JP3915128B2 - 低合金鋼の球状化焼なまし方法 - Google Patents

低合金鋼の球状化焼なまし方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材の熱処理方法に関し、詳しくは、塑性加工、切削加工を容易にし、さらに機械的性質をも改善する目的で鋼中の炭化物を球状化する熱処理技術に係わる。
【0002】
【従来の技術】
自動車および産業機械等に用いられる機械部品には、従来から炭素鋼または合金鋼が素材として汎用されている。
これら機械部品は、通常、棒鋼線材を球状化焼なまし、切断、冷間鍛造、最後に切削等の加工を行うことによって製造されている。その際、冷間鍛造は、製品の加工精度、量産性及びコストの点で優れているので多用されるが、球状化焼なましは、鋼中炭化物を球状化し、鋼材の変形抵抗を低下させて冷間鍛造性を向上させる目的で施されるのである。
【0003】
ところで、その球状化焼なまし方法は、鋼材に高温且つ長時間の加熱を施すため、熱処理費用がかさみ、従来から問題視されていた。そこで、解決策として、例えば特公平6−2898号公報は、高炭素クロム軸受鋼の短時間球状化熱処理方法を開示し、具体的には図2に示すヒートパターンで鋼材を処理することを提案した。また、特開平4−362123号公報は、軸受用鋼素材の製造方法として、図3に示すヒートパターンの採用を提案している。
【0004】
しかしながら、特公平6−2898号公報記載の方法は、従来20時間かかっていたものを10時間にした効果はあっても、依然として長時間で、且つ数回の繰り返し熱サイクルを加えるものであり、エネルギーコスト及び温度制御の点では上記問題が残されたままである。また、特開平4−362123号公報記載の方法は、エネルギーコストの点では改善されているものの、本来重視すべき炭化物の球状化という点が不十分であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる事情を鑑み、エネルギーコストを低減し、安価な熱処理費用で炭化物の球状化に優れた低合金鋼の球状化焼きなまし方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するため、クロムを含む低合金鋼の球状化焼なまし条件に関して鋭意調査研究を重ね、鋼中炭化物の球状化には炭化物中に含まれるクロムが大きな影響を及ぼしていることを見いだし、さらに、球状化焼なましの最高加熱温度保持前の炭化物中に含まれるクロム量が球状化に大きく影響していることを確認できた。すなわち、炭化物中に含まれるクロム量が多いほど、その後の冷却中に成長する炭化物の核が多く残留し、球状化程度は向上することが明らかとなった。その理由は、最高加熱温度において炭化物中に含まれるクロム量が多いほど炭化物が溶解しにくく、特に小さな炭化物の核が残留しやすく、これらの核がその後の冷却中に成長して球状化するためである。そして、発明者は、この検討結果を具現化するための球状化焼なまし条件を検討し、本発明を創案するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、炭素:0.15〜1.50重量%、クロム:0.10〜2.50重量%を含有する低合金鋼を加熱、冷却して球状化焼なましを行うにあたり、
上記低合金鋼を(A 点−30)〜(A 点−5)℃ の範囲の温度に昇温してその温度に0.5〜2.0時間の範囲内の一定時間保持し、さらに(A 点+30)〜(A 点+50)℃の範囲の最高温度に昇温し、1.0〜3.0時間保持してから、A 点ま15℃/時間以下の速度で冷却することを特徴とする低合金鋼の球状化焼なまし方法である。また、本発明は、上記一定時間をクロム含有量に応じて定めることを特徴とする低合金鋼の球状化焼なまし方法である。
【0008】
本発明を鋼材の熱処理に採用することで、鋼材を高温にさらす時間を従来に比べ大幅に短縮できるようになり、球状化に要するエネルギーコストを低減でき、さらには球状化程度も従来より一層促進できるようになる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係る低合金鋼の球状化焼なましは、図1のヒートパターンで鋼材を熱処理することである。そして、本発明で、このヒートパターンを採用した理由は、以下の通りである。
(1)(A1 変態点−30)〜(A1 変態点−5)℃に昇温し、一定時間保持すること、
本発明では、鋼材の最高加熱温度にする前に炭化物中にクロムをできるだけ濃化させる必要がある。種々の温度で鋼材を保持した後の炭化物中のクロム量を調査したところ、現実的な保持時間を考慮した場合A1 変態点直下が最もクロム量が多くなり、A1 変態点以上では鋼中の炭化物が基地に固溶を始めるため、A1 変態点(以下、単にA1 点)より低い温度が濃化に最も好ましいことがわかった。以上より、本発明では、鋼材を最高温度に昇温する前に、上記温度範囲に一定時間保持するようにしたのである。その保持時間は、0.5 〜2.0時間の範囲程度で十分であった。その理由は、クロム含有量が多い程、保持時間は少なくて良いが、0.5時間未満ではその効果がなく、クロム含有量が最小の0.1重量%でも2時間を超えると、その効果が飽和するためである。
(2)さらに、(A1 点+30)〜(A1 点+50)℃に昇温し、保持すること、
鋼材の最高加熱温度をこの範囲に限定した理由は、この温度範囲外では、高すぎても低過ぎても球状化は不十分となったためである。その理由は、温度が高すぎると、炭化物の殆どが鋼材中に固溶してしまい、球状炭化物の各生成サイトの密度が減少し、結果として冷却時に再生パーライト組織が生じるためであり、また温度が低過ぎると、層状パーライトが固溶せず鋼中に残存するからである。
【0010】
また、この温度範囲での保持時間は、1.0〜3.0時間程度であれば良い。その理由は、球状化の程度を低める層状パーライトを溶解するには、1.0時間未満では不十分であり、3時間を超えると、その後の冷却中に成長する炭化物の核が基地に固溶して炭化物の数が減少するからである。
(3)A点以下の温度で15℃/時間以下の速度で冷却すること、炭化物の球状化を促進するためには、冷却中にパーライト組織ではなく球状化炭化物を成長させる必要があり、そのためには、冷却速度、冷却停止温度の選定が重要である。冷却速度、冷却停止温度を種々変化させて球状化の程度を調べたところ、安定的に球状化した炭化物を得るには、A 点ま15℃/時間以下の速度で冷却することが必要であることがわかった。それ以上に冷却速度氏が速いと、炭化物の球状化程度が落ちるので、上記範囲に冷却速度を限定した。また、冷却停止温度があまりに低すぎると生産性が落ちるので、上記冷却速度を特定する範囲をA 点までとした。
【0011】
次に、本発明において、低合金鋼の化学組成を限定した理由及び作用を述べる。
C:炭素は、鋼中に固溶して基地を強化し、機械部品としての十分な強度、耐摩耗性を向上させる有用元素であるが、含有量が0.15重量%未満ではその効果が少なく、一方1.50重量%を超えると母材の靭性が著しく低下するため、C量は0.15〜1.50重量%の範囲に限定した。
【0012】
Cr:クロムは、鋼材の焼入性改善と炭化物の球状化のために有効に寄与するが、含有量が0.10重量%以下ではその効果が小さく、一方2.50重量%を超えると炭化物が粗大化することによる切削性の低下及び化学組成からみてコストアップとなるので、Cr量は0.10〜2.50重量%の範囲で添加するものとした。
【0013】
【実施例】
本発明の実施例を以下に説明する。表1に示す種々の化学組成の鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼片とした後、55mmφの棒鋼に圧延した。この棒鋼に種々のヒートパターンで球状化焼なましを施した。そして、各素材からミクロサンプルを切り出し、顕微鏡を用いて5000倍で10視野ずつ炭化物の形状を観察し、炭化物の球状化の程度を調べた。その結果を表2に一括して示す。
【0014】
表2から明らかなように、本発明に係るヒートパターンで球状化焼なましを実施した場合は、長径/短径の比が2以下の炭化物量が100%に近く、加工性の良いことを示す球状化組織が得られている。これに対して、比較例No.11〜20は、球状化焼なまし条件が本発明の条件よりはずれているため、いずれも、長径/短径の比が2以下の炭化物の割合が少なく、不十分な球状化組織となっていた。
【0015】
【表1】
Figure 0003915128
【0016】
【表2】
Figure 0003915128
【0017】
従って、本発明により低合金鋼素材の球状化焼なましを行うと、最高到達温度や、その前のクロム濃化処理温度での保持時間が短くても、球状化が十分に達成できることがわかった。つまり、エネルギーコストは、従来に比べて低減でき、安価な球状化処理が可能となった。
【0018】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、安価で且つ球状化程度に優れた炭化物を有する低合金鋼の製造ができるようになり、産業上極めて有用な効果がもたらされた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る低合金鋼の球状化焼なまし方法を示す温度パターンの一例を示す図である。
【図2】特公平6−2898号公報記載の温度パターンを示す図である。
【図3】特開平4−362123号公報記載の温度パターンを示す図である。

Claims (2)

  1. 炭素:0.15〜1.50重量%、クロム:0.10〜2.50重量%を含有する低合金鋼を加熱、冷却して球状化焼なましを行うにあたり、
    上記低合金鋼を(A 点−30)〜(A 点−5)℃ の範囲の温度に昇温してその温度に0.5〜2.0時間の範囲内の一定時間保持し、さらに(A 点+30)〜(A 点+50)℃の範囲の最高温度に昇温し、1.0〜3.0時間保持してから、A 点ま15℃/時間以下の速度で冷却することを特徴とする低合金鋼の球状化焼なまし方法。
  2. 上記一定時間をクロム含有量に応じて定めることを特徴とする請求項1記載の低合金鋼の球状化焼なまし方法。
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