JP3922521B2 - 軸受損傷評価装置及び軸受損傷評価方法及び軸受損傷評価プログラム及びこのプログラムを記録した記憶媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械運転に伴い軸受に発生する損傷の評価を行うことのできる軸受損傷評価装置及び軸受損傷評価方法及び軸受損傷評価プログラム及びこのプログラムを記録した記憶媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
軸受(特に転がり軸受)は、回転する軸を支持する機械要素として良く知られている。軸受の寿命を知る方法として、軸受に作用する荷重を測定する方法が考えられる。一般的に機械は運転中に振動や衝撃を伴うことが多く、軸受に作用する荷重を知ることができれば、軸受の寿命(余寿命)を知ることができると考えられる。
【0003】
また、軸受は使用していくうちに内輪等に損傷を発生する。かかる軸受の損傷が発生すると軸受(の転動体)に作用する軸受荷重の値も変動(変化)するものと考えられる。損傷の発生は軸受の寿命を予測する上では重要なファクターであり、損傷の評価をすることにより軸受の寿命を評価することができると考えられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。特に、軸受損傷を定性的だけでなく定量的に評価を行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明に係る軸受損傷評価装置は、
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受の軸受外輪に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受外輪との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価装置であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出手段と、
求められた前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部に基づいて損傷の大きさを解析する波形解析手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0006】
本発明においては、軸受に損傷が発生すると、軸受荷重の測定結果に影響が現れるという点に着目するものである。つまり、軸受に損傷が発生すると、軸受を構成している転動体(ボール等)が支持する支持荷重が変動する。この支持荷重の変動を捕らえることにより損傷の評価を行おうとするものである。
【0007】
そこで、本発明においては軸受に作用する軸受荷重を非接触で計測するために、超音波探触子を用いた計測技術を採用する。超音波探触子は、 自ら超音波を発生し、調査対象物に反射して跳ね返ってきた反射波(エコー)を受信する。具体的には、超音波探触子は軸受ハウジングに取り付けられ、軸受外輪に向けて超音波を発生し、軸受ハウジングと軸受外輪との境界からの反射波を受信する。そして、軸受ハウジングと軸受外輪との密着度が大きい(固体接触面積が大きい)と発せられた超音波は境界から透過し、この透過率は上記密着度に比例する。
【0008】
ここで軸受荷重が大きいときは、密着度が大きくなるので超音波の透過率が大きくなる。透過率が大きくなるということは、反射波の大きさは小さくなる。逆に、軸受荷重が小さいときは、 反射波の大きさは大きくなることになる。したがって、この反射波を測定することにより軸受荷重の大きさを推定することができる。この軸受荷重の測定結果を利用して軸受の損傷を評価しようとするものである。
【0009】
かかる原理に基づき軸受損傷の評価を行うまでのステップは概略次のようになる。
【0010】
(1)超音波探触子が受信した反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップ。
本発明においてはエコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、次式により定義される。
【0011】
H=(1−h/h0 )×100
hは外的な軸受荷重が作用している時のエコー高さであり、h0 は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さである。なお100倍しているのは%表示するためであり、これに限定されるものではない。軸受荷重が大きいほどhは小さくなるため(反射波の大きさは小さくなる)、エコー高さ比(H)は大きくなる。このエコー高さ比(H)は軸受荷重に比例する物理量として扱うことができる。
【0012】
(2)求められたエコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップ。
【0013】
機械運転中に得られるエコー高さ比の波形信号は、概略正弦波となる。この点について、以下補足説明をする。機械運転中は軸受の転動体も回転移動する。超音波探触子の直下に転動体が位置するときと、そうでないときでは軸受ハウジングと軸受外輪との境界における密着度が異なる。超音波探触子の直下に転動体が位置するときは、エコー高さ比は最大となり、超音波探触子の直下に転動体と転動体の間が位置するときは、エコー高さ比は最小となる。したがって、転動体の移動に応じてエコー高さ比の波形信号は、正弦波あるいは正弦波に近い周期的な繰り返し波形である。
【0014】
ここで、軸受に損傷が発生するとエコー高さ比の波形信号が正常な状態から変形する。軸受の内輪に損傷が発生すると、波形信号の一部に凹部が発生する。この点は「発明の実施形態」において詳しく説明するが、軸受損傷が発生すると、波形信号に凹部が発生することを本発明者は鋭意検討の結果、見出した。これは、軸受の損傷により各転動体が支持する荷重にアンバランスが生じることを意味する。このアンバランスの影響が、エコー高さ比の波形に反映されるものと考えられる。また、この凹部の幅は損傷の大きさと深い関係があり、損傷の程度が大きいと、波形の凹部の幅も大きくなる。したがって、上記凹部を解析することにより軸受損傷の評価を行うことができるものと考えられる。また、凹部の幅や高さを求めることにより、損傷の幅等の大きさを推定することができ、定性的だけでなく定量的な損傷の評価も行うことができる。以上のように、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することができた。
【0015】
本発明の好適な実施形態として、前記波形解析手段は、前記エコー高さ比の波形信号の複雑度を求めるように構成されているものがあげられる。
【0016】
波形信号の変形度合いを解析するにあたり、波形信号の複雑度を求めることができる。正弦波状の波形信号が変形して波形の一部に凹部が発生すると、波形信号が複雑な形状になる。この複雑度を求めることにより、損傷の評価を行うことができる。
【0019】
本発明の更に別の好適な実施形態として、前記波形解析手段は、前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部から、軸受を構成する転動体に作用する荷重を推定するように構成されているものがあげられる。
【0020】
凹部の幅については既に述べたとおりであるが、凹部の深さについても損傷の大きさと深い関係があり、損傷の程度が大きくなると波形の凹部の深さも大きくなると考えられる。従って、凹部の深さから損傷の大きさを推定することが可能である。
【0021】
本発明の更に別の好適な実施形態として、前記波形解析手段は、前記エコー高さ比の波形信号のピ−ク値の平均値からのずれを求めるように構成されているものがあげられる。
【0022】
波形信号の変形度合いを解析するにあたり、エコー高さ比の波形信号のピーク値の平均値からのずれを求めることにより解析してもよい。軸受に損傷が発生すると、ピーク値が高くなる傾向があり、損傷の程度が大きくなればなるほど、ピーク値の平均値からのずれ量も大きくなる。これにより、損傷の評価を行うことができる。
【0023】
上記軸受損傷評価装置を構成するエコー高さ比算出手段と、波形解析手段の機能は、軸受損傷評価プログラムにより実現することができる。このプログラムは、記録媒体(CD−ROM等)に記録させておくことができる。この記録媒体を用いてコンピュータにインストールすることで、コンピュータを軸受損傷評価装置として機能させることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明に係る軸受損傷評価装置の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、軸受損傷評価装置の構成を示す概念図である。
【0025】
<軸受損傷評価装置の構成>
軸受ハウジング1の中央部に軸受2が支持されている。軸受ハウジング1の周辺部を一部カットし、超音波探触子3が取り付けられている。超音波探触子3は左側と右側にそれぞれ1つずつ取り付けられる。軸受2は、転がり軸受であり、外輪20と、内輪21と、外輪20と内輪21との間に挟持される多数個のボール22(転動体)とを備えている。内輪21の内径部分には回転軸4が圧入等の適宜の方法により固定される。また、軸受外輪2の外径部分も軸受ハウジング1に形成された孔部に密着嵌合される。
【0026】
超音波探触子3は、取り付け面に対して垂直な方向に横波超音波を発生する。発生した超音波は、軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界で反射し、その反射波を受信することができるように構成されている。
【0027】
超音波探触子3は超音波探傷器5と接続されている。超音波探傷器5には、超音波探触子3を駆動する駆動回路や、反射波を受信するための受信回路等が組み込まれている。また、超音波探傷器5はパソコン6に接続されており、超音波探触子3により受信した信号はAD変換されてパソコン6に送信される。パソコン6には、受信した反射波の信号から軸受損傷を評価するプログラムが組み込まれており、このパソコン6が軸受損傷評価装置として機能するように構成されている。
【0028】
<原理の説明>
次に、超音波探触子3を用いて軸受荷重を推定する方法の原理を図2により説明する。図2(a)は超音波探触子3の直下にボール22が位置している状態、(b)は超音波探触子の直下にボール22とボール22の間が位置している状態である。超音波探触子3から発せられた超音波は、軸受ハウジング1と軸受外輪20との境界に向かい、一部はその境界から透過し、残りは境界で反射する。この反射波を超音波探触子3により受信する。
【0029】
そして、軸受ハウジング1と軸受外輪20との密着度が大きい(固体接触面積が大きい)と発せられた超音波は境界から透過しやすくなり、この透過率は上記密着度にほぼ比例する。図2(a)のようにボール22が超音波探触子3の直下に位置するときは、密着度が大きくなり反射波の大きさは小さくなる。逆に、(b)のような状態だと密着度が小さくなるため超音波は透過しにくくなり反射波の大きさは大きくなる。また、軸受荷重が大きいときも密着度が大きくなる。
【0030】
本発明において、上記反射波の大きさを定量的に表すために、エコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、次式により定義される。
【0031】
(式)H=(1−h/h0 )×100
hは外的な軸受荷重(図1にWで示す。)が作用している時のエコー高さであり、h0 は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さである。なお100倍しているのは%表示するためであり、これに限定されるものではない。軸受荷重が大きいほど軸受2と軸受ハウジング1の密着度は大きくなり、hは小さくなる(反射波の大きさは小さくなる)ため、エコー高さ比(H)は大きくなる。
【0032】
図5は、回転軸4を回転駆動した場合の観測例を示す図である。縦軸はエコー高さ比H(%)を示し、横軸は時間(μs)を示す。エコー高さ比曲線は、図1の右側と左側のそれぞれの超音波探触子3から得られるが、図5ではその一方のみを示す。エコー高さ比曲線は周期的な繰り返し波形で表されるが、ボール22が超音波探触子3の直下に来たときにエコー高さ比は最大値を示し、ボール22とボールの間が超音波探触子3の直下にあるときはエコー高さ比は最小値を示す。また、軸受荷重の推定を行う場合のエコー高さ比は、図5に示すような最大値HM 又は平均値HB を用いる。また、Mm は最小値であるが演算には用いない。
【0033】
<軸受損傷評価装置の主要部の構成>
次に、軸受損傷評価装置として機能するパソコン6の主要部の構成を図3に示す。
【0034】
パソコン6は、表示装置60と、CPU61と、RAM62を有している。また、軸受損傷評価プログラムが格納されているプログラムファイル63と、データファイル64とを有している。これらはデータバスを介して接続されている。軸受損傷評価プログラムは、パソコン6にエコー高さ比算出手段63a、軸受荷重算出手段63b、波形解析手段63c、グラフ作成手段63d等の機能を実現させるためのプログラムが格納されている。このプログラムは、RAM62に読み込まれた状態で実行される。また、このプログラムはCD−ROMやフロッピーディスク等の記録媒体を用いてパソコン本体内にインストールすることができる。
【0035】
エコー高さ比算出手段63aの機能については前述したとおりである。また、軸受荷重算出手段63b、波形解析手段63c、グラフ作成手段63dの機能については後述する。
【0036】
データファイル64には、軸受荷重をゼロに設定したときに得られたエコー高さ(h0 )のデータがエコー高さデータファイル64aとして書き込まれている。また、エコー高さ比と軸受荷重の関係を表す関係式(または、関係を表すテーブル)として関係式データファイル64bが書き込まれている。
【0037】
<軸受荷重の推定(計測)>
上記の構成によりで機械を運転し、反射波を計測する。なお、反射波からエコー高さ比を求め、関係式データファイル64bに格納されている関係式に基づいて軸受荷重を演算(推定)する。この関係式はあらかじめ求めておくものである。つまり、軸受を軸受ハウジングに組み付け、既知の軸受荷重を作用させる。この既知の軸受荷重を作用させたときのエコー高さ比を求めて両者の関係式を求めておく。
【0038】
この関係を表したものの一例が図4に示される。既知の軸受荷重として、5000N,10000N,15000N,20000Nの4通りを作用させている。グラフの縦軸がエコー高さ比H(%)、横軸が軸受荷重W(N)である。データとしてグラフに示すように、左右の平均値、左右の最大値、左右の最小値がプロットされている。なお、平均値、最小値、最大値については図3を参照のこと。この図からも明らかなように、エコー高さ比の最大値と平均値のいずれも軸受荷重とほぼ比例関係にあることが理解される。したがって、これらのデータから軸受荷重とエコー高さ比の関係式(直線式)を数学的に求めることができる。
【0039】
以上のようにしてあらかじめ求められた関係式に基づいて、実際に得られたエコー高さ比から未知の軸受荷重を演算により求めることができる。
【0040】
<軸受損傷評価>
次に軸受の損傷について説明する。軸受は使用していくうちに損傷を発生するが、本発明においては特に内輪の損傷について取り上げる。かかる軸受の損傷が発生すると軸受(の転動体)に作用する軸受荷重の値も変動(変化)するものと考えられる。損傷の発生は軸受の寿命を予測する上では重要なファクターであり、損傷の評価をすることにより軸受の寿命を評価することができると考えられる。
【0041】
図5は、軸受を稼動した初期におけるエコー高さ比波形の観測結果である。軸受に異常が発生していない状態では、エコー高さ比波形は滑らかな曲線となる。図6は、軸受に異常が発生した状態のエコー高さ比波形に局部的(突発的)な凸部(Aで示す)と、局部的な凹部(Bで示す)が見られる。図示はしていないが、軸受の劣化が進行してくると、微小なうねり成分が波形全体に乗ってくる。
【0042】
局部的な凸部は、突発的に軸受荷重が上昇したために発生したものであり、軸受2のボール22が磨耗粉を噛みこんだためにボール22の支持する支持荷重が上昇したものと考えられる。また、局部的な凹部は、軸受2の内輪21に損傷が生じ突発的に軸受荷重が下降したために発生したものである。
【0043】
図7は、軸受内輪21に損傷が発生した場合の各ボール22の支持荷重の変化を説明する図である。損傷発生領域を符号Dで示している。軸Jは超音波探触子3からの超音波が入力される方向及び計測される反射波の方向を示す。損傷が発生して波形に凹部が観測されると、そのときの軸受荷重WL は、凹部が観測されない場合に比較して−ΔWだけ小さくなる。これは損傷により、その損傷領域にボール22が転動してくると、そのボール22の支持すべき荷重が低下するからである。この支持荷重の低下分(−ΔW)は隣接するほかのボール22の支持荷重を増加させることになる。この増加分は(+ΔW1 )(+ΔW2 )で示されているが、これは−ΔWから理論的に計算することが可能である。
【0044】
図8は、内輪損傷が発生したときに観測される波形を解析するための各パラメータを説明する図である。図8は、図6に示す波形のうち、損傷が発生して凹部が観測される波形N1(実線で示す)と凹部が観測されない波形N2(一点鎖線で示す)とを重ねて描いている。なお、図8に示す波形は軸受損傷に伴い発生してくる事象を特徴的に表すためのものであり、図6に示す実際の観測波形ではない。
【0045】
損傷を評価するにあたり、その評価項目として凹部の大きさの評価があげられる。凹部の大きさは凹部の幅Lf と凹部の深さ−ΔHf により表すことができる。波形における凹部の開始点をp1 とし凹部の終了点をp2 とすると、Lf はp1 とp2 の横方向(時間軸方向)の幅を示す。また、凹部がないと仮定した場合のp1 とp2 の中間位置をpc とすると、pc と凹部の最深位置の縦方向の距離を−ΔHf とする。−ΔHf の単位はエコー高さ比と同じ%である。Lf や−ΔHf を演算するのは、波形解析手段63cの機能である。かかる機能により、軸受の損傷を定性的かつ定量的に評価することができる。
【0046】
損傷を評価するにあたり、別の評価項目として波形のピーク位置のずれΔpと波形のピーク値(エコー高さ比の最大値)の平均値からのずれΔHM があげられる。損傷が発生していない正常な状態では、ピーク値(既に説明したように、ボールが超音波探触子の直下に来るときにピークとなる)は所定間隔(または、所定周期)で現われる。たとえば、軸受のボールの個数が10個ならばピーク値は36゜ごとにほぼ正確に現われる。しかし、ボールの保持器の摩耗による劣化が進行する場合などは、保持器内でのボールのがたつきが多くなり、円周方向へのボールの微小移動が生じるため、ピーク値の出現周期にずれが生じてくる。したがって、このずれ量Δpにより損傷を評価できるものと考えられる。つまり、損傷が大きくなるとずれ量Δpも大きくなると考えられる。
【0047】
また、損傷が発生してくるとピーク値の平均値からのずれ量ΔHM が大きくなると考えられるので、これによっても損傷の評価が可能である。なおピーク値を表すHM については図5も参照のこと。なお、実際にΔHM を求める場合には次のようなステップで行う。まず、単位時間あたり(ボールの保持器が1回転する時間あたりでもよい)に計測された波形のそれぞれの山のピーク値(最大エコー高さ比)の平均値を演算する。評価対象となっている波形の山のピーク値を求める。この評価対象のピーク値とピーク値の平均値との差をΔHM とする。ΔpやΔHM を演算するのは、波形解析手段63cの機能である。かかる機能によっても、軸受損傷を定性的かつ定量的に評価することができる。
【0048】
さらに、上記ΔHM を上記平均値で除して標準化しておけば、平均値の大小の違いの影響を受けにくくなるという利点がある。平均値からのずれ量で評価することにより、平均値そのものがずれたとしても、同じ座標スケールを使用することができるという別の利点も生じる。なお、平均値からのずれではなく、ピーク値(最大エコー高さ比)そのものの変化を評価対象とすることも可能である。
【0049】
次に複雑度について説明する。軸受に損傷が発生していないときに比べて、軸受に損傷が発生すると波形に凹部が見られるようになるため波形の複雑度が増加する。この複雑度により、損傷の程度を評価することができる。この複雑度の定義を図8、図9により説明する。この複雑度に関連する演算も波形解析手段63cの機能である。
【0050】
図9(a)は、損傷が発生した状態の波形の1山分を示す(図8と同じ)。Y軸は、波形のピーク値を通る軸である。Y軸の左側の波形をN1Lとし、Y軸の右側の波形をN1Rとする。図9(b)は、右側の波形N1RをY軸で折り返しており、それが破線で示されている。そして、同位相における波形の高さ(エコー高さ比)の差を取り、これをΔHdとする。損傷のないときは、波形はY軸中心にほぼ左右対称に近くなるため、ΔHdの値は小さくなる。しかし、損傷が発生すると(劣化が進行すると)、波形の左右対称性が崩れ、さらに凹部が観測されるため、ΔHdの値は大きくなる。なお、右側の波形と左側の波形の差を取るとプラスになったりマイナスになったりするので、ΔHdは差の絶対値として表すものとする。
【0051】
図8の下方に上記のように求めたΔHdをグラフ化したものが示されている。縦軸がΔHdであり単位はエコー高さ比と同じで%である。横軸はエコー高さ比曲線と同じであり、時間または位相(角度)である。ΔHdによる評価の場合は、ΔHdの大きさではなく、ΔHdの波形で囲まれる面積(ΔAで示される)により行われる。このΔAによる評価を図10により説明する。
【0052】
図10はΔHdを円グラフにより表示したものである。半径方向の高さがΔHdを示し、円周方向の目盛りは位相(角度)を示す。複雑度は以下のように定義される。
【0053】
まず、円グラフにおいてΔHd曲線により囲まれる面積S(斜線で示される。)を求める。この面積と同じ面積を有する円を考え、この円の円周長さを求めL1とする。一方、図10の円グラフに示される斜線で囲まれた図形の周長さをL2とする。複雑度はL2/L1により演算される。複雑度の値が大きくなればなるほど、損傷の程度が大きいものと評価することができる。なお、円グラフを作成するのはグラフ作成手段63dの機能である。以上のように、複雑度の大きさから軸受損傷を定性的かつ定量的に評価することができる。
【0054】
<別実施形態>
(1)本発明が適用される軸受は特定の構造の軸受に限定されるものではない。例えば,通常の玉軸受だけでなくアンギュラ玉軸受にも応用することができる。例えば、ボールは単列ではなく複列の場合にも応用することができる。
【0055】
(2)本実施形態では、軸受損傷評価プログラムについてのみ説明しているが、このプログラムが他の目的のプログラムと一体になっていても良い。例えば、既知の軸受荷重を用いて軸受荷重とエコー高さ比の関係式を予め求めておけば、機械運転中に計測されるエコー高さ比から軸受荷重を推定することができる。したがって、かかる軸受荷重を推定するプログラムと一体になっていてもよい。また、左右の超音波探触子3から得られるデータから偏荷重を得ることができるので、かかる機能を有するプログラムと一体になっていても良い。さらに別の機能を有するプログラムと一体になっていても良い。もちろん、このプログラムが記録される記録媒体についても同様である。
【0056】
(4)超音波探触子3については図1の構造に限定されるものではなく、図11に示すような斜角探触子3’を用いても良い。斜角探触子3’は、軸受ハウジング1の外周部ではなく正面部(回転軸に直交する面内)に取り付けられる。斜角探触子3’から発せられる超音波は角度θをもって軸受ハウジング1と軸受外輪20の境界に到達し、一部は透過し一部は斜角探触子3に向かって反射される。この取り付け構成の利点は、軸受ハウジング1に機械加工を施さなくて済む点である。
【図面の簡単な説明】
【図1】軸受損傷評価装置の構成を示す概念図
【図2】軸受荷重を推定する方法の原理を説明する図
【図3】軸受損傷評価装置の主要部の構成を示す図
【図4】エコー高さ比と軸受荷重の関係を示すグラフ
【図5】エコー高さ比波形の観測結果を示す図
【図6】エコー高さ比波形の観測結果を示す図(損傷発生時)
【図7】損傷が発生した場合のボールの支持荷重の変化を説明する図
【図8】波形を解析するためのパラメータを説明する図
【図9】複雑度の定義を説明する図(ΔHdの説明)
【図10】複雑度の定義を説明する図(ΔAの説明)
【図11】斜角探触子を説明する図
【符号の説明】
1 軸受ハウジング
2 軸受
3 超音波探触子
20 外輪
21 内輪
63a エコー高さ比算出手段
63b 軸受荷重算出手段
63c 波形解析手段
H エコー高さ比
Claims (8)
- 軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受の軸受外輪に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受外輪との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価装置であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出手段と、
求められた前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部に基づいて損傷の大きさを解析する波形解析手段とを備えたことを特徴とする軸受損傷評価装置。 - 軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受の軸受外輪に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受外輪との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価方法であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、
求められた前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部に基づいて損傷の大きさを解析する波形解析ステップとを備えたことを特徴とする軸受損傷評価方法。 - 軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受の軸受外輪に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受外輪との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行うための軸受損傷評価プログラムであって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、
求められた前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部に基づいて損傷の大きさを解析する波形解析ステップとをコンピュータに実行させるための軸受損傷評価プログラム。 - 請求項3に記載の軸受損傷評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
- 前記波形解析手段は、前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部の深さから、軸受を構成する転動体に作用する荷重を求めることを特徴とする請求項1に記載の軸受損傷評価装置。
- 前記波形解析手段は、前記エコー高さ比の波形信号のピ−ク値の大きさの変動量及びピーク位置の位相方向の変動量を求めるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受損傷評価装置。
- 前記波形解析ステップは、前記エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部の深さから、軸受を構成する転動体に作用する荷重を求めることを特徴とする請求項3に記載の軸受損傷評価プログラム。
- 前記波形解析ステップは、前記エコー高さ比の波形信号のピ−ク値の大きさの変動量及びピーク位置の位相方向の変動量を求めることを特徴とする請求項3に記載の軸受損傷評価プログラム。
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