JP3931622B2 - 樹脂構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、気体および/または液体の耐透過性に優れた樹脂構造体に関するものである。特に、ポリオレフィン樹脂とポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂、例えばポリフェニレンスルフィド樹脂を特定の相構造を形成させることによって得られる特異的な強靱性、耐透過性、成形加工性を有する樹脂構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂は、最も一般的なプラスチックとして日用雑貨、玩具、機械部品、電気・電子部品および自動車部品などに幅広く用いられている。しかし、近年、安全性、保存安定性、更には環境汚染防止性を確保するために内容物の漏洩防止、外気の混入防止等の目的でガスバリア性(耐透過性)が要求される樹脂製品が増加してきている。中でも、自動車燃料タンクなどにおいては軽量性、成形加工のし易さ、デザインの自由度、取扱いの容易さなどの点から金属製からプラスチック製への転換が活発に検討されていが、安全性、保存安定性、更には環境汚染防止性を確保するために内容物の漏洩防止、外気の混入防止が重要となり、耐透過性を有する材料が求められている。しかし、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製容器は最も一般的なプラスチック容器であるが、ガソリンや特定のオイルに対するバリア性が不十分であるために、その使用範囲を制約されることが多い状況にあり、その改善が望まれている。
【0003】
これを改良する方法として、前記ポリオレフィン樹脂中にバリア性の高いポリフェニレンスルフィド樹脂などの熱可塑性樹脂をブレンドしアロイ化することも提案されているが、ポリフェニレンスルフィド樹脂は靭性の低い樹脂であり、ポリオレフィン樹脂の特徴のひとつである強靱性を著しく低下させる。特開2001−151087号公報ではポリオレフィン系のエラストマーと熱可塑性樹脂を溶融混練する際に第3成分として相溶性向上剤を用いることで両者の界面張力が低下し、分散相の粒径が微細になることから両成分の特性を有効に発揮できることが開示されている。このように相溶性向上剤を加えることでポリオレフィン樹脂とポリフェニレンスルフィド樹脂の界面接着性を強化することで靭性の向上は見られるが、高速面衝撃試験においては成形時の溶融樹脂の流れ方向に沿って割れが生じるなど充分ではない。また相溶性向上剤を多量添加することで靭性の改良は達成されるが相溶性向上剤を多量添加すると流動性が著しく低下し、成形性が悪くなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリオレフィン樹脂の本質的特徴である強靱性の性質の低下を抑制した上でポリオレフィン樹脂のバリア性の向上を課題とし、薬液およびガスのバリア性を特異的に向上させた樹脂構造体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは前記の課題を解決すべく検討した結果、ポリオレフィン樹脂とポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂および相溶性向上剤を特定量配合して得られる樹脂構造体において、電子顕微鏡において観察されるポリオレフィン樹脂相とポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂相の界面相の厚みが20〜100nmになるように制御することにより前記課題が解決されることを見出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち本発明は、
(1) (a)ポリエチレン20〜80重量%および(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂80〜20重量%からなる樹脂組成物100重量%に対し、(c)酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ基含有オレフィン系共重合体から選ばれる相溶性向上剤0.1〜60重量%を含有してなる樹脂組成物体で構成され、かつ、該樹脂組成物からなる成形品の電子顕微鏡で観察される(a)ポリエチレン相と(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂相の界面相の厚みが25〜100nmであることを特徴とする樹脂構造体、
(2) (b)の熱可塑性樹脂組成物がポリアミド樹脂であり、(c)の相溶性向上剤が酸変性ポリオレフィンであることを特徴とする前記(1)に記載の樹脂構造体、
(3) (b)の熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂であり、(c)の相溶性向上剤がエポキシ基含有オレフィン系共重合体であることを特徴とする前記(1)に記載の樹脂構造体、
(4) (a)ポリエチレンが、密度0.94〜0.97g/cm 3 の高密度ポリエチレンであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂構造体、
(5) (c)酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ基含有オレフィン系共重合体から選ばれる相溶性向上剤と(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂全量または一部を予め溶融混練した後、(a)ポリエチレンと溶融混練することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂構造体の製造方法、
(6) (c)酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ基含有オレフィン系共重合体から選ばれる相溶性向上剤と(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂全量または一部を予め溶融混練した後、(a)ポリエチレンと溶融混練することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂構造体、
(7) 樹脂構造体が薬液および/またはガスの搬送または貯蔵用容器である前記(1)〜(4)および(6)のいずれかに記載の樹脂構造体、
を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0008】
本発明では(a)成分としてポリエチレンを用いる。
【0013】
より好ましくは、低、中および高密度ポリエチレン、特に好ましくは、密度0.94〜0.97g/cm 3 の高密度ポリエチレンである。
【0014】
本発明の(a)ポリエチレン樹脂のメルトフローレート(以下MFRと略す:ASTM D 1238)は0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は衝撃強度が低くなるため好ましくない。
【0015】
本発明で用いられる(a)ポリエチレン樹脂の製造方法については特に制限はなく、ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、アニオン重合、メタロセン触媒を用いた配位重合などいずれの方法でも用いることができる。
【0019】
本発明に用いられる(b)熱可塑性樹脂は、樹脂構造体の使用目的に応じて適宜選択することができ、ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す)から選ばれる少なくとも1種であり、これらは2種以上の混合物として使用しても良い。特に好ましくはPPS樹脂である。また、更にこれらの熱可塑性樹脂を耐衝撃性、成形加工性、バリア性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0022】
好ましいポリアミド樹脂としては、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0023】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、150℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0024】
とりわけ好ましいポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、またナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/12、およびナイロン6T/6コポリマーなどのヘキサメチレテレフタルアミド単位を有する共重合体を挙げることができ、更にこれらのポリアミド樹脂を耐衝撃性、成形加工性、相溶性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0025】
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、特に2.0〜6.0の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
【0026】
また、本発明のポリアミド樹脂には、長期耐熱性を向上させるために銅化合物が好ましく用いられる。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量%に対して0.01〜2重量%であることが好ましく、さらに0.015〜1重量%の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
好ましいPPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0028】
【化1】
【0029】
耐熱性の観点からは前記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0030】
【化2】
【0031】
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常5〜2000Pa・s(320℃、剪断速度1000sec-1)のものが使用され、10〜500Pa・sの範囲がより好ましい。
【0032】
かかるPPS樹脂は通常公知の方法即ち特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法或は特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造できる。本発明において前記の様に得られたPPS樹脂を空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など種々の処理を施した上で使用することももちろん可能である。
【0033】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法が例示できる。加熱処理温度は通常、170〜280℃が選択され、好ましくは200〜270℃である。また、加熱処理時間は通常0.5〜100時間が選択され、好ましくは2〜50時間であるが、この両者をコントロールすることにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理ためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0034】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法が例示できる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0035】
本発明で用いられるPPS樹脂は脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。かかる脱イオン処理の具体的方法としては酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理および有機溶媒洗浄処理などが例示でき、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いても良い。
【0036】
PPS樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、洗浄に用いる有機溶媒としては、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド、スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール、フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。これらの有機溶媒のなかでN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどの使用が好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上を混合して使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。また有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0037】
PPS樹脂を熱水で洗浄処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧で或いは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0038】
PPS樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸はPPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などがあげられる。中でも酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するために、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0039】
本発明においては用いられる(c)相溶性向上剤としては、不飽和ジカルボン酸無水物をラジカル開始剤を用いてグラフト化処理を行って導入した酸変性ポリオレフィンやα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするエポキシ基含有オレフィン系共重合体などが挙げられ、これらは2種以上同時に使用することもできる。
【0040】
酸変性ポリオレフィンに用いられる不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などがあり、特に無水マレイン酸が好適である。また、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体に用いられる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸のいずれかあるいはその混合物などが挙げられ、一部不飽和カルボン酸エステルを含んでもかまわない。
【0041】
本発明において、相溶性向上剤の配合量は、(a)ポリエチレンと前記(b)熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物100重量%にたいして0.5〜60重量%であることが好ましい。より好ましくは1〜50重量%、特に好ましくは1〜40重量%である。相溶性向上剤の配合量が0.5重量%未満であると充分な相溶性を得ることができず、靭性の低下をきたすため好ましくない。配合量が60重量%を超えると流動性が著しく低下し、成形加工性が悪くなるため好ましくない。
【0042】
本発明における界面厚みとは、(a)ポリエチレンと前記(b)熱可塑性樹脂相の境界において両成分が共存する領域の厚みであり、その厚みの測定方法については特に制限はないが、例えばポリオレフィン樹脂を四酸化ルテニウムで染色した後、透過型電子顕微鏡により観察することで直接計測することができる。この界面厚みは25〜100nmであることが必要である。界面厚みのより好ましい下限は30nmである。界面厚みが25nm未満になると相間の界面強度が弱く、本発明の樹脂構造体の特徴である強靱性を発現することが困難となり、本発明の目的を達成することが出来ない。一方、界面厚みのより好ましい上限は90nmであり、さらに好ましくは80nmである。界面厚みが100nmを超えると流動性が著しく低下し、成形加工性が悪くなるため好ましくない。
【0043】
本発明の樹脂構造体のおける界面厚みを制御する方法としては、相溶性向上剤の配合量を増加する方法など特に制限なくが挙げられるが、配合量を増加した場合、相溶性向上剤が親和性の高い樹脂成分に偏在化してしまい、添加量に見合う充分な相溶性を得ることができず界面厚みを大きくすることができない。また相溶性向上剤を増量しすぎると界面厚みは厚くなるが流動性の低下を引き起こし、成形加工性が悪くなる。本発明のように相溶性向上剤を予め親和性の低い樹脂成分と溶融混練した後に、該樹脂混練物をもう一方の樹脂成分と溶融混練することにより、相溶化向上剤を効率よく働かすことができ、適切な界面厚みを制御することができる。
【0044】
本発明における樹脂構造体の相構造(モルホロジー)は、(a)ポリエチレンが分散相前記(b)熱可塑性樹脂成分が連続相を形成する相構造、(a)ポリエチレンが連続相前記(b)熱可塑性樹脂成分が分散相となる相構造、(a)ポリエチレンおよび前記(b)熱可塑性樹脂がともに連続相を形成するような相構造のうち、いずれの相構造を形成してもよい。また樹脂構造体の種々の場所で複数の相構造が共存しても良い。この相構造は、走査型および透過型電子顕微鏡を用いて観察し、確認する。
【0045】
本発明の樹脂構造体における(a)成分のポリエチレンおよび(b)成分の熱可塑性樹脂の配合割合は、ポリエチレン20〜80重量%、熱可塑性樹脂80〜20重量%である。好ましくは、ポリエチレン25〜75重量%、熱可塑性樹脂75〜25重量%である。更に好ましくは、ポリエチレン30〜70重量%、熱可塑性樹脂70〜30重量%である。(a)成分のポリエチレンが80重量%を超えると、本発明の樹脂成形体の特徴である高バリア性の発現が困難となり、本発明の目的を達成することが出来ない。また、(a)成分のポリエチレンが20重量%未満になると樹脂成形体の靭性低下をきたすので好ましくない。
【0046】
本発明の樹脂構造体には機械的強度、剛性やバリア性を付与するために無機充填材を使用することが可能であり、その材料は特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填剤を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ−ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。
【0047】
また、これら無機充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、およびエポキシ化合物などのカップリング剤および膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理して使用することは、より優れた機械的強度、バリヤ性を得る意味において好ましい。
【0048】
前記の無機充填剤の含有量は、(a)ポリエチレンおよび前記(b)熱可塑性樹脂の合計量100重量%に対し、0.1〜200重量%であることが好ましい。より好ましくは0.5〜200重量%、特に好ましくは1〜150重量%である。
【0049】
本発明の樹脂構造体には導電性を付与するために導電性フィラーおよび/又は導電性ポリマーを使用することが可能であり、その材料は特に限定されるものではないが、導電性フィラーとして、通常樹脂の導電化に用いられる導電性フィラーであれば特に制限は無く、その具体例としては、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、金属酸化物、導電性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、炭素繊維、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。
【0050】
金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
【0051】
金属繊維の金属種の具体例としては鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、黄銅などが例示できる。
【0052】
かかる金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0053】
金属酸化物の具体例としてはSnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)、ZnO(アルミニウムドープ)などが例示でき、これらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0054】
導電性物質で被覆された無機フィラーにおける導電性物質の具体例としてはアルミニウム、ニッケル、銀、カーボン、SnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機フィラーとしては、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛系ウィスカー、酸化チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0055】
カーボン粉末はその原料、製造法からアセチレンブラック、ガスブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラックなどに分類される。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、その原料、製造法は特に限定されないが、アセチレンブラック、ファーネスブラックが特に好適に用いられる。またカーボン粉末は、その粒子径、表面積、DBP吸油量、灰分などの特性の異なる種々のカーボン粉末が製造されている。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、これら特性に特に制限は無いが、強度、電気伝導度のバランスの点から、平均粒径が500nm以下、特に5〜100nm、更には10〜70nmが好ましい。また比表面積(BET法)は10m2/g以上、更には30m2/g以上が好ましい。またDBP給油量は50ml/100g以上、特に100ml/100g以上が好ましい。また灰分は0.5重量%以下、特に0.3重量%以下が好ましい。
【0056】
かかるカーボン粉末はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。また溶融混練作業性を向上させるために造粒されたものを用いることも可能である。
【0057】
本発明の樹脂構造体は、しばしば表面の平滑性が求められる。かかる観点から、本発明で用いられる導電性フィラーは、本発明で用いられる(c)無機充填材同様、高いアスペクト比を有する繊維状フィラーよりも、粉状、粒状、板状、鱗片状、或いは樹脂構造体中の長さ/直径比が200以下の繊維状のいずれかの形態であることが好ましい。
【0058】
導電性ポリマーの具体例としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンなどが例示できる。
【0059】
前記導電性フィラーおよび/又は導電性ポリマーは、2種以上を併用して用いても良い。かかる導電性フィラー、導電性ポリマーの中で、特にカーボンブラックが強度、経済性の点で特に好適に用いられる。
【0060】
本発明で用いられる導電性フィラーおよび/又は導電性ポリマーの含有量は、用いる導電性フィラーおよび/又は導電性ポリマーの種類により異なるため、一概に規定はできないが、導電性と流動性、機械的強度などとのバランスの点から、(a)および(b)成分の合計100重量%に対し、1〜250重量%、好ましくは3〜100重量%の範囲が好ましく選択される。また、更に好ましくは(a)成分と(b)成分の合計100重量%に対し、3〜100重量%の範囲が導電性機能を付与するために好ましく選択される。
【0061】
また導電性を付与した場合、十分な帯電防止性能を得る意味で、その体積固有抵抗が1010Ω・cm以下であることが好ましい。但し前記導電性フィラー、導電性ポリマーの配合は一般に強度、流動性の悪化を招きやすい。そのため目標とする導電レベルが得られれば、前記導電性フィラー、導電性ポリマーの配合量はできるだけ少ない方が望ましい。目標とする導電レベルは用途によって異なるが、通常体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下の範囲である。
【0062】
本発明における構造体中には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0063】
本発明の樹脂構造体を得る方法としては、本発明が要件とする界面厚みを有する樹脂構造体が得られれば、特に制限はなく、以下の方法に限定されることはないが、相溶化向上剤とポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂を予め混練した後にポリオレフィンと溶融混練する方法が効率的に界面厚みを制御することができるため好適であり、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーからポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂と相溶性向上剤を供給し、ポリオレフィン樹脂を押出機の先端部分のサイドフィーダーから供給する方法や事前にポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂と相溶性向上剤を溶融混練した後、ポリオレフィン樹脂と溶融混練する方法などが挙げられる。
【0064】
本発明の樹脂構造体には種々の形に賦形された態様があり、特に溶融成形体を得る成形方法には、公知の方法(射出成形、押出成形、吹込成形、プレス成形等)を採用できる。また、成形温度については、通常、ポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、一般的には、単層であるが、2色射出成形法や共押出成形法などの方法により多層構造体としてもかまわない。
【0065】
ここで多層構造体とは、本発明の該樹脂構造体をその少なくとも一層にもつ構造体を言う。各層の配置については特に制限はなく、全ての層を本発明の樹脂構造体で構成してもよいし、他の層にその他の熱可塑性樹脂で構成してもよい。
【0066】
このような多層構造体は、2色射出成形法などによっても製造し得るが、フィルム状またはシ−ト状として得る場合は各々の層を形成する組成物を別個の押出機で溶融した後、多層構造のダイに供給し、共押出成形する方法、予め他の層を成形した後、本発明の樹脂構造体層を溶融押出するいわゆるラミネ−ト成形法などにより製造することができるが、積層構造体の形状が瓶、樽、タンクなどの中空容器やパイプ、チュ−ブなどの管状体である場合は、通常の共押出成形法を採用することができ、例えば内層を本発明の樹脂構造体層、外層を他の樹脂層で形成する2層中空成形体の場合、2台の押出機へ、前記樹脂構造体組成物と他の樹脂構造体とを別々に供給し、これら2種の溶融樹脂を共通のダイ内に圧力供給して、各々環状の流れとなした後、樹脂構造体層を内層側に、他の樹脂層を外層側になるように合流させ、ついで、ダイ外へ共押出して、通常公知のチューブ成形法、ブロー成形法などを行うことにより、2層中空成形体を得ることができる。また、3層中空成形体の場合には、3台の押出機を用いて前記と同様の方法にて3層構造にするか、または2台の押出機を用いて2種3層構造の中空成形体を得ることも可能である。これらの方法の中では層間接着力の点で共押出成形法を用いて成形することが好ましい。
【0067】
他の層として用いられる熱可塑性樹脂としては、飽和ポリエステル、ポリスルホン、四フッ化ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリケトン共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリウレタン、ポリオレフィン、ABS、ポリアミドエラストマ、ポリエステルエラストマーなどが例示でき、これらの混合物としたり各種添加剤を添加して用いることもできる。
【0068】
本発明の樹脂構造体はその優れたバリア性、耐久性、成形加工性を活かし、薬液および/またはガス搬送あるいは薬液および/またはガス貯蔵に用いられる容器として好ましく用いることができる。薬液やガスとしては、例えば、フロン−11、フロン−12、フロン−21、フロン−22、フロン−113、フロン−114、フロン−115、フロン−134a、フロン−32、フロン−123、フロン−124、フロン−125、フロン−143a、フロン−141b、フロン−142b、フロン−225、フロン−C318、R−502、1,1,1−トリクロロエタン、塩化メチル、塩化メチレン、塩化エチル、メチルクロロホルム、プロパン、イソブタン、n−ブタン、ジメチルエーテル、ひまし油ベースのブレーキ液、グリコールエーテル系ブレーキ液、ホウ酸エステル系ブレーキ液、極寒地用ブレーキ液、シリコーン油系ブレーキ液、鉱油系ブレーキ液、パワーステアリングオイル、ウインドウオッシャ液、ガソリン、メタノール、エタノール、イソプタノール、ブタノール、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、メタン、プロパン、天然ガス、アルゴン、ヘリウム、キセノン、医薬剤等の気体および/または液体あるいは気化ガス等の耐透過性が優れていることから、例えば、前記気体および/または液体の耐透過性フィルムを始めとして、エアバック、シャンプー、リンス、液体石鹸、洗剤等の各種薬剤用ボトル、薬液保存用タンク、ガス保存用タンク、冷却液タンク、オイル移液用タンク、消毒液用タンク、輸血ポンプ用タンク、燃料タンク、キャニスター、ウォッシャー液タンク、オイルリザーバータンクなどの自動車部品、医療器具用途部品に用いられる。さらに本発明の樹脂構造体はこれらの容器の付属部品としても使用できる。一般生活器具部品としてのタンク、ボトル状成形品やまたはそれらタンク、ボトルに付属するカットオフバルブ、ORVRバルブなどのバルブや継手類、付属ポンプのゲージ、ケース類などの部品、フューエルフィラーアンダーパイプ、ORVRホース、リザーブホース、ベントホースなどの各種燃料チューブの接続部品(コネクター等)、オイルチューブの接続部品、ブレーキホースの接続部品、ウインドウオッシャー液用ノズル、冷却水、冷媒等用クーラーホースの接続用部品、エアコン冷媒用チューブの接続用部品、床暖房パイプの接続部品、消火器および消火設備用ホース、医療用冷却機材用チューブの接続用部品やバルブ類、その他薬液およびガス搬送用チューブ用途、薬品保存用容器等の薬液および耐ガス透過性が必要とされる用途、自動車部品、内燃機関用途、電動工具ハウジング類などの機械部品を始め、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品、建材関係部品、家具用部品など各種用途が挙げられる。
【0069】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
(1)アルコールガソリン透過性
直径40mmの押出機の先端にチューブ状に成形するダイス、チューブを冷却し寸法制御するサイジングダイ、および引取機からなるものを使用し、外径:8mm、内径:6mmのチューブを成形した。該チューブを20cm長にカットし、チューブの一端を密栓し、内部にモデルガソリン(トルエン//イソオクタン=50//50体積%)とエタノールを90対10重量比に混合したアルコールガソリン混合物を6g精秤し内部に仕込み、残りの端部も密栓した。その後、全体の重量を測定し、試験チューブを40℃の防爆型オーブンにいれ、500時間処理し、減量した重量を測定した。
(2)酸素透過性
JIS K7126 A法(差圧法)に準じて“GTR−10”(ヤナコ分析工業製)を用いて測定を行った。
(3)高速面衝撃試験
射出成形によりにより調製した角板成形片(厚さ1mm)を調整した。この成形片の面衝撃試験値を“SurboPulser”(島津製作所製)を用いて速度2.5m/s、23℃で測定した。
(4)溶融粘度
プランジャー式キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所社製、“キャピログラフ” タイプ1C)を用いて、温度300℃でのせん断速度1000秒-1における溶融粘度(Pa・s)を測定した。
(5)材料強度
以下の標準方法に従って測定した。
引張強度 :ASTM D638
曲げ弾性率 :ASTM D790
(6)界面厚みの観察、計測
ASTM1号試験片の電子顕微鏡観察用にトリミングした後、四酸化ルテニウムで染色して得た観察サンプルを透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察を行ない、得られた顕微鏡写真中の界面部の厚みを実測した。
【0070】
実施例および比較例で使用したポリエチレンおよび熱可塑性樹脂は以下のとおり。なお、特に断らない限りはいずれも常法に従い重合を行い、調製した。
<ポリオレフィン樹脂:PO>
(PO−1):MFR0.04g/10分、密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレン。
(PO−2):MFR6g/10分、密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレン。
<ポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂>
(PPS−1):融点280℃、MFR100g/10分、Mw70000、3100Pa・s(300℃、剪断速度200sec−1)のPPS樹脂。
(PPS−2):融点280℃、MFR600g/10分、Mw38000、900Pa・s(300℃、剪断速度200sec−1)のPPS樹脂。
(PA):融点225℃、相対粘度2.35のナイロン6樹脂。
<相溶性向上剤:CO>
(CO−1):MFR3g/10分、エチレン/グリシジルメタクリレ−ト=94/6(重量%)共重合体。
(CO−2):MFR6g/10分、密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレン100重量%、無水マレイン酸1部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.1部を混合し、2軸押出機を用いてシリンダー温度230℃で溶融押出して得られた変性ポリエチレン。
【0071】
実施例1〜6
表1中の一段階目に示す配合比で相溶化向上剤と熱可塑性樹脂を日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のフィダーから供給し、混練温度250〜300℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行った。つづいて得られた樹脂混練物とポリオレフィン樹脂および熱可塑性樹脂の残り配合分を日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機を用いて、混練温度250〜300℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行った。得られたペレットは乾燥後、射出成形(東芝機械社製IS100FA、シリンダー温度250〜300℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルのバリア性、高速面衝撃試験および材料強度などを測定した結果は表1に示すとおりであった。
【0072】
比較例1〜4
表1中に示す配合比でポリオレフィン樹脂、相溶化向上剤および熱可塑性樹脂を日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のフィダーから供給し、混練温度250〜300℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行った。得られたペレットは乾燥後、射出成形(東芝機械社製IS100FA、シリンダー温度250〜300℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルのバリア性、高速面衝撃試験および材料強度などを実施例と同様に測定した。
【0073】
比較例5
PO−1を射出成形(東芝機械社製IS100FA、シリンダー温度230℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。バリア性、高速面衝撃試験および材料強度などを実施例と同様に測定した。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1〜6および比較例1〜5より特定の界面厚みを有する本発明の樹脂構造体は、バリア性、衝撃性に優れた特性を有する実用価値の高いものである。
【0076】
【発明の効果】
本発明の樹脂構造体は、バリア性および成形加工性が良好であり、各種用途に展開可能であり、例えば電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品、建材、包装材、家具、日用雑貨などに適している。
Claims (7)
- (a)ポリエチレン20〜80重量%および(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂80〜20重量%からなる樹脂組成物100重量%に対し、(c)酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ基含有オレフィン系共重合体から選ばれる相溶性向上剤0.1〜60重量%を含有してなる樹脂組成物体で構成され、かつ、該樹脂組成物からなる成形品の電子顕微鏡で観察される(a)ポリエチレン相と(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂相の界面相の厚みが25〜100nmであることを特徴とする樹脂構造体。
- (b)の熱可塑性樹脂組成物がポリアミド樹脂であり、(c)の相溶性向上剤が酸変性ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂構造体。
- (b)の熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂であり、(c)の相溶性向上剤がエポキシ基含有オレフィン系共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂構造体。
- (a)ポリエチレンが、密度0.94〜0.97g/cm 3 の高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂構造体。
- (c)酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ基含有オレフィン系共重合体から選ばれる相溶性向上剤と(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂全量または一部を予め溶融混練した後、(a)ポリエチレンと溶融混練することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂構造体の製造方法。
- (c)酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ基含有オレフィン系共重合体から選ばれる相溶性向上剤と(b)ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂全量または一部を予め溶融混練した後、(a)ポリエチレンと溶融混練することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂構造体。
- 樹脂構造体が薬液および/またはガスの搬送または貯蔵用容器である請求項1〜4および6のいずれかに記載の樹脂構造体。
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