JP3916172B2 - 延性に優れた軟質熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車を主とするプレス等により成形して用いる熱延鋼板およびその製造方法に係わる。
【0002】
【従来の技術】
自動車用途を代表とするプレスやロールフォーム等より加工させる鋼板は、成形性に優れていることが必要であり、これまで幾多の研究開発により成形性に優れた鋼板が開発されてきた。例えば、冷延鋼板においては深絞り性の尺度であるr値(ランクフォード値)を高めるために、極低炭素鋼にTiやNbに代表される炭窒化物生成元素を含有させたいわゆるIF鋼が開発され、その優れた成形性からIF鋼は自動車パネル用鋼板の主流となっている。IF鋼は高級鋼種の1種であるが、そもそも冷延鋼板は熱延後に冷延と焼鈍過程を経て製品となるために、熱延鋼板に比べ製造コストが高い。昨今のバブル崩壊後の不況を機に、コスト重視の観点がこれまでになく高くなっている。そのための方法として、従来冷延鋼板が用いられていた部材を熱延鋼板により製造する機運が高まっている。
【0003】
熱延鋼板が冷延鋼板に劣る特性に、延性とr値が上げられる。熱延鋼板のr値を高める研究はこれまでいくつかの方法により検討されている。すなわち、特開昭59−226149号公報等に記載されているようにα域熱延(熱延温度をAr3 変態点温度以下にする)による方法や、特開昭62−192539号公報に記載されているようにγ域熱延において集合組織を発達させαに変態した時の変態集合組織を利用する方法等である。これらは、いずれも理論的には確立された技術ではあるが、前者の場合高級鋼を用いなければならずかつ潤滑圧延が必須であったり、後者の場合は理論的に得られるr値が高々1.3程度で例えば自動車用素材として汎用的に用いられるDDQなみの特性には至っていない等、それぞれに実用上の課題がある。
【0004】
一方、熱延鋼板の延性を高める方法もいくつか提案されている。例えば、特開昭61−110722号公報に記載の技術は、Cを0.005%以下に下げた極低炭素鋼を熱延する方法であり、特開昭58−207335号公報に記載の技術は、Cを0.025%以下に調整した炭素鋼においてNとBのバランスを考慮した成分とすることを特徴とした方法である。さらに、特開平2−104637号公報は、Crを添加することを基本とする技術を提案している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、熱延鋼板の延性を高めることに焦点を絞った。これは、高級鋼種を用いずにDDQ以上のr値を得るためにはこれからの研究開発が必要であるからである。また本発明においては従来冷延鋼板が用いられていた部材に適用されることを考慮に入れた。従って、適用される板厚はかなり薄くなる場合がある。そのためには、仕上温度をオーステナイト域で仕上圧延を終了させることを基本技術とする場合には鋼のAr3 変態点温度を低めることが必要である。CはAr3 変態点温度を有効に下げる元素である。一方でCは同時に延性を阻害する元素と一般的には考えられているために例えば特開昭61−110722号公報や特開昭58−207335号公報のようにC含有量を低くすることを特徴とする技術が提案されていた。しかし、これらの技術はベース成分のAr3 変態点温度が実質的に高くなるために仕上圧延温度が必然的に高くなるため、薄手の熱延鋼板を製造するには不適当であることに課題がある。また、特開平2−104637号公報の場合には、Crを含有させる必要がある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、従来技術の課題を有利に解決するものであってその骨子は
(1)質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる延性に優れた軟質熱延鋼板。
【0007】
(2)質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
さらに、B:0.0001〜0.0050%
Cu:0.01〜0.8%の1種または2種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる延性に優れた軟質熱延鋼板。
【0008】
(3)質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる連続鋳造により得たスラブを熱延するに際し、仕上温度をAr3 変態点温度以上950℃以下とし巻取温度を600℃以上とすることにより得られる、延性に優れた軟質熱延鋼板の製造方法。
【0009】
(4)質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
さらに、B:0.0001〜0.0050%
Cu:0.01〜0.8%の1種または2種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる連続鋳造により得たスラブを熱延するに際し、仕上温度をAr3 変態点温度以上950℃以下とし巻取温度を600℃以上とすることにより得られる、延性に優れた軟質熱延鋼板の製造方法にある。
【0010】
【作用】
以下、まず成分の限定理由を詳細に説明する。
C:0.025%超0.07%以下
Cは、本発明においてその限定理由は重要である。すなわち、0.025%超0.07%以下とする。下限は、Ae3 変態点温度がC量によらず一定となる量(0.022%)を超え、工業的に安定して製造するに適した量として定めた。これにより実質的にAr3 変態点温度を低くし薄手の熱延鋼板が製造できるようにする。上限は、本来巻取温度との組合せによって決定する強度から決めることもできるが、ここでは度重なる検討の結果から決定されたものとして0.07%に定めた。すなわち、通常の熱延工場においては仕上圧延機と巻取機の間にランアウトテーブルがあるために板厚が薄くなると巻取温度を高く保持することが困難になるが、C量が0.07%までの範囲であれば、巻取温度がある程度低くなっても延性の劣化は基本的にない。好ましいC含有量は、0.03%〜0.05%である。
【0011】
Si:0.05%以下
Siは、本発明の場合、赤スケールの発生を避けるためにその含有量を低く定める。特に薄手の熱延鋼板を製造する1つの方法として、スラブ加熱温度を高くすることにより仕上圧延温度を確保するが、その場合に赤スケールの発生は避けられない。好ましくは、0.03%以下にする。
Mn:0.1%以上2.0%以下
Mnの下限は、Sが上限含まれていてもオーステナイトの粒界脆化が生じない最低の量として定めた。Mnは、Ar3 変態点温度を下げる元素であるので、多く含むと薄手の製造に有利である一方で、鋼の強度を高くする元素であるため、強度に応じて決定すればよい。従って、本来上限は規定する必要がないが、工業的に極端なコストの上昇のない範囲としてここでは、上限を2%に定めた。
【0012】
P:0.02%以下
Pは、鋼の変態点を上昇させさらに強度を高くする元素であるため、本発明においては低いほど好ましい。しかしながら、工業的に比較的安価に製造することを意図して本発明においてその上限を0.02%に定めた。好ましくは、0.015%以下の方がいい。
S:0.0015%以下
Sは、本発明においては延性の中でも局部伸びを改善させる。従って、S含有量は低ければ低いほどいい。しかし、工業的に安価に製造することも重要であるため、絶対的な延性を損ねない量として、上限を0.015%に定めた。下限は特に限定しない。好ましくは0.010%以下の含有、さらには0.005%以下の含有が好ましい。
【0013】
Al:0.005%未満
Alの含有量は、本発明において非常に重要な要素である。すなわち、低Nを実現させる方法の1つとして、脱酸元素の1つであるAlを規定範囲に抑えることにより出鋼段階でのO(酸素)を多く確保することにより、吸Nを防止する。Alは強力な脱酸元素であるため、Alが通常のAlキルド鋼なみ(例えば約0.05%)含有しているとこの効果が発揮されない。そのために、Al含有量の上限を0.005%未満に限定する。Al含有量を徹底的に低くする基本的な考え方は上記の通りではあるが波及効果としてAlが無いことによる延性の改善、Ar3 変態点温度の低下がある。そのためにもAlの含有量は徹底的に下げる。
【0014】
N:0.0025%以下
Nの含有量は、本発明において極めて重要である。すなわち、0.0025%以下に限定する。加工用熱延鋼板は時効劣化を避けなければならない。熱延鋼帯の製造においては、巻取の過程があるため、例えば400℃以上の温度で巻取ればC時効は基本的に生じない。それは、巻取った段階で存在する固溶Cが巻取後の徐冷の過程において鉄炭化物として析出するためである。しかし、Nは巻取の過程で鉄窒化物としては析出しないため、析出させるためにはAl、BやTi等の鉄以外の元素の存在が必要である。本発明においては後で述べるようにBや脱酸過程においてTiを用いてもよいが、それらを使用する必要がないようにするためにもNを徹底的に下げる。Nの含有量を徹底的に低くすることにより、延性が向上し、本発明の目的を達成することができる。そのためには、その含有量は低ければ低いほどよく、本発明においてはその上限を0.0025%に定めた。好ましいNの含有量は0.0015%以下である。
ところで、本発明においてはAlを鋼中に含有させない。従って、あらかじめ低Nでスラブになる範囲で適当な脱酸元素を選択する。その場合、Tiを用いてもいいし予備脱酸のためにAlを用いてもよい。
【0015】
B:0.0001〜0.0050%
Bは、Nによる時効劣化が徹底的に排除されなければならない場合や鋼のAr3 変態点温度をさらに下げたい場合に本発明において用いることができる。前者のみであれば時効劣化の程度に応じNと化学量論的に等価な量に対して適当量を含有させればいいし、後者の場合はそれよりも多い量を含有させればよい。ただし、上記の効果が充分に飽和状態にありいたずらに延性を下げることになるのでその上限を0.0050%に定めた。
Cu:0.01〜0.8%
Cuは、本発明においてはAr3 変態点温度をさらに下げたい場合に用いることができる。0.01%未満であればその効果は発揮されない。また、0.8%を超えると巻取温度によっては析出強化してしまうので、この量を上限に定めた。好ましいCuの含有量は、0.1〜0.5%である。
【0016】
次に熱延条件の限定理由を詳細に説明する。
仕上圧延終了温度をAr3 変態点温度以上950℃以下とする。本発明においては変態点温度以上で仕上圧延を終了させることを基本とする。これは、変態点以下の温度で仕上圧延する場合には、圧延荷重の急激な変化が生じるため、板厚制御に特別な配慮を必要とするためである。逆に仕上圧延温度をAr3 変態点温度以上で行うために成分的な配慮を本発明においては行っている。上限は、本来規定しなくてもよいが、いたずらにオーステナイトの粒径を大きくしない範囲として、950℃を上限に定めた。好ましくは、(Ar3 変態点温度+20)℃〜950℃を超えない範囲内の(Ar3 変態点温度+60)℃である。
【0017】
また、巻取温度は本発明においてはその下限を600℃に定める。これは、可能な限り高温で巻取ることによりその成分鋼が持ちうる特性を最大限発揮させることが本発明の基本的な考え方であることを反映させるためである。その効果は600℃以上の巻取であれば十分に発揮されるため、その温度を下限に定めた。上限は特に定めないが、酸洗する場合の効率や高温巻取起因の疵を避けたければ、650℃程度で巻取ってもよい。好ましい巻取温度は、630〜720℃である。
【0018】
その他の条件は、本発明では特に限定しない。従って、連続鋳造による鋳片を熱片のまま圧延を開始してもよいし、冷片または温片を再加熱してもよい。その場合の抽出温度も仕上終了温度が確保できる範囲で、任意の温度に設定してもかまわない。もちろん、従来知見にある低温スラブ抽出温度の採用による延性の向上も本発明において効果が発揮される。巻取後、通常の方法により調質圧延を施してもよい。その際、スキンパスによってもレベラーによってもかまわない。また、酸洗しても本発明の効果は発揮される。また、熱延鋼帯に電気メッキを施してもかまわない。その際、ZnメッキであってもZn−Niを代表例とする合金メッキでもかまわない。
【0019】
【実施例】
表1にある化学成分を有するスラブを連続鋳造により得た。得られたスラブを再加熱し、抽出温度を1150℃とし、その後は表2にある製造条件により熱延鋼帯にした。得られた熱延鋼帯を酸洗し、0.8%のスキンパスを施し、製品とした。なお、製品板厚は1.2mmである。この製品について、引張試験を行った。引張試験は、JISZ2201記載の5号試験片を用い、同Z2241記載の方法に従って行い、降伏強度YP、引張強度TS、破断伸びElを測定した。試験片長手方向は、製品の圧延方向とした。その結果も表2に示した。また、仕上圧延前のクロップからディラトメータ法による変態点測定用の試料を切り出し、30℃/sで冷却させた場合のディラトメータのデータから、Ar3 変態点温度を求め、同じく表2にその結果を示した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表1で鋼Aから鋼Iが本発明による成分系である。鋼Jは、C量が発明範囲より低い。鋼Kは、Siが発明範囲より高い。鋼Lは、PとAlとNが発明範囲より高い。
表2に示したように、本発明による成分系(鋼A)であっても変態点を下回る仕上圧延条件や600℃を下回る巻取温度条件を採用すると延性が劣化する。1.2mmを製品厚みとしたので、仕上圧延温度は高々875℃程度までしかとれないが、鋼−No.A−1、B−1、C−1、D−1、H−1、I−1はいずれも引張強度が310N/mm2 でElが48%以上の優れた延性を示したのに対し、同等の強度クラス鋼であるはずのJ−1、K−1、L−1はElが45%を下回った。特にK−1、L−1は変態点を上回る圧延ができなかった。また、E−l、F−1、G−1はいずれもMn量を増加させ、高強度化したものであるがそれでも高い延性を示した。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、従来困難とされてきた薄手の熱延鋼板が従来公知の熱延方法で得ることができ、かつ延性に優れる。かつスラブ段階までのコストを実質的に上げずに、安価で製造することができる。従って、実質的に高r値(深絞り性)を要求されないにもかかわらず延性が確保できないために冷延・焼鈍材を用いていた部材が本発明によれば熱延ままで用いることができる。また、従来から熱延鋼板が用いられていた部材について、延性不足により不良率が高かったものについても、本発明による技術を用いればその不良率を格段に下げることができ、産業上の有効性は高い。
Claims (4)
- 質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる延性に優れた軟質熱延鋼板。 - 質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
さらに、B:0.0001〜0.0050%
Cu:0.01〜0.8%の1種または2種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる延性に優れた軟質熱延鋼板。 - 質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる連続鋳造により得たスラブを熱延するに際し、仕上温度をAr3 変態点温度以上950℃以下とし巻取温度を600℃以上とすることにより得られる、延性に優れた軟質熱延鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C :0.025%超0.07%以下
Si:0.05%以下
Mn:0.1%以上2.0%以下
P :0.02%以下
S :0.015%以下
Al:0.005%未満
N :0.0025%以下
さらに、B:0.0001〜0.0050%
Cu:0.01〜0.8%の1種または2種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる連続鋳造により得たスラブを熱延するに際し、仕上温度をAr3 変態点温度以上950℃以下とし巻取温度を600℃以上とすることにより得られる、延性に優れた軟質熱延鋼板の製造方法。
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JP00540295A JP3916172B2 (ja) | 1995-01-18 | 1995-01-18 | 延性に優れた軟質熱延鋼板およびその製造方法 |
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JPH08193244A JPH08193244A (ja) | 1996-07-30 |
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JP3263348B2 (ja) * | 1997-10-07 | 2002-03-04 | 住友鋼管株式会社 | 非熱処理型高加工性電縫鋼管の製造方法 |
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1995
- 1995-01-18 JP JP00540295A patent/JP3916172B2/ja not_active Expired - Fee Related
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