JP3909037B2 - 低熱膨張高熱伝導部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Siチップやセラミックス基板等と同等の熱膨張係数とともに、高い放熱性が要求されるヒートシンクや、SiチップをCu、Al等の放熱板に積載するにあたり、両者の間に挿入され、Siチップの発熱を外部の放熱板に伝達するとともに、その製造において、Cu、Al等の放熱板に圧入されても変形せず、Siチップに応力を伝達しないことが要求される電子部品用銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒートシンク等の低い熱膨張係数と、高い放熱性が要求される部材には、銅−モリブデン系、銅−タングステン系の材料が用いられている。これらの材料は銅の高い熱伝導率と、モリブデンやタングステンの低い熱膨張率を兼ね備えさせることを目的としたもので、例えば特開昭62−284032号公報では、銅粉末とモリブデン粉末との混合粉末を圧粉成形した後、銅の液相が発生する温度で液相焼結して、銅マトリックスにモリブデン相が分散する組織の材料とすることが開示されている。また、特開昭59−21032号公報には、モリブデンまたはタングステンの粉末を高温で焼結してスケルトンを構成した後、銅溶浸を施して、モリブデンまたはタングステンのスケルトン中に銅が分散した材料が開示されている。
【0003】
【特許文献1】
特開昭62−284032号公報
【特許文献2】
特開昭59−21032号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような材料は、原料とするモリブデン粉末やタングステン粉末が高価であるため、材料費自体が嵩むことが大きな問題である。また、前者の特許文献1に記載の場合には、液相焼結するため、変形しやすく、寸法バラツキが大きいため、焼結後に、加工が必要であるが、モリブデンは硬く、加工性が低いという欠点を有しており、このような相が分散する材料も加工性は低いという問題を有している。また、後者の特許文献2に記載の場合は、スケルトンの全ての隙間に銅を溶浸することが難しいため、熱伝導性が劣るとともに品質にバラツキが生じやすく、また予め高温焼結した後、銅を溶浸するため工程費が嵩む。さらに、加工性の問題については特許文献1の場合と同様である。さらに両者に共通であるが、ヒートシンクはハンダ付けのためニッケルメッキが施される場合があるが、機械加工後、モリブデンやタングステンが露出するためニッケルメッキを施し難いという欠点も有する。
【0005】
本発明は、モリブデンやタングステンのような高価な材料を使用せずに、寸法精度がよく、加工性に優れ、さらに、ニッケルメッキが可能な高熱伝導部材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の製造方法によって得られる銅基低熱膨張高熱伝導部材は、析出硬化型銅合金のマトリックス中に、100℃までの熱膨張係数が6×10−6/K以下の鉄基合金粉末が、質量比で、5〜60%分散することを特徴とする。
【0007】
また、もう一つの本発明の製造方法によって得られる銅基低熱膨張高熱伝導部材は、前記析出硬化型銅合金のマトリックスを、析出硬化型銅合金相と純銅相からなるマトリックスに置き換えるとともに、置き換えたマトリックス中の純銅相の割合が、質量比で、75%以下としたことを特徴とする。このとき、純銅相がネットワーク状に分布すると好適である。
【0008】
本発明の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法は、析出硬化型銅合金粉末、好ましくは析出硬化型銅合金の急冷凝固粉末からなるマトリックス粉末に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末を、質量比で、5〜60%を添加し、混合した混合粉末を、相対密度で93%以上に圧縮成形した成形体を、400〜600℃で焼結することを特徴とする。
【0009】
また、もう一つの本発明の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法は、マトリックス粉末として、析出硬化型銅合金粉末に、質量比で、純銅粉末を、75%以下の割合で配合したマトリックス粉末を用いることを特徴とする。
【0010】
上記の製造方法において、析出硬化型銅合金粉末が、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が70%以下の粉末であり、鉄基合金粉末が、−100メッシュで、かつ、50μm以上の粉末が40%以上の粉末であることが好ましく、さらに、純銅粉末を用いる場合には、純銅粉末が−100メッシュで、かつ、50μm以上の粉末が40%以下のものを用いることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法によって得られる銅基低熱膨張高熱伝導部材は、マトリックスとして析出硬化型銅合金を用いる。析出硬化型銅合金は、過飽和の合金成分が基地組織中に均一かつ微細に析出分散した組織を示し、硬さと強度に優れた合金である。このような析出硬化型銅合金をマトリックスとして用いたことにより、マトリックスの硬さと強度が向上し、圧入時の変形がほとんどない銅基低熱膨張高熱伝導部材が得られる。
【0012】
析出硬化型銅合金としては、従来リードフレーム等で用いられているものが適用可能であり、Cu−Zr系、Cu−Fe−P系、Cu−Ni−Fe−P系、Cu−Cr系、Cu−Cr−Sn系等の合金が挙げられる。
【0013】
析出硬化型銅合金の一般的な製法は、鋳造後、溶体化処理により合金成分を過飽和に基地中に固溶した後、時効処理により、基地中に過飽和に固溶した合金成分を析出させるものである。本発明の製造方法においては、析出硬化型銅合金粉末はアトマイズ時に既に溶体化が行われているに等しい状態であるので、この処理を省略できる。
【0014】
また、溶体化の後、時効処理前に、歪みを与える処理を施すと、歪みが時効析出の駆動源となるため好ましいが、本発明の製造方法においては、圧粉成形時に粉末に歪みが蓄積するためこれを有効に活用できるという利点がある。このとき急冷凝固粉末を用いると、過飽和に固溶された成分が予め粉末に歪みを与えているので、より一層の歪みが蓄積され効果的である。
【0015】
さらに、本発明において、後述する理由により焼結は400〜600℃で行うが、この温度は時効処理にきわめて有効な温度範囲であるため、焼結時にマトリックス中に析出物が時効析出することとなり、焼結による粉末の拡散結合と時効処理が同時に行えるため、別途、時効処理を行う必要がない。
【0016】
したがって、本発明の製造方法における、析出硬化型銅合金の急冷凝固粉末の適用は、特に工程を増やすことなく、効果的に析出物の時効析出が行え、マトリックスの強化が容易にできる点から、極めて効果的である。
【0017】
本願発明において用いる、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金としては、インバー(Fe−36Ni)、スーパーインバー(Fe−31Ni−5Co)、ステンレスインバー(Fe−52.3Co−10.4Cr)、コバール(Fe−29Ni−17Co)、42アロイ(Fe−42Ni)等の合金や、Fe−17B合金等がある。これらの合金は上記のモリブデンやタングステンに比べて安価であり、加工性にも優れたものである。
【0018】
上記の100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末は、上記の析出硬化型銅合金マトリックス中に分散するとともに、表面が僅かにマトリックスと反応しており、マトリックスと鉄基合金粉末の結合が強固であるため、マトリックスの熱膨張を鉄基合金粉末が強固に抑えて部材全体の熱膨張が抑制される。
【0019】
このような析出硬化型銅合金マトリックスと鉄基合金粉末の拡散状態を得るために、本発明の製造方法においては、析出硬化型銅合金粉末と、鉄基合金粉末とを混合した混合粉末を、圧縮成形した後、400〜600℃の温度範囲で焼結を行う。
すなわち、焼結温度が400℃より低いと析出硬化型銅合金マトリックス自体が十分に拡散形成されず、熱伝導性および強度が劣ることになり、600℃を越えると鉄基合金粉末が析出硬化型銅合金マトリックスと必要以上に反応するために、熱膨張の抑制機能が低下するとともに、マトリックスの熱伝導性をも阻害することとなる。特に、鉄基合金粉末として、ニッケルを含む鉄基合金を用いる場合、銅とニッケルは全率固溶であるので、ニッケルのマトリックスへの拡散が著しく生じ、これらの不具合の度合いが大きい。
【0020】
また、上記の温度範囲では銅の液相が発生しないため、寸法精度も優れたものとなる。
【0021】
上記の鉄基合金粉末は、マトリックス中の分散量が多くなるにしたがい、熱膨張抑制の効果が大きくなるが、マトリックスの量の減少にしたがい、熱伝導性は低下することとなる。鉄基合金粉末が、質量比で、5%未満であると、熱膨張抑制の効果が乏しく、60%を越えるとマトリックスの量が少なくなるため熱伝導性の低下が著しくなるため5〜60%の範囲が好適である。
【0022】
上記のように、本発明の製造方法においては、鉄基合金粉末のマトリックスへの拡散を抑制するため、400〜600℃の温度で焼結するが、この温度では銅の液相が発生せず、焼結による緻密化の効果は小さいため、マトリックスの熱伝導率を高くするためには、予め混合粉末を相対密度で93%以上に圧縮成形しておく必要がある。
【0023】
上記のようなマトリックスを構成する析出硬化型銅合金粉末は、微粉末を用いることによって、ネック形成部を増加させ焼結による拡散を進行させることができる。さらに、析出硬化型銅合金粉末の粒度構成を鉄基合金粉末の粒度構成より細かくすることにより、マトリックスの連続性が高まり、熱伝導性を向上させることができる。
このことを前提とした上で、鉄基合金粉末まで微粉にすると、粉末の流動性の低下や型かじり等の問題が発生するだけでなく、上述のような僅かの拡散相であっても、ネック形成部が増加することによりマトリックスとの拡散量が増加し、マトリックスの熱伝導性の低下や、鉄基合金粉末の組成が変化することによる鉄基合金粉末の熱膨張率の増大の現象が生じるようになる。逆に、全体の粉末の粒径が大きくなりすぎると、マトリックス中に均一に分散できなくなるため、局部的に熱膨張抑制の効果が薄まる箇所が生じ、効果的に熱膨張を抑制できなくなる。
【0024】
これらのことから鉄基合金粉末として、−100メッシュ(100メッシュ篩通過)のものが好ましく、かつ、粒径50μm以上の粉末が40%以上である粉末を用いることが一層好ましい。粒度構成として、50μm以上の粉末の含有量が40%に満たないような鉄基合金粉末は、微粉の量が多く、熱伝導性が低くなる。
また、析出硬化型銅合金粉末としては、上記鉄基合金粉末よりも粒度が小さくなるよう、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が70%以下の粉末を用いることが好ましい。このように鉄基合金粉末と析出硬化型銅合金粉末の粒度を調整することによって、より一層の効率的な熱伝導と熱膨張抑制の作用が得られる。
【0025】
以上の銅基低熱膨張高熱伝導部材は、析出硬化型銅合金のマトリックス中に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末が分散し、強度の高いもので、圧入時に変形せず、好適なものである。しかし、より一層の熱伝導性の向上を望む場合には、マトリックスを析出硬化型銅合金相と純銅相から構成するとともに、前記マトリックス中の純銅相の割合が、質量比で、75%以下の割合で分散するマトリックスとすることで、強度の低下を招くことなく熱伝導性を向上させることができる。このとき、純銅相をマトリックス中にネットワーク状に分散させると好適である。
【0026】
マトリックス中の純銅相の割合が、増加するにつれ熱伝導率は向上するが、50%を越えると、添加の割には熱伝導率向上の効果は低くなる。
一方、マトリックス中の純銅相の割合が50%程度まではほぼ一定の硬さを示すが、50%を越えると硬さの低下傾向が生じ、75%を越えると急激に硬さが低下することとなる。したがって、マトリックス中の純銅相の割合は、質量比で、75%以下にする必要がある。好ましくは、熱伝導率向上の効果が顕著な25〜75%である。
【0027】
このような銅基低熱膨張高熱伝導部材は、マトリックス粉末として、析出硬化型銅合金粉末に、質量比で、純銅粉末を75%以下(好ましくは25〜75%)の割合で配合したマトリックス粉末を用いることにより容易に得ることができる。
【0028】
また、析出硬化型銅合金粉末と鉄基合金粉末の粒度構成は、前述のとおりであるが、同時に用いる純銅粉末として、析出硬化型銅合金粉末よりも微細な純銅粉末を用いることが好ましい。これにより、析出硬化型銅合金粉末および/または鉄基合金粉末の間において、純銅粉末の存在確率が高まり、これを成形−焼結することにより、ネットワーク状に分散する純銅相が得られ、熱伝導性の点で好ましい。
【0029】
このことから、純銅粉末として、−100メッシュで、かつ、粒径50μm以上の粉末を40%以下含有している粉末を用いる。50μm以上の粉末が40%を越えると、粒度構成が粗粉側に移行し、ネットワーク状の純銅相が得難くなる。
【0030】
【実施例】
<実施例1>
表1に示す100℃までの熱膨張係数を有し、粒度構成として、50μm以上の粉末を40%含有するように調整した−100メッシュの各種鉄基合金粉末を用意した。
【0031】
【表1】
【0032】
これらの鉄基合金粉末を、−100メッシュで粒径50μm以上の粉末を70%含有するように調整した表2および表4に示す各種析出硬化型銅合金粉末、および−100メッシュで粒径50μm以上の粉末を40%含有するように調整した純銅粉末とともに、表2および表4に示す配合割合で混合した。その後1470MPaで圧粉成形した後、アンモニア分解ガス雰囲気中、表3および表5に示す温度で焼結を行い試料番号01〜37の試料を作製した。これらの試料につき、熱伝導率、熱膨張係数および硬さについて測定した結果を表3および表5に併せて示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
試料番号01〜05、10および17〜19の試料は析出硬化型銅合金粉末(Cu−0.3Ni−0.3Fe−0.15P)に鉄基合金粉末(Fe−36Ni)の添加量を変えたものである。これらを比較することによって、鉄基合金粉末の添加量が熱伝導率、熱膨張係数および硬さに及ぼす影響がわかる。これらの内、鉄基合金粉末の添加量と熱伝導率、熱膨張係数の関係をグラフ化したものを図1に示す。
これらより、鉄基合金粉末の添加量が5質量%の試料02は、無添加の試料01に比べて、熱伝導率および熱膨張係数が小さい値を示している。また、鉄基合金粉末の添加量が増加するにつれて熱伝導率および熱膨張係数は低下する傾向を示すことがわかる。しかし、鉄基合金粉末の添加量が60質量%を越える試料19では、熱膨張係数が逆に増加している。これは、500℃の焼結温度では焼結により結合していない鉄基合金粉末が多く、析出硬化型銅合金マトリックスの膨張を抑制しきれないで熱膨張係数が増加傾向に転じたものと考える。
すなわち、析出硬化型銅合金粉末と接触している鉄基合金粉末は表層で結合しているが、鉄基合金粉末どうしは結合していないため、銅の熱膨張に際して、結合していない鉄基合金粉末どうしの界面でずれが生じて熱膨張抑制の効果が得られなかったものと考える。
【0038】
試料番号05〜09の試料、および試料番号10〜16の試料はそれぞれ鉄基合金粉末(Fe−36Ni)の添加量を一定として、析出硬化型銅合金粉末(Cu−0.3Ni−0.3Fe−0.15P)と純銅粉末の配合比率をかえたものである。これらを比較することで、マトリックス粉末における純銅粉末の割合が熱伝導率、熱膨張係数および硬さに及ぼす影響がわかる。これらの内、純銅粉末の割合と熱伝導率の関係をグラフ化したものが図2、純銅粉末の割合と硬さの関係をグラフ化したものが図3である。
これらの結果より、析出硬化型銅合金粉末に純銅粉末を添加しても、表3から熱膨張係数は一定であるが、図2から熱伝導率は、純銅粉末25質量%の添加により向上することがわかる。ただし、50質量%を超えて添加しても、添加の割に熱伝導率向上の効果は少なくなることがわかる。一方、図3から硬さは純銅粉末の添加量が50質量%までは一定の高い値を示すが、50質量%を超えると低下する傾向を示し、75質量%を超えると著しく低下する。したがって、純銅粉末の添加は熱伝導率を向上させるが、添加量は、硬さの点から75質量%以下が適切であることがわかる。
【0039】
試料番号20〜24は析出硬化型銅合金粉末(Cu−0.3Ni−0.3Fe−0.15P)60質量%と鉄基合金粉末(Fe−36Ni)40質量%からなる混合粉末の焼結温度を変えたものである。これらの試料を比較することで、焼結温度が熱伝導率、熱膨張係数および硬さに及ぼす影響がわかる。焼結温度と熱伝導率および熱膨張係数の関係をグラフ化したものが図4、焼結温度と硬さの関係をグラフ化したものが図5である。
これらより、焼結温度が上昇すると熱伝導率は400℃までは向上し、500℃から600℃にかけて低下する傾向を示し、1000℃では、著しく低下することがわかる。一方、熱膨張係数は、400℃で低下した後、値が大きくなる傾向を示し、1000℃では著しい増加を示すことがわかる。また、硬さは焼結温度が高くなるにつれ向上するが、500℃をピークとして低下する傾向を示し、1000℃では著しく硬さが低下する。これらの現象は、1000℃の焼結温度では、析出硬化型銅合金粉末と鉄基合金粉末どうしが拡散し、特性が劣化したためと考える。なお、焼結温度300℃では、マトリックスの焼結が進行しておらず、強度が乏しいものであった。
以上の傾向は添加量に依らず同様の傾向を示しており、これらのことから、焼結温度は400〜600℃の範囲が適切であることがわかる。
【0040】
試料番号10、22、25〜27の試料、試料番号28〜32の試料、および試料番号33〜37の試料は、各々、同一の析出硬化型銅合金に対して100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末の種類を替えた場合の比較である。また試料番号16は析出硬化型銅合金でなく純銅粉末を用いたものとして比較の対象とした。これにより鉄基合金粉末の種類を替えた場合、熱伝導率、熱膨張係数および硬さの変化がわかる。これを棒グラフにしたものが図6〜8である。なお棒の上の数字は試料番号を示す。
これらより、熱伝導率は基地を替えた場合に、基地の熱伝導率により変化するが、添加する鉄基合金粉の影響は少ないことがわかる。また、熱膨張係数は鉄基合金粉末を添加しない場合より低い値を示し、いずれの鉄基合金粉末を用いてもほぼ同等の値であることがわかる。さらに、硬さはいずれの析出硬化型銅合金、鉄基合金粉末を用いた場合でも純銅のものより向上していることがわかる。
【0041】
以上より、銅マトリックス中に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末が、質量比で、5〜60%分散する試料が熱伝導率が大きく、かつ熱膨張係数が小さいこと、および焼結温度が400〜600℃の試料が熱伝導率が大きく、熱膨張係数が小さく、かつ硬さが高いことが確認された。
また、析出硬化型銅合金の種類を替えても、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末であれば、析出硬化型銅合金の特性により熱伝導率の差異はあるものの熱膨張係数および硬さについては同等の特性が得られることが確認された。なお、上記の析出硬化型銅合金の特性により熱伝導率の差異は、純銅粉末を75質量%以下添加することで向上させることができることもわかり、本願発明の効果が確認された。
【0042】
<実施例2>
表6に示す純銅粉末と、析出硬化型銅合金粉末としてCu−0.3Ni−0.3Fe−0.15P合金粉と、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末としてFe−36Ni粉末を用い、析出硬化型銅合金粉末:30質量%、純銅粉末:30質量%および鉄基合金粉末:40質量%の割合で配合し混合粉末を得た。これを1470MPaで圧粉成形した後、アンモニア分解ガス雰囲気中、500℃で焼結を行い試料番号38〜50の試料を作製した。これらの試料につき、熱伝導率と、硬さについて測定した結果を、実施例1の試料番号13の試料とともに表6に併せて示す。
【0043】
【表6】
【0044】
試料番号13、38〜42を比較することによって、析出硬化型銅合金粉末中の50μm以上の粉末の割合の熱伝導率および硬さへの影響がわかる。これらをグラフ化したものを図9に示す。析出硬化型銅合金粉末中の50μm以上の粉末の割合が増加すると、若干の熱伝導率の向上が認められるが、75%を超えると熱伝導率の低下が認められる。
【0045】
これは、析出硬化型銅合金粉末の粒度が小さい側では、析出硬化型銅合金粉末の表面積が大きくなり、析出硬化型銅合金粉末どうし、および析出硬化型銅合金粉末と純銅粉末または鉄基合金粉末との接触点が多くなり、拡散の進行を促進してより緻密化されてマトリックスの熱伝導性が向上するためと考える。また、析出硬化型銅合金粉末の粒度が、純銅粉末の粒度よりも微粉側では、ネットワーク状純銅相の形成を阻害し、一部の純銅相が遊離して分散したため熱伝導率の若干の低下につながったともの考える。
一方、析出硬化型銅合金粉末中の50μm以上の粉末の割合が75%を越えると、局部的に析出硬化型銅合金粉末の割合が高まる結果、均一な熱伝導が阻害され始めるからと考えられる。よって、析出硬化型銅合金粉末中の50μm以上の粉末の割合は70%以下が好ましいことが確認された。
【0046】
試料番号13、43〜46を比較することによって、純銅粉末中の50μm以上の粉末の割合の熱伝導率および硬さへの影響がわかる。これをグラフ化したものが図10である。これらより、純銅粉末中の50μm以上の粉末の割合が40%以下ではほぼ均一な熱伝導率を示すが、40%を超えると若干の低下傾向が認められる。
【0047】
これは純銅粉末の粒度の小さい側では、純銅粉末の表面積が大きくなり、純銅粉末どうし、および純銅粉末と析出硬化型銅合金粉末または鉄基合金粉末との接触点が多くなり、拡散の進行を促進してより緻密化されてマトリックスの熱伝導性が向上するため、および微細な純銅粉末が析出硬化型銅合金粉末および/または鉄基合金粉末の間に存在する確率が増し、ネットワーク状純銅相を形成するためと考えられる。
一方、純銅粉末の50μm以上の粉末の割合が40%を越えると、局部的にネットワーク状純銅相の形成が阻害され始め、熱伝導率の低下が始まるものと考えられる。よって、純銅粉末の50μm以上の粉末の割合は、40%以下が好ましいことが確認された。
【0048】
試料番号13、47〜50を比較することによって、鉄基合金粉末の粒径50μm以上の粉末の割合の熱伝導率および硬さへの影響がわかる。これをグラフ化したものが図11である。
これらより、鉄基合金粉末の50μm以上の粉末の割合が40%以上ではほぼ一定の熱伝導率を示すが、40%未満では若干の熱伝導率の低下が認められる。これは、鉄基合金粉末が微粉側に片寄り、マトリックスと拡散し易くなり、熱伝導率が低下したものと考える。よって、鉄基合金粉末の50μm以上の粉末の割合は、40%以上が好ましいことが確認された。
【0049】
【発明の効果】
本発明の製造方法による銅基低熱膨張高熱伝導部材は、析出硬化型銅合金マトリックスまたは析出硬化型銅合金相と純銅相からなるマトリックス中に、100℃までの熱膨張係数が6×10−6/K以下の鉄基合金粉末が、質量比で、5〜60%分散するものである。これにより、マトリックスに僅かに拡散した鉄基合金粉末がマトリックスの熱膨張を強固に抑制し、高い熱伝導性と低い熱膨張率を兼ね備え、かつ、硬さと強度に優れたもので、安価であること、加工性が高いことなどの優れた特性を示す。
また、本発明の製造方法による銅基低熱膨張高熱伝導部材は、溶体化処理および時効処理を別途行う必要が無く、簡便な工程で、容易に製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】析出硬化型銅合金粉末に対する鉄基合金粉末の添加量と熱伝導率および熱膨張係数の関係を示すグラフである。
【図2】鉄基合金粉末の添加量を一定にして、マトリックス粉末における純銅粉末の割合と熱伝導率の関係を示すグラフである。
【図3】鉄基合金粉末の添加量を一定にして、マトリックス粉末における純銅粉末の割合と硬さ関係を示すグラフである。
【図4】析出硬化型銅合金粉末と鉄基合金粉末の配合量を一定にした場合の、焼結温度と熱伝導率および熱膨張係数の関係を示すグラフである。
【図5】析出硬化型銅合金粉末と鉄基合金粉末の配合量を一定にした場合の、焼結温度と硬さの関係を示すグラフである
【図6】各種の析出硬化型銅合金に対する鉄基合金粉末の種類を替えた場合の熱伝導率の比較を示すグラフである。
【図7】各種の析出硬化型銅合金に対する鉄基合金粉末の種類を替えた場合の熱膨張係数の比較を示すグラフである。
【図8】各種の析出硬化型銅合金に対する鉄基合金粉末の種類を替えた場合の硬さの比較を示すグラフである。
【図9】析出硬化型銅合金粉末中の50μm以上の粉末の割合の、熱伝導率および硬さに対する影響を示すグラフである。
【図10】純銅粉末中の50μm以上の粉末の割合の、熱伝導率および硬さへの影響を示すグラフである。
【図11】鉄基合金粉末中の50μm以上の粉末の割合の、熱伝導率および硬さへの影響を示すグラフである。
Claims (5)
- 析出硬化型銅合金粉末に、100℃までの熱膨張係数が6×10−6/K以下の鉄基合金粉末を、質量比で、5〜60%を添加し、混合した混合粉末を、相対密度で93%以上に圧縮成形し、400〜600℃で焼結することを特徴とする銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
- 析出硬化型銅合金粉末に、質量比で、75%以下の純銅粉末を添加したマトリックス粉末に、さらに100℃までの熱膨張係数が6×10−6/K以下の鉄基合金粉末を、質量比で、5〜60%を添加し、混合した混合粉末を、相対密度で93%以上に圧縮成形し、400〜600℃で焼結することを特徴とする銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
- 前記析出硬化型銅合金粉末が、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が70%以下の粉末であるとともに、前記鉄基合金粉末が、−100メッシュで、かつ、粒径50μm以上の粉末の含有量が40%以上の粉末であることを特徴とする請求項1に記載の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
- 前記析出硬化型銅合金粉末が、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が70%以下の粉末であり、前記純銅粉末が−100メッシュで、かつ、粒径50μm以上の粉末の含有量が40%以下であり、前記鉄基合金粉末が、−100メッシュで、かつ、粒径50μm以上の粉末の含有量が40%以上の粉末であることを特徴とする請求項2に記載の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
- 前記析出硬化型銅合金粉末が、析出硬化型銅合金の急冷凝固粉末であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
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