JP3913694B2 - 配線形成用Mo−Wターゲットとそれを用いたMo−W配線薄膜および液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、配線形成用Mo−Wターゲットとそれを用いたMo−W配線薄膜および液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、非晶質シリコン(以下、「a-Si」と記す)膜を用いて形成された薄膜トランジスタ(以下、「TFT」と記す)をスイッチング素子として適用したアクティブマトリックス型液晶表示装置が注目されている。これは、安価なガラス基板上に低温成膜が可能なa-Si膜を用いてTFTアレイを構成することにより、大面積、高精細、高画質でかつ安価なパネルディスプレイ、すなわちフラット型テレビジョンが実現できる可能性があるからである。
【0003】
しかし、大面積のディスプレイを構成する場合、必然的にアドレス配線の総延長が飛躍的に増加するため、アドレス配線の有する抵抗分が増加する。このアドレス配線の抵抗分の増加に伴って、スイッチ素子に与えられるゲートパルスの遅延が顕著になり、液晶の制御が困難になるという問題が生じている。このため、少なくとも配線幅等のパラメータを維持したままで、ゲートパルスの遅延を回避することが必要となる。
【0004】
ゲートパルスの遅延を回避するための1つの手段として、より低い抵抗率を有する配線材料を用いてアドレス配線を形成することが考えられる。現在、アドレス配線材料としては、Mo−Ta合金膜がよく用いられている。しかし、この合金膜の抵抗率は40Ω・cm程度と大きいため、大面積ディスプレイの実現はMo−Ta合金膜の抵抗率では困難とされている。特に、アドレス配線が1000本程度の高精細な直視型ディスプレイでは、20μΩ・cm程度以下の抵抗率を有する配線材料が必要とされている。
【0005】
上述したような新しい配線材料には、低抵抗率のみではなく、これに加えて以下に示すような特性も要求される。アドレス配線上に形成する層間絶縁膜のステップカバレッジを良好にして、層間絶縁膜上に形成される配線とアドレス配線との絶縁性を高める必要性があることから、テーパ加工が可能な性質を有することが要求される。
【0006】
すなわち、低抵抗の配線材料を用いてアドレス配線を形成することによって、ゲートパルスの遅延を抑制すると共に、絶縁性を確保した信頼性の高い液晶表示装置の実現が望まれている。このような要望は、大面積ディスプレイに限らず、ディスプレイの高精細化を図るために配線や配線間隔を狭小化した液晶表示装置、あるいは配線幅を細くして開口率を向上させた液晶表示装置等においても同様の要求がなされている。
【0007】
従来の液晶表示装置は、以下に示すような他の問題点をも有していた。ここで、図5は液晶表示装置に用いられるTFT(スイッチング素子)および蓄積容量部分の断面図である。図5に示すように、ガラス基板1上にMo−Ta合金をスパッタして、ゲート電極2、アドレス配線、Cs線9を同時に形成する。その上に形成したゲート絶縁膜3を介して、a-Siの活性層4を堆積する。この活性層4の両端部上に、n+a-Si層5a、5bを堆積する。そして、ゲート絶縁膜3を介してITO画素電極8を成膜する。次いで、n+a-Si層5aに接続部分を持つAlのソース電極6a、n+a-Si層5bおよび画素電極8の一部に接続部分を持つドレイン電極6b、およびデータ配線を同時に形成する。
【0008】
図5に示される従来のTFTにおいては、画素電極とデータ配線とが絶縁膜を介することなく同一層で存在するためにショートして、点欠陥が発生することがあった。この点欠陥を回避するために、ソース電極、ドレイン電極およびデータ配線の配線後に層間絶縁膜を形成し、その上に画素電極を形成する構造が改善案として検討されている。このような構造を実現するためには、(1)データ配線等が層間絶縁膜のエッチャントであるHFや画素電極のITOエッチャントに対して優れた耐性を有していること、(2)層間絶縁膜のステップカバレッジを良好にしてデータ配線と画素電極との絶縁性を高めるために、データ配線にテーパ加工を施すことが可能であること、等が要求される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したような要求を満たす配線材料は、現在まで見出されていないため、上記構造を実現して液晶表示装置の信頼性を高めることは困難であった。特に、大面積ディスプレイの開発には、点欠陥の発生率を低減することが重要であり、そのような信頼性の高い液晶表示装置の開発が望まれている。そのため、上記要求を満足する配線材料、さらには配線形成用ターゲットの開発が望まれている。
【0010】
一方、Al系やTa系の合金では、表面に酸化膜が形成されて上層の金属配線とのコンタクト抵抗が高くなるために、表面酸化膜を除去する工程が必要であった。さらに、ITOとAlの反応を防ぐためにバリヤメタルが必要であり、製造工程が増すという欠点があった。
【0011】
本発明の目的は、低抵抗で、かつテーパ加工が可能な配線形成用材料からなる配線形成用ターゲットおよび配線薄膜を提供することにある。本発明の他の目的は、低抵抗で、かつ層間絶縁膜やITO等のエッチャントに対して高耐性を有する配線形成用材料からなる配線形成用ターゲットおよび配線薄膜を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために、液晶表示装置等の表示装置における配線材料としての種々の金属や合金について系統的に実験、検討を重ねた結果、限定された組成範囲のモリブデン(Mo)とタングステン(W)との合金膜は、これらを構成するMoあるいはWの単体で構成された膜に比較して抵抗率が低いと共に、加工性が良好であることを初めて見出し、本発明を成すに至った。
【0013】
すなわち、本発明の配線形成用Mo−Wターゲットは、原子パーセントでタングステン20〜95%、残部モリブデンおよび不可避的不純物よりなるMo−W合金材からなり、前記Mo−W合金材は相対密度が98%以上、結晶粒の平均粒径が200μm以下であると共に、MoとWとの固溶体相からなる金属組織を有することを特徴としている。本発明のMo−W配線薄膜は、上記した本発明の配線形成用Mo−Wターゲットを用いて形成してなることを特徴としている。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の配線形成用Mo−Wターゲットに用いられるMo−W材は、原子パーセントでタングステン20〜95%、残部モリブデンおよび不可避的不純物よりなるよう調整されたものであり、具体的にはMo材とW材とを、Wの組成比が原子パーセントで20〜95%の範囲となるように合金化したもの、例えば粉末冶金法による焼結体や溶解法によるインゴット等からなるものである。
【0015】
上述したMo−W合金材中のWの比率が原子パーセントで20%未満であると、抵抗が上昇すると共に、層間絶縁膜やITO等のエッチャントに対する耐性が低下する。一方、Wの比率が原子パーセントで95%を超えると、同様に抵抗が上昇する。言い換えると、Wの比率が原子パーセントで20〜95%の範囲のMo−W合金材は、低抵抗を有し、かつ耐エッチャント性に優れるものである。さらに、上記組成比のMo−W合金材は、例えば薄膜とした場合にテーパ加工が可能であるという利点を有する。
【0016】
本発明の配線形成用Mo−Wターゲットに用いられるMo−W合金材中のWの比率は、原子パーセントで20〜70%の範囲とすることがより好ましい。このWの組成範囲内において、例えばスパッタ法で配線薄膜を成膜する際に、実用的に良好なスパッタレートが得られる。さらに、上記良好なスパッタレートと優れた耐エッチャント性とを得る上で、Wの比率を原子パーセントで25〜45%の範囲とすることが望ましい。
【0017】
なお、本発明で用いられるMo−W合金材は、得られる配線の特性を向上させるために、それに含まれる不純物元素をなるべく少なくすることが好ましい(Mo−WターゲットおよびMo−W配線薄膜についても同じ)。例えば、不純物としての酸素は500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは200ppm以下、望ましくは100ppm以下、さらに望ましくは50ppm以下である。これは、酸素があまり多いと一般に空孔(ポア)が多く存在し、相対密度の低下を招くためである。この相対密度の低下により、パーティクルの発生が増加する。酸素量を低減するためには、粉末を水素還元する、または焼結性を向上させる等が採用される。
【0018】
本発明のMo−W配線薄膜は、上記した本発明の配線形成用Mo−Wターゲットを用いて形成したものであり、上述したような組成比のMo−W合金からなるものである。Wの組成比の規定理由や好ましい組成範囲等は上述した通りである。このようなMo−W配線薄膜からなる液晶表示装置等のアドレス配線は、ゲートパルスに対して低い抵抗分として作用する。そのため、アドレス配線を伝わるゲートパルスは、アドレス配線の抵抗分に起因する遅延作用をほとんど受けない。よって、液晶等を駆動するためのスイッチング素子には、遅延のないゲートパルスが与えられる。
【0019】
さらに、本発明のMo−W配線薄膜はテーパ加工が可能であるため、この配線薄膜からなるアドレス配線上に成膜する層間絶縁膜のステップカバレッジが良好になる。従って、層間絶縁膜上に形成される配線とアドレス配線との間には高い絶縁耐圧が得られる。本発明のMo−W配線薄膜は、さらに層間絶縁膜やITO等のエッチャントに対して優れた耐性を有する。従って、データ配線と画素電極との絶縁性等を高めることができる。これらによって、表示領域を大面積化した場合においても、信頼性の高い液晶表示装置を実現することが可能となる。
【0020】
本発明のMo−W配線薄膜は、大面積化を図った液晶表示装置に限らず、ディスプレイの高精細化に伴って配線や配線間隔を狭小化した液晶表示装置、あるいは配線幅を細くして開口率を向上させた液晶表示装置に対しても有効である。本発明のMo−W配線薄膜は、配線幅や配線間隔の狭小化を良好に実現可能にする。さらに、本発明のMo−W配線薄膜は、液晶表示装置の配線等に限らず、プラズマ表示装置、固体表示装置、電解放出型冷陰極を用いた平面型表示装置等の配線としても有効である。
【0021】
本発明のMo−W配線薄膜は、さらに、その表面に形成される酸化膜の抵抗が小さいという利点を有する。このため、酸化膜の除去処理を行うことなく、上層の金属配線等と良好なコンタクトを形成することができる。これにより、製造コストの低減が図れる。従って、本発明のMo−W配線薄膜を用いて製造された液晶表示装置は、従来の液晶表示装置とは異なり、そのゲート電極、アドレス配線、Cs線の表面に酸化膜が形成された状態で構成することが可能となる。
【0022】
本発明の配線形成用Mo−Wターゲットは、上述したような特性を有するMo−W配線薄膜をスパッタ法等の薄膜形成法で再現性よく形成することを可能にするものである。ただし、Mo−W配線薄膜の組成は、配線薄膜を形成する際の条件、例えばスパッタ時における雰囲気、印加電圧等の各種条件により種々変化するため、一概に決定されるものではないが、上記Wの組成範囲内であれば良好なMo−W配線薄膜が得られる。
【0023】
本発明の配線形成用Mo−Wターゲットは、上述した合金化したMo−W材からなるものである。MoとWとではスパッタ効率が異なるため、ターゲットと得られる配線薄膜との間の組成バラツキを減少させ、均一な膜組成を得る上で、Mo−W合金化材からなる合金ターゲットが好適である。
【0024】
上述したようなMo−W合金ターゲットは、その製造方法や製造条件により、例えば後に詳述する粉末治金法における各粉末の粉末粒径、成形条件、焼結条件、機械加工条件、溶解法における溶解鋳造条件等により、種々の相対密度や組織等を有するものが得られる。さらに、ターゲットの相対密度や組織等は、得られる配線薄膜の特性に影響を及ぼす。そこで、スパッタリング時におけるパーティクルの発生を防止して、Mo−W配線薄膜の特性向上を図るために、Mo−Wターゲットは緻密質でかつ金属組織が微細であることが好ましい。パーティクルは、配線の断線やショートの原因となる。具体的には、相対密度が98%以上で、結晶粒の平均粒径が200μm以下であることが好ましい。
【0025】
上記したMo−Wターゲットは、結晶方位の異なる結晶粒が集合した多結晶体であるため、結晶粒の結晶方位によってスパッタレートが異なる。よって、結晶粒が大きいほどスパッタ面は凹凸状態となり、結晶粒間には段差が生じる。そのため、スパッタ粒子が段差部や結晶面に付着して堆積しやすい。特に、ターゲットの中央部や端部では、斜め方向からのスパッタ粒子が不安定に堆積する。このような不安定に堆積したスパッタ粒子(もしくはそれによる付着膜)は、スパッタ中に剥離、脱落して、パーティクルの発生原因となる。さらに、大きな段差部では異常放電によるスプラッシュが発生して、パーティクルが発生する。
【0026】
Mo−Wターゲット中の結晶粒を微細化すると、上記したようなパーティクルの発生を抑制することができる。従って、結晶粒の平均粒径は200μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。ここで、本発明でいう結晶粒の粒径とは、スパッタ面方向の任意の研磨面を倍率100倍で断面観察した際の結晶粒の“(長径+短径)/2”の値を指すものである。この結晶粒の平均粒径は、上記研磨面を30視野以上測定し、上記視野中に存在する結晶粒の平均値である。
【0027】
また、Mo−Wターゲットにポアが存在すると、スパッタの際にポア内に入り込んだArイオンにより叩き出されたスパッタ粒子がポアの縁に堆積して突起物を形成する。この突起物は異常放電を引き起こし、パーティクルを発生させる。Mo−Wターゲットを緻密化すると、上記したパーティクルの発生を抑制することができる。従って、Mo−Wターゲットの相対密度は98%以上とすることが好ましく、より好ましくは99%以上とすることであり、さらに好ましくは100%とすることである。
【0028】
さらに、Mo−Wターゲットの残留加工歪みもパーティクルの発生に影響を及ぼす。ターゲット中に大きな加工歪みが残留していると、残留歪みの影響により局所的にスパッタレートが変動する。このスパッタレートの差により、スパッタ面に段差部が多く発生して、パーティクルの発生量が増加する。加工歪みは熱処理により消失させることができ、加工歪みが減少するに従って低下する硬度により判断できる。従って、Mo−Wターゲットの場合、ビッカース硬度がHv350以下であることが好ましく、Hv300以下であることがより好ましく、さらにはHv250以下であることが好ましい。
【0029】
上述したMo−Wターゲットの具体的な組織は、その製造方法や製造条件等により、MoとWの均一な固溶体相の組織、MoとWの固溶体相中にMoおよび/またはWが単体相で存在する組織、Moおよび/またはWの単体相中にMoとWの固溶体相が存在する組織等、種々の組織を得ることができる。これらのうち、特にMoとWがターゲット中に均一に分布していることが好ましいため、Mo−Wターゲットの組織はMoとWの均一な固溶体相とすることが好ましい。
【0030】
本発明の配線形成用Mo−Wターゲットのより具体的な形態としては、例えば(a)Mo粉とW粉を所定の組成比で含む混合粉を用いた粉末治金法により製造されたターゲット、(b)MoとWが所定の組成比となるように、溶解法により製造されたターゲット、等が挙げられる。
【0031】
上記ターゲット(a)の製造方法の一例について、以下に述べる。まず、Mo粉末とW粉末をボールミル中にて混合し、均一な混合粉末を作製する。この際、ボールの材質にはナイロンやセラミックスを適用することもできるが、ボールミルの内壁や使用するボールの材質をMoあるいはWとすることにより、ターゲット中に混入する不純物量を低減することができる。
【0032】
次に、上記混合粉末をカーボンモールド等に充填して焼結する。焼結には、真空中でのホットプレスが適用できる。また、焼結性を向上させて緻密化させるために、冷間静水圧プレス(CIP)等の等方加圧成形と水素雰囲気等の還元性雰囲気中での焼結との組合せを適用してもよい。さらに、これらの方法により得られた焼結体に、HIP処理や鍛造や圧延等の熱間加工を施して、ターゲット素材をさらに緻密化することは有効である。
【0033】
ホットプレスは、加熱温度1973K以上、面圧20MPa以上の条件下で行うことが好ましく、さらに好ましい条件は加熱温度2073K以上、面圧30MPa以上である。加圧成形後の焼結も同様に、1973K以上、より好ましくは2073K以上の温度で行うことが好ましい。HIP処理の好ましい条件は、加熱温度1773K以上、圧力150MPa以上であり、より好ましくは加熱温度2073K以上、圧力180MPa以上である。これは、あまり加熱温度と面圧が低すぎると、焼結が進行しにくく、高密度の焼結体からなるターゲット素材が得られにくいためである。
【0034】
上述した粉末冶金法により得られたターゲット素材は、研削等の機械加工を施して、所定形状のMo−Wターゲットとする。
【0035】
ターゲット(b)は、例えばMo、Wおよび不可避不純物からなる焼結体を粉末治金法により作製した後、電子線溶解等の溶解法を用いてインゴットを製造する。その後、必要により鍛造あるいは圧延等の熱間加工を施した後、研削等の機械加工を施して、所定形状のMo−Wターゲットとする。
【0036】
本発明の配線形成用Mo−Wターゲットは、前述したように、スパッタリング時におけるパーティクルの発生を防止するために、前述した相対密度や組織等に関する条件を満足させることが好ましい。このため、特に粉末冶金法と熱間加工とを組合せた製造方法を適用することが好ましい。粉末冶金法による焼結体に熱間加工を施すことによって、微細な結晶粒径を維持した上で、ターゲット素材を高密度化することができる。例えば、相対密度が98%以上で、結晶粒の平均粒径が200μm以下のMo−Wターゲットが得られる。溶解法によるターゲット素材は、結晶粒径が粗大化しやすいために、機械的強度の低下や熱間加工時の割れ等が発生するおそれがある。
【0037】
上述した熱間加工を施す焼結体は、その相対密度が90%以上であることが好ましい。焼結体の相対密度が低すぎると、熱間加工を施してもターゲット素材を最終的に緻密化できないおそれがある。熱間加工を施す焼結体は、CIP等による加圧成形体を焼結したものが好ましい。ホットプレスによると、緻密化が可能な高温とした場合に、MoやWがカーボンモールドと反応するおそれがある。
【0038】
このように、本発明の配線形成用Mo−Wターゲットの好ましい製造方法は、所定の組成比(W:20〜95at%)に調整された混合粉末を成形(特にCIP等)する工程と、成形体を水素雰囲気等の還元性雰囲気中で焼結する工程と、焼結体を熱間加工する工程とを有する製造方法であると言える。さらに、熱間加工後のターゲット素材には、残留加工歪みを除去するために、歪取り熱処理を施すことが好ましい。
【0039】
上述したターゲットの製造方法の具体的な条件は、以下に示す通りである。前述したような相対密度、金属組織および硬度を有するMo−Wターゲットを得るためには、水素雰囲気等の還元性雰囲気での焼結時の処理温度、熱間加工時の処理温度や加工率、その後の熱処理温度等が重要な因子となる。
【0040】
まず、水素雰囲気等の還元性雰囲気中での焼結温度は、ターゲット素材の相対密度に影響を及ぼす。そこで、焼結温度は2173K以上とすることが好ましい。焼結温度が2173K未満であると、その後に熱間圧延を行っても相対密度を98%以上とすることが困難となる。焼結時間は、長時間になるに従って相対密度が向上するが、あまり長時間になると生産性が低下するため、5〜30時間程度が適当である。より好ましい処理温度は2272K以上であり、さらに好ましくは2473K以上である。また、さらに好ましい焼結時間は10〜25時間程度である。
【0041】
熱間加工時の処理温度は、加工時の割れを防止して安定に製造するための重要な因子である。特に、純タングステンは1473K以下では急激に脆化する傾向があり、Wの含有量が増加するに伴って処理温度を高温化する必要がある。従って、処理温度は1673K以上とすることが好ましく、さらに好ましくは1873K以上である。また、処理時間は焼結体の均熱性を考慮して2〜8時間程度とすることが好ましい。
【0042】
さらに、熱間加工を熱間圧延で行う場合、ターゲットの相対密度を98%以上とするためには、圧延率を50%以上とすることが好ましい。さらに、圧延率は60%以上であることがより好ましく、さらには70%以上であることが望ましい。ここで、本発明でいう圧延率(%)とは、圧延前の焼結体の厚さと圧延(加工)後の厚さの比であり、((圧延前の焼結体の厚さ−圧延(加工)後の厚さ)/圧延前の焼結体の厚さ)×100で表される。
【0043】
熱間圧延後に行う歪取り熱処理は、1473〜1923Kの範囲の温度で行うことが好ましい。熱処理温度が1473K未満であると、十分に残留歪みを除去できないおそれがあり、一方1923Kを超えると素材にポアが発生してパーティクルの発生原因となるおそれがある。歪取り熱処理温度は、さらに1673〜1823Kの範囲に設定することが好ましい。
【0044】
上述したターゲット(a)およびターゲット(b)は、一体で製造することが薄膜形成時のパーティクルの発生を防止する上で好ましいが、ターゲットの大型化等の目的で、複数の同一組成のターゲットを組合せて使用してもよい。この場合、複数のターゲットはバッキングプレート等へのろう付けにより固定されるが、特にエッジ部からのパーティクルの発生を防止するために、ターゲット同士は拡散接合することが好ましい。拡散接合の方法としては、直接接合する方法、接合部にMoおよび/またはWを介在させて接合する方法、接合部にMoおよび/またはWのメッキ層を介在させて接合する方法等、種々の方法が採用される。
【0045】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0046】
参考例1
平均粒径10μmのMo粉と平均粒径10μmのW粉とを、各種原子%となるように配合した後、内壁がMoにて被覆されたボールミルに投入し、ナイロン製のボールを用いて48時間混合して、複数の均一な混合粉末を得た。得られた各混合粉末をカーボンモールドに充填した後、加熱温度2073K、加熱時間5時間、面圧30MPaの条件下で、真空ホットプレスにより焼結を行い、相対密度97%の焼結体をそれぞれ得た。この後、得られた各焼結体に切削および研削の機械加工を施して、直径250mm、厚さ8mmの各種組成を有するMo−Wターゲットとした。
【0047】
これらのMo−Wターゲットを無酸素銅製バッキングプレートにIn系ろう材によりボンディングした後、スパッタリング装置に取り付けた。このようなスパッタリング装置を用いて、成膜基板であるガラス基板とターゲットとの距離を70mmとし、ガラス基板を加熱した後、DC電源にて入力パワー1kW、Ar圧力0.5Paの条件でスパッタリングを行い、それぞれMo−W合金膜を成膜した。
【0048】
得られた各Mo−W合金膜の抵抗率を測定した。その結果を図1にW含有量との関係として示す。図1より明らかなように、本発明のMo−W配線薄膜(W含有量=20〜95at%)は、抵抗率が40μΩ・cmを大きく下回り、かつMo膜さらにはW膜という本発明の構成材料の単体膜に比較して低抵抗率を有している。
【0049】
次に、上記Mo−Wターゲットを用いて形成した配線薄膜を液晶表示装置に適用した例について述べる。図5は、液晶表示装置に用いられるTFT(スイッチング素子)および蓄積容量部分の一例を示す断面図である。このTFTおよび蓄積容量部分の構成およびプロセスについて説明する。
【0050】
ガラス基板11上に、上述した本発明のMo−Wターゲットを用いて300nmスパッタし、ゲート電極(制御電極)2、アドレス線、Cs線9を同時に形成する。次いで、プラズマCVDにより酸化膜3を350nm形成した後、a-Siの活性層4を300nm、n+a-Si層5a、5bを50nmというように連続成膜して、a-Siの島状部を形成する。次に、ITOを120nmスパッタして画素電極8を形成する。次に、コンタクト部のSiOxを希HFでエッチングしてコンタクトホールを形成する。そして、Al等の所定の配線金属をスパッタし、ウェットエッチングによりソース電極(第1の電極)6a、ドレイン電極(第2の電極)6bおよびデータ配線を同時に形成する。この際、Al等のスパッタ前に表面酸化処理を必要とした。
【0051】
ここで、本発明のMo−Wターゲットを用いて形成された、本発明のMo−W配線薄膜は低抵抗率であるため、これを用いて形成されたアドレス配線は低抵抗を示す。その結果、配線抵抗によるゲートパルスの遅延は生じることがなく、所定のスイッチング素子に遅延のないゲートパルスが得られた。
【0052】
また、本発明のMo−W配線薄膜は、テーパ加工が可能なため、この合金膜を用いて形成したアドレス配線上に成膜する層間絶縁膜のステップカバレッジが良好となり、絶縁耐圧を高く確保することが可能であった。従って、例えば表示領域を大面積化した場合においても、信頼性の高い液晶表示装置を実現することが可能となった。ここで、Mo−Wターゲットの組成比とテーパ角との関係を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
上記テーパ角の測定は、薄膜の断面をSEMにより観察し、ガラス基板との角度を測定したものである。表1から明らかなように、Wの比率が増加するに従ってテーパ角が大きくなっており、本発明の組成範囲内ではテーパ加工が良好であることが分かる。
【0055】
次に、上記各種組成のMo−W合金膜の耐薬品性を測定するために、画素電極材料であるITOのエッチャント、層間絶縁膜のエッチャントであるBHF、およびAlのエッチャントに対してのエッチングレート(nm/min)を測定した。その結果を図2に示す。
【0056】
図2より明らかなように、Mo−W合金膜のエッチングレートは、ITOのエッチャントに対しては8nm/min以下、Alのエッチャントに対しては3〜40nm/min以下であり、層間絶縁膜のエッチャントであるBHFではまったくエッチングされなかった。特に、Wが50at%以上の場合は全くエッチングされないことが分かった。従って、たとえ層間絶縁膜にピンホールが発生したような場合においても、ゲート電極やデータ線等の層間絶縁膜下の配線は上述の各エッチャントにより腐食されることがない。そのため、層間絶縁膜より上の構造設計/プロセス設計の自由度が大きくできるという利点を有している。
【0057】
図3に、上記各種組成のMo−W合金の応力(dyn/cm2)を測定した結果を示す。図3より明らかなように、組成比によって応力が大きく変化するために、組成比を調整することにより応力を小さくすることが可能となる。
【0058】
図4はMo−Wターゲットを用いたスパッタリングによりMo−W合金膜を得た際のスパッタレート(nm/min)の測定結果である。このスパッタレートは次の方法で測定される。まず、ガラス基板の4隅から基板の中央部に向った箇所、および4辺の中央部から各対向する辺に向った箇所の膜厚測定箇所に、スパッタリング後のMo−W合金膜の密着性を低下させる目的で油性インクにより印をつける。そして、スパッタリングを行ってMo−W合金膜を形成した後、油性インクで印をつけた箇所に粘着テープを張り付け、そのテープを剥すことによって、併せて油性インク上のMo−W合金膜を剥離させる。その後、油性インクのみを有機溶剤等により拭き取りガラス基板面を得る。そして、このMo−W合金膜を剥離した部分と他の剥離していない部分との段差を、段差測定器によりエッジ部から中央部に向って同一位置で測定した。得られた膜厚をスパッタレート(nm/min)として比較した。
【0059】
図4から明らかなように、Wの比率が低い傾向においてスパッタレートが良好である。図2に示したような耐エッチャント性を考慮すると、Wの比率を25〜45at%の範囲とすることが望ましいことが明らかである。
【0060】
上述した参考例は本発明のMo−Wターゲットの組成に基づく特性を示すものであり、各層の厚みや成膜方法は適宜変更して実施することが可能である。そのような場合であっても、本参考例と同様の効果が得られる。また、TFTは他の構造のもの、例えばチャネル上に絶縁膜のストッパを設ける構造のTFT等を用いることも可能である。蓄積容量部分は、ゲート電極と同一層の配線およびデータ配線と同一層の配線に形成される構造のものを採用してもよい。
【0061】
参考例2
平均粒径10μmのMo粉と平均粒径10μmのW粉とを、Wの原子%が20〜95%の範囲となるように配合した後、内壁がMoにて被覆されたボールミルに投入し、ナイロン製のボールを用いて30時間混合して、均一な混合粉末を得た。得られた混合粉末を成形用型に充填して、圧力200MPaの条件でwet-CIP処理成形した。得られた成形体を、水素雰囲気中にて2073K×10時間の条件で焼結し、相対密度90%の焼結体を得た。この後、得られた焼結体に切削および研削の機械加工を施して、直径250mm、厚さ8mmの各種組成を有するMo−Wターゲットとした。このMo−Wターゲットを無酸素銅製パッキングプレートにIn系ろう材によりボンディングして、スパッタリング装置に取り付けた。
【0062】
図6は、参考例1とは別の液晶表示装置に用いられるTFTおよび蓄積容量部分の断面図である。このTFTおよび蓄積容量部分の構成およびプロセスについて説明する。ガラス基板11上に、Mo−Ta等の所定の配線金属を用いて300nmスパッタし、ゲート電極12、アドレス線、Cs線19を同時に形成する。次いで、プラズマCVDにより酸化膜または窒化膜13を350nm形成した後、a-Si層14を300nm、n+a-Si層15a、15bを50nmというように連続成膜して、a-Siの島状部を形成する。次に、コンタクトホールを希HFでエッチングして形成した後、表面酸化膜を除去する。
【0063】
そして、上述したMo−Wターゲットを用いてスパッタした後、ウェットエッチングによりソース電極16a、ドレイン電極16bおよびデータ配線を同時に形成する。次いで、酸化膜17を300nm成膜した後、HF系溶液によるエッチング(例えばエッチングレート約10nm/min)、またはCF4等のガスを用いたドライエッチング(例えばエッチングレート約3〜10nm/min)によりドレイン電極16b上にコンタクトホールを形成し、ITOを120nmスパッタして画素電極18を形成する。
【0064】
上述したMo−Wターゲットを用いて形成したMo−W配線薄膜は、参考例1でも述べたように、耐薬品性に優れている。このような耐薬品性に優れるMo−W配線薄膜からなるデータ配線は、Mo膜やW膜のエッチングに用いるエッチャントよりも、高い酸化還元電位の酸化剤を含んだアルカリエッチャント(pH7〜13)を用いることによって、レジストを劣化させることなく、テーパ加工を施すことが可能であった。
【0065】
従って、このようにして形成した画素アレイでは、データ配線がテーパ加工されるため、その上に形成した層間絶縁膜のストップカバレッジが良好となり、絶縁耐圧を高く確保することができた。さらに、ドレイン電極16bが耐薬品性に優れているため、ドレイン電極16b上にHFでコンタクトホールを形成することが可能となり、さらには画素電極を塩素と硝酸の混合液で加工することも可能であった。さらに、本発明のMo−W配線薄膜を用いて配線を形成すると、Alと異なりヒロックが発生しないこと、ITOとの反応が生じないためにバリヤメタルが不要であることが判明した。
【0066】
なお、参考例1でも示したように、本発明のMo−W配線薄膜は、基本的に低抵抗であるという利点を有し、さらにMo−W合金の組成比により応力が大きく変化するため、応力を小さくすることも可能である。
【0067】
上述した参考例は本発明のMo−Wターゲットの組成に基づく特性を示すものであり、各層の厚みや成膜方法は適宜変更して実施することが可能である。そのような場合であっても、本参考例と同様の効果が得られる。また、TFTは他の構造のもの、例えばチャネル上に絶縁膜のストッパを設ける構造のTFT等を用いることも可能である。蓄積容量部分は、ゲート電極と同一層の配線およびデータ配線と同一層の配線に形成される構造のものを採用してもよい。
【0068】
実施例1
平均粒径10μmのMo粉と平均粒径10μmのW粉とを、Wの原子%が20〜95%の範囲となるように配合した後、内壁がMoにて被覆されたボールミルに投入し、ナイロン製のボールを用いて24時間混合して、均一な混合粉末を得た。得られた混合粉末を成形用型に充填し、圧力200MPa条件でwet-CIP処理成形した。得られた成形体を、水素雰囲気中、2073K、8時間の条件で焼結して、相対密度90%の焼結体を得た。
【0069】
さらに、この焼結体に2073K、4時間、180MPaの条件でHIP処理を行い、相対密度98%の焼結体を得た。この後、得られた焼結体に切削および研削の機械加工を施して、縦180mm、横180mm、厚さ6mmのターゲット片とした。このようにして得たターゲット片を縦方向に3片、横方向に2片組合せて、Mo−Wターゲットとした。このMo−Wターゲットを無酸素銅製バッキングプレートにIn系ろう材によりボンディングして、スパッタリング装置に取り付けた。
【0070】
図7は、参考例1、2とは別の液晶表示装置に用いられるTFTおよび蓄積容量部分の断面図である。この実施例の液晶表示装置においては、参考例1と同様に、ガラス基板21上に上述した本発明のMo−Wターゲットを用いて300nmスパッタし、ゲート電極22、アドレス線、Cs線29aを同時に形成する。次いで、参考例2と同様に、本発明のMo−Wターゲットを用いてスパッタした後、ウェットエッチングによりソース電極26a、ドレイン電極26bおよびデータ配線を同時に形成する。
【0071】
この実施例1の液晶表示装置は、参考例2で適用したチャネル部をエッチングするバックチャネルカットタイプのTFTの代わりに、チャネル上に絶縁膜のストッパを設ける構造のTFTを用いたものである。また、蓄積容量部分はゲート電極と同一層およびデータ配線と同一層の配線により形成されている。
【0072】
すなわち、ガラス基板21上に本発明のMo−Wターゲットを用いてスパッタし、ゲート電極22、アドレス線、Cs線29aを同時に形成する。次いで、層間絶縁膜23、a-Si層24、チャネル保護層30、n+a-Si層25a、25bを連続成膜する。そして、Mo−Wターゲットを用いてスパッタし、ソース電極26a、ドレイン電極26b、データ配線およびCs線29bを同時に形成する。そして、酸化膜27を成膜した後、ドレイン電極26b上にコンタクトホールを形成して、画素電極28を形成する。
【0073】
上述した実施例1によれば、参考例1における効果および参考例2における効果の双方を得ることができた。
【0074】
ここで、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、半導体はa-Siに限らず、p-Si、CdSe等を用いて形成してもよい。また、データ配線上の絶縁膜は酸化膜に限らず窒化膜でもよい。さらに、本発明の配線薄膜においては、上記実施例のように1層構造のものを採用する代わりに、組成の異なるMo−W合金による2層以上の積層膜として形成してもよい。本発明の配線薄膜の上層に、Ta、TaN等を積層して耐酸化性を向上させてもよい。さらに本発明の配線薄膜の下層に、Al、Cu等を積層して抵抗を下げてもよい。
【0075】
実施例2
平均粒径4.5μmのMo粉と平均粒径3.6μmのW粉とを所定の割合で調合した混合粉末を、成形用のラバー型に充填した後、圧力200MPaの圧力をCIPにより加えて成形体を作製した。次に、得られた成形体を水素雰囲気中にて種々の条件下で焼結した。焼結条件は表2および表3に示す通りである。さらに、これら焼結体を水素雰囲気中で加熱して、クロスの熱間圧延を行った。圧延条件は表2および表3に示す通りである。これら圧延素材を表2および表3に示す条件下で熱処理し、その後機械加工を施すことによって、それぞれ直径250mm、厚さ8mmのMo−Wターゲットとした。このようにして、表2および表3に示すNo1〜No36の各Mo−Wターゲットを得た。
【0076】
なお、表3中の比較例(No37〜No44)は、水素焼結条件、圧延条件、熱処理条件のいずれかを本発明で好ましいとする範囲外とする以外は、上記実施例2と同様にして作製したMo−Wターゲットである。
【0077】
上述した実施例2および比較例による各Mo−Wターゲットの相対密度、結晶粒の平均粒径およびビッカース硬度を測定した。その結果を表4および表5に示す。さらに、各Mo−WターゲットをDCマグネトロン・スパッタ装置に装着し、 6インチのSiウェーハの面上にMo−W合金膜(厚さ=30nm)をスパッタ成膜した。得られたMo−W合金膜に存在する0.3μm以上のパーティクルの数を調べた。このパーティクル数の測定結果は、上記6インチSiウェーハのエッジ部から5mmを除去した後のMo−W合金膜中のパーティクル数の測定結果である。その結果を併せて表4および表5に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
表4および表5から明らかなように、実施例2による各Mo−Wターゲットは、いずれも相対密度が98%以上であり、ビッカース硬度はHv350以下であった。そして、このようなMo−Wターゲットを用いて成膜することにより、パーティクルの発生数を大幅に低減することが可能であることが判明した。
【0083】
また、実施例2における試料No10のMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す光学顕微鏡写真(倍率100倍)を図8に、試料No13のMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す光学顕微鏡写真(倍率100倍)を図9に、また試料No27のMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す光学顕微鏡写真(倍率100倍)を図10に示す。また、比較例における試料No43のMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す光学顕微鏡写真(倍率100倍)を図11に示す。
【0084】
図8は歪取りがなされている金属組織を示している。これに対して、図11は歪取り熱処理の温度が低いために、十分な歪取りがなされていない状態を示している。図9および図10は歪取りがなされており、かつ再結晶している状態を示している。図9や図10のように、再結晶させることにより歪が完全に除去されるため、特に本発明のMo−Wターゲットとして好適である。図8は歪が除去されている状態を示しているが、図9や図10ほど完全ではなく、若干の歪が残っているために、使用時に反りが生じてバッキングプレートから剥れるおそれがある。よって、再結晶させることが好ましい。ただし、図10に見られるように、歪取り熱処理の温度が高すぎると結晶中に若干ポアが発生するため、ポアが発生しない程度の温度を設定することが好ましい。
【0085】
さらに、上記実施例2によるMo−Wターゲットを用いて、前述した参考例1、参考例2および実施例1で示した液晶表示装置を作製したところ、それぞれ同様な良好な結果が得られた。さらに、実施例2によるMo−Wターゲットを用いて成膜したMo−W配線薄膜は、パーティクル数が大幅に少ないため、アドレス配線やデータ配線の電気特性をより一層向上させることが可能であった。
【0086】
なお、本発明は上述した各実施例の構成や製造方法等に限定されるものではなく、本発明の配線薄膜を形成するためにMo−Wターゲットを使用するもの、あるいは本発明のMo−W配線薄膜を用いているもの全てに適用される。例えば、液晶表示装置の配線等に限らず、プラズマ表示装置、固体表示装置、電解放出型冷陰極を用いた平面型表示装置等の配線に対しても、本発明は有効である。
【0087】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の配線形成用Mo−Wターゲットは、低抵抗でかつテーパ加工が可能であると共に、耐エッチャント性に優れるにMo−W合金からなるため、液晶表示装置等のアドレス配線やデータ配線の形成材料として非常に有効である。本発明のMo−W配線薄膜は、上記したようなMo−W合金を利用しているため、液晶表示装置等の動作特性や信頼性の向上に大きく寄与する。また、本発明の配線形成用Mo−Wターゲットは、このようなMo−W配線薄膜を良好にかつ再現性よく形成することを可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Mo−W合金の抵抗率とW含有率との関係を示す図である。
【図2】 Mo−W合金の各エッチャントに対するエッチングレートとW含有率との関係を示す図である。
【図3】 Mo−W合金の応力とW含有率との関係を示す図である。
【図4】 Mo−Wターゲットを用いたスパッタリングによりMo−W合金膜を得た際のW含有率とスパッタレートとの関係を示す図である。
【図5】 液晶表示装置に用いられるTFTおよび蓄積容量部分の断面図である。
【図6】 他の液晶表示装置に用いられるTFTおよび蓄積容量部分の断面図である。
【図7】 さらに他の液晶表示装置に用いられるTFTおよび蓄積容量部分の断面図である。
【図8】 本発明の一実施例で形成したMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す顕微鏡写真である。
【図9】 本発明の他の実施例で形成したMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す顕微鏡写真である。
【図10】 本発明のさらに他の実施例で形成したMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す顕微鏡写真である。
【図11】 参考例として形成したMo−Wターゲットの金属組織を拡大して示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1,11,21……ガラス基板、2,12,22……ゲート電極、3……酸化膜、4,14,24……a-Si層、6a,16a,26a……ソース電極、6b,16b,26b……ドレイン電極、8,18,28……画素電極、9,19,29a……Cs線、13……酸化膜または窒化膜、23……層間絶縁膜
Claims (8)
- 原子パーセントでタングステン20〜95%、残部モリブデンおよび不可避的不純物よりなるMo−W合金材からなり、前記Mo−W合金材は相対密度が98%以上、結晶粒の平均粒径が200μm以下であると共に、MoとWとの固溶体相からなる金属組織を有することを特徴する配線形成用Mo−Wターゲット。
- 請求項1記載の配線形成用Mo−Wターゲットにおいて、
前記タングステンの組成比は、原子パーセントで20〜70%の範囲であることを特徴する配線形成用Mo−Wターゲット。 - 請求項1記載の配線形成用Mo−Wターゲットにおいて、
前記結晶粒の平均粒径は100μm以下であることを特徴する配線形成用Mo−Wターゲット。 - 請求項1記載の配線形成用Mo−Wターゲットにおいて、
前記Mo−Wターゲット中の酸素量は500ppm以下であることを特徴する配線形成用Mo−Wターゲット。 - 請求項1記載の配線形成用Mo−Wターゲットを用いて形成してなることを特徴とするMo−W配線薄膜。
- 請求項5記載のMo−W配線薄膜において、
前記タングステンの組成比は、原子パーセントで20〜70%の範囲であることを特徴とするMo−W配線薄膜。 - 請求項5記載のMo−W配線薄膜を配線の少なくとも一部に用いてなることを特徴とする液晶表示装置。
- 請求項7記載の液晶表示装置において、
前記Mo−W配線薄膜はゲート電極、アドレス線およびCs線の少なくとも一種として用いられていることを特徴とする液晶表示装置。
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