JP3901655B2 - 能動型防振支持装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,支持系に振動体を弾性的に支持する弾性体と,この弾性体により画成されて液体を封入される液室と,この液室の容積を変化させる可動部材と,この可動部材を駆動するアクチュエータとからなり,そのアクチュエータが,支持系に支持される固定コアと,前記可動部材に連結されてこの固定コアに円錐筒状のエアギャップを介して対置される可動コアと,これら固定及び可動コア間に電磁吸引力を発生させるコイルとを備えて電磁式に構成される能動型防振支持装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
かゝる能動型防振支持装置は,例えば下記特許文献1に開示されているように,既に知られている。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−1765号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
かゝる能動型防振支持装置のアクチュエータでは,固定コア及び可動コア間に円錐筒状のエアギャップを画成することにより,比較的大きい推力とストロークをもって可動部材を駆動することができるが,固定コア及び可動コアの吸引面も円錐状をなしているから,可動部材が液室の過大圧力を受けて,可動コアの吸引面が固定コアの吸引面に強く当接した場合には,楔作用により,両コアに大きな負荷が加わることになり,好ましくない。
【0005】
本発明は,かゝる点に鑑みてなされたもので,可動部材が過大圧力を受けた場合でも,両コアに過大な負荷が作用することを防ぐようにして,両コアの耐久性を確保し得る前記能動型防振支持装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,支持系に振動体を弾性的に支持する弾性体と,この弾性体により画成されて液体を封入される液室と,この液室の容積を変化させる可動部材と,この可動部材を駆動するアクチュエータとからなり,そのアクチュエータが,支持系に支持される固定コアと,前記可動部材に連結されてこの固定コアに円錐筒状のエアギャップを介して対置される可動コアと,これら固定及び可動コア間に電磁吸引力を発生させるコイルとを備えて電磁式に構成される能動型防振支持装置において,前記可動部材に,前記可動コアを軸方向に相対移動可能に貫通して該可動コアの前記固定コア側端面を支承する連結手段を結合し,この連結手段の支承部に向かって前記可動コアを付勢するセットばねを前記可動部材及び可動コア間に縮設し,前記可動コアが固定コア側への移動限に達した後でも,前記可動部材が前記セットばねを圧縮しながら前記固定コア側へ移動することを可能にし,前記セットばねの所定量以上の圧縮変形を規制すべく,前記可動コアの前記移動限への到達後の前記可動部材の移動量を制限するストッパ手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
尚,前記支持系は,後述する本発明の実施例中のケーシングC及び車体フレームFに対応し,また前記振動体はエンジンEに,前記弾性体は第1弾性体14に,前記連結手段は連結ボルト55及び調節ナット56に,前記ストッパ手段は栓体61にそれぞれ対応する。
【0008】
上記特徴によれば,可動部材が液室の過大圧力を受けて,可動コアが固定コア側への移動限に達した場合には,セットばねが圧縮変形して,連結手段の支承部が可動コアから離れ,可動部材の固定コア側への更なる移動が許容される。したがって可動部材の過大な荷重をセットばねに吸収させて,固定コア及び可動コアへの過負荷の作用を防ぎ,それらの耐久性を確保することができる。
【0009】
また可動コアの前記移動限への到達後の可動部材の移動量は,ストッパ手段により制限されるので,セットばねの過度の荷重増加を抑え,固定コア及び可動コアに対する過負荷の増加を防ぐことができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0011】
図1は本発明の第1実施例に係る能動型防振支持装置の縦断面図,図2は図1の2−2線断面図,図3は図1の3−3線断面図,図4は図1の4部拡大図,図5は図4の5矢視図,図6は図4の6矢視図,図7は図4中の調節ナットの斜視図,図8は同調節ナット,連結ボルト及びロックスクリューの分解側面図の縦断面図,図9は本発明の第2実施例を示す,図4との対応図である。
【0012】
先ず,図1〜図4に示す本発明の第1実施例について説明する。図1において,能動型防振支持装置Mは,自動車においてエンジンEを車体フレームFに弾性的に支持すべく,それらの間に介装される。
【0013】
能動型防振支持装置Mは,軸線Lに関して実質的に軸対称な構造を有するもので,エンジンEに結合される板状の取り付けブラケット11と,この取り付けブラケット11に溶接される内筒12と,この内筒12の外周に同軸に配置される外筒13と,これら内筒12及び外筒13の相対向する円錐面に加硫接着される厚肉のゴム等からなる第1弾性体14とを備えており,この第1弾性体14の下方には,互いに上下に並んで一体化された第1オリフィス形成部材15,第2オリフィス形成部材16及び第3オリフィス形成部材17が配置される。
【0014】
第1オリフィス形成部材15は円板状をなしていて,その中央に開口部15bを有する。第2オリフィス形成部材16は,上面を開放した樋状断面を有して環状をなしていて,その開放上面が第1オリフィス形成部材15で閉鎖されるように,第1オリフィス形成部材15に一体に接合される。また第3オリフィス形成部材17も,上面を開放した樋状断面を有して環状をなしていて,その開放上面が第2オリフィス形成部材16で閉鎖されるように,第2オリフィス形成部材16に一体に接合される。第1及び第2オリフィス形成部材15,16の外周部は互いに重ねられて一体化され,前記外筒13の下部に連設された環状のかしめ固定部13aに固定される。
【0015】
第3オリフィス形成部材17の内周面には,ゴム等からなる環状の第2弾性体18の外周面が加硫接着され,この第2弾性体18の内周面に,軸線L上に配置されて下面を開放した第1キャップ部材19が加硫接着される。この第1キャップ部材19には,第2キャップ部材23及び可動部材20が順次圧入により固着される。第2キャップ部材23は,その下端部を第1キャップ部材19の下方へ突出させており,この突出部の外周面に,第2弾性体18の下方に配置されるダイヤフラム22の内周端部が加硫接着される。このダイヤフラム22の外周にはリング部材21が加硫接着されており,このリング部材21は前記かしめ固定部13aに,前記第1及び第2オリフィス形成部材15,16の外周部と共に固定される。上記第2弾性体18及びダイヤフラム22の撓みにより可動部材20は第1及び第2キャップ部材19,23と共に上下動が可能である。
【0016】
而して,第1弾性体14及び第2弾性体18間には,液体を封入される第1液室24が画成され,また第2弾性体18及びダイヤフラム22間には,同じく液体を封入される第2液室25が画成される。これら第1及び第2液室24,25は,第1〜第3オリフィス形成部材15〜17により形成される上部オリフィス26及び下部オリフィス27を介して相互に連通される。
【0017】
上部オリフィス26は,第1及び第2オリフィス形成部材15,16間にその一周弱に亙り画成されるもので(図2参照),この上部オリフィス26の両端壁を構成する隔壁26aが第1及び第2オリフィス形成部材15,16間に溶接される。そして上部オリフィス26は,隔壁26aの一側で第1オリフィス形成部材15の通孔15aを介して第1液室24に連通され,また隔壁26aの他側で第2オリフィス形成部材16の通孔16aを介して下部オリフィス27に連通される。
【0018】
下部オリフィス27は,第2及び第3オリフィス形成部材16,17間にその一周弱に亙り画成されるもので(図3参照),この下部オリフィス27の両端壁を構成する隔壁27aが第1及び第2オリフィス形成部材15,16間に溶接される。そして上部オリフィス26は,隔壁27aの一側で前記通孔16aを介して上部オリフィス26に連通され,また隔壁27aの他側で第3オリフィス形成部材17の通孔17aを介して第2液室25に連通される。以上により,第1及び第2液室24,25間は,互いに直列に接続された上部及び下部オリフィス26,27を介して連通される。
【0019】
前記かしめ固定部13aには,さらに,筒状ブラケット28が固定され,これを車体フレームFに固着することにより,能動型防振支持装置Mは車体フレームFに取り付けられる。この筒状ブラケット28及び前記外筒13により能動型防振支持装置Mの支持ケーシングCが構成される。
【0020】
上記筒状ブラケット28にはアクチュエータ支持部材30が固着され,前記可動部材20を駆動する電磁式アクチュエータ31がこのアクチュエータ支持部材30により支持される。
【0021】
図4において,アクチュエータ31は,上面を開放した磁性体からなる有底円筒状のハウジング32を備え,その上端に形成されたフランジ32aがアクチュエータ支持部材30に固着される。ハウジング32は磁性体であって,その内部内には,固定コア33,コイル組立体34及び上部ヨーク35が順次取り付けられる。固定コア33は,その上部に吸引面33aを持ち,下面に位置決め軸33bを突出させ,また外周に段付き鍔状の下部ヨーク36を形成しており,その下部ヨーク36をハウジング32の底壁32bに密着させて,位置決め軸33bが該底壁32bの位置決め孔37に圧入される。こうして固定コア33はハウジング32に固着される。
【0022】
コイル組立体34は,固定コア33の外周に配置される合成樹脂製のボビン38と,このボビン38に巻装されるコイル39とを備える。そのボビン38の下部フランジの外周には下方に突出する小支柱38aが突設され,この小支柱38aの成形時,これにカプラ端子40の基端部がインサート結合される。小支柱38aには,コイル39の引き出し線39aが巻き付けられ,その先端がカプラ端子40に半田付けや電気溶接等により接続される。
【0023】
引き出し線39aのカプラ端子40への接続後,上記コイル39をボビン38に封止すべく,ボビン38の上下両端面からコイル39の外周面にかけて密着する円筒状のコイルカバー41が合成樹脂により射出成形される。その際,このコイルカバー41には,前記カプラ端子40を保持して該カバー41の半径方向外方に突出するカプラ42と,前記小支柱38a引き出し線39aを包んで該カバー41の下端面に突出する突出部42aとが一体に形成される。このカプラ42は,ハウジング32の底壁32bから周壁にかけて設けられた開口部43を通してハウジング32外に露出するように配置され(図5及び図6参照),また前記突出部42aは,ハウジング32の底壁32bに隣接するように開口部43内に配置される。
【0024】
コイル組立体34の上端面,特にコイルカバー41の上端面には環状のシール部材45が装着される。またコイル組立体34の下端面,特にボビン38及びコイルカバー41の下端面には,固定コア33を囲繞して同心状に並ぶ複数のシール凸条46,46が一体に形成され,その下端面と,前記下部ヨーク36の薄肉外周部36aとの間に弾性板47が介装される。この弾性板47は,NBRやシリコンゴム等の弾性材料で成形される。
【0025】
前記上部ヨーク35は,コイル組立体34を下部ヨーク36に向かって押圧,保持すべくハウジング32の内周面に圧入により固着される。これに伴ない前記シール部材41及び弾性板47が圧縮されることで,コイル組立体34は上部ヨーク35及び下部ヨーク36間で弾性的にガタ無く支持され,コイル組立体34の耐震性及びコイル39の防水性が向上する。特に,ボビン38及びコイルカバー41の下端面のシール凸条46,46は弾性板47の上面に食い込んで弾性板47との間のシールをより確実にするので,万一,外部から開口部43に浸入した雨水や洗浄水等がハウジング32の底部に溜まった場合,コイルカバー41とコイル39及びボビン38との密着不良があっても,コイル39側への浸水は勿論,ボビン38の内周側への浸水をも確実に防ぐことができる。
【0026】
上部ヨーク35の,ボビン38内周に配置される円筒部35aの内周面には薄肉円筒状の軸受部材50が摺動可能に嵌合される。この軸受部材50の上端には半径方向内方に向く内向きフランジ50aが,またその下端には半径方向外方を向き外向き外向きフランジ50bがそれぞれ一体に形成されており,その外向きフランジ50bは,環状の弾性板51を介して下部ヨーク36の厚肉内周部36bに重ねられ,この外向きフランジ50b及び固定コア33との間に,コイルばねからなるセットばね52が縮設され,これによって軸受部材50は下部ヨーク36上に弾性的に保持され,その防振が図られる。
【0027】
また上記弾性板51は,可動コア53の固定コア33側への下降時,両コア33,53の衝合を回避すべく可動コア53の下端を緩衝的に受け止めて,その下降限を規定する,可動コア53の下降ストッパを兼ねている。
【0028】
上記軸受部材50には,固定コア33の吸引面33aにエアギャップgを介して対向させる吸引面53aを持った可動コア53が摺動自在に嵌装されており,この可動コア53の中心部に開口する比較的大径の透孔54を緩く貫通する連結ボルト55の上端が前記可動部材20に螺着され,該連結ボルト55の下端部には,可動コア53の,透孔54周囲の下端面を支承する調節ナット56が螺合され,その際,可動コア53を該調節ナット56による支承位置に保持するセットばね57が可動部材20及び可動コア53間に縮設される。こうして可動コア53は,可動部材20と一体化した連結ボルト55に螺合される調節ナット56と,セットばね57とで弾性的に挟持される。調節ナット56の,可動コア53に圧接する上端面には,前記透孔54に連通する半径方向の通気溝58が形成されていて,可動コア53の昇降時,その上下の空間での空気の流通をスムーズに行わせるようになっている。
【0029】
而して,連結ボルト55に対する調節ナット56の螺合位置を進退させれば,セットばね57との協働により,可動コア53の上下位置,即ち可動コア53及び固定コア33の吸引面33a,53a間のエアギャップgを調節することができる。調節ナット56の調節位置は,調節ナット56に下方から螺合,緊締されてロックスクリュー59により固定される。
【0030】
図7及び図8に示すように,連結ボルト55のねじ部は通常の右ねじになっているのに対して,ロックスクリュー59のねじ部は左ねじが形成されており,したがって調節ナット56を工具により所定の調節位置に保持した状態で,別の工具によりロックスクリュー59を締め込めば,ロックスクリュー59のトルクが摩擦により連結ボルト55に伝達し,連結ボルト55をロックスクリュー59側に引き込むようになるため,調節ナット56の調節位置でのロックを確実に行うことができる。
【0031】
固定コア33の中心部には,調節ナット56の出入りを可能にする調節作業孔60が設けられ,この調節作業孔60に挿入される工具により上記ロックスクリュー59や調節ナット56を操作し得るようになっている。この調節作業孔60は,ねじ孔60aと,このねじ孔60aの下端に環状の肩部60bを介して連なる,ねじ孔60aより大径の嵌合孔60cとからなっている。一方,この調節作業孔60を閉鎖する栓体61は上端を開放した有底円筒形をなすもので,調節ナット56を受け入れながらねじ孔60aに螺合されるねじ筒61aと,嵌合孔60cに嵌合される鍔部61bと,底部61cとを有しており,その鍔部61bの外周に,嵌合孔60cの内周面に密接するシール部材64が装着される。底部61cの下面には多角形の工具係合用突起62が形成されている。
【0032】
而して,嵌合孔60cに嵌合した鍔部61bが肩部60bに当接するまで,ねじ筒61aをねじ孔60aに螺合,緊締することにより,栓体61により調節作業孔60を水密に閉鎖することができる。
【0033】
この栓体61の底部61c上面には弾性板63が接合され,この弾性板63を介して該底部61cが調節ナット56の下端を緩衝的に受け止めて可動部材20の下降限を規定するようになっている。但し,調節ナット56が栓体61の底部61cに当接するときは,可動部材20の下降により可動コア53が前述の下降限に達した後,可動部材20がセットばね57を圧縮しながら更に下降した場合である。
【0034】
前記軸受部材50内において,固定コア33及び可動コア53の相対向する吸引面33a,53aは,その間に円錐筒状のエアギャップgを画成するように,何れも円錐面に形成されて,可動コア53の吸引面53aが固定コア33の吸引面33aを囲繞するように配置される。これによって軸受部材50内の比較的小径の固定コア33及び可動コア53においても,比較的大なる吸引力と,可動コア53の比較的長いストロークを得ることができる。
【0035】
しかも可動コア53の吸引面53aは,該コア53の内周面側に形成されることになるから,可動コア53の,軸受部材50による支持スパンを,その吸引面53aに関係なく充分長く確保し得,可動コア53の安定した昇降を保証することができる。この場合,可動コア53の外周面にテフロン等の低摩擦材層を形成することは,可動コア53のより安定したスムーズな昇降を得る上で有効である。
【0036】
上記セットばね57はコイルばねからなるもので,連結ボルト55の基部の大径部55aに嵌合することで,連結ボルト55と同心に配置される。またこのセットばね57と可動コア53との間には,可動コア53の摩耗を防ぐべく鋼板製で環状のばね座65が介装される。このばね座65は,その内周縁部及び外周縁部からセットばね57の内周面及び外周面に沿って起立する内外同心の位置決め筒部66,67を有しており,外側の位置決め筒部67は,内側の位置決め筒部66より長く形成される。これら位置決め筒部66,67間へのセットばね57の挿入を容易にすべく,位置決め筒部66,67の上端部にファンネル部66a,67aが形成される。またこのばね座65及び可動コア53の相対向する当接面の少なくとも一方には,テフロン等の低摩擦材層が形成され,ばね座65の可動コア53に対する摺動性が良好にしてある。
【0037】
再び図1において,アクチュエータ31のコイル39には,カプラ42を介して電子制御ユニットUが接続され,この電子制御ユニットUには,エンジン回転数を検出する回転数センサSa,能動型防振支持装置Mに入力される荷重を検出する荷重センサSb,並びにエンジンEに作用する加速度を検出する加速度センサScの各検出信号が入力される。
【0038】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0039】
能動型防振支持装置Mのアクチュエータ31が非作動状態にあるときは,上部及び下部オリフィス26,27を介して相互に連通する第1及び第2液室24,25は同圧力に保たれるが,可動部材20に結合した第1キャップ部材19の第1液室24での受圧面積は,第2液室25での受圧面積より大であるから,その面積差に第1液室24の圧力を乗じた下向きの荷重が可動部材20に作用し,その荷重と,それに対する第2弾性体18の反発力とが釣り合ったところで,可動部材20が停止していて,固定コア33及び可動コア53の吸着面33a,53a間に所定の初期エアギャップgを形成している。
【0040】
而して,自動車の走行中,エンジンEに低周波数のシェーク振動が発生したとき,エンジンEから入力される荷重で第1弾性体14が変形して第1液室24の容積が変化すると,上部及び下部オリフィス26,27を介して相互に連通した第1及び第2液室24,25間で液体の行き来が生ずる。第1液室24の容積が拡大,縮小すると,それに応じて第2液室25の容積が縮小,拡大するが,この第2液室25の容積変化はダイヤフラム22の弾性変形により吸収される。このとき,上部及び下部オリフィス26,27の形状及び寸法,並びに第1弾性体14のばね定数は,前記シェーク振動の周波数領域で高ばね定数及び高減衰力を示すように設定されているため,エンジンEから車体フレームFに伝達される振動を効果的に低減することができる。
【0041】
このようなエンジンEの低周波数のシェーク振動域では,アクチュエータ31は非作動状態に保たれる。
【0042】
エンジンEが,上記シェーク振動よりも周波数の高い振動,即ちエンジンEのアイドリンク時に発生するアイドル振動やこもり音振動が発生した場合,第1及び第2液室24,25間を接続する上部及び下部オリフィス26,27内の液体スティック状態になって防振機能を発揮し得なり,このようなときに,アクチュエータ31を駆動して防振機能を発揮させるのである。
【0043】
即ち,電子制御ユニットUが,エンジン回転数センサSa,荷重センサSb及び加速度センサSc等から入力される検出信号に基づいてアクチュエータ31のコイル39への通電を制御する。具体的には,振動によってエンジンEが下方に偏倚し,第1弾性体14の下方への変形により第1液室24の容積が減少して,その液圧が上昇するときには,コイル39を励磁して,可動コア53を固定コア33側に吸引する。その結果,可動コア53は第2弾性体18を変形させつゝ下降して,第1液室24の容積を拡大させることで,該室24の圧力の上昇を抑制することができ,結局,能動型防振支持装置MはエンジンEから車体フレームFへの下向き荷重の伝達を防止する能動的な支持力を発生する。
【0044】
上記と反対に,エンジンEが上方に偏倚して第1液室24の容積が拡大し,該室24の圧力が上昇するときには,コイル39を消磁して,可動コア53を解放する。その結果,可動コア53は第2弾性体18の反発力により上昇して,第1液室24の容積を縮小させることで,該室24の圧力の低下を抑制することができ,結局,能動型防振支持装置MはエンジンEから車体フレームFへの上向き荷重の伝達を防止する能動的な支持力を発生する。
【0045】
このような作動中,エンジンEから第1弾性体14への下向き荷重の過度な増大に伴ない,第1液室24の圧力が急増し,可動部材20に過度な下向き荷重が加わった場合には,可動部材20は,先ず,可動コア53をその下降限まで,即ち,該コア53の下端面を下部ヨーク36の厚肉内周部36b上の弾性板51に当接させるまで下降させ,その後は,セットばね57が圧縮変形して,調節ナット56が可動コア53の下面から離することにより,可動部材20の固定コア33側への更なる移動が許容される。したがって可動部材20の過大な荷重をセットばね57に吸収させて,固定コア33及び可動コア53相互の接触と,可動コア53及び弾性板51への過負荷の作用とを防ぎ,それらの耐久性を確保することができる。
【0046】
そして,もし,可動コア53が下降限に達した後,可動部材20の下降が所定量に達すると,調節ナット56が固定コア33に固着された栓体61の底部61cに弾性板63を介して当接し,セットばね57の過度の荷重増加を抑え,固定コア33及び可動コア53に対する過負荷の増加を防ぐことができる。
【0047】
ところで,アクチュエータ31の非作動状態における固定コア33及び可動コア33,53の吸引面33a,53a間の初期エアギャップgは,能動型防振支持装置Mにおける可動部材20の推力及び変位に関する特性を左右するものであるが,第2弾性体18の取り付け部から可動コア53に至る各部の集積製作誤差により,該初期エアギャップgが許容範囲に収まっていないことがあるが,そのようなときには,前述のように,連結ボルト55に対する調節ナット56の螺合位置を進退させることにより,該初期エアギャップgを適正に容易に調整することができる。したがって,コイル39の励磁により,可動部材20に所定の推力及び変位を高精度で付与することが可能となり,能動型防振支持装置Mの性能向上を図ることができる。
【0048】
また調節ナット56を操作して,固定コア33及び可動コア33,53間の初期エアギャップgの異なる複数種の能動型防振支持装置Mを用意すれば,複数の車種に対応した特性も持つ能動型防振支持装置Mを容易に得ることができ,コストの低減に寄与し得る。
【0049】
しかも上記調節ナット56は,ハウジング32外に開口する固定コア33の調節作業孔60から行われるので,能動型防振支持装置Mの組立完了後,各部の組立誤差に関係なく,前記初期エアギャップgを正確に行うことができる。
【0050】
また固定コア33は調節作業孔60を有することで中空となるも,それと一体の位置決め軸33bがハウジング32の底壁32bの位置決め孔37に圧入され,またフランジ状の下部ヨーク36が該底壁32bに密着することにより,固定コア33は強固に補強されることになり,可動コア53から当接衝撃を受けても充分に耐えることができ,のみならず位置ずれを起こすことがない。しかも上記下部ヨーク36は,ハウジング32及び上部ヨーク35と協働してコイル組立体34周りの磁路を効果的に増加させるので,固定及び可動コア33,53間の吸引力の増大を図ることができる。
【0051】
一方,可動コア53の上昇限は,その上端が前記軸受部材50の内向きフランジ50aに当接することにより規定される。可動コア53が内向きフランジ50aに衝撃的に当接した場合には,その衝撃力は軸受部材50及び外向きフランジ50bを介してセットばね52に伝達され,その弾性により吸収されるので,セットばね52は,可動コア53及び軸受部材50を衝撃力から保護する衝撃吸収部材を兼ねることになる。
【0052】
可動コア53は,セットばね57により調節ナット56に弾性的に保持され,しかも可動コア53の透孔54内面と連結ボルト55との間には充分な遊びが設けられているから,可動コア53及び連結ボルト55は相対的に首振り可能であり,したがって能動型防振支持装置Mの作動中,可動部材20に傾き方向の荷重が加わったときでも,連結ボルト55の首振りにより,可動コア53の傾きを防いで軸受部材50との良好な摺動関係を維持することができる。この場合,連結ボルト55の首振りに伴ない,セットばね57が多少とも横方向に移動するが,このセットばね57と可動コア53間には,セットばね57の下端部を保持するばね座65が介在しており,しかもばね座65及び可動コア53の当接面には低摩擦材層が形成されているので,セットばね57に伴ないばね座65が可動コア53の上面をスムーズに滑ることになり,可動コア53からの摩耗粉の発生を効果的に抑えることができる。したがって,その摩耗粉に起因したトラブル,例えばその摩耗粉が軸受部材50及び可動コア53の摺動部に侵入して可動コア53の動きを阻害することを未然に防ぐことができる。
【0053】
軸受部材50は,その下端の外向きフランジ50bと上部ヨーク35との間にセットばね52を縮設するという,極めて簡単な構造により下部ヨーク36上の定位置に取り付けられるので,その取り付けには高精度を必要とせず,コストの低減を図ることができる。しかも上記セットばね52は,軸受部材50の外周側に配置されることになるから,このセットばね52と,これが圧接する部分との間で摩耗粉が発生しても,その摩耗粉の軸受部材50内への侵入を防ぐことができ,特に,外向きフランジ50bと下部ヨーク36間にはそれらに密着する弾性板51が介在しているから,上記摩耗粉の軸受部材50内への侵入を弾性板51により確実に防ぐことができ,軸受部材50は可動コア53に対する良好なガイド性を長期に亙り発揮することができる。
【0054】
また上記セットばね52の反発力は,ハウジング32に連なる上部ヨーク35に支承され,可動コア53には作用しないから,上記セットばね52の反発力による固定及び可動コア33,53間の有効吸引力のロスを防ぎ,可動コア53の出力性能を向上を図ることができる。
【0055】
コイル組立体34においては,コイル39をボビン38に封止するようにコイル39及びボビン38の外周面に密着するコイルカバー41が成形されるので,コイル39の防水性を高めることができる。しかもコイルカバー41には,カプラ端子40を保持して半径方向外方へ突出するカプラ42を一体に形成したので,コイル39に接続するリード線もカプラを支持するカプラホルダも不要となり,部品点数及び組立工数が削減され,コストの低減を図ることができる。
【0056】
またボビン38の一端面には,カプラ端子40の基端部をインサート結合する小支柱38aが一体に形成され,この小支柱38aには,カプラ端子40に接続される,コイル39の引き出し線39aが巻き付けられ,その後,小支柱38a及び引き出し線39aを包んでコイルカバー41の下端面から突出する突出部42aがカプラ42と共にコイルカバー41に一体に形成されるので,コイル39の引き出し線39aを小支柱38aに巻き付けることにより,引き出し線39aの弛みを確実に防ぎつゝ,コイルカバー41,カプラ42及び突出部42aの成形を行うことができる。
【0057】
さらにカプラ42を,ハウジング32の周壁から底壁32bにかけて設けられた開口部43を通して外部に露出させるとき,前記突出部42aは,前記底壁32bに隣接するように開口部43に配置されるので,前記突出部42aの収容スペースをハウジング32に設ける必要もなく,また突出部42aがハウジング32外面の張り出すこともなく,これによりアクチュエータ31のコンパクト化を図ることができる。
【0058】
次に,図9に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0059】
この第2実施例は,固定コア33の調節作業孔60の閉鎖構造において前実施例と相違する。即ち,調節作業孔60は,ねじを持たない単純な貫通孔60aの下端に環状肩部60bを介して大径の嵌合孔60cを連ねて構成され,嵌合孔60cの内周面には環状係止溝58が設けられる。一方,栓体61は,前実施例の栓体61からねじ筒61aを切除したものに相当するものである。嵌合孔60cには栓体61の鍔部61bがシール部材64を介して嵌合されると共に,この鍔部61bと嵌合孔60c上端の肩部60bとの間にウェーブワッシャ等の弾性部材72が介装される。そして栓体61により弾性部材72を圧縮した状態で栓体61の下面を支承する止環71が係止溝58に係合される。
【0060】
上記構成によれば,栓体61は,前実施例の栓体61のねじ筒61aを持たない分,小型化が可能となり,また調節作業孔60への装着に際しては,栓体61を回転させずに済むので,シール部材64の耐久性を保持する上で有利である。
【0061】
その他の構成は,前実施例と同様であるから,図9中,前実施例との対応部分には同一の参照符号を付して,その説明を省略する。
【0062】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,上記実施例では,可動部材20及び連結ボルト55は,それぞれ別体に構成したものを螺着して一体化したが,両者20,55を同一素材により一体に構成することもできる。また固定コア33の位置決め軸33bとハウジング32の底壁32bの位置決め孔37との嵌合部を,圧入に代えて,溶接により固定することもできる。
【0063】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば,支持系に振動体を弾性的に支持する弾性体と,この弾性体により画成されて液体を封入される液室と,この液室の容積を変化させる可動部材と,この可動部材を駆動するアクチュエータとからなり,そのアクチュエータが,支持系に支持される固定コアと,前記可動部材に連結されてこの固定コアに円錐筒状のエアギャップを介して対置される可動コアと,これら固定及び可動コア間に電磁吸引力を発生させるコイルとを備えて電磁式に構成される能動型防振支持装置において,前記可動部材に,前記可動コアを軸方向に相対移動可能に貫通して該可動コアの前記固定コア側端面を支承する連結手段を結合し,この連結手段の支承部に向かって前記可動コアを付勢するセットばねを前記可動部材及び可動コア間に縮設し,前記可動コアが固定コア側への移動限に達した後でも,前記可動部材が前記セットばねを圧縮しながら前記固定コア側へ移動することを可能にし,前記セットばねの所定量以上の圧縮変形を規制すべく,前記可動コアの前記移動限への到達後の前記可動部材の移動量を制限するストッパ手段を備えたので,可動部材が液室の過大圧力を受けて,可動コアが固定コア側への移動限に達した場合には,セットばねが圧縮変形して,連結手段の支承部が可動コアから離れ,可動部材の固定コア側への更なる移動が許容され,したがって可動部材の過大な荷重をセットばねに吸収させて,固定コア及び可動コアへの過負荷の作用を防ぎ,それらの耐久性を確保することができる。また可動コアの前記移動限への到達後の可動部材の移動量は,ストッパ手段により制限されることで,セットばねの過度の荷重増加を抑え,固定コア及び可動コアに対する過負荷の増加を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る能動型防振支持装置の縦断面図
【図2】図1の2−2線断面図
【図3】図1の3−3線断面図
【図4】図1の要部拡大図
【図5】図4の5矢視図
【図6】図4の6矢視図
【図7】図4中の調節ナットの斜視図
【図8】同調節ナット,連結ボルト及びロックスクリューの分解側面図
【図9】本発明の第2実施例を示す,図4との対応図
【符号の説明】
g・・・・・エアギャップ
C,F・・・支持系(支持ケーシング,車体フレーム)
E・・・・・振動体(エンジン)
M・・・・・能動型防振支持装置
14・・・・弾性体(第1弾性体)
20・・・・可動部材
24・・・・液室(第1液室)
31・・・・アクチュエータ
33・・・・固定コア
53・・・・可動コア
55,56・・・連結手段(連結ボルト,調節ナット)
57・・・・セットばね
61・・・・ストッパ手段(栓体)
Claims (1)
- 支持系(C,F)に振動体(E)を弾性的に支持する弾性体(14)と,この弾性体(14)により画成されて液体を封入される液室(24)と,この液室(24)の容積を変化させる可動部材(20)と,この可動部材(20)を駆動するアクチュエータ(31)とからなり,そのアクチュエータ(31)が,支持系(C,F)に支持される固定コア(33)と,前記可動部材(20)に連結されてこの固定コア(33)に円錐筒状のエアギャップ(g)を介して対置される可動コア(53)と,これら固定及び可動コア(33,53)間に電磁吸引力を発生させるコイル(39)とを備えて電磁式に構成される能動型防振支持装置において,
前記可動部材(20)に,前記可動コア(53)を軸方向に相対移動可能に貫通して該可動コア(53)の前記固定コア(33)側端面を支承する連結手段(55,56)を結合し,この連結手段(55,56)の支承部に向かって前記可動コア(53)を付勢するセットばね(57)を前記可動部材(20)及び可動コア(53)間に縮設し,前記可動コア(53)が固定コア(33)側への移動限に達した後でも,前記可動部材(20)が前記セットばね(57)を圧縮しながら前記固定コア(33)側へ移動することを可能にし,前記セットばね(57)の所定量以上の圧縮変形を規制すべく,前記可動コア(53)の前記移動限への到達後の前記可動部材(20)の移動量を制限するストッパ手段(61)を備えたことを特徴とする能動型防振支持装置。
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