JP3909543B2 - 軸圧壊特性に優れるアルミニウム合金押出材 - Google Patents

軸圧壊特性に優れるアルミニウム合金押出材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のサイドメンバー等の、軸方向に圧縮荷重を受けたとき蛇腹変形しながら衝突エネルギーを吸収する作用を持つ構造材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の軽量化のためフレーム材としてアルミニウム合金を用いる場合には、耐食性、押出性に優れ、比較的高強度であるAl−Mg−Si系合金が主として採用されている。例えば特開平7−118782号公報には、自動車のサイドメンバー等のエネルギー吸収部材としてAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材が用いられることが記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材は、これに通常のT5、T6処理を行って強度を上げた場合、軸方向に圧縮変形させたときに圧壊割れが発生するという問題をはらんでいる。例えば自動車のサイドメンバーに圧壊割れが発生すると、蛇腹状の収縮変形が妨げられて安定したエネルギー吸収が得られなくなる。一方で、時効処理を行わないか不十分であると、サイドメンバー等として使用中に高温にさらされ、自然時効が進行し圧壊割れ性が劣化する可能性があるため、時効処理を行うことは熱処理型のAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材をエネルギー吸収部材として用いる場合の必須の要件である。
そこで、本発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材に対し時効処理により高強度を付与すると同時に、耐圧壊割れ性及び優れたエネルギー吸収性を与えることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材を時効処理して高強度とすると、軸方向に圧縮変形させたとき圧壊割れが発生しやすくなる。これには合金の組織、化学成分など様々な因子が影響していると考えられるが、本発明者らは、時効処理後の導電率と圧壊割れ性には一定の関係があること、さらに導電率を、180℃×6hrで時効処理したときの導電率よりも高くすることで圧壊割れ性を改善できることを見いだした。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、時効処理したAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材において、その導電率が、同材を180℃×6hrで時効処理して得られる導電率に比べ1%IACS以上高いことを特徴とするエネルギー吸収性に優れるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材である。本発明において「同材」とは、同組成で、かつ焼き入れ処理(プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ)までの製造条件が同じAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材を意味する。
【0005】
【発明の実施の形態】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材は、一般にオンラインによるプレスクエンチ又はオフラインによる溶体化・焼き入れ処理にて製造される。プレスクエンチには空冷と水冷の2通りの方法があり、水冷の場合はオフラインによる溶体化・焼き入れ処理とほぼ同等の特性が得られる。水冷又はオフラインによる溶体化・焼入れ処理を行った方が空冷に比べ圧壊割れ性には優れるが、生産性の面から空冷が優れる。しかし、いずれの場合も、時効処理の条件を変えて、時効処理後の導電率を、180℃×6hrで時効処理したときの導電率に比べ1%IACS高くすることで圧壊割れ性が改善される。強度の面からいえば、この導電率を180℃×6hrで時効処理したときの導電率に比べ3.5%IACS高い水準以下にとどめるのが望ましい。
【0006】
圧壊割れ性の観点から、水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理する場合と、空冷プレスクエンチ処理する場合では、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の望ましい組成が異なっている。
前者の場合、Mg:0.45〜1.6%(wt%、以下同じ)、Si:0.2〜1.6%、Cu:0.15〜1.0%、Ti:0.005〜0.2%を含有し、さらにCr:0.05〜0.5%、Mn:0.05〜0.8%、Zr:0.05〜0.3%のうち1種以上を含有し、Fe:0.35%以下、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金が望ましく、そのなかでもMg:0.45〜0.8%、Si:0.7〜1.2%、Cu:0.2〜0.7%、Ti:0.01〜0.05%、Mn:0.1〜0.6%、Zr:0.05〜0.2%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金がより望ましい。これらの組成の範囲内であれば、時効処理後の導電率の目標値は47%IACS以上とすればよい。
【0007】
また、後者の場合、Mg:0.45〜0.9%、Si:0.2〜0.6%を含有し、Cu、Ti、Mnのいずれも0.10%以下、Fe:0.35%以下、その他の不可避不純物が個々で0.05%以下、合計で0.15%以下に制限され、残部Alからなるアルミニウム合金が望ましい。この組成の範囲内であれば、時効処理後の導電率の目標値は56%IACS以上とすればよい。
なお、この組成は水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理することでさらに圧壊割れ性及びエネルギー吸収性が向上する。その場合、時効処理後の導電率の目標値は54%IACS以上とすればよい。
【0008】
上記望ましいアルミニウム合金組成の限定理由は次の通りである。
Mg、Si
MgはSiと結合しMgSiを形成することによって、合金強度を向上させる。この効果を発揮するには、Mgの添加量は0.45重量%以上が必要である。一方、Mgはその添加量が増加することにより焼き入れ感受性が鋭くなり所定の強度が得られなくなる。その上限値は冷却速度によって異なり、空冷プレスクエンチの場合は0.9%、水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理の場合で1.6%である。
Siは上述したようにMgSiを形成して合金強度を向上させる効果がある。この効果を発揮するには、Siの添加量が0.2重量%以上必要である。一方、添加量が増加することにより圧壊割れ性が低下する。その上限値は冷却速度によって異なり、空冷プレスクエンチの場合は0.6wt%、水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理の場合で1.6%である。
【0009】
Cu
Cuは析出効果により合金強度を向上させるとともに延性を向上させる。しかし、Cuの添加は焼入れ感受性を鋭くするため、空冷プレスクエンチの場合は添加は好ましくなく、添加される場合でも0.1%以下に制限される。一方、水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理の場合には添加できるが、0.15%未満では前記効果を発揮できず、1.0%を越えるとやはり焼入れ感受性が鋭くなり強度の低下を招く。
【0010】
Mn、Cr、Zr
Mn、Cr、Zrはビレットの均質化処理時において微細な金属間化合物として析出し、結晶粒を微細化させることにより強度、延性を向上させる。しかし、これらの元素は添加するとともに焼入れ感受性を鋭くするため、空冷プレスクエンチの場合は添加は好ましくなく、添加される場合でも0.1%以下に制限される。一方、水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理の場合には添加できるが、それぞれの添加量が0.05%未満では前記効果を発揮できず、それぞれの添加量が0.8%、0.5%、0.3%を越えると粗大な金属間化合物が晶出し、また焼入れ感受性が鋭くなり所定の合金強度が得られない。
【0011】
Ti
Tiは鋳造時における結晶粒を微細化することにより合金強度を向上させる。この効果を発揮させるにはTi添加量は0.005%以上とする必要がある。一方、Ti添加量が0.2%を越えると前記効果が飽和し、また粗大な金属間化合物が晶出し所定の合金強度が得られない。
不可避不純物
Feはアルミ地金に最も多く存在する不純物であるが、0.35%以上合金中に存在すると鋳造時に粗大な金属間化合物が晶出し合金の機械的性質を損なう。そのほか、アルミニウム合金を鋳造する際には地金、添加元素の中間合金等、様々な経路より不純物が混入する。また混入する元素も様々であるが、一般にFe以外の不純物はそのもの単体で0.05%以下、総量で0.15%以下であれば合金の特性にほとんど影響を及ぼさない。
【0012】
【実施例】
表1、表2に示す組成のアルミニウム合金をDC鋳造にて直径200mmの鋳塊に造塊し、540℃×4hrの均質化処理後いったん冷却し、押出時に再度500℃に加熱し、押出速度5m/minにて押し出し、プレスクエンチ(スプレー水冷(冷却速度:12000℃/min)、ファン空冷(冷却速度:190℃/min)を行った。押出材の形状は図1に示すような口型で、外形70×60mm、肉厚2mmである。その後、表1、表2に示す時効処理を行い供試材とし、下記要領にて、各特性の試験を行った。その結果を表1、表2にあわせて示す。
【0013】
導電率;シグマテスターにてMIL−STD−1537に従って測定した。
機械的性質;押出材から押出方向に平行にJIS5号試験片を採取し、引張試験を行って測定した。
圧壊割れ性;長さ200mmの供試材を用い、アムスラー型試験機にて図2に示すように軸方向に静的圧縮荷重を加えて100mm圧縮し、その割れ発生レベルを5段階で評価した。ただし、5段階の内容は次の通りである。
レベル1;割れなし
レベル2;微小クラック又はコーナー部にクラック発生
レベル3;コーナー部以外にクラック発生
レベル4;開口割れ発生
レベル5;分断割れ発生
【0014】
【表1】
Figure 0003909543
【0015】
【表2】
Figure 0003909543
【0016】
表1、表2に示すように、いずれも180℃×6hrの時効処理で最高強度が得られている。このときの導電率に比べて1%IACS以上高くなっているNo.3〜5、8〜10、13〜15、18〜20の供試材は、それぞれ180℃×6hrで時効処理したNo.2、7、12、17の供試材より圧壊割れ評価が向上している。なお、圧壊割れランク1〜3の範囲では、蛇腹状に圧縮変形する際の吸収エネルギーは引張強度σBの大きさにほぼ比例する。
また、水冷プレスクエンチに適する組成の押出材を水冷プレスクエンチしたNo.3〜5の供試材は47%IACS以上、空冷プレスクエンチに適する組成の押出材を空冷プレスクエンチしたNo.13〜15の供試材は56%IACS以上、同じ組成の供試材を水冷プレスクエンチしたNo.18〜20の供試材は54%IACS以上の導電率を示した。なお、空冷プレスクエンチに適する組成外の押出材を空冷プレスクエンチしたNo.8〜10の供試材でも、180℃×6hrで時効処理したときの導電率に比べて1%IACS以上高く圧壊割れ性は向上しているが、No.13〜15に比べると改善の程度が低い。
【0017】
【発明の効果】
本発明によれば、時効処理により180℃×6hrで時効処理したときの導電率に比べて1%IACS以上高い導電率を与えることにより、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材の耐圧壊割れ性を改善することができる。また、その範囲内で高い強度が得られる時効処理条件を選択することにより、高強度で優れたエネルギー吸収性を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例に用いた押出材の断面形状である。
【図2】 実施例の圧壊試験の概念図である。

Claims (3)

  1. Mg:0.45〜1.6%、Si:0.2〜1.6%、Cu:0.15〜1.0%、Ti:0.005〜0.2%を含有し、さらにCr:0.05〜0.5%、Mn:0.05〜0.8%、Zr:0.05〜0.3%のうち1種以上を含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、水冷プレスクエンチ又は溶体化・焼き入れ処理後時効処理したAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材において、その導電率が、同材を180℃×6hrの条件で時効処理したときの導電率に比べ1%IACS以上高いことを特徴とする軸圧壊特性に優れるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材。
  2. Mg:0.45〜0.9%、Si:0.2〜0.6%を含有し、Cu、Ti、Mnのいずれも0.10%以下、残部Al及び不可避不純物からなり、空冷又は水冷プレスクエンチ若しくは溶体化・焼入れ処理後時効処理したAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材において、その導電率が、同材を180℃×6hrの条件で時効処理したときの導電率に比べ1%IACS以上高いことを特徴とする軸圧壊特性に優れるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材。
  3. 請求項1又は2に記載されたアルミニウム合金押出材からなる自動車用フレーム材。
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