JP3907247B2 - Tab1蛋白質及びそれをコードするdna - Google Patents

Tab1蛋白質及びそれをコードするdna Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は形質転換増殖因子−β(Transforming Growth Factor −β;TGFβ)のシグナル伝達系の1員であるTAB1蛋白質、及びそれをコードする遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
TGF−βは、細胞機能の多くの面を制御する多機能因子である。その一面として、TGF−βは様々な傷害に伴う組織の修復及び再生を司る。
慢性化した傷害におけるTGF−β異常産生により、組織の修復、再生のバランスが崩れ病的な線維化が生ずることがある。TGF−β産生のバランスが崩れた病態として、肝線維症が知られている。肝臓において、TGF−βは線維化の原因となる細胞外マトリックス蛋白質の産生を亢進させ、細胞外マトリックス蛋白質分解酵素の合成を阻害および分解酵素の阻害物質を誘導することにより、肝線維症の主要な原因因子として働く。
【0003】
TGF−βのスーパーファミリーのメンバーのシグナル伝達系の1メンバーとして、マイトジエン−活性化プロテイン・キナーゼ・キナーゼ・キナーゼ(Mitogen−Activated protein Kinase Kinase Kinase;MAPKKK)系が知られている。
【0004】
MAPK経路は受容体のシグナルを種々の作用に転換する保存された真核性シグナル伝達系であり、この系は3種類のプロテインキナーゼ、すなわち前記のMAPKKK,MAPKK及びMAPKを含んでおり、MAPKはMAPKKによるリン酸化により活性化され、MAKKはMAPKKKにより活性化される(E. Nishidaら、Trends Biochem. Sci. Vol.18, p.128 (1993) ; K. J. Blu mer ら、前掲Vol.19, p.236 (1994) ; R.J.David、前掲Vol.19, p.470 (1994) ; C.J.Marchall, Cell, Vol.80, p.179 (1995))。
【0005】
TGF−βスーパーファミリーのメンバーのシグナル伝達系において機能するMAPKKKファミリーの1メンバーであるTAK1はK.Yamaguchi らにより同定された (K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。
TGF−βは、細胞質側にセリン−及びスレオニン−特異的キナーゼドメインを含有する膜貫通蛋白質である1型及び2型TGF−β受容体のヘテロマーコンプレックスを介してシグナルを伝達する(J.L.Wrana ら、Nature, Vol.370, p.341 (1994) ; D.M.Kingsleyら、Genes Dev., Vol.8, p.133 (1994))。しかしながらTGF−β受容体から下流のシグナル伝達機構は分子レベルにおいてほとんど知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、TGF−β受容体のシグナル伝達系の新しく見出された1メンバーであるTAB1蛋白質及びそれをコードする遺伝子を提供しようとするものである。さらに、本発明はTGF−βシグナル伝達系阻害物質のスクリーニング方法を提供する。なお、TAB1は、TAK1に結合する蛋白質(TAK1 inding Protein)を意味する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するため、本発明は、配列番号:1に示すアミノ酸配列を有するTAB1蛋白質;配列番号:1に示すアミノ酸配列に対して、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加によって修飾されているアミノ酸配列を有し、且つTAB1蛋白質の生物学的性質を有する蛋白質;配列番号1に示すアミノ酸配列において52番目のアミノ酸がアルギニンである蛋白質;配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有するDNAに対して60℃、0.1×SSC,0.1%ドデシル硫酸ナトリウムのハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることができるDNAによりコードされており、且つTAB1蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質;配列番号:1に示すアミノ酸配列において、アミノ酸位置21位〜579位のアミノ酸から成るアミノ酸配列を有する蛋白質;並びに配列番号:1に示すアミノ酸配列において、アミノ酸位置437位〜504位の68個のアミノ酸から成るアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。
【0008】
本発明はまた、上記の蛋白質又はポリペプチドの製造方法において、該蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAを含んで成る発現ベクターにより形質転換された宿主を培養し、該培養物から該蛋白質又はポリペプチドを採取することを特徴とする方法を提供する。
本発明はまた、上記の蛋白質又はポリペプチドを哺乳類細胞において生成せしめる方法において、該蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAを哺乳動物細胞に導入することを特徴とする方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、前記の蛋白質又はポリペプチドをコードするDNA、該DNAを含んで成る発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を提供する。
本発明はさらに、TGF−βシグナル伝達系阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のTAB1蛋白質は、形質転換増殖因子−β(TGF−β)のシグナル伝達経路においてTAK1に結合してTAK1を活性化する性質を有する。この性質及びその他の諸性質については実施例2〜4及び6〜10に詳細に記載されている。
本発明のTAB1蛋白質は、実施例1及び5に記載する方法によりクローニングされたcDNAのヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列(配列番号:1)を有する。
【0011】
しかしながら、生物学的活性を有する蛋白質において、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加により修飾されたアミノ酸配列を有するものでも、生来の蛋白質が有する生物学的性質を保持することがよく知られている。従って、本発明は、配列番号:1に示すアミノ酸配列に対して1又は複数のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加により修飾されたアミノ酸配列を有し、且つTAB1の生物学的性質を有するものを含む。
その一態様として、配列番号1に示されるアミノ酸配列において52番目のアミノ酸がアルギニンである蛋白質が挙げられる。
【0012】
さらに、一旦特定の蛋白質をコードするDNAがクローニングされれば、そのDNAをプローブとして、例えばその蛋白質が得られた種の器官又は組織とは異る器官又は組織からのDNAライブラリーあるいは他の種からのDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、同様の生物学的性質を有するがアミノ酸配列を異にする蛋白質をコードするDNAが得られることも知られている。従って、本発明は、配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有するDNAに対して、例えば60℃、0.1×SSC,0.1%ドデシル硫酸ナトリウムのハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることができるDNAによりコードされており、且つTAB1蛋白質の生物学的性質を有する蛋白質をも包含する。
【0013】
本発明の修飾された蛋白質としては、例えば、配列番号:1のアミノ酸配列において、アミノ酸位置21位〜579位のアミノ酸から成るアミノ酸配列を有する蛋白質が挙げられる。この蛋白質はTAB1蛋白質の生物学的性質を有している。また、本発明の修飾されたポリペプチドとして、配列番号:1に示すアミノ酸配列において、アミノ酸位置437位〜504位の68個のアミノ酸から成るアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。このポリペプチドはTAK1に結合することによって、TAK1のキナーゼ活性を活性化する性質を有する。さらに、本発明の修飾された蛋白質として、上記蛋白質又はポリペプチドが他の蛋白質と融合しており、かつTAB1の生物学的活性を有する蛋白質が挙げられる。
【0014】
本発明の蛋白質又はポリペプチドは、例えば、TGF−βのシグナル伝達系に重要なTAK1を活性化することによってTGF−βの生理機能をそれ自身で模倣できるほか、TAK1と結合することを利用してTAK1とTAB1の結合を阻害し、細胞増殖抑制、免疫抑制、骨分化などの作用に対するアゴニストあるいはアンタゴニストとして働く物質のスクリーニング方法のために有用である。
【0015】
本発明の蛋白質をコードするDNAは、例えば、配列番号:1に示すアミノ酸配列をコードするDNAである。このようなDNAは例えば、実施例1及び5に記載する方法により得ることができ、配列番号:1のヌクレオチド配列を有する。しかしながら、配列番号:1に示すアミノ酸配列をコードするDNAは、必ずしも配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有する必要はなく、同一のアミノ酸をコードする別のコドンから構成されていてもよい。例えば、配列番号:1に示すヒト由来のヌクレオチド配列を、細菌や酵母等の微生物において効率よく翻訳されるコドンを含むものに変えることができ、これは、例えばプライマーを用いる部位特定変異誘発等の周知技術を用いて行うことができる。
【0016】
本発明の、配列番号:1に示すアミノ酸配列に対して、1又は複数のアミノ酸配列が置換、欠失及び/又は付加されているアミノ酸配列を有する蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAは、例えば、配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有するDNAを鋳型とし、部位特定変異誘発法、PCR法等、それ自体周知の方法を用いて作製することができる。さらにまた、修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質の内、生来の蛋白質に比較して短縮された蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAは、例えば、生来のDNA、例えばcDNAに翻訳開始コドン及び/又は翻訳終止コドンを導入することによって得ることもできる。これらのコドンの導入は、例えば部位特定変異誘発、PCR法等により行うことができる。あるいは、生来のDNA、例えばcDNAを適当な制限酵素により切断し、そして所望によりオリゴヌクレオチドを付加することによっても得られる。
【0017】
本発明の配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有するDNAとハイブリダイズすることができ、且つTAB1の生物学的性質を有する蛋白質をコードするDNAは、例えば、実施例6に示す種々の組織又は器官、例えば心臓、脳、胎盤、肝臓、骨格筋、腎臓、すい臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸、末梢血白血球等から調製したゲノミックDNAライブラリー又はcDNAライブラリーを、本発明の、例えば配列番号:1に示すヌクレオチド配列又はその部分をプローブとして用いて、スクリーニングすることにより行われる。上記のDNAライブラリーは、ヒトに由来するもののみならず、他の動物、例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ等に由来するものであってもよい。
【0018】
本発明はまた、上記のDNAを含んで成る発現ベクター及びそれにより形質転換された宿主に関する。発現ベクターは宿主により異る。本発明の宿主としては、原核生物及び真核生物のいずれも使用することができる。原核生物としては、細菌、例えばエシェリシア(Escherichia)属の微生物、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えばバシルス・ズブチリス(B.subtilis)、等が使用され、真核生物としては、下等真核生物、例えば糸状菌又は酵母が挙げられる。
【0019】
糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等、ペニシリウム(Penicillium)属微生物、等が挙げられ、酵母としては、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属微生物、例えばサッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。
【0020】
また、高等真核生物としては動植物細胞、例えば不滅化された動物培養細胞例、例えばCOS細胞、CHO細胞、NIH3T3等が使用できる。また、昆虫細胞、例えばSf9,Sf12等も使用できる。
本発明の発現ベクターは、本願発明の蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAのほかに、上記の宿主において機能し得る発現制御配列、例えばプロモーターを含有する。
【0021】
細菌、例えば大腸菌のプロモーターとしては、T3,T7等が使用でき、酵母のプロモーターとしては、例えば解糖系酵素の遺伝子のプロモーター、例えばGAL1プロモーター、GAL4プロモーター等が挙げられる。動物細胞用のプロモーターとしてはウイルス性プロモーター、例えばCMVプロモーター、SV40プロモーター等が挙げられる。
発現ベクターによる宿主の形質転換、宿主の培養、培養物からの本発明の蛋白質又はポリペプチドの採取・精製は、常法に従って行うことができる。例えば、培養物から蛋白質又はポリペプチドの単離・精製は、蛋白質又はポリペプチドを単離・精製するための常用手段、例えば硫酸アンモニウム沈澱法、ゲル濾過法、逆相HPLC等を単独で、又は組合わせて用いることができる。
【0022】
本発明はさらに、TGF−βシグナル伝達系阻害物質のスクリーニング方法に関する。TAB1の生物学的活性を有する蛋白質とTAK1(K.Yamaguchi ら、Sceince,vol.270,p2008(1995))を発現する細胞にTGF−βシグナル伝達系阻害物質を含む試料を接触させるか又は導入し、次いでTAK1の活性を測定する。TAB1の生物学的活性を有する蛋白質又はポリペプチドおよびTAK1は他の蛋白質との融合蛋白質でもよく、これらを発現する細胞は酵母あるいは哺乳類細胞である。このようなスクリーニング系は、実施例1,2,3,4,7,8および9に記載する方法により構築することができる。
【0023】
構築したスクリーニング系へTGF−βシグナル伝達系阻害物質を含む試料を接触させるか又は導入し、TAK1のキナーゼ活性を測定する。TAK1のキナーゼ活性の測定方法は、TAK1自身のキナーゼ活性を測定してもよいし、シグナル伝達系のTAK1の下流に存在しTAK1により活性化されるMAPKKやMAPKのキナーゼ活性を測定してもよい。また、MAPK経路の標的遺伝子や標的遺伝子プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の活性、mRNA量又は遺伝子の表現型により測定することができる。
本発明のTGF−βシグナル伝達系阻害物質のスクリーニング方法によれば、TGF−βの異常産生が関与する疾患の治療剤となり得る、TAB1とTAK1の結合を阻害する物質をスクリーニングすることができる。
【0024】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
実施例1.
TGF−βシグナル伝達において機能するTAK1−依存性経路を解析するため、酵母2−ハイブリッド系(S.Freldsら、Trend Genet. 10,286 (1994)) を用いて、TAK1と直接相互作用する蛋白質を探索した。
【0025】
まず、TAK1遺伝子とLexA DNA−結合ドメインをコードする遺伝子とを連結せしめることにより発現ベクターを作製した。pLexA−TAK1ΔNは、pBTM116(A.B.Vojtekら、Cell, Vol.74, p.205 (1993)) にフレームを合わせて挿入したTAK1ΔNコード配列(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))を含有する。ヒト脳cDNAライブラリー中にコードされており、TAK1ΔNと相互作用する蛋白質を同定するために酵母2−ハイブリッド系を使用した。
【0026】
酵母HIS3コード領域の上流にLexA蛋白質のための結合部位が配置されている一体化されたレポーター構成物を含有するサッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)L40株(LYS2::LexA−HIS3)において2つのハイブリッドを発現させた。2つのハイブリッド蛋白質が相互作用すれば、前記レポーター構成物のトランスアクチベーションが起こり、そして酵母はヒスチジンの非存在下(SC−His)で増殖することができる。
【0027】
LexA−TAK1ΔN融合体は単独で、外部からのヒスチジンを必要としないで増殖を可能にするのに十分な量のHIS3の発現をもたらす。しかしながら、HIS3遺伝子の産物であるイミダゾール・グリセロール・デヒドロケナーゼの化学阻害剤である40mM 3−アミノトリオゾール(3−AT)の存在下で細胞を増殖せしめることによりヒスチジン栄養要求性を達成することができる(G.M.Kishore ら、Annu. Rev. Biochem. Vol.57, p.627 (1988)) 。
【0028】
この誘引(bait)プラスミドを、GAL4活性化ドメイン(GAD)をコードする遺伝子と連結させたヒト脳cDNA発現ライブラリークローンを含有する捕獲プラスミドと共に酵母を形質転換した。約1×106 個の形質転換体から、蛋白質をコードする陽性クローンTAB1cDNAを得た。以後において、このDNA単離物により発現されるGAD融合蛋白質をGAD−TAB1と称する。
【0029】
実施例2.
TAB1との相互作用を司るTAK1中の位置を決定するため、一連のLexA−TAK1欠失キメラ体を2−ハイブリッド測定により試験した。LexA DNA−結合ドメインに融合した全長TAK1又はその欠失構成物をコードする発現ベクターを、pGAD−TAB1と共に、酵母レポーター株L40に同時形質転換した。なお、TAK1の各欠失構成物をコードするDNAは全長TAK1をコードするDNAから作製した。
【0030】
また、前記プラスミドpGAD−TAB1は、TAB1cDNAをpBS(W.O.Bullock ら、Biotechniques Vol.5,p.376(1987))のEcoRI部位にサブクローニングすることにより得たものである。このプラスミドにより発現される融合蛋白質間の相互作用が、40mM 3−ATを含有するSC−His培地のプレート上で増殖する酵母株の能力により示される。この結果を図1に示す。この図中右側に、TAK1又はその欠失体と、TAB1とが相互作用した(+)か、又はしなかった(−)かを示す。この結果から、TAB1はTAK1のN−末端側ドメインと相互作用することが示された。
【0031】
実施例3.
TAK1と相互作用する蛋白質は上流の制御部及び下流の標的の両方を含む可能性がある。TAB1がTAK1の活性化に役割を演ずるのであれば、それらの同時発現が酵母におけるTAK1の活性に影響を与えると予想される。本発明者らは、酵母フェロモン−誘導MAPK経路において哺乳類MAPKKK活性を測定するための系を開発している(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995) ; K.Irieら、 Science, Vol.265 , p.1716 (1994))。TAK1の活性化された形態(TAK1ΔN)はSte11 MAPKKK活性を代替することができる。
【0032】
すなわち、フェロモン−活性化MAPK径路はSte11,Ste7、及びFus3又はKss1キナーゼから成り、これらはそれぞれMAPKKK,MAPKK及びMAPKに対応する。これらの酵母プロテインキナーゼは次々に作用してシグナルを転写因子Ste12に伝達し、このSte12はFUS1のごとき接合特異的(mating specific)遺伝子の転写を活性化する(I.Herskowitz, Cell, Vol.80, p.187 (1995) ; D.E.Levinら、Curr. Opin. Cell Biol., Vol.7, p.197 (1995) ; J.Schultz ら、Jr. Curr. Opin. Gene Dev., No.5, p.31 (1995)) 。
【0033】
FUS1p::HIS3レポーター遺伝子は、HIS3オープンリーディングフレームに連結されたFUS1上流活性化配列を含んで成り、そしてhis3ΔFUS1p::HIS3株におけるシグナル活性を、SC−His培地上で増殖する細胞の能力(His表現型)によりモニターすることを可能にする。
his3Δste11ΔFUS1p::HIS3STE7P368(セリン−368におけるプロリン置換)株はHis- 表現型を有する(K.Irieら、Science, Vol.265, p.1716 (1994))。
【0034】
この株におけるTAK1ΔNの発現がHis+ 表現型をもたらす(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。従って、TAK1の活性化型はSte7P368−依存的にSte11活性を代替することができる。しかしながら全長TAK1の発現はste11Δ変異を回復せず、酵母はTAK1のための仮定の活性化因子を有しないことが示唆される(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。
【0035】
酵母MAPK経路を用いて、GAD−TAB1構成物を、TAK1の存在下でste11Δ変異を補完するそれらの能力について試験した。すなわち、酵母SY1984−P株(his3Δste11ΔFUS1p::HIS3STE7P368)を、pNV11−HU11(TAK1ΔN)+pGAD10(GAD)(Clontech);pNV11−HU11F(TAK1)+pGAD10;pNV11−HU11F+pGAD−TAB1;又はpNV11+pGAD−TAB1により形質転換し、そして形質転換体をSC−Hisプレート上にまき、そして30℃にてインキュベートした。
【0036】
なお、上記SY1984−P株は、SY1984株(his3Δste11ΔFUS1p;;HIS3)を、CYC1プロモーターの制御のもとにSTE7P368を含有するプラスミドpNC318−p368により形質転換したものである(K.Irieら、Science, Vol.265, p.1716 (1994))。また、上記プラスミドpNV11−HU11及びpNV11−HU11Fはそれぞれ、TDH3プロモーターの制御のもとに短縮されたTAK1ΔN(アミノ酸21−579)及び全長のTAK1を発現する(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。
【0037】
結果を図2に示す。左側のパネルは試験した酵母株がTAK1ΔN又はTAK1を発現したか否か、及びGAD−TAB1が同時発現されたか否かを示す。右側のパネルはSC−Hisプレート上での細胞の増殖を示す。各パッチは独立した形質転換体についての結果を示す。
GAD−TAB1とTAK1の同時形質転換はSte11欠損を回復した。この結果は、TAB1がTAK1の機能を増強することを示している。
【0038】
実施例4.
TAB1を発現する酵母においてTAK1活性が増加するか否かを決定するため、ヘマグルチニン(HA)−由来C−末端エピトープを担持するTAK1及び触媒的に不活性なTAK1変異体〔ATP−結合部位の63位のリジンがトリプトファンにより置換されたTAK1−K63W(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995) 〕の発現DNAベクターを、TAB1遺伝子の非存在下又は存在下に酵母細胞に形質転換した。
【0039】
HAに対するモノクローナル抗体12CA5により認識されるエピトープをコードするDNA配列をTAK1コード配列及びTAK1−K63WのC−末端にフレームを合わせて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により連結した。すべての構成物はTDHプロモーターから発現される。TAB1発現プラスミドpGAP−HTH9MはTAB1のC−末端の68アミノ酸を発現する。YEpGAP112はTDH3プロモーターを含有する多コピーTRP1プラスミドである〔H.Banno ら、Mol. Cell Biol. 13, 475 (1993)〕。
【0040】
TAB1のC−末端の68アミノ酸のコード配列を、ECORI部位及びATCコドンを含有する5′−プライマー5′−GAGAATTCATGCGGCAAAGC−3′(配列番号:2)、並びにSalI部位を含有する3′−プライマー−5′−GGGTCGACTACGGTGC−3′(配列番号:3)を用いるPCRにより増幅した。PCRにより生じた240bpのECORI−SalI断片をYEpGAP112のECORI−SalIギャップに挿入することによりpGAD−HTH9Mを生じさせた。
【0041】
結果を図3に示す。前記のように酵母SY1984株を前記のTAK1−HAをコードするプラスミド又はTAK1−K63Wをコードするプラスミドにより形質転換し、さらにこの形質転換体に空ベクターYEpGAP112(−)、又はTAB1をコードするpGAP−HTH9M(+)を導入した。TAK1−HA(−)又はTAK1−K63W−HA(KN)を各細胞抽出物から免疫沈降せしめ、そして免疫沈降物をインビトロキナーゼ測定にかけた。具体的には、60mlの酵母細胞培養物を600nmでの光学密度0.8まで増殖せしめ、細胞溶解緩衝液(K.Irieら、Science, Vol.265, p.1716 (1994))により細胞抽出液を調製し、そして100,000gにて30分間遠心分離した。
【0042】
上清を、HAに対する抗体との免疫沈降にかけた。すなわち、上清の1部分(300μl)を2μlの抗体及び90μlのプロテインA−セファロースと混合し、そして免疫複合体を細胞溶解緩衝液で3回洗浄し、そしてキナーゼ測定(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))に用した。HAに対するモノクローナル抗体12CA5による各免疫沈降物のイムノブロットの結果は、各サンプルにおいて、およそ同じ量のTAK1−HA又はTAK1−K63W−HAが回収されることを示した。これにより、TAB1の発現がTAK1の発現量に影響しないことが示された。
【0043】
免疫沈降したTAK1は組換えXMEK2(SEK1)を活性化する能力により測定し、該組換えXMEK2(SEK1)の活性は触媒的に不活性な(KN)p38(MPK2)をリン酸化するその能力により測定した(K.Yamaguchi ら、Science, No.270, p.2008 (1995)) 。電気泳動の後、KH−p38(MPK2)のリン酸化をオートラジオグラフィーにより検出した。酵素抽出物なしでは、キナーゼ測定値を示す抽出物はなかった。このレベルはXMEK2のベース活性に相当する。実験は少なくとも3回行い、同様の結果を得た。
【0044】
結果を図3に示す。TAK1−HA及びTAK1−K36W−TAK1のキナーゼ測定の結果は、TAB1がTAK1のキナーゼ活性を増加させたことを示した。この活性増加は、TAK1−K63WKN及びTAB1を発現する細胞からの免疫複合体においては観察されず、観察されたキナーゼ活性はTAK1に由来することが示された。これらの結果が示すところによれば、TAB1はTAK1の触媒ドメインに直接結合することによりTAK1のキナーゼ活性を活性化する。
【0045】
実施例5.
TAB1の全長コード配列を得るため、ヒト腎細胞ライブラリーを、前記の酵母2−ハイブリッド系から得られたTAB1のcDNAの部分配列をプローブとして用いてスクリーニングした。2個の独立のクローンが、Kozak のコンセスサスに一致する開始メチオニンコドンから始まる1個のオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する3.1kbのcDNAをもたらした。5′−RACE−Ready cDNA(Clonfech)を用いる5′RACE法により5′−末端を決定した。
【0046】
コード配列の仮定のN−末端におけるヌクレオチド配列(CCAATGG)はKozak コンセンサス(M.Kozak, J. Cell Biol. Vol.108, p.229 (1989)) に対応し、そしてその前にATGコドンは存在しない。
TAB1のヌクレオチド配列をジデオキシヌクレオチド・チェイン・ターミネーション法により決定した。全長TAB1cDNAのヌクレオチド配列からアミノ酸配列を推定した。その結果、185番目の塩基がシトシンであるクローンとアデニンであるクローンの二種が得られた。185番目がシトシンのクローンにおいては52番目のアミノ酸がセリンを、185番目がアデニンのクローンにおいては52番目のアミノ酸がアルギニンをコードしていた。
【0047】
185番目のヌクレオチドがシトシンであるクローンのヌクレオチド配列を配列番号1に示し、そしてアミノ酸配列を図4および配列番号1に示す。また、185番目のヌクレオチドがアデニンであるクローンのヌクレオチド配列を配列番号4に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号4に示す。
なお、185番目のヌクレオチドがシトシンのクローンのcDNAは、pBSのEcoRIおよびSmaI部位にサブクローニングされプラスミドTABI−f−4として作製され、185番目のヌクレオチドがアデニンのクローンのcDNAは、pBSのEcoRI部位にサブクローニングされプラスミドpBS−TAB1として作製された。
【0048】
プラスミドpBS−TAB1を含有する大腸菌は、Escherichia coli HB101(pBS−TAB1)と命名され、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−5508として1996年4月19日に寄託された。また、プラスミドTABI−f−4を含有する大腸菌は、Escherichia coli DH5α(TABI−f−4)と命名され、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−5599として1996年7月19日に寄託された。
以下に示す実験については、配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有するクローンを用いて行った。
【0049】
図4において、AはAlaを、CはCysを、bはAspを、EはGluを、FはPheを、GはGlyを、HはHisを、IはIleを、KはLysを、LはLeuを、MはMetを、NはAsnを、PはProを、QはGlnを、RはArgを、SはSerを、TはThrを、VはValを、WはTrpを、そしてYはTyrをそれぞれ示す。酵母2−ハイブリッド系を用いて単離されたGAD−TAB1中のC−末端の68アミノ酸を箱で囲んである。
【0050】
TAK1のN−末端の配列は、TAK1のこのセグメントへの類似下を示す領域を示すための配置で示される。TAK1のアミノ酸に対して同じアミノ酸及び保存されているアミノ酸、それぞれ星印及び点で示す。
このORFから、いかなる既知蛋白質とも明瞭な類似性を有さず、そして生化学的機能を示すなんらのモチーフも含有しない55kDa の分子サイズを有する504アミノ酸の蛋白質が予想された。
【0051】
実施例6.
種々のヒト細胞におけるTAB1 mRNAの発現のパターンをノーザンブロット分析により分析した。16の組織から調製したmRNAによるヒト組織ブロット(Clontech)を32P−標識化TAB1cDNAによりプローブし、そしてオートラジオグラフィーにかけた。この結果を図5に示す。各レーンは2μgのmRNAを含有した。プローブはMultiprime labeling Kit (Amersham)を用いて〔α−32P〕−dCTPで標識し、そしてH.Shibuya ら、Nature, Vol.357, p.700 (1992) に記載されているようにしてハイブリダイズさせた。試験したすべての組織から、約3.5kbの主たる転写物が検出された。
【0052】
実施例7.
TAB1とTAK1との会合が哺乳類細胞中で起こることを確認するため、HAエピトープで標識されたTAK1(HA−TAK1)(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))を生産する発現ベクター及びMycエピトープで標識されたTAB1(Myc−TAB1)を生産する発現プラスミドにより、MC3T3−E1ネズミ骨芽細胞(S.Ohtaら、FEBS Lett., Vol.314, p.356 (1992))を一過性(transient)にトランスフェクトした。後者のプラスミドは次のようにして得た。
【0053】
全長TAB1cDNAを、Mycに対するモノクローナル抗体9E10により認識されるMycエピトープ(LEQKLISEEDLN)(アミノ酸配列の1文字表示)の6コピーを含有するpCS2MTベクター(D.L.Tumer ら、Genes Dev., Vol.8, p.1434 (1994)) にサブクローニングした。得られるプラスミドpCS2MT・TAB1においては、Mycエピトープ標識はTAB1のN−末端に対応するDNA配列にフレームを合わせて連結されている。pCSA2MT−TAB1をBamHI及びXbaIにより消化した。断片を単離し、そして哺乳類発現ベクターpEFのECORI−XbaI部位に挿入した。このプラスミドは、ヒト伸長因子1α(EF1α)プロモーターからTAB1を発現させる。
【0054】
細胞抽出物をHAに対するモノクローナル抗体12CA5(図6のレーン2)、Mycに対するモノクローナル抗体9E10(図6のレーン3)、又は対照非免疫IgG(図6のレーン4)との免疫沈降にかけた。免疫複合体を洗浄し、SDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースに移行せしめ、そしてMycに対する抗体(図6の上レーン)又はHAに対する抗体(図6の下レーン)を用いてイムノブロットした。
【0055】
細胞抽出物はまた、イムノブロット分析に直接かけた(図6のレーン1)。図6に示すごとく、各免疫沈降においてかなりの量のMyc−TAB1が検出され、TAK1がTAB1と共免疫沈降し得ることが示された。免疫沈降した蛋白質をHAに対する抗体によりブロットする相互実験により、TAB1とTAK1との会合が確認された。これらの実験は、TAB1が、酵母におけると同様に哺乳類細胞中でもTAK1と会合し得ることを示すものである。
【0056】
実施例8.
TAB1の過剰発現が哺乳類細胞中でTAK1のキナーゼ活性を活性化し得るか否か検討した。MC3T3−E1細胞をMyc−TAB1の存在下(+)又は非存在下(−)でHA−TAK1により一過性にトランスフェクトした。細胞を20ng/mlのTGF−β1により10分間処理し(+)又は処理せず(−)、次に実施例3に記載したようにしてHA−TAK1を免疫沈降せしめ、そしてキナーゼ活性について測定した。すなわち、免疫沈降の一部分をHAに対する抗体によりイムノブロットした。結果を図7に示す。
【0057】
活性は、刺激されていない細胞からのHA−TAK1の量に対する増加倍数として示し、3回以上の実験からの平均±SEMとして表わした(図7上段のグラフ)。HA−TAK1はKH−p38(MPK2)を直接リン酸化しなかった(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。中段パネルは、KN−p38(MPK2)のリン酸化を表すオートラジオグラフである。下段パネルは、HAに対するモノクローナル抗体12CA5による各免疫沈降のイムノブロット分析を示し、各サンプルにおいて、およそ同じ量のTAK1−HAが回収されたことを示している。中段及び下段のパネルに示すデーターは典型的な実験からのものである。
【0058】
TAK1免疫沈降物のインビトロキナーゼ測定が示すところによれば、TGF−βの非存在下でさえTAB1によりトランスフェクトされた細胞においてTAK1活性が刺激された。TAB1の過剰発現によるTAK1の活性化は、HA−TAK1のみを発現するTGF−βで刺激された細胞において観察される活性化に匹敵した。
【0059】
実施例9.
TGF−βは、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター−1(PAI−1)をコードするmRNAの量を急速に増加せしめる(M.R.Keetonら、J. Biol. Chem., Vol.266, p.23048 (1991))。TAK1の活性化形(TAK1ΔN)の過剰発現により、TGF−β−誘導性pAI−1遺伝子プロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を含有するレポーター遺伝子は構成的に活性化される(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。TAB1の過剰発現がルシフェラーゼレポーター遺伝子の活性化をもたらすか否かを試験した。
【0060】
MvlLu細胞を、レポータープラスミドp800neoLUC (M.Abe ら、Analyt. Biochem., Vol.216, p.276 (1994))と、TAB1発現プラスミドpEF−TAB1又はTAK1をコードする発現プラスミド(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))とを用いて、リン酸カルシウム法(H.Shibuya ら、Nature, Vol.357, p.700 (1992))により一過性トランスフェクトした。なお、プラスミドpEF−TAB1は、EF1αプロモーターの制御のもとに全長TAB1コード配列を含有しており、pEFをECORIにより開裂せしめそしてプラスミドTABI−f−4からのECORI断片を挿入することにより作製したものである。
【0061】
このプラスミドTABI−f−4はpBSのECORIおよびSmaI部位にTAB1cDNAをサブクローニングすることにより作製したものである。細胞を30ng/mlのヒトTGF−β1と共に又はこれを伴わないで20時間インキュベートし、抽出物を調製し、そしてルシフェラーゼの測定を行った(H.Shibuya ら、Mol. Cell Biol., Vol.14, p.5812 (1994)) 。ルシフェラーゼ活性はβ−ガラクトシダーゼの発現に基いて補正した。
【0062】
すなわち、トランスフェクション効率を補正するため、pXeX−β−Galベクター(A.D.Johnson ら、Gene, Vol.147, p.223 (1994))をすべてのルシフェラーゼレポーター実験において同時トランスフェクトした。β−ガラクトシダーゼの測定は、ルシフェラーゼ測定のために調製された細胞溶解物を用いて、製造者(Clontech)の指示書に従って行った。ルシフェラーゼ活性は、ベクターによりトランスフェクトされた非刺激細胞の活性に対する増加倍数として示した。すべてのトランスフェクション及びルシフェラーゼ測定は少なくとも5回行い、各実験は3連とした。
【0063】
結果を図8に示す。図中、KNは触媒的に不活性なTAK1−K63Wを示す。データーは、代表的な実験における3連の実験からのルシフェラーゼ活性の平均±SEMを示す。TAK1と共にTAB1の過剰発現はTGF−βの非存在下でもレポーター遺伝子の発現を誘導したが、TAK1又はTAB1のみの過剰発現はルシフェラーゼ活性の構成的量にほとんど影響を与えなかった。これらの研究は、TAB1が哺乳類細胞においてTAK1の活性を増強することを示している。
【0064】
TAK1−K63Wの変異体の過剰発現はTGF−βに刺激されたルシフェラーゼ活性を阻害したが(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))、これはおそらく経路中の必須要素を妨害する(sequestering)ためであろう。他方、TAB1の過剰発現はTAK1−K63Wの阻害効果を低減させ、TAB1がTAK1−K63Wの過剰発現により吸収される可能性を示唆する。
【0065】
実施例10.
TAB1のC−末端の68個のアミノ酸〔TAB1(437−504)〕はTAK1に結合しそしてそれを活性化するために十分であり、TAB1のN−末端ドメインがTAB1の機能における制御的役割を演ずることが示唆された。この可能性を試験するため、C−末端TAK1結合ドメインを欠くTAB1の短縮形〔TAB1(1−418)〕を作製した。MvlLu細胞を、p800nedUC レポーターと、TAB1(1−418)又はTAB1(全長)をコードする発現ベクターの図9に示す量とにより一過性にトランスフェクトし、そしてそれらをpEFコントロールベクターにより補完した。
【0066】
なお、TAB1(1−418)をコードする発現ベクターは次のようにして作製した。プラスミドTABI−f−4の1.3kbのECORI−HincII断片(TAB1のアミノ酸1−418のN−末端領域を含有する)をpKT10ベクターにサブクローニングしてpKT10−TAB1(1−418)を作製した。pEFをECORI及びSalIにより開裂せしめ、そしてpKS10−TAB1(1−418)からのECORI−SalI断片を挿入することによりpEF−TAB1(1−418)を作製した。
【0067】
次に、細胞を30ng/mlのTGF−β1と共に又はこれを伴わないで20時間インキュベートし、そして細胞溶解物をルシフェラーゼ活性について測定した。数値は、pEFによりトランスフェクトされた対照細胞に対する誘導の倍数の%として示した。TGF−βによるルシフェラーゼの非誘導(誘導倍数1)は0%に相当する。すべてのトランスフェクション及びルシフェラーゼの測定は少なくとも3回行い、各実験を3連とした。データーは、代表的な実験における3連の実験からのルシフェラーゼ活性の平均±SEMで示す。
【0068】
結果を図9に示す。MvlLu細胞でのTAB1(1−418)の過剰発現は、TGF−β刺激により誘導されるレポーター遺伝子の活性を抑制した。従ってTAB1(1−418)はTGF−βにより誘導される遺伝子発現のドミナント−ネガティブインヒビターとして作用する。これらの結果は、TAB1がTGF−βのシグナル伝達に関与することを示している。
【0069】
TAB1がTAK1の活性化を誘導するメカニズムとしては、TAK1に結合するTAB1が活性化に必要なコンホーメーション変化を誘導することが考えられる。TAK1のN−末端における20アミノ酸の除去はプロテインキナーゼの構成的活性化をもたらすことから、N−末端ドメインが触媒ドメインを束縛してキナーゼ活性を阻害することが示唆される(K.Yamaguchi ら、Science, Vol.270, p.2008 (1995))。TAB1はTAK1のこの負の制御ドメインをその触媒ドメインから解除するのかも知れない。TAK1結合部位として機能するTAB1のC−末端は、TAK1のN−末端に見出される領域と同様にセリン及びスレオニンリッチ領域を含有している。従って、TAB1はTGF−βとTAK1 MAPKKKとの間の重要なシグナル伝達中間体であろう。
【0070】
【配列表】
Figure 0003907247
【0071】
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【0072】
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【0073】
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【0074】
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【0075】
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【図面の簡単な説明】
【図1】TAK1蛋白質上の、TAB1蛋白質が結合する領域を示す図である。斜線部分はTAB1の触媒領域を示す。
【図2】図2は、酵母におけるフェロモン活性化MAPK経路中のSte11欠損株におけるTAK1とTAB1との共存によるSte11欠損の補完を示す図であり、電気泳動の結果を示す図面代用写真である。
【図3】図3は、TAB1がTAK1のを活性を増強することを示すイン・ビトロ実験の結果を示す図面代用写真である。
【図4】図4は、TAB1のアミノ酸配列を示す。
【図5】図5は、種々の器官又は組織においてTAB1をコードするmRNAが発現されることを示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
【図6】図6は、哺乳類細胞中でTAB1とTAK1の会合が生ずることを示すイムノブロット図であり、図面代用写真である。
【図7】図7は、哺乳類細胞中で、TAB1がTAK1のキナーゼ活性を増強することを示すグラフ(上)と、TAK1及びKN−MPK2が同程度に生産されたことを示すブロット図であり、図面代用写真である。
【図8】図8は、TGF−βにより刺激した哺乳類細胞において、TAK1とTAB1の共存によりレポーターとしてのルシフェラーゼ遺伝子の発現が増強されることを示すグラフである。
【図9】図9は、C−末端が欠けたTAB1(TAB1(1−418))がTGF−βにより誘導されるレポーターとしてのルシフェラーゼ遺伝子の発現を阻害することを示すグラフである。

Claims (10)

  1. 配列番号:1に示すアミノ酸配列からなるTAB1蛋白質。
  2. 配列番号:1に示すアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加によって修飾されているアミノ酸配列からなり、且つTAB1蛋白質の生物学的性質を有する蛋白質。
  3. 配列番号:1に示すアミノ酸配列において、アミノ酸位置437〜504位のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の蛋白質又はポリペプチドの製造方法において、該蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAを含んでなる発現ベクターにより形質転換された宿主を培養し、該培養物から該蛋白質又はポリペプチドを採取することを特徴とする方法。
  5. 前記宿主が哺乳類細胞又は酵母細胞である、請求項に記載の方法。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の蛋白質又はポリペプチドを哺乳類細胞において生成せしめる方法であって、該蛋白質又はポリペプチドをコードするDNAを哺乳動物細胞に導入することを特徴とする方法。
  7. 請求項1〜のいずれか1項に記載の蛋白質又はポリペプチドをコードするDNA。
  8. 請求項に記載のDNAを含んで成る発現ベクター。
  9. 請求項に記載の発現ベクターにより形質転換された宿主。
  10. 前記宿主が哺乳類細胞又は酵母細胞である、請求項に記載の宿主。
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