JP3922095B2 - 縦結合型マルチモード圧電フィルタ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、帯域フィルタなどに用いられる圧電フィルタに関し、より詳細には、圧電縦効果を利用しており、かつ異なる次数のモードの結合を利用した縦結合型のマルチモード圧電フィルタ及びフィルタ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、帯域フィルタとして様々な圧電フィルタが用いられている。数MHz〜数十MHz帯の周波数領域においては、小型化が容易であり、コストが安価な2重モード圧電フィルタが主に用いられている。
【0003】
この種の二重モード圧電フィルタは、例えば特開平5−327401号公報などに開示されている。
図15は、厚み縦振動を利用した従来の二重モード圧電フィルタを示す断面図である。
【0004】
圧電フィルタ201は、厚み方向に分極処理された圧電板202を有する。圧電板202の上面には、一対の励振電極203,204が形成されており、下面には励振電極203,204と圧電板202を介して対向するように共通励振電極205が形成されている。
【0005】
使用に際しては、上面の一方の励振電極203と共通励振電極205との間に入力信号を印加し、圧電板202を励振させる。この場合、圧電板202が励振され、図16(a)に示す対称モードと、図16(b)に示す反対称モードが生じ、これら双方のモードが結合されてフィルタ帯域が構成される。出力は、励振電極204とアース電極205との間で取り出される。
【0006】
なお、上記のように厚み縦振動モードを利用した二重モード圧電フィルタの他、圧電板202を上面に平行な方向に分極処理し、それによって厚み滑りモードを利用した二重モード圧電フィルタも知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の圧電フィルタ201では、対称モードと反対称モードの結合の強さは、励振電極203,204間の間隔に依存し、この間隔の大きさにより対称モードと反対称モードの周波数差が決定され、通過帯域が決められることになる。
【0008】
すなわち、広帯域フィルタを得るには、励振電極203,204間の間隔を狭くし、両方のモードの結合度を高め、かつ双方のモードの周波数差を大きくする必要があった。
【0009】
他方、励振電極203,204は、通常、導電ペーストのスクリーン印刷により形成されている。スクリーン印刷法では、励振電極203,204の間隔を狭くするにも限界があった。他方、フォトリソグラフィーにより励振電極203,204を形成すれば、励振電極203,204間の間隔を小さくすることができるものの、コストが高くつくことになる。
【0010】
また、たとえ、励振電極203,204間の間隔を狭くすることができたとしても、圧電フィルタ201において入出力間の静電容量が増加し、減衰量が小さくなるという問題もあった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、広帯域化を図ることができ、かつ大きな帯域外減衰量を得ることができ、さらに安価に製造し得る縦結合型のマルチモード圧電フィルタを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る縦結合型マルチモード圧電フィルタは、対向し合う第1,第2の端面及び第1,第2の端面を結ぶ4つの側面を有する圧電体と、前記圧電体内に配置されており、かつ圧電体層を介して重なり合うように配置された複数の励振電極と、前記圧電体の外表面において第1の端面側に寄せられて形成された入力電極と、前記圧電体の外表面において第2の端面側に寄せられて形成された出力電極と、前記圧電体の外表面に形成されたアース電極とを備え、前記複数の励振電極間に挟まれた複数の圧電体層が、励振電極と直交する方向であって同一方向に分極されており、前記複数の励振電極が、前記入力電極に接続される第1のグループの励振電極と、前記出力電極に電気的に接続される第2のグループの励振電極と、前記アース電極に接続される第3のグループの励振電極とを有し、前記第1のグループの励振電極が前記第3のグループの励振電極と積層方向において交互に配置されており、かつ前記第2のグループの励振電極と第3のグループの励振電極とが積層方向において交互に配置されており、入力電極とアース電極との間に入力信号が印加されると、次数がそれぞれN−1、N及びN+1(但し、Nは以上の整数)である圧電縦効果を利用した第1〜第3のモードの振動が励振され、かつ結合され、出力電極とアース電極とから出力信号が取り出される。
【0013】
そして、本発明では、前記第1のモードの反共振周波数をFa(N−1)、第2のモードの共振周波数及び反共振周波数をFr(N)及びFa(N)、第3のモードの共振周波数Fr(N+1)としたときに、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)とされている。従って、後述する発明の実施の形態から明らかなように、1〜100MHz帯の広帯域かつ高減衰量のフィルタ特性を得ることができる。
【0014】
本発明のある特定の局面では、圧電縦効果の電気機械結合係数をk33としたときに、前記次数Nが、N≧−0.524×k33+42.7であり、この場合に、第1〜第3のモードを確実に結合させて、広い帯域幅及び高減衰量のフィルタ特性を得ることができる。また、圧電縦効果の電気機械結合係数k33に応じて、上記式に従って次数Nを定めることができる。すなわち、電気機械結合係数k33が分かれば、使用し得る第1〜第3のモードの次数を容易に決定することができる。
【0015】
本発明の他の特定の局面では、前記圧電体の分極方向の弾性コンプライアンスをS33 Eとしたときに、次数Nが≧−1.73×S33 E+33.3であり、この場合においても、第1〜第3のモードを確実に結合させ、広帯域及び高減衰量のフィルタ特性を得ることができる。また、上記式を満たすように弾性コンプライアンスS33 Eに基づき次数Nを容易に定めることができる。すなわち、3重モードマルチモードフィルタを構成するための上記次数Nを容易に決定することができる。
【0016】
本発明において、上記振動モードとしては、圧電縦効果を利用した様々な振動モードを用いることができ、特に限定されないが、本発明のある特定の局面では、長さ振動モードの高調波が用いられ、他の特定の局面では、厚み縦振動の高調波が用いられる。
【0017】
また、本発明のさらに他の特定の局面では、前記第1,第2の端面の外側に、反射層を介して保持部材が連結されており、反射層の音響インピーダンス値Z2が、圧電体及び保持部材の音響インピーダンス値Z1,Z3よりも小さくされている。この場合には、圧電フィルタから反射層に伝播してきた振動が、反射層と保持部品との界面で反射されるため、圧電フィルタの特性に影響を与えることなく保持部材により機械的に保持することができる。
【0018】
本発明に係る電子部品は、ケース基板と、ケース基板上に搭載されており、かつ本発明に従って構成された縦結合型マルチモード圧電フィルタと、縦結合型マルチモード圧電フィルタを覆うようにケース基板に固定されたキャップ材とを備える。従って、本発明により広帯域及び高減衰量のマルチモード圧電フィルタが収納された電子部品を提供することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0020】
図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施例に係る縦結合型の3重モード圧電フィルタを示す斜視図及び縦断面図である。
圧電フィルタ1は、横断面が矩形の角棒状の圧電体2を有する。圧電フィルタ1は、圧電体2の長さ方向に伝播する圧電縦効果を利用した長さモードの高調波を利用した3重モード圧電フィルタである。
【0021】
圧電体2は、特に限定されるわけではないが、本発明では、チタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックスにより構成されており、その音響インピーダンス値Z1は、3.40×107kg/(m2・s)である。
【0022】
圧電体2は、長さ方向に対向している第1,第2の端面2a,2bを有する。端面2a,2bの外側には、反射層31,32を介して保持部材33,34が連結されている。反射層31,31及び保持部材33,34は、圧電体2と同じ横断面形状を有する。反射層31,32は、エポキシ樹脂からなり、その音響インピーダンス値Z2は1.87×106kg/(m2・s)である。また、保持部材33,34は、絶縁性セラミックスからなり、その音響インピーダンス値Z3は3.40×107kg/(m2・s)である。
【0023】
圧電体2においては、端面2a,2bを覆うように励振電極3,15が形成されている。また、圧電体2の長さ方向において分散されて、圧電体2の横断面方向に延びる複数の励振電極4〜14が形成されている。
【0024】
すなわち、励振電極3〜15は互いに平行に配置されている。隣り合う励振電極が圧電体層を介して対向するように配置されている。また、本実施例では、隣り合う励振電極間の圧電体層の厚みは全て等しくされている。もっとも、全ての圧電体層の厚みは必ずしも等しくなくともよい。
【0025】
圧電体2では、励振電極3〜15間に介在されている圧電体層は、励振電極3〜15と直交する方向であって同一方向に分極処理されている。
励振電極3〜15は、圧電体2を構成する圧電セラミックスとともに一体焼成技術を用いて形成することができる。もっとも、他の方法で、圧電体2及び励振電極3〜15が形成されていてもよい。
【0026】
なお、端面2a、2b上に形成された励振電極3,15は、一体焼成技術により、励振電極4〜14を有する圧電体2を得た後に、端面2a,2b上に形成されてもよい。
【0027】
圧電体2は、端面2a,2bを結ぶ第1〜第4の側面として、上面2c、下面2d及び側面2e(1つの側面は図示されず)を有する。第1の側面としての上面2c上には、端面2a側に寄せられて入力電極16が形成されており、端面2b側に寄せられて出力電極17が形成されている。また、第2の側面としての下面2d上には、アース電極18が形成されている。入力電極16及び出力電極17は、それぞれ、端面2a,2bを超えて、反射層31,32及び保持部材33,34の外表面に至るように形成されている。
【0028】
アース電極18についても、圧電体2の下面から、反射層31,32及び保持部材33,34の外表面に至るように形成されている。
入力電極16、出力電極17及びアース電極18は、励振電極3〜15と同様に、適宜の金属材料により構成されることができ、銅、ニッケルまたは銀などにより構成され得る。
【0029】
励振電極3,5,7,9a,9b,11,13,15の上端に接するように、上面2c上に絶縁性材料20が付与されている。それによって、励振電極3,5,7,9a,9b,11,13,15が入力電極16及び出力電極17と電気的に絶縁されている。励振電極3,5,7,9a,9b,11,13,15は、圧電体2の下面においてアース電極18に電気的に接続されている。
【0030】
他方、励振電極4,6,8,10,12,14の下端に連なるように、下面2d上にも絶縁性材料20が付与されている。従って、励振電極4,6,8,10,12,14と、アース電極18との電気的絶縁が図られている。励振電極4,6,8は、入力電極16に、励振電極10,12,14は出力電極17に電気的に接続されている。
【0031】
従って、励振電極4,6,8が本発明における第1のグループの励振電極を構成しており、励振電極10,12,14が本発明における第2のグループの励振電極を構成しており、励振電極3,5,7,9a,9b,11,13,15が第3のグループの励振電極を構成している。
【0032】
圧電体2の長さ方向、すなわち圧電体層の積層方向においては、第1のグループの励振電極4,6,8と、第3のグループの励振電極3,5,7,9aが交互に配置されており、同様に、第2のグループの励振電極10,12,14と第3のグループの励振電極11,13,15が長さ方向において交互に配置されている。
【0033】
なお、本実施例では、励振電極3〜15は、圧電体2の横断面の全域に渡るように形成されているが、必ずしも全域に渡るように形成されておらずともよい。上記絶縁性材料20を構成する材料は、励振電極と入力電極16、出力電極17及びアース電極18との電気的絶縁を果たし得る限り、特に限定されないが、例えば、絶縁性樹脂や絶縁性接着剤などにより構成され得る。
【0034】
次に、本実施例のマルチモード圧電フィルタ1の動作を説明する。
上記圧電体2の厚み、すなわち圧電体2の上面2cと下面2dとの間の距離を110μm、幅寸法を300μm、隣り合う励振電極間に挟まれた圧電体層の厚みを130μmとして、本実施例のマルチモード圧電フィルタ1を作製した。このマルチモード圧電フィルタ1において、入力電極16とアース電極18との間に交流電圧を印加した場合には、励振される振動モードを図2に示す。
【0035】
図2において、破線は対称モード、実線は反対称モードを示す。図2において、矢印A,Bは、11倍波及び13倍波を示し、矢印Cは12倍波を示す。
すなわち、本実施例のマルチモード圧電フィルタ1では、圧電縦効果を利用した長さ振動モードの11倍波〜13倍波が効率良く励振される。
【0036】
圧電フィルタ1では、上記11倍波〜13倍波が結合されて、フィルタとしての特性が得られる。
図3は、圧電フィルタ1に入力信号を加えた場合のフィルタ波形を示す図である。
【0037】
図3から明らかなように、中心周波数、12.8MHzの広帯域のフィルタ特性の得られていることがわかる。
本願発明者は、上記圧電フィルタ1について、どのようなモードを結合されば、良好なフィルタ特性が得られるかを確認した。結果を図4〜図7を参照して説明する。
【0038】
図4〜図7は、利用しようとする長さ振動モードの高調波の次数Nを変化させた場合のフィルタ波形を示す。すなわち、図4の破線は、対称モードにおける圧電フィルタの8倍波(すなわちN=8)の応答を示し、実線は反対称モードで表われる7倍波及び9倍波の応答を示す。図5は、次数N=8の場合のフィルタ波形、すなわち7倍波〜9倍波を結合させた場合のフィルタ波形を示す。図5から明らかなように、矢印Dで示すリップルが通過帯域内に表れていることがわかる。
【0039】
また、図6及び図7は、それぞれ、N=6及び10とした場合のフィルタ波形を示す図である。図6から明らかなように、次数N=6の場合においても、矢印Eで示すように通過帯域内に大きなリップルが表れている。また、図7から明らかなように、次数N=10の場合には、通過帯域内にさほど大きなリップルが表れていないことがわかる。
【0040】
図3及び図5〜図7の結果から、次数Nを高くするほど、通過帯域内のリップルを抑制し得ることがわかる。これは、N−1倍波、N倍波及びN+1倍波の連続した3つの高調波を結合させてフィルタ特性を得ようとした場合、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)を満たした場合に、良好なフィルタ特性が得られるからである。なお、Faは、反共振周波数を、Frは共振周波数を示す。
【0041】
すなわち、図2に示されているように、N=12の場合、Fa(11)>Fr(12)かつFa(12)>Fr(13)が満たされているため、図3に示すように良好なフィルタ波形が得られる。
【0042】
これに対して、Nが小さくなった場合には、図4から明らかなように、7倍波と8倍波とが離れ、Fa(7)<Fr(8)及びFa(8)<Fr(9)となるため、上記リップルDが表れている。
【0043】
従って、圧電フィルタ1では、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)を満たすように次数Nを選択すれば、第1〜第3のモードが確実に結合され、良好なフィルタ特性を得ることができる。
【0044】
上記のように、本実施例のマルチモード圧電フィルタ1では、利用しようとする第1〜第3のモードの周波数は、高次モードの次数の比だけ離れている。従って、従来の横結合マルチモードフィルタにおいて形成することが必要であった一対の励振電極間の間隔に依存しない。すなわち、所望の帯域幅を得るには、帯域に応じた次数を選択すればよいだけである。従って、広帯域のフィルタ特性を容易に得ることができる。また、従来の横結合マルチモードフィルタでは、広帯域化を図る場合に分割励振電極の形成が非常に困難となるのに対し、本実施例では、容易に帯域幅の拡大を図ることができる。
【0045】
また、前述したように、従来の横結合マルチモードフィルタでは、フィルタの減衰量が十分に大きくならないという問題があった。フィルタの減衰量が入力−アース電位間の容量CI-Gと、入力電極と出力電極との間の容量CI-Oとの比率に関係する。すなわち、入出力間の容量が入力電極とアース電位との間の容量に対して小さいほど減衰量が大きくなる。本実施例では、入力電極16及び出力電極17に接続される励振電極間にグランド電位に接続される励振電極が配置されているため、入力電極−出力電極間の容量を、著しく小さくすることができる。よって、従来のマルチモードフィルタに比べて大きな減衰量を得ることができる。
【0046】
上記マルチモード圧電フィルタ1においては、前述したように、次数Nが高くなるほど、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)が満たされる。そこで、本願発明者は、上記のマルチモード圧電フィルタ1において、N−1倍波、N倍波及びN+1倍波の共振周波数Fr及び反共振周波数Faを種々の次数Nについて求めた。結果を図8に示す。なお、図8において、◇はN倍波の共振周波数、□は(N−1)倍波の共振周波数、△は(N+1)倍波の共振周波数を示し、N倍波、N−1倍波及びN+1倍波の各反共振周波数はエラーバーの端部で示す。
【0047】
図8から明らかなように、Nが9以上の場合に、Fa(N−1)≧Fr(N)が満たされることがわかる。従って、次数Nは9以上とされる。
【0048】
次に、上記Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)を満たすには、圧電体2を構成する電気機械結合係数及びコンプライアンスS33 Eを次数との間でどのように考慮すればよいかを検討した。
【0049】
図9は、圧電体2を構成する材料を種々変更し、上述したFa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)を満たすNを求めた結果である。図9の横軸は、電気機械結合係数K33を示し、縦軸は、上記関係を満たす次数Nを示す。図9の直線よりも上方の領域では、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)が満たされる。
【0050】
従って、図9よりN≧−0.524×K33+42.7の関係を満たすように、電気機械結合係数K33の値に応じて次数Nを設定すれば、確実に、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)とされる。よって、図9より、圧電体2の電気機械結合係数K33に応じて、良好なフィルタ波形の得られる最低の次数Nを容易に求めることができる。
【0051】
同様に、図10は、圧電体2の弾性コンプライアンスS33 Eと、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)を満たす最低の次数Nとの関係を示す。
【0052】
図10の直線はN=−1.73×S33 E+33.3である。従って、N≧−1.73×S33 E+33.3を満たすように、弾性コンプライアンスS33 Eの値に応じて、次数Nを容易に求めることができる。
【0053】
本実施例のマルチモード圧電フィルタ1では、圧電体2の全体が振動する。従って、上記反射層31,32及び保持部材33,34が設けられていない場合には、バネ端子等により圧電体2を機械的に支持する必要がある。
【0054】
しかしながら、本実施例では、反射層31,32及び保持部材33,34が連結されているため、圧電フィルタ1のフィルタ特性に影響を与えることなく、保持部材33,34により機械的に支持することができる。
【0055】
すなわち、反射層31,32の音響インピーダンス値Z2が、前述したように、圧電体2及び保持部材33,34の音響インピーダンス値Z1,Z3よりも低いため、圧電体2から伝播してきた振動が反射層31,32と保持部材33,34との界面で反射される。すなわち、保持部材33,34への振動の漏洩が殆ど生じない。よって、保持部材33,34を利用して機械的に保持したとしても、圧電フィルタ1のフィルタ特性に殆ど影響が生じない。
【0056】
図11は、第1の実施例の圧電フィルタの変形例を説明するための側面図である。圧電フィルタ1では、上面及び下面に絶縁性材料20を付与することにより、励振電極3,5,7,9a,9b,11,13,15の入力電極16または出力電極との電気的絶縁及び励振電極4,6,8,10,12,14のアース電極18との電気的絶縁が図られていた。これに対して、図11に示す変形例では、励振電極3〜15が圧電体2の長さ方向において、交互に上面2cまたは下面2dには至らないように形成されている。例えば、励振電極4を例にとると、励振電極4の先端は、圧電体2の下面2dに至られないようにされており、励振電極5の上端は、圧電体2の上端2cには至らないようにされている。このように、励振電極3〜15の先端と、圧電体2の上面2cまたは下面2dとの間にギャップを設ける構造を採用してもよい。この場合には、圧電体2の上面及び下面に絶縁性材料20を付与する必要はない。
【0057】
なお、図11に略図的に示されている圧電フィルタ41では、反射層及び保持部材の図示は省略されている。もっとも、本発明に係る圧電フィルタでは、反射層及び保持部材は必ずしも設けられずともよい。
【0058】
また、第1の実施例では、長さモードを利用した縦結合型のマルチモード圧電フィルタにつき説明したが、本発明では長さモードに限らず、他の振動モードの高調波を利用してもよい。
【0059】
図12は、厚み縦振動の高調波を利用したエネルギー閉じ込め型の縦結合型の3重モード圧電フィルタを示す斜視図である。圧電フィルタ51では、積層型の圧電体52が用いられている。圧電体52は、図12に厚みの方向に、矢印Pで示すように一様に分極処理されている。圧電体52の第1の端面52aと、第2の端面52bを結ぶ方向が厚み方向とされている。端面52a、52b上に、励振電極53,65が形成されている。また、圧電体52内には、内部電極の形で複数の励振電極54〜64が形成されている。励振電極53〜65は、圧電体層を介して厚み方向に重なり合うように配置されている。励振電極53〜65は、圧電体52の厚み方向において、交互に、側面52cまたは側面52dに引き出されている。
【0060】
励振電極53,55,57,59a,59b,61,63,65は側面52c上に形成されたアース電極68に電気的に接続されている。側面52dにおいては、上方に入力電極66が、下方に出力電極67が形成されている。入力電極66に、励振電極54,56,58が電気的に接続されている。また、出力電極67に、励振電極60,62,64が電気的に接続されている。
【0061】
このように、厚み方向に分極処理された圧電体52を用い、厚み縦振動の高調波を利用することにより、エネルギー閉じ込め型のマルチモード圧電フィルタを構成してもよい。
【0062】
なお、圧電フィルタ51では、反射層及び保持部材を有しないが、励振電極53〜65が圧電体層を介して部分的に対向しており、励振電極53〜65が対向している部分に振動エネルギーが閉じ込められるため、すなわちエネルギー閉じ込め型の圧電振動部が構成されているため、圧電フィルタ51は、側面52c、52dにより機械的に支持されたとしても、そのフィルタ特性はあまり変動しない。
【0063】
図13及び図14は、本発明に係るマルチモード圧電フィルタを用いた電子部品の構造例を説明するための各分解斜視図である。
前述したように、第1の実施例のマルチモード圧電フィルタ1は、反射層及び保持部材33,34を有するため、保持部材33,34を用いて機械的に支持することができる。
【0064】
図13に示す圧電共振部品61では、ケース基板62上に、第1の実施例のマルチモード圧電フィルタ1が2素子搭載されている。すなわち、ケース基板62上に、導電性接着剤63を介して圧電フィルタ1,1が接合されている。
【0065】
また、圧電フィルタ1,1を覆うように、下方に開口を有するキャップ材64がケース基板62に接合される。このようにして、圧電フィルタ1,2が収納された圧電共振部品61を提供することができる。
【0066】
図14は、図12に示した圧電フィルタ51と外形寸法を除いては同様に構成された圧電フィルタ51Aが3素子収納されている圧電共振部品を示す分解斜視図である。ここでは、圧電共振部品71は、ケース基板72を有する。ケース基板72上に、3素子の圧電フィルタ51A,51A,51Aが導電性接着剤73を介して接合されている。なお、導電性接着剤73の厚みは、各圧電フィルタ51Aの圧電振動部の振動を妨げないための空隙を、ケース基板72と圧電素子51A,51A,51Aとの間に設けるように付与することが必要である。
【0067】
上記圧電フィルタ51A,51A,51Aを覆うように、キャップ材74がケース基板72に固定される。
なお、好ましくは、上述したキャップ材64,74は、導電性材料で形成され、それによって内部の圧電フィルタ1,51Aを電磁シールドすることができる。もっとも、キャップ材64,74を導電性材料で構成する場合には、ケース基板62,72上の電極との電気的絶縁を図るように、キャップ材64,74をケース基板62,72に接合する必要がある。
【0068】
【発明の効果】
本発明に係る縦結合型マルチモード圧電フィルタでは、入力信号が印加されると、積層型の圧電体において第1〜第3のモードの振動が励振され、かつ結合され、通過帯域を得ることができる。この場合、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)となるように、モードの次数Nが選択されているため、広い帯域幅を有し、かつ所望でないリップルを有しない、良好なフィルタ特性を得ることができる。
【0069】
また、従来のマルチモード圧電フィルタでは、圧電体の一方面にギャップを隔てて形成された分割電極間の間隔により、各モードの周波数差が決定されていたため、広い帯域幅を得るには、分割電極の形成精度を高めねばならなかったのに対し、本発明では、利用しようとするモードを選択するだけで容易に高調波帯域化を図ることができる。
【0070】
さらに、従来のマルチモード圧電フィルタでは、広帯域化を図るために分割電極間の間隔を狭くした場合に、入出力間の容量が増大し、減衰量が低下したのに対し、本発明では、広帯域化を図るために、励振電極間の間隔を狭くする必要はないため、大きな減衰量を容易に得ることができる。
【0071】
よって、本発明によれば次数Nを選択することにより、様々な周波数滞に用いられ得る、広帯域かつ高減衰量の縦結合マルチモード圧電フィルタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施例に係るマルチモード圧電フィルタの外観を示す斜視図及び縦断面図
【図2】第1の実施例のマルチモード圧電フィルタで励振される対称モード及び反対称モードの波形を示す図。
【図3】第1の実施例のマルチモード圧電フィルタの減衰量周波数特性を示す図。
【図4】マルチモード圧電フィルタにおいて、Fa(N−1)<Fr(N)及びFa(N)<Fr(N+1)となる次数Nの場合の対称モード及び反対称モードの波形を示す図。
【図5】図4に示したN−1倍波、N倍波及びN+1倍波を利用したマルチモード圧電フィルタの減衰量周波数特性を示す図。
【図6】次数N=6の場合のマルチモード圧電フィルタの減衰量周波数特性を示す図。
【図7】次数N=10の場合のマルチモード圧電フィルタの減衰量周波数特性を示す図。
【図8】第1の実施例のマルチモード圧電フィルタにおける次数Nと、N倍波、(N−1)倍波及び(N+1)倍波の各共振周波数及び反共振周波数の位置の変化を示す図。
【図9】圧電体の電気機械結合係数K33と、マルチモード圧電フィルタにおいてFa(N−1)≧Fr(N)及びFa(N)≧Fr(N+1)を満たす最低の次数Nとの関係を示す図。
【図10】圧電体の弾性コンプライアンスS33 Eと、マルチモード圧電フィルタにおいてFa(N−1)≧Fr(N)及びFa(N)≧Fr(N+1)を満たす最低の次数Nとの関係を示す図。
【図11】本発明の第1の実施例のマルチモード圧電フィルタの変形例を説明するための略図的側面図。
【図12】本発明の第2の実施例に係るマルチモード圧電フィルタを説明するための斜視図。
【図13】第1の実施例のマルチモード圧電フィルタが収納されている電子部品としての圧電共振部品を説明するための分解斜視図。
【図14】第2の実施例のマルチモード圧電フィルタが、収納されている電子部品としての圧電共振部品を説明するための分解斜視図。
【図15】従来の厚み縦振動モードを利用した2重モード圧電フィルタを示す断面図。
【図16】(a)及び(b)は、それぞれ、図15に示した従来の2重モード圧電フィルタにおいて励振される対称モード及び反対称モードを説明するための模式図。
【符号の説明】
1…圧電フィルタ
2…圧電体
2a,2b…第1,第2の端面
2c…上面
2d…下面
2e,2f…側面
3〜15…励振電極
16…入力電極
17…出力電極
18…アース電極
19…絶縁性材料
31,32…反射層
33,34…保持部材
41…圧電フィルタ
51…圧電フィルタ
52…圧電体
52a,52b…第1,第2の端面
52c,52d…側面
53〜65…励振電極
66…入力電極
67…出力電極
68…アース電極
71…圧電共振部品(電子部品)
72…ケース基板
73…導電性接着剤
74…キャップ材
81…圧電共振部品(電子部品)
82…ケース基板
83…導電性接着剤
84…キャップ材

Claims (7)

  1. 対向し合う第1,第2の端面及び第1,第2の端面を結ぶ4つの側面を有する圧電体と、
    前記圧電体内に配置されており、かつ圧電体層を介して重なり合うように配置された複数の励振電極と、
    前記圧電体の外表面において第1の端面側に寄せられて形成された入力電極と、
    前記圧電体の外表面において第2の端面側に寄せられて形成された出力電極と、
    前記圧電体の外表面に形成されたアース電極とを備え、
    前記複数の励振電極間に挟まれた複数の圧電体層が、励振電極と直交する方向であって同一方向に分極されており、
    前記複数の励振電極が、前記入力電極に接続される第1のグループの励振電極と、前記出力電極に電気的に接続される第2のグループの励振電極と、前記アース電極に接続される第3のグループの励振電極とを有し、
    前記第1のグループの励振電極が前記第3のグループの励振電極と積層方向において交互に配置されており、かつ前記第2のグループの励振電極と第3のグループの励振電極とが積層方向において交互に配置されており、
    入力電極とアース電極との間に入力信号が印加されると、次数がそれぞれN−1、N及びN+1(但し、Nは以上の整数)である圧電縦効果を利用した第1〜第3のモードの振動が励振され、かつ結合され、出力電極とアース電極とから出力信号が取り出されるように構成されており、
    前記第1のモードの反共振周波数をFa(N−1)、第2のモードの共振周波数及び反共振周波数をFr(N)及びFa(N)、第3のモードの共振周波数Fr(N+1)としたときに、Fa(N−1)≧Fr(N)かつFa(N)≧Fr(N+1)とされていることを特徴とする、縦結合型マルチモード圧電フィルタ。
  2. 圧電縦効果の電気機械結合係数をk33としたときに、前記次数Nが、N≧−0.524×k33+42.7である、請求項1に記載の縦結合型マルチモード圧電フィルタ。
  3. 前記圧電体の分極方向の弾性コンプライアンスをS33 Eとしたときに、次数Nが≧−1.73×S33 E+33.3である、請求項1または2に記載の縦結合型マルチモード圧電フィルタ。
  4. 前記第1,第2の端面の外側に、反射層を介して保持部材が連結されており、反射層の音響インピーダンス値Z2が、圧電体及び保持部材の音響インピーダンス値Z1,Z3よりも小さい、請求項1〜3のいずれかに記載の縦結合型マルチモード圧電フィルタ。
  5. 前記振動モードが圧電縦効果を利用した長さ振動モードの高調波である、請求項1〜4のいずれかに記載の縦結合型マルチモード圧電フィルタ。
  6. 前記振動モードが、圧電縦効果を利用した厚み縦振動の高調波である、請求項1〜4のいずれかに記載の縦結合型マルチモード圧電フィルタ。
  7. ケース基板と、前記ケース基板上に搭載されており、かつ請求項1〜6に記載の縦結合型マルチモード圧電フィルタと、
    前記縦結合型マルチモード圧電フィルタを覆うように前記ケース基板に固定されたキャップ材とを備える、電子部品。
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