JP3928066B2 - 積層型光学薄膜およびその製造方法 - Google Patents

積層型光学薄膜およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、積層型光学薄膜およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、波長選択透過膜、反射膜、光非線形効果膜、光電変換装置、フォトクロミック素子、熱レンズ効果素子等の光技術、オプトエレクトロニクス技術に有用な、高機能性かつ高耐久性の積層型光学薄膜に関し、更に積層型光学薄膜を高品質、高効率で製造することのできる新しい製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、各種の組成からなる光学薄膜が様々な応用分野において使用されており、光の吸収あるいは干渉を利用した波長選択透過や反射機能を利用したものが古くから知られている。そして特に近年は、レーザー光を利用したオプトエレクトロニクスの分野において、用途面では光の多重性を利用した情報の多元並列高速処理のための応用や、現象面では光非線形効果ないし光電気効果の応用のため、従来とは異なる高い機能を有する光学薄膜の開発が盛んに進められている。
【0003】
このような新しい高機能光学薄膜を形成するための素材、その組成として注目されているものに有機系光学材料がある。この有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜の製造方法についても各種の検討がこれまでにも進められており、たとえば以下のような方法が知られている。
【0004】
(1)溶液、分散液、または、展開液を用いる湿式法
塗布法、ブレードコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法、平版、凸版、凹版、孔版、スクリーン、転写などの印刷法、電着法、電解重合法、ミセル電解法(特開昭63−243298号報)などの電気化学的手法、水の上に形成させた単分子膜を移し取るラングミア・ブロジェット法など。
【0005】
(2)原料モノマーの重合ないし重縮合反応を利用する方法
モノマーが液体の場合、キャスティング法、リアクション・インジェクション・モールド法、プラズマ重合法、光重合法など。
【0006】
(3)気体分子を用いる方法(加熱による気化法)
昇華転写法、蒸着法、真空蒸着法、イオンビーム法、スパッタリング法、プラズマ重合法、光重合法など。
【0007】
(4)溶融あるいは軟化を利用する方法
ホットプレス法(特開平4−99609号報)、溶媒再沈殿・加熱溶融法(特開平6−263885号報)、射出成形法、延伸法、溶融薄膜の単結晶化方法など。
【0008】
(5)真空下に置いた基板上に溶液または分散液を噴霧する方法
特開平6−306181号報および特開平7−252671号報に記載の方法。
一般に、有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜を実用に給するためには、基本的要件として、次のような現象を充分に制御する必要がある。
[1]使用する光の波長帯域における光の散乱。
[2]使用する光の波長帯域における光の吸収。
[3]光照射にともなう温度上昇による揮発成分の蒸発・発泡。
【0009】
まず、有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜に要求される基本的要件の第1点として、使用する光の波長帯域における光の散乱が極めて重要である。液晶ディスプレイの光源光を散乱させ、均一化させるための光拡散膜のように、光を散乱させることを目的とする場合を除き、使用する光の波長帯域における光の散乱は少なければ少ないほど好ましい。有機系光学薄膜が結晶性の高い有機化合物を含有している場合、光の散乱を小さくするためには、結晶性有機化合物の単結晶薄膜を用いる方法、結晶性有機化合物の結晶サイズを使用する光の波長帯域における光の波長に比べ著しく小さくする(例えば、波長の1/10以下とする)方法、結晶性有機化合物を単独で、あるいは他の成分と共存させて非晶質として存在させる方法、および、マトリックス材料中に分子分散させる方法がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の成膜方法を用いて、結晶性の高い有機化合物を含有した光学薄膜を光散乱が小さくなるよう作成しようとした場合、次のような種々の課題がある。
【0011】
結晶性有機化合物の単結晶薄膜の場合、
(1)溶融薄膜の単結晶化方法が各種提案されているが、この方法を適用できるのは融点を示す化合物に限定される。
(2)溶融温度における熱分解を避けることは容易でない。
(3)単結晶の方位に対応して、膜に異方性が生じることを避けることができない。
【0012】
結晶性有機化合物の結晶の場合、
(1)結晶性有機化合物の微結晶を媒体またはマトリックス材料の液状前駆体(例えば重合性オリゴマー、モノマーなど)に分散させて湿式で成膜する場合、結晶成長を防止することは容易でない。特に、可視光線の波長の1/10以下、すなわち、40nmないし75nmの粒子サイズで結晶性有機化合物の微結晶を安定に存在させるには結晶成長抑制成分や界面活性剤を添加する必要がある等、制約が多い。
【0013】
(2)前記湿式法やキャスティング法で成膜する場合、媒体またはマトリックス材料の前駆体などの揮発成分が光学薄膜中に残留することを避けることができない。薄膜の厚さが1μmを越えない場合、高真空下で加熱処理を長時間行うことによって、揮発成分の大部分を除去することは可能である。しかし、膜厚が、例えば10μmを越える場合、高真空下で加熱処理を長時間行ったとしても、揮発成分は光学薄膜中に残留し、光学薄膜の光パワー耐久性を著しく損なう。すなわち、高パワー密度の光が通過する際、揮発成分が薄膜中で気化して気泡となり、光学薄膜を損傷させる。
【0014】
結晶性有機化合物を非晶質化させる場合、
(1)結晶性有機化合物の類似構造体を複数種類混合して存在させると、速度論的制御によって非平衡状態が実現、すなわち非晶質化できる。しかしながら、あくまで準安定状態であり、光照射による温度上昇などをきっかけにして結晶化が進行する恐れがある。
(2)基板温度を制御することによって非平衡条件で真空蒸着を行うと、結晶性有機化合物を単独で用いても、非晶質としての蒸着膜を得ることができる。しかしながら、速度論的に凍結された状態であり、光照射による温度上昇などをきっかけにして結晶化が進行する恐れがある。
【0015】
マトリックス材料中、分子分散(固溶化)させる場合、
(1)マトリックス材料が必須であり、溶質成分の高濃度化に限界がある。
(2)マトリックス材料に固溶化する性質の有機化合物しか使用できない。
【0016】
次に、有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜に要求される基本的要件の第2点として、使用する光の波長帯域における光の吸収が極めて重要である。波長選択透過膜、光電変換装置、熱レンズ効果素子などにおいて、有機光学材料はその吸収帯域の光に対して使用される。そこで吸収されたエネルギーのかなりの部分は熱エルギーに変換される。ここで、有機系光学薄膜が結晶性の高い有機化合物を含有している場合、該化合物が結晶として存在すると、吸収された熱が結晶外部へ放散するのに時間を要するため結果的に結晶内に蓄積されやすく、容易に熱分解開始温度まで到達し、光学薄膜の光パワー耐久性が著しく低下する。
【0017】
第3に、有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜から、光照射にともなう温度上昇によって気化する成分を徹底的に除去する必要がある。特に高パワーのレーザー光を収束させて照射するような使用形態において重要である。前述のように、前記湿式法やキャスティング法など湿式で成膜する場合だけでなく、溶融あるいは軟化を利用する方法や真空下に置いた基板上に溶液または分散液を噴霧する方法を用いる場合であっても、成膜材料の段階または成膜工程のいずれかの段階において、有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜を徹底的に脱気処理する必要がある。ここで、有機系光学材料が昇華性の高い有機化合物を含有している場合、脱気処理の際、昇華性成分が昇華して失われ、有機系光学材料の組成が所定の割合から外れてしまうという問題がある。
【0018】
そこで、この発明は、以上の通りの従来技術の欠点を解消し、昇華性かつ結晶性の有機化合物を非晶質状態、微小結晶状態、または固溶体として存在させ、光散乱を低減させた、耐久性の高い、より高機能な積層型光学薄膜を提供することを目的とする。
【0019】
この発明は、また、昇華性の高い有機化合物を所定の割合で含有し、かつ、揮発性の不純物を含有せず、さらに光照射による非晶質の結晶化や微結晶の結晶成長を抑制して、高パワー密度の光照射に耐える、より高機能な積層型光学薄膜を効率良く製造するための積層型光学薄膜の製造方法を提供することを目的としている。
【0020】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決するために、昇華性有機化合物が蒸着された第1基板の蒸着面と第2の基板の間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させる工程および前記第1、第2基板を圧着させる工程によって製造される積層型光学薄膜であって、
前記昇華性有機化合物が、下記の3つの状態からなる群の中から選択される少なくとも1つの状態にあることを特徴とする積層型光学薄膜を提供する。
【0021】
(a)非晶質状態、
(b)結晶粒子径が積層型光学薄膜に照射される可視光線の波長の1/5を越えない大きさの微小結晶状態、
(c)前記溶融性有機化合物を媒質とする固溶体。
【0022】
この発明は、また、上記課題を解決するために、昇華性有機化合物が蒸着された2枚の基板の昇華性有機化合物蒸着面を互いに向かい合わせ、その間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させ、更に2枚の基板を圧着させることによって製造される積層型光学薄膜であって、
前記昇華性有機化合物が下記の3つの状態の中から選択される少なくとも1つの状態であることを特徴とする積層型光学薄膜を提供する。
【0023】
(a)非晶質状態、
(b)結晶粒子径が積層型光学薄膜に照射される可視光線の波長の1/5を越えない大きさの微小結晶状態、
(c)前記溶融性有機化合物を媒質とする固溶体。
【0024】
この発明は、また、上記課題を解決するために、
少なくとも、第1基板の1面に有機化合物を蒸着する工程と、
前記有機化合物が蒸着された前記第1基板の蒸着面と第2の基板の間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させ、更に前記第1、第2基板を圧着させる工程と、を含むことを特徴とする積層型光学薄膜の製造方法を提供する。
【0025】
少なくとも、2枚の基板の各々1面に昇華性有機化合物を蒸着する工程と、
前記2枚の基板の前記有機化合物が蒸着された面を向き合わせ、その間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させ、更に2枚の基板を圧着させる工程と、を含むことを特徴とする積層型光学薄膜の製造方法を提供する。
【0026】
いずれの製造方法の場合も、上記の工程に先んじて、基板表面を例えば高真空下で浄化処理する工程を行っても良い。また、圧着工程に引き続き、積層膜の端面から水や酸素が侵入して悪影響を及ぼすのを防ぐ目的、および、昇華性成分が端面から徐々に昇華して失われるのを防ぐ目的で2枚の基板の周辺部分にモールディングを施す工程を加えても良い。
【0027】
【発明の実施の形態】
〔昇華性かつ結晶性有機化合物の例〕
まず、2次非線形光学効果を示す単結晶を形成する有機低分子化合物を挙げることができる。具体例としては、尿素およびその誘導体、m−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロ−アニリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−5−ニトロアセトアニリド、N,N’−ビス(4−ニトロフェニル)メタンジアミンなどのベンゼン誘導体、4−メトキシ−4’−ニトロビフェニルなどのビフェニル誘導体、4−メトキシ−4’−ニトロスチルベンなどのスチルベン誘導体、4−ニトロ−3−ピコリン=N−オキシド、(S)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)プロリノールなどのピリジン誘導体、2’,4,4’−トリメトキシカルコンなどのカルコン誘導体、チエニルカルコン誘導体などを挙げることができる。
【0028】
次に、紫外〜可視光線〜近赤外線の波長帯域において光吸収を示し、昇華性かつ結晶性の有機化合物(有機色素)の具体例として、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系色素、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド系色素などを挙げることができる。
【0029】
また、フォトクロミック現象を起こし、昇華性かつ結晶性の有機化合物として、6−ブロモ−1’,3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチル−8−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、5−クロロ−1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、5−クロロ−1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[9,10−b][1,4]オキサジン]、6,8−ジブロモ−1’,3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチルスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1’、3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1’、3’−ジヒドロ−5’−メトキシ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1’、3’−ジヒドロ−8−メトキシ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]フェナンスロ[9,10−b][1,4]オキサジン]、1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b]ピラン]、1,3−ジヒドロ−5−メトキシー1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b]ピラン]などのスピロピラン類、2,5−ジメチル−3−フリルエチリデンコハク酸無水物、2,5−ジメチル−3−フリルイロプロピリデンコハク酸無水物などのフルギド類、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイン酸無水物、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、cis−1,2−ジシアノ−1,2−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)エテンなどのジアリールエテン類などを挙げることができる。
【0030】
〔有機化合物の蒸着方法〕
通常の真空蒸着の他、大気圧力下における蒸着、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中での蒸着、スパッタリング法、イオンビーム法、クラスターイオンビーム法、または分子線エピタキシー法などの蒸着方法を用いることができる。
【0031】
【実施例】
以下、実施例を示し、さらに詳しくこの発明の方法について説明する。
【0032】
〔実施例1〕
真空蒸着装置にゲート弁を経由して接続された基板洗浄用真空容器の内部に中心波長185nm、出力5Wの紫外線ランプを2灯および中心波長254nm、出力5Wの紫外線ランプ2灯を、紫外線が基板表面に照射されるような配置で取り付け、基板としてガラス板(24mm×30mm×0.15mm)を1枚以上、搬入した後、真空容器内部に、大気圧下、直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた清浄な窒素ガスを満たして、内部に浮遊粉塵(直径0.1μm以上)および汚染性ガスが検出されなくなるまで雰囲気を清浄化してから直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた酸素ガスを導入し、酸素濃度を60%以上まで高めてから紫外線ランプを点灯し、1時間に渡り、基板表面の紫外線照射処理およびオゾン処理を行った。以上の浄化処理終了後、基板洗浄用真空容器内部を排気し、10−4Pa以下の高真空状態にしてから、同じく10−4Pa以下の高真空状態の真空蒸着装置内へ基板を移送した。予め蒸着源に導入しておいたスピロピラン化合物の1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ(2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン)(アルドリッチ社製)を抵抗線によって加熱し、150℃まで加熱して、上記基板上へ真空蒸着した。基板温度の制御は特に行わなかった。蒸着の進行を水晶振動子式膜厚計でモニターし、膜厚が0.5μmに到達した時点で蒸着源のシャッターを閉じ、蒸着を終了した。この段階においては、ガラス基板上の蒸着膜中、前記スピロピラン化合物は微結晶として存在しており、顕著な光散乱を起こし、膜は不透明である。
【0033】
一方、ポリ(メタクリル酸ベンジル)(アルドリッチ社製)0.1gをアセトン19gに溶解した溶液を撹拌しながらn−ヘキサン300ml中へ注ぎ、析出した樹脂小塊を濾過し、n−ヘキサン30mlにて洗浄し、清浄な空気中で溶剤を除去し、粒子外径が50μm未満の微粉末になるよう粉砕した。このポリ(メタクリル酸ベンジル)微粉末を10−4Pa以下の高真空容器中、徐々に加熱して40℃から50℃の温度範囲で48時間、脱気処理した。
【0034】
清浄な雰囲気下、先に作成したガラス基板上の前記スピロピラン蒸着膜の上に、高真空脱気処理した樹脂微粉末を散布し、その上にもう1枚のガラス基板(蒸着膜なし)を重ねて置き、これを高真空容器内に設置した加熱ステージ上に置き、10−4Pa以下まで排気し、95ないし100℃まで加熱し、一方、95ないし100℃まで加熱した加圧板を押しつけ、5kgf/cmの圧力で真空ホットプレスを行った。
【0035】
以上の手順によって、ガラス/前記スピロピラン化合物が固溶化したポリ(メタクリル酸ベンジル)/ガラスという構成の透明な積層型光学薄膜を作成した。この光学薄膜を透過型光学顕微鏡とクロスニコル配置に置いた偏光板の組み合わせによって観察し、前記スピロピラン化合物が微結晶としては存在していない(非晶質である)ことを確認した。
【0036】
また、この積層型光学薄膜の透過スペクトルを測定したところ、光散乱の影響は認められず、500nmから900nmの範囲において透過率90%以上であった(500nm未満、紫外線領域にかけては前記スピロピラン化合物の吸収が存在する)。
【0037】
なお、本実施例の積層型光学薄膜中の前記スピロピラン化合物が固溶化したポリ(メタクリル酸ベンジル)層の厚さは、ポリ(メタクリル酸ベンジル)微粉末の散布量、加熱温度(60℃から100℃程度)および加圧処理時間(数分から数十時間)を調整することによって、また、必要に応じてスペーサーを併用することによって、数μmから数百μmの範囲で調節可能である。
【0038】
本実施例の積層型光学薄膜のレーザー耐力を調べるため、Nd:YAGレーザーの波長532nmの高調波を色素レーザーで625nmに変換したレーザー光の出力を調節して、パルス光発振周期10Hz、パルス幅10ns、平均パワー20mWのパルス光を発振させ、この光を凸レンズにて照射点でのビーム断面積1.8×10−4cmに集光し、1.13GW/cmのピークパワー密度として本実施例の積層型光学薄膜[前記スピロピラン化合物が固溶化したポリ(メタクリル酸ベンジル)層の厚さ100μm]へ照射したが、光損傷は起こらなかった。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1で用いたスピロピラン化合物を実施例1と同様にして蒸着したガラス基板と、もう1枚のガラス基板(蒸着膜なし)の間に紫外線硬化樹脂(大日精化工業製「セイカビームVDAL−392」)を充填し、紫外線を照射して硬化させ、ガラス/前記スピロピラン化合物を含む紫外線硬化樹脂層/ガラスという構成の積層型光学薄膜を作成した。ガラス板上に蒸着された前記スピロピラン化合物は、一部、硬化前の紫外線硬化樹脂中に溶解するものの、大部分は微結晶として存在するため光散乱を起こし、得られた積層型光学薄膜の透過率は50%未満であった。
【0040】
この積層型光学薄膜(前記スピロピラン化合物を含む紫外線硬化樹脂層の厚さ100μm)へ、実施例1の場合と同様にしてピークパワー密度1.13GW/cmのレーザー光を照射したところ、1パルスの照射のみで著しい光損傷が起こった。
【0041】
〔比較例2〕
特開平10−202153号報に記載の方法に従い、実施例1で用いたスピロピラン化合物1重量部とポリ(メタクリル酸ベンジル)99重量部を溶解させたアセトン溶液(固形分0.1重量%)を、10−4Pa以下の高真空容器中へ置いた基板上へ噴霧し、このとき、基板の表面温度をポリ(メタクリル酸ベンジル)の溶融開始温度よりも高い温度(100℃)に加熱した。なお、前記スピロピラン化合物およびポリ(メタクリル酸ベンジル)ともに、100℃では分解しない。その結果、基板上にはポリ(メタクリル酸ベンジル)の平滑な膜が堆積したものの、膜内の前記スピロピラン化合物の濃度を顕微鏡下、紫外線分光吸収スペクトル法で測定したところ、位置によるムラが大きいだけでなく、平均濃度が通常の塗工法で作成したものよりも著しく低いことが判った。前記スピロピラン化合物が、真空下の成膜工程において堆積すると同時に、逐次、加熱された基板表面から昇華して失われたものと推定される。
【0042】
〔比較例3〕
実施例1で用いたスピロピラン化合物1重量部とポリ(メタクリル酸ベンジル)99重量部を溶解させたアセトン溶液(固形分10重量%)をアプリケーターを用いてスライドガラス上に塗工した。乾燥後の膜厚は20μmになるよう調節した。この塗工膜を、10−4Pa以下へ到達可能な真空容器中、60℃に加熱し、48時間、加熱処理を行った。処理前後の膜中の前記スピロピラン濃度減少はごく僅かであることが分光分析で確認された。
【0043】
この塗工膜について、実施例1の場合と同様にしてレーザー耐力を測定したところ、ピークパワー密度1.13GW/cmのレーザー光1パルスの照射のみで照射点に発泡が起こり、更に照射を続けると著しい光損傷が起こった。光損傷の原因は塗工膜中に残留した溶媒(アセトン)と推定される。そこで、特開平6−202179号報に記載されている有機系光材料の試験方法によって、この塗工膜を分析したところアセトンの存在が確認された。
【0044】
〔実施例2〕
前記スピロピラン化合物の代わりにプラチナフタロシアニンを用い、蒸着源の温度を600℃とした他は実施例1の場合と同様にして、清浄なガラス基板の表面にプラチナフタロシアニンを蒸着した。蒸着の進行を水晶振動子式膜厚計でモニターし、膜厚が0.2μmに到達した時点で蒸着源のシャッターを閉じ、蒸着を終了した。
【0045】
このようにして基板上に作成した蒸着膜表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、上記条件で真空蒸着したプラチナフタロシアニンは外径30ないし50nmの粒子状態で存在していることが判った。この粒子径は可視光線の波長(400ないし800nm)の1/5未満であり、光散乱を起こさない大きさである。
【0046】
一方、ポリカーボネイト樹脂(帝人化成製パンライトL1250)1gをジクロロメタン19gに溶解した溶液を撹拌しながらn−ヘキサン300ml中へ注ぎ、析出した樹脂小塊を濾過し、n−ヘキサン30mlにて洗浄し、清浄な空気中で溶剤を除去し、粒子外径が50μm未満の微粉末になるよう粉砕した。このポリカーボネイト樹脂微粉末を10−4Pa以下の高真空容器中、徐々に加熱して100℃から120℃の温度範囲で48時間、脱気処理した。
【0047】
清浄な雰囲気下、先に作成したガラス基板上のプラチナフタロシアニン蒸着膜の上に、高真空脱気処理した樹脂微粉末を散布し、その上にもう1枚のガラス基板上のプラチナフタロシアニン蒸着膜を重ねて置き、これを高真空容器内に設置した加熱ステージ上に置き、10−4Pa以下まで排気し、240ないし260℃まで加熱し、一方、240ないし260℃まで加熱した加圧板を押しつけ、5kgf/cmの圧力で真空ホットプレスを行った。
【0048】
以上の手順によって、ガラス/プラチナフタロシアニン蒸着膜(膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層/プラチナフタロシアニン蒸着膜(膜厚0.2μm)/ガラスという構成の積層型光学薄膜を作成した。
【0049】
樹脂粉末の散布量、加熱温度および加圧処理時間(数分から数時間)を調整することによって、ポリカーボネイト樹脂層の膜厚が10μmないし200μmものを作成した。
【0050】
ポリカーボネイト樹脂層の厚さ100μmの場合の、本実施例の積層型光学薄膜の透過スペクトルを図1に示す。このスペクトルから、プラチナフタロシアニンの吸収帯域を除き、高い透過率が得られていることが判る。
【0051】
この積層型光学薄膜(ポリカーボネイト樹脂層の厚さ100μm)へ、ヘリウム・ネオンレーザー(発信波長632.6nm、連続発振パワー20mW、エキスパンドしたビーム直径8mm、ビーム断面のエネルギー分布はガウス分布)を有効開口半径4mm、開口数0.65の顕微鏡対物レンズにてビームウエスト半径0.45μmまで収束させて照射した。ビームウエスト位置は、ビーム入射側のプラチナフタロシアニン蒸着膜に一致するよう調節した。この位置において、連続照射されるレーザーパワー密度は3MW/cmである。その結果、8時間の連続照射を行っても、照射点に光損傷が起こらないことが確認された。
【0052】
本実施例の積層型光学薄膜においては、照射点が空気から遮蔽されているため酸化分解反応が抑制されること、および、照射点で発生した熱がガラス基板だけでなく樹脂層へも伝搬することによって円滑に拡散することによって、光損傷を防ぐことができると推測される。
【0053】
〔比較例4〕
実施例2で作成したガラス基板上のプラチナフタロシアニン蒸着膜に、樹脂層を積層することなく、大気中に曝した状態で、実施例2と同様にして、波長632.8nm、レーザーパワー密度3MW/cmのレーザー光を、ガラス基板側から照射したところ、数分で照射点からの光散乱が増大した。照射時間を1秒、10秒、100秒および10分として照射点を移動して照射実験を行い、各々の照射点を顕微鏡観察したところ、照射10秒で変色が始まり、照射100秒で照射点の中心部分には孔が開き、照射10分では孔が広がり周辺部分が炭化していた。ガラス基板が片側にしかないため光吸収による温度上昇が照射点に集中することと、大気に曝されていることによって、結晶形の変化および昇華による散逸、更に酸化分解反応が進行したものと推定される。
【0054】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、昇華性かつ結晶性の有機化合物を非晶質状態、微小結晶状態、または固溶体として存在させ、光散乱を低減させた、耐久性の高い、より高機能な積層型光学薄膜を提供することができる。
【0055】
この発明は、また、昇華性の高い有機化合物を所定の割合で含有し、かつ、揮発性の不純物を含有せず、さらに光照射による非晶質の結晶化や微結晶の結晶成長を抑制して、高パワー密度の光照射に耐える、より高機能な積層型光学薄膜を効率良く製造するための積層型光学薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2の積層型光学薄膜の透過吸収スペクトルを示す図である。

Claims (4)

  1. 昇華性有機化合物が蒸着された第1基板の蒸着面と第2の基板の間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させる工程および前記第1、第2基板を圧着させる工程によって製造される積層型光学薄膜であって、
    前記昇華性有機化合物が、下記の3つの状態からなる群の中から選択される少なくとも1つの状態にあることを特徴とする積層型光学薄膜。
    (a)非晶質状態
    (b)結晶粒子径が積層型光学薄膜に照射される可視光線の波長の1/5を越えない大きさの微小結晶状態
    (c)前記溶融性有機化合物を媒質とする固溶体
  2. 昇華性有機化合物が蒸着された2枚の基板の昇華性有機化合物蒸着面を互いに向かい合わせ、その間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させ、更に2枚の基板を圧着させることによって製造される積層型光学薄膜であって、
    前記昇華性有機化合物が下記の3つの状態の中から選択される少なくとも1つの状態であることを特徴とする積層型光学薄膜。
    (a)非晶質状態
    (b)結晶粒子径が積層型光学薄膜に照射される可視光線の波長の1/5を越えない大きさの微小結晶状態
    (c)前記溶融性有機化合物を媒質とする固溶体。
  3. 少なくとも、第1基板の1面に有機化合物を蒸着する工程と、
    前記有機化合物が蒸着された前記第1基板の蒸着面と第2の基板の間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させ、更に前記第1、第2基板を圧着させる工程と、
    を含むことを特徴とする積層型光学薄膜の製造方法。
  4. 少なくとも、
    2枚の基板の各々1面に昇華性有機化合物を蒸着する工程と、
    前記2枚の基板の前記有機化合物が蒸着された面を向き合わせ、その間に溶融性有機化合物の粉末または膜を挟み、真空下、加熱して前記溶融性有機化合物を溶融させ、更に2枚の基板を圧着させる工程と、
    を含むことを特徴とする積層型光学薄膜の製造方法。
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