JP3914998B2 - 積層型薄膜光素子およびそれを用いる光制御方法および光制御装置 - Google Patents

積層型薄膜光素子およびそれを用いる光制御方法および光制御装置 Download PDF

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、例えば光通信、光情報処理などの光エレクトロニクスおよびフォトニクスの分野において有用な、積層型薄膜光素子およびそれを用いる光制御方法および光制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
超高速情報伝達・処理を目的として、光の多重性、高密度性に着目した光エレクトロニクスおよびフォトニクスの分野において、光学材料または光学組成物を加工して作成した光学素子に光を照射することで引き起こされる透過率や屈折率の変化を利用して、電子回路技術を用いずに、光の強度(振幅)または周波数(波長)を変調しようとする光・光制御方法の研究開発が盛んに進められている。また、光の特徴を活かして、並列光論理演算や画像処理を行おうとする場合、光ビームの断面に光強度分布変化など、何等かの変調を行うための「空間光変調器」が極めて重要であり、ここへも光・光制御方法の適用が期待される。
【0003】
光・光制御方法への応用が期待される現象としては可飽和吸収、非線形屈折、フォトリフラクティブ効果などの非線形光学効果、およびフォトクロミック現象が広く注目を集めている。
【0004】
一方、第一の波長帯域の光で励起された分子が、分子構造の変化を伴わずに、第一の波長帯域とは異なる第二の波長帯域において新たに光吸収を起こす現象も知られており、これを「励起状態吸収」または「誘導吸収」、あるいは「過渡吸収」と呼ぶことができる。
【0005】
励起状態吸収の応用を試みた例としては、例えば、特開昭53−137884号公報にはポルフィリン系化合物と電子受容体を含んだ溶液または固体に対して波長の異なる少なくとも二種類の光線を照射し、この照射により一方の波長の光線が有する情報を他方の光線の波長に移すような光変換方法が開示されている。また、特開昭55−100503号公報および特開昭55−108603号公報にはポルフィリン誘導体などの有機化合物の基底状態と励起状態の間の分光スペクトルの差を利用し、励起光の時間的な変化に対応して伝搬光を選択するような機能性の液体コア型光ファイバーが開示されている。また、特開昭61−129621号公報には、酸化ウラニウムをドープしたバリウムクラウンガラスからなるファイバーに、第一光子束を減衰しないように導入し、第二光子束を導入することにより第一光子束を減衰させると共に、ファイバーのエネルギーレベル2をポピュレイトし、第一光子束の一部が吸収されてエネルギーレベル3をポピュレイトし、エネルギーレベル3の一部が再びエネルギーレベル2に戻って第一光子束を更に減衰させる段階を含む放射エネルギー透過制御方法が開示されている。また、特開昭63−89805号公報には光によって励起された三重項状態から更に上位の三重項状態への遷移に対応する吸収を有するポルフィリン誘導体などの有機化合物をコア中に含有しているプラスチック光ファイバーが開示されている。また、特開昭63−236013号公報にはクリプトシアニンなどのシアニン色素の結晶に第一の波長の光を照射して分子を光励起した後、第一の波長とは異なる第二の波長の光を前記分子に照射し、第一の波長の光による光励起状態によって第二の波長の光の透過または反射をスイッチングするような光機能素子が開示されている。また、特開昭64−73326号公報にはポルフィリン誘導体などの光誘起電子移動物質をマトリックス材料中に分散した光変調媒体に第一および第二の波長の光を照射して、分子の励起状態と基底状態の間の吸収スペクトルの差を利用して光変調するような光信号変調媒体が開示されている。
【0006】
これら従来技術で用いられている光学装置の構成としては、特開昭55−100503号公報、特開昭55−108603号公報、および特開昭63−89805号公報には伝搬光の伝播する光ファイバーを励起光の光源(例えばフラッシュランプ)の周囲に巻きつけるような装置構成が開示されており、特開昭53−137884号公報および特開昭64−73326号公報には光応答性光学素子内部の信号光に相当する光の伝播している部分全体に信号光の光路とは別の方向から制御光に相当する光を収束させることなくむしろ投射レンズなどの手段によって拡散させて照射するような装置構成が開示されている。
【0007】
更に、従来技術においては、熱効果による屈折率分布を利用して光の変調を行う方法も検討されている。特開昭59−68723号公報には、発熱抵抗体へ入力電気信号を通電し、前記発熱手段からの熱を受け屈折率分布を生じる液体媒体中の屈折率分布によって、光束の波面を変形するような光変調素子が開示されており、KHzのオーダー、すなわちミリ秒のオーダーで屈折率分布形成から消滅までのサイクルを行うことができると記載されている。また、特開昭60−130723号公報には、近赤外線制御光を熱吸収層で熱エネルギーに変換し、この熱を近赤外線反射膜層および可視光線反射膜層を通じて熱効果媒体まで伝熱させ、熱効果媒体中に発生する屈折率分布によって、可視光線反射膜層へ入射する光束の波面を変換する方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の熱効果による屈折率分布を利用した光の変調を行う方法は、熱効果を生ずるまでの熱の伝達経路が長く、かつ、制御光ビーム断面積よりも温度上昇部分の面積が拡大しながら伝達されるため伝達経路の体積、すなわち熱容量が大きくなって、制御光から与えられるエネルギーの利用効率が低く、また、高速応答も望めない。
【0009】
また、上述したいずれの従来技術も、実用に足りる大きさの透過率変化または屈折率変化を引き起こすため、非常に高密度の光パワーを必要としたり、光照射に対する応答が遅かったり、光学系の微妙な調整が必要で、かつ光学系の多少の変動で制御光出力が大きく変動したりするため、実用に至るものは未だ得られていないのが現状である。
【0010】
上記課題を解決し、できる限り低い光パワーで充分な大きさおよび速度の光応答を引き出すことを目的として、特開平8−286220、8−320535、8−320536、9−329816、10−90733、10−90734、および、10−148852号報には、光応答性組成物からなる光学素子に制御光を照射し、制御光とは異なる波長帯域にある信号光の透過率および/または屈折率を可逆的に変化させることにより前記光学素子を透過する前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御方法であって、前記制御光および前記信号光を各々収束させて前記光学素子へ照射し、かつ、前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点の近傍の光子密度が最も高い領域が前記光学素子中において互いに重なり合うように前記制御光および前記信号光の光路をそれぞれ配置することを特徴とする光制御方法が開示されている。
【0011】
また、特開平10−148853号報には、光応答性組成物からなる光学素子に、互いに波長の異なる制御光および信号光を照射し、前記制御光の波長は前記光応答性組成物が吸収する波長帯域から選ばれるものとし、前記光応答性組成物が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に発生する温度上昇に起因する密度変化の分布に基づいた熱レンズを可逆的に形成させ、前記熱レンズを透過する信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御方法が開示されている。そして、上記公報において、光学素子として例えば色素/樹脂膜や色素溶液膜が用いられ、制御光のパワー2ないし25mWにおける制御光照射に対する信号光の応答時間は、2マイクロ秒未満と記載されている。
【0012】
本発明は、上記課題を解決し、できる限り低い光パワーで充分な大きさおよび一層高速度の光応答を引き出せるような積層型薄膜光素子およびそれを用いる光制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本願の請求項1記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
少なくとも光吸収層を含む積層型薄膜光素子中の光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々収束させて照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、少なくとも前記制御光は前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う薄膜光素子において、
前記光吸収層が3層からなる積層型薄膜であって、
第1層は、前記制御光の波長帯域の光を吸収する光吸収膜であり、
第2層は、前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性である熱レンズ形成層であり、
第3層は、前記制御光の波長帯域の光を吸収する光吸収膜であることを特徴とする。
【0014】
ここで、信号光および制御光は、反射による損失を最小限にするため、前記積層型薄膜光素子へほぼ垂直に入射するものとする。
【0015】
上記目的を達成するために、本願の請求項2記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、請求項1に記載の積層型薄膜光素子において、
前記熱レンズ形成層を挟む前記2枚の光吸収膜の内、前記制御光入射側の前記光吸収膜が前記制御光の10ないし90%を吸収し、更に前記制御光出射側の前記光吸収膜が前記制御光の残余分を吸収するように前記制御光波長帯域の透過率が調整されていることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、本願の請求項3および請求項4に記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、それぞれ請求項1および2に記載の積層型薄膜光素子において、
前記積層型薄膜からなる光吸収層の厚さが、収束された前記制御光の共焦点距離の2倍を越えないことを特徴とする。
【0017】
ここで共焦点距離とは、凸レンズまたは屈折率分布型レンズなどの収束手段で収束された光束がビームウエスト(焦点)の近傍において、ほぼ平行光と見なすことのできる区間の距離である。進行方向ビーム断面の電場の振幅分布、すなわち光束のエネルギー分布がガウス分布となっているガウスビームの場合、共焦点距離Zcは、円周率π、ビームウエスト半径ω0 および波長λを用いた式(1)で表すことができる。
【0018】
【数1】
Zc = πω0 2 /λ …(1)
なお、光吸収層の膜厚の下限については、光応答が検知できる限りにおいて、薄ければ薄いほど好ましい。
【0019】
上記目的を達成するために、本願の請求項5記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記積層型薄膜からなる光吸収層に、更に、
前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性の保温層膜、および/または、
前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性の伝熱層膜を、
以下の群(a)〜(i)から選択される構成で積層したことを特徴とする。
【0020】
(a)光吸収層/保温層膜、
(b)保温層膜/光吸収層/保温層膜、
(c)光吸収層/伝熱層膜、
(d)伝熱層膜/光吸収層/伝熱層膜、
(e)光吸収層/保温層膜/伝熱層膜、
(f)伝熱層膜/光吸収層/保温層膜、
(g)伝熱層膜/光吸収層/保温層膜/伝熱層膜、
(h)伝熱層膜/保温層膜/光吸収層/保温層膜、
(i)伝熱層膜/保温層膜/光吸収層/保温層膜/伝熱層膜。
【0021】
上記目的を達成するために、本願の請求項6記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項5のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記制御光および前記信号光の収束手段としての屈折率分布型レンズが、
前記信号光入射側の光吸収層、または、保温層膜、または、伝熱層膜に、
直接または更に光透過層を介して、積層されて設けられていることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するために、本願の請求項7記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項5のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段としての屈折率分布型レンズが、
前記信号光出射側の光吸収層、または、保温層膜、または、伝熱層膜に、
直接または更に光透過層を介して、積層されて設けられていることを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成するために、本願の請求項8記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項6のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段としての屈折率分布型レンズが、
前記信号光出射側の光吸収層、または、保温層膜、または、伝熱層膜に、
直接または更に光透過層を介して、
前記光吸収層の前記信号光入射側に設けられた屈折率分布型レンズに向かい合って、各々のレンズ中心軸を揃えて、
積層されて設けられていることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成するために、本願の請求項9記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記光吸収膜が、前記制御光波長帯域の光を吸収する色素を含有していることを特徴とする。
【0025】
上記目的を達成するために、本願の請求項10記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記光吸収膜が、前記制御光波長帯域の光を吸収する色素の非晶質凝集体からなることを特徴とする。
【0026】
上記目的を達成するために、本願の請求項11記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記光吸収膜が、前記制御光波長帯域の光を吸収する色素の微小結晶凝集体からなり、
かつ、前記色素微小結晶の粒子径が前記信号光の波長と制御光の波長を比べて短い方の波長の1/5を越えない大きさであることを特徴とする。
【0027】
上記目的を達成するために、本願の請求項12記載の発明に係る積層型薄膜光素子は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記熱レンズ形成層が、非晶質の有機化合物、有機化合物液体、および液晶からなる群から選ばれる有機化合物からなることを特徴とする。
【0028】
上記目的を達成するために、本願の請求項13記載の発明に係る光制御方法は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々収束させて照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、少なくとも前記制御光は前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行うことを特徴とする。
【0029】
上記目的を達成するために、本願の請求項14、請求項15および請求項16記載の発明に係る光制御方法は、
それぞれ請求項6、請求項7および請求項8に記載の積層型薄膜光素子において、
前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行うことを特徴とする。
【0030】
上記目的を達成するために、本願の請求項17および請求項18記載の発明に係る光制御方法は、
それぞれ請求項13および請求項14に記載の光制御方法において、
前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって、
強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする。
【0031】
上記目的を達成するために、本願の請求項19および請求項20記載の発明に係る光制御方法は、
それぞれ請求項15および請求項16に記載の光制御方法において、
前記光吸収層の前記信号光出射側に積層されて設けられた前記屈折率分布型レンズを用いて、前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって、
強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする。
【0032】
上記目的を達成するために、本願の請求項21記載の発明に係る光制御装置は、 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段を有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なるように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
また、前記積層型薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置されていることを特徴とする。
【0033】
上記目的を達成するために、本願の請求項22記載の発明に係る光制御装置は、
請求項6に記載の積層型薄膜光素子において、
前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることにより、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段として前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合うように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
また、前記薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置されていることを特徴とする。
【0034】
上記目的を達成するために、本願の請求項23および請求項24記載の発明に係る光制御装置は、
それぞれ請求項21または請求項22に記載の光制御装置において、
強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出す手段を設けたことを特徴とする。
【0035】
上記目的を達成するために、本願の請求項25記載の発明に係る光制御装置は、
請求項7に記載の積層型薄膜光素子において、
前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段を有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なるように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
また、前記積層型薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置され、
更に、前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記光吸収層の前記信号光出射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有することを特徴とする。
【0036】
上記目的を達成するために、本願の請求項26記載の発明に係る光制御装置は、
請求項8に記載の積層型薄膜光素子において、
前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることにより、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段として前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合うように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
また、前記積層型薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置され、
更に、前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記光吸収層の前記信号光出射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有することを特徴とする。
【0037】
【発明の実施の形態】
[積層型薄膜光素子の構成]
本発明の薄膜光素子は積層膜型構造を有し、その構成としては以下のような組み合わせを挙げることができる。
【0038】
(1)光吸収層単独。ただし、本発明において、光吸収層は「光吸収膜/熱レンズ形成層/光吸収膜」という3層構造の積層型薄膜からなることを特徴とする
(2)光吸収層/保温層膜
(3)保温層膜/光吸収層/保温層膜
(4)光吸収層/伝熱層膜
(5)伝熱層膜/光吸収層/伝熱層膜
(6)光吸収層/保温層膜/伝熱層膜
(7)伝熱層膜/光吸収層/保温層膜
(8)伝熱層膜/光吸収層/保温層膜/伝熱層膜
(9)伝熱層膜/保温層膜/光吸収層/保温層膜
(10)伝熱層膜/保温層膜/光吸収層/保温層膜/伝熱層膜
(11)屈折率分布型レンズ/(光透過層/)上記(1)ないし(10)の積層型薄膜光素子
(12)屈折率分布型レンズ/(光透過層/)上記(1)ないし(10)の積層型薄膜光素子/(光透過層/)屈折率分布型レンズ
なお、上記「(光透過層/)」とは、必要に応じて光透過層を設けることを意味する。更に、必要に応じて光の入射面および出射面に反射防止膜(ARコート膜)を設けても良い。
【0039】
本発明の積層型薄膜光素子の構成を例示した断面図を図1に示す。図1に例示するように、積層型薄膜光素子は、制御光S1および信号光S2の入射側から、例えば、屈折率分布型レンズ70/光透過層82/保温層膜83/光吸収膜84/熱レンズ形成層80/光吸収膜85/伝熱層膜86/光透過層89/屈折率分布型レンズ90の順に積層されてなる。
【0040】
光吸収膜、熱レンズ形成層、保温層膜、伝熱層膜、光透過層、および屈折率分布型レンズの材料、作成方法、各々の膜厚などについて、以下に、順を追って説明する。
【0041】
なお、本発明で用いられる光吸収膜、熱レンズ形成層、保温層膜、伝熱層膜、光透過層、および屈折率分布型レンズの材料は、その機能に支障をきたさない範囲において、加工性を向上させたり、光学素子としての安定性・耐久性を向上させるため、添加物として公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、一重項酸素クエンチャー、分散助剤などを含有しても良い。
【0042】
[光吸収膜の材料]
本発明の積層型薄膜光素子中の光吸収膜に用いられる光吸収性の材料としては、公知の種々のものを使用することができる。
【0043】
本発明の積層型薄膜光素子中の光吸収膜に用いられる光吸収性材料の例を具体的に挙げるならば、例えば、GaAs、GaAsP、GaAlAs、InP、InSb、InAs、PbTe、InGaAsP、ZnSeなどの化合物半導体の単結晶、前記化合物半導体の微粒子をマトリックス材料中へ分散したもの、異種金属イオンをドープした金属ハロゲン化物(例えば、臭化カリウム、塩化ナトリウムなど)の単結晶、前記金属ハロゲン化物(例えば、臭化銅、塩化銅、塩化コバルトなど)の微粒子をマトリックス材料中へ分散したもの、銅などの異種金属イオンをドープしたCdS、CdSe、CdSeS、CdSeTeなどのカドミウムカルコゲナイドの単結晶、前記カドミウムカルコゲナイドの微粒子をマトリックス材料中に分散したもの、シリコン、ゲルマニウム、セレン、テルルなどの半導体単結晶薄膜、多結晶薄膜ないし多孔質薄膜、シリコン、ゲルマニウム、セレン、テルルなどの半導体微粒子をマトリックス材料中へ分散したもの、ルビー、アレキサンドライト、ガーネット、Nd:YAG、サファイア、Ti:サファイア、Nd:YLFなど、金属イオンをドープした宝石に相当する単結晶(いわゆるレーザー結晶)、金属イオン(例えば、鉄イオン)をドープしたニオブ酸リチウム(LiNbO3)、LiB35、LiTaO3、KTiOPO4、KH2PO4、KNbO3、BaB22などの強誘電性結晶、金属イオン(例えば、ネオジウムイオン、エルビウムイオンなど)をドープした石英ガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、その他のガラスなどのほか、マトリックス材料中に色素を溶解または分散したもの、および、非晶質の色素凝集体を好適に使用することができる。
【0044】
これらの中でも、マトリックス材料中に色素を溶解または分散したものは、マトリックス材料および色素の選択範囲が広く、かつ積層型薄膜光素子への加工も容易であるため、本発明で特に好適に用いることができる。
【0045】
本発明で用いることができる色素の具体例としては、例えば、ローダミンB、ローダミン6G、エオシン、フロキシンBなどのキサンテン系色素、アクリジンオレンジ、アクリジンレッドなどのアクリジン系色素、エチルレッド、メチルレッドなどのアゾ色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、3,3’−ジエチルチアカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチルオキサジカルボシアニンヨージドなどのシアニン色素、エチル・バイオレット、ビクトリア・ブルーRなどのトリアリールメタン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系色素、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド系色素などを好適に使用することができる。
【0046】
本発明では、これらの色素を単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
本発明で用いることのできるマトリックス材料は、
(1)本発明の光制御方法で用いられる光の波長領域で透過率が高いこと、
(2)本発明で用いられる色素または種々の微粒子を安定性良く溶解または分散できること、
という条件を満足するものであれば任意のものを使用することができる。
【0048】
無機系のマトリックス材料としては、例えば金属ハロゲン化物の単結晶、金属酸化物の単結晶、金属カルコゲナイドの単結晶、石英ガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラスなどの他、いわゆるゾルゲル法で作成された低融点ガラス材料などを使用することができる。
【0049】
また、有機系のマトリックス材料としては、例えば種々の有機高分子材料を使用することができる。その具体例としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネイト類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネイト)類、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマンおよびこれらの共重合・共重縮合体が挙げられる。また、二硫化炭素、四フッ化炭素、エチルベンゼン、パーフルオロベンゼン、パーフルオロシクロヘキサンまたはトリメチルクロロシラン等、通常では重合性のない化合物をプラズマ重合して得た高分子化合物などを使用することができる。更に、これらの有機高分子化合物に色素の残基をモノマー単位の側鎖として、もしくは架橋基として、共重合モノマー単位として、または重合開始末端として結合させたものをマトリックス材料として使用することもできる。
【0050】
これらのマトリックス材料中へ色素を溶解または分散させるには公知の方法を用いることができる。例えば、色素とマトリックス材料を共通の溶媒中へ溶解して混合した後、溶媒を蒸発させて除去する方法、ゾルゲル法で製造する無機系マトリックス材料の原料溶液へ色素を溶解または分散させてからマトリックス材料を形成する方法、有機高分子系マトリックス材料のモノマー中へ、必要に応じて溶媒を用いて、色素を溶解または分散させてから該モノマーを重合ないし重縮合させてマトリックス材料を形成する方法、色素と有機高分子系マトリックス材料を共通の溶媒中に溶解した溶液を、色素および熱可塑性の有機高分子系マトリックス材料の両方が不溶の溶剤中へ滴下し、生じた沈殿を濾別し乾燥してから加熱・溶融加工する方法などを好適に用いることができる。色素とマトリックス材料の組み合わせおよび加工方法を工夫することで、色素分子を凝集させ、「H会合体」や「J会合体」などと呼ばれる特殊な会合体を形成させられることが知られているが、マトリックス材料中の色素分子をこのような凝集状態もしくは会合状態を形成する条件で使用しても良い。
【0051】
また、これらのマトリックス材料中へ前記の種々の微粒子を分散させるには公知の方法を用いることができる。例えば、前記微粒子をマトリックス材料の溶液、または、マトリックス材料の前駆体の溶液に分散した後、溶媒を除去する方法、有機高分子系マトリックス材料のモノマー中へ、必要に応じて溶媒を用いて、前記微粒子を分散させてから該モノマーを重合ないし重縮合させてマトリックス材料を形成する方法、微粒子の前駆体として、例えば過塩素酸カドミウムや塩化金などの金属塩を有機高分子系マトリックス材料中へ溶解または分散した後、硫化水素ガスで処理して硫化カドミウムの微粒子を、または、熱処理することで金の微粒子を、それぞれマトリックス材料中に析出させる方法、化学的気相成長法、スパッタリング法などを好適に用いることができる。
【0052】
色素を単独で、光散乱の少ない非晶質状態(アモルファス)の薄膜として存在させることができる場合は、マトリックス材料を用いずに、非晶質色素膜を光吸収膜として用いることもできる。
【0053】
また、色素を単独で、光散乱を起こさない微結晶凝集体として存在させることができる場合は、マトリックス材料を用いずに、色素の微結晶凝集体を光吸収膜として用いることもできる。本発明の積層型薄膜光素子におけるように、光吸収膜としての色素微結晶凝集体が、熱レンズ形成層(樹脂など)、伝熱層膜(ガラスなど)および/または保温層膜(樹脂など)と積層されて存在する場合、前記色素微小結晶の粒子径が前記信号光の波長と制御光の波長を比べて短い方の波長の1/5を越えない大きさであれば、実質的に光散乱を起こさない。
【0054】
[光吸収性材料、信号光の波長帯域、および制御光の波長帯域の組み合わせ]
本発明の積層型薄膜光素子、光制御方法および光制御装置で使用される光吸収性材料、信号光の波長帯域、および制御光の波長帯域は、これらの組み合わせとして、使用目的に応じて適切な組み合わせを選定し用いることができる。
【0055】
具体的な設定手順としては、例えば、まず、使用目的に応じて信号光の波長ないし波長帯域を決定し、これを制御するのに最適な光吸収性材料と制御光の波長の組み合わせを選定すれば良い。または、使用目的に応じて信号光と制御光の波長の組み合わせを決定してから、この組み合わせに適した光吸収性材料を選定すれば良い。
【0056】
[光吸収性材料の組成、光吸収層中の光吸収膜の膜厚、および熱レンズ形成層の膜厚]
本発明の積層型薄膜光素子において、光吸収層は3層からなる積層型薄膜であって、第1層として前記制御光の波長帯域の光を吸収する光吸収膜、第2層として前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性を有する熱レンズ形成層、第3層として前記制御光の波長帯域の光を吸収する光吸収膜が積層されてなることを特徴とする。また、前記積層型薄膜からなる光吸収層の厚さは、収束された前記制御光の共焦点距離の2倍を越えないことが好ましい。更に、一層高速な応答速度を目指す場合は、前記積層型薄膜からなる光吸収層の厚さは、収束された前記制御光の共焦点距離の1倍を越えないことが好ましい。
【0057】
このような条件の中で、本発明で用いられる光吸収性材料の組成および光吸収層中の光吸収膜(2枚)の膜厚については、これらの組み合わせとして、光吸収層を透過する制御光および信号光の透過率を基準にして設定することができる。例えば、まず、光吸収性材料の組成の内、少なくとも制御光あるいは信号光を吸収する成分の濃度を決定し、次いで、積層型薄膜光素子を透過する制御光および信号光の透過率が特定の値になるよう光吸収層中の光吸収膜(2枚)の膜厚を設定することができる。または、まず、例えば装置設計上の必要に応じて、光吸収層中の光吸収膜(2枚)の膜厚を特定の値に設定した後、積層型薄膜光素子を透過する制御光および信号光の透過率が特定の値になるよう光吸収性材料の組成を調整することができる。
【0058】
本発明は、できる限り低い光パワーで充分な大きさおよび一層高速度の光応答を積層型薄膜光素子から引き出すような光制御方法および光制御装置を提供することを目的としているが、この目的を達成するために最適な、光吸収層を透過する制御光および信号光の透過率の値は、それぞれ、次に示す通りである。
【0059】
本発明の積層型薄膜光素子、光制御方法および光制御装置では、積層型薄膜光素子中の光吸収層を伝播する制御光の透過率が多くとも90%以下になるよう光吸収性材料中の光吸収成分の濃度および存在状態の制御、光吸収層中の光吸収膜(2枚)の膜厚設定を行うことが推奨される。
【0060】
一方、制御光を照射しない状態において、積層型薄膜光素子中の光吸収層を伝播する信号光の透過率が少なくとも10%以上になるよう光吸収性材料中の光吸収成分の濃度および存在状態の制御、光吸収層中の光吸収膜(2枚)の膜厚設定を行うことが推奨される。好ましくは、光吸収成分濃度を高くし、かつ光吸収膜(2枚)の膜厚を薄くすることである。
【0061】
ここで、光透過性熱レンズ形成層を挟む2枚の光吸収膜の厚さは、同一でなくとも良く、合計として、上記の透過率を満足する厚さであれば良い。
【0062】
特に、前記光吸収膜2枚の内、前記制御光入射側の前記光吸収膜が前記制御光の10ないし90%を吸収し、更に前記制御光出射側の前記光吸収膜が前記制御光の残余分を吸収するように、上記種々の条件(例えば、光吸収性材料中の光吸収成分の濃度や光吸収層中の光吸収膜(2枚)の膜厚等)をコントロールし、2枚の前記光吸収膜における前記制御光波長帯域の透過率を調整することによって、前記熱レンズ形成層を挟んだ2枚の前記光吸収膜の両方で前記制御光が吸収され、結果的に熱レンズの形成および消滅を極めて円滑に起こすことができる。前記光吸収膜2枚の内、前記制御光入射側と前記制御光出射側の透過率の割り振りについては、例えば、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10などの組み合わせを用いることができる。
【0063】
上述した積層型薄膜光素子中の光吸収層を伝播する信号光の所望の透過率に応じて、光吸収膜2枚合計の膜厚が決定され、この2枚の光吸収膜の透過率の割り振りに応じて、前記条件を満たす熱レンズ形成層の好ましい厚さの上限が決定される。
【0064】
光吸収層中の熱レンズ形成層膜厚の下限は、以下に記載するように、熱レンズ形成層の材料に応じて選定される。
【0065】
[光吸収層中の熱レンズ形成層の材料および熱レンズ形成層の膜厚]
光吸収層中の熱レンズ形成層の材料としては液体、液晶、および、固体の材料を用いることができる。特に、熱レンズ形成層が、非晶質の有機化合物、有機化合物液体、および液晶からなる群から選ばれる有機化合物からなると好適である。なお、熱レンズ形成層の材質が液晶および液体の場合、例えば、光吸収膜および/または伝熱層膜を自己形態保持性の材質で作成し、熱レンズ形成層の厚さに相当する空乏を設け、そこへ流動状態の熱レンズ形成層材料を注入することで、熱レンズ形成層を作成することができる。一方、熱レンズ形成層の材質が固体の場合は、熱レンズ形成層の両面に光吸収膜を積層させて作成すれば良い。
【0066】
熱レンズ形成層の材質は単一でなくとも良く、例えば、複数種類の固体の積層膜であっても良く、また、固体と液体を積層させたものであっても良い。
【0067】
熱レンズ形成層の厚さは、用いる材料の種類にもよるが、数ナノメートルから数百μmの範囲の厚さであれば良く、数十ナノメートルから数十μmの範囲であれば特に好適である。
【0068】
前述のように、熱レンズ形成層と2枚の光吸収膜を積層してなる光吸収層の合計の厚さは、収束された前記制御光の共焦点距離の2倍を越えないことが好ましい。
【0069】
光吸収層中の熱レンズ形成層の材料としては液体、液晶、および、固体の材料を用いることができるが、いずれの場合も屈折率の温度依存性が大きい材料が好ましい。
【0070】
代表的な有機化合物液体および水の屈折率温度依存性の物性値は文献[D.Solimini: J.Appl.Phys.,vol.37,3314(1966)]に記載されている。波長633nmの光に対する屈折率の温度変化[単位:1/K]は、水(0.8×10-4)よりもメタノール(3.9×10-4)などのアルコールが大きく、更に、シクロペンタン(5.7×10-4)、ベンゼン(6.4×10-4)、クロロホルム(5.8×10-4)、ベンゼン(6.4×10-4)、二硫化炭素(7.7×10-4)などの非水素結合性有機溶剤が大きい。
【0071】
光吸収層中の熱レンズ形成層の材料として液晶を用いる場合、液晶としては、公知の任意のものを使用することができる。具体的には、種々のコレステロール誘導体、4’−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4’−n−ヘキシルベンジリデン−4−シアノアニリンなどの4’−アルコキシベンジリデン−4−シアノアニリン類、4’−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4’−メトキシベンジリデンアミノアゾベンゼン、4−(4’−メトキシベンジリデン)アミノビフェニル、4−(4’−メトキシベンジリデン)アミノスチルベンなどの4’−アルコキシベンジリデンアニリン類、4’−シアノベンジリデン−4−n−ブチトキシアニリン、4’−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリンなどの4’−シアノベンジリデン−4−アルコキシアニリン類、4’−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、p−カルボキシフェニル・n−アミルカーボネイト、n−ヘプチル・4−(4’−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネイトなどの炭酸エステル類、4−n−ブチル安息香酸・4’−エトキシフェニル、4−n−ブチル安息香酸・4’−オクチルオキシフェニル、4−n−ペンチル安息香酸・4’−ヘキシルオキシフェニルなどの4−アルキル安息香酸・4’−アルコキシフェニルエステル類、4,4’−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン誘導体、4−シアノ−4’−n−オクチルビフェニル、4−シアノ−4’−n−ドデシルビフェニルなどの4−シアノ−4’−アルキルビフェニル類などの液晶、および(2S,3S)−3−メチル−2−クロロペンタノイック酸・4’,4”−オクチルオキシビフェニル、4’−(2−メチルブチル)ビフェニル−4−カルボン酸・4−ヘキシルオキシフェニル、4’−オクチルビフェニル−4−カルボン酸・4−(2−メチルブチル)フェニルなどの強誘電性液晶を使用することができる。
【0072】
光吸収層中の熱レンズ形成層の材料として固体の材料を用いる場合は、光散乱が小さく屈折率の温度依存性の大きな、非晶質の有機化合物が特に好適である。具体的には、前記マトリックス材料と同様に、種々の有機高分子材料の中から光学用樹脂として公知のものを選定して使用することができる。文献[技術情報協会編、「最新光学用樹脂の開発、特性と高精度部品の設計、成形技術」、技術情報協会(1993)、P.35]に記載されている光学用樹脂の屈折率の温度変化[単位:1/K]は、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)1.2×10-4、ポリカーボネイト1.4×10-4、ポリスチレン1.5×10-4である。これらの樹脂を光吸収層中の熱レンズ形成層の材料として好適に使用することができる。
【0073】
前記有機溶剤の屈折率温度依存性は前記光学用樹脂の場合よりも大きいというメリットがある反面、制御光照射による温度上昇が有機溶剤の沸点に到達すると沸騰してしまうという問題がある(高沸点の溶剤を用いる場合は問題ない)。これに対して、揮発性不純物を徹底的に除去した光学用樹脂は、例えばポリカーボネイトの場合、制御光照射による温度上昇が250℃を越えるような過酷な条件においても使用可能である。
【0074】
[保温層膜]
保温層膜として気体を用いる場合は、空気の他、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの不活性ガスを好適に用いることができる。
【0075】
保温層膜として液体を用いる場合は、熱伝導率が光吸収層と同等か光吸収層よりも小さい材質であって、かつ、制御光および信号光を透過し、光吸収層の材質を溶解または腐食しないものであれば、任意の液体を用いることができる。例えば、光吸収層がシアニン色素を含有したポリメタクリル酸メチルからなる場合、流動性パラフィンを用いることができる。
【0076】
保温層膜として固体を用いる場合は、熱伝導率が光吸収層(光吸収膜および熱レンズ形成層)と同等か光吸収層よりも小さい材質であって、かつ、制御光および信号光を透過し、光吸収層や伝熱層膜の材質と反応しないものであれば、任意の固体を用いることができる。例えば、光吸収膜がシアニン色素を含有したポリメタクリル酸メチルからなる場合、色素を含まないポリメタクリル酸メチル[300Kにおける熱伝導率0.15Wm-1-1]を保温層膜として用いることができる。
【0077】
[伝熱層膜の材料]
伝熱層膜としては、熱伝導率が光吸収層よりも大きい材質が好ましく、制御光および信号光を透過し、光吸収層や保温層膜の材質と反応しないものであれば、任意のものを用いることができる。熱伝導率が高く、かつ、可視光線の波長帯域における光吸収が小さい材質として、例えば、ダイアモンド[300Kにおける熱伝導率900Wm-1-1]、サファイア[同46Wm-1-1]、石英単結晶[c軸に平行方向で同10.4Wm-1-1]、石英ガラス[同1.38Wm-1-1]、硬質ガラス[同1.10Wm-1-1]などを伝熱層膜として好適に用いることができる。
【0078】
[光透過層の材料]
本発明の積層型薄膜光素子実施形態の一つは、前記制御光の収束手段としての屈折率分布型レンズが、光透過層を介して前記制御光の入射側に積層されて設けられていることを特徴とするが、光透過層の材質としては、固体の保温層膜および/または伝熱層膜の材質と同様のものを使用することができる。光透過層は、文字通り、前記制御光および信号光を効率良く透過させるだけでなく、屈折率分布型レンズを積層型薄膜光素子構成要素として接着するためのものである。いわゆる紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂の内、前記制御光および信号光の波長帯域の光透過率の高いものを特に好適に用いることができる。
【0079】
[積層型薄膜光素子の作成方法]
本発明の積層型薄膜光素子の作成方法は、積層型薄膜光素子の構成および使用する材料の種類に応じて任意に選定され、公知の方法を用いることができる。
【0080】
例えば、積層型薄膜光素子中の光吸収膜に用いられる光吸収性の材料が、前述のような単結晶の場合、単結晶の切削・研磨加工によって、光吸収膜を作成することができる。
【0081】
例えば、色素を含有したマトリックス材料からなる光吸収膜、光学用樹脂からなる熱レンズ形成層、および光学ガラスを伝熱層膜として組み合わせて用いた「伝熱層膜/光吸収膜/熱レンズ形成層/光吸収膜/伝熱層膜」という構成の積層型薄膜光素子を作成する場合、以下に列挙するような方法によって、まず、伝熱層膜上に光吸収膜を作成することができる。
【0082】
色素およびマトリックス材料を溶解した溶液を、伝熱層膜として用いられるガラス板上に塗布法、ブレードコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法で塗工するか、あるいは、平版、凸版、凹版、孔版、スクリーン、転写などの印刷法で印刷して光吸収膜を形成する方法を用いても良い。この場合、光吸収膜の形成にゾルゲル法による無機系マトリックス材料作成方法を利用することもできる。
【0083】
電着法、電解重合法、ミセル電解法(特開昭63−243298号報)などの電気化学的成膜手法を用いることができる。
【0084】
更に、水の上に形成させた単分子膜を移し取るラングミア・ブロジェット法を用いることができる。
【0085】
原料モノマーの重合ないし重縮合反応を利用する方法として、例えば、モノマーが液体の場合、キャスティング法、リアクション・インジェクション・モールド法、プラズマ重合法、および、光重合法などが挙げられる。
【0086】
昇華転写法、蒸着法、真空蒸着法、イオンビーム法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、有機分子線蒸着法、などの方法を用いることもできる。
【0087】
2成分以上の有機系光学材料を溶液または分散液状態で各成分毎に設けた噴霧ノズルから高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする複合型光学薄膜の製造方法(特許公報第2599569号)を利用することもできる。
【0088】
以上のような固体の光吸収膜の作成方法は、例えば、固体の有機高分子材料からなる保温層膜を作成する場合にも、好適に使用することができる。
【0089】
次いで、熱可塑性の光学用樹脂を用いて熱レンズ形成層を作成する場合、真空ホットプレス法(特開平4−99609号公報)を用いて「伝熱層膜/光吸収膜/熱レンズ形成層/光吸収膜/伝熱層膜」という構成の積層型薄膜光素子を作成することができる。すなわち、熱可塑性光学用樹脂の粉末またはシートを、上記の方法で表面に光吸収膜を形成した2枚の伝熱層膜(ガラス板)で挟み、高真空下、加熱・プレスすることによって、上記構成の積層型薄膜素子を作成することができる。
【0090】
[屈折率分布型レンズの材料と作成方法]
本発明の積層型薄膜光素子の実施形態の一つは、前記制御光の収束手段としての屈折率分布型レンズが、光透過層を介して前記制御光の入射側に積層されて設けられていることを特徴とするが、この屈折率分布型レンズの材料と作成方法としては、公知の、任意のものを使用することができる。
【0091】
例えば、モノマーの浸透・拡散現象を利用して、屈折率分布型の屈折率分布型レンズを有機高分子系材質で作成することができる[M.Oikawa,K.Iga,T.Sanada: Jpn.J.Appl.Phys,20(1),L51-L54(1981)]。すなわち、モノマー交換技術によって、屈折率分布レンズを平坦な基板上にモノリシックに作ることができ、例えば、低屈折率プラスチックとしてのメタクリル酸メチル(n=1.494)を、3.6mmφの円形ディスクのマスクのまわりから、高屈折率を持つポリイソフタル酸ジアクリル(n=1.570)の平坦なプラスチック基板中へ拡散させる。
【0092】
また、無機イオンの拡散現象を利用し、屈折率分布型屈折率分布型レンズを無機ガラス系材質で作成することができる[M.Oikawa,K.Iga: Appl.Opt.,21(6),1052-1056(1982)]。すなわち、ガラス基板にマスクを付けてからフォトリソグラフィの手法により直径百μm前後の円形窓を設け、溶融塩に浸けてイオン交換により屈折率分布を形成させるに当たり、数時間に渡って電界を印加してイオン交換を促進させることによって、例えば、直径0.9mm、焦点距離2mm、開口数NA=0.23のレンズを形成させることができる。
【0093】
[ビームウエスト直径の計算]
本発明の光制御方法において光応答を大きくするには、焦点近傍の光子密度が最も高い領域、すなわち「ビームウエスト」における前記信号光のビーム断面積が、焦点近傍の光子密度が最も高い領域における前記制御光のビーム断面積を越えないように前記信号光および前記制御光のビーム断面の形状および大きさをそれぞれ設定することが好ましい。
【0094】
以下、進行方向ビーム断面の電場の振幅分布、すなわち光束のエネルギー分布がガウス分布となっているガウスビームの場合について述べる。なお、以下の説明では、ビーム収束手段として集光レンズ(屈折率分布型レンズ)を用いる場合について説明するが、収束手段が凹面鏡や屈折率分散型レンズであっても同様である。
【0095】
ガウスビームを、集光レンズ7などで、開き角2θで収束させたときの焦点Fc近傍における光線束および波面30の様子を図8に示す。ここで、波長λのガウスビームの直径2ωが最小になる位置を「ビームウエスト」という。以下、ビームウエスト直径を2ω0 で表すものとする。光の回折作用のため、2ω0 はゼロにはならず、有限の値を持つ。なお、ビーム半径ωやω0 の定義は、ガウスビームのビーム中心部分のエネルギーを基準として、エネルギーが1/e2 (eは自然対数の底)になる位置をビーム中心から測ったときの距離である。いうまでもなく、ビームウエストの中心において、光子密度は最も高い。
【0096】
ガウスビームの場合、ビームウエストから充分に遠方でのビーム広がり角θは波長λおよびビームウエスト径ω0 と、次の式(2)で関係付けられる。
【0097】
【数2】
π・θ・ω0 ≒ λ …(2)
ここで、πは円周率である。
【0098】
「ビームウエストから充分に遠方」という条件を満たす場合に限りこの式を用いて、集光レンズに入射するビーム半径ω、集光レンズの開口数および焦点距離から、集光レンズで集光されたビームウエスト径ω0 を計算することができる。
【0099】
更に一般的に、有効開口半径aおよび開口数NAの集光レンズで、ビーム半径ωの平行ガウスビーム(波長λ)を収束させた場合のビームウエスト直径2ω0 は、次の式(3)で表すことができる。
【0100】
【数3】
2ω0 ≒ k・λ/NA …(3)
ここで、係数kは代数的に解くことができないため、レンズ結像面での光強度分布についての数値解析計算を行うことによって決定することができる。
【0101】
集光レンズに入射するビーム半径ωと集光レンズの有効開口半径aの比率を変えて、数値解析計算を行うと、式(3)の係数kの値は以下のように求まる。
【0102】
【数4】
a/ω = 1 のとき k ≒ 0.92
a/ω = 2 のとき k ≒ 1.3
a/ω = 3 のとき k ≒ 1.9
a/ω = 4 のとき k ≒ 3
すなわち、集光レンズの有効開口半径aよりもビーム半径ωが小さければ小さい程、ビームウエスト径ω0 は大きくなる。
【0103】
例えば、集光レンズとして焦点距離6.2mm、開口数0.65、有効開口半径約4mmのレンズを用い、波長780nmの信号光を収束したとき、集光レンズに入射するビーム半径ωが4mmであればa/ωは約1で、ビームウエストの半径ω0 は0.55μm、ωが1mmであればa/ωは約4でω0 は1.8μmと計算される。同様にして波長633nmの制御光を収束したとき、ビーム半径ωが4mmであればa/ωは約1で、ビームウエストの半径ω0 は0.45μm、ωが1mmであればa/ωは約4でω0 は1.5μmと計算される。
【0104】
この計算例から明らかなように、集光レンズの焦点近傍の光子密度が最も高い領域、すなわちビームウエストにおける光ビームの断面積を最小にするには、集光レンズが受光可能な最大限まで、ビーム径を拡大(ビームエキスパンド)すれば良い。また、集光レンズへ入射するビーム径が同一の場合、光の波長が短い程、ビームウエスト径は小さくなることも判る。
【0105】
前述のように、本発明の光制御方法において光応答を大きくするには、焦点近傍の光子密度が最も高い領域における前記信号光のビーム断面積が、焦点近傍の光子密度が最も高い領域における前記制御光のビーム断面積を越えないように前記信号光および前記制御光のビーム断面の形状および大きさをそれぞれ設定することが好ましい。信号光および制御光ともにガウスビームを用いる場合であれば、以上の説明および計算式に従って、集光レンズなどの収束手段で収束する前の平行ビームの状態で、波長に応じて、信号光および制御光のビーム径を、必要に応じてビームエキスパンドするなどして、調節することによって、焦点近傍の光子密度が最も高い領域における前記信号光のビーム断面積が、焦点近傍の光子密度が最も高い領域における前記制御光のビーム断面積を越えないようにすることができる。ビームエキスパンドの手段としては、公知のもの、例えば2枚の凸レンズからなるケプラー型の光学系を用いることができる。
【0106】
[共焦点距離Zcの計算]
先に述べたように、ガウスビームの場合、凸レンズなどの収束手段で収束された光束のビームウエスト近傍、すなわち、焦点を挟んで共焦点距離Zcの区間においては、収束ビームはほぼ平行光と見なすことができ、共焦点距離Zcは、円周率π、ビームウエスト半径ω0 および波長λを用いた式(1)で表すことができる。
【0107】
【数5】
Zc = πω0 2 /λ …(1)
式(1)のω0 に式(3)を代入すると、式(4)が得られる。
【0108】
【数6】
Zc ≒ π(k/NA)2 λ/4 …(4)
例えば、集光レンズとして焦点距離6.2mm、開口数0.65、有効開口半径約4mmのレンズを用い、波長780nmの信号光を収束したとき、集光レンズに入射するビーム半径ωが4mmであればa/ωは約1で、ビームウエストの半径ω0 は0.55μm、共焦点距離Zcは1.23μm、ωが1mmであればa/ωは約4でω0 は1.8μm、共焦点距離Zcは13.1μmと計算される。同様にして波長633nmの制御光を収束したとき、ビーム半径ωが4mmであればa/ωは約1で、ビームウエストの半径ω0 は0.45μm、共焦点距離Zcは0.996μm、ωが1mmであればa/ωは約4でω0 は1.5μm、共焦点距離Zcは10.6μmと計算される。
【0109】
[光吸収層の最適膜厚]
光吸収層を構成する2枚の光吸収膜の厚さを変えず、熱レンズ形成層の厚さを変えて試料を作製し、光学濃度一定で膜厚の異なる複数の積層型薄膜光素子について実験した結果、上記のようにして計算される共焦点距離Zcの2倍を光吸収層の膜厚の上限としたとき、本発明の光制御方法の光応答速度が充分高速になることが判った。
【0110】
光吸収層の膜厚の下限については、光応答が検知できる限りにおいて、薄ければ薄いほど好ましい。
【0111】
光吸収膜/熱レンズ形成層/光吸収膜という構成の積層型薄膜構造の光吸収層に制御光が入射し、入射側の光吸収膜で制御光の10ないし90%が吸収され、次いで、出射側の光吸収膜で制御光の残余分が吸収される場合、上記共焦点距離Zcの2倍を光吸収層の膜厚の上限とし、光吸収層の厚さを薄くしていくと、制御光入射側および出射側の2箇所で形成された熱レンズが一体として作用することとなって、熱レンズの形成と、制御光消灯時の消滅が、極めて効率良く行われ、高速応答が達成される。
【0112】
[保温層膜の膜厚]
保温層膜の膜厚には、光応答の大きさおよび/または速度を最大にするような最適値(下限値および上限値)が存在する。その値は積層型薄膜光素子の構成、光吸収層の材質および厚さ、保温層膜の材質、伝熱層膜の材質および厚さなどに応じて、実験的に決定することができる。例えば、伝熱層膜として通常の硼硅酸ガラス、保温層膜および熱レンズ形成層の材質としてポリカーボネイト、光吸収膜としてプラチナフタロシアニンの蒸着膜を用い、ガラス(伝熱層膜81、膜厚150μm)/ポリカーボネイト樹脂層(保温層)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層80、膜厚20μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(保温層)/ガラス(伝熱層膜86、膜厚150μm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した場合、保温層膜の膜厚は好ましくは5nmから5μmであり、更に好ましくは50nmから500nmである。
【0113】
[伝熱層膜の膜厚]
伝熱層膜の膜厚にも、光応答の大きさおよび/または速度を最大にするような最適値(この場合は下限値)が存在する。その値は積層型薄膜光素子の構成、光吸収層の材質および厚さ、保温層の材質および厚さ、伝熱層膜の材質などに応じて、実験的に決定することができる。例えば、伝熱層膜として通常の硼硅酸ガラス、保温層膜および熱レンズ形成層の材質としてポリカーボネイト、光吸収膜としてプラチナフタロシアニンの蒸着膜を用い、ガラス(伝熱層膜81、膜厚150μm)/ポリカーボネイト樹脂層(保温層)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層80、膜厚20μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(保温層)/ガラス(伝熱層膜86、膜厚150μm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した場合、伝熱層膜の厚さの下限は、好ましくは10μm、更に好ましくは100μmである。なお、伝熱層膜の膜厚の上限については光応答の大きさおよび/または速度からの制約はないが、用いられる集光レンズ7および受光レンズ9の方式、焦点距離および作動距離(ワーキングディスタンス)と整合させて設計する必要がある。
【0114】
【実施例】
〔実施例1〕
まず、本発明の積層型薄膜光素子が屈折率分布型レンズを含まない場合について、以下に実施例を示す。
【0115】
本実施例の積層型薄膜光素子8の構成を例示した断面図を図2に示す。図2に例示するように、本実施例の積層型薄膜光素子8は、制御光S1および信号光S2の入射側から、例えば、伝熱層膜81/光吸収膜84/熱レンズ形成層80/光吸収膜85/伝熱層膜86の順に積層されてなる。これらの詳細については後に記載する。
【0116】
図2には、また、本実施例の光制御装置の概略構成が示されている。
【0117】
図2に概要を例示する本発明の光制御装置は、制御光の光源1、信号光の光源2、NDフィルター3、シャッター4、半透過鏡5、光混合器6、集光レンズ7、本発明の積層型薄膜光素子8、受光レンズ9、波長選択透過フィルター20、光検出器11および22、およびオシロスコープ(図示せず)から構成される。これらの光学素子ないし光学部品の内、制御光の光源1、信号光の光源2、光混合器6、集光レンズ7、積層型薄膜光素子8、受光レンズ9、および、波長選択透過フィルター20は、図2の装置構成で本発明の光制御方法を実施するために必須の装置構成要素である。なお、NDフィルター3、シャッター4、および半透過鏡5は必要に応じて設けるものであり、また、光検出器11および22、およびオシロスコープは、本発明の光制御方法を実施するためには必要ないが光制御の動作を確認するための電子装置として、必要に応じて用いられる。
【0118】
次に、個々の構成要素の特徴ならびに動作について説明する。
【0119】
制御光の光源1にはレーザー装置が好適に用いられる。その発振波長および出力は、本発明の光制御方法が対象とする信号光の波長および使用する光吸収層の光吸収特性に応じて適宜選択される。レーザー発振の方式については特に制限はなく、発振波長帯域、出力、および経済性などに応じて任意の形式のものを用いることができる。また、レーザー光源の光を非線形光学素子によって波長変換してから使用しても良い。具体的には例えば、アルゴンイオンレーザー(発振波長457.9ないし514.5nm)、ヘリウム・ネオンレーザー(発振波長633nm)などの気体レーザー、ルビーレーザーやNd:YAGレーザーなどの固体レーザー、色素レーザー、半導体レーザーなどを好適に使用することができる。信号光の光源2にはレーザー光源からのコヒーレント光だけではなく非コヒーレント光を使用することもできる。また、レーザー装置、発光ダイオード、ネオン放電管など、単色光を与える光源の他、タングステン電球、メタルハライドランプ、キセノン放電管などからの連続スペクトル光を光フィルターやモノクロメーターで単色化して用いても良い。
【0120】
以下、信号光の光源2として半導体レーザー(発振波長780nm、連続発振出力5mW)の出射光をビーム整形して直径約8mmの平行ガウスビームとして用い、一方、制御光の光源1としてヘリウム・ネオンレーザー(発振波長633nm、ビーム直径約2mmの平行ビーム、ビーム断面のエネルギー分布はガウス分布)を用いた場合について実施例を説明する。
【0121】
NDフィルター3は必ずしも必要ではないが、装置を構成する光学部品や光学素子へ必要以上に高いパワーのレーザー光が入射することを避けるため、また、本発明の積層型薄膜光素子の光応答性能を試験するに当たり、制御光の光強度を増減するために有用である。本実施例では後者の目的で数種類のNDフィルターを交換して使用した。
【0122】
シャッター4は、制御光として連続発振レーザーを用いた場合に、これをパルス状に明滅させるために用いられるものであり、本発明の光制御方法を実施する上で必須の装置構成要素ではない。すなわち、制御光の光源1がパルス発振するレーザーであり、そのパルス幅および発振間隔を制御できる形式の光源である場合や、適当な手段で予めパルス変調されたレーザー光を光源1として用いる場合は、シャッター4を設けなくても良い。
【0123】
シャッター4を使用する場合、その形式としては任意のものを使用することができ、例えば、オプティカルチョッパ、メカニカルシャッター、液晶シャッター、光カー効果シャッター、ポッケルセル、光音響素子(AO変調器)などを、シャッター自体の作動速度を勘案して適宜選択して使用することができる。
【0124】
半透過鏡5は、本実施例において、本発明の光制御方法の作用を試験するに当たり、制御光の光強度を常時見積もるために用いるものであり、光分割比は任意に設定可能である。
【0125】
光検出器11および22は、本発明の光・光制御による光強度の変化の様子を電気的に検出して検証するため、また、本発明の積層型薄膜光素子の機能を試験するために用いられる。光検出器11および22の形式は任意であり、検出器自体の応答速度を勘案して適宜選択して使用することができ、例えば、光電子増倍管やフォトダイオード、フォトトランジスターなどを使用することができる。
【0126】
前記光検出器11および22の受光信号はオシロスコープなどの他、AD変換器とコンピューターの組み合わせ(図示せず)によってモニターすることができる。
【0127】
光混合器6は、前記積層型薄膜光素子8中を伝播していく制御光および信号光の光路を調節するために用いるものであり、本発明の光制御方法および光制御装置を実施するに当たり重要な装置構成要素の一つである。偏光ビームスプリッター、非偏光ビームスプリッター、またはダイクロイックミラーのいずれも使用することができ、光分割比についても任意に設定可能である。
【0128】
集光レンズ7は、信号光および制御光に共通の収束手段として、光路が同一になるように調節された信号光および制御光を収束させて前記積層型薄膜光素子へ照射するためのものであり、本発明の光制御方法および光制御装置の実施に必須な装置構成要素の一つである。集光レンズ7の焦点距離、開口数、F値、レンズ構成、レンズ表面コートなどの仕様については任意のものを適宜使用することができる。
【0129】
本実施例では、以下、集光レンズ7として、焦点距離6.2mm、開口数0.65、有効開口半径4.03mmの顕微鏡用対物レンズを用いた場合について述べる。
【0130】
この場合の集光レンズの焦点近傍の光子密度が最も高い領域、すなわちビームウエストにおける光ビームの半径ω0 および共焦点距離Zcは、先に示した式(2)および式(4)を用いた計算例の通り、波長633nm、ビーム直径2mmの制御光についてω0 は1.5μm、Zcは10.6μmと計算される。
【0131】
同様にして波長780nm、ビーム直径8mmの信号光についてビームウエストにおける光ビームの半径ω0 は0.55μmと計算される。すなわち、本実施例において、ビームウエストにおける制御光ビームと信号光ビームの大小関係は、ビーム径として約3:1、ビーム断面積として約7:1の割合で、制御光の方が大きい。
【0132】
このようにビームウエストにおける制御光のビームサイズを信号光に比べて大きくすると、集光レンズの焦点近傍における制御光収束ビームのエネルギー密度が最も高い領域に、信号光収束ビームのエネルギー密度が最も高い領域を重ね合わせるように光学系を調整することが容易になり、かつ、光学系諸要素の変動の影響を受け難くなる。すなわち、焦点近傍において、制御光および信号光の光軸中心を完全に一致させる必要はなく、制御光および信号光のビーム位置が、ある程度変動ないしドリフトしても、信号光収束ビームのエネルギー密度が最も高い領域が制御光収束ビームのエネルギー密度が最も高い領域から逸脱しないように調整することが可能となる。
【0133】
受光レンズ9は、収束されて積層型薄膜光素子8へ照射され、透過してきた信号光および制御光を平行および/または収束ビームに戻すための手段であるが、充分な大きさの信号光を再現性良く得るためには、前記集光レンズ7の開口数より小さい開口数のレンズを用いる。この実施例では受光レンズ9として、開口数0.4の顕微鏡レンズを用いた。すなわち、集光レンズ7の開口数より受光レンズ9の開口数を小さくすることにより、信号光の光束の内、強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の光束を分別して取り出すことが可能となり、充分な大きさの信号光を再現性良く検出できるようになる。また、集光レンズおよび受光レンズの代わりに凹面鏡を用いることも可能である。
【0134】
波長選択透過フィルター20は、図2の装置構成で本発明の光制御方法を実施するために必須の装置構成要素の一つであり、前記積層型薄膜光素子中の同一の光路を伝播してきた信号光と制御光とから信号光のみを取り出すための手段の一つとして用いられる。
【0135】
波長の異なる信号光と制御光とを分離するための手段としては他に、プリズム、回折格子、ダイクロイックミラーなどを使用することができる。
【0136】
図2の装置構成で用いられる波長選択透過フィルター20としては、制御光の波長帯域の光を完全に遮断し、一方、信号光の波長帯域の光を効率良く透過することのできるような波長選択透過フィルターであれば、公知の任意のものを使用することができる。例えば、色素で着色したプラスチックやガラス、表面に誘電体多層蒸着膜を設けたガラスなどを用いることができる。
【0137】
本発明の積層型薄膜光素子の実施形態の一例を図2に例示する。図2に示す伝熱層膜81/光吸収膜84/熱レンズ形成層80/光吸収膜85/伝熱層膜86という構成の積層型薄膜光素子8は、例えば以下の手順で作成することができる。
【0138】
真空蒸着装置にゲート弁を経由して接続された基板洗浄用真空容器の内部に中心波長185nm、出力5Wの紫外線ランプを2灯および中心波長254nm、出力5Wの紫外線ランプ2灯を、紫外線が基板表面に照射されるような配置で取り付け、基板(伝熱層膜81および86)としてガラス板(24mm×30mm×0.15mm)を1枚以上、搬入した後、真空容器内部に、大気圧下、直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた清浄な窒素ガスを満たして、内部に浮遊粉塵(直径0.1μm以上)および汚染性ガスが検出されなくなるまで雰囲気を清浄化してから直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた酸素ガスを導入し、酸素濃度を60%以上まで高めてから紫外線ランプを点灯し、1時間に渡り、基板表面の紫外線照射処理およびオゾン処理を行った。以上の浄化処理終了後、基板洗浄用真空容器内部を排気し、10-4Pa以下の高真空状態にしてから、同じく10-4Pa以下の高真空状態の真空蒸着装置内へ基板を移送した。予め蒸着源に導入しておいたプラチナフタロシアニン(組成式 C32168Pt)を抵抗線によって加熱し、600℃まで加熱して、上記基板上へ真空蒸着した。基板温度の制御は特に行わなかった。蒸着の進行を水晶振動子式膜厚計でモニターし、膜厚が0.2μmに到達した時点で蒸着源のシャッターを閉じ、蒸着を終了した。
【0139】
このようにして基板上に作成した蒸着膜表面の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。この写真から、上記条件で真空蒸着したプラチナフタロシアニンは外径30ないし50nmの粒子状態で存在していることが判る。この粒子径は本実施例における信号光の波長(780nm)および制御光の波長(633nm)の1/10未満であり、光散乱を起こさない大きさである。
【0140】
一方、ポリカーボネイト樹脂(帝人化成製パンライトL1250)1gをジクロロメタン19gに溶解した溶液を撹拌しながらn−ヘキサン300ml中へ注ぎ、析出した樹脂小塊を濾過し、n−ヘキサン30mlにて洗浄し、清浄な空気中で溶剤を除去し、粒子外径が50μm未満の微粉末になるよう粉砕した。このポリカーボネイト樹脂微粉末を10-4Pa以下の高真空容器中、徐々に加熱して100℃から120℃の温度範囲で48時間、脱気処理した。
【0141】
清浄な雰囲気下、先に作成したガラス基板上のプラチナフタロシアニン蒸着膜の上に、高真空脱気処理した樹脂微粉末を散布し、その上にもう1枚のガラス基板上のプラチナフタロシアニン蒸着膜を重ねて置き、これを高真空容器内に設置した加熱ステージ上に置き、10-4Pa以下まで排気し、240ないし260℃まで加熱し、一方、240ないし260℃まで加熱した加圧板を押しつけ、5kgf/cm2 の圧力で真空ホットプレスを行った。
【0142】
以上の手順によって、ガラス(伝熱層膜81、膜厚150μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層80)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/ガラス(伝熱層膜86、膜厚150μm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した。
【0143】
樹脂粉末の散布量、加熱温度および加圧処理時間(数分から数時間)を調整することによって、ポリカーボネイト樹脂製熱レンズ形成層の膜厚が10μm、20μm、50μmおよび100μmものを作成した。以下、本実施例では、ポリカーボネイト樹脂製熱レンズ形成層の膜厚が20μmのものについて記述する。この場合、光吸収層を構成する色素膜/樹脂層/色素膜の合計の厚さは20.4μmであり、上記の条件で計算した収束制御光の共焦点距離Zc(10.6μm)の2倍を越えていない。
【0144】
なお、同様にして、比較例1として、ガラス(伝熱層膜、膜厚150μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層、膜厚20μm)/ガラス(伝熱層膜、膜厚150μm)という構成の、光吸収膜単層/熱レンズ形成層単層・積層型薄膜光素子を作成した。
【0145】
また、比較例2として、ガラス(伝熱層膜、膜厚150μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層、膜厚10μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層、膜厚10μm)/ガラス(伝熱層膜、膜厚150μm)という構成の、光吸収膜単層/熱レンズ形成層2層・積層型薄膜光素子を作成した。なお、この場合、アルミホイル/樹脂粉末/ガラス板を真空ホットプレスして作成した積層膜からアルミホイルを剥離することによって、ポリカーボネイト樹脂層/ガラス・積層膜を作成し、この樹脂層上にプラチナフタロシアニンを真空蒸着し、この蒸着面に、別に作ったポリカーボネイト樹脂層/ガラス積層膜の樹脂面を真空ホットプレスすることによって、「樹脂/色素蒸着膜/樹脂」という積層膜を作成した。
【0146】
以上のようにして作成した本実施例の積層型薄膜光素子(熱レンズ形成層の膜厚20μm)の透過率スペクトルを図7の曲線121に示す。また、比較例1の光吸収膜単層/熱レンズ形成層単層・積層型薄膜光素子の透過率スペクトルを図7の曲線122に示す。ここで、図7の曲線122は、本実施例の積層型薄膜光素子の2つの光吸収膜(色素蒸着膜)の内、一方の透過率スペクトルを抜き出したものに相当する。すなわち、本実施例の積層型薄膜光素子の透過率は制御光の波長(633nm)で1.6%、信号光の波長(780nm)で86%であるが、第1の光吸収膜で波長633nmの光の約90%が吸収され、第2の光吸収膜で残余部分が吸収されたものであると解釈される。
【0147】
以上のような構成要素からなる図2の光学装置において、光源1から出射された制御光の光ビームは、透過率を加減することによって透過光強度を調節するためのNDフィルター3を通過し、次いで制御光をパルス状に明滅するためのシャッター4を通過して、半透過鏡5によって分割される。
【0148】
半透過鏡5によって分割された制御光の一部は光検出器11によって受光される。ここで、光源2を消灯、光源1を点灯し、シャッター4を開放した状態において積層型薄膜光素子8への光ビーム照射位置における光強度と光検出器11の信号強度との関係を予め測定して検量線を作成しておけば、光検出器11の信号強度から、積層型薄膜光素子8に入射する制御光の光強度を常時見積もることが可能になる。この実施例では、NDフィルター3によって、積層型薄膜光素子8へ入射する制御光のパワーを0.5mWないし10mWの範囲で調節した。
【0149】
半透過鏡5で分割・反射された制御光は、光混合器6および集光レンズ7を通って、積層型薄膜光素子8に収束されて照射される。積層型薄膜光素子8を通過した制御光の光ビームは、受光レンズ9を通過した後、波長選択透過フィルター20によって遮断される。
【0150】
光源2から出射された信号光の光ビームは、前記光混合器6によって、制御光と同一光路を伝播するよう混合され、集光レンズ7を経由して、積層型薄膜光素子8に収束・照射され、素子を通過した光は受光レンズ9および波長選択透過フィルター20を透過した後、光検出器22にて受光される。
【0151】
図2の光学装置を用いて光制御の実験を行い、図9または図10に示すような光強度変化を観測した。図9および/または図10において、111は光検出器11の受光信号、222および223は光検出器22の受光信号である。光検出器22の受光信号222の得られる場合と223の得られる場合の違いは、以下の通りである。
【0152】
図2の装置配置においては積層型薄膜光素子8に制御光と信号光とを収束して入射させているが、最小収束ビーム径位置、すなわちビームウエスト(焦点Fc)を積層型薄膜光素子8の集光レンズ7に近いところ(光の入射側)に設定すると、前記積層型薄膜光素子を透過した前記信号光が減少する方向の光応答222が観察される。一方、ビームウエストを積層型薄膜光素子8の受光レンズ9に近いところ(光の出射側)に設定すると、前記積層型薄膜光素子8を透過した前記信号光の見かけの強度が増大する方向の光応答223が観察される。
【0153】
このような光応答が生じる機構は、次のような熱レンズ効果によるものであると想定される。なお、熱レンズ効果の検証方法は特開平10−260433号報などに詳細に記載されている。
【0154】
光吸収層を設けた積層型薄膜光素子8に、前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれた波長の制御光を、集光レンズ7によって収束させて照射すると、制御光は前記光吸収層によって吸収され、吸収された光エネルギーの大部分は熱エネルギーに変わり、まず制御光照射部分の光吸収膜(制御光の入射側および出射側の2箇所)の温度が上昇し、次いで熱伝導によって、隣接する熱レンズ形成層の温度も上昇する。制御光としてガウスビームを用いたときの温度上昇の分布はガウス分布に類似し、ビーム中心部分が大きく、周辺にいくに従って小さくなると推測される。このような温度上昇およびその分布に起因して、前記光吸収層中の制御光照射部分に、分布を持った密度変化および屈折率変化が起こる。いうまでもなく、このようにして生じた屈折率分布に基づく光学的作用は「熱レンズ」と呼ばれている。熱レンズ形成のきっかけとなった制御光の照射を止めると、光吸収による温度上昇は止まり、密度変化および屈折率分布は解消し、熱レンズは消滅する。すなわち、制御光の断続に対応して、熱レンズは可逆的に形成され、消滅する。
【0155】
本発明の積層型薄膜光素子においては、制御光の光吸収は、制御光の入射側および出射側の2層の光吸収膜において起こる。光吸収膜/熱レンズ形成層/光吸収膜という構成の積層型薄膜構造の光吸収層に制御光が入射し、入射側の光吸収膜で制御光の10ないし90%が吸収され、次いで、出射側の光吸収膜で制御光の残余分が吸収される場合、収束された制御光の共焦点距離Zcの2倍を光吸収層の膜厚の上限とし、光吸収層の厚さを薄くしていくと、制御光入射側および出射側の2箇所で形成された熱レンズが一体として作用することとなって、熱レンズの形成と、制御光消灯時の消滅が、極めて効率良く行われ、高速応答が達成されると推定される。
【0156】
制御光および信号光のビームウエスト位置(焦点Fc)を積層型薄膜光素子8の集光レンズ7に近いところ(光の入射側)に設定し、制御光を照射すると、照射された中心部分ほど屈折率が小さくなり、その部分の光がビームの外周方向に曲げられる。この場合、信号光ビームの中心部分だけを取り出して、見かけの信号光強度を測定すると、制御光の照射に対応して、信号光の強度が減少する向きの光応答222を、充分な大きさで取り出すことができる。
【0157】
一方、制御光および信号光のビームウエスト位置(焦点Fc)を積層型薄膜光素子8の受光レンズ9に近いところ(光の出射側)に設定し、制御光を照射すると、収束されて照射された制御光によって形成される熱レンズの光学作用は、同じく収束されて照射される信号光の収束点を、結果的に積層型薄膜光素子8の外側に伸ばした状態にする。この場合、信号光ビームの中心部分だけを取り出して、見かけの信号光強度を測定すると、制御光の照射に対応して、信号光の強度が増大する向きの光応答223を充分な大きさで取り出すことができる。容易に理解できるように、本発明の積層型薄膜光素子において、光吸収膜/熱レンズ形成層/光吸収膜という構成の積層型薄膜構造の光吸収層膜厚を薄くしていくと、制御光および信号光のビームウエスト位置(焦点Fc)を積層型薄膜光素子8の受光レンズ9に近いところ(光の出射側)に設定することが事実上困難になる。すなわち、光吸収層膜厚が、収束された制御光の共焦点距離Zcに近づくと、制御光入射側にビームウエスト位置を設定した場合と区別がつかなくなる。具体的には、光吸収層の膜厚が収束された制御光の共焦点距離Zcの2倍程度を下限とし、これを越えた厚さの場合について、前記積層型薄膜光素子8を透過した前記信号光の見かけの強度が増大する方向の光応答223が充分な大きさで観察される。
【0158】
本発明の積層型薄膜光素子を用いることによって、図9に示すような、制御光の断続に対応して、信号光の強度が減少する向きの光応答222を高速化することができる。以下に、その詳細を記載する。
【0159】
まず、制御光の光ビームと信号光の光ビームとが、積層型薄膜光素子8内部の同一領域で焦点Fcを結ぶように、それぞれの光源からの光路、光混合器6、および集光レンズ7を調節した。次いで、波長選択フィルター20の機能を点検した。すなわち、光源2を消灯した状態で、光源1を点灯し、シャッター4を開閉した場合には光検出器22に応答が全く生じないことを確認した。
【0160】
次いで、前記焦点Fcが積層型薄膜光素子8中の光吸収層の制御光入射側に位置するよう微調整した。また、制御光のパワーが集光レンズ7の直前において10mWになるよう調整した。
【0161】
シャッター4を閉じた状態で制御光の光源1を点灯し、次いで、時刻t1 において光源2を点灯し積層型薄膜光素子8へ信号光を照射すると、光検出器22の信号強度はレベルCからレベルAへ増加した。
【0162】
時刻t2 においてシャッター4を開放し、積層型薄膜光素子8内部の信号光が伝播しているのと同一の光路へ制御光を収束・照射すると光検出器22の信号強度はレベルAからレベルBへ減少した。この変化の応答時間は0.2マイクロ秒未満であった。すなわち、特開平10−90734号報などに記載されている応答時間に比べて、約10倍の高速応答が観察された(比較例3参照)。
【0163】
時刻t3 においてシャッター4を閉じ、積層型薄膜光素子への制御光照射を止めると光検出器22の信号強度はレベルBからレベルAへ復帰した。
【0164】
時刻t4 においてシャッター4を開放し、次いで、時刻t5 において閉じると、光検出器22の信号強度はレベルAからレベルBへ減少し、次いでレベルAへ復帰した。
【0165】
時刻t6 において光源2を消灯すると光検出器22の出力は低下し、レベルCへ戻った。
【0166】
本発明の積層型薄膜光素子の光応答速度の上限を確認するため、ファンクションジェネレーターで制御したAO変調器を用いて、制御光をデューティ比1:9、すなわち、制御光点灯時間1に対して制御光消灯時間9の割合、または、制御光点灯時間9に対して制御光消灯時間1の割合で高速に、連続的に明滅させ、信号光強度の追従状態をストレージオシロスコープで観察する実験を行った。その結果、本実施例の積層型薄膜光素子について、制御光点灯時間125ナノ秒および消灯時間1.125マイクロ秒の高速「明」パルス、および、制御光点灯時間1.125マイクロ秒および消灯時間125ナノ秒の高速「暗」パルスまで、信号光強度変化が追従することが確認された。
【0167】
以上、収束した制御光の共焦点距離Zc=10.6μmに対し、光吸収光層の合計の厚さが、共焦点距離Zcの2倍を越えない20.4μm(熱レンズ形成層の厚さ20μm)の場合について記載した。同様にして光吸収層中のポリカーボネイト樹脂製熱レンズ形成層の膜厚が10μm、50μmおよび100μmものについて制御光の明滅に対する信号光強度の追従を比較したところ、熱レンズ形成層の膜厚が10μmの場合、同20μmと同等であった。しかるに、制御光共焦点距離Zcの2倍を越える50μmのものが追従できたのは制御光点灯時間1マイクロ秒および消灯時間9マイクロ秒の「明」パルスまでであった。更に100μmものは制御光点灯時間2マイクロ秒および消灯時間18マイクロ秒の「明」パルスまでであった。すなわち、高速応答速度を達成するためには、光吸収層の膜厚が制御光共焦点距離Zcの2倍を越えないことが好ましい。
【0168】
〔比較例1〕
前述のようにして比較例1として作成した、ガラス(伝熱層、膜厚150μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層、膜厚20μm)/ガラス(伝熱層、膜厚150μm)という構成の、光吸収膜単層/熱レンズ形成層単層・積層型薄膜光素子について、実施例1の場合と同様に光応答実験を行った。なお、制御光および信号光は光吸収膜側から熱レンズ形成層へ向けて入射させ、ビームウエスト(焦点Fc)を積層型薄膜光素子8中光吸収層の集光レンズ7に近いところ(光の入射側)に設定し、制御光の照射に対応して、信号光の強度が減少する向きの光応答222を観察した。その結果、制御光の高速明滅に信号光強度変化が追従できたのは、制御光点灯時間2マイクロ秒および消灯時間18マイクロ秒の「明」パルスまでであった。
【0169】
〔比較例2〕
前述のようにして比較例2として作成した、ガラス(伝熱層、膜厚150μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層、膜厚10μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層、膜厚10μm)/ガラス(伝熱層、膜厚150μm)という構成の、光吸収膜単層/熱レンズ形成層2層・積層型薄膜光素子について、実施例1の場合と同様に光応答実験を行った。その結果、制御光の高速明滅に信号光強度変化が追従できたのは制御光点灯時間20マイクロ秒および消灯時間180マイクロ秒の「明」パルスまでであった。
【0170】
〔比較例3〕
特開平10−90734号報に記載された方法に従って、色素固溶化樹脂膜型単層の光吸収層を伝熱層膜としてのガラス基板でサンドイッチした構造の膜型光素子を作成した。すなわち、フタロシアニン誘導体として、2,6,10,14−および/または2,6,10,15−および/または2,6,11,15−および/または2,7,10,15−テトラ(t−ブチル)オキシバナジウムフタロシアニン(4種類の置換位置異性体の混合物):6.81mgおよびポリメタクリル酸ベンジル:1993.2mgをテトラヒドロフラン:200mlに溶解し、水:1000ml中へかき混ぜながら加えて析出した沈殿(フタロシアニン誘導体およびポリマーの混合物)を濾別し、水で洗浄してから減圧下乾燥し、粉砕した。得られたフタロシアニン誘導体およびポリマーの混合粉末を10-5Pa未満の超高真空下、40℃で2日間加熱を続け、残留溶媒等の揮発成分を完全に除去して、光応答性組成物の粉末を得た。この粉末20mgをスライドガラス(25mm×76mm×厚さ1.150mm)およびカバーガラス(18mm×18mm×厚さ0.150mm)の間に挟み、真空下100℃に加熱し、2枚のガラス板を圧着する方法(真空ホットプレス法)を用いてスライドガラス/カバーガラス間にフタロシアニン誘導体を固溶化したポリマーの膜(膜厚75μm)を作成した。すなわち、比較例3の膜型光素子として、ガラス(伝熱層膜、膜厚150μm)/フタロシアニン誘導体を固溶化した樹脂膜(光吸収層兼熱レンズ形成層、膜厚75μm)/ガラス(伝熱層膜、膜厚1.150mm)という構成の、膜型光素子を作成した。この膜型光素子の透過率は制御光の波長(633nm)で8.8%、信号光の波長(830nm)で84%であった。
【0171】
信号光の光源2として、発振波長830nmの半導体レーザー(連続発振出力5mW、ビーム整形後の直径約8mmのガウスビーム)を用いた他は実施例1の場合と同様にして、制御光および信号光のビームウエスト位置(焦点Fc)を比較例3の膜型光素子中、光吸収層兼熱レンズ形成層の集光レンズ7に近いところ(光の入射側)に設定し、信号光の強度が減少する向きの光応答222を観察したところ、制御光を点灯したときの信号光強度の減少に要する時間は1.9マイクロ秒であった。
【0172】
また、制御光の高速明滅に信号光強度変化が追従できたのは制御光点灯時間2マイクロ秒および消灯時間18マイクロ秒の「明」パルスまでであった。
【0173】
〔実施例2〕
実施例1における集光レンズ7(焦点距離6.2mm、開口数0.65、有効開口半径4.03mmの顕微鏡用対物レンズ)の代わりに、開口数0.66および有効開口半径4mm相当の屈折率分布型レンズ70を光透過層82を介して伝熱層膜81に積層したものを用い、図3に例示するような構成の積層型薄膜光素子および光制御装置を設置した。光透過層82としては市販の紫外線硬化樹脂(大日精化工業製「セイカビームVDAL−392」)を用いた。
【0174】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等の高速光応答を観察した。
【0175】
〔実施例3〕
実施例1における受光レンズ9(開口数0.4の顕微鏡用対物レンズ)の代わりに、開口数0.4相当の屈折率分布型レンズ90を光透過層89を介して伝熱層膜86に積層したものを用い、図4に例示するような構成の積層型薄膜光素子および光制御装置を設置した。光透過層89としては実施例2で用いたのと同じ紫外線硬化樹脂を用いた。
【0176】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等の高速光応答を観察した。
【0177】
〔実施例4〕
実施例1における集光レンズ7(図1の焦点距離6.2mm、開口数0.65、有効開口半径4.03mmの顕微鏡用対物レンズ)の代わりに、開口数0.66および有効開口半径4mm相当の屈折率分布型レンズ70を光透過層82を介して伝熱層膜81に積層し、更に屈折率分布型レンズ70に光軸を合わせて、実施例1における受光レンズ9(図1の開口数0.4の顕微鏡用対物レンズ)の代わりに、開口数0.4相当の屈折率分布型レンズ90を光透過層89を介して伝熱層膜86に積層したものを用い、図5に例示するような構成の積層型薄膜光素子および光制御装置を設置した。光透過層82および89としては実施例2で用いたのと同じ紫外線硬化樹脂を用いた。
【0178】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等の高速光応答を観察した。
【0179】
〔実施例5〕
実施例1におけるポリカーボネイト樹脂および同樹脂粉末を用いた真空ホットプレス法に替えて、実施例2で用いたのと同じ紫外線硬化樹脂を用いて、ガラス(伝熱層膜81、膜厚150μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/紫外線硬化樹脂層(熱レンズ形成層80、膜厚20μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/ガラス(伝熱層膜86、膜厚150μm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した。
【0180】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等の高速光応答を観察した。
【0181】
〔実施例6〕
ガラス(伝熱層膜81)/光吸収膜84/液体(熱レンズ形成層80)/光吸収膜85/ガラス(伝熱層膜86、膜厚1mm)という構成の積層型薄膜光素子を作成するため、図11に示すような組立式光学セル810を用いた。
【0182】
組立式光学セル810は、液体充填部818を設けたスペーサー814を2枚の板状の入射・出射面ガラス813(伝熱層膜81)および815(伝熱層膜86)で挟み、これをゴムパッキン812および816を介して固定枠811および817で挟み、固定ネジ穴824および825にネジ(図示せず)を用いて固定するものである。固定枠817に取り付けた導入管822および823は、固定枠817に設けた導入孔821、ゴムパッキン816に設けた導入孔820、次いで入射・出射面ガラス815に設けた導入孔819に通じており、これらの導入経路を通して液体を充填部818へ導入することができる。充填部818の厚さ、すなわち、信号光および/または制御光が垂直に入射したとき熱レンズ形成層中を伝播する光路長は、組み立て時のスペーサー814の厚さによって決定される。ここで使用したスペーサー814の材質はポリ四フッ化エチレン、入射・出射面ガラス813および815の材質は溶融石英ガラス、ゴムパッキン812および815の材質はエチレン・プロピレンゴム、および、固定枠811および817の材質はステンレスである。
【0183】
実施例1の場合と同様にして、実施例1におけるガラス板(24mm×30mm×0.15mm)の代わりに組立式光学セルの入射・出射面ガラス813(伝熱層膜81)および815(伝熱層膜86)の片面にプラチナフタロシアニンを膜厚0.2μmになるよう真空蒸着した。この蒸着面が向かい合うようにして組立式光学セル810を組み立てた。スペーサーの厚さ、すなわち熱レンズ形成層の厚さは25μmとした。次いで、熱レンズ形成層80を構成する液体としてグリセリン(沸点290℃)を、液体充填部818へ注入した。こうして、石英ガラス(伝熱層膜81、膜厚1mm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/グリセリン液膜(熱レンズ形成層80)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/石英ガラス(伝熱層膜86、膜厚1mm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した。なお、グリセリンは吸湿性があり、水分が混入すると制御光照射時、100℃まで温度が上昇した時点で水蒸気の気泡が発生してしまう。これを避けるため、モレキュラーシーブを用いて充分に脱水したグリセリンを、乾燥した窒素雰囲気下で、組立式光学セル810に注入し、注入口を密閉して用いた。
【0184】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等の高速光応答を観察した。
【0185】
〔実施例7〕
実施例6の場合と同様にして、組立式光学セル810の入射・出射面ガラス813(伝熱層膜81)および815(伝熱層膜86)の片面にプラチナフタロシアニンを膜厚0.2μmになるよう真空蒸着した。この蒸着面に実施例2で使用したのと同じ紫外線硬化樹脂を50nmの厚さにスピンコート法で塗工、硬化させて、第1の熱レンズ形成層を作成した。この紫外線硬化樹脂層は、第1の熱レンズ形成層として作用すると同時に、プラチナフタロシアニンが溶解することを防止する役割を果たすものである。以下、実施例6の場合と同様にして組立式光学セルを組み立て、液体充填部818へ市販の液晶(メルク社製「ZLI−1132」)を充填した。こうして、石英ガラス(伝熱層膜81、膜厚1mm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/液晶膜(熱レンズ形成層80)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/石英ガラス(伝熱層膜86、膜厚1mm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した。
【0186】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等の高速光応答を観察した。
【0187】
〔実施例8〕
ガラス板(24mm×30mm×0.15mm)の表面に保温層として、ポリカーボネイト樹脂のジクロロメタン溶液をスピンコート法で、乾燥後の厚さ0.1μmになるよう塗工し、10-4Pa以下の高真空容器中、100℃から120℃の温度範囲で48時間、脱気処理したものを用い、保温層の表面にプラチナフタロシアニンを膜厚0.2μmになるよう真空蒸着したものを作成した。これを用いた他は実施例1の場合と同様にして、ガラス(伝熱層膜81、膜厚150μm)/ポリカーボネイト樹脂層(保温層、膜厚0.1μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜84、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(熱レンズ形成層80、膜厚20μm)/プラチナフタロシアニン蒸着膜(光吸収膜85、膜厚0.2μm)/ポリカーボネイト樹脂層(保温層、膜厚0.1μm)/ガラス(伝熱層膜86、膜厚150μm)という構成の積層型薄膜光素子を作成した。
【0188】
以下、実施例1の場合と同様にして本実施例の積層型薄膜光素子の光応答を測定し、実施例1の場合と同等以上の高速光応答を観察した。すなわち、制御光点灯時間100ナノ秒および消灯時間900ナノ秒の高速「明」パルス、および、制御光点灯時間900ナノ秒および消灯時間100ナノ秒の高速「暗」パルスまで、信号光強度変化が追従することが確認された。
【0189】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明の積層型薄膜光素子、光制御方法および光制御装置によれば、例えば、可視領域にある低パワーのレーザー光を制御光として、近赤外線領域にある信号光を精度良く変調することが、極めて単純な光学装置によって、電子回路などを一切用いることなく、サブマイクロ秒の応答速度において実現可能になる。また、制御光と信号光の光軸調整を簡便に行うことができ、更に、極めてコンパクトな光制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の積層型薄膜光素子の構成例を例示した断面図である。
【図2】 本発明を実施する際に用いられる装置構成を例示した構成図である。
【図3】 本発明を実施する際に用いられる装置構成を例示した構成図である。
【図4】 本発明を実施する際に用いられる装置構成を例示した構成図である。
【図5】 本発明を実施する際に用いられる装置構成を例示した構成図である。
【図6】 プラチナフタロシアニン蒸着膜表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】 実施例1の積層型薄膜光素子および比較例1の光吸収膜単層/熱レンズ形成層単層・積層型薄膜光素子の透過率スペクトルである。
【図8】 集光レンズなどで収束されたガウスビームの焦点近傍における様子を表した模式図である。
【図9】 最小収束ビーム径位置を薄膜光素子の集光レンズに近いところに設定したときの制御光および信号光の光強度時間変化を例示した図である。
【図10】 最小収束ビーム径位置を薄膜光素子の受光レンズに近いところに設定したときの制御光および信号光の光強度時間変化を例示した図である。
【図11】 実施例6で用いられる組立式液体セル810の構成部品を例示した模式図である。
【符号の説明】
1 制御光の光源、2 信号光の光源、3 NDフィルター、4 シャッター、5 半透過鏡、6 光混合器、7 集光レンズ、8 積層型薄膜光素子、9 受光レンズ、11 光検出器(制御光の光強度検出用)、20 波長選択透過フィルター(制御光遮断用)、22 光検出器(信号光の光強度検出用)、70および90 屈折率分布型レンズ、80熱レンズ形成層、81および86 伝熱層膜、82および89 光透過層、83 保温層膜、84および85 光吸収膜、100 オシロスコープ、111 光検出器11からの信号(制御光の光強度時間変化曲線)、222および223 光検出器22からの信号(信号光の光強度時間変化曲線)、121 実施例1の積層型薄膜光素子の透過率スペクトル曲線、122 比較例1の光吸収膜単層/熱レンズ形成層単層・積層型薄膜光素子の透過率スペクトル曲線、810 組立式光学セル、811 固定枠、812 ゴムパッキン、813 入射・出射面ガラス、814 スペーサー、815 入射・出射面ガラス(導入孔付)、816 ゴムパッキン(導入孔付)、817 固定枠(導入管付)、818 液体充填部(熱レンズ形成層)、819 導入孔、820 導入孔、821 導入孔、822 導入管、823 導入管、824 固定ネジ穴、825 固定ネジ穴、A 制御光を遮断した状態で信号光の光源を点灯した場合の光検出器22の出力レベル、B 焦点Fcが積層型薄膜光素子8の集光レンズ7側に設定された場合で、かつ信号光の光源を点灯した状態で制御光を照射した場合の光検出器22の出力レベル、C 信号光を消灯した状態の光検出器22の出力レベル、D 焦点Fcが積層型薄膜光素子8の受光レンズ9側に設定された場合で、かつ信号光の光源を点灯した状態で制御光を照射した場合の光検出器22の出力レベル、d78 集光レンズ7と積層型薄膜光素子8の距離、d89 積層型薄膜光素子8と受光レンズ9の距離、Fc 焦点、S1 制御光、S2 信号光、t1 信号光の光源を点灯した時刻、t2 制御光を遮断していたシャッターを開放した時刻、t3 制御光をシャッターで再び遮断した時刻、t4 制御光を遮断したシャッターを開放した時刻、t5 制御光をシャッターで再び遮断した時刻、t6 信号光の光源を消灯した時刻、θ 集光レンズで収束させた光ビームの外周部が光軸となす角度、ω0 集光レンズで収束させたガウスビームのビームウエスト(焦点位置におけるビーム半径)、Zc 共焦点距離。

Claims (26)

  1. 少なくとも光吸収層を含む積層型薄膜光素子中の光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々収束させて照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、少なくとも前記制御光は前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う薄膜光素子において、
    前記光吸収層が3層からなる積層型薄膜であって、
    第1層は、前記制御光の波長帯域の光を吸収する光吸収膜であり、
    第2層は、前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性である熱レンズ形成層であり、
    第3層は、前記制御光の波長帯域の光を吸収する光吸収膜であることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  2. 請求項1に記載の積層型薄膜光素子において、
    前記熱レンズ形成層を挟む前記2枚の光吸収膜の内、前記制御光入射側の前記光吸収膜が前記制御光の10ないし90%を吸収し、更に前記制御光出射側の前記光吸収膜が前記制御光の残余分を吸収するように前記制御光波長帯域の透過率が調整されていることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  3. 請求項1に記載の積層型薄膜光素子において、
    前記積層型薄膜からなる光吸収層の厚さが、収束された前記制御光の共焦点距離の2倍を越えないことを特徴とする積層型薄膜光素子。
  4. 請求項2に記載の積層型薄膜光素子において、
    前記積層型薄膜からなる光吸収層の厚さが、収束された前記制御光の共焦点距離の2倍を越えないことを特徴とする積層型薄膜光素子。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
    前記積層型薄膜からなる光吸収層に、更に、
    前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性の保温層膜、および/または、
    前記制御光および前記信号光の波長帯域において光透過性の伝熱層膜を、
    以下の群(a)〜(i)から選択される構成で積層したことを特徴とする積層型薄膜光素子。
    (a)光吸収層/保温層膜
    (b)保温層膜/光吸収層/保温層膜
    (c)光吸収層/伝熱層膜
    (d)伝熱層膜/光吸収層/伝熱層膜
    (e)光吸収層/保温層膜/伝熱層膜
    (f)伝熱層膜/光吸収層/保温層膜
    (g)伝熱層膜/光吸収層/保温層膜/伝熱層膜
    (h)伝熱層膜/保温層膜/光吸収層/保温層膜
    (i)伝熱層膜/保温層膜/光吸収層/保温層膜/伝熱層膜
  6. 請求項5に記載の積層型薄膜光素子において、
    前記制御光および前記信号光の収束手段としての屈折率分布型レンズが、
    前記信号光入射側の光吸収層、または、保温層膜、または、伝熱層膜に、
    直接または更に光透過層を介して、積層されて設けられていることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  7. 請求項5に記載の積層型薄膜光素子において、
    前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段としての屈折率分布型レンズが、
    前記信号光出射側の光吸収層、または、保温層膜、または、伝熱層膜に、
    直接または更に光透過層を介して、積層されて設けられていることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  8. 請求項6に記載の積層型薄膜光素子において、
    前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段としての屈折率分布型レンズが、
    前記信号光出射側の光吸収層、または、保温層膜、または、伝熱層膜に、
    直接または更に光透過層を介して、
    前記光吸収層の前記信号光入射側に設けられた屈折率分布型レンズに向かい合って、各々のレンズ中心軸を揃えて、
    積層されて設けられていることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  9. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
    前記光吸収膜が、前記制御光波長帯域の光を吸収する色素を含有していることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  10. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
    前記光吸収膜が、前記制御光波長帯域の光を吸収する色素の非晶質凝集体からなることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  11. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
    前記光吸収膜が、前記制御光波長帯域の光を吸収する色素の微小結晶凝集体からなり、
    かつ、前記色素微小結晶の粒子径が前記信号光の波長と制御光の波長を比べて短い方の波長の1/5を越えない大きさであることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  12. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子において、
    前記熱レンズ形成層が、非晶質の有機化合物、有機化合物液体、および液晶からなる群から選ばれる有機化合物からなることを特徴とする積層型薄膜光素子。
  13. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々収束させて照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、少なくとも前記制御光は前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行うことを特徴とする光制御方法。
  14. 請求項6に記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行うことを特徴とする光制御方法。
  15. 請求項7に記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々収束させて照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、少なくとも前記制御光は前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行うことを特徴とする光制御方法。
  16. 請求項8に記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行うことを特徴とする光制御方法。
  17. 請求項13に記載の光制御方法において、
    前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって、
    強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする光制御方法。
  18. 請求項14に記載の光制御方法において、
    前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって、
    強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする光制御方法。
  19. 請求項15に記載の光制御方法において、
    前記光吸収層の前記信号光出射側に積層されて設けられた前記屈折率分布型レンズを用いて、前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって、
    強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする光制御方法。
  20. 請求項16に記載の光制御方法において、
    前記光吸収層の前記信号光出射側に積層されて設けられた前記屈折率分布型レンズを用いて、前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって、
    強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする光制御方法。
  21. 請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
    前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段を有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なるように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
    また、前記積層型薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置されていることを特徴とする光制御装置。
  22. 請求項6に記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることにより、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
    前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段として前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合うように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
    また、前記薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置されていることを特徴とする光制御装置。
  23. 請求項21に記載の光制御装置において、
    強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出す手段を設けたことを特徴とする光制御装置。
  24. 請求項22に記載の光制御装置において、
    強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出す手段を設けたことを特徴とする光制御装置。
  25. 請求項7に記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記光吸収層に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、前記光吸収層は前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
    前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段を有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なるように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
    また、前記積層型薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置され、
    更に、前記光吸収層を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記光吸収層の前記信号光出射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有することを特徴とする光制御装置。
  26. 請求項8に記載の積層型薄膜光素子を用い、
    前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズに、前記制御光および前記信号光を各々照射し、少なくとも前記制御光が前記光吸収層内において焦点を結び、前記光吸収層が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることにより、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御装置であって、
    前記制御光および前記信号光を各々収束させる収束手段として前記制御光および前記信号光入射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有し、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合うように、前記制御光および前記信号光の光路がそれぞれ配置され、
    また、前記積層型薄膜光素子の前記光吸収層は、収束された前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度の最も高い領域が互いに重なり合う位置に配置され、
    更に、前記積層型薄膜光素子を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光光線束の発散角度よりも小さい角度範囲で取り出すことによって強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すための手段として、前記光吸収層の前記信号光出射側に設けられた前記屈折率分布型レンズを有することを特徴とする光制御装置。
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