JP3921934B2 - 使用時に人体皮膚が接触する物品 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、使用時に人体皮膚が接触する物品に関する。
【0002】
【従来の技術】
人が使用するあらゆる物品のなかには、使用時に人体皮膚が接触する物品がある。
【0003】
かかる物品は、人体皮膚と接触することにより、人体皮膚が刺激を受け、人体皮膚に肌あれを発生させることがある。特に物品の人体皮膚接触部分がゴムや樹脂などの高分子材料で形成されている場合には人体皮膚にかかる肌あれを起こし易い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような背景から今日では、人体皮膚の、物品との接触により生じることがある肌あれを抑制できるようにすることが要求されている。
【0005】
本発明はかかる要求にこたえるためになされるものであり、使用時に人体皮膚が接触する物品であって、人体皮膚における肌あれを抑制することができる物品を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は前記課題を解決するため研究を重ねたところ、次のことを見出した。
【0007】
すなわち、使用時に人体皮膚が接触する物品においては、人体皮膚接触部分の少なくとも一部を炭素膜で被覆すると、人体皮膚接触時のさらさら感が良好となり、皮膚刺激性が少なく肌触り良好で、人体皮膚における肌あれを抑制することができることを見出した。さらに前記人体皮膚接触部分の少なくとも一部に被覆する炭素膜としてダイアモンド状炭素膜を用いると、肌あれ抑制効果をさらに向上させることができることも見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づくものであり、前記課題を解決するために、使用時に人体皮膚が接触する物品であり、人体皮膚接触部分の少なくとも一部が肌あれ抑制能を有する炭素膜で被覆されている炭素膜被覆物品を提供する。
【0009】
本発明に係る炭素膜被覆物品によると、人体皮膚接触部分の少なくとも一部が肌あれ抑制能を有する炭素膜で被覆されているので、人体皮膚接触時のさらさら感が良好となり、皮膚刺激性が少なく肌触り良好で、人体皮膚における肌あれを抑制することができる。
【0010】
使用時に人体皮膚が接触する物品としては、あらゆるものを挙げることができるが、例えば、人体皮膚への接触機会が比較的多いという観点から福祉用物品を挙げることができる。本発明の物品が福祉用物品である場合、福祉用物品は人体皮膚への接触機会が比較的多いので、それだけ肌あれ抑制効果を期待できる。
【0011】
ここでいう福祉用物品とは、障害等のある人が日常生活のさまざまなことがらを、可能な限り自分でできるようにサポート(支援)する生活用物品をいう。例えば、当該物品を利用することにより障害等のある人の自立した生活の範囲が広がり、介護にあたる家族の負担を軽減することに寄与する物品、すなわち(a)排泄の自立と介護のための物品、(b)入浴の自立と介護のための物品、(c)床ずれの予防のための物品、(d)移動の自立と介護のための物品、(e)食事の自立と介護のための物品、(f)便利な生活用具物品、(g)補装具物品などを挙げることができる。
【0012】
かかる福祉用物品の人体皮膚接触部分としては次の部分を例示できる。すなわち、
(a)排泄の自立と介護のための物品の人体皮膚接触部分としては、トイレ用手すりの皮膚接触部、腰掛け便座の皮膚接触部、補高便座の皮膚接触部、親子便座の皮膚接触部、温水洗浄便座の皮膚接触部、採尿器の皮膚接触部、ポータブルトイレの皮膚接触部、差し込み便器の皮膚接触部などを例示できる。
(b)入浴の自立と介護のための物品の人体皮膚接触部分としては、浴室用手すりの皮膚接触部、浴槽の皮膚接触部、浴槽用簡易手すりの皮膚接触部、シャワーチェアの皮膚接触部、バスボードの皮膚接触部、洗髪パットの皮膚接触部、バスチェア(浴槽台)の皮膚接触部などを例示できる。
(c)床ずれの予防のための物品の人体皮膚接触部分としては、電動式介護ベッドの皮膚接触部、手動式介護ベッドの皮膚接触部、ベッドサイドレールの皮膚接触部、かかとクッションの皮膚接触部、ベッド用テーブルの皮膚接触部、介助バーの皮膚接触部、エアマットの皮膚接触部、体位変換用具の皮膚接触部などを例示できる。
(d)移動の自立と介護のための物品の人体皮膚接触部分としては、杖の皮膚接触部、歩行補助車(シルバーカー)の皮膚接触部、歩行器の皮膚接触部、車椅子のシート部、車椅子のハンドル部、車椅子のフットレスト部、車椅子のタイヤ側面部、車椅子用昇降機の皮膚接触部、車椅子用床ずれ防止マットの皮膚接触部、移動用リフトの皮膚接触部、天井走行リフトの皮膚接触部、階段昇降機の皮膚接触部などを例示できる。
(e)食事の自立と介護のための物品の人体皮膚接触部分としては、ホルダー付きスプーン・フォークの皮膚接触部、握り付きスプーン・フォークの皮膚接触部、曲がりスプーン・フォークの皮膚接触部、形状記憶スプーン・フォークの皮膚接触部、取って付きコップの皮膚接触部、取って付きナイフの皮膚接触部などを例示できる。
(f)便利な生活用具物品の人体皮膚接触部分としては、眼鏡のつるの耳かけ部、眼鏡の鼻かけ部、レバー水栓の皮膚接触部などを例示できる。
(g)補装具物品の人体皮膚接触部分としては、義足・義手の皮膚接触部、起立保護具の皮膚接触部、頭部保護具の皮膚接触部、頭部保護帽の皮膚接触部などを例示できる。
【0013】
この他、使用時に人体皮膚が接触する物品としては、例えば、医療用物品を挙げることができる。医療用物品の人体皮膚接触部分としては、例えば、むち打ち症等の牽引治療に用いられる牽引治療装置における頸部保持具の人体皮膚接触部分等を挙げることができる。
【0014】
いずれにしても、本発明における炭素膜としては、肌あれ抑制能を有するものであればいずれのものでもよいが、例えばダイアモンド状炭素(DLC:Diamond Like Carbon )膜を挙げることができる。
【0015】
炭素膜がダイアモンド状炭素(以下、DLCという)膜である場合、肌あれ抑制効果をさらに向上させることがきる。また、DLC膜は撥水性が良好である。従って、DLC膜で被覆されている物品部分は撥水性に優れる。DLC膜はまた、被覆される物品部分が柔軟な特性を要求される場合、硬度が傷のつき難い程度のもので、且つ、柔軟性を有する炭素膜として利用することができる。さらに、比較的低温で形成できる等、成膜を容易に行うことができる。
【0016】
いずれにしても、前記炭素膜の膜厚としては、被覆される物品部分に密着性良く形成でき、且つ、傷がついたとしても傷が該物品に達しにくい程度の厚みが望ましい。
【0017】
いずれにしても、前記炭素膜で被覆されている物品部分が高分子材料で形成されていてもよい。この高分子材料としては、ゴム材料及び(又は)樹脂材料を例示できる。
【0018】
ゴム材料としては、天然ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を例示できる。また樹脂材料としては、各種の熱可塑性樹脂材料、熱硬化性樹脂材料、これらの組み合わせ等を例示できる。
【0019】
本発明に係る炭素膜被覆物品を製造する場合において、炭素膜形成に先立ち、前処理として、前記炭素膜で被覆される物品部分(以下、物品基体ということがある)の膜形成面を前処理用ガス、例えばフッ素(F)含有ガス、水素(H2 )ガス及び酸素(O2 )ガスから選ばれた少なくとも1種の前処理用ガスのプラズマに曝すことが考えられる。この場合、本発明の炭素膜被覆物品において、前記物品基体は、このような前処理を施されたものとなる。
【0020】
前記フッ素含有ガスとしては、例えばフッ素(F2 )ガス、3フッ化窒素(NF3 )ガス、6フッ化硫黄(SF6 )ガス、4フッ化炭素(CF4 )ガス、4フッ化ケイ素(SiF4 )ガス、6フッ化2ケイ素(Si2 6 )ガス、3フッ化塩素(ClF3 )ガス、フッ化水素(HF)ガス等を挙げることができる。
【0021】
前記物品基体を、前記前処理用ガスのプラズマに曝すことにより、基体表面が清浄化され、又はさらに基体表面粗度が向上する。これらは、炭素膜の密着性向上に寄与し、これにより高密着性炭素膜を得ることができる。
【0022】
また、前記物品基体の膜形成面が樹脂、ゴム等の有機材料からなる場合、前処理にフッ素含有ガスプラズマを採用するときは、これによって基体表面がフッ素終端され、水素ガスプラズマを採用するときはこれによって基体表面が水素終端される。フッ素−炭素結合及び水素−炭素結合は安定であるため、前記のように終端処理することで膜中の炭素原子が基体表面部分のフッ素原子又は水素原子と安定に結合を形成する。そしてこれらのことから、その後形成する炭素膜と前記基体との密着性を向上させることができる。
【0023】
また、酸素ガスプラズマを採用するときは、基体表面に付着した有機物等の汚れを特に効率良く除去でき、これらのことからその後形成する炭素膜と前記基体との密着性を向上させることができる。
【0024】
また、炭素膜形成に先立って行うプラズマによる基体の前処理は、同種類のプラズマを用いて或いは異なる種類のプラズマを用いて複数回行っても構わない。例えば、該基体を酸素ガスプラズマに曝した後、フッ素含有ガスプラズマ又は水素ガスプラズマに曝し、その上に炭素膜を形成するときには、基体表面がクリーニングされた後、該面がフッ素終端又は水素終端されて、その後形成する炭素膜と該基体表面との密着性は非常に良好なものとなる。
【0025】
また、炭素膜形成方法としては、樹脂、ゴム等の比較的耐熱性に劣る材料を用いた基体に熱的損傷を与えない温度範囲で膜形成できる方法として、例えばプラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、特にプラズマCVD法を用いる場合は、被成膜基体のプラズマによる前処理と炭素膜形成とを同一の装置で行うことができる。
【0026】
プラズマCVD法により炭素膜を形成する場合の成膜原料ガス(成膜用のプラズマ原料ガス)としては、炭素膜形成に一般に用いられるメタン(CH4 )ガス、エタン(C2 6 )ガス、プロパン(C3 8 )ガス、ブタン(C4 10)ガス、アセチレン(C2 2 )ガス、ベンゼン(C6 6 )ガス、4フッ化炭素(CF4 )ガス、6フッ化2炭素(C2 6 )ガス等の炭素化合物ガス、及び必要に応じて、これらの炭素化合物ガスにキャリアガスとして水素ガス、不活性ガス等を混合したものを用いることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明に係る使用時に人体皮膚が接触する炭素膜被覆物品の製造に用いることができる成膜装置の1例(ここでは平行平板型RFプラズマCVD装置)の概略構成を示す図である。また、図3(A)は本発明に係る使用時に人体皮膚が接触する炭素膜被覆物品の1例(ここでは眼鏡A)の斜視図であり、図3(B)は図3(A)に示す眼鏡AのつるA1の一部の平面図であり、図3(C)は図3(A)に示す眼鏡の鼻かけ部A3の断面図である。
【0029】
図1に示す装置は、排気装置13及びガス供給部14に接続された真空排気チャンバ(膜形成用チャンバ)12を有している。
【0030】
排気装置13は排気ポンプ1及び圧力調整弁2を有している。排気ポンプ1はチャンバ12内を真空排気できる。圧力調整弁2は排気ポンプ1とチャンバ12間に設置されており、排気ポンプ1により真空排気されるチャンバ12内を所定の成膜圧力に調整できる。
【0031】
ガス供給部14はチャンバ12内に成膜用等のプラズマ原料ガスを導入できる。ガス供給部14は1又は2以上のプラズマ原料ガスボンベ(換言すれば成膜プロセスのためのガスボンベ)81、82・・・を含んでいる。プロセスガスボンベ81、82・・・とチャンバ12間には、MFC(流量調節器)71、72・・・及び圧力調整弁21、22・・・が設置されている。MFC71、72・・・はチャンバ12内に供給されるガスの流量を所定の流量にコントロールできる。
【0032】
チャンバ12内には、高周波電極5及びこれに対向する位置に接地電極3が設置されている。電極3は接地されており、電極5は使用時に人体皮膚が接触する物品基体4を支持できる。
【0033】
電極5にはマッチングボックス9を介して高周波アンプ10及び任意波形発生装置11を含む高周波電源15が接続されている。これにより電極5に高周波電源15からマッチングボックス9を介して高周波電力を供給でき、ひいては接地電極3と高周波電極5間にガスプラズマを生成できる。また、電極5にはその上に支持される被成膜基体4を成膜温度に加熱するためのヒータ6が付設されている。
【0034】
この装置を用いて本発明に係る炭素膜被覆物品を製造するプロセスの一例を以下に示す。
(1)炭素膜形成に先立って行うプラズマによる前処理
使用時に人体皮膚が接触する物品基体4の人体皮膚との接触面4aを対向する電極3の方に向けて電極5上に配置し、排気ポンプ1の運転にてチャンバ12内部を所定の成膜圧力に維持しつつガス供給部14からチャンバ12内にフッ素含有ガス、水素ガス及び酸素ガスのうち1種以上のガスを前処理用ガスとして導入するとともに高周波電源15からマッチングボックス9を介して電極5に高周波電力を供給し、これにより前記導入した前処理用ガスをプラズマ化し、該プラズマの下で基体4の表面処理(プラズマクリーニング)を行う。なお、この表面処理(前処理)は同種類のプラズマを用いて或いは異なる種類のプラズマを用いて複数回行っても構わない。またこの表面処理(前処理)は行うことが望ましいが、必ずしも要しない。
(2)炭素膜の形成処理
次いで、チャンバ12の内の前処理用ガスを排気した後、排気装置13にてチャンバ12内を炭素膜形成圧に維持しつつガス供給部14からチャンバ12内に成膜用原料ガスとして炭素化合物ガスを導入するとともに高周波電源15から電極5に高周波電力を供給し、これにより前記導入した炭素化合物ガスをプラズマ化し、該プラズマの下で基体表面4aに炭素膜を形成する。
【0035】
このようにして、使用時に人体皮膚が接触する物品であって人体皮膚接触部分の少なくとも一部にほぼ均一に肌あれ抑制能を有する炭素膜が形成された炭素膜被覆物品、図3の例では、つるA1の耳かけ部A2及び鼻かけ部A3の人体皮膚接触部分の少なくとも一部にほぼ均一に肌あれ抑制能を有する炭素膜fが形成された眼鏡Aが得られる。なお、耳かけ部A2、鼻かけ部A3についてはそれぞれ別々に炭素膜を形成してこれらをあとでレンズ枠に組み付ければよい。
【0036】
物品の人体皮膚接触部分によっては、物品基体の前記表面処理及び成膜を行う間、必要に応じ、例えば該基体の一部を電極5に電気的に接触させて、図示を省略した回転駆動手段にて基体を回転させた状態で或いは電極ごと基体を回転させた状態で、及び(又は)基体の膜形成しない部分を適当な遮蔽手段で覆った状態で、基体の外表面(人体皮膚との接触面)にほぼ均一に表面処理及び成膜が行われるようにしてもよい。
【0037】
また、本発明の炭素膜被覆物品を製造するにあたり、図1の装置に代えて図2に示す成膜装置を用いることができ、この場合、基体が立体構造物であるときにも該基体の表面に効率よく膜形成することができる。
【0038】
図2の装置は、誘導結合型のプラズマCVD装置であり、真空容器12aを有しており、容器12aの外周には誘導コイル電極50が巻回して設けられ、該電極50両端にはマッチングボックス51及び高周波電源52が接続されている。また、真空容器12aの外側には、被成膜基体4を成膜温度に加熱するためのヒータ60が設けられている。
【0039】
また、真空容器12aには排気装置13aを配管接続してあるとともに、成膜用原料ガスのガス供給部14aを配管接続してある。ガス供給部14aには、MFC71a、72a・・・及び弁21a、22a・・・を介して接続された1又は2以上の成膜用原料ガス等のプラズマ原料ガスを供給するガスボンベ81a、82a・・・が含まれている。
【0040】
この装置を用いて本発明に係る炭素膜被覆物品を形成するにあたっては、図1の装置を用いた物品基体4の表面処理及び炭素膜形成と同様に処理し、但し、原料ガスのプラズマ化を誘導コイル電極50への高周波電力印加により行う。この場合も、表面処理(前処理)は行うことが望ましいが、必ずしも要しない。
【0041】
このようにして得られた炭素膜被覆物品によると、人体皮膚接触部分の少なくとも一部が肌あれ抑制能を有する炭素膜で被覆されているので、人体皮膚接触時のさらさら感が良好となり、皮膚刺激性が少なく肌触り良好で、人体皮膚における肌あれを抑制することができる。
【0042】
次に本発明に係る使用時に人体皮膚が接触する炭素膜被覆物品の他の例について、図4から図13を参照しながら説明する。
【0043】
図4に浴槽B及び浴槽Bの縁が狭く腰掛けにくいとき等に用いられるバスボードCの斜視図を示す。図4に示す浴槽Bは内面B1に肌あれ抑制能を有する炭素膜fが被覆されている。また、バスボードCは腰掛け部C1及び手すりC2に炭素膜fが被覆されている。
【0044】
図5にシャワーを浴びるとき等に用いられるシャワーチェアDの斜視図を示す。図5に示すシャワーチェアDは腰掛け部D1、背もたれ部D2及びひじ掛け部D3に炭素膜fが被覆されている。
【0045】
図6に浴槽の中に置く腰掛けや浴室の床に置く踏み台等に用いられるバスチェアEの斜視図を示す。図6に示すバスチェアEは腰掛け部E1に炭素膜fが被覆されている。
【0046】
図7に排便或いは排尿の際に臀部が不安定となるとき等に用いられる親子便座Fの斜視図を示す。図7に示す親子便座Fは親便座F1及び子便座F2に炭素膜fが被覆されている。
【0047】
図8に空気の浮力で体圧を分散し、体の同じ部位にかかる圧迫の防止等に用いられるエアマットGの斜視図を示す。図8に示すエアマットGは外表面G1に炭素膜fが被覆されている。
【0048】
図9に歩行の補助等に用いられる歩行補助車(シルバーカー)Hの斜視図を示す。図9に示すシルバーカーHは手で握る部分H1に炭素膜fが被覆されている。
【0049】
図10に車椅子Iの斜視図を示す。図10に示す車椅子Iはシート部I1、ハンドル部I2、フットレスト部I3、タイヤ側面部I4、ひじ掛け部I5に炭素膜fが被覆されている。
【0050】
図11にベッドから車椅子、車椅子からトイレなどへの移動等に用いられる移動用リフトJの斜視図を示す。図11に示す移動用リフトJは搬送具J1の内側面に炭素膜fが被覆されている。
【0051】
図12(A)に握り付きスプーン・フォークKの斜視図を、図12(B)にホルダ付きスプーン・フォークLの斜視図を示す。図12(A)及び図12(B)に示す握り付きスプーン・フォークK及びホルダ付きスプーン・フォークLは握り部K1及びホルダ部L1に炭素膜fがそれぞれ被覆されている。
【0052】
図13にむち打ち症等の牽引治療に用いられる牽引治療装置Mの斜視図を示す。図13に示す牽引治療装置Mは頸部保持具M1の内側面に炭素膜fが被覆されている。
【0053】
次に、図1の装置を用いて、使用時に人体皮膚が接触する物品の材料として用いられることがある、シリコンゴムからなる試験片の表面にF(フレキシブル)DLC膜を形成した実験例1〜5を説明する。
実験例1
実験例1ではDLC膜形成に先立って前処理を行わなかった。
【0054】
Figure 0003921934
実験例2
実験例2ではDLC膜形成に先立って水素ガスプラズマによる前処理を行った。試験片材質、試験片サイズ、高周波電極サイズ及び成膜条件は、前記実験例1と同じである。
【0055】
前処理条件
前処理用ガス 水素(H2 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理圧力 13.3Pa(0.1Torr)
処理時間 5min
実験例3
実験例3ではDLC膜形成に先立ってフッ素化合物ガスプラズマによる前処理を行った。試験片材質、試験片サイズ、高周波電極サイズ及び成膜条件は、前記実験例1と同じである。
【0056】
前処理条件
前処理用ガス 6フッ化硫黄(SF6 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理圧力 13.3Pa(0.1Torr)
処理時間 5min
実験例4
実験例4ではDLC膜形成に先立って酸素ガスプラズマによる第1前処理を行い、水素ガスプラズマによる第2前処理を行った。試験片材質、試験片サイズ、高周波電極サイズ及び成膜条件は、前記実験例1と同じである。
【0057】
第1前処理条件
前処理用ガス 酸素(O2 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理圧力 13.3Pa(0.1Torr)
処理時間 5min
第2前処理条件
前処理用ガス 水素(H2 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理圧力 13.3Pa(0.1Torr)
処理時間 5min
実験例5
実験例5ではDLC膜形成に先立って酸素ガスプラズマによる第1前処理を行い、フッ素化合物ガスプラズマによる第2前処理を行った。試験片材質、試験片サイズ、高周波電極サイズ及び成膜条件は、前記実験例1と同じである。
【0058】
第1前処理条件
前処理用ガス 酸素(O2 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理圧力 13.3Pa(0.1Torr)
処理時間 5min
第2前処理条件
前処理用ガス 6フッ化硫黄(SF6 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理圧力 13.3Pa(0.1Torr)
処理時間 5min
次に、前記実験例1〜5により得られたDLC膜被覆試験片、及び比較例として各実験例で用いたDLC膜を形成していない未処理の同様の試験片について、肌触り性、皮膚刺激性を調べた。
【0059】
肌触り性は成人モニター20人による触感テストを行うことで評価した。評価は以下の5段階で行い、その平均値を求めることで行った。
【0060】
5・・・べたつき感がなく、サラット感がある
4・・・べたつき感がややあるが、サラット感がある
3・・・べたつき感があるが、サラット感が少し悪い
2・・・べたつき感がかなりあり、サラット感が悪い
1・・・べたつき感が非常にあり、サラット感が非常に悪い
皮膚刺激性は各試験片の一部を成人の上腕部内側に貼り付け、成人モニター20人による24時間後の肌荒れの状態を観察することで評価した。評価は以下の3段階で行った。
【0061】
○:モニターの90%以上で肌が赤く見られなかった
△:モニターの50%以上で肌が赤く見られなかった
×:モニターの90%以上で肌が赤く見られた
結果を次表に示す。
【0062】
Figure 0003921934
このように、DLC膜を被覆した実験例1〜5の試験片は比較例の試験片に比べ肌触り性、皮膚刺激性が優れていた。
【0063】
次に、前記実験例1〜5により得られたDLC膜被覆試験片、及び比較例として各実験例で用いたDLC膜を形成していない未処理の同様の試験片について、摩擦係数、摩耗特性を比較した。また、前記実験例1〜5により得られたDLC膜被覆試験片について膜密着性を調べた。
【0064】
摩擦係数は、試験片表面に先端曲率半径R=5mmのアルミニウムからなるピン状物品の先端部を当接させ、且つ、該ピン状物品に10gの荷重をかけた状態でこのピンを20mm/secの速度で移動させたときの値を測定することで評価した。
【0065】
摩耗特性は、試験片表面に先端曲率半径R=5mmのダイアモンドからなるピン状物品の先端部を当接させ、且つ、該ピン状物品に100gの荷重をかけた状態でこのピンを20mm/secの速度で半径20mmの円を描いて移動させ、円を描いて1時間移動させた後の摩耗深さを測定することで評価した。
【0066】
膜密着性は、引っ張りジグ法によりステンレススチール(SUS304)からなる直径5mmの円柱状部材を接着剤を用いてDLC膜に接合させ、該円柱状部材を膜に対して垂直方向に引っ張って該膜を試験片本体から剥離させ、剥離に要した力を測定することで評価した。
【0067】
結果を次表に示す。
【0068】
Figure 0003921934
このように、DLC膜を被覆した実験例1〜5の試験片は比較例の試験片に比べ摩擦係数が小さく、耐摩耗性が優れていた。また、DLC膜形成に先立ってプラズマによる基体の前処理を行った実験例2〜5のDLC膜被覆試験片は前処理を行わなかった実験例1のDLC膜被覆試験片に比べ膜密着性が優れていた。
【0069】
【発明の効果】
以上のように本発明によると、使用時に人体皮膚が接触する物品であって、人体皮膚における肌あれを抑制することができる物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る使用時に人体皮膚が接触する炭素膜被覆物品の製造に用いることができる成膜装置の1例(ここでは平行平板型RFプラズマCVD装置)の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る使用時に人体皮膚が接触する炭素膜被覆物品の製造に用いることができる成膜装置の他の例(ここでは誘導結合型のプラズマCVD装置)の概略構成を示す図である。
【図3】図(A)は本発明に係る使用時に人体皮膚が接触する炭素膜被覆物品の1例(ここでは眼鏡)の斜視図であり、図(B)は図(A)に示す眼鏡のつるの一部の平面図であり、図(C)は図(A)に示す眼鏡の鼻かけ部の断面図である。
【図4】本発明に係る炭素膜被覆物品の他の例を示すものであり、浴槽及びバスボードの斜視図である。
【図5】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、シャワーチェアの斜視図である。
【図6】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、バスチェアの斜視図である。
【図7】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、親子便座の斜視図である。
【図8】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、エアマットの斜視図である。
【図9】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、歩行補助車(シルバーカー)の斜視図である。
【図10】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、車椅子の斜視図である。
【図11】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、移動用リフトの斜視図である。
【図12】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、図(A)は握り付きスプーン・フォークの斜視図であり、図(B)はホルダ付きスプーン・フォークの斜視図である。
【図13】本発明に係る炭素膜被覆物品のさらに他の例を示すものであり、牽引治療装置の斜視図である。
【符号の説明】
1 排気ポンプ
2 圧力調整弁
3 接地電極
4 物品基体
4a 物品基体4の人体皮膚との接触面
5 高周波電極
6 ヒータ
9 マッチングボックス
10 高周波アンプ
11 任意波形発生装置
12 真空排気チャンバ(膜形成用チャンバ)
12a 真空容器
13、13a 排気装置
14、14a ガス供給部
15 高周波電源
21、22・・・ 圧力調整弁
21a、22a・・・ 弁
50 誘導コイル電極
51 マッチングボックス
52 高周波電源
60 ヒータ
71、72・・・ MFC(流量調節器)
71a、72a・・・ MFC
81、82・・・ プラズマ原料ガスボンベ
81a、82a・・・ ガスボンベ
f 炭素膜
A 眼鏡
A1 眼鏡Aのつる
A2 眼鏡Aの耳かけ部
A3 眼鏡Aの鼻かけ部
B 浴槽
B1 浴槽の内側
C バスボード
C1 バスボードCの腰掛け部
C2 バスボードCの手すり
D シャワーチェア
D1 シャワーチェアDの腰掛け部
D2 シャワーチェアDの背もたれ部
D3 シャワーチェアDのひじ掛け部
E バスチェア
E1 バスチェアEの腰掛け部
F 親子便座
F1 親便座
F2 子便座
G エアマット
G1 エアマットGの外表面
H 歩行補助車(シルバーカー)
H1 シルバーカーHの手を握る部分
I 車椅子
I1 車椅子Iのシート部
I2 車椅子Iのハンドル部
I3 車椅子Iのフットレスト部
I4 車椅子Iのタイヤ側面部
I5 車椅子Iのひじ掛け部
J 移動用リフト
J1 移動用リフトJの搬送具
K 握り付きスプーン・フォーク
K1 握り付きホルダ付きスプーン・フォークKの握り部
L ホルダ付きスプーン・フォーク
L1 ホルダ付きスプーン・フォークLのホルダ部
M 牽引治療装置
M1 牽引治療装置Mの頸部保持具

Claims (5)

  1. 使用時に人体皮膚が接触する物品であり、人体皮膚接触部分の少なくとも一部が肌あれ抑制能を有するダイアモンド状炭素膜で被覆されており、該ダイアモンド状炭素膜は、先端曲率半径が5mmのアルミニウム製ピン状物品の先端部を該ダイアモンド状炭素膜表面に10gの荷重下に当接させて該ピン状物品を20mm/secの速度で移動させたときの摩擦係数が1以下であることを特徴とする物品。
  2. 前記使用時に人体皮膚が接触する物品は福祉用物品である請求項1記載の物品。
  3. 前記炭素膜で被覆されている物品部分は高分子材料で形成されている請求項1又は2記載の物品。
  4. 前記高分子材料はゴム材料及び(又は)樹脂材料である請求項3記載の物品。
  5. 前記炭素膜で被覆されている物品部分は、前記ダイアモンド状炭素膜で被覆されるに先立ち、フッ素含有ガス、水素ガス及び酸素ガスから選ばれた少なくとも一種のガスのプラズマに曝す前処理が施されたものである請求項3又は4記載の物品。
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