に位置する円錐形状のテーパー部11b付近を延伸する場合、軟化部200の外径が徐々に小さくなってくる(テーパー部11bを加熱しているため)ため、被測定部位15での外径と仕上り外径との差も小さくなってくる。この状態で被測定部位15での外径を定常状態の制御外径と一致させるように制御すると、仕上り外径が太くなる。
【0060】
すなわち、ガラス母材1の上端P2近傍に位置する円錐形状のテーパー部11bを延伸するとき、被測定部位15での外径が制御外径の値よりも小さくなると、上側チャック13あるいは下側チャック14は通常の延伸速度よりも遅くなるように制御される。しかし、この場合すでに被測定部位15を通り過ぎた、仕上り外径に近い部分もまだ温度が高く粘度が低いので、移動速度の低下の影響を受けて、結果的に得られた延伸体端部の仕上り外径が太くなる。
【0061】
従来、この両端部テーパー部11a、11b付近の延伸方法に関する発明として例えば特開平4-83728号公報に記載されている方法でも、これらの課題はまだ十分解決されていない。
【0062】
なお、上記実施例は、ガラス母材1の定常部分10の直径が一定の場合について実施したが、この発明はこれに限られるものではなく、該定常部分10の直径が変化する場合であっても、適用可能である。
【0063】
また、上記実施例では、ガラス母材1の下端P1近傍に位置するテーパー部11aを延伸するときは、上側チャック13の移動速度を一定として、下側チャック14の移動速度を制御している。この実施例の変形例としては、上側チャック13の移動速度をテーパー部11aの外径の増加に対応して減少させてもよい。これは、ガラス母材1の外径の変化による熱容量の変化に対応して各チャック13、14の移動速度を変化させて軟化部200の粘度をできるだけ一定とし、一層精度のよい仕上り外径を得るためである。
【0064】
同じ理由により、ガラス母材1の上端P2近傍に位置するテーパー部11bを延伸するときは、外径の減少に応じて下側チャック14の移動速度を増加するように設定した状態で、上側チャック13の移動速度を制御させてもよい。
【0065】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、延伸前のガラス母材の外径が均一でない場合(テーパー部を有する場合)であっても、その全長にわたり外径が極めて均一な延伸体を得ることができ、資源の有効利用が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】延伸対象であるガラス母材の各部と、延伸後の延伸体の各部をそれぞれ対応させた説明をするための図である。
【図2】この発明に係る延伸方法を実施するための装置の構成を示す図である。
【図3】延伸動作の開始から延伸動作の終了までの、ガラス母材の形状変化を説明するための概念図である。
【図4】図3(c)に示されたガラス母材とヒーターの位置関係を説明するための図である。
【図5】定常状態から延伸動作の終了までの所定期間中の端部延伸動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートに示された端部延伸動作において、上側チャックの移動距離に対する制御外径の設定値の変化の関係を示すグラフである。
【図7】この発明に係る延伸方法により得られた延伸体の外観を示す図である。
【図8】延伸動作の開始から所定期間中の端部延伸動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートに示された端部延伸動作において、ガラス母材の位置に対する上側及び下側チャックの速度変化の関係を示すグラフである。
【図10】この発明に係る延伸方法を実施しなかったときの、延伸体の各端部の外観を示す図である。
【符号の説明】
1…ガラス母材、6…外径測定装置、7…制御ユニット、9…縦型加熱炉、10、110…定常部分、11a、11b、111a、111b…テーパー部、12a、12b…ダミー棒、13…上側チャック、14…下側チャック、15…外径被測定部位、100…延伸体、200…軟化部。
Claims (3)
- 所定の外径を有する定常部分の第1端と該第1端に対向する第2端のそれぞれに、該定常部分よりも小さい外径を有する第1及び第2テーパー部が設けられたガラス母材を長手方向に延伸し、所望の外径を有する延伸体を得るためのガラス母材の延伸方法において、
前記ガラス母材を第1の速度で、該ガラス母材の第1テーパー部側からヒーター内に送り込むことにより、該ガラス母材の第1テーパー部から第2テーパー部に向かって、該ガラス母材の所定部位を順次加熱して軟化させるための加熱工程と、
前記加熱工程と並行して行われる工程であって、前記ガラス母材の進行方向に沿って該ガラス母材の第1テーパー部を、前記第1の速度よりも早い第2の速度で移動させることにより、該ガラス母材に引っ張り応力を加えるための延伸工程と、
前記加熱工程及び前記延伸工程と並行して行われる工程であって、前記ヒーターにより加熱され軟化している、前記ガラス母材の軟化部の外径を外径測定器で測定しながら、該外径測定器から得られる測定値が予め設定された制御外径の設定値に一致するよう、前記第1の速度及び前記第2の速度のうち少なくともいずれか一方を調節するための制御工程とを備え、
少なくとも、前記ガラス母材の前記定常部分の第2端と前記ヒーターの開口位置との間隔が所定値になった時点から延伸終了時点までの期間中、前記制御外径の設定値を、前記ヒーター内へ送り込まれる前記ガラス母材の移動距離に対応して、段階的に減少させることを特徴とするガラス母材の延伸方法。 - 前記ガラス母材の前記定常部分の第2端と前記ヒーターの開口位置との間隔が所定値になった時点から延伸終了時点までの期間中、いずれかの時点から延伸終了時点まで前記ヒーターへの前記ガラス母材の送り込み動作を停止することを特徴とする請求項1記載のガラス母材の延伸方法。
- 所定の外径を有する定常部分の第1端と該第1端に対向する第2端のそれぞれに、該定常部分よりも小さい外径を有する第1及び第2テーパー部が設けられたガラス母材を長手方向に延伸し、所望の外径を有する延伸体を得るためのガラス母材の延伸方法において、
前記ガラス母材を第1の速度で、該ガラス母材の第1テーパー部側からヒーター内に送り込むことにより、該ガラス母材の第1テーパー部から第2テーパー部に向かって、該ガラス母材の所定部位を順次加熱して軟化させるための加熱工程と、
前記加熱工程と並行して行われる工程であって、前記ガラス母材の進行方向に沿って該ガラス母材の第1テーパー部を、前記第1の速度よりも早い第2の速度で移動させることにより、該ガラス母材に引っ張り応力を加えるための延伸工程と、
前記加熱工程及び前記延伸工程と並行して行われる工程であって、前記ヒーターにより加熱され軟化している、前記ガラス母材の軟化部の外径を外径測定器で測定しながら、該外径測定器から得られる測定値が予め設定された制御外径の設定値に一致するよう、前記第1の速度及び前記第2の速度のうち少なくともいずれか一方を調節するための制御工程とを備え、
少なくとも、延伸開始時点から、前記ガラス母材の前記定常部分の第1端と前記ヒーターの開口位置との間隔が所定値になった時点までの期間中、前記制御外径の設定値を、前記ヒーター内へ送り込まれる前記ガラス母材の移動距離に対応して、段階的に増加させることを特徴とするガラス母材の延伸方法。
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