JP3921157B2 - コークス炉の炉体膨張測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コークス炉炉長方向の任意区間において炉体の膨張量を測定する測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コークス炉の炭化室壁は、珪石煉瓦によって構築されている。炭化室壁の煉瓦構造体維持のため、炉長方向両端にバックステイを配置し、対向するバックステイの上下2箇所にクロスタイロッドを通し、スプリング等の炉締機構を配置する。両端のバックステイは炉締機構によって煉瓦構造体を締め付け、これによって構造体の形状を維持している。
【0003】
炭化室壁は、長い年月にわたって繰り返し乾留過程における熱サイクルを受け、煉瓦損傷を受ける。煉瓦損傷の程度がある限度を超えると、炭化室壁は最終的に寿命を迎えることとなるので、寿命を長く保つためには、煉瓦損傷状況を適切に把握して補修を行っていく必要がある。
【0004】
炭化室壁の煉瓦損傷の種類としては、煉瓦亀裂が炉高方向に連なった縦貫通亀裂、煉瓦の減肉がある。縦貫通亀裂は、亀裂破面にカーボン等の異物が侵入することにより、経年的に亀裂幅が増加する。炉壁全面に分布して存在する縦貫通亀裂の亀裂幅の合計が増加することにより、炉体の炉長方向膨張となって現れる。亀裂幅の増加は、コークス押出時において炉壁にかかる負荷に対する壁耐力の低下につながるため、各亀裂毎の亀裂幅は炉体老朽化管理上重要な指標である。
【0005】
多数の炭化室を擁するコークス炉炉団の炉幅方向両端には、通常はコンクリート擁壁が築造されている。このコンクリート擁壁は原則的に膨張しない。各コンクリート擁壁の炉長方向両端、即ちコークサイドとプッシャーサイドに基準点を設け、炉幅方向両端のコークサイド基準点同士をピアノ線で結ぶ。プッシャーサイド基準点同士もピアノ線で結ぶ。これにより、コークサイドピアノ線とプッシャーサイドピアノ線との間隔を正確に設定することができる。各炭化室において、バックステイ裏の保護板とピアノ線との間の距離を測定すれば、演算の結果として各炭化室の炉長方向両端の保護板間の距離を算出することができる。算出した距離と設計距離とを対比することにより、各炭化室の炉長方向の全膨張量が測定されたこととなる。このようにして求めた炉長方向の全膨張量から、当該炭化室の概略の炉体老朽化状況を推定していた。
【0006】
炭化室壁の老朽化評価においては、個別の各亀裂毎の亀裂幅の大きさが重要であり、たとえ炉長方向全膨張量はそれほど大きくなくても、個別の亀裂の幅がある限度を超えると補修の必要が生じる。これに対し、上記の方法では、各炭化室の炉長方向全膨張量を測定しているため、炭化室壁のどの部分にどの程度の膨張があるかを評価することができない。
【0007】
特許文献1には、コークス炉燃焼室の任意の2ヶ所のフリューに距離計または市販のCCDカメラ等を内蔵した水冷または空冷のランスを炉上部から挿入して、任意の区間の膨張量を測定する方法が開示されている。カメラ内蔵の場合は、モニター画面上の目地(この場合は縦目地)の上下間の変化量(推移量)を知り、別途測定した2ヶ所のランス間の距離とに基づいて、膨張量を把握できる。しかもランスを挿入するフリューを選択することによって、任意の区間の膨張量を測定できる。
【0008】
特許文献2には、炭化室炉壁に複数のマーカーを埋め込み、炭化室の窯口から観察カメラを配置した測定ラックを挿入し、各マーカーに対応して配置した観察カメラによって各マーカー付近を撮像し、マーカー間の距離を算定してその経時的変化に基づいて炉体の膨張を計測する炉体膨張計測方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−174646号公報
【特許文献2】
特開平6−229684号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1に記載の方法において、コークス炉燃焼室は高温であるため、距離計やカメラを内蔵したランスは実用上水冷にすることが必須である。そのため、ランスの重量は100kg程度と重いものにならざるを得ない。各フリュー毎のランス挿入・抽出を人力で行おうとすると、大変な重労働となるため現実的ではない。ランスの自動挿入・抽出装置を備えようとすると、コークス炉炉上に大がかりな装置を設置する必要があり、高い設備費がかかる。また上昇管の間といった狭い所ではランスの挿入が困難であるという問題が生じる。さらに、多数のフリューにおいてランスの挿入・抽出を行いつつ測定を実行するためには長時間を要する。コークス炉の炉上においては装入窯と石炭塔間を装入車が約8分間隔で往復するという作業が並行して行われているので、上記のような長時間作業を炉上で行うことは実質的に困難である。
【0011】
炭化室壁の補修計画に有効に役立てるためには、炭化室壁の膨張状況をフリューピッチ程度の距離において測定できることが必要である。上記特許文献2に記載の方法を適用する場合、当然全フリューピッチで多数のマーカーを炭化室壁に埋設する必要が生じる。コークス押出時等にマーカーが離脱したときには再度マーカーを埋め込む必要があり、炉長方向中央部のマーカー埋め込み作業は断熱ボックスを挿入した大がかりな作業となる。また、コークスを押し出してから次の原料を装入するまでの短時間で多数のマーカー間の距離を測定することは困難である。
【0012】
本発明は、コークス炉の炉長方向の膨張量を測定する測定方法において、各燃焼室ピッチで炉長方向任意の部位における膨張量を測定することが可能であり、コークス炉の操業の中で容易に測定を行うことができ、大がかりな装置を必要としない測定方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)コークス炉炭化室炉壁表面5の画像4を撮像し、画像4は炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像されてなり、画像4から煉瓦亀裂が発生している煉瓦を選び、炉長方向2ヶ所の該煉瓦目地(3a、3b)間の間隔Lを測定し、煉瓦目地間隔の設計寸法L0と前記測定寸法Lとを対比することにより、炭化室炉壁1の炉長方向膨張量を測定することを特徴とするコークス炉の炉体膨張測定方法。
(2)コークス炉炭化室炉壁表面5の画像4を撮像し、画像4は炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像されてなり、画像4から煉瓦亀裂をはさんで炉長方向2ヶ所の該煉瓦目地(3a、3b)間の間隔Lを測定し、煉瓦目地間隔の設計寸法L0と前記測定寸法Lとを対比することにより、炭化室炉壁1の炉長方向膨張量を測定し、前記測定する2ヶ所の煉瓦目地(3a、3b)は、燃焼室1ピッチの距離にある煉瓦目地であることを特徴とするコークス炉の炉体膨張測定方法。
(3)前記画像は、炉長方向に不連続な2枚の部分画像6からなり、2枚の部分画像間の炉長方向距離D3が明らかであり、2枚の各部分画像6において前記2ヶ所の煉瓦目地(3a、3b)をそれぞれ観察することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコークス炉の炉体膨張測定方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明においては、図1に示すようなコークス炉炭化室炉壁表面5の画像4を撮像し、この画像4から炉長方向2ヶ所の煉瓦目地間の間隔Lを測定する。撮像した画像4から炉長方向の目地間隔Lを測定するためには、画像4の上で少なくとも炉長方向の距離が正確に把握できなくてはならない。本発明においては、画像4は炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像されていることが重要である。「炉長方向の距離に歪みのない縮尺」とは、画像において炉長方向いずれの場所で炉長方向の距離を測定しても、炉壁における実距離と画像上の距離とが同一の縮尺で表示されているという意味である。
【0015】
コークス炉炭化室炉壁表面の画像撮像方法であって、炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像することのできる方法として、特開平9−273995号公報、特開平11−106755号公報に記載の方法を用いることができる。これら公報に記載の方法においては、図6、7に示すように、コークス炉炭化室の窯口よりカメラ51を挿入し、カメラの視野を線状もしくはスリット状とし、カメラの前方に鏡面57を配置して鏡面57に反射する炭化室炉壁部位9をカメラ51で撮像し、カメラ51及び鏡面57を炉長方向に移動し、カメラ51が短い距離を移動する毎に撮像データを採取し、撮像データを炉長方向の移動距離に対応して順次つなぎ合わせ、図8に示すような炭化室炉壁表面の画像4を作成している。このようにして形成した画像は、炭化室炉壁表面を歪みなく表示することが可能であり、炉長方向に画像上の2点間の距離を測定すれば、正確に実際の距離に換算することが可能である。
【0016】
撮像方法として、上記のように線状又はスリット状の視野を有するカメラではなく、図2、3に示すような通常の2次元視野を有するカメラ28を用いてもよい。カメラ28の視野方向を炉壁に平行に配置し、カメラ28の視野方向に鏡面22を配置し、炉壁表面5の映像がカメラ視野から見た鏡面22に映るように調整する。鏡面22と炉壁表面5との角度を45°とすれば、炉壁表面5を垂直な方向から見た映像33を得ることができるので好ましい。カメラ28と鏡面22を炉の奥行方向に移動しつつ撮像を行い、記録した複数の映像33を加工して結合することにより、図5(c)に示すように、炉の奥行方向の広い範囲を1枚の静止画像4として取り出すことができる。例えば、鏡面に反射させて撮像した壁面の映像33が、炉長方向に150mm、炉高方向に500mmの映像であった場合、カメラと鏡面を炉長方向に100mm移動する毎に撮像を行い、得られた映像33をつなぎ合わせれば、隣り合う画像に50mmの重複部分を有しつつ連続画像を形成することができる。もちろん、映像幅が150mmの場合に撮像ピッチを150mmとし、重複部分を有さずに隣り合う映像をつなぎ合わせることとしても良い。このような方法で得た画像4においても、炭化室炉壁表面を歪みなく表示することが可能であり、炉長方向に画像上の2点間の距離を測定すれば、正確に実際の距離に換算することが可能である。
【0017】
炭化室の炉壁を構成する煉瓦2は、図1(a)に示すように、炉高方向の各段毎に目地3が重ならないように互い違いに並べて築造される。本発明において問題としている縦貫通亀裂10は、図1(b)に示すように煉瓦2の目地3に沿って発生していることが多い。炉高方向の特定の段において目地開き11と縦貫通亀裂10が一致している。その上下の隣接する段では縦貫通亀裂部は目地部と一致していないので、煉瓦亀裂12となる。さらにその段に隣接する段では縦貫通亀裂部が目地部と一致しており、目地開き11となる。このように、目地開き11と煉瓦亀裂12が炉高方向に連なって1本の縦貫通亀裂10を形成する。また、縦貫通亀裂部以外の壁面煉瓦では目地開き11の発生はまれである。縦貫通亀裂10の内部にカーボン等の異物が浸入し、次第に亀裂の幅が増大することにより、コークス炉炉体の炉長方向の膨張が発生する。
【0018】
炭化室炉壁の縦貫通亀裂10は、その炉壁に隣接する燃焼室の炉長方向中央付近に対応して発生することが多い。従って、炉長方向の膨張を測定するに際しても、燃焼室の炉長方向ピッチ毎に膨張を測定することとすれば、そのピッチの中には縦貫通亀裂10が複数本含まれることが少ないので、縦貫通亀裂10の亀裂幅を計測する上では好ましい。図1(a)において、距離L0が燃焼室の炉長方向ピッチ(膨張発生前)に相当する。
【0019】
炭化室炉壁を構成する各煉瓦2は、炉長方向に所定の長さで製造されており、熱間での熱膨張を加味した寸法が煉瓦の熱間寸法として定まる。従って、煉瓦亀裂12が存在していない場合の煉瓦長は製造時のままの長さを熱間換算したものであり、煉瓦亀裂12が発生すると煉瓦長が亀裂の幅だけ長くなり、亀裂の幅が増大するとそれに応じて煉瓦長はさらに長くなる。煉瓦長の変化が、即ち亀裂の幅の変化であり、さらには炉体のその部分における膨張を表している。従って、炭化室炉壁を構成する煉瓦の炉長方向長さを測定し、この測定長さを製造時の設計熱間長さと比較すれば、炉体の膨張を測定することができる。
【0020】
炭化室炉壁表面を撮像した画像4において、煉瓦の目地部3は明確に識別することができる。従って、炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像された画像を用いれば、煉瓦の目地間の距離を計測することにより、煉瓦長を測定することができる。煉瓦長を測定しようとする煉瓦の炉長方向両端に目地開き11が存在する場合には、当該目地開き11が生じた目地を用いては正確な煉瓦長を計測することは難しい。ただし、上記のように縦貫通亀裂10は目地開き11と煉瓦亀裂12が交互に繰り返されることが多く、煉瓦亀裂12が発生している煉瓦の炉長方向両端には目地開きが存在しないことが多いので、縦貫通亀裂10を形成する煉瓦2のうちで煉瓦亀裂12が発生している煉瓦2cを選び、この煉瓦2cの目地間の間隔(図1(b)のL1)を測定し、煉瓦目地間隔の設計寸法(図1(a)のL10)と前記測定寸法とを対比することにより、炭化室炉壁の炉長方向膨張量を測定することができる。
【0021】
目地間隔の測定に当たっては、1個の煉瓦両端の目地間隔を測定しても良いが、炉高方向に接触している複数の煉瓦(2a、2b)を選択し、1の煉瓦2aの端の目地3aと他の煉瓦2bの端の目地3bとの間の間隔Lを測定しても良い(図1(b))。また、測定する目地をこのように選択することにより、測定する目地間隔の設計寸法を燃焼室1ピッチの設計寸法L0と一致させることも可能になる。前述のように、炭化室炉壁に発生する縦貫通亀裂10は、隣接する燃焼室の炉長方向中央付近に発生することが多い。従って、測定する2ヶ所の煉瓦目地を燃焼室1ピッチの距離にある特定の煉瓦目地(3a、3b)とすれば、大部分の縦貫通亀裂10を該特定煉瓦目地間のほぼ中央に位置させることができる。即ち、測定する煉瓦目地として目地開き部分を選択する可能性が非常に少なくなるので、膨張量の測定を安定して行うことが可能になる。
【0022】
目地間隔を測定するための2ヶ所の煉瓦目地(3a、3b)は、図1(b)に示すように連続する1枚の画像4の中に含まれていれば、目地間隔の測定が単純化されるので好ましい。ただし、図9(b)に示すように、画像が炉長方向に不連続な2枚の部分画像(6a、6b)からなり、2ヶ所の目地(3a、3b)が2枚の部分画像(6a、6b)にそれぞれ撮像されている場合であっても、2枚の部分画像間の炉長方向距離D3が明らかでありさえすれば、2枚の各部分画像において前記2ヶ所の煉瓦目地をそれぞれ観察し、部分画像間の炉長方向距離D3を参酌することにより、2ヶ所の煉瓦目地間の間隔Lを測定することができる。従って、本発明は、画像が炉長方向に不連続な2枚の部分画像6からなる場合をも含んでいる。
【0023】
次に、コークス炉炭化室炉壁表面の画像を撮像する方法について詳細に説明する。前述第1の、カメラ51の視野を線状もしくはスリット状とし、カメラの前方に鏡面57を配置して鏡面に反射する炭化室内壁をカメラで撮像する方法については、実施例において詳細に説明するのでここでは説明を省略する。ここでは前述第2の、通常の2次元視野を有するカメラ28と鏡面22とを用いた方法について図2〜図5に基づいて詳細に説明する。
【0024】
炉壁表面5を撮像するカメラ28としては、CCDカメラとそれを制御するカメラコントローラなどを用いることができる。カメラ28の視野方向を炉壁表面5に平行に配置すると良い。そして、カメラ28の視野方向に鏡面22を配置し、鏡面の角度は、カメラの位置から観察したときに炉壁表面の映像が鏡面22に映るごとく調整する。通常は、鏡面22と炉壁表面5との角度を45°とすれば、炉壁表面を垂直な方向から見た映像を得ることができるので好ましい。図2に示すように対向する炉壁表面(5a、5b)を同時に撮像できるように2枚の鏡面(22a、22b)を準備すれば、図5(a)に示すように、撮像装置全体視野29には同時に両側の炉壁表面の映像(33a、33b)を映すことができ、好ましい。図5(b)は、鏡面に映った炉壁映像33に縦貫通亀裂10が撮像された状況を示す。
【0025】
カメラ28を炉の奥行方向に移動しつつ撮像を行い、撮像データを加工して結合することにより、炉の奥行方向の広い範囲を1枚の静止画像として取り出す。図5(c)においては、6枚の撮像データ(33−1〜33−6)を結合して1枚の画像4を得ている。例えばコークス押出機の移動速度が300mm/秒の場合、幅方向の撮像範囲を100mmとし、静止画像撮像間隔を1/3秒として次々と撮像する静止画をつなぎ合わせれば、カメラを移動する全長にわたって、炉壁表面画像を連続した1枚の静止画像として入手することができる。
【0026】
撮像情報とともに、カメラの炉内位置情報(炉内水平方向の撮像現在位置データ35)を同時に取得すれば、カメラを炉の奥行方向に移動しつつ撮像を行い、炉内位置情報に基づいて静止画像を選択することができる。幅方向100mmピッチで静止画像を採取し、この静止画像をつなぎ合わせて炉の奥行方向広い範囲の炉壁画像を作成する場合を例にとって説明する。撮像した静止画像を例えば1/30秒ピッチで入手する。炉内位置情報に基づき、カメラが100mmピッチの静止画像採取位置に到達する毎に、その時点で受信した静止画像を選択する。これにより、結果として幅方向100mmピッチで静止画像を採取し、この静止画像をつなぎ合わせることによって炉の奥行方向広い範囲の炉壁画像を作成することが可能である。この方法であれば、カメラの走行速度がたとえ変動したとしても、等間隔で静止画像を入手することができる。
【0027】
カメラを炉の奥行方向に移動しつつ撮像を行って静止画像を採取し、この静止画像をつなぎ合わせて炉の奥行方向広い範囲の炉壁画像を作成する本発明において、隣り合った静止画像同士の間に重複部分が生じるように撮像を行うこともできる。例えば、幅方向で概略100mmピッチで撮像を行い、各静止画像の幅方向サイズを150mmとしておけば、50mmの重複部分が生じる。重複部分においては、炉壁の同じ部分を撮像しているので、炉壁の映像に基づいてパターンマッチング処理によって2つの画像を正確に位置合わせして一致させることができる。この手法を用いれば、各静止画像を撮像した炉内位置情報に若干のずれがあったとしても、そのずれを自動的に修正して正確な炉の奥行方向広い範囲の炉壁画像を作成することができる。さらには、炉内位置情報を用いることができない場合においても、隣り合う画像で重複部分がある時系列採取した画像群に対して、画像の重なり代をパターンマッチング処理で決定して次々と連結し、正確な炉壁画像を作成することが可能である。
【0028】
コークス炉炭化室は高温のため自発光しており、カメラはこの自発光光を撮像することによって炉壁を観察することができる。そして、カメラとして通常のCCDカメラを用いた場合、シャッタースピードを1/1000秒程度として撮像することができる。この程度の速いシャッタースピードであれば、コークス押出機の移動速度300mm/秒においてもカメラぶれのない鮮明な画像を得ることが可能である。
【0029】
図2に示すように、カメラをはじめとする電子機器は断熱容器23内に収納し、鏡面22は断熱容器23の外側に配置すると好ましい。断熱容器23に対しては、炉外からの冷却水の供給や電源配線・信号配線の接続を有しない。従って、炉内に設置する炉壁観察装置21を軽量かつ小型化することができ、炉内に挿入し移動する構造物、例えばコークス炉炭化室のコークス押出機43に容易に着脱することが可能である(図4)。断熱容器23はその表面を断熱材24によって被覆し、短時間であれば高温の炉内に滞在して内部の電子機器を正常に作動させることができる。コークス炉炭化室内に3分間滞在することが可能であり、炉壁観察装置21を装着したコークス押出機43を炉内に挿入し、炉の奥行方向全長を観察して炉外に抽出するための最低限の時間を確保することができる。断熱容器23を被覆する断熱材24としては、例えばセラミックファイバーボードまたはケイ酸カルシウムボード等を用いることができる。
【0030】
断熱容器23は、図2に示すように、吸熱能力を有する液体27を充填したジャケット25と、さらにその外側を覆う断熱材24とを有することとするとより好ましい。液体として水を用いることが好ましい。断熱容器23を高温の炉内に挿入した際、断熱容器の外側を断熱材24が覆っているので、断熱材24を通過して内部に浸入する熱量を小さくすることができる。さらに、断熱材24の内側には吸熱能力を有する液体7を充填したジャケット25が存在するので、内部に浸入した熱はまずこの液体27、例えば水の温度を上昇するのに費やされる。水は熱容量が大きいため、断熱容器内部の温度上昇を遅らせることができる。これにより、高温のコークス炉炭化室内に5分間は滞在することが可能になる。
【0031】
断熱容器内には図2に示すようにワイヤレス伝送送信機29を収納し、炉外には図4に示すようにワイヤレス伝送受信機41とデータ記録装置42とを配置するとより好ましい。撮像装置28で撮像した情報をワイヤレス伝送送信機29からワイヤレス伝送受信機41に送信し、データ記録装置42に記録する。炉壁観察装置を炉内から抽出して装置の冷却をまって画像データを取り出すという手間が必要ないので、迅速に炉壁の状況を確認することができる。また、炭化室炉内から抽出した炉壁観察装置を、すぐに次の炭化室の観察に使用することが可能になる。
【0032】
撮像データをワイヤレス伝送によって炭化室外で記録する場合には、前述の通り、撮像情報とともに撮像装置の炉内位置情報(炉内水平方向の撮像現在位置データ35)を同時にデータ記録装置22に記録することができる。その結果、得られた画像4において炉長方向の距離を正確に実距離と対応させることが可能になり、炉体膨張量の測定精度を良好に保持することができる。
【0033】
【実施例】
コークス炉炭化室の炉体膨張を測定するに際し、特開平11−106755号公報に記載されているごとく、カメラの視野を線状もしくはスリット状とし、カメラの前方に鏡面を配置して鏡面に反射する炭化室内壁をカメラで撮像する方法を採用した。図6〜図8に基づいて説明する。
【0034】
観察用のカメラ51は、受光素子を2048ユニット×1列有する1次元のCCDカメラである。カメラは視野角度60°の範囲の線状の範囲を観察することができる。図7に示すように、炉高方向に4台のカメラ(51a〜51d)を配置し、炉高方向全長を同時期に撮像することが可能である。
【0035】
カメラ51の前方900mmの位置に、外周に左右対称の2組の鏡面57を有するミラー管53を垂直に配置する。ミラー管53は、内部が2重管となって外管と内管との間を冷却水が通過するジャケット水冷方式となっており、外管はステンレス鋼管である。ミラー管の外周には、炉長方向との角度45°の位置に左右対称に炉高全長にわたって平面部が存在し、ミラー研磨されて鏡面(59a、59b)を構成している(図6)。カメラがこれら鏡面を視野に入れて反射光を観察することにより、各鏡面毎に側壁との角度90°で炉壁部位59を観察することができる。カメラ51は旋回装置52によって左右に旋回可能であり、その角度を選択することにより、左右それぞれの側壁を、鏡面反射をさせて炉壁部位(59a、59b)を観察することができる。
【0036】
測定装置は5m/minの速度で炉内を移動する。測定装置の炉長方向現在位置がデータ記録装置に入力されるので、炉長方向の現在撮像位置を認識することができる。この現在撮像位置が炉長方向に1mm移動する毎に各カメラの撮像データを採取する。画像はディスプレイ上画像及び印刷画像として作成される。この情報を、画像合成手段によって炉長方向の移動距離に対応して順次つなぎあわせる。そして炉長方向に16m移動することにより、炉長方向の画像情報がつなぎ合わされ、結果として側壁10の全体を表示する2次元の画像が得られる。
【0037】
こうして、左右の炉壁について画像を作成した。画像からは、壁面の目地部、目地開き、レンガ亀裂、縦貫通亀裂、剥離、カーボン付着、壁面の凹凸、湾曲の状況を克明に読み取ることができ、さらにそれら損傷箇所を正確に把握することができる。
【0038】
図8においては、カメラ(51a、51b)が炉壁1の51ar、51brの位置から51as、51bsの位置まで移動し、まだ移動中である。この間、炉壁表面1のカメラによる観察部位は59rから59sまで移動した。画像合成手段により、現在までに得られた撮像データに基づく画像が合成され、ディスプレイ上に画像4が得られている。
【0039】
炭化室炉壁表面には、図8に示すように、炉長方向に一定のピッチで縦貫通亀裂10の発生が見られた。発生ピッチは燃焼室の炉長方向配列ピッチと一致している。そして、煉瓦目地間隔を測定するための煉瓦目地として図8に示す2ヶ所の煉瓦目地(3a、3b)を選択すると、この選択した煉瓦目地には目地開きの発生がほとんど見られず、本発明の煉瓦目地間隔測定を行うことができた。この煉瓦目地間隔Lは設計寸法L0が燃焼室の炉長方向配列ピッチと一致している。従って、測定した目地間隔Lと燃焼室炉長方向ピッチの設計寸法とを対比すれば、炉長方向当該部位におけるコークス炉の炉体膨張量を算出することができる。
【0040】
得られた画像4からは縦貫通亀裂の幅Wを計測することも可能である。このようにして計測した縦貫通亀裂の幅Wと、上記測定した当該部位における炉体膨張量を比較したところ、炉体膨張量と縦貫通亀裂の幅Wとはほぼ一致する結果が得られた。このことから、炉体の炉長方向の膨張は、その原因が縦貫通亀裂10へのカーボン浸入であることが裏付けられた。
【0041】
炉体膨張量は、コークス炉の炉長方向任意の場所で測定することができ、炉長方向の膨張量分布を見出すことができる。さらに、炉高方向についても、炉高方向全体の画像が得られているので、任意の高さにおける膨張量を測定することが可能である。
【0042】
炭化室の炉長方向全長について、各燃焼室ピッチ毎の膨張量測定を行った。各燃焼室No.毎に、図8(b)に示す目地(3a、3b)間の距離Lを測定し、設計寸法L0と対比することにより、膨張量を算出した。結果を図10に示す。この測定により、燃焼室ピッチで縦貫通亀裂の幅を計測することが可能になり、補修の必要な箇所を迅速に見つけることができるようになった。
【0043】
【発明の効果】
本発明は、コークス炉炭化室炉壁表面の画像を炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像し、画像から炉長方向2ヶ所の煉瓦目地間の間隔を測定し、該煉瓦目地間隔の設計寸法と前記測定寸法とを対比することにより、コークス炉炉長方向の任意区間において炉体の膨張量を測定することを可能にした。これにより、各燃焼室ピッチで炉長方向任意の部位における膨張量を測定することが可能であり、コークス炉の操業の中で容易に測定を行うことができ、大がかりな装置を必要としない測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において炭化室炉壁を撮像した画像を示すものであり、(a)は縦貫通亀裂が発生していない状態、(b)は縦貫通亀裂が発生している状態を示すものである。
【図2】本発明の炭化室炉壁を撮像するための炉壁観察装置を示す平面断面図である。
【図3】本発明の炭化室炉壁を撮像するための炉壁観察装置を示す斜視断面図である。
【図4】本発明の炭化室炉壁を撮像するための炉壁観察装置を示す概略図である。
【図5】本発明において、(a)は鏡面に反射してカメラ視野に映る炉壁表面の状況を示す図であり、(b)は鏡面に映った1撮像データを示すものであり、(c)は連続する撮像データを結合した画像を示すものである。
【図6】本発明の炭化室炉壁を撮像するための炉壁観察装置を示す図であり、(a)は平面断面図、(b)は斜視断面図である。
【図7】本発明の炭化室炉壁を撮像するための炉壁観察装置を示す概略図である。
【図8】本発明において、(a)は炉内を移動しつつ炉壁表面を撮像する状況を示す図であり、(b)は撮像結果を結合した画像を示す図である。
【図9】本発明において、画像が2枚の部分画像からなる場合を示す図であり、(a)は炉壁表面における部分画像撮像位置を示す図であり、(b)は得られた部分画像から煉瓦目地間隔を計測する状況を示す図である。
【図10】炭化室の炉長方向全長について燃焼室ピッチで測定した膨張量測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1 炭化室炉壁
2 煉瓦
3 目地
4 画像
5 炉壁表面
6 部分画像
10 縦貫通亀裂
11 目地開き
12 煉瓦亀裂
21 炉壁観察装置
22 鏡面
23 断熱容器
24 断熱材
25 ジャケット
26 冷却水
27 水(液体)
28 撮像装置
29 撮像装置全体視野
30 電源装置
31 容器
32 断熱材
33 映像
35 画像接合位置
36 観測窓
37 伝送窓
38 ワイヤレス伝送送信機
39 ワイヤレス伝送信号
41 ワイヤレス伝送受信機
42 データ記録装置
48 撮像現在位置データ
43 押出機
44 押出ラム
45 支持装置
46 ラム駆動装置
47 ラムビーム
51 カメラ
53 ミラー管
54 カメラ収納筐体
55 カメラ窓
57 鏡面
58 カメラの視野範囲
59 カメラが撮像する炉壁部位
63 ランス
64 車輪
Claims (3)
- コークス炉炭化室炉壁表面の画像を撮像し、該画像は炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像されてなり、該画像から煉瓦亀裂が発生している煉瓦を選び、炉長方向2ヶ所の該煉瓦目地間の間隔を測定し、該煉瓦目地間隔の設計寸法と前記測定寸法とを対比することにより、炭化室炉壁の炉長方向膨張量を測定することを特徴とするコークス炉の炉体膨張測定方法。
- コークス炉炭化室炉壁表面の画像を撮像し、該画像は炉長方向の距離に歪みのない縮尺で撮像されてなり、該画像から煉瓦亀裂をはさんで炉長方向2ヶ所の煉瓦目地間の間隔を測定し、該煉瓦目地間隔の設計寸法と前記測定寸法とを対比することにより、炭化室炉壁の炉長方向膨張量を測定し、前記測定する2ヶ所の煉瓦目地は、燃焼室1ピッチの距離にある煉瓦目地であることを特徴とするコークス炉の炉体膨張測定方法。
- 前記画像は、炉長方向に不連続な2枚の部分画像からなり、2枚の部分画像間の炉長方向距離が明らかであり、2枚の各部分画像において前記2ヶ所の煉瓦目地をそれぞれ観察することを特徴とする請求項1又は2に記載のコークス炉の炉体膨張測定方法。
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