JP3925233B2 - 金属の造塊方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マクロ偏析やザク欠陥の極めて少ない、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、Ni基超合金等の金属鋳塊の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等の鋳片の製造では、連続鋳造法による鋳片の製造が主流であり、その適用比率は90%を超えるまでに達しているが、なお、小ロット品や、Ni基超合金で代表されるような連続鋳造が難しい金属の鋳塊の製造では、造塊方法が用いられている。
通常、造塊方法により製造された鋳塊の内部には、V偏析、逆V偏析といった溶質成分のマクロ偏析や粗大なポロシティの集まりであるザク欠陥が存在する。これらのマクロ偏析やザク欠陥は、次のようにして形成される。すなわち、鋳片が外表面から順次凝固しつつ、内部に残された溶湯が凝固するときに凝固収縮が生じ、その収縮分によりポロシティまたはザク欠陥が形成される。さらに、これらの収縮孔を埋めようとしてデンドライト樹間に存在する、溶質成分のミクロ偏析した溶湯が流入して集積することによりマクロ偏析が形成される。
【0003】
製造された鋳塊は、熱間鍛造、あるいは熱間圧延を経て、製品まで加工される。これらの加工工程を経る間に、素材の断面積が縮小すると同時に、マクロ偏析やザク欠陥も縮小する。鋳塊の段階でこれらの欠陥が粗大な場合は、後の加工工程でも十分に縮小せずに、製造上および製品品質上の両面で問題となる。
【0004】
例えば、13%Cr鋼に代表される高Cr鋼におては、マクロ偏析に起因する粗大なカーバイドが存在すると、鍛造または圧延加工時にその部分が割れの起点となり、熱間加工性の著しい低下を招く。また、製品に偏析が残存すると、機械的性能を低下させる原因となる。さらに、ステンレス鋼およびNi基超合金において、製品に偏析が残存すると、機械的性質の劣化のみならず、耐食性の低下をも招く。
【0005】
また、ザク欠陥についても、これが製品に残存すると、機械的性質を低下させる原因となる。例えば、高合金や超合金のシームレス油井管の製造工程において、ビレット加工後、中心部にザク欠陥に起因するポロシティが残存すると、機械的性質の低下のみならず、穿孔製管時にパイプの内面疵発生の原因ともなりやすい。
【0006】
これらのマクロ偏析やザク欠陥などの鋳造欠陥を防止または抑制するためには、Ni基超合金の鋳塊製造法に代表されるように、ESRやVARなどの再溶解凝固法が最も適している。しかし、これらの再溶解凝固法では、対象とする金属を溶解するための電極の鋳造、およびその電極の再溶解と、少なくとも二回の造塊工程を経る必要があるために、造塊方法に比較して、著しく製造コストが高くなる。
また、従来から、鋳塊の内部欠陥を低減するために、鋳型形状の変更などが実施されている。しかし、鋳型形状の変更だけでは、前述のマクロ偏析やザク欠陥を防止することは困難である。
【0007】
さらに、特開昭51−66233号公報には、凝固の進行中に鋼塊側面を加圧することにより、鋼塊押湯部の未凝固溶湯が鋼塊本体に補給されないようにし、マクロ偏析を防止する鋼塊製造方法が開示されている。ここで開示された方法は、鋼塊の凝固収縮量に応じて鋼塊を厚さ方向に圧下する方法である。しかし、この方法では、圧下量が小さいため、マクロ偏析を確実に低減させるには不十分である。まして、数十mmという空隙をともなうこともあるザク欠陥を解消することは困難である。また、押湯部は保温剤により保温されているので、押湯部の溶融スラグや溶質成分の濃化した溶鋼の一部が凝固相に巻き込まれる可能性もある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述のマクロ偏析やザク欠陥を解消するためには、鋳塊の内部が未凝固の段階で、凝固収縮を上回る大きな変形を付与することが効果的である。しかし、鋳塊が未凝固の段階で大きな圧下を与える場合には、以下のような解決すべき問題点がある。
【0009】
1)鋳塊内部が未凝固の段階で鋳塊を揺動させると、鋳塊上端部の溶湯面(以下「湯面」ともいう)で凝固した金属が湯面上に浮遊している溶融スラグをトラップして溶湯内へ沈降していき、凝固が進むにつれて鋳塊内部に留まる。トラップされた溶融スラグは鋳塊内部で凝固して非金属介在物となり、鋳塊を熱間加工する際に割れの起点となったり製品上の欠陥となる。
2)未凝固状態で圧下することによって凝固界面が圧着すると、その間に存在した溶湯は圧下部以外の領域に排出される。通常、凝固界面近傍では樹枝状の凝固相が形成されており、樹間には溶質成分のミクロ偏析した溶湯が存在している。圧下にともない、これらのミクロ偏析を伴った溶湯は未凝固液相中に絞り出され、液相中の溶質成分の著しい濃化をもたらす。
【0010】
本発明の課題は、前記1)および2)の問題点を解消し、非金属介在物の巻き込み、マクロ偏析の発生およびザク欠陥の発生の極めて少ない鋳塊を得ることのできる造塊方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の課題を達成するため、従来技術の問題点について検討を加え、以下の知見を得た。
【0012】
a)従来技術の問題点を解決するためには、鋳塊上部に押し湯枠を設け、押し湯枠上端部近傍を積極的に凝固させて閉塞した後、鋳塊内部および押し湯内部が未凝固の状態で、鋳塊の下端部から上端部に向けて、溶質成分の濃化した溶湯を順次しごき出すように、順次、鋳塊側面を全長にわたり圧下して(以下「未凝固圧下」ともいう)、鋳塊上端部までを圧潰し、さらに、鋳塊の凝固後に押し湯部を切り離す方法が適切である。
【0013】
b)上記a)の操作を行うことにより、鋳塊内部への溶融スラグの巻き込みや沈降に起因する非金属介在物の生成を防止できるとともに、未凝固圧下により排出された溶質成分の濃化した溶湯は、鋳塊下端部から上端部に向けて順次しごき出されて、押し湯内に集積する。鋳塊の凝固後に、この押し湯部を切り離すことにより、液相中の溶質成分の濃化によるマクロ偏析の問題は解消される。
【0014】
c)鋳塊を直立させたまま、上記a)の操作を行うためには、圧下箇所を鋳塊に沿って上下に移動できる圧下装置、または鋳塊を上下に昇降できる装置が必要であり、設備が大掛かりで複雑なものとなる。
【0015】
d)上記c)の問題を解決するためには、完全に凝固した後の鋳塊の加工と同様に、鋳塊を水平に保持し、鋳塊の側面を、その下端部から上端部に向けて水平方向に圧延あるいは鍛造により圧下する方法が簡便であり、しかも、既存設備をそのまま使用できる利点もある。
e)上記a)のように、押し湯枠上端部近傍を積極的に凝固させて閉塞させれば、内部が未凝固の鋳塊を傾倒する場合にも、鋳塊の上端部からの溶湯の漏出や、鋳塊上端部に存在する溶融スラグの鋳塊揺動による鋳塊内部への巻き込みなどの問題が発生せず、したがって、上記d)に示された方法を実施できる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示す方法にある。
【0016】
(1)鋳型上部に金属製の押し湯枠を設け、前記押し湯枠の上端部まで溶湯を注入することにより、押し湯枠上端部近傍の溶湯を凝固させることで鋳塊の内部に未凝固の溶湯が存在する状態で鋳塊を閉塞し、その後、鋳塊を鋳型から取り出し、鋳型内相当位置および押し湯枠内相当位置の鋳塊内部に未凝固の溶湯が存在する時期に、鋳塊の下端部から上端部に向けて、溶質成分の濃化した溶湯を順次しごき出すように、順次、鋳塊の側面を全長にわたり圧下する金属の造塊方法。
【0017】
(2)上記鋳塊を鋳型から取り出した後、鋳塊を横倒しにした状態で、鋳塊の側面を鋳塊の下端部から上端部に向けて圧下する前記(1)に記載の金属の造塊方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の造塊方法につき詳細に説明する。
【0019】
(1)押し湯:
本発明において「押し湯」とは、鋳塊の内部に未凝固部分が存在する状態で鋳塊を圧下するにともなって排出される、溶質成分の濃化した溶湯を集積するために、鋳塊の上端部に設置する溶湯の保持部をいう。従来、鋳塊に溶湯の静圧を与え、鋳塊の凝固による収縮分の溶湯を補うために設けられた押し湯とは設置目的および機能を異にする。
溶質成分の濃化集積した押し湯の部分は、鋳塊が完全に凝固した後に、鋳塊から切り離されるので、溶質成分の濃化した溶湯が鋳塊の内部の残ることはない。
(2)押し湯枠:
材質:
本発明で規定する「金属製の押し湯枠」とは、炭素鋼や低合金鋼による鋳鋼、鋳鉄、および鋳塊の溶湯により溶融せず、また、鋳塊を汚染しない種類の金属により構成される押し湯枠をいう。金属製としたのは、前記のとおり、押し湯枠上端近傍の冷却を促進し、溶湯を積極的に凝固させて鋳塊の上端部を閉塞させるためには熱伝導率の高い材質のものが必要だからである。
形状:
押し湯枠は鋳型の上部に配置され、押し湯部の溶湯と接触して溶湯を冷却する機能を有するものであるから、その形状は以下のようなものが好ましい。
【0020】
押し湯枠の水平断面形状は、鋳型水平断面の内面形状に合わせるのが好ましい。例えば、鋳型の水平断面形状が長方形の場合には、押し湯枠の水平断面も長方形とし、鋳型の水平断面形状が円形の場合には、押し湯枠の水平断面形状も円形とし、鋳型の水平断面形状が多角形の場合には、押し湯枠の水平断面形状も多角形とするのが好ましい。
押し湯枠の水平断面の大きさは、押し湯枠の高さ方向で上部ほど小さくするのが好ましい。その理由は、後述するとおり、押し湯枠内に満たされる溶湯の形状が円錐台形状または角錐台形状となり、溶湯の体積当たりの冷却面積を大きくできるからである。
【0021】
押し湯枠の上端部には開口部を設けるのが好ましい。鋳塊の凝固中に発生するガスを大気中へ放散し、鋳型内のガス圧力の上昇を防止するためである。開口部の大きさは、鋳造された鋳塊本体に未凝固の溶湯が存在する間に、押し湯枠の上端部の溶湯が凝固して閉塞するように極力小さくするのが望ましい。
【0022】
押し湯枠内の容積は、後に押し湯部を切り離すため、極力小さくするのが望ましいが、鋳塊本体の容積の5〜15%とするのが好ましい。15%を超えると、切り離す部分の割合が多くなり、歩留まりロスが大きくなる。一方、5%未満では、鋳塊の側面を圧下することにより排出された溶湯を吸収できる容積が過小となるからである。
押し湯枠の高さ、および鉛直線に対する側面の傾斜角度は、前記の押し湯を収容できるよう容積を確保した上で、最良の形状となるよう決定すればよい。
【0023】
押し湯枠を構成する材料の厚さは、溶湯を注入した際に、熱間強度と剛性を維持できる厚さであればよい。
【0024】
押し湯枠は、一体構造のものでもよいし、鍛造または圧延などで加工された金属板を溶接またはボルト絞めなどにより組み立てたものであってもよい。
【0025】
(3)押し湯枠上端部近傍の溶湯を凝固させて鋳塊を閉塞:
押し湯枠上端部近傍の溶湯を積極的に凝固させて鋳塊を閉塞させることにより、鋳塊の揺動時、傾倒時、あるいは未凝固圧下時の溶鋼の漏れを防止することができるとともに、鋳塊内部への溶融スラグの巻き込みや沈降に起因する非金属介在物の生成を防止することができる。
【0026】
すなわち、従来の造塊方法であれば、鋳造の被覆材などが溶融スラグの状態で鋳塊上端部の溶湯面に層を成して存在しており、凝固相最前面で凝固殻が形成される時期に鋳塊を揺動させると、凝固殻に溶融スラグが固着あるいは、巻き込み内包されて、未凝固の溶湯内へと落下する。
【0027】
これに対して、給湯時あるいは、鋳塊の静置時に上端部の溶湯面を凝固させることにより、その後の鋳塊の揺動時に、上記のような好ましくない現象の生じるのを防止することができる。したがって、凝固が十分に進んだ段階で、傾倒や未凝固圧下を行う場合に揺動が加わっても、未凝固溶湯内への介在物の落下による持ち込みを抑制することができる。
【0028】
(4)鋳塊下端部から上端部に向けて順次鋳塊側面を圧下:未凝固圧下により、溶質成分の濃化した溶湯は非圧下部の未凝固相内に排出される。鋳塊下端部から鋳塊側面の圧下を開始すると、溶質成分の濃化した溶湯は鋳塊下端部から排出され、上部の未凝固相の領域向かって移動する。鋳塊の下端部から上端部に向かって、溶質成分の濃化した溶湯を順次しごき出すように、順次、鋳塊側面を全長にわたり圧下することにより、溶質成分の濃化した溶湯は鋳塊上端部まで移動し、最終的には、押し湯内の未凝固領域に集積する。
【0029】
したがって、この押し湯部を鋳塊の完全に凝固した後に切り離すことにより、鋳塊には溶質の濃化した部分は残存しなくなり、成分偏析の問題は解消される。
【0030】
一方、鋳塊の下端部以外の位置から鋳塊側面の圧下を開始すると、圧下位置よりも鋳塊下端側の残存溶湯も溶質成分が濃化し、圧下位置よりも下端側の鋳塊内に閉じ込められてしまう結果、鋳塊内部に著しいマクロ偏析として残ることになる。
【0031】
鋳塊側面の圧下量は、マクロ偏析の発生およびザク欠陥の発生を防止する上で重要である。
【0032】
圧下量は、鋳塊の横断面(鋳塊を横倒しにした場合は鉛直断面)が長方形の場合には、鋳塊内部の未凝固溶湯部分の断面の厚さの50%以上とすることが好ましく、鋳塊の横断面が円形の場合には、未凝固溶湯部分の断面の直径の50%以上とすることが好ましい。また、鋳塊の横断面が多角形の場合には、未凝固溶湯部分の横断面形状を円形に近似して、横断面形状が円形の場合と同様に、断面の直径の50%以上とすることが好ましい。圧下量が50%未満では、圧下後に多量の溶湯が残存し、その溶湯が完全に凝固する際にマクロ偏析やザク欠陥が発生するからである。
【0033】
また、圧下量は、未凝固溶湯断面の厚さまたは直径をこえても構わない。未凝固溶湯が固液共存相から完全に排出され、さらに凝固殻同士が圧着されて塑性変形するからである。
【0034】
(5)鋳型内相当位置および押し湯枠内相当位置の鋳塊内部に未凝固溶湯が存在する時期:溶質成分の濃化した溶湯を、鋳塊の下端部から上端部に向かって、順次、鋳塊側面の全長にわたって行う圧下によって生じる溶湯の流動により排出させるとともに、鋳塊の上端部に向かって移動させ、さらに押し湯枠内の鋳塊内部に集積させるためには、鋳型内および押し湯枠内の鋳塊内部に未凝固溶湯の存在する必要がある。また、ザク欠陥の発生を防止する観点からも同様に、鋳型内および押し湯枠内の鋳塊内部に未凝固溶湯の存在する必要がある。未凝固溶湯の存在領域は、溶湯注入後の時間の経過とともに縮小していくが、これらの関係は、造塊する金属の種類、溶湯の注入温度、鋳型の形状、鋳型のサイズ、鋳型構成金属の種類、押し湯の形状、押し湯のサイズ、および押し湯構成金属などにより影響を受ける。
【0035】
鋳型内および押し湯枠内の鋳塊内部に未凝固溶湯が存在する時期は、上記の実績を整理することにより把握されるため、それらに基づいて求めればよい。また、放射性同位元素などを溶湯にトレーサーとして添加し、その挙動を観測することによりリアルタイムで把握することもできる。さらには、鋳塊内の溶湯の流動および凝固過程を伝熱計算により解析し、未凝固溶湯の存在領域および存在時期を推算により求めることもできる。
【0036】
【実施例】
上端部内径が1000mm、下端部内径が950mm、高さが2000mmの逆錐形の鋳型の上端部に鋳鋼製の押し湯枠を設置し、質量%で、C:0.2%の13%Cr鋼の溶鋼を下注ぎ法により造塊した。
【0037】
図1は、鋳鋼製の押し湯枠を設けた鋳型内に溶鋼を鋳造した後、内部に未凝固の溶鋼が存在する状態で閉塞凝固させた鋳塊の縦断面の概略図である。
【0038】
押し湯枠2は、高さが450mm、鋳型1の上端部と接する押し湯枠下端部2cの内径が980mm、押し湯枠上端部2aの内径が200mmの円錐台形状で、肉厚は40mmとした。この押し湯枠を、その下端部が鋳型内面に内接するように設置して固定した。なお、鋳型に押し湯枠を設置した状態での合計の高さは2450mmであった。
【0039】
押し湯枠内の領域は押し湯枠内相当位置4aであり、押し湯枠の下端部と鋳型との当接位置よりも下部の鋳型内領域は鋳型内相当位置4bである。
【0040】
押し湯枠を円錐台形状にすると、下注ぎされた溶鋼の上部自由表面が押し湯枠の水準に到達した後、溶鋼は、その自由表面の面積を減少しつつ押し湯枠の側面との接触面積を増加していくので、溶鋼の体積当たりの冷却面積は増加し、押し湯枠上端部に近づくにつれて、溶鋼の凝固速度は速くなる。凝固は、鋳型および押し湯枠と溶鋼との接触部分からそれぞれ優先的に開始し、凝固殻5を生成して、その厚さを増加していく。鋳型内の鋳塊4の内部および押し湯部内には未凝固溶鋼3が存在している。
【0041】
押し湯枠上端部の内径は小さければ小さいほど、鋳塊内部に未凝固溶鋼を残した状態で押し湯枠上端部近傍の溶鋼が凝固する、いわゆる閉塞凝固は早期に起こりやすい。しかし、鋳造中に発生するガスを抜くためには開口部が必要であり、本試験では内径200mmの押し湯枠開口部2bを設けた。鋳造された溶鋼の押し湯枠上端部近傍の早期凝固を促進させるためには、この程度の大きさの開口部で充分であった。
【0042】
鋳型内相当位置の上端部は鋳塊上端部4eであり、鋳型内相当位置の下端部は鋳塊下端部4cである。
【0043】
溶鋼の注入完了後、約150分で鋳型から鋳塊を抜き、鋳塊を横倒しとした。このときの未凝固部分の直径は、押し湯上端部を閉塞せずに鋳塊を横倒しして溶鋼を排出する溶鋼排出試験および伝熱計算により、290mmと推定された。
【0044】
図2は、本発明の造塊方法における鋳塊側面の圧下方法の実施例を示す図である。
【0045】
未凝固溶鋼が内部に存在する前記の鋳塊を鍛造機に搬送し、鋳塊側面4dを上下方向(鉛直方向)から圧下した。圧下開始の時期は溶鋼注入完了から約200分経過した時点であった。前記したのと同様の方法により、鋳型内相当位置の鋳塊4bには外側に凝固殻5が、その内部に未凝固部3が存在すること、そして、押し湯枠内相当位置の鋳塊4aすなわち押し湯部には、凝固部4fの内部に未凝固部3aが存在することを確認した。未凝固部の存在状況は、以下のように推定された。
【0046】
1)高さ方向での存在範囲:鋳塊下端部から500〜2350mm。
【0047】
2)未凝固部の直径:180mm。
【0048】
マニピュレータ6により鋳塊上端部4eを把持し、鋳塊をその上端部から下端部の方向に移動させながら、鍛造機に取り付けられた圧下金具7により、鋳塊を繰り返し圧下することにより、鋳塊下端部4cから鋳塊上端部4eに向けて、順次、その全長を圧下した。ここで、マニピュレータによる鋳塊の把持部分と押し湯部は圧下領域から除外した。
【0049】
圧下金具7は、その水平断面が、鋳塊の長手方向(鋳塊の直立時には鋳塊の高さ方向)には400mm、鋳塊の直径方向には1100mmの長方形断面のものを用いた。また、圧下力は最大で3000tonに設定した。
【0050】
圧下量は、マクロ偏析およびザクの低減効果を確認するために、圧下能力の最大値に近い300mmから始め、順次減少させた。鋳塊下端部から上端部までの圧下所要時間は2分以内とした。鋳塊の長手方向に同一条件の圧下を与えるためには、鋳塊の圧下中における凝固の進行をできる限り抑え、鋳塊の圧下に要する時間を極力短くするのが好ましいとの観点からである。
【0051】
圧下後の鋳塊の横断面形状は太鼓型であった。
表1に試験条件および試験結果を示す。
【0052】
【表1】
Figure 0003925233
【0053】
圧下量は、本発明例の試験番号1では300mm、同番号2では200mm、同番号3では100mmとした。比較例の試験番号4〜6では、圧下の開始位置のみを変更し、その他の条件は試験番号1〜3とそれぞれ同一とした。比較例の試験番号7〜9では、押し湯枠を通常のアルミナ−シリカ系の耐火物とし、それ以外の条件は、試験番号1〜3とそれぞれ同一とした。
【0054】
試験番号7〜9では、押し湯枠上端部近傍の溶鋼は鋳塊内部に未凝固の溶鋼の存在する時期には凝固せず、押し湯部は閉鎖されないため、鋳塊を横倒しすると未凝固の溶鋼が吐出する。そこで、鋳型から鋳塊を吊り出した後、鋳塊を懸垂した状態で、その側面を横方向(水平方向)から圧下した。比較例の試験番号10は、試験番号1と同じ条件で鋳造を行ったが、鋳塊側面の圧下は行わなかった。
【0055】
鋳塊が完全に凝固した後も冷却し、その後、鋳塊の中心軸を含む面で切断し、その縦断面から、縦50cm、幅20cm、厚さ2cmのマクロ試験板を鋳塊の縦方向に4枚切り出してマクロ偏析、ザク欠陥および介在物の状態を調査した。
【0056】
マクロ偏析については、4枚の試験板のうちで、最悪のマクロ偏析のものを選び、試験板中央より5cmピッチで縦方向および幅方向の計40点から直径2cmの分析サンプルを切り出し、C含有量C(%)を分析した。溶鋼中のC含有量をC(%)とし、前記サンプルのC含有量と溶鋼中のC含有量との比の値、C/C を前記の各点について求め、各点における値の算術平均を求めて偏析比とした。偏析比が1.0以下の場合を良好とした。
【0057】
ザク欠陥については、最大のザク欠陥の開口断面積を求め、これと同じ面積となる円の相当直径を求めて最大ザク径とした。ザク欠陥は4枚のマクロ試験板で確認された。最大ザク径が1.2mm以下の場合を良好とした。
【0058】
介在物については、各鋳塊につきそれぞれ4枚のマクロ試験板の上部側中央位置から、縦2cm、横2cmのミクロ調査用サンプルを採取して、光学式顕微鏡により倍率100倍にて全視野を観察調査した。各サンプルについて相当直径が100μm以上の大型介在物の発生個数を調べ、4サンプルについての算術平均を求めて介在物個数とした。介在物個数の値が0.5個以下の場合を良好とした。
【0059】
本発明例の試験番号1〜3では、偏析比、最大ザク径および介在物個数ともに極めて低い値を示し、良好な性状の鋳塊がえられた。
【0060】
一方、比較例の試験番号4〜6では、いずれも、鋳塊の圧下により溶質成分の濃化した溶鋼が排出はされたものの、押し湯部には移動集積せず、鋳塊内部に閉じ込められたため、鋳塊下端側に著しいマクロ偏析が残存した。また、圧下を加えたにも拘わらず、小さなザク欠陥も残存し、偏析比は高い値となった。これは、上述のように逃げ場を失った溶質の濃化した溶鋼は、融点が低く凝固が遅れることから、圧下後も溶融状態で残存し、それが最終凝固時に凝固収縮してキャビティを形成したためである。
【0061】
比較例の試験番号7〜9では、偏析比および最大ザク径は低減したが、介在物個数は著しく高い値となっている。これは、押し湯枠として通常のアルミナ−シリカ系の耐火物を使用したため、前記した鋳塊の閉塞凝固が実現されず、鋳塊の揺動時における鋳塊内部への介在物の落下捕捉が顕著であったことによる。
【0062】
比較例の試験番号10は、鋳塊の圧下を実施していないので、介在物の問題はないものの、偏析比および最大ザク径はともに非常に高く、極めて性状の劣ったものとなった。
【0063】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、鋳塊の揺動による非金属介在物の落下や巻き込みの発生、ならびに未凝固圧下にともなうマクロ偏析およびザク欠陥の発生の極めて少ない健全な性状の鋳塊を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】押し湯枠を設けた鋳型内に溶鋼を注入した後、内部に未凝固の溶鋼が存在する状態で閉塞凝固させた鋳塊の縦断面の概略図である。
【図2】本発明の造塊方法における鋳塊側面の圧下方法の例を示す図である。
【符号の説明】
1: 鋳型、
2: 押し湯枠、
2a:押し湯枠上端部、
2b:押し湯枠開口部、
2c:押し湯枠下端部、
3: 未凝固の溶鋼、未凝固部
3a:押し湯内未凝固部、
4: 鋳塊、
4a:押し湯枠内相当位置の鋳塊、押し湯部、
4b:鋳型内相当位置の鋳塊、
4c:鋳塊下端部、
4d:鋳塊側面、
4e:鋳塊上端部、
4f:押し湯部内凝固部、
5: 凝固殻、
6: マニピュレータ、
7: 圧下金具。

Claims (2)

  1. 鋳型上部に金属製の押し湯枠を設け、前記押し湯枠の上端部まで溶湯を注入することにより、押し湯枠上端部近傍の溶湯を凝固させることで鋳塊の内部に未凝固の溶湯が存在する状態で鋳塊を閉塞し、その後、鋳塊を鋳型から取り出し、鋳型内相当位置および押し湯枠内相当位置の鋳塊内部に未凝固の溶湯が存在する時期に、鋳塊の下端部から上端部に向けて、溶質成分の濃化した溶湯を順次しごき出すように、順次、鋳塊の側面を全長にわたり圧下することを特徴とする金属の造塊方法。
  2. 上記鋳塊を鋳型から取り出した後、鋳塊を横倒しにした状態で、鋳塊の側面を鋳塊の下端部から上端部に向けて圧下することを特徴とする請求項1に記載の金属の造塊方法。
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